美弥子は、出来るだけ淡々とした仕草で、着ているものを脱いでいった。
まるで、バスルームの脱衣室での仕草だった。
しかしそこは、脱衣のための部屋ではなく……。
リビングルームだった。
着衣を1枚剥ぐごとに、はらわたが捩られるような興奮を覚えた。
焦げ茶色の革張りのソファーに、水色のブラが投げ出された。
その色彩のコントラストを目にしたとき……。
美弥子は、すでにスイッチが入ってしまっていることを、認めないわけにはいかなかった。
大人しいオナニーだけでは、この場は納められない。
美弥子は、ショーツ1枚の姿で、壁に造りつけられた姿見の前に立った。
この居室の以前の住人は、老いた女性ピアニストだったと云う。
認知症が進んだ女性は、老人ホームに移った。
もう、この部屋での一人住まいには戻れない症状だった。
女性の家族は、高額な老人ホームの入居費用を賄うため、このマンションを売りに出したのだ。
それを購入したのが、美弥子の父だった。
ピアニストは潔癖症だったようで、部屋は綺麗に使われていた。
水回りなどは新しくしたが、居室はほぼそのままだった。
生涯独身だったピアニストは、ナルシストだったのかも知れない。
至る所に、鏡が設えられていた。
もちろん、ステージドレスを着た自分を映すこともあっただろうが……。
美弥子の脳裏には、ピアニストの別の姿が映っていた。
この鏡の前に立つピアニストは、全裸だったのではないかと。
そして、裸の自分を映すだけでは納まらなかったはずだと。
彼女は、細く器用な指先を操り、この鏡の前で手淫したに違いないのだ。
細長い姿見は、美弥子の全身を映していた。
小さな頭。
砲弾のごとく突き出た乳房。
鼓のように括れる体幹。
そして、豊かに広がる腰。
そこだけが、布地で覆われていた。
どこから見ても女性のフォルムだったが、一点だけ違和感があった。
今の美弥子の姿を、誰が見たとしても……。
おそらくはその一点に、視線が奪われるだろう。
それは、布地の中心部にあった。
布地が膨れているのだ。
むろん、膨らみは、パンティを穿いたニューハーフほどではない。
美弥子の腰を覆うのは、股上の浅いショーツだった。
ニューハーフが勃起したら、ウェストから陰茎が突き出てしまうだろう。
しかし、美弥子の膨らみは、ショーツ中央に納まっていた。
まるで、バスルームの脱衣室での仕草だった。
しかしそこは、脱衣のための部屋ではなく……。
リビングルームだった。
着衣を1枚剥ぐごとに、はらわたが捩られるような興奮を覚えた。
焦げ茶色の革張りのソファーに、水色のブラが投げ出された。
その色彩のコントラストを目にしたとき……。
美弥子は、すでにスイッチが入ってしまっていることを、認めないわけにはいかなかった。
大人しいオナニーだけでは、この場は納められない。
美弥子は、ショーツ1枚の姿で、壁に造りつけられた姿見の前に立った。
この居室の以前の住人は、老いた女性ピアニストだったと云う。
認知症が進んだ女性は、老人ホームに移った。
もう、この部屋での一人住まいには戻れない症状だった。
女性の家族は、高額な老人ホームの入居費用を賄うため、このマンションを売りに出したのだ。
それを購入したのが、美弥子の父だった。
ピアニストは潔癖症だったようで、部屋は綺麗に使われていた。
水回りなどは新しくしたが、居室はほぼそのままだった。
生涯独身だったピアニストは、ナルシストだったのかも知れない。
至る所に、鏡が設えられていた。
もちろん、ステージドレスを着た自分を映すこともあっただろうが……。
美弥子の脳裏には、ピアニストの別の姿が映っていた。
この鏡の前に立つピアニストは、全裸だったのではないかと。
そして、裸の自分を映すだけでは納まらなかったはずだと。
彼女は、細く器用な指先を操り、この鏡の前で手淫したに違いないのだ。
細長い姿見は、美弥子の全身を映していた。
小さな頭。
砲弾のごとく突き出た乳房。
鼓のように括れる体幹。
そして、豊かに広がる腰。
そこだけが、布地で覆われていた。
どこから見ても女性のフォルムだったが、一点だけ違和感があった。
今の美弥子の姿を、誰が見たとしても……。
おそらくはその一点に、視線が奪われるだろう。
それは、布地の中心部にあった。
布地が膨れているのだ。
むろん、膨らみは、パンティを穿いたニューハーフほどではない。
美弥子の腰を覆うのは、股上の浅いショーツだった。
ニューハーフが勃起したら、ウェストから陰茎が突き出てしまうだろう。
しかし、美弥子の膨らみは、ショーツ中央に納まっていた。
さて。
バイト代を手にした2人は、そのお金で、2人だけの旅行をするつもりでいた。
しかし、思いのほかバイトが長引いてしまったせいで、夏休みの残りも、わずかとなってしまっていた。
宿題は、バイト前にあらかた済ませていたのだが、まだ2,3の課題は残っていた。
それを仕上げることを考えたら、これから旅行を計画するのは難しいと判断するほかはなかった。
そんなおり、由美の実家の方で不幸があった。
といっても、亡くなったのは由美の血縁ではない。
マンションの隣の居室の住人だという。
子供のいない老夫婦だったが、そのご主人の方が、突然の心筋梗塞で帰らぬ人となったのだ。
その夫婦には、由美は子供のころから可愛がられていたという。
夏休み中でもあり、葬儀に出ないわけにはいかない。
というわけで、急遽由美は、2度目の帰省をすることになってしまった。
美弥子は、ひとりのマンションで机に向かい……。
夏を惜しむ蝉の声を聞きながら、課題の仕上げをしていた。
息抜きに出たベランダから見あげる入道雲も、心なしか秋めいて見えた。
初めて過ごす東京の夏が、終わろうとしていた。
北陸に育った美弥子にとって、夏の終わりは、切ない季節であった。
光溢れた日々が終わり、やがて真っ白な冬がやって来る。
その予兆を、鳴き疲れた蝉の声や入道雲が告げていた。
美弥子は、ベランダから部屋に戻った。
しかし、そのまま机の前に座る気が起きなかった。
去って行く夏への愛しさで、胸が掴まれるように痛んだ。
悪い予感がした。
こういう気分になった自分は、必ず暴走する。
しかも、そういう危惧が、むしろその気分を助長させてしまっている。
こんなときは、手早く自分を慰めて、この場を納めなければならない。
慰めるというのは……。
むろん、性欲のことだ。
絶頂と共に、負の気分を吹き飛ばすのだ。
そしたら再び、机に向かおう。
バイト代を手にした2人は、そのお金で、2人だけの旅行をするつもりでいた。
しかし、思いのほかバイトが長引いてしまったせいで、夏休みの残りも、わずかとなってしまっていた。
宿題は、バイト前にあらかた済ませていたのだが、まだ2,3の課題は残っていた。
それを仕上げることを考えたら、これから旅行を計画するのは難しいと判断するほかはなかった。
そんなおり、由美の実家の方で不幸があった。
といっても、亡くなったのは由美の血縁ではない。
マンションの隣の居室の住人だという。
子供のいない老夫婦だったが、そのご主人の方が、突然の心筋梗塞で帰らぬ人となったのだ。
その夫婦には、由美は子供のころから可愛がられていたという。
夏休み中でもあり、葬儀に出ないわけにはいかない。
というわけで、急遽由美は、2度目の帰省をすることになってしまった。
美弥子は、ひとりのマンションで机に向かい……。
夏を惜しむ蝉の声を聞きながら、課題の仕上げをしていた。
息抜きに出たベランダから見あげる入道雲も、心なしか秋めいて見えた。
初めて過ごす東京の夏が、終わろうとしていた。
北陸に育った美弥子にとって、夏の終わりは、切ない季節であった。
光溢れた日々が終わり、やがて真っ白な冬がやって来る。
その予兆を、鳴き疲れた蝉の声や入道雲が告げていた。
美弥子は、ベランダから部屋に戻った。
しかし、そのまま机の前に座る気が起きなかった。
去って行く夏への愛しさで、胸が掴まれるように痛んだ。
悪い予感がした。
こういう気分になった自分は、必ず暴走する。
しかも、そういう危惧が、むしろその気分を助長させてしまっている。
こんなときは、手早く自分を慰めて、この場を納めなければならない。
慰めるというのは……。
むろん、性欲のことだ。
絶頂と共に、負の気分を吹き飛ばすのだ。
そしたら再び、机に向かおう。