Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
カテゴリ:マッチロック・ショー > フェアリーズ・パーティ
「フェアリーズ・パーティ」作:マッチロック


(ⅩⅠ)


■11.白い妖精
 挨拶をした程度の秘書から思わぬ愛情を示されたことに頭が真っ白になった。
「面識のない私から突然の告白で驚き戸惑っていると思います。私があなたの立場でしたら、きっと怒り席を立つでしょう。でも、それを分かっていても自分をどうすることもできませんでした。
 初めて見た時から、あなたに対する思いが強くなる一方で、自分を抑えることが出来なくなっていたからです」
 この街で著名人のレイラは男性から一目ぼれされ告白されることは珍しくはなかったが、女性からされたのは初めてだった。
「あなたは、美貌があり知性も備わっていることは理解できますが、その他のことは何一つ知らされていないので、正直、どうしたらよいのか分かりません」
 タチアナは無理もないと思った。知らない人物から、いきなり“好きです”と言われれば誰でも戸惑うのは当然で、場合によっては拒絶されるのは理解していた。今回を逃したら彼女への思いを伝えられないと、思い切って告白してしまったが自分に対し不甲斐無さを感じ始めていた。
 一方、レイラは先ほどまで自信に満ちた語り口とは一変し、いたいけな少女の様に、か細い声で告白をした彼女に興味を示し始めていた。
「如何なされましたか? 当店の料理に何か問題でもおありになりましたか? お二方とも料理を口にされていないようなので、気になり伺いました」
 ウエイターが心配そうな表情で傍に立っていた。
「特に、問題はありません。胸がいっぱいになるような話を彼女がしたものですから、料理に手を出す暇もなくて、ごめんなさい」
「そうでしたか。それは失礼をいたしました。お二人の楽しいひと時を妨げたようで、まことに申し訳ありませんでした。お詫びとはなんですが、料理が冷えているので、お取替えいたします。本日のお客様の中で、お二方は店内で、際立って美しい方々なので一番注目されております。その方々が当店自慢の料理を口にされず……、そのまま、お、お帰りとなっては、とう、当店の、は、恥となります。ぜ、ぜひとも、ご賞味くださるよう、お、お願いいたします」
 二人の美女に見つめられているので、しだいにしどろもどろになり早々に持ち場へと戻って行ったウエイターだったが、その後姿を見たレイラは、思わず吹き出してしまった。
「プッ、あの人ったら可笑しいわ、後半は何を言っていたのかわからなかったわ」
「わたしも、初めて見ました」
 二人は顔を見合わせると、そろって吹き出した。
「ああ、可笑しかった。なんだか、急におなかが空いてきてしまったわ」
「クス、私もそうです、おなかが空きました」
 先ほどのウエイターが料理を携え再び、戻ってきた。
「お熱いうちに、どうぞ、お召し上がりください」
 二人に目を合わさず頬を赤く染めながらも料理をテーブル上へ置くやいなや踵を返して帰って行った。
 その後ろ姿を見た二人は、再び吹き出していた。だが一方ではレイラは、あのウエイターに感謝をしていた。
 彼が来なければ、二人は沈黙したまま時が流れ、いずれ店の外へ出なければならず、お互いを知らないまま、別れてしまうところだったのからだ。
「レイラさん、先ほどはごめんなさい。許してください」
「ううん、いいの。あなたは正直に自分の気持ちを伝えられたのだから。……私も、あなたに初めてお会いした時、背中にゾクゾクした感覚がよぎったくらい……」
 と言いかけて“しまった!”と思った。
 火に油を注ぐ結果を招く不用意な発言だった。
 タチアナは目を見開き笑顔が広がっていた。
「ほ、ほんとうに?!」
 思わずレイラは頷いてしまった。
「うれしい。あなたも私のことを思っていてくれていたなんて夢のよう」
 自分を見つめるタチアナに、レイラにはあのゾクゾクした感覚がよみがえった。
「勘違いしないで、私はただ、あなたに会った時の印象を……」
 思いもよらない彼女の行動に唖然とし、言葉を失った。
 タチアナは一瞬のすきを見てテーブルの中へ分け入り潜り込んでいったからだ。
 何かを落とし探すためにテーブルの中に入ったと思っていたが、その思いは違っていることに気付かされた。
 膝に彼女の柔らかい手の感触を感じ、ゆっくりと膝を持って両脚を開いていくのが分かったからだ。
「やめて、他のお客さんに知られます」
 レイラは小声で訴えたが、タチアナにはそれが聞こえないのか両足を広げる行為に熱中していた。
 まさか、店内でしかも客が大勢いる場所でそんなことをするはずもないと思っていたが次の瞬間に彼女が何をするのかが想像できた。
 レイラは焦った。
 身に着けているものを彼女に見られたら、どのような反応するのか想像しただけでも、顔から炎が噴き出るほど羞恥心が破裂しそうだった。
 下を見ればテーブルクロスが浮き出て、彼女の頭が動いているのが分かった。
 おのずと、それを隠そうと下半身を前に突き出す形となり、それはタチアナへのアピールとして勘違いをさせる結果をも招いてしまった。
 気を良くしたタチアナは彼女のスカートをめくると両腿をさすり舐めはじめた。
「アッ、や、め、て……アッ」
 彼女の唇の感触が膝から腿へ移っていた。
「う~~、ダ、ダメ!や 、アッ、め、アッ、
 てっ、アッ」
(徐々にあそこへ近づいている。あ、ついにパンティーに手を触れてしまった……)
「アッ?!」
 周りに聞こえると思ったほど、テーブルの下から、こもった声が聞こえてきた。
 知られてしまった。どうしよう。
「あなたの別な顔を知りました」
 テーブルクロスをかき分け股の間から顔を出した彼女は、いたずらっぽい目で見上げると再びテーブルの下へ消えて行った。
 レイラは両手で顔を隠した。頬が恥かしさで焼けるようだったからだ。
 タチアナは、彼女の秘密を知ったことによりいっそう大胆になった。彼女の腰に手を回すとプッシー全体が触れるようにと前に引き寄せた。それによりレイラは椅子に沈むことになり、周りから見ると不自然な形となっていた。
 遠くで店内の様子を見ていたウエイターは、早くもその異変に気づき、急いで彼女のいるテーブルへと近づいて行った。
「いかがなされましたか?」
「い、いいえ、フ~、べ、別に……アッ」
「お連れの方がいられないようですが、どちらに行かれましたでしょうか?」
 ウエイターは不自然に思っていた。化粧室に行くのも、たばこを吸う為、外へ出るにも彼らの前を通らなければならなかったからだ。
「け、化粧室へ、ハァ、ハァ、ハァ」
 単なる思い過ごしだったか、それにしても彼女の様子は変だ。
「当店の料理がお口に合いませんでしたでしょうか?」
 怪訝そうな顔で彼は聞いた。
「い、いいえ、ウ~、と、とても、お、美味しかったわ。……アッ、う~~、ご、ごめんなさい、気にしなくて……。アッ、アッ、お、おなかがいっぱい。……いっぱいに、う~、な、なって、くる、くるしくな、なっただけ~!」
 太腿のつけ根に舌を這わせ腿を擦っていたタチアナは手を伸ばした。
 彼女の手がパンティーのスリットに伸びたのが分かった。パンティーはプッシーが当たる部分にスリットが縦に入っていて脱がなくても直に触ったりすることが出来る形となっていた。両手をテーブルクロスへ差し入れ彼女の頭を押し戻そうとしたが無駄であった。
 いきなり彼女が舐めはじめた。
「だ、だめ~、イヤァ~!」
 気味が悪くなったのかウエイターが持ち場へ戻ろうとしたところ、呼びとめられたと思いとどまった。
「は、はい? ご用件はなんでしょうか?」
 彼女が目を見開き、何かを訴えているような仕草で、彼を見つめていたため身動きできないでいた。
「アッ、そ、そ、そこは、ダ、ダメ! ハァ、ハア、ハア」
「私の立っている位置はだめとおっしゃられているのですか? わ、分かりました。こちらへ移動させて頂きます」
 ウエイターは困惑しながらも、今立っていた所から少し離れた場所へ移動した。
「こ、こちらでよろしいでしょうか?」
「そ、そこ、アッ~い、いいわ、そ、そこだったら……い、いい、アッ、アッ」
「ここでしたら、よろしいとおっしゃられているのですね」
 ウエイターはハンカチをポケットから取り出すと顔を拭った。彼の白い襟は汗で全体が黒ずんでいた。
 タチアナは周りのことは頭になく、一心不乱にプッシーを顔がのめり込む勢いで密着させ舐め続けていた。
 テーブルクロスの内側は興奮している二人の体温によって蒸し暑くなっていた。
 彼女から口を離すとタチアナは着ている服を狭い空間にも関わらず、器用に脱ぎ去ると、再びレイラのプッシーに顔を埋め、興奮した彼女は自分の手を自身の乳房と股間に伸し、強くまさぐった。
「も、もう、アッ、だ、だめ!」
「もうお腹がいっぱいだと、おっしゃられていられるのですか?」
 彼の左手にかかるエプロンが震えていた。
 タチアナも絶頂を迎えようとしていた。自分の乳房とプッシーを一層攻め立てた。絶頂に達する寸前に彼女はレイラの一番感じる所を思い切って吸い上げた。
「アッ、い、イクわ、アッ、イクわ、ウッ、ウッ、ウッ、ア~~、イ、イク~~」
 彼女はピクリピクリと頭を揺らしたあと、うなだれてしまった。彼女のただならぬ様子に目を丸くして、汗を噴出していたウエイターは彼女が承知したと思った。
 テーブルの下ではタチアナが、丸くなって股間に手を伸ばしたまま、気絶をしていた。
「わ、分かりました。た、ただいま、お会計をさせていただきます」
 再びハンカチで顔を拭うと彼は、そそくさとレジへ向かって帰って行った。
 レイラはおぼろげながら、ウエイターの後姿を目で追っていた。持ち場に戻ったのを確認すると下半身に手を伸ばしてみた。タチアナの唾液と彼女の愛液でパンティーはヌルヌルになって濡れていた。そっと、テーブルクロスを引き上げ、覗いてみるとタチアナは笑みを浮かべ裸になって横たわっていた。
「い、いかがなされました?」
 驚いてテーブルクロスを下げると、明細書を乗せたトレイを左手に掲げ、うやうやしく頭を下げた代わりのウエイターが戻ってきていた。
「ハイヒールが気になったので確認していた所です」
「そうでしたか、ところで先ほどから連れの方がお戻りにならないようなので、いかがなされたか心配になりましたので、どちらに行かれているのか、教えてくださりませんでしょうか?」
 今度は言い訳が出来そうもない雰囲気だった。レイラはどんな言い訳をするか考えていた。
「あっ、な、なんだ?」
 ウエイターはテーブルクロスが膨らんできたことに気が付き飛び退いた。
 テーブルクロスの端が持ち上がると、ピンク色の下着をあらわにした形のいいヒップが出てきた。
「ど、どうしましたか?」
 目のやり場に困りながら生唾を飲み込むと、テーブルの下から後ずさりして出てきた女性に対して尋ねた。
「ごめんなさい、探し物をしていました」
「ゴホン、ん、ん」
 ウエイターは彼女へ後ろを見るように目配せをした。
 彼女はワンピースがめくれていることに気が付くと頬を赤く染めながら急いで整えた。
 ウエイターは彼女が服装を整えたので、ほっと胸をなでおろした。
「お品物を落とされましたら、ご遠慮なく手前どもにおっしゃってください。お嬢様がお召しになられている素敵な衣服を乱されるのは、当店にとっても心苦しいかぎりなので次のご来店の際、もし、その様なことがおありになった場合は、ぜひ、お申しくださるようお願いいたします」
「はい、わかりました。すみませんでした。呼ぶのが面倒だったものですから。次は気を付けます」
 その答えに満足したウエイターだったが、彼女がかなりの時間を要してテーブルの中にいたことは咎めなかった。
「ところで、お探し物は見つかりましたか?」
 それを聞いた彼女はレイラを見つめながら答えた。
「今まで捜していましたが、やっと見つかりました」


 カリフォルニアのある空軍基地の建物の一角にRQ―1プレデター無人偵察機のパイロットが二人任務に就いていた。
 一人のパイロットが監視していたモニターに、前例がない映像が映し出されていて困惑していた。
「おい! エド、この映像を見てもらえないか? 俺にはよくわからない」
「お互いに任務の内容は話さない決まりじゃなかったのか?」
 その通りでお互いの任務は極秘とされ、二人の任務のすべてを知りえる者は一部の上官だけであった。
「ああ、分かっているが、今まで見たことも教えられたことがなかったので、君に聞いたのだ」
「分かった。オフレコで頼む」
 もう一人のパイロットは『プレデター』を自動操縦に切り替え、傍に行った。
「これをどう思う?」
 赤外線暗視カメラが映し出された映像は極めて異常だった。
 テロリストが機関砲で粉砕される様子やミサイルで木端微塵に吹き飛ぶ様子は当然の様に見てきていたので、そういう映像では眉毛一つ動かさず見られることが出来たが、この映像は気になった。
 トラックのフロント部分に近いところで横たわっている人物をまたがって手を伸ばしている人物が映し出されていたからだ。
「俺には、事故か何かで怪我をした人間を救護しているように見えるが、違うか?」
「ああ、違う。俺も最初はそう思った」
「ま、まさか? を絞めているのか?」
「良く見てみろ、手は胸に添えられているだろ」
「そ、そうだな、それで、それがどうした?」
「ああ、俺も最初は車ではねた人物を救護しているようにも見えた。でも、よく見るとそうではなかった。横たわっているのが男でそれにまたがっているのは女だった。見ればわかるが顔だけではなく体全体も白く輝いている。どういうことか分かるか?」
「言いたいことは分かるよ、二人とも裸……?」
「ああ、そうだ、二人とも全裸になっている、
 男と女が裸になってやることって、何を想像する?」
「ま、まさか?」
「その“まさか”で、女は腰を激しく上下に動かしている、こんなエキサイトする映像を任務中に見たことがあるか?」
 エドと呼ばれたパイロットは、彼はよくイタズラを仕掛け笑いを誘うのが得意としていることを思い出した。
「ところで映し出されているのはアメリカのどこだよ? おれも忙しいからからかうのはよしてくれ」
 ちらりと画面の二人の様子を冷ややかに目で追いながら彼に言った。
 招いたパイロットはかぶりを振った。
「今、映し出されている場所は、アフガニスタンとパキスタンの国境近くだ」
「冗談だろ? そんな場所の荒れた大地でセックスしているのか? クレイジーな奴らだ」
「ああ、俺もそう思う、にわかに信じがたい映像が映し出されていたので君を呼んで感想を求めた次第さ」
「奴らは、何者だ? 敵か? 仲間か? 敵だったらもっと太い奴をぶち込め! もし仲間だったら、俺がそこに行って殴ってやる」
「一人は俺たちの仲間だ」
「仲間だって?! 同胞たちがテロリストのやつらと必死に戦っているさなかに女といちゃついているなんて信じられない恥知らずな奴だ! 名前を言え!」
「それも分かっている。一人は海兵隊少尉のデビッド・キャンベル、もう一人の女はフォト・ジャーナリストのヴェロニカ・マリーニナだ」
 それを聞いて彼は絶句した。二人とも名前を知っていたからだ。
「悪いことは言わない、その映像を録画してとっておくことや、それを見たことは忘れてしまえ。それにそのことを上官への報告や、他の人に話さない方が身のためだ、わかったな」
 彼が名前を聞いた途端、意外な反応を示したことに驚きを覚え、こんな面白い映像を投稿したらどれだけアクセス数が増えるか楽しみにしていただけに、がっくり肩を落とした彼は録画ボタンから指を離すと、ふたたび監視することにした。

 上空を飛行するプレデダーの監視のもと、はるか五千M下の荒れた大地にデビッドとヴェロニカが横たわっていた。日本製のピックアップトラックのエンジンルームからの熱風が二人を心地のいい空間を作っていた。
「すごかったわ、デビッド、明日死んでも構わないと思った程よ」
 ヴェロニカは彼の胸を手でさすって囁いた。
「君の魅力で降参だ。こんなところを妻が見たら、どんな顔をするか、見ものだよ」
「その話はなしよ。生きている証が欲しかったから、したはずよ。今さら奥さんの話を出すのは卑怯だわ」
「そうだったな。悪かった」
 満天の星空を見ながら、家族のことを思い出していた。
 笑顔で出迎えてくれる妻のアリソン、茶目っ気のエヴィン、そしてみんなが注目しているレイラ、生きて早く会いたい。
 寂しい横顔を見せたデビッドを見てヴェロニカは下半身が再び疼いた。
「まだ、物足りないわ、もっと私を愛して」
 そう言った彼女はデビッドの萎えたコックに手を伸ばすと握りしめ擦りだした。
 彼は無言で彼女に口づけをすると覆いかぶさった。
 両手で彼女の両足を掴むと大きく広げさせ、
 元気を取り戻したコックをプッシーにあてがうと一気に腰を沈めた。
「アウッ! いいわ! 奥まで攻めて!」
 彼女の胸をわしづかみにして、腰を前後に激しく揺すった。
「ヴェロニカ! なんていい体だ!」
 お互いむさぼるように求めあった。
「ア~、いいわ! もっと! もっと! 突いて!
 突いて! もっとよ! ア~~~~」
 荒れた大地に彼女の叫び声が響き渡った。

「機体を進路変更してまで、そこに向かわせ掩護しているのもかかわらず、いい気なものだ。それにしても、あいつらいつまでやっているつもりだろう」
 一部始終を監視しているパイロットは呆れて溜息をついた。
フェアリーズ・パーティ(Ⅹ)目次フェアリーズ・パーティ(ⅩⅡ)



「フェアリーズ・パーティ」作:マッチロック


(Ⅹ)


■10.秘書
 彼女はドアを開けることに躊躇していた。
 シックな装いを身にまとってはいたが、その装いの下には、いわゆる“セクシー”と呼ばれているランジェリーを着けていた。
 この日のためにと、それまで無視していたセクシーランジェリーの店へ初めて足を踏み入れ、あの人が喜びそうなものを購入したものだった。
 レイラは思い切ってドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
 片腕にエプロンを掛け、笑みをたたえたハンサムなウエイターが彼女を出迎えた。
 彼女を見た彼は一瞬、驚きの表情を浮かべたがすぐに笑みを取り戻した。
「レイラ・キャンベルです。予約はしてあると思います」
「はい、レイラ・キャンベル様、伺っております。予約席までご案内いたします」
 ウエイターが、彼女の人柄やプロポーションを値踏みしたのが分かった。
 彼の後姿を見ながら羞恥心が芽生えた。当初は彼女の家で会う約束であったが、急きょ、このレストランで会うことになり、服装はまだしも下着に関しては、この場の雰囲気にそぐわないことに後悔をし始めていた。
 彼女はウエイターにエスコートされ、一番奥の隅にあるテーブルへと案内された。
 彼女はソフィアのセンスの良さにあらためて感心した。
 周りのテーブルと同じものだったが、こちらからは店内全てを見わたせるものの、他のテーブルに座っている全ての客はこちら側が見えず、いわゆる死角になっている位置にあったからだ。
「お飲み物はいかがいたしましょう?」
 いんぎんに伺いたてるハンサムなウエイターは、このレストランの話題になっているウエイターで、彼に会うために訪れる女性客も数多いと聞いていた。
 ソフィアとの関係を深める前であれば彼女も熱を上げていたかもしれなかったが、今ではなんの関心も起きなかった。
「トニック・ウォーターをお願いします」
「かしこまりました」
 笑みを残しながら彼が立ち去ると、レイラは改めて店内の様子を見わたした。
 各テーブルにはランプが置かれ、炎がときおり揺れ、心地よい雰囲気を醸し出している。
 アベック客もいるのだが、ウエイターのおかげか、女性客の多さが目を引いた。
 客が座っている大きな丸テーブルには、足元まで届く白いテーブルクロスがセッティングされていた。
 ソフィアが早く現れないかと入口を見ていたレイラは、一人の女性客が店内に入ってきたのを見て、気になった。
 出迎えたウエイターが彼女の美しさに驚きの表情を浮かべ、ぎこちない仕草で彼女を案内している様子が見て取れた。
 白のワンピースを装いプラチナブロンドの髪をなびかせ、イヤリングをキラキラ光らせながら店内の通路を歩く姿はファッションモデルさながらで人目を引いた。
 彼女が通り過ぎた後のテーブルの客たちが会話をやめ、次第に店内の誰もが彼女へ視線を集めて行った。
 その彼女をエスコートするウエイターが、レイラの座るテーブルへと向かってくるのを見て、落ち着きがなくなったレイラはきょろきょろと周りをうかがい、彼女へ視線を向けないようにした。
「こちらの席でございます」
 緊張した面持ちでレイラの席まで案内したウエイターの額には、うっすらと汗が浮き出ていた。
「ありがとう、ドリンクはシャンペンをお願いします」
 テーブルの前に立った女性は、レイラに視線を向けながらウエイターへ言った。
 レイラは唖然としてそのやり取りを見ていたが、彼女のその美しさに魅了された。
(どこかで見た覚えがある人……どこか出会っていたと思うけど、誰だったか思い出せない……)
「こんばんは、座ってよろしいでしょうか?」
「こんばんは、失礼ですが……」
 そう言いかけて思い出したレイラは、驚きの表情を表した。
 ソフィアの秘書、タチアナ・マリーニナだった。先日のビジネススーツを着ていた印象とかけ離れていたため、別人だと思ってしまったのだ。
「良かった。思い出されたようですね、では座っていいですか?」
 こぼれるような笑顔を見せた。
「ハ、ハイ」
 目の前に座った彼女は、ソフィア以外の別な妖精が目の前に突然現れたように感じた。
「予定のない私が来たことに驚かれたと思いますが、エバンス社長の指示で伺いました」
 笑みを浮かべたまま彼女に伝えたタチアナが、次の言葉では顔を曇らせた。
「レイラ・キャンベルさんには、残念なお知らせがあります。本日お会いされる予定の社長は、やむない理由により急遽サラ様とご一緒に、御主人の勤務先であるタイへと出発なされました。今のところ帰国する期日は未定となっています」
 突然の知らせを聞いて失望したレイラの姿を見て、彼女は一通の手紙を差し出した。
 表には、『ーレイラ・キャンベル様―』と書かれていた。
 急いで封を開けた。
「愛しのレイラへ
 この手紙をあなたが開けるころ、私の乗った飛行機が離陸したころだと思います。
 あなたに会い、あの日と同じように愛を深めたいと思っていましたが、主人の件で急きょ娘を伴って現地へ赴き、当分の間、留まることになりました。
 あなたに会えない日々が続くと思うと、悲しさで心が痛みます。
 一刻も早く帰国してあなたに会える日を、心待ちにしています。
 後のことは私の秘書タチアナに任せましたので、相談してください。親身になってお世話させていただくはずなので、遠慮なく彼女に話してください。
 あなたのソフィアより」
 手紙を胸に抱き呆然としているレイラにタチアナは、さらに驚くべき内容を伴った話をし始めた。
「実はあなたのお父様の情報もお持ちしました」
 (父のことをなぜ、この人が……)
 驚きを隠せないレイラは、彼女の次の言葉を待った。
「あなたのお父様は現在、私の姉と行動を共にしております」
 サラとの会話を思い出したレイラは、耳を疑った。
「父とマリーニナさんのお姉さまがなぜ一緒なの? 意味がよく分からない」

 タチアナはもっともだと思った。自分でさえ耳を疑ったぐらいだから。
 姉から持たされた一人の軍人の情報を調査した結果が、目の前に座っているレイラの父親だったという事実は、奇跡という言葉でしか表現できない出来事だった。

「今から私が知りえたことをお話しします。
 あなたのお母様もこのことは御存じではありません。軍の方からお母様へは、行方不明者として扱っていることを知らせて来ていると思いますが、敢えて、あなただけにと社長からの意向がありました」
(母がなぜ私に話さなかったのだろう……。ソフィアもこのことを知っている……。そしてもっとわからないのが、どこでその情報を知りえたのかということだ。……わからない)
 ちょうどその時、料理が運ばれてきた。コック長は二人のただならぬ雰囲気に怪訝な顔をしたものの、料理の名前を伝えたのち早々とその場を引きさがっていった。
 ソフィアと会食をしていれば、コック長の流暢な料理名を聞き舌鼓を打ちながら口に運んでいただろう。しかし、今のレイラは料理に手を出す気も起きず、タチアナの話にじっと耳を傾けた。


「全員、集まってくれないか」
 デビッド少尉は大声を上げた。漆黒の闇から藍色になり、明るくなるにしたがって遠くに見える山々のシルエットを浮かび上がらせ始めていた。
 彼らは白い息を吐きながらデビッドのもとへ駆け寄ってきた。
「これから作戦の詳細を伝える」
 ブリーフィングは出発前に行うのが通例なのだが、急遽派遣されたため、現地で行うことにした。
「アルファ地区に前進基地を設け、そののちブラボー地域へ進出し、最終目的地のチャーリー地区へたどり着き、敵の勢力を偵察し報告することが命令されている。各自十分に確認しておいてくれ。なお、各地域の村では、住民に対して絶対に危害を加えないようにし、少しでも敵の情報を聞き出してほしい。ウーラァ?」
「ウーラァ!」
 一斉に返事をした兵士たちは、それぞれの受け持ち場所へ散って行った。持ち場へと戻る曹長をデビッド少尉は引き留めた。
「曹長、実はここだけの話ということにしてくれ。ここに降りてから感じていたことだが、どうも胸騒ぎがしてならないのだ」
 曹長は彼の言葉を意外に感じた。
 今までそんな弱気な発言をしたことがなかったのに、今日に限って自分に話している。だが今まで彼の言う“感”というのは外したことがなく、むしろそれによってみんなが救われていたのも事実だった。
「了解しました。各自に周囲の監視を怠らないよう伝えます」
 急いで戻って行った曹長が、ふざけ合っている兵士を叱咤するのが聞こえた。

 アルファ地区に進出した彼らは、敵の反撃を受けず村の中へすんなりと入ることが出来た。
 次々と兵士たちから情報がもたされるのだが
 村人が一人もいないという情報ばかりであった。
(何かかがおかしい。先ほどまで生活していた痕跡があるのに、誰一人として発見できないことは今までなかったことだ)
 彼は敵の奇襲を予想し各下士官へ通信した。
「12時、3時、6時、9時の方向に各自を配置してくれ。それから屋上には狙撃班を二組、12時と6時に待機させておいてくれ」
 夜襲を警戒して一晩中、待機していたが、彼らの予想を裏切り敵は攻めてこなかった。
(どうも、いやな予感がする)
 まんじりもせず夜明けを迎えた少尉は周りの様子をうかがった。
 時おり野犬の吠える声以外、何も聞こえず、ましては人の動きは皆無だった。
 少尉は腑に落ちないまま、兵士たちに次の目標へ移動する命令をした。
 だが、次のブラボー地区へ進出する為、準備をしていた時にそれは起きた。
「ヒュルヒュルヒュル」
 甲高い音とともに迫撃弾が彼らの頭上に降り注いできた。
「ドカン! ドカン! ドカン!」
 村のあちこちで迫撃弾がさく裂した。数名が破片で傷ついていた。
「奇襲! 奇襲!」
「12時に敵を発見! 多数!」
「タンタンタンターン」AK―47の独特の乾いた射撃音が聞こえてきた。それも数が多い。
 銃弾が空気を裂きながら少尉の耳元をかすめ過ぎ去っていった。
 デビッド少尉はそれを気にも留めず双眼鏡を目に当てた。
 荒れた大地に立つ木の影やあぜの窪みに身を隠しながら、ジワリジワリと彼らに向かってくる集団が見て取れた。
「曹長! 12時にM2を配置し屋根の上に数名でM224を運び上げ、敵に向かって発射するよう伝えてくれ!」
 彼らの反撃が始まった。重機関銃の銃口から火花がほとばしり、12.7mm弾が飛び出していった。
 数名の敵兵がなぎ倒されていくのが少尉の持つ双眼鏡に映し出されていた。
 数秒後に迫撃砲から打ち出される弾頭が敵の密集している付近で弾着して爆発し、敵の兵士たちが次々に吹き飛び倒れて行った。
「クソッタレのあいつらめ、どんなもんだ!」
「ヒャッホー! イェ―! やったぜ!」
「クソッタレのやつの体が吹き飛んだのが見えたか?!」
 興奮した兵士たちが次々に叫んだ。
 反撃の強さに恐れをなしたか、敵兵たちは後退をし始めた。
「クソッタレ野郎どもが逃げ出したぞ!」
「また来てみろ! 俺のクソッタレ弾をお前のケツに突っ込んでやるからな!」
 ガッツポーズを上げ喜んでいる兵士たち。
 その喜びも、次の知らせで顔色を失った。
「5時及び8時に敵を発見!」
 正面に奇襲をかけた小集団はおとりだった。
 二方面から攻撃を仕掛けてきたのは重武装の集団だった。
 彼らから打ち込まれる銃弾やロケット弾で次々に落伍者が出始めた。
「本部、こちらブラボー小隊! 現在、敵の奇襲を受け交戦中、敵の勢力大なり、救援を求める。繰り返す救援を求める!」
「こちら本部、直ちに救援を派遣する。到着時間は……」
 それを聞いたデビッドは全滅という言葉がよぎった。救援が到着するまでには持ちこたえられない状況となっていたからだ。
「5時のチーム損害大! 敵が村へ侵入を試みています!」
(まずい状況だ!)
「了解! 8時のチームの一部をそちらに回し、防戦を試みろ!」
「了解!」
 一方、屋上で奮闘していたのが狙撃チームと迫撃砲チームだった。
「木のそばにいるクソッタレが見えるか?」
「ああ、見たくもない間抜け面が見える」
 スコープを覗くイーサン・グティレス伍長は息を止めながらゆっくりと引き金を引いた。
「バスン!」
 M82バレットライフルから硝煙が噴出した。
「ビンゴ! ナイスキル! 奴の腹に直撃だ! はらわたを飛び散らせ吹っ飛んだぞ!」
「ああ、見えた、次の目標を教えてくれ」
 観測員のアイザック・マイヤーズ上等兵は、彼の冷静さに一目を置いていた。
「イジ―、このクソッタレの戦争が終わったらどうする?」
 スコープを覗きながらイーサン伍長は尋ねた。
「今のところ考えていません。たぶん父の跡を継ぐと思います」
 双眼鏡を覗きながら彼に伝えた。
「そうか、俺はここに留まるつもりだ。帰国しても誰も出迎えてくれないからな。今となっては彼らに親しみを感じる時があるほどだ」
 スコープから目を離し、イーサン上等兵を見上げた時だった。
「ショットしたとそばの木の枝にいる。スナイパーだ。早く処理しろ!」
 双眼鏡の中の敵が銃を発射するのが見えた。
「バスン!」
 再びバレットライフルが火を噴いた。木の枝にいた敵兵は仰け反り地面に向かって落ちていくのが見えた。
「やったぞ! これで何人目だ?」
 なにも返事がなかったので不審に思い、双眼鏡から目を離し彼を見た。
 彼は銃底の上に顔を乗せ、眉間からは血がしたたり落ちていた。
「ああ神様、なんていうことを!」
 彼を銃底からゆっくり地面に横たえるとバレットライフルを握り撃ちはじめた。
「くそ! くそ! くそー!」
 涙を流しながら銃弾が飛び出る限り、引き金を引き続けていた。
「少尉! 悪い状況です! 5時のチームがいる一角が破られました!」
(まずい!このままだと救援が来る前に全滅する!)
「動けるものは全員12時の方角へ退避させろ!」
 その指示した時のことだった。そばにいる兵士が叫んだ。
「RPG!」
 見れば彼の居る場所へ向かってロケット弾が飛んでくるのが見えた。
「伏せろ!」
 村の外へ退避しようとしていた集団に直撃した。
 数人の兵士が吹き飛ばされたのが見えた。
 (しまった! 小隊を窮地に招いたうえ、犠牲者を多く出してしまった!)
 ロケット弾の爆風で傷ついた体を引きずり彼らのもとへ向かおうとしたところ、背後に異様な殺気を感じた。
 振り返り見上げたところパコール帽をかぶった敵の兵士が、AK―47を振り上げているのが見えた。


 息が詰まる思いでタチアナの話を聞いていたレイラは、父に対する考えが間違っていたことが分かった。家庭を顧みずいつも留守をしていた父に会いたいと思う一方、母を悲しませていることに腹も立ち反抗していた。
(父がそんな状況になっているのも知らずに、戦争ゴッコよばわりしていた自分が恥かしい)
「でも、安心してください。お父様は先ほど伝えた通り、囚われていた所から姉の手引きで脱出が成功し、いまパキスタンに向け敵から逃げています。姉が一緒ならば無事にお父様は帰国できるでしょう」
 レイラはこの自信はどこからきているのだろうと疑問を抱きつつも彼女の言葉に安心し、ほっとしている自分が居ることに気が付いた。
 彼女の発する言葉や仕草、そして表情がレイラの心を捉え、次第に彼女へ引かれていった。
「分かりました。あなたのお話を聞いて、なんだか安心しました。まだ逃げているのに父は無事に帰国できる気がします。ありがとうございます。お姉様によろしく伝えてください」
 変な返答だったがそれがレイラの今の気持ちだった。
「良かった。今までのお話をほかの人にした場合、他の方はショックで気を失うか、私に対して誹謗中傷をするかです。やはり私が見込んだだけの人で冷静に受け止めてくれました。さすがです」
 タチアナに褒められるとは思ってもみなかったレイラは頬をほんのり赤く染めた。
「今まで、あなたのお父様のことをお話ししましたが、これからは私のお話をさせていただきます。よろしいでしょうか?」
 レイラは彼女が急に口調を変えたので身をただした。
「正直に申します。あなたを初めてこの目で見て以来、思い続けていたことがあります」
 タチアナが少女のようなあどけない顔になった。
「レイラ・キャンベルさん……いいえ、レイラと呼ばせて……、
 あなたのことが好きです」
 彼女の思いもよらぬ告白に驚いた彼女は飲みかけていたコップを落としそうになった。
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