侑人は、後ずさり始めた。
逃げられては面倒だ。
絵里子は廊下まで踏み出し、侑人の手を掴んだ。
出てしまってから裸に気がついたが……。
幸い廊下には、2人のほかには誰の姿もなかった。
しかし考えてみれば、全裸で共用廊下に出たのは初めてのことだった。
絵里子の背筋を、ゾクゾクッと快感が走った。
癖にならないといいのだが。
侑人は、手首を掴んだ絵里子の手を引き剥がそうとしたが……。
とうてい、絵里子の膂力に敵う力ではなかった。
玄関に引きずりこむ。
「おまえも早く入って。
鍵閉めて」
香織に命じると、侑人を上がり框のうえに突き放した。
侑人は、人形のごとく玄関ホールの床に倒れこんだ。
足先はまだ、三和土の上だった。
絵里子はしゃがみこみ、スニーカーを脱がせた。
子供のような白いシューズが、三和土に転がった。
侑人は上体を起こし、立ちあがろうとした。
その胸を両手で押し、再び仰向けに倒す。
両手に伝わる華奢な身体の感触が、絵里子の背筋を怖気立たせた。
「絵里子さん、そんな乱暴にしないでくださいよ。
侑くんも落ち着いて」
侑人の身体から、力が抜けた。
「そうか。
この子は自分の意思で、おまえと一緒にここに来たんだよね。
でも、なんで?」
「あたしが説得したんです。
絵里子さんは、敵に回したら怖いけど……。
身内になってしまえば、これほど頼もしい人はいないって」
「身内って、ヤクザかよ」
「そうっすね。
今日は改めて、固めの杯をしましょうよ」
「おまえ……。
ひょっとして、こいつにやらせたんじゃないの?」
「何をっすか?」
「とぼけるんじゃないよ。
おまえの処女膜には、こいつのが刺さったちっちゃい穴が空いてるんだろ。
あ、処女膜はないのか。
バイブに捧げてるから」
「まださせてませんって」
「“まだ”って、させる気満々じゃないか」
「ま、そうなんすけどね。
でも侑ちゃん、そこまで行かないうちに出しちゃうから。
よっぽどわたしが魅力的なんすよ」
「バカ言ってんじゃないよ。
初めて見たのが、おまえのだったってだけだろ。
ヒヨコの刷りこみみたいなもんだ」
逃げられては面倒だ。
絵里子は廊下まで踏み出し、侑人の手を掴んだ。
出てしまってから裸に気がついたが……。
幸い廊下には、2人のほかには誰の姿もなかった。
しかし考えてみれば、全裸で共用廊下に出たのは初めてのことだった。
絵里子の背筋を、ゾクゾクッと快感が走った。
癖にならないといいのだが。
侑人は、手首を掴んだ絵里子の手を引き剥がそうとしたが……。
とうてい、絵里子の膂力に敵う力ではなかった。
玄関に引きずりこむ。
「おまえも早く入って。
鍵閉めて」
香織に命じると、侑人を上がり框のうえに突き放した。
侑人は、人形のごとく玄関ホールの床に倒れこんだ。
足先はまだ、三和土の上だった。
絵里子はしゃがみこみ、スニーカーを脱がせた。
子供のような白いシューズが、三和土に転がった。
侑人は上体を起こし、立ちあがろうとした。
その胸を両手で押し、再び仰向けに倒す。
両手に伝わる華奢な身体の感触が、絵里子の背筋を怖気立たせた。
「絵里子さん、そんな乱暴にしないでくださいよ。
侑くんも落ち着いて」
侑人の身体から、力が抜けた。
「そうか。
この子は自分の意思で、おまえと一緒にここに来たんだよね。
でも、なんで?」
「あたしが説得したんです。
絵里子さんは、敵に回したら怖いけど……。
身内になってしまえば、これほど頼もしい人はいないって」
「身内って、ヤクザかよ」
「そうっすね。
今日は改めて、固めの杯をしましょうよ」
「おまえ……。
ひょっとして、こいつにやらせたんじゃないの?」
「何をっすか?」
「とぼけるんじゃないよ。
おまえの処女膜には、こいつのが刺さったちっちゃい穴が空いてるんだろ。
あ、処女膜はないのか。
バイブに捧げてるから」
「まださせてませんって」
「“まだ”って、させる気満々じゃないか」
「ま、そうなんすけどね。
でも侑ちゃん、そこまで行かないうちに出しちゃうから。
よっぽどわたしが魅力的なんすよ」
「バカ言ってんじゃないよ。
初めて見たのが、おまえのだったってだけだろ。
ヒヨコの刷りこみみたいなもんだ」
玄関に向かおうとしたら、ドアホンが鳴った。
リビングにあるモニターを覗く。
香織の顔が大写しになっていた。
相変わらず不細工だ。
「今、開ける」
通話ボタンを押してそう告げると、絵里子は玄関に向かった。
三和土への降り口の脇には、大きな姿見が造りつけられていた。
太ったおばさんが映っている。
もちろん、絵里子だ。
乳房は不様に垂れ、腹はぽっこりと突き出ている。
このまま廻しを着ければ似合うだろう。
夫が相手にしなくなるのも無理はない。
絵里子は、前後のないサンダルに足を下ろした。
前後ろがなく、どちらからも履けるサンダルだ。
ベランダでも使っている。
いちおう、ドアスコープを覗く。
結婚間もないころは、全裸で夫を迎えていた。
夫が望んだことだった。
しかし一度、宅配業者に裸を見せかけたことがあった。
彼がドアの外で、「印鑑、お願いしまーす」と声を出さなければ……。
ドアを開けてしまっていたところだった。
以来、必ずドアスコープを覗く癖が付いた。
スコープには、香織の顔が大写しになっていた。
魚眼レンズなので、不細工さがいっそう強調されている。
絵里子は、笑いながらドアを開けた。
「あ」
ドアの向こうには、香織と並んで侑人 が立っていた。
絵里子の恰好に驚いたのだろう、棒のように硬直している。
「絵里子さん……。
相変わらず飛ばしてますね」
「何で言わないんだよ、連れて来るって」
「驚かそうと思って。
でも、こっちの方が驚かされました。
絵里子さんには敵いません」
「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと入って。
侑人くん、君も」
リビングにあるモニターを覗く。
香織の顔が大写しになっていた。
相変わらず不細工だ。
「今、開ける」
通話ボタンを押してそう告げると、絵里子は玄関に向かった。
三和土への降り口の脇には、大きな姿見が造りつけられていた。
太ったおばさんが映っている。
もちろん、絵里子だ。
乳房は不様に垂れ、腹はぽっこりと突き出ている。
このまま廻しを着ければ似合うだろう。
夫が相手にしなくなるのも無理はない。
絵里子は、前後のないサンダルに足を下ろした。
前後ろがなく、どちらからも履けるサンダルだ。
ベランダでも使っている。
いちおう、ドアスコープを覗く。
結婚間もないころは、全裸で夫を迎えていた。
夫が望んだことだった。
しかし一度、宅配業者に裸を見せかけたことがあった。
彼がドアの外で、「印鑑、お願いしまーす」と声を出さなければ……。
ドアを開けてしまっていたところだった。
以来、必ずドアスコープを覗く癖が付いた。
スコープには、香織の顔が大写しになっていた。
魚眼レンズなので、不細工さがいっそう強調されている。
絵里子は、笑いながらドアを開けた。
「あ」
ドアの向こうには、香織と並んで
絵里子の恰好に驚いたのだろう、棒のように硬直している。
「絵里子さん……。
相変わらず飛ばしてますね」
「何で言わないんだよ、連れて来るって」
「驚かそうと思って。
でも、こっちの方が驚かされました。
絵里子さんには敵いません」
「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと入って。
侑人くん、君も」