その二日後のことである。
陣内伊織は中川家下屋敷の門前まで辿り着くと、あらためて気を引き締める様に眉を吊り上げた。
応対に出た用人と言葉を交わし、屋敷内の蔵へと足を運ぶ。
「おお伊織、参ったか・・・。」
伯父の左内が伊織を迎えた。
「どうじゃ伊織、お前が相対した賊とはこの者か?」
薄暗い蔵の中で蝋燭の明かりに照らされて、縄で縛られ、猿轡を噛まされた黒装束のくのいちが床に転がっていた。
「はい、確かにこの者でございます。」
「ほうそうか・・。伊織、でかしたぞ・・・。」
左内は満足げに伊織を見ながら、さらに口を開く。
「偽の書状で、このところ城下を嗅ぎまわっていた賊を捕える試み。思いがけず賊に囚われはしたが、とっさの機転でここにおびき寄せたのが功を奏した。」
伊織は左内に視線を向けず、おずおずとした口調で尋ねる。
「して伯父上、この賊、何か申しましたか・・・?。」
「いや、忍びとは申せ、何も喋らぬ。」
伊織はほっと小さな息を吐くと、今度は左内の顔を見て言った。
「伯父上。若輩者の私が僭越ではございますが、この者の詮議、私にお任せ願えませんでしょうか?」
「何、お前に・・・?。」
左内は暫時思案した後、口を開いた。
「うむ、よかろう。賊を捕える発端もお前が仕組んだこと。やってみよ。」
「は、ありがたき幸せ。」
左内は深く頷くと蔵を後にした。
伊織は蔵の戸にしっかりと内から鍵を掛ける。
ゆっくりとお蝶の方へ近づきながら、伊織は口を開いた。
「おお可哀そうに、顔が痣だらけになって・・・。」
お蝶の脇に身を下すと、その顔を見ながら伊織は続ける。
「せっかくだから、教えておこう。あの時鍔を押しておかなかったのは、深く切り込んで絶命させてはこの様な詮議も出来ぬという私の油断であった。そのためにお前に傷一つつける事も出来なかった。お蔭でよい修行になり、礼を言うぞ。それから・・・、その他の事も何もしゃべらなかった事も合わせてな・・・。」
「む・・・、むぐぐむ・・・。」
お蝶は長い黒髪を振り見出し、身を捩じらせて呻いた。
伊織はゆっくりと立ち上がると、蝋燭の炎に揺らめきながら着物の帯を緩め始める。
「お蝶さん、今度は私が存分に・・・、詮議をさせていただきますよ・・・。」
胸元の肌を露わにしたその呟きは、もう若い女の声に変わっていた。
こげ茶色の土間の上に、二つの白い女体が絡まり合ってうねっている。
「んむうう~う、・・・んぐっ・・・。」
伊織はもういいように唇を吸われ、唇を塞がれたまま、女の甘い唾液さえ飲み下していた。
ひしと身体を抱き締められ、濡れたものを女の指で狂おしくいたぶられながら、伊織の動きに獣じみた忙しさが加わり始めている。
湿った音を立てて伊織の唇を吸い離すと、女は囁いた。
「はあ・・・伊織様・・、そろそろ楽に落として差し上げますよ・・・。」
再び女は、その唇で揉み込むように伊織の唇を吸い塞いだ。
「んん・・・ひゃあ、伊織しゃま・・・。んたしの身体をもっと抱いて・・・。」
女は唇を合わせたまま、伊織の口の中に囁きかけた。
再び女の柔らかい乳房が、伊織の固い乳房に揉み合わされた。
首を振るようにして、女は伊織の口を吸い続ける。
伊織は喉を反らせてその唇を受け入れながら、我知らず両手を女の背に廻し、その裸身を相手に押し付けさえしていた。
濡れた花びらをめくり返すように女の指で弄ばれながら、伊織の身体が激しく波打ちだしている。
堪らず女の唇を振りほどくと、伊織は悲しげに眉間に縦皺を寄せながら呻いた。
「あ・・、あはああ~・・・。」
お蝶はその呻きを聞くと、まるで男が精を放つ前のような焦点の合わぬ眼差しで、喘ぐ伊織の顔を見つめながら言った。
「はああ・・、伊織様・・・。気持ちようございましょう・・・? さあ、我慢せずに気をお遣りなさいな・・・。んんうっ・・、そんな顔見てるとあたしだってもう・・・。恥ずかしくありませんよ、・・・ふうう・・・さあ・・伊織様・・・。」
実際、伊織の右の太腿には女の熟れたものが擦り付けられており、抜けるように白く滑らかな太腿の肌は、女の露でぬめりを伴い濡れ光っていた。
女の右手の人差し指と中指が、伊織の濡れた花びらを縦に擦り返し、親指が薄皮ごしに中の敏感な真珠を転がし始めた。
喘ぎを上げる伊織の唇が、再び女にねっとり吸い塞がれた。
「んぐっ、・・んん~・・ふんんん!」
狂おしく伊織の太腿に腰を振りながら、女の右手がその動きを強めていく。
「ふぐっ! ・・んぐううっ! ・・・ぷはっ・・あはっ! ・・ああああ~!!」
伊織は4,5回米つきバッタの様に腰を振り立てると、女の唇を振り切って叫びを上げた。
「あうう~~~うっ!」
ひしと女の身体にしがみ付き、浅ましく下肢をくねらせると、両足に筋を立てて激しく痙攣した。
「はあっ!、・・・・あたしもっ!! ・・・くうっ・・・・・!!」
伊織の断末魔のあがきを総身に感じ取って、女も濡れそぼったものを伊織の太腿に擦り付けながら、尻の肉をぶるぶると震わせて上り詰めた。
獣のような身体のあがきが交わされた後、二人の荒い息の音が小屋の中に満ちていった。
女は伊織の肩ごしに伏せていた顔をゆっくりと上げた。
濡れ紙を剥がす様に、汗ばんだ互いの胸元の肌が離れていく。
放心した艶めかしい顔で伊織の顔を見つめると女は囁いた。
「伊織様・・・、最後にもう一度だけ・・・。」
伊織の端正な唇を女のふくよかな唇が覆いつくし、互いの鼻が頬に埋まる様なはげしいものになっていく。
"コクツ・・、コクツ・・・。"
伊織の喉が小さく波打った。
それは女の口の中に沸き出でてくる甘露を、伊織が飲み下したもののようであった。
女はあらかた身じまいを済ますと、まだ横たわったままの伊織に向かって口を開いた。
「ふふ、身体が動きませんでしょう? さっき口移しに、また少々薬を差し上げたから。」
虚ろな表情で見上げる伊織に、女は話を続ける。
「じゃあ、このまま先に失礼しますよ。・・・うふふ、どうやらあたしも情が移っちゃったのかねえ。命にゃ別条ありません、しばらくすると身体は動くようになりますから。」
女は戸口に向かいかけたが、ふと振り返って言った。
「袖すり合うも何かの縁、あたしの名前は俗名お蝶・・・。
でも何で伊織様、羽織の紐を緩めた時に、刀の鍔を押しておかなかったんです・・・? 押してあれば、あの時あたしの身体は真っ二つ・・・。」
伊織はそれを聞きながら、僅かに瞼を瞬かせただけだった。
「お~、怖い怖い。それじゃあ、あたしはこれで・・・。」
そう言うとお蝶は、肩をすくめる芝居をしながら、もう夕闇の迫った表へと姿を消した。