「でも、わたしの部屋は困るわよ。
住人の目もあるし。
あなたの部屋は……。
たぶん、真正面に見えるマンションよね。
あのあたり、お店のお客さんもいるんじゃないかしら」
「お互いの部屋はやめましょう。
あなたと過ごす時間は、非日常的なひとときにしたい」
「ロマンチックな脅迫者さんね。
それじゃ、ホテルってことかしら。
やっぱり、ラブホ?」
「デイユースできるシティホテルにしましょう。
ロマンチストなんで。
今、予約します」
男は、ラブホテルを使ったことがなかった。
入ってから、システムがわからず戸惑うところを見せたくなかった。
男はスマホを操作した。
「空いてました。
お店とは別の路線にあるホテルです。
Y駅になります。
タクシーより、電車がいいですよね」
「そうね」
「車中では話をしないことにしましょう。
隣の吊革に、たまたま掴まってる他人同士」
「ありがとう」
普段も、女性に対してはそうなのに……。
ましてやこんなとき、上手い会話が出来るはずもなかった。
あらかじめ喋らないことにしておけば、気まずさもないだろう。
埠頭からは、ほぼ等距離に、2つの駅があった。
予約したホテルは、女性の店のある駅とは別の路線だ。
男はICカードを持っていたが、女性は持っていないようだった。
男に目で合図し、券売機に向かった。
細身のすらっとした後ろ姿だ。
髪が白くなければ、声を掛ける男がいるのではないか。
しかし、あの服の下に隠された裸身は……。
髪相応のシルエットだった。
乳房は潰れて垂れ……。
肉の落ちた尻には皺が寄り、隈が沈着していた。
もうすぐ、その裸を目の前に出来る。
男は腰を引いた。
すでに陰茎が勃起していた。
女性が券売機を離れた。
男をちらっと見て、改札に向かう。
男も後を追った。
住人の目もあるし。
あなたの部屋は……。
たぶん、真正面に見えるマンションよね。
あのあたり、お店のお客さんもいるんじゃないかしら」
「お互いの部屋はやめましょう。
あなたと過ごす時間は、非日常的なひとときにしたい」
「ロマンチックな脅迫者さんね。
それじゃ、ホテルってことかしら。
やっぱり、ラブホ?」
「デイユースできるシティホテルにしましょう。
ロマンチストなんで。
今、予約します」
男は、ラブホテルを使ったことがなかった。
入ってから、システムがわからず戸惑うところを見せたくなかった。
男はスマホを操作した。
「空いてました。
お店とは別の路線にあるホテルです。
Y駅になります。
タクシーより、電車がいいですよね」
「そうね」
「車中では話をしないことにしましょう。
隣の吊革に、たまたま掴まってる他人同士」
「ありがとう」
普段も、女性に対してはそうなのに……。
ましてやこんなとき、上手い会話が出来るはずもなかった。
あらかじめ喋らないことにしておけば、気まずさもないだろう。
埠頭からは、ほぼ等距離に、2つの駅があった。
予約したホテルは、女性の店のある駅とは別の路線だ。
男はICカードを持っていたが、女性は持っていないようだった。
男に目で合図し、券売機に向かった。
細身のすらっとした後ろ姿だ。
髪が白くなければ、声を掛ける男がいるのではないか。
しかし、あの服の下に隠された裸身は……。
髪相応のシルエットだった。
乳房は潰れて垂れ……。
肉の落ちた尻には皺が寄り、隈が沈着していた。
もうすぐ、その裸を目の前に出来る。
男は腰を引いた。
すでに陰茎が勃起していた。
女性が券売機を離れた。
男をちらっと見て、改札に向かう。
男も後を追った。
「あの映像が、ネットに流れます。
投稿予約してありますから。
もし、ぼくの身になにかあって、予約日時を先延ばし出来なくなったら……。
決められた日時に、自動的に投稿されます」
女性は、バッグを広げ、ATM封筒を中に収めた。
包丁の柄が、はっきりと見えた。
「わたしが、こういうのを持って来ることも予想してたわけ?」
「もちろんです。
テレビドラマの脅迫者は、あまりにも無防備です。
だから、必ず殺される。
脅迫者は、脅迫される側より、遙かに命の危険が大きいはずなのに」
「つまりあなたは、決して間抜けな脅迫者ではなく……。
命の危険も十分予測した上で、わたしに会いに来たということね」
「そうです」
「要求は、ほんとにそれだけ?」
「それで十分でしょう。
あなたには、それだけの価値があります」
「ほほ。
脅迫者におだてられちゃった」
「でも、1度だけじゃイヤですよ。
多分、初めてのときは失敗しますから。
ぼく、童貞なんです」
「……。
衝撃の告白ね。
34でしょ。
これまで何してたの?」
「だから、オナニーだけです。
告白したのも、これが生まれて初めてです。
もちろん、あなたの仕事に支障を来すほど会ってくれとは言いません。
あの人との付き合いも、これまでどおり続けてもらって大丈夫です。
邪魔はしません」
「なんだか……。
好条件すぎて、逆に怖いわ。
これじゃ、若いツバメを拾っただけみたいじゃない」
「そう思ってもらっていいです」
「わかったわ。
信じましょう。
信じるほかないもの」
「ありがとうございます」
「で、どうするの?
今日は」
「もちろん……。
このまま帰ってもらうつもりはありません。
だから、お店の定休日を選んだんです。
時間、大丈夫ですよね?」
「ええ。
今日は、彼との約束もありません。
こういうことを先延ばしにすると……。
それだけ、不安な時間を過ごさなきゃならないことになるわ」
「そうそう。
善は急げ、ですよ」
「善じゃないでしょ。
ま、いいわ。
行きましょう。
まさか、ここでするわけじゃないでしょ」
投稿予約してありますから。
もし、ぼくの身になにかあって、予約日時を先延ばし出来なくなったら……。
決められた日時に、自動的に投稿されます」
女性は、バッグを広げ、ATM封筒を中に収めた。
包丁の柄が、はっきりと見えた。
「わたしが、こういうのを持って来ることも予想してたわけ?」
「もちろんです。
テレビドラマの脅迫者は、あまりにも無防備です。
だから、必ず殺される。
脅迫者は、脅迫される側より、遙かに命の危険が大きいはずなのに」
「つまりあなたは、決して間抜けな脅迫者ではなく……。
命の危険も十分予測した上で、わたしに会いに来たということね」
「そうです」
「要求は、ほんとにそれだけ?」
「それで十分でしょう。
あなたには、それだけの価値があります」
「ほほ。
脅迫者におだてられちゃった」
「でも、1度だけじゃイヤですよ。
多分、初めてのときは失敗しますから。
ぼく、童貞なんです」
「……。
衝撃の告白ね。
34でしょ。
これまで何してたの?」
「だから、オナニーだけです。
告白したのも、これが生まれて初めてです。
もちろん、あなたの仕事に支障を来すほど会ってくれとは言いません。
あの人との付き合いも、これまでどおり続けてもらって大丈夫です。
邪魔はしません」
「なんだか……。
好条件すぎて、逆に怖いわ。
これじゃ、若いツバメを拾っただけみたいじゃない」
「そう思ってもらっていいです」
「わかったわ。
信じましょう。
信じるほかないもの」
「ありがとうございます」
「で、どうするの?
今日は」
「もちろん……。
このまま帰ってもらうつもりはありません。
だから、お店の定休日を選んだんです。
時間、大丈夫ですよね?」
「ええ。
今日は、彼との約束もありません。
こういうことを先延ばしにすると……。
それだけ、不安な時間を過ごさなきゃならないことになるわ」
「そうそう。
善は急げ、ですよ」
「善じゃないでしょ。
ま、いいわ。
行きましょう。
まさか、ここでするわけじゃないでしょ」