俊介はそんな風に軽く流してくれた。
(どうして怒らないの? 嫉妬してくれないの? 私への心遣いで我慢しているの?)
激しく罵られることを覚悟していた私は、あまりの歯応えの無さに拍子抜けしてしまった。
その夜の俊介はすごかった。
バスルームから上がった私を、待ちかねたように激しく抱きしめて、そのままベッドに押し倒した。
そして身体中にキスの雨。
「ああん! まだ髪も乾かしていないのに~」
「イヴ! 君が欲しいんだ! 今すぐに欲しいんだ」
「いやん! そんなに乱暴にしないで~」
俊介は乳房を揉み始めたが、おだやかに攻めてきたあの頃とは全く違う。
すごく激しいのだ。
「痛い! そんなに強く揉んじゃいや! もっと優しくして・・・」
俊介は早々と私の両足を開かせて、顔を近づけてきた。
「ねえ、イヴ、ここをどんな風にされたの?」
俊介は私の返事を待たずに、クリトリスの包皮を指で剥き出しにした。
「あぁん・・・いやぁ・・・」
「ねえ、ここをこんな具合にいじられたの?」
覆うものを失ったクリトリスを、俊介は指でクリュンクリュンと円を描き始めた。
「あ、そこ、だめ、そこ、だめ、感じちゃう! いやん!」
「それともこんな風に舐められたのか?」
「ああっ! ダメッ! いやっ! そんなこと、そんなことされてないわぁ~!」
「嘘だろう? きっとされたはずだ!」
俊介は舌の回転速度を上げて左右に往復させてきた。
(レロレロレロレロ! レロレロレロレロ!)
「ああっ! いやっ! そんな激しくしちゃだめぇ~~~!!」
私の性感を知り尽くした男の愛撫はさすがに効く。
私のアソコからは早くも恥ずかしい蜜が滴り落ちているのが分かる。
あぁ、何と懐かしい感触だろうか・・・
ジョルジョも下手ではなかったが、俊介はやはり壷を心得ている。
「ふふふ、すけべなイヴ。もうこんなによだれを垂らしちゃって」
「いやん、そんな恥ずかしいこと言わないで・・・」
俊介は嫌らしい言葉を並べながら、私の柔らかな蜜壷をめちゃめちゃに揉みしだく。
俊介は私とは逆向きにうずくまって、蜜壷を覗き込むようにしながら激しく攻め立てる。
チラリと見える俊介のペニス・・・ジョルジョよりも小さめだけど、硬さではジョルジョよりも上だろう。
彼のモノを見ているうちに、つい淫らな想像してしまって顔がカーッと熱くなった。
ジョルジョよりも色が濃くて、弓なりに反り返っている俊介のモノ。
私はそれが無性にいとおしくなって、両手で掴んで口に含んだ。
含んでいるうちに愛しさが募って、私にかなり強引な行動をとらせた。
私はいきなりキューッと吸い上げた。
(チュルチュルチュル~!)
「うわ~! そんなあ~!」
俊介が驚きのあまり大声をあげた。
俊介はこんな吸われ方をするのは初めてなのだろう。
私だって初めてだ。
私は久しぶりの再会を懐かしむように、俊介のペニスをしごき、舐め廻し、くびれた部分や小さな先っぽの穴にまで舌先でくすぐってやった。
「うわわわ~! イヴ、すごい! 強烈だっ! ね、ねぇ、そいつにもこんなことしてやったの?」
「してないわ。俊介だけよ、本当に」
俊介が私に入ってきた。
一頃の俊介よりも今日はペースが速い。
それだけ気持ちが昂ぶっている証拠であろうか。
硬いモノがおなかを激しくえぐる・・・。
いつもの俊介のペースじゃない。
つながっている部分がグチョグチョと音を立てるほど激しく俊介は私を突き上げた。
「イヴの中から、そいつの跡を全部消してしまいたい・・・」
☆☆☆
私はジョルジョに謝った。
本当に悪いことをしたと思った。
ジョルジョは怒らなかった。
「イヴ、君ノ中ニ、誰カイルコトハ分カッテイタヨ」
「本当に許してね。そして、ありがとう・・・」
「イヴ、日本語上手くなったろう?」
「ええ、すごく上達したわ」
「実ハネ・・・」
「ええ・・・」
「実ハ、君ト出会ッテカラ、街ノ日本語学校ニ通イハジメテイタンダ。少シデモ君ヲ理解シタクテ・・・」
「ええっ! ほんとに!? そうだったの・・・道理ですごく上達が速いと・・・」
ジョルジョの一途な想い、激しい情熱に、私は心が打たれそして痛んだ。
「イヴ、元気デネ。幸セニナルンダヨ。サヨナラ・・・」
「ありがとう、ジョルジョ・・・さよなら・・・ジョルジョ・・・」
ジョルジョの差し出す手を私はしっかりと握り返した。
彼の目頭に光るものを見たとき、私は思わず泣いてしまった。
☆☆☆
俊介と私はシチリアを離れ、帰国の途に着く前にローマに立ち寄ることにした。
俊介がぜひ行きたいと言ったのだ。
ふたりはトレヴィの泉にコインを投げ入れて祈った。
もう一度イタリアを訪れるためのおまじない。
それはきっと新婚旅行の時になるだろう。
街角のリストランテから、『アリヴェデルチ・イタリア(また会いましょう、イタリア)』のメロディが流れてきて、俊介と私を包み込んだ。
久しぶりに会うというのに、すっぴんのままなんて・・・
(少し早めに連絡をくれればいいのに)
私は大きく息を吸って、玄関ドアのノブを握った。
胸の鼓動が自分でも分かるほど、激しく脈を打っている。
ドアを開けると、そこには懐かしい顔があった。
少し日に焼けたようだが、笑顔はあの時のままだ。
手にはラッピングをした大きな包みを持って立っている。
「イヴ、元気かい? マジで心配してたよ。ひとことぐらい言ってくれても良かったのに」
「そんなぁ~・・・。別れた人に行き先を言って旅立つ人なんていないわ~。でも嬉しいわ。よく来てくれたわね」
「イヴ・・・」
「なに?」
「相変わらずきれいだね」
「もう! 急に来るから、化粧をする暇がなかったじゃないの~。ちょっと早めに電話をくれたらいいのに~」
「あぁ、そうだったね。ごめんね。でも・・・」
「でも? でもなあに?」
「君は化粧をしなくても充分に美しいよ」
「う、もう! 口だけは上手いんだからぁ~」
「いや、お世辞じゃないよ」
「そうなんだ。嬉しい・・・」
「あの」
「なに?」
「あの、部屋に入れてくれない? 立ち話もなんだし」
「あっ! ごめん! 気が利かなくて。どうぞ、入って」
部屋の中央にあるソファに俊介を案内して、自分は向かい側に座った。
本当は真横に腰を掛けたかったけど、私から別れの言葉を切り出したことから、些かの遠慮が私の胸をよぎった。
彼は手に持っていたラッピングをした大きな包みを差し出した。
「あの、これを受け取ってくれないか?」
「え? なに・・・?」
「君へのプレゼントだ」
「どうして? どうして別れた女にプレゼントするの?」
「まあ、そんな硬いことは言わないでとにかく開けて」
ためらいはあったものの、そのまま返す訳にも行かず、ラッピングのリボンを解くことにした。
リボンがテーブルの上でパラリと解ける。
そして大きな箱の中の蓋を取った。
「ええ? これなに? 卵? それもチョコレートでできた・・・」
どうしてチョコレートなんかくれるんだろう。
バレンタインデーでもなければホワイトデーでもない。
私は卵形のチョコレートを眺めながら首をかしげた。
彼は私をじっと見つめて、静かに語り始めた。
「クレモナのパスクァって知ってる? キリスト教の復活祭のことなんだけど」
「ええ、知ってるわ。でも確か4月20日頃じゃなかった? 今はもう9月よ」
「うん、そのとおり。復活祭は4月19日、20日のヨーロッパ全土で行われるキリスト教の祭りなんだ。キリストが十字架に処刑され、埋葬された後、復活して甦ったとされる記念日なんだ。その日に親しい人に贈るのが、UOVA DI PASCUA・・・つまりパスクァの卵なんだ」
俊介はキリストの復活祭のことを説明し始めたが、私たちとどういう関係があるのだろうか。
チョコレートはとても大きくて、高さが60cmほどある。
俊介は説明を中断して、バッグから木のハンマーを取り出した。
「イヴ、このハンマーでチョコレートを割ってごらん」
「え? チョコレートを割るの?」
私は彼のいうままに、ハンマーを持ちチョコレートを割った。
卵形のチョコレートの中央には予め、割れ目が入っていたようで、いとも簡単に二つに割れてしまった。
そしてその中から透明の小さな箱が出てきた。
「その箱を開けてごらん」
私は小箱を手に取り、そっと開けてみた。
「えぇっ! なあに~!? これってダイアモンドの指輪じゃないの!?」
「それは君へのプレゼントだ。今日は君と僕との復活祭だ」
「え・・・?」
頬からは幾筋もの涙が伝った。
「イヴ・・・結婚してくれ」
私たちはフロントに連絡し、部屋をダブルに変更してもらった。
つまりホテル内の引越しである。
新しい部屋もベランダが南側に面していて、日当たりが良い。
「いい部屋だね」
「そうね。海も一望できるわね」
荷物をクローゼットに片付けた後、ソファに腰を掛けてコーヒーを飲んだ。
イタリアではコーヒーといえば普通エスプレッソだ。
私にとっては少し苦い。
早速ミルクをたっぷり注ぎ、シュガーをひとさじ入れる。
俊介はブラックのままでゆっくりとコーヒーカップを傾けている。
私は俊介にもジョルジョにも謝らなくてはならない。
口に含んだエスプレッソがひときわ苦く感じる。
再びミルクを継ぎ足す。
「俊介、あのぅ・・・、あなたに謝らなくてはいけないの・・・」
「どうしたの? 急に改まって」
「私ね、浮気してたの、このシチリアで・・・」
「ふ~ん、そうなんだ。別にいいよ、オレ、イタリア男になんか負けね~からさ」