↑舞台用語です(クリックで大きい画像が表示されます)。用語の解説は、第二場第二景のはじめにあります。
↑今回の舞台設定と、女優さんの動きです(クリックで大きい画像が表示されます)。
登場人物
南香奈枝(みなみ かなえ):梅ヶ丘女子高 生物科教師
前之園陽子(まえのえ ようこ):梅ヶ丘女子高2年生、美術部員
右嶋茜(みぎしま あかね):梅ヶ丘女子高1年、地学部天文班員
右嶋緑(みぎしま みどり):梅ヶ丘女子高1年、地学部天文班員
梅ヶ丘女子高、伊豆研修所近くの林の中。
楠の巨木の下、全裸でポーズをとる茜と緑。
絵筆の動きを止め、香奈枝の思い出話に聞き入る陽子。
陽子「あれ?
いいんですかあ、手、出して」
香奈枝「いいも悪いも、それは、あんたの勝手だろ。
あやめはあたしの所有物ってわけじゃなし、
あたしが口出すことじゃないでしょ。
第一、あやめがどう出るかはわからんし」
陽子「あれ?
せんせ、ちょっと動揺してますぅ?」
香奈枝「あ、あほか。
教師をからかうんじゃない」
陽子「普通、先生って、
事態に窮すると『教師云々』に逃げるんですよねえ。
かなちゃんもおんなじかあ」
香奈枝「ほんっとに憎ったらしい女だね、あんたって。
恋人とか、いないだろ」
陽子「あたしの恋人は、フェルメールと香奈枝せんせです」
香奈枝「おい、なんだよう。
この話の流れの中で、
その言い方はずるいぞう」
陽子「だあって、ほんとのことですもん」
香奈枝「こいつめ。
濡れてきたぞ。どうしてくれるんだよう」
陽子「だめですよ、せんせ。
今、作画中なんだから」
香奈枝「そんなこと言って。
さっきからあんた、ぜんぜん筆が動いとらんではないか」
陽子「だあって、せんせがおしゃべりするから」
香奈枝「それはあんたが聞きたがるからだろ、
あやめとのこと。
それに双子ちゃんの自己催眠の話や、
流星群の話もはじめるし……」
陽子「それもせんせが聞きたがるからじゃないですか」
香奈枝「ああ、もうええもうええ。
どれ、見せてもらおうかな。
ニンフのようだという双子ちゃんの絵」
陽子「どうぞ」
チェアを引きずって、キャンバスの前を空ける陽子。
香奈枝は腕を組み、キャンバスの前に立つ。
全体に暗い色調の絵である。
頭上を覆う楠の葉叢を通り抜け、天からかすかに漏れ墜ちる陽光が、双子の体を白く浮き上がらせている。
楠の切り株に腰かけ、天の彼方を見晴るかすように仰向く茜。
草の上に座り、茜の腿に上体を凭せ掛け、眠るように目を閉じる緑。
抜けるように白い双子の体は天に向かおうとし、背景の色調が二人の体を地に引き止めようとする。
画面全体を支配するものは静謐さ。
随所に漂う緊張感。
陰と陽、静寂と喧騒との微妙なバランス……。
ときおり、野鳥の囀りが聞こえる。
キャンバスの中からも、野鳥の声が聞こえてきそうである。
香奈枝は身じろぎもせず、一言も発さず、キャンバスに見入る。
どれくらいの時が流れたのか、香奈枝の口から、微かにうめくような声が漏れる。
香奈枝「うーむ」
囁くように、陽子が答える。
陽子「どうですか、先生」
香奈枝「あたしゃ、絵のことなんぞ何もわからんがな、
これは……。
陽子、あんたひょっとして、只者じゃないのかもしれんな」
陽子「先生、素直に褒め言葉と取りますよ」
香奈枝「褒めてるんだよ、もちろん。
普通、こんな可愛らしい女の子がモデルだと、
フワフワしてどうにもならん、という絵もあるが、
これはなんか、異様な迫力があるよ。
心地よい緊張感、とでも言えばいいかなあ。
どっかで聞いたような褒め言葉だが」
陽子「そっかあ、よかった。
自分では、自分の描いたものがどんなものなのか、
なんとも分からないですからねえ。
世界に一人だけでも認めてくれる人がいて、
とっても嬉しいです」
香奈枝「そんなに謙遜することはないぞ。
あ、でもあんた、
人物画は初めてだって言ってたな」
陽子「そうなんですよ。
風景なんかだと、そこそこ自信はあるんですけどね」
香奈枝「自信もっていいよ、人物も。
生物の教師が保証しても、
も一つ説得力がないかもしれんが」
陽子「そんなことありません」
香奈枝「今度、風景画も見せてもらおうかな」
陽子「いつでもお見せします。
うれしいっ」
絵筆とパレットを、キャンバス脇の小机の上に置き、香奈枝に抱きつく陽子。
抱き返し、両腕で陽子の体を抱きしめる香奈枝。
立ったまま、キスを交わす二人。
陽子「あはああああ」
香奈枝「ふうん」
陽子「せんせ、ああ、せんせえ」
香奈枝「久しぶりだのう、陽子」
陽子「そうねえ。あの、屋上の夜以来だね」
香奈枝「楽しかったのう、あの時は」
陽子「そうねえ。朝子はいないけど双子ちゃんはいるし、
あの時とほぼ同じメンバーだね」
香奈枝「じゃ、同じように楽しいことしようか」
陽子「ああん。そんなこと言っちゃやだ、せんせ。
わたしも濡れてきちゃったよ」
香奈枝「陽子、可愛いおっぱい、見せてみな」
陽子「え、うそ、いつ脱がしたの、服。
やだあ」
香奈枝「秘技『脱皮促進』とはこのことじゃ。
どんな服でも5秒で脱がせる。
『エクジソン』または、
『前胸腺ホルモン』と称するホルモンを作用させるのだな」
陽子「まあたそういう与太を。
エクジソンは昆虫のホルモンでしょうが」
香奈枝「ほう、よく知っておるのう。
今の高校生物の教科書からは削除されてしまったのだが」
陽子「誰かが、香奈枝先生の得意技『脱皮促進』、
なんて言ってたんで、ネットで調べたんです」
香奈枝「ほう、それはご苦労というか、もの好きというか」
陽子「で? 実際にはどうやるんですか」
香奈枝「特に技なんてないよ。
いろんな女の、いろんな服を、何度も脱がせる。
これしかないわな。
いわゆる『習うより慣れよ』、『経験は学問にまさる』。
『亀の甲より年の功』。ん? これはちょっと違うか」
陽子「もう、婆くさいなあ」
香奈枝「何を言うか。先人の知恵を馬鹿にしてはいかんぞ」
陽子「へいへい。
んじゃわたしに経験を積ませて下せえ。
脱がすよ」
香奈枝をまっすぐ立たせ、手早く脱がせていく陽子。しかし、香奈枝ほど手際はよくない。何とか全て脱がし終える陽子。
香奈枝「まだまだ、経験が必要のようだのう」
陽子「また、練習させてね、せんせ」
香奈枝「おう。
今度は、脱がせにくい服をたっぷり着こんできてあげよう」
陽子「ね、せんせ。
抱っこして。
おっぱい揉んで。
おまんこ弄って」
香奈枝「よしよし。
あんたは、すぐいくからなあ。
危ないからそこに寝ころびな」
茜と緑の座る楠の前の草むらに横たわる陽子。
陽子に寄り添って寝転び、陽子を抱きしめる香奈枝。
全裸の四人の女達を、真夏の午後の木漏れ日が彩る。
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↑今回の舞台設定と、女優さんの動きです(クリックで大きい画像が表示されます)。
登場人物
南香奈枝(みなみ かなえ):梅ヶ丘女子高 生物科教師
前之園陽子(まえのえ ようこ):梅ヶ丘女子高2年生、美術部員
右嶋茜(みぎしま あかね):梅ヶ丘女子高1年、地学部天文班員
右嶋緑(みぎしま みどり):梅ヶ丘女子高1年、地学部天文班員
梅ヶ丘女子高、伊豆研修所近くの林の中。
楠の巨木の下、全裸でポーズをとる茜と緑。
絵筆の動きを止め、香奈枝の思い出話に聞き入る陽子。
陽子「いやあ、それほどでも」
香奈枝「おい、褒めているのではないぞ」
陽子「わかってますよ、嫌味でしょ」
香奈枝「ほんっとにお利口さんだねえ、あんたは」
陽子「そんなことより、せんせ。
話を続けて下さいよ。
結局、あやめさんは料理の道を選んだんですね」
香奈枝「そういうことだね。
ある日、あたしが授業が終わってアパートに帰ると、
あやめの身の回りの品が無くなってた。
書き置きを残してね。
その年の……12月の寒い頃だったな」
陽子「あらら。
せんせには何も言わずですか、結局」
香奈枝「そういうことだね」
陽子「書き置きには何と……」
香奈枝「そうだねえ。
やはり料理の道を選ぶ。
じかに話すと別れる自信が無いから、
つらいけど、勝手だけれど、会わずに行く。
修業中は会えないから、
いつまでかかるかわからないから、
悲しいけど、私のことは忘れてくれ……。
そんなことだったね。
ま、よくある話だよ」
陽子「よくある話……かなあ。
香奈枝「よくある話、だよ。
陽子、話し、続けるんなら双子ちゃん、
休ませてあげた方がええんやないか」
陽子「ああ、いいんですよ」
香奈枝「いいんです……って。
さっきは『呼んでも聞こえない』って、
わけわからんこと言うし」
陽子「せんせ。
双子ちゃんの姿勢、どう思います?」
香奈枝「どうって、ま、決まってるなあ、と思うが」
陽子「さっきから、全然動いていないの、わかります?」
香奈枝「へ?
うーん、そういわれれば、頑張るなあ、とは思っていたが」
陽子「一種の催眠状態なんですよ」
香奈枝「さいみん?
あんた、そんなことできるの!?」
陽子「わたしじゃないです。
一種の自己催眠、というか自己暗示というか。
ポーズをとると、全く動かない。
それこそ、本物の石像かなんかになったみたいなんですよ。
自分では何もわからなくなっちゃうみたいで、
その間のことは、何も覚えていないそうなんです。
で、話しかけても聞こえないし、
触っても感じない」
香奈枝「へえええー。
それは、凄いことなんじゃないのか。
絵画モデルって、動かないこと、をまず求められるんだろ」
陽子「そうですね。そこが大変らしいですけど」
香奈枝「それじゃ双子ちゃん、
プロのモデルより凄いじゃないか」
陽子「そうですねえ。
モデルさんの中には、たまにそんな人がいる、
って聞いたことありますけど。
まさか、実際にお目にかかれるとは思わなかった」
香奈枝「初めからそうだったの?」
陽子「いいええ。初めは大変だったですよ。
1,2分ももたなかったですから。
これは無理かなあ、と思ったんですけど」
香奈枝「そうだろうねえ」
陽子「で、とりあえずデッサン、というかクロッキーですね。
短時間の間に次々とポーズを変えてもらうんですけど、
その、クロッキーの最中に、
ふっとああいう状態になったんです。
例によって二人同時でした。
呼びかけても答えない、体に触れても反応しない。
今と同じ状態ですね」
香奈枝「びっくりしたろ」
陽子「あわてましたね。顔に水、掛けたりもしました。
結局、耳元で『はーいおしまい、お疲れ様でしたぁ』って、
怒鳴ると、気が付くことに気がついて……」
香奈枝「陽子、なんか日本語おかしいよ」
陽子「で、その後どうなったんですか」
香奈枝「へ? 何が?」
陽子「なにがって、あやめさんとのことじゃないですか」
香奈枝「ああ、そうだったね」
陽子「京都の料亭で修業したって、聞いてますけど」
香奈枝「実家が料理屋だからね。
そっから伝手をたどってね。
結構有名な店で、なかなか雇ってくれないらしいよ」
陽子「へえーえ。
香奈枝「そこで最下位の下働き、
『追い回し』っていうらしいけど、
そっから初めて6年位で板場に立つようにまでなった」
陽子「大学出た年って、22歳でしょ。浪人してたら23か。
どっちにしても、その年から料理人の修業って、
遅いんじゃないんですか、よく知らないけど」
香奈枝「あたしもよくは知らないけど、遅いだろうね。
でも、定年や引退のある職場じゃないから、
やはりやる気一つなんじゃないの。
大学に進学した時から、
そのあたりは覚悟の上だったろうしね」
陽子「ふーん。
じゃ、その間、全く会わなかったんですか、
せんせとあやめさん」
香奈枝「会わなかった。
電話も、手紙のやり取りすらなかった。
そもそもあやめの住所、あたしは知らなかったからね」
陽子「でも、あやめさんは知ってたんでしょ。せんせの居所」
香奈枝「結果的には知ってたってことになるなあ。
あたしはそのまま、
元のあやめのアパートに住み続けたからね」
陽子「あやめさんから連絡があるかもしれないって?」
香奈枝「まあ、そういうことだけど、
ほとんど期待はしてなかった。
あやめの料理への思いはよくわかっていたからね。
一人前になるまでは、決して後ろを振り向かないってね。
あたしに会いたいって思いもよくわかっていたから、
あたしの方から、探して会いに行くこともしなかった。
実家の住所は知ってたんだけどね」
陽子「ふうーん。
なんか、すごいですねえ、お二人」
香奈枝「あんたのフェルメールへの思いも、
似たようなもんだろ」
陽子「うーん、どうですかねえ」
香奈枝「人それぞれだけどね。
人はそれぞれ、自分の思いを抱えて生きてるんだろうね」
陽子「で、お二人が再会するのは、いつなんですか。
梅ヶ丘で……ですか?」
香奈枝「そうだよ。
あたしは大学出て、すぐ教師になって、
何校かあちこち赴任して、
梅ヶ丘は4つ、5つ目くらいかなあ」
陽子「で、行く先々で生徒に手を出して」
香奈枝「おい、何を言うのだ。
人聞きの悪い」
陽子「事実でしょ」
香奈枝「まあ、そうだが。
女に手を出すのは学生のころからだけどな」
陽子「はあー。
それって、あやめさんに会えない反動、なんですかね」
香奈枝「さああ、どうかのう。
今だってあやめとやるけど、あんたたちともやってるしね」
陽子「これはもう、病気だな」
香奈枝「これ陽子、何を言うのだ、何を」
陽子「まあ、いいです。
話が進まないじゃないですか。
で、あやめさんと再会したのは……」
香奈枝「おう、あたしが梅ヶ丘に来て2年目だったかなあ。
新年度の職員名簿を何気なく見てたら、
あやめの名前を見つけた。
ぶったまげたよ。
しかも教師じゃなく、研修所の管理人。
住所は、その研修所。
速攻、電話したよ。
向こうも待ってたみたいで、即、会おうってことになって、
管理人としてもう赴任してたから、こちらから出向いた。
この伊豆までね。
もう春休みに入ってたから、時間はたっぷりある。
春休みに研修所に来る人間はめったにおらんし、
さあ、何日泊まり込んだかなあ」
陽子「何発やったかなあ、でしょ」
香奈枝「陽子、お下品」
陽子「つまりは、あやめさんはせんせのことが忘れられなくて、
先生を探した、ということなんですか」
香奈枝「そのようだね。
まず大学に電話してあたしの最初の勤務先を聞きだし、
そこから芋づる式にたどって、梅ヶ丘にたどり着いた」
陽子「ふーん」
香奈枝「ところが、運悪く教師の空きが無い。
あやめも教職の資格は持ってたんだけどね。
研修所の管理人なら、ということになって、
料理は得意、ということもあって、
これは学校側としても好都合。
そらあ、教職持ってる料理人なんて、まずおらんもんね。
厨房を含め、研修所全体の面倒を見てくれ、
ということで採用されたらしい」
陽子「でもせんせ。
どうして普通の料理屋さんとかに勤めなかったんですかね。
せんせとより戻すんなら、
別に同じ職場でなくても、と思いますけど。
それに、言っちゃなんですけど、
研修所の食事なんて、
そんな贅沢な食材とかは使えないでしょ。
料亭で鍛えた腕が泣くと思いますけど」
香奈枝「あやめはね。
ただただ料理の腕を磨きたいだけで、
その腕を生かしていい料理屋に勤めたいとか、
自分の店を持ちたいとか、
そんなことは考えてないんだね」
陽子「はあーあ。
つくづくすごい人なんですねえ、あやめさんって」
香奈枝「なんだよ、興味湧いてきたかあ。
手ぇ出そうとか考えてない?」