
み「ここは旧道だな。
歩道が狭いわ」
ハ「スピード、気いつけや。
あっちゃから歩行者が来たら、正面衝突やで」
み「はいはい。
しかし、この赤い舗装、なんだろ?
明らかに、側溝の上に敷いてあるよね」
ハ「せやな。
水を落とす穴が空いたあるわ」
み「わかった!」
ハ「やかまし!
通行人がおったら、たまげるで」
み「いないからしゃべってんの。
この舗装は、冬期の滑り止めじゃないの?
道路の水を落とすために、この側溝があるわけだろ」
ハ「あたりまえや」
み「てことは、冬はほとんど常に、この上は濡れてるんじゃない?
側溝のコンクリート蓋が剥き出しだと……。
表面の水が凍って滑るんだよ。
だから、この舗装を敷いてる」
ハ「せやけど、水が凍ることに関しては、舗装の上かておんなじやろ」
み「ちょっとだけ、クッション性がありそうじゃない。
踏むと少し沈んで、氷が割れるんだよ」
ハ「ほんまかいな」
み「よーし。
そしたら、会津若松市役所の建設課に聞きに行くぞ」
ハ「やめとけや。
大迷惑やで」
み「冗談に決まってんだろ」
ハ「冗談に聞こえんから怖いわ」

ハ「また、飯盛山に向かっとんのか?」
み「方角が一緒なだけ」
ハ「どこ行くんや?」
み「着いてのお楽しみ」
ハ「おせといてくれや。
標識とか見つけたら、アドバイスでけるで」
み「頭に地図が入ってるから大丈夫」
ハ「大いに疑問や」

み「ところで、左のビルの『めでたいや』って、何だろ?
ちょっと調べて」
ハ「都合のいいときだけ使いよってからに。
えーっと、“会津若松 めでたいや”で検索っと。
おー、ちょう(ちょっと)意外やな。
ラーメン屋やったで。
み「ビルのどてっぱらに、あんなにデカデカと書いてあるってことは……。
自社ビルだよね?
会津のラーメン屋って、そんなに儲かるの?」
ハ「知らんがな。
せやけど、店舗はビルやのうて……。
下の黒い和風建築の方みたいやで」

み「確かに、暖簾が出てるね。
じゃ、あのビルは何?」
ハ「知らんがな」
み「グーグルマップ見れば、何の建物かわかるでしょ」
ハ「スマホで見んかいな」
み「運転中です」
ハ「やっかいなオナゴや。
えーっと。
『メゾン ド ドルチェ』やて。
賃貸マンションみたいやな」

み「確かに、ビルの側面にも、デカデカと書いてあるな。
しかし、ラーメン屋とどんな関係?」
ハ「それこそ知らんがな」
み「店名掲げてる方は、広告看板ってことか?」
ハ「確かに、遠くからもよう見えてわかりやすいわな」
み「でもこれって……。
ラーメン屋の方から、店名を貼らせてくれって頼んだんじゃない気がする」
ハ「どういうこっちゃ?」
み「普通、マンションの側面に、マンション名をあんな風には貼らないでしょ」
ハ「確かにな。
初めて見たわ」
み「オーナーが、ちょっと変わってるんじゃないかな。
で、マンション名を貼り出して、下の道路から眺めたとき……。
もう一面にも貼れるって気づいたわけよ。
真下には、ラーメン屋があった。
で、即、そのラーメン屋に突入。
もちろん、ラーメン一杯食べたあとで……。
おもむろに、店主と交渉したわけだ。
店名看板、出さんかねと」
ハ「ほんまかいな」
み「知らんけど」
ハ「ほんまに知らんやろ」
み「聞きに行ってくるか、ラーメン屋に。
どんなラーメン?」
ハ「煮干しベースの醤油ラーメンが基本みたいやな。
値段は700円からやな。
入るんか?」
み「中止」
ハ「なんでや」
み「醤油ラーメンは苦手だから」
ハ「塩や味噌もあるみたいやで」
み「こんなところで寄り道してるヒマはないの」
ハ「そんなら、さっさと通り過ぎたれや」
『めでたいや』さんのホームページは、こちらになります。

ハ「広い歩道やな」
み「この季節はね」
ハ「どういうこっちゃ?」
み「点字ブロックの位置、見てみ。
建物側に寄ってるでしょ」
ハ「言われてみれば……。
確かにそうやな」
み「冬は、歩道の車道側には……。
車道を除雪した雪が積まれるんだよ。
人が通れるのは、建物側にある点字ブロックのあたりだけってこと」
ハ「なるほど」
み「お、信号が変わった。
レッツラゴー。
うひゃあ」
ハ「危ないやろ!
漕ぎ出しは要注意て、さっき自分で言うとったやないか。
婆さま、轢きそうやったで」
み「自転車保険は、ちゃんと入ってるからね」
ハ「そういう問題やないわ」

み「いやー。
ほんとに気持ちいいね。
歌いたくなるじゃない。
♪み~ど~り~の風も、さぁわぁやぁかぁに~」
↑『青春サイクリング/歌:小坂一也:1957年(昭和32)年』。
ハ「ほんまに、いつの生まれなんや」

み「ほら、歩道を自転車で走ってもいいわけだ」
ハ「確認する前に走っとったやないけ」

み「お、だいぶ都会になった」
ハ「やっぱ、会津地域の中心都市やな」
み「人口って、どのくらいだっけ?」
ハ「そのくらい、調べてこいや。
……。
11万7千人やな」
み「そんなもん?
もうちょっと、いてもいい気がするけど」
ハ「お、おもろいデータ見つけた。
ここで問題や。
日本には、県庁所在地が人口1位じゃない県が5つある。
福島県、群馬県、静岡県、三重県、山口県や。
さらに、県庁所在地の人口が、2位でもない県がひとつだけある。
それは何県でしょう?」
み「話の流れからいけば、福島県だろ」
ハ「……。
問題の出し方、間違うたな。
確かにそのとおりや。
1位は、浜通りのいわき市。
33万3千人。
2位は、中通りの郡山市。
32万8千人。
そして3位が、県庁所在地、中通りの福島市。
28万3千人」
み「浜通りと中通りばっかしだ」
ハ「そして4位が、会津若松市や。
11万7千人」
み「規模が3分の1だ。
わたしがもし、会津に生まれてたら……。
浜通りや中通りの地域には、そうとう屈折した心情を持つと思う。
特に冬。
テレビの天気予報では……。
県内各地のお天気が出るわけでしょ」
ハ「浜通りや中通りと会津じゃ、大違いやな」
み「鬱屈すると思うよ。
昔はさ。
ほかの地域の情報なんかなかったから……。
冬はみんなこんなもんだと思ってたはず。
でも、今は違うからね。
毎日、毎日、天気予報で突きつけられるわけよ。
浜通りや中通りは、毎日晴れてるってことを。
新潟県は、それがないから、考えてみれば幸せだね。
雪の多い少ないはあっても……。
お天気の悪いことに関しては、全県平等だから」
ハ「確かにな。
引っ越したくなるかも知れんな」
み「ぜったいなるよ。
で、浜通りや中通りの中心都市とは……。
3倍も規模が違って来ちゃったわけだ」

み「おー、夜の街だ」
ハ「姉ちゃんら、冬は大変やな。
脚、放り出して」
み「こんな恰好で通勤して来るはずないだろ。
ここらもそうだろうけど……。
新潟の冬、ヤンキーの兄ちゃんは女もんのサンダルなんか履かないのよ。
雪の中でそんなの履いてたら、凍傷になるからね」
ハ「そしたら、何履くんや?」
み「長靴に決まってるだろ」
ハ「わはは。
ヤンキーが長靴かいな」
み「ただの長靴と違うぞ」
ハ「何がやねん?」
み「ヤンキーは、白い長靴履くの」
ハ「白長靴?
食品工場やないか」
み「彼らのイメージでは……。
たぶん、漁船員だと思う」
ハ「伝わらんと思うぞ」