美波は人差し指で縁なし眼鏡を上げると、バインダーの書類を傍らのテーブルに置いた。
「問診は以上ですが、他に何かご自分で気になることがありますか?」
「う~ん………」
恵子は人差し指を顎に当てて、似合わぬ可愛い子ちゃんポーズを取る。
「特にありません」
「そうですか。では……」
「いよいよですね」
「いよいよと言いますと……?」
「脱ぐんでしょ?」
「あ、あ、あ、あ……ちょっとそれは、必要な時に私からお願いしますから」
再びジッパーを下げようとする恵子を美波は両手で押しとどめる。
「遠慮しないでください」
「遠慮はしません。実際何をもって遠慮と言うのか分かりませんが、ではそちらのベッドの上でチェックをしましょうか」
「いい流れですね」
「は?」
「いえ、リラックスして診ていただけるという意味で」
「それはまあ……、そうですね。では私も失礼してベッドの上に正座しますが、目加田さんは私の前に楽な姿勢でお座りください」
「わかりました。じゃ私は胡坐をかいちゃおう」
こうして美波と恵子は、ごそごそとベッドに上がり正対して座った。
岸辺美波春子は女性を性的な対象として見たことは無かった。
いやそれどころか、性的な欲求の高まりも控えめで男性経験もごくわずかだった。
今は体内に埋め込まれた放射線チップにより、メトロンの指示に従って任務を果たすことだけを考えている。
要するに、目加田恵子に精神コントロールシステムをインストールする外付け器具を付けさせた上で、彼女のオーガズムに合わせて起動スイッチを押すのだ。
そうすることで、飛鳥ゆり子や大河内本部長のように体内にチップを埋め込むことなくその人間をコントロールできる。
これはメトロンの地球征服の達成において画期的な発明であった。
お手軽にコントロールシステムをインストール出来れば、メトロンの自由になるロボット人間は飛躍的に増加するに違いない。
美波は昨夜、ネットを調べて女性同士の恋愛やセックステクニックを勉強した。
フィンガープレイにオーラルプレイ、シックスナインに貝合わせなどなど……。
練習と称して布団に抱き着き、枕を股に挟んで腰を振ってはみたが、美波はふと大きな溜息をついてその動きを止めた。
彼女にとって実技はともかく、どうやって相手をセックスに誘い込むかが問題だったのである。
気位が高く経験のない彼女は、媚びを売ることも出来ず、ましてや色気で同性を誘うなどということはおぞましく思えた。
しかしそんな彼女がネットに目を通していると、ある百合小説の一文が彼女の目に留まった。
“お姉さま、もう明日から学校にはいらっしゃらないんですね。お願いです。最後に………最後に、お姉さまの唾をください”
どうやらこの少女は、卒業で去っていく片思いの先輩に、おずおずとピンクの唇を開けて唾をねだっているらしかった。
“これだわ”
美波は思った。
“まさか私の唾を飲みなさいとは言えないし、まず自分が意を決して相手の唾を飲もう”
それをきっかけに、さらに医者の立場でベッドの上で触診していけば、女性が好きな相手なら自然に性交渉に発展していくのではないか。
“グッドアイデア!”
美波はポンと右手を叩くと、上機嫌でココアを入れにキッチンに向かったのだった。
もっとも責めようが責められようが、好みの女性から色目を使われれば、恵子は勝手にオーガズムまで突き進んでくれるに間違いはないのだが。
ベッドの上で正対すると、美波は大きく深呼吸をした。
「では触診などのチェックを始めましょう」
「お願いします。先生」
そう言って恵子がジッパーを下げかかると、誇らしく張った乳房があっという間に内側からジャージを半分以上押し開く。
「ままま、待ってください。私にも段取りと言うものが………」
「段取り?」
美波は上品な笑みを浮かべながら、慌てて恵子のジッパーを再び引き上げたのである。
「まず先にこの腕輪の器具を付けてください。触診中に並行してあなたの血流その他を記録しますから」
美波は瑠璃色の腕輪を恵子の右手首に取り付ける。
「まあきれい……」
恵子はうっとりと瑠璃色の輝きを見つめた。
「そ、それから、あの……目加田さんの………が欲しいんですけど」
「え? なんですか? ちょっと聞こえずらかったんですけど………。ああそうか、おしっこ?」
恵子は顔を赤らめた美波に問いかけた。
「い、いえおしっこじゃなくてその………だ、唾液を………ここに……」
恵子は蚊の鳴くような声に耳を傾ける。
「なんですって、ああ唾液ね………唾液ってツバでしょ? ……はいはい……唾を? ……そ、そこに~!?」
恵子はうっすらと開いた美波の可愛い唇を見ながら声を上げた。
「先生、私の唾が飲みたいの!?」
「い、いえ、飲みたいんじゃなくて、チェ………チェックを……」
美波の白い顔が赤く染まり上がって、うっすらと眼鏡のレンズが曇った。
「またまたあ……。そんなことで体調が分かるんですか?」
「私には分かるんです、訓練してきましたから。さあ、ここに………」
美波は唇を開くと、下あごを突き出す様にして恵子の前に顔を差し出した。
恵子は美波の頬を両手で包む。
「こんな可愛い人に唾飲ませちゃうなんて、あたし、すごく興奮して生唾が湧いてきちゃった。美味しいとこたっぷりあげるから、しっかり味わって」
「味わうんじゃなくて、チェックです」
上向きに目を閉じたまま美波がつぶやく。
恵子は開いた桃色の唇を上から覗き込んだ。
恵子の唇から透明な輝きが伸びて、音もなく美波の口の中に消えていった。
少しの唇が揉み合わされた後に、白くほっそりとした喉が小さく波打つ。
「美味しかった?」
恵子の問いかけに美波は目を開いた。
「味は関係ありません、健康チェックですから。唾液のチェックでは異常ありませんでした」
「で、でも、嫌じゃなかったの?」
心配そうに覗き込んでくる恵子に、美波は微かに微笑みを返した。
「いいえ。では次のチェックに入ります」
美波は何だか恵子に親近感を覚え始めていた。
唾を飲んだからだろうか、この任務を達成する自信のようなものさえ感じる。
「先生の段取りは分って来たわ。次はこれでしょ? あたしもう、乳首がすごく立っちゃった」
わざとゆっくりジャージのジッパーを下ろし始めた恵子を、もう美波は止めなかった。
全身に気だるさを感じながら、怜子はようやくベッドの上に上半身を起こした。
“希美ちゃん………あたしを許して……”
胸が締め付けられ瞼が熱くなる。
目的のためには仕方ないと言っても、怜子は敵方のグレタと淫らな契りを結んでしまったのだ。
ただ凌辱されたばかりだったろうか。
いや、そうではなかった。
快楽の頂点で我を忘れて舌を絡め合い、互いの身体を掴み合ってグレタと獣の悦びを分かち合ってしまったのである。
目くるめく快感に縛られながら、女同士で繋がり合った部分から血が通ったように感じた。
怜子は何かを振り払うように頭を振り、汗で重くなったロングヘアをかき上げた。
先ほどグレタは全裸で横たわる怜子を残して部屋を出て行った。
侵略者側の捕虜になったとは言っても、無事でいれば再び自由になるチャンスも生まれる。
この基地の雰囲気からして、もうウルトラウーマンの決戦の時が近いことを感じた。
自分が開発したShinoharaType2が飛鳥の呪縛を取り除き、ウルトラ一族と人類との絆を守るのだ。
“今は侵略者の目的を阻止することが何より大事なこと……”
そう思って顔を上げた時、近くで何か物音がした。
「だれ? だれかいるの?」
ベッドに起き直った怜子が周囲を見回す。
クローゼットのドアが静かに開き、ドアの向こうから白人の娘の顔が覗いた。
「だ、だれ? あなたは………」
もじもじと少女はドアの陰から全身を現わす。
「あ、あたし、スワンって言うの。みんなはミュールって呼ぶけど、あたしその名前は好きじゃないの……」
「あなた、最初から見てたのね」
スワンは怜子に小さく頷いた。
「おねえさんはさっき宇宙人の話をしてたよね。その人あたしのお友達なの。今どこにいるか知ってる? 知ってたら教えて、助けなくっちゃ」
怜子はスワンの顔をじっと見つめた。
「きっとそれはウルトラウーマンのことね。だったらあなたと私もお友達だわ。さあ、近くにいらっしゃい」
スワンはとぼとぼと怜子に近づいていく。
怜子はベッドに腰かけると、目の前に立ったスワンの金髪を優しく撫でた。
「心配しなくてもウルトラウーマンは安全な場所にいるわ」
「ほんと!?」
顔を輝かせたスワンに怜子は頷く。
「でももうすぐ彼女は大事な戦いがあるの。だから一緒に彼女を応援しましょう」
「うん。じゃああたし鍵を持ってるから、早くお姉ちゃんのところに行きましょう」
怜子はスワンの肩を抱いた。
「今はそれは出来ないわ。でももうすぐ、ここは大変な騒ぎになるのよ。たぶんこの部屋の前も誰もいなくなるの。そしたらスワンちゃん、あたしを助けに来てくれる?」
「うん。あたし助けに来る!」
「ここを出て何処かに隠れてるのよ。出来る?」
「うん、お掃除の部屋にいればいいの。あちこちお掃除しながら待ってるよ」
「そう。あなたすごいわ。じゃ、気を付けて」
「わかった。おねえちゃんもね」
スワンはドアを開けてすたすたと出て行く。
怜子は素早くドアの後ろで聞き耳を立てた。
「何だお前! この中で何してたんだ!?」
「疲れたからクローゼットの中で寝てたの」
「なんだって! 中に人がいただろ」
「しらな~い。女の人が裸で寝てたみたい。でもあたし、その人知らないもん」
「ああもう、さっさと行け! 二度とあちこちでさぼるんじゃないぞ!」
遠ざかっていくスワンの足音を聞きながら、怜子はふうっと大きな息を吐いた。
ゼットンは読みかけの“聊斎志異”をテーブルに置くと、表通りに面した窓際に歩み寄った。
じりじりと熱い日差しが照り付けて、表通りには人っ子一人歩いていない。
「ああ……地球ももう潮時だな。早く片付けちまって場所を変えるか」
そう独り言ちた時、
「あが……!!」
隣室から絞り出すような女のうめき声が聞こえた。
おもむろにゼットンは声の聞こえた部屋に入って行く。
「ひゃあ!!」
奇声を上げて半裸のアラブ女が部屋を飛び出て行った。
「終わったみたいだね」
ダブルベッドの上で両足を広げた飛鳥ゆり子に、ゼットンはそう声をかけた。
「はあ………気持ちよかった。でも、アラブ女は熱心だけどいまいちね。東欧系かアジア系がテクニックは上だわ」
ゼットンはどうでもいいという感じで肩をすくめると、寝室の椅子に腰を下ろした。
「エネルギーも充填したことだし、そろそろこちらから打って出るかな」
ゆり子はベッドから起き上がって、日本の腰巻のような砂漠の衣装を身に着ける。
「そうね、あなたが良ければ、あたしはいつでもOKよ」
「そうか、じゃあ………ん………」
ゼットンはハバナから取り寄せた吸いかけの葉巻に火をつける。
「明日の朝食後にでも出かけるか。どうせあのウルトラのお嬢ちゃんをこませば用は終わりなんだからな」
ゆり子は眉を寄せて漂う煙を手で払った。
「もう煙いじゃないの、あたしの寝室で吸わないでよ」
ゼットンは立ち上がっていそいそと部屋を出て行く。
「俺がさっさと勝負をつけてやるから、その後あんたはたっぷりと……」
「そうあたしはたっぷりと可愛い子ちゃんの若い体を味わって、メトロンちゃんの従順なしもべに仕立て上げてやるよ。あっはははは………」
ゆり子の高笑いを背中で聴きながら、再びゼットンはお好きにどうぞという感じで両手を広げた。
目加田恵子がジャージを脱ぐと、美波は黒目勝ちの二重瞼をさらに大きく見開いた。
ブラジャーに包まれたままにも関わらず、恵子の胸のふくらみが眼前に迫ってくるように感じたからである。
「ブラジャーも取ります?」
恵子は思わせぶりな眼差しを美波に送る。
「え、ええ出来れば……」
「出来ます出来ます」
恵子が両手を背中に回すと、ほどなく白いブラジャーが肩から抜け落ちた。
「まあ………」
美波は漏らした声を片手で押さえた。
「どうかなさいましたか?」
「あ、ああいえ、あまりにおきれいな乳房で………」
「まあ、先生にそう言っていただいて、あたしとっても嬉しいです」
瞳をさ迷わせた美波に恵子は悪戯っぽく問いかける。
「で、私おっぱい出しましたけど、先生どうなさいます?」
「あ。ああ、ええと………」
美波は鼻の頭の汗をガーゼで拭った。
「お吸いになるんでしょう?」
「え、ええもちろん、チェックということで……」
「でも、乳首を吸って何かわかるんでしょうか」
「ええ、乳房や乳首の状態を理解するには適切なやり方だと思います」
美波のまじめな答えに恵子はにっこりとほほ笑む。
「でもおっぱいは二つありますけど、もう一つは揉んでくださいます?」
「は、はい、当然それも大事な手法ですから……」
恵子は美波の両手を取って小柄な体を引き寄せた。
互いの目を合わせた後に、ゆっくりと瞳を閉じる。
「ではお願いします。先生のせいで乳首はすごく固くなっちゃってますけど、ご遠慮なくお好きにどうぞ」
美波は不安気な表情を思い直したように引き締めた。
「では失礼します」
思い切って恵子の右の乳房に顔を寄せる。
そして美波は生まれて初めて、母親以外の同性の乳首を吸い含んだのである。
JR亀戸駅から出た中山希美は、吹き付けるビル風に襟元を掻き合わせた。
平日の勤務時間中ではあったが、足早に年末の街を自宅マンションへと向かう。
年内にまとめる文書の資料が入ったUSBを、希美は自宅に置き忘れていたのだ。
幸い穂茂田部長は早めに年末休暇に入って、自分の仕事以外に雑用を申し付けられることも無かった。
“ふふ………”
息を切らしながら、つい希美は思い出し笑いを漏らした。
昨夜の忘年会で披露した夫のかくし芸の様子を思い出したからである。
お椀に入った“ところてん”を食べるという、夫が穂茂田部長と組んだ二人羽織は思いのほか素晴らしかった。
背中の穂茂田部長から一、二度鼻の頭にところてんを乗せられて観客の爆笑を誘ったが、その後は胸元にこぼす失態もなく、盛大な拍手の中、夫はきれいにお椀の“ところてん”を平らげたのである。
「あははは……真面目そうに見えるけど、中山さんのご主人って案外芸達者なのねえ」
「あはは、いえ、私も知りませんでした」
同僚の言葉に苦笑いで答えながら、希美も夫の意外な一面を発見した思いだった。
その夫も今日から年末休暇に入り、外出していなければ自宅にいるはずである。
玄関ドアを開けた希美は、上がり框の手前に置かれた黒い革靴を見つめた。
“お客様かしら”
静かにリビングへと向かう。
少し髪を整えてドアを開けたが中には誰もいなかった。
その時希美の耳に低いうなり声のようなものが聞こえた。
どうやらその声は奥の寝室から聞こえて来るようである。
“具合が悪いのかしら……? それとも何か………”
多少の不安を覚えながら、希美は寝室のドアを開けた。
中を見た希美の手から、ハンドバッグがフロアの上に滑り落ちた。
「はああ………!!」
オーガズム直前に動きを止められて、思わず怜子は両手で自分の枕を掴んだ。
反らせた上半身の上で形の良い乳房が細かく震える
グレタに両足首を掴まれて、交差した両足の間を揉み合わされていた。
全身を愛撫された後、体位を変えたグレタにクリトリス同士を競り合わされて、怜子は快楽の頂点に追い上げられつつあったのだ。
「ふふ……いきそうだった?」
グレタは両足首を離して怜子の顔を見降ろした。
クリトリス同士を揉み合わされて、怜子は不快感を越えて赤い快感のきらめきが爆発する直前だった。
目を閉じたままグレタから顔を横に逸らす。
グレタは粘り付いたお互いのものを少し離して、おもむろに上体を重ねていく。
「あなた自尊心が強そうだから悔しかったんでしょ? 気持ちよくなってしまって……」
グレタは耳元でそう囁くと、枕を掴んで手を上げたままの怜子の脇に鼻先を突っ込む。
「う~ん……いい臭い………」
「や、やめて!」
怜子は肘を下げて邪険にグレタの頭を押しのけた。
グレタは薄笑いを浮かべて怜子に顔を向き合わせる。
「ふふ、そう恥ずかしがらなくていいのよ。あたしだっていきそうだったんだから」
怜子は目を開けてグレタの顔を睨んだ。
「好きにしていいから、もう早く終わって」
「うふふ………、たまらないわね、その強気な顔。でも女同士はそう簡単に終わらないって、あなたもよく知ってるでしょ?」
グレタは少し上体を起こすと、赤ん坊のおむつを替えるように両手で怜子の両足を抱え込む。
両足が押し広げられるにつれ、濡れたものがひんやりと空気に晒されるのが分かった。
「あたしはね、気に入った相手とは口と身体の両方でキスしながらいきたいの。たぶんあなたとなら、身体が柔らかいから出来るわ」
怜子の怯えた目を見つめながら、グレタはゆっくりと腰を押し付けていく。
「ん………」
怜子は眉を寄せて目を閉じた。
グレタのものがねっとりと自分のものに吸い付くのが分かった。
それはまさに、女同士の最高に官能的な口づけに違いなかった。
「ふふ………これかな?」
グレタのひと廻り大きなクリトリスが怜子のクリトリスを見つけ出すと、ぷりぷりと二、三度左右になぶる。
「う………く……!」
詰まった声を漏らして、怜子はグレタの両肩を掴んだ。
「ああ………あたしもすごく気持ちいいわ………」
怜子の敏感なこわばりの皮をずり上げるようにして、グレタは筋肉質なお尻の肉を蠢かせ始めた。
「大河内本部長、何か御用でしょうか」
大河内は手元の文書から目を上げた。
「ああ岸辺さん、ご苦労様。まあどうぞ」
現地本部担当医の岸辺美波春子は、大河内の指し示した椅子に腰を下ろす。
上品な立ち居振る舞いに呼応するように、艶のあるミディアムヘアーが揺れ動いた。
小柄な体に白衣を纏って、丸眼鏡の奥の瞳が大河内を見つめる。
まだ孫に近いくらいの魅力的な女性に、大河内もつい相好を崩した。
「岸辺さん、聞いてますよ、あなたまだ若いのに随分優秀なんだそうですね」
「い、いえ、私などまだまだ勉強不足で……」
美波は恥ずかしそうな笑みを浮べると、可愛くツンと上を向いた鼻先の縁無し眼鏡を人差し指でずり上げた。
「しかし失礼ながら不思議に思ってたんですが、何故あなたは日本人なのにミドルネームがあるんですか?」
「あ、美波ですか? ふふ……」
「はは……」
含み笑いで細身の体を揺らした美波につられて、大河内も笑い声を上げる。
「その理由には二つの説があるんです」
「ふたつ……?」
「うふふ……ええ」
悪戯っぽく小首をかしげた美波の前で、大河内も鏡を見るように首をかしげる。
「ひとつは母方のおばあさまがヨーロッパに留学した経験があって、その影響で私の名前にミドルが入ったという説……」
「ふんふん………なるほど。で、もうひとつは?」
大河内はデスクの上に身を乗り出す。
「もう一つは、美波はミドルネームではなくラストネームだという説」
「へえ、それはどうして?」
「父方の祖父が三波春夫の大ファンで、父が美波という名前をつけたら、強引にその後ろに春子ってくっつけてしまったという……」
「あ……あっはははは……」
大河内は肘掛椅子に反り返って笑い声を上げた。
「そ、そりゃいい。私はその説に賛成ですな」
岸辺美波春子は膨れっ面を大河内に向けた。
「それで本部長、ご用は何でしょうか?」
「あはは……いや失礼。用と言うのは他でもない。日本から配属された公安の女性の件なんです」
「ああ、あの体格が良くて強そうな……?」
大河内本部長は岸辺美波春子医師にゆっくりと頷いた。
何故か大河内本部長の顔から一切の表情が消えた。
「ウルトラウーマンやゼットンの動きに関してはまだ何も連絡が入っていないが、メトロン総統から指示が入っている」
「メトロン総統から……」
その名前をつぶやいた途端、美波の顔も能面の様に変化する。
「同じ組織内である特捜隊の小林は反逆罪等でどうにでも処理できる。だが国家公安の目加田の方は、身柄に何かあれば査察が入る可能性が大きい」
「で、どうすれば……」
「目加田には我々の身内になってもらう。これからの地球支配においても、彼女の存在は役に立つという考えだ」
「はい」
美波は無表情のまま頷いた。
「彼女にはオーガズムの快感の中で組織の一員となってもらう。幸い外付けのインストール機器も開発されたばかりだ」
大河内本部長は、デスクの上に瑠璃色に輝く腕輪を置いた。
「まあ………」
焦点を失った美波の目がその輝きをじっと見つめる。
「目加田恵子の嗜好は、彼女が見た映像で明白だ。性的対象は女性で、それも最後に快感を極める時は、自分より年下、自分とは正反対の小柄で可愛いタイプ、それも上品で教養のありそうな女性を選んでいる」
「小柄で可愛く上品な女性………」
美波のつぶやきに大河内は頷いた。
「彼女がオーガズムに達した時、このボタンを押すんだ。やってくれるね」
瑠璃色の輝きを両手の平に受け取った美波は、大河内の顔に上品な笑みを浮べたのである。
さすがのスワンもクローゼットの中で固唾を飲んだ。
絶え間ない粘着質な音に女性の喘ぎ声が入り混じっている。
そしてそんな獣の戯れの様子が徐々に性急さを増しているのだ。
スワンは内部からクローゼットのドアをわずかに押し開ける。
細い隙間からベッドの上で絡み合う二つの女の姿が見えた。
正常位で上になった筋肉質の女が細身の女を抱いていた。
そしてその二人の女の下半身は、まるで本当につながっているように見えるのだった。
「はあ! あ………ああ~……!」
濁ったうめき声を絞り出して、胸を反らせた怜子が両手で自分の乳房を掴んだ。
湿った粘着音の中に空気のせめぎ出る下品な音が混じった。
「はあ、はあ、気持ちいいのね………はあつ……いいんでしょ?」
上から両足を抱き込んだグレタは、興奮に呆けた表情で怜子の顔を見降ろす。
吸い付き合った部分から、二人の白濁した愛液が怜子の肛門の上を伝ってベッドの上に滴り落ちている。
グレタは上半身を曲げて怜子と顔を向き合せる。
「はあ………もうだめでしょ? ……さあ、キスしようか………」
腰を揉み合わせながらグレタが唇を寄せると、夢うつつに怜子の唇も緩んでいく。
「これからあなたは……私の女になるのよ………」
途端に怜子の顔が横を向いた。
グレタの唇が虚しく怜子の頬をさ迷う。
「ふふ……益々あなたのことが気に入ったわ。でもどこまでその意地を張れるかしら? ほら………」
グレタがゆるゆると互いのクリトリスを競り合わせると、互いのこわばりが徐々に硬さを増していく。
優しくそして時にはいじめるように強張りを弄る度に、怜子の裸身に悔しい痙攣が走った。
弾き立った乳首同士が触れ合う。
逃げ惑う怜子の唇をとうとうグレタの唇が覆った。
グレタは激しく腰を使って二人の下半身を一つにする。
「んぐうう!!」
怜子の呻きと共に二人の唇が深く交わった。
否応もなく二人の唾液が混じり合い舌が絡み合う。
互いの鼻息が頬にぶつかる。
まるで蛇のように絡まりながら、二つの女体が快楽の階段を上っていく。
“助けて希美ちゃん”
怜子は胸の内でそう叫んだ。
“でも、でもあなたにはご主人が………”
そう思ったとたん、怜子の身体の中で熱い快感が充満した。
全身を紅潮させて怜子はグレタにしがみつく。
「ぐうう!!」
とうとう怜子は絶頂の熱いしぶきをグレタのものに浴びせた。
「んぐうう…………」
怜子の身体を強く抱きしめて、グレタも極みのうなりを怜子の口に押し込む。
グレタの望み通りに、二人は全身でキスしながらオーガズムを交わしたのである。
望まない愛の抱擁を許しながら、怜子の目じりから一筋の涙が流れ落ちた。
ハンナはスープの皿をテーブルに置いてウルトラウーマンの肩に手を置いた。
「少しは食べないと力も出ないわよ」
ウルトラウーマンはハンナに力なく頷く。
「荷物も置いたままだし、怜子さんは誰かに拉致されたのかもしれない。私も何か知らないかあちこちの友人に聞いてみるわ」
「お願いします、ハンナさん!」
そう叫んでウルトラウーマンはハンナの手を握った。
「わかったわ。でもあなたは怜子さんの望みを叶えることに全力を尽くすのよ。地球の運命はあなたにかかってるの」
「はい。怜子さんのためにも」
眉をつり上げたウルトラウーマンにハンナは頷く。
「そろそろ明日以降は発作の兆候が出るかもしれないわ」
ウルトラウーマンは椅子から立ち上がった。
「宇宙の平和を乱すやつは許さない。やっつけてから、きっと怜子さんを助け出します」
こぶしを握ったウルトラウーマンをハンナは頼もし気に見上げた。
篠原怜子が拉致された翌日。
「誰?」
目加田恵子はベッドわきのマイクでインターホンに答えた。
「医師の岸辺美波春子です。体調チェックに参りました」
「あ、本部長から聞いてるわ。どうぞ……」
ドアが開いて白衣の女医が姿を現わした。
部屋に入ってくる美波を、ベッドに腰かけたままの恵子が呆然と見つめる。
「目加田恵子さんですね?……あ……えと……目加田さん………?」
「あ………は、はい勿論………オフコース目加田恵子、OK」
「あ、私は日本人ですから日本語で大丈夫です。あの……どうかしましたか?」
「あ、いえ、あなたのような人が来るとは思ってなかったので、ちょっと……」
「……どういう風に違ってたんでしょう。私ではご期待に沿えないと?」
「いえ……そ、そんなことは……」
不安そうな美波に恵子は目を瞬かせた。
“すげえドストライクじゃん。あ、乳首立ってきちゃった、いかんいかん……”
「では体調チェックを始めさせていただいてよろしいですか?」
「あ、全然よろしゅうございます。これ、脱いじゃいます?」
恵子は着ているジャージのジッパーを下げ始める。
「あ、いえ最初は問診からですから、そのままで」
「はは……そうなんですね。私はいつでもOKですよ~」
“はあ~可愛い。裸にして抱っこしちゃいたい”
「では必要書類を用意しますので……」
美波は恵子に背を向けて、カバンの中の書類を探す。
恵子はその小さな背中を抱きしめたい欲求を辛うじてこらえた。
だがそんな華奢な容貌に反して、美波の目はらんらんと歪な輝きを宿していたのである。