白髪女性は、バッグの口を大きく開き、中を男に向けた。
黒い柄が見えた。
柄の先は、赤いタオルが包んでいる。
男の指示で、ベランダに掲げたタオルだろう。
そしてその中身は……。
間違いなく、包丁だ。
男は女性の目を見た。
女性も、強い目力で応じた。
「あなたは、誤解してます。
金が目的なら、脅迫状であらかじめ金額を提示してますよ。
平日のこんな時間に呼び出したから……。
ぼくを、プータローかなんかだとお思いかもしれません。
確かにサラリーマンじゃありませんが、フリーランスで働いてます。
収入は、同年代のサラリーマンよりも多いと思います。
結婚もしてないし、するつもりもありません。
借金もないし、お金には困ってないです」
「どういうこと?
脅迫者であることは認めたわけでしょ?
お金以外に、何があるの?」
「あなたです」
「え?」
「あなたの裸の映像を見てから、そのことで頭が一杯なんです。
あの録画、何度見返したかわかりません。
毎日、朝晩、いや昼にも見てました。
部屋で仕事してるんで。
もちろん、ただ鑑賞してるわけじゃないです。
その度に、オナニーしてます。
自分でも呆れるほどです。
おかげで、仕事にも支障が出てきました。
で……。
もう、直接会うしかないと」
「……。
本気で言ってるの?
あなた、いくつ?」
「34です」
「何て言うか……。
笑うしかないわね。
2回りも違うじゃない。
わたしは、あと2年で還暦なのよ」
「あの男の人も若いじゃないですか」
「若いったって、あの人の場合は、1回りちょっとよ。
歳の離れた姉弟くらいの差。
でも、あなたとじゃ、親子じゃないの。
あり得ないわ」
「冗談で言ってると思いますか」
「……。
お金は要らないのよね」
「要りません」
「具体的に、わたしの何が目的なの?」
「まず、直接、裸が見たいです。
そして……。
セックスしたい」
「ほほ。
こんな直截的な告白、初めて聞いた。
まさか、還暦前になって聞くなんて……。
人生、わからないものね」
「お願い、出来ますよね」
「断ったら?」
黒い柄が見えた。
柄の先は、赤いタオルが包んでいる。
男の指示で、ベランダに掲げたタオルだろう。
そしてその中身は……。
間違いなく、包丁だ。
男は女性の目を見た。
女性も、強い目力で応じた。
「あなたは、誤解してます。
金が目的なら、脅迫状であらかじめ金額を提示してますよ。
平日のこんな時間に呼び出したから……。
ぼくを、プータローかなんかだとお思いかもしれません。
確かにサラリーマンじゃありませんが、フリーランスで働いてます。
収入は、同年代のサラリーマンよりも多いと思います。
結婚もしてないし、するつもりもありません。
借金もないし、お金には困ってないです」
「どういうこと?
脅迫者であることは認めたわけでしょ?
お金以外に、何があるの?」
「あなたです」
「え?」
「あなたの裸の映像を見てから、そのことで頭が一杯なんです。
あの録画、何度見返したかわかりません。
毎日、朝晩、いや昼にも見てました。
部屋で仕事してるんで。
もちろん、ただ鑑賞してるわけじゃないです。
その度に、オナニーしてます。
自分でも呆れるほどです。
おかげで、仕事にも支障が出てきました。
で……。
もう、直接会うしかないと」
「……。
本気で言ってるの?
あなた、いくつ?」
「34です」
「何て言うか……。
笑うしかないわね。
2回りも違うじゃない。
わたしは、あと2年で還暦なのよ」
「あの男の人も若いじゃないですか」
「若いったって、あの人の場合は、1回りちょっとよ。
歳の離れた姉弟くらいの差。
でも、あなたとじゃ、親子じゃないの。
あり得ないわ」
「冗談で言ってると思いますか」
「……。
お金は要らないのよね」
「要りません」
「具体的に、わたしの何が目的なの?」
「まず、直接、裸が見たいです。
そして……。
セックスしたい」
「ほほ。
こんな直截的な告白、初めて聞いた。
まさか、還暦前になって聞くなんて……。
人生、わからないものね」
「お願い、出来ますよね」
「断ったら?」
「じゃ、早いこと本題に入りましょう。
当然、目的はお金よね。
でもね。
わたし、お金持ちじゃないのよ。
持ち物は、あのマンションだけ。
親が亡くなって、相続した家を処分したお金で買ったの。
古い家だったから、ほとんど土地代だけよ。
マンション買ったら、すっからかん。
あのお店だって、賃貸なの。
だから、もし無理な条件なら……。
降参するしかないわね。
親は死んでしまってる。
一人娘だったから、兄弟姉妹もいない。
結婚は1度したけど、子供は出来なかった。
早い話、天涯孤独の身ってわけ。
だから、わたしのみっともない映像がネットに晒されても……。
迷惑する人はいないってこと。
もちろん、お店は畳まなくちゃならないだろうけど。
あのマンションを売って引っ越せば、なんとか老後は暮らしていけるでしょ。
でもね……。
彼が晒されるのは困るの。
わたしと違って、彼の傘の下で生きてる人は、たくさんいるから。
妻子もあるし、小さな会社だけど社長さんだし。
彼が社会的信用を失ったら……。
たくさんの人に被害が及ぶの。
あの人、ほんとにいい人なのよ。
だから……。
彼の人生だけは、壊したくない。
命と引き換えにしてもよ。
でもね。
わたしも、もういい歳だけど……。
今が一番幸せなの。
もう少し生きてみたいの。
お願いよ。
お金は、なんとかするつもりだけど……。
いっぺんには用意できないわ。
銀行だって、お店の決算書を見れば、とても貸しちゃくれない。
だから、毎月、少しずつ用立てるから」
白髪女性は、脇のベンチに降ろしていたショルダーバッグを、膝の上に抱えあげた。
革紐の付いたファスナーを引き開けた。
中に手を入れ、取り出したのは……。
銀行のATM封筒だった。
「取りあえず、20万。
少ないのはわかってます。
でも今は、これが精一杯なの。
これでダメなら……。
さっき言ったとおり、命と引換えってことになるわ」
当然、目的はお金よね。
でもね。
わたし、お金持ちじゃないのよ。
持ち物は、あのマンションだけ。
親が亡くなって、相続した家を処分したお金で買ったの。
古い家だったから、ほとんど土地代だけよ。
マンション買ったら、すっからかん。
あのお店だって、賃貸なの。
だから、もし無理な条件なら……。
降参するしかないわね。
親は死んでしまってる。
一人娘だったから、兄弟姉妹もいない。
結婚は1度したけど、子供は出来なかった。
早い話、天涯孤独の身ってわけ。
だから、わたしのみっともない映像がネットに晒されても……。
迷惑する人はいないってこと。
もちろん、お店は畳まなくちゃならないだろうけど。
あのマンションを売って引っ越せば、なんとか老後は暮らしていけるでしょ。
でもね……。
彼が晒されるのは困るの。
わたしと違って、彼の傘の下で生きてる人は、たくさんいるから。
妻子もあるし、小さな会社だけど社長さんだし。
彼が社会的信用を失ったら……。
たくさんの人に被害が及ぶの。
あの人、ほんとにいい人なのよ。
だから……。
彼の人生だけは、壊したくない。
命と引き換えにしてもよ。
でもね。
わたしも、もういい歳だけど……。
今が一番幸せなの。
もう少し生きてみたいの。
お願いよ。
お金は、なんとかするつもりだけど……。
いっぺんには用意できないわ。
銀行だって、お店の決算書を見れば、とても貸しちゃくれない。
だから、毎月、少しずつ用立てるから」
白髪女性は、脇のベンチに降ろしていたショルダーバッグを、膝の上に抱えあげた。
革紐の付いたファスナーを引き開けた。
中に手を入れ、取り出したのは……。
銀行のATM封筒だった。
「取りあえず、20万。
少ないのはわかってます。
でも今は、これが精一杯なの。
これでダメなら……。
さっき言ったとおり、命と引換えってことになるわ」











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