就職して2年目の若葉もえもえは、月曜日の朝、定例の会議に出席した。
日曜日の遊び疲れもあってとても眠い。
会議は退屈なものだ。
決まり切った挨拶、決まり切った報告、配布書類を見れば分かる説明。
もえもえはぼんやりと別のことを考えていた。
いや、そうでもしないと眠ってしまいそうで怖かった。
たとえつまらない会議であっても眠るのは具合が悪い。
要点だけをかいつまんで述べれば5分で終わるのに、とも思っていた。
もえもえは一番末席から、演説をする車山課長のズボンのファースナーに視線をやった。
車山は若干36歳ながら、持ち前の統率力と行動力をかわれて今春の人事異動で課長職に抜擢された人物である。
大企業の場合30代半ばで課長昇進というのは、異例中の異例と言える。
課長はふつう女子社員がそんなところを見ているなんて想像だにしない。
やや右より、大きめ、それが課長への印象。
「官公庁の予算圧縮の煽りを受け、当社の事業量も昨年より大幅に減少しております。とくに上半期の落ち込みは酷く……」
もえもえは演説をぶつ課長の口元に目をやった。
真面目な言葉を吐いてはいるが、あの口でどんなことをして来たのか。
舌使いは上手かも知れない。
20代の男性しか知らないもえもえは、三十路男の熟練した愛撫など知らない。
身体中を宝物のように舐めてくれると言う話を聞く。
20代のパワーがやや衰えた分、それを補って余りあるほど愛撫が上手い……そんな噂もよく聞く。
課長が着ているトラディッショナルなスーツ姿で、自分を嫌らしく扱う姿を想像するとゾクゾクしてくる。
この会議室で、この席で、ひざまづいた課長に膝を押し広げられる自分の姿が浮かんでくる。
自然と膝の力が抜けてくる。
「ここは抜本的に社の方針を見直すべき時期と考えます。その方策としましては……」
演説を続ける課長の口元を見ていると、ピチャピチャという音が頭に浮かんだ。
男達はその行為が好きだ。
課長もきっと演説をする口で同じことをするはず。
もえもえは人の体温に触れられる感じを思い出した。
身体がその行為を喜ぶ。
ずっとしていて欲しいのが、直ぐに次の行為に進まれてしまう。
下半身が叫びまくって、我に返ると恥ずかしいから自分からは強く求められない。
「以上です」
課長の演説がやっと終わった。
着席する瞬間、もえもえの方をチラリと見た……ような気がした。
あまりにもえもえが見つめていたためかも知れない。
男性も30を過ぎると、女性を上に乗せることを好むようになると聞く。
腰の引き締まったもえもえが、上になって動く姿を見るのを喜びそうな気がした。
あの怜悧な視線に見られるのも悪くない。
セクシーな視線で胸を思いっきり揉みほぐして、いい声を上げて、課長の視線を困らせたい。
自分の魅力に、課長はきっとすぐに終わる。
男の精を身体の奥深くに強く注ぐだろう。
一段と温度の高い、お湯のような液が子宮に掛かる瞬間をもえもえは思いだした。
会議が終わり退席しようとしたとき、槍のような鋭い視線がもえもえを突き刺した。
もえもえは視線の方向にそっと目を配らせた。
ありさはもう23歳、落ちつきが欲しいと自分でも思い始めていた。
そんな時、作法教室の看板を見つけた。
さっそく電話した。
立派な門構えの扉横にあるチャイムを鳴らすと中年の男性が出てきた。
物静かだが少し神経質そうな紳士。
さすがに和服がよく似合ってる。
落ち着いた物腰。
この人が師匠になるらしい。
ありさが入門の旨を言うと奥に通された。
別室には誰か来ているらしい。
ありさは和服を渡された。
もちろん和服なんて着たことがない。
そう言うと、
「襦袢になってください。今日は手伝いますから」
下着はどうしたものかと師匠に聞いたら脱ぐものらしい。
奧の控え室を借りた。
ありさは脱いだ衣類をきちんと畳むと棚に置いた。
こういうことも大事なのだろう。
ありさが白い襦袢姿で控え室から出てくると、師匠が慣れた手つきで襦袢の形を直す。
和服を着せられ、きゅっ、きゅっと帯を縛られる。
和服姿も意外と悪くない。
「今日は座り方を教えます」
狭い部屋に通されると正座の練習をすることになった。
「背筋が曲がっていますよ」
軽く師匠が手を触れる。
どこに触ったのか痛さが走った。
さんざん足の開きや腰の位置を直される。
軽い力なのにどこを触られても痛い。
ようやくできた。
そのまま15分間壁に向かって座っているように言われた。
「自然体で、きれいな心で座るんですよ」
師匠がつけ加えた。
部屋を出て行く。
ありさの足はすぐに痺れてきた。
足の裏をもじもじさせながら我慢する。
突然、パシンと言う音が、目の前の壁を隔てた隣室から響いた。
若い女の悲鳴。
師匠が何か言っている。
パシン、パシンとまた乾いた音。
(ひっぱたいている)肌を叩く音だ。
それが分かるとありさの身体に戦慄が走った。
少し静かになった。
師匠が何か言っている。
ありさの前の壁が軽く揺れた。
またパシン、パシン、パシンと音が響き始めた。
さっきよりずっと鈍い音。
それに合わせるように壁が揺れ、女の低い叫び。
嗚咽。
痛さを我慢しているのだ。
ありさは音と振動から状況を推測せずに入られない。
手を壁につかせて和服のお尻をめくって師匠が叩いている。
ありさはそう思った。
それがわかると急に怖くなった。
耳をふさいだ。
でも聞こえてしまう。
女が恥ずかしげもなく泣き叫んでいる。
師匠の叩き方は相当に痛いのだ。
さっき軽く触られただけであれだけ痛いのだ。
きっと本気だったら並みの痛さでない。
ありさは姿勢を正した。
叱られないようにしなくちゃ……と緊張した。
ありさの横の襖が静かにす~っと開いた。
それだけで身体がピクンとした。
「しっかり座っていましたか?」
物腰がやはり柔らかい。
この豹変はかえって怖い。
さっきひっぱたいていた同一人物とはとても思えない。
背筋をもう少し伸ばすように軽く触れられた瞬間、身体に電流が走る。
若い女を叩いて泣かせた様子を聞いているので身体が守りに入っている。
「礼儀は形だけではありません。心と身体の美しさです」
礼儀の心得を師匠は解く。
「こういうのは駄目ですよ」
何かが目の前に突き出された。
ありさはハッとする。
身体に戦慄が走る。
叩かれると身体が構えた。
「見えないところに清潔なものを身につけるのが女の心構えです」
ありさの目に汚れを見せつけるように開いた。
控え室から持ってきたのだ。
ありさは恐怖と羞恥で頭が真っ白になった。
いつしか壁に向かって立っていた。
壁に手をつくよう命じられていた。
うしろから着物をめくられていた。
そして……
23歳の白い尻が師匠の前に突き出されていた。