あ、もうひとつ、脱衣所ではないという根拠を見つけました。
自販機は、補充が必要です。
業者が、定期的に補充に来てるんじゃないですか。
↑これ、何気に見てますけど、重労働だと思いますよ。腰に来るんじゃないかな。
それとも、宿坊の人が補充してるんですかね?
いずれにしろ、その作業をするのは男性だと思います。
女湯の脱衣所内に自販機があったら……。
補充できるのは、営業時間外に限られます。
大浴場は、朝の5時から夜の10時まで営業してます。
↑クリックすると、大きい画像が見られます。
この間以外ということになります。
でも、夜10時には消灯ですからね。
事実上、営業時間外の補充は考えられないでしょう。
ということは、自販機があるのは脱衣所の外です。
「内湯の入り口」というのは……。
男湯女湯の暖簾があったところでしょう。
でも、正面からの写真には、自販機らしきものは写ってません。
ということでわたしは、入り口のヒンプンみたいな壁の裏側と読んだわけです。
しかしこの、ビールを売ってるという情報だけを信じて、お酒を持っていかないのは……。
リスキーですね。
「み」さん。
取りあえず、4本の缶ビールをゲットし、部屋に戻って来ました。
み「あ!
鍵がにゃい。
先生が持ってるんだった。
不覚!
このまま、部屋の前で待ってるしかないのか。
刻一刻と、缶ビールが温くなってしまうではないか。
何をしておるのだ。
む。
温くなったからと云って、もはや返却することは叶わぬ。
となれば……。
ここで飲んでしまうしかないではないか!
ということで、1本、いただかせていただきます」
プッシュー!
み「これこれ。
この音よ。
本物のビールは、実に久しぶりじゃ。
ぐびぐびぐび。
おや?
なんということでしょう。
もう、1本空いてしまった。
やっぱり、風呂上がりは、一気にいってしまいますわな」
み「うーむ。
五臓六腑に染み渡る」
↑解説はいらん!
み「しかし、立ち飲みというのも野暮なものじゃ。
あ、そうだ。
休憩所があったではないか。
しばし、反転じゃ」
み「ここここ。
ここなら、アメニティグッズも脇に置いて……。
のんびり飲めるではないか。
ぐびぐび。
しかし、これでテレビがあったら最高なんですけどね。
いかにも無聊じゃ。
ひたすら飲むしかないわい。
ぐびぐび」
しばし省略。
律「ちょっと、あんた。
何でこんなところで飲んでるのよ」
み「やっと来たな。
先生が、部屋の鍵、持ってるでしょうに」
律「そんなら、引き返して取りに来ればいいのに」
み「ビールを買ってから気がついたんでやんす。
ただ待ってたら、ビールが温くなってしまうと思って……。
取りあえず、1本開けて、飲み申した。
しかし、立ち飲みってのもなぁ。
そう考えたら、ここに椅子があったことを思いだしたわけ」
律「それでビール、3本も飲んじゃったわけ?」
み「あり?」
律「あり?、じゃないわよ。
わたしの分が1本しかないじゃない。
いいわ。
それもあんたが飲みなさい。
自分のは買い直してくる。
はい、部屋の鍵。
なくさないでよ」
み「部屋は目と鼻の先でやんしょ。
なくしようがありませんがな」
律「それをなくしかねないのがあんたでしょ」
↑わかる気がします。
しばし省略。
部屋で、最後の1本を飲む「み」さん。
律子先生が、缶ビールを買い直して帰って来ました。
ここで、「み」さんが寝てしまい……。
オートロックで、律子先生が閉め出されるというネタも考えました。
でもたぶん、オートロックじゃない気がします。
恐山に泊まる人たちの客種をおもんぱかるに……。
↑恐山大祭。
オートロックにしたら、トラブルが頻発する気がするからです。
み「ビール、まだ残ってそうだった?」
律「わからないわよ。
あと何本あるかなんて」
み「やっぱり、温くなることを覚悟で……。
すべて買い占めて来ますか」
↑下の商品は、からし明太子のパスタソースのようです。これを買い占めるんですかね?
律「こういうところに泊まるのは……。
そういう卑しさを捨てるための修業です」
↑懐かしや「脳内メーカー」。
み「リスキー過ぎる。
飲み足りずに酒が切れた夜は……。
思い切り暴れそうじゃ」
↑群馬のご当地怪獣「ダルーマ」だそうです。
み「この気温じゃ、窓の外に出してても、温くなっちゃうしな。
やっぱ、外界から持ってくればよかったな」
律「ビールを?
どうやって持ってくるのよ。
温くなるのは一緒でしょ。
まさか、クーラーボックス引っ張ってくるわけにもいかないでしょ」
↑吉祥閣に泊まられる際には、ぜひ。
み「今度来るときは……。
保険として、焼酎を持って来るべきじゃ。
強いお酒は割って飲めるので、携帯に便利なり」
↑リュックのポケットに、すぽすぽ入ります。
律「氷はどうするのよ?」
み「確かに、水は洗面所で確保できるが……。
氷だけは無理じゃな。
水割りで氷なしじゃ、あまりにも無念」
↑そういう気分のとき、こういう解説をされたら……。殺しかねませんね。
律「だから、どうするのよ?」
み「簡単な話。
お湯割りにすればいいんです。
お湯なら、ポットでいくらでも湧かせる」
律「なくなったら終わりじゃないの?」
み「ぱかもん。
ちゃんと、電源コードが出ておったわ。
しかも、通電ランプが点いてた」
律「よく見てたわね」
み「抜かりなし!
あれは、明らかに電気ポットです。
つまり、水を足せば、お湯には不自由しないわけです。
お湯割りなら、お代わり自由じゃ。
そうそう。
梅干しも持ってこよう。
あれなら、大して嵩張らん。
腐らんし」
↑これこれ。
律「でも、電気製品はすぐダメになるんじゃなかったの?
なんで、電気ポットは大丈夫なのよ?」
み「確かに……。
電気ポットはオッケーで、テレビや冷蔵庫がダメな理由ってなんじゃろ?」
律「電子回路が壊れるとか?」
↑なんだか都市みたいですね。
み「それならむしろ、電気ポットはダメで、冷蔵庫はオッケーじゃないの。
冷蔵庫に、電子回路なんてないでしょ。
律「そう云えば、大浴場にはドライヤーもあったわ」
律「問題なく動いたわよ」
み「密かに、爆発することを願っておったのだが」
律「おあいにくさま。
日ごろの精進がいいですからね」
み「あ!
ピカーン」
律「何よそれ?」
み「閃いた音。
ひょっとして、熱くなるのはオッケーで……。
冷たくなるのがダメなんじゃないの?
なので、熱くなる電気ポットとドライヤーは備え付けてある。
逆に、冷たくなるエアコンと冷蔵庫は置いてない」
↑冷凍人間・岡崎(『怪奇大作戦』)。
律「テレビは熱くなるけど」
み「問題を複雑にすな!
そもそも、エアコンと冷蔵庫は、どうやって冷たくなるんじゃ?」
律「あ、それ知ってる。
こないだ、ナースステーションのエアコンが調子悪くなって……。
事務長が業者を呼んだのよ。
そしたら業者の人が、“れいばい”が漏れてるって」
み「“れいばい”ってなんじゃ?
まさか、あれじゃあるまいな」
律「何よ?」
み「イタコの類いですがな」
↑もちろん、この「潮来」ではありません。
律「やっぱりそう思う?
聞いてた看護師も、そう思った子が多かったみたい」
み「違うのか?」
律「違うに決まってるでしょ」
み「そしたら、何のこっちゃねん?」
律「冷気を媒介するガスのことよ。
冷媒」
み「エクトプラズムみたいなものか?」
↑鼻から脳が出てるとしか思えません。
律「わたしもちょっと気になったから……。
そのとき、スマホで調べてみたの。
そしたら、エアコンの中では……。
室内機と室外機の間を、冷媒と呼ばれるガスがぐるぐる回ってるんだって」
み「回ってどうする?」
律「冷媒の役割は、空気の中にある“熱”を運ぶことなの。
それ以上は、よくわからなかったけど……。
つまり、そのガスが熱を移動させることによって、冷たい空気が出るらしいわけ。
詳しい仕組みまでは、読む気にならなかったけど」
↑クリックすると、大きい画像が見られます。さっぱりわかりませんが。
み「まぁ、いいわい。
説明されても、わからんだろうから。
てことはひょっとして……。
冷蔵庫にも、その冷媒が住んでるんじゃないのか?」
律「そうかもね。
電気を使って冷やすというのは同じなんだから」
↓調べたら、実際、冷蔵庫にも「冷媒」が使われてました!
思いつきで書きましたが、大正解でしたね。
エアコンや冷蔵庫の冷媒には、昔は「フロン」が使われてたそうです。
でも、人工的に化学合成された物質であるフロンは……。
オゾン層を破壊することがわかってきました。
そのため今は、生産が全廃されてます。
現在は、フロンを使わない冷媒が使われてます。
↑このマークのある製品を買いましょ-。
み「わかった!」
↑石坂浩二主演の金田一耕助氏シリーズでの、加藤武(等々力警部)の名セリフ。
律「冷房の仕組みが?
大したものじゃない」
み「違いまんがな。
ここ恐山で……。
冷たくなる電気製品に限って、調子が悪くなるわけ」
律「ぜったい違ってると思う」
み「まだ、何も言ってないだろ!
いいか。
冷蔵庫やエアコンの中に封じられた冷媒の気体」
み「これと、恐山に満ち満ちる霊媒の気」
み「この2つが、早い話、障る訳よ。
お触りの“触る”じゃないぞ。
差し障るの“障る”じゃ」
律「馬鹿馬鹿しい。
じゃ、テレビはどうしてダメになるの?
携帯は?
冷たくならないでしょ。
むしろ、点けておけば熱くなるわよ」
↑いくらなんでも、こうはなりません。
み「それは……。
テレビや携帯の中には、最初から霊媒が入ってるからでやんす」
律「冷たくならないじゃないの」
み「その冷媒ではない。
文字どおり、霊界通訳の方の霊媒じゃ」
律「それが、テレビや携帯に入ってるって言うわけ?」
み「左様じゃ」
律「アホくさ」
み「良いか。
テレビは、中から貞子が出て来たりするでしょ」
み「異界とを繋いでるわけよ」
律「それは映画の話でしょ」
み「携帯も、テレビが映るから同じじゃ」
↑小さい貞子です。
み「すなわち、人の姿を映すものには……。
必ず霊が宿っておる。
その霊と、恐山の霊気が障るわけよ。
お分かり?」
律「わかるわけありません。
もうビールが空いちゃったわね。
それじゃ、じゃんけん」
み「さっきから、わたしばっかり行ってるじゃんか」
律「負けるんだから仕方ないわよ」
↑ジャンケンだけは弱い。
み「今度から、勝った人が行くことにしない?」
律「いいわよ」
み「それでは!
最初はグー。
あ、ちょっとタンマ。
この“最初はグー”って、誰が始めたか知ってる?」
律「知らないわよ。
でも、子供のころは、そんなことしてなかったと思うけど」
み「だしょー。
起源は、案外最近なんだよ。
さぁ、誰が発案したのでしょう?」
律「知るわけないでしょ」
み「はい、負け。
ビール買ってきて」
律「何でよ!」
み「ウンチク代ですがな。
飲み屋での話題に使えまっせ」
律「飲み屋なんか行ってる暇ないから、知らなくていい」
み「語らせろ」
律「勝手にしゃべりなさいよ。
タダで聞いてやるから」
み「ほんまにケチじゃな。
まぁ、いい。
発案者は、志村けんなのです」
律「またヨタを」
み「ほんまじゃ。
古き良き時代、ドリフ大爆笑のころと云う。
聞いとるけ?」
律「それは、サンマでしょ」
み「サンマは、しっとるけじゃ」
み「いいか。
番組の打ち上げで、飲み屋に行ったわけよ。
で、支払いの段。
当時は、割り勘のアプリもない」
み「芸能人が、財布取り出して金集めてるなんて、みっともない。
ということで、じゃんけんで負けたヤツが、全額支払うことになったのじゃ」
律「すごい金額なんじゃない?」
↑一番下の「税抜特別料理」の数量のところに、金額を入れてしまったんですね。合計して消費税8%(当時)を載せるとぴったり合います。
み「おそらくな。
酔いも醒めるほど真剣になったんじゃないかな。
ところが!
酔っ払ってる上に、気合いまで入ってる。
というわけで、じゃんけんのタイミングが、まったく合わなかったわけ。
そこで、志村けんが提案したのよ。
タイミングを合わせる方法を。
“最初はグー”で、拳を揃えて出す」
み「拳を引っこめると同時に、“じゃんけんぽん”。
これで、タイミングがぴったり合ったわけよ」
律「ほんとなの?」
み「ヨタではない。
はい、うんちく代」
律「だから、払わないって言ったでしょ」
み「ケチ」
み「それじゃ、志村けん方式でやるぞ。
勝った方が買いに行く。
いいな?」
律「お金も、勝った方が出すのね」
み「う。
急に真剣になってきた」
み「それじゃ、いくぞ」
律・み「最初はグー」
律・み「じゃんけんぽん」
み「……」
律「おめでとうございます。
やっと勝てたわね」
み「な、なぜじゃ……」
律「そういう星の下に生まれてきたということよ」
み「くそ。
まだ次がある」
律「早く買ってきて」
入り口の扉を出た「み」さんですが……。
すぐに戻って来ました。
律「ちょっと、もう買ってきたの?
そんなわけないわよね」
み「廊下が、真っ暗でやんす」
律「あら、いつの間にか、10時を過ぎてるわ。
消灯ってこと?」
み「残念なり」
律「何言ってんのよ。
自販機は動いてるでしょ。
あんなのまで、いちいち電源切るわけないわ」
み「真っ暗な中、わたしにあそこまで買いに行けと?」
律「道順は覚えたでしょう。
なんべんも行ったり来たりしたんだから。
壁を伝っていけばいいんだから、簡単よ」
↑この方は、トイレを目指してると思われます。
み「せめて、懐中電灯を……」
律「そんなものはありません。
あ、スマホのライトを使えばいいじゃない」
み「そんなの付いてないぞ」
律「みんな付いてるわよ。
貸してご覧なさい。
こうやって、スワイプして……」
律「ライトをタップすればいいの」
律「ほーら、点いた」
み「淋しい明かりでやんす」
律「大丈夫。
きっと一緒に行ってくれる人がいるわよ」
み「先生、優しい!」
律「わたしは行かないわよ」
み「ほかにいないではないか?」
律「いっぱいいるでしょ。
霊の方々」
み「また、そんなことを言う!」
律「悪いことしてなければ、怖がることなんかないでしょ」
み「そういうものじゃないだろ。
悪いことしてなくても、災いは降りかかるものじゃ」
↑これって、ジョークですよね?
律「そんなら、諦めもつくじゃない」
↑コロナの今、立ち止まって考えるべき言葉だと思います。
み「つきませんって!」
律「あ、あなた。
立派な悪いことしてるじゃない。
恨まれてるわよ。
なにしろ、殺しちゃったんだから」
み「誰を!
わたしが殺したのは、蚊とゴキブリくらいのものじゃ」
↑イラストにすると可愛いですが、本物はホンマに憎たらしい。
律「人間。
立派な殺人」
み「してませんって」
律「女教師さんよ。
車の事故で殺したでしょ」
み「小説だろ!
そんなこと言ったら、推理作家なんか、何人殺してるんだ!」
↑「D坂」は、千駄木にある団子坂だそうです。
み「しかも、きゃつらは、それで金もらってるんだぞ。
自慢じゃないがわたしは、1文ももらっとらん」
↑お恵みを乞う、人と犬と猫。
律「もらってる人は、たぶんそのお金で供養してるのよ」
み「そんなわけあるか!」
律「いいから、行って来なさいって。
同行2人」
↑『妖怪食品研究所』さんの「背後霊写真サービス」だそうです。
み「いやじゃー」
律「そんなにイヤ?」
み「泣くほどイヤでやんす」
律「仕方ないわね。
それじゃ、一緒に行ってあげるから」
み「かたじけない」
み「恩に着るでやんす」
律「ほら、先に出て。
ライトで前の方、照らしてちょうだい」
み「がってん」
ガチャ!
み「なんじゃ!
総身の血が引く音がしたぞ。
うおー。
なんてこったー。
扉が閉まっとる」
↑タオルがあって良かったですね。
み「ちょっと、先生!」
ドンドン!
ガチャガチャ!
み「お、おのれ。
鍵まで掛けおって。
何のつもりじゃ」
律「うるさいわね。
近所迷惑でしょ。
早く買ってきて。
買ってこない限り、扉、開けないから」
み「そ、そんな……。
忘れとった。
先生の酒癖。
飲むほどに、根性が曲がっていく……。
邪悪上戸」
み「いいですよ。
わかりましたよ。
買ってくればいいんでしょ。
自販機までの道のりは……。
この身に染みつき申した。
渡り鳥みたいなものじゃ」
み「飛べないけど」
「み」さん、足元をスマホで照らしながら階段を下り……。
ようやく、大浴場の入口前までたどり着きました。
み「着いたぞ。
はるばる来たぜ、函館」
↑名曲です。
み「じゃなくて、自販機。
この壁を回りこめば……。
酒が待っておる。
久々に、若山牧水の名歌を思いだしてしまった」
●足音を 忍ばせて行けば 台所に わが酒の壜は 立ちて待ちをる
み「痛いほど、その気持ち、わかり申す。
時空を越えた我が友と言いたい」
↑一緒には飲みたくありませんが。
み「うひゃひゃー。
びっくりしたー。
スマホのライトが消えてしもうた。
おのれ、バッテリー切れか。
しかも……。
驚きすぎて、財布を落としてしまいましたぞ。
大変じゃ。
せっかく風呂に入ったのに……。
こんなとこで四つん這いじゃ。
往年の“やすしきよし”漫才の鉄板ネタを思いだすわい」
↑メガネを探してます。
み「ないない。
どこに転げたのじゃ。
こういうとき、むやみに動くと、最初の場所を忘れてしまう。
よし。
まず、スリッパを脱いでと。
目印じゃ」
↑このスリッパだと、暗闇では見づらいでしょうね。
み「とにかく、この周りを探せばいいのだ。
しかし……。
淋しいもんですな。
独り言って」
↑この子は多分、頭が割れて痛いのでしょう。
み「ぅひゃー。
ぅひゃひゃひゃ」
↑びっくり仰天の様子。
み「せ、先生ですか?
今、わたしの背中を触ったの?
先生ですよね?
お願いですから、そう言ってください」
声「確かに、先生と呼ばれていた」
み「違うんですけど。
声が違うんですけど」
↑首を振っております。
声「ここ恐山で迷っていたら……。
ひとすじ、脳天気な女の気が漂うておった」
声「わたしには、この世に係累などないはずなのだが……。
その気だけは、あまたのほかの気とは違っておった」
み「恐山で迷うって……。
ここで道に迷ったんですよね」
み「まさか、あの世への……」
↑自転車の青年は、こちらへ戻ってきたんですかね?
み「否!
断じて、否!
そんなものおるわけがない。
あなた、ここの泊まり客ですか?
こんな声の人は記憶にないのですが」
声「よくしゃべる女だ」
み「怖いからに決まってるでしょ。
悪い冗談は、止めて下さい。
お坊さん、呼んできますよ。
叱られますからね」
み「か、関係のない善良な市民を脅かしたりして」
声「関係ないだと?
おまえは、この世で、たった一人……。
わたしと関係のある人間だ」
み「なんでですかー。
心当たりありませんけど」
み「えー、そうですとも。
これっぽっちも」
声「まだ、そんなことを言うか。
おまえは、わたしを殺したではないか」
み「そんなー。
わたしはそんな重罪は、犯しておりません。
いえ、決して清廉潔白とは申しません。
確かに、500円玉を拾って自分のものにしたことはあります」
み「でも、その程度です。
間違っても、人を殺したことなど……」
声「それでは、わたしの顔を見てみろ」
み「断ります」
み「断じて断ります。
結構毛だらけ……」
↑猫灰だらけ。
声「それなら、わたしが前に回ってやろう」
み「……」
声「目をつぶるな!」
み「見え申さん。
ええ、何も」
声「おまえは、目の前の困難から、常にそうして逃げてきた」
↑この困難からは逃げてもいい。
み「そ、それでここまで、無事に世を渡って来れたでやんす」
●あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり
↑赤道は、黄色い線でした。
声「斎藤茂吉がどうした?」
↑茂吉と、次男の北杜夫。北さん、美男です。
み「さすが、茂吉の歌をご存じで」
声「教師だと言っただろう。
突然、なんで茂吉が出てくるのだ」
み「ですから……。
首尾一貫した、わたしの生き様に通ずるかと」
↑これぞ、首尾一貫焼き?
声「首尾一貫して、目の前の困難から逃げてきたと?」
み「左様でやんす」
声「ぜんぜん歌の趣旨と違うではないか。
愚か者が」
声「目をつぶっても、意味がないのがわからんか」
み「わ、わかり申さん」
声「そもそもここは、何の明かりもない真っ暗闇だろうが。
目を開けても何も見えんわ」
み「開けません。
えー、開けませんとも。
見える気がするんでやんす」
声「そうだな。
それでは、おまえの頭の中に入って……。
視神経に、直接、わたしの姿を映してやろう。
ほーれ」
み「あんぎゃー」
ブクブク。
律「ちょっと、いきなり大声あげて、どうしたのよ。
呆れた。
泡まで噴いて。
マムシに噛まれた夢でも見たのかしら」
↑マジで面白いです。
律「起きなさい。
起きなさいって」
み「……。
ひえー。
せ、先生!
やっぱり、助けに来てくれたんだね。
助かったでやんす。
ところで、女教師は消えたんだよね?」
律「何言ってるの、あなた。
飲み過ぎじゃないの?」
み「あれしきのビール、何ともおへんがな」
↑考えましたね。でも、微妙に邪魔かも……。
律「焼酎も飲んだじゃないの。
半身揚げと焼き鳥で」
み「や、焼き鳥?
恐山で焼き鳥なんか食べれませんよ。
そんなことしたら、地獄行きです」
み「しかし……。
なんじゃ、この匂いは?」
み「明らかに焼き鳥ではないか!
しかも、明るい。
消灯したはずなのに」
律「さっきから、何、言ってるの?」
み「ここは……。
どこ?」
律「あんたが連れてきてくれたんでしょ。
鳥料理の『せきとり』」
み「ウソ……。
ですよね?
でも、ウソだとしたら……。
この大がかりなセットは何?
しかも、エキストラまで、こんなに一杯!」
↑前列中央が『せきとり』のご主人。両脇はアナウンサー。
み「しかも全員、本人にそっくり!」
律「まだ寝言言ってるの!
しっかりしてよ。
これから、東北の旅に出るんでしょ」
↑東北の旅には、“融通無碍な時間が流れてる”と言うときのお決まり画像(Mikiko作成)。
み「こ、これから?
これから……。
これからまた、あの長い旅を、もう一度始めようって言うの?
う、うそじゃー。
うそでござるぅぅぅぅぅ。
ブクブク」
律「また、沈没しちゃった。
ほら、起きなさいって。
もう、看板だってよ。
9時半で看板なんて、東京じゃあり得ないわ。
さ、次、行くわよ。
ぜんぜん、飲み足らないんだから」
(「完」もしくは「永遠につづく」)
あとがき
突然ですが……。
『紙上旅行倶楽部/東北に行こう!』、本日で終了とさせていただきます。
一時は、体力的に書けなくなるまで続けようと思ったんですけどね。
その前に、気力の方が、少々へたってしまいました。
この連載が始まったのは、奇しくも……。
2010年10月8日の『由美と美弥子 0556』のコメントでした。
当初『紙上旅行倶楽部』は、『由美と美弥子』のコメントとして連載してたんですよ。
ところが、FC2を追い出され、ライブドアに移転したところ……。
コメントに、画像を表示できなくなりました。
ということで、本編記事として独立したわけです。
しかし、奇しくも本日は、2020年10月9日。
きっちり、丸10年でした。
もっとも後半は、ずいぶんお休みがありましたけどね。
2014年からは、リアルの旅行記である『単独旅行記』が始まったからです。
『東北に行こう!』は、その合間を埋めるかたちの連載となってました。
この度の最終回を書くにあたり、冒頭のシーンと繋げるため……。
連載当初の文章を読み直しました(『東北に行こう!・総集編(1)』)。
しっかり調べて書いてたことに、少なからずショックを受けました。
筆力が落ちたとは思いたくありませんが……。
モチベーションが、今とは段違いだったことは認めないわけにはいきません。
やっぱり、いいやめどきだったんですよ。
しかし、なんであんなにしっかり書けてたんだろう。
と、やや消沈したのですが……。
わかりました!
↑に書いたように、当初は、『由美と美弥子』のコメントとして連載してたんですよ。
だから、ほかのコメントはまったく書かなくてよかったんです。
ところが今はどうでしょう。
『由美と美弥子』『東北に行こう!』の両方にコメントを付けてます。
書いてる量、ぜんぜん違いますよね。
ちょっと安心しました。
ところで、本日2020年10月9日は、もうひとつ、感慨深い日となったんです。
『東北に行こう!』の冒頭シーンは……。
新潟駅の万代口からタクシーに乗るところから始まります。
その万代口が、きのうをもって閉鎖されたんです。
新潟駅の高架化に伴う「万代広場整備事業」により……。
現駅舎が撤去されることになってたからです。
それにともない、現在の万代口は閉鎖され……。
仮設の改札口が設置されることになりました。
新駅舎が完成したら、万代口は、2階になるんですかね?
いずれにしろ、現在の万代口の閉鎖が、今日なんです。
きのうの帰りは、少し感慨を持って万代口を眺めて来ました。
で、仮設の万代口。
いったいどうなってるのか、今日これから、初めて見ることになります。
楽しみな反面……。
ものすごく不便になってたらどうしようというという不安もあります。
ま、行ってみなければわかりません。
しかし、この日が奇しくも『東北に行こう!』の最終日となったこと……。
ほんとうに不思議です。
まったく意図してなかったんですよ。
なにかの意思が働いてるようにさえ思えてしまいます。
さて、「完」と銘打ちましたが……。
同時に、「永遠に続く」とも書きました。
もう1度、冒頭のシーンに戻って読み直していただけたら……。
望外の喜びです(『東北に行こう!・総集編(1)』)。
わたしも、老後の楽しみとして読み返したいと思います。
また、もしも気が変わったら……。
恐山のシーンからの続きを書くかも知れません。
これはまだ、だいぶ先の話になりそうですが。
なお、『鳥専門店 せきとり』は……。
コロナも乗り越え、今も健在です。
こちらの「半身揚げ」がどう言うものかは、YouTubeでご覧になって下さい(「新潟 せきとり」で検索)。
ただ、本店を訪ねる場合は、要注意。
ほんとに不便な場所にあるんです。
お酒を飲んでしまったら、帰りはタクシーしかありません。
なお、上記リンクのホームページには、「お取り寄せ販売」のページも掲載されてます。
冷凍されており、レンジでチンするだけで食べられます。
わたしも、今度のクリスマスには、注文してみようかな。
ともあれ!
10年間。
ほんとに……。
ほんとうに、ありがとうございました。m(_ _)m
自販機は、補充が必要です。
業者が、定期的に補充に来てるんじゃないですか。
↑これ、何気に見てますけど、重労働だと思いますよ。腰に来るんじゃないかな。
それとも、宿坊の人が補充してるんですかね?
いずれにしろ、その作業をするのは男性だと思います。
女湯の脱衣所内に自販機があったら……。
補充できるのは、営業時間外に限られます。
大浴場は、朝の5時から夜の10時まで営業してます。
↑クリックすると、大きい画像が見られます。
この間以外ということになります。
でも、夜10時には消灯ですからね。
事実上、営業時間外の補充は考えられないでしょう。
ということは、自販機があるのは脱衣所の外です。
「内湯の入り口」というのは……。
男湯女湯の暖簾があったところでしょう。
でも、正面からの写真には、自販機らしきものは写ってません。
ということでわたしは、入り口のヒンプンみたいな壁の裏側と読んだわけです。
しかしこの、ビールを売ってるという情報だけを信じて、お酒を持っていかないのは……。
リスキーですね。
「み」さん。
取りあえず、4本の缶ビールをゲットし、部屋に戻って来ました。
み「あ!
鍵がにゃい。
先生が持ってるんだった。
不覚!
このまま、部屋の前で待ってるしかないのか。
刻一刻と、缶ビールが温くなってしまうではないか。
何をしておるのだ。
む。
温くなったからと云って、もはや返却することは叶わぬ。
となれば……。
ここで飲んでしまうしかないではないか!
ということで、1本、いただかせていただきます」
プッシュー!
み「これこれ。
この音よ。
本物のビールは、実に久しぶりじゃ。
ぐびぐびぐび。
おや?
なんということでしょう。
もう、1本空いてしまった。
やっぱり、風呂上がりは、一気にいってしまいますわな」
み「うーむ。
五臓六腑に染み渡る」
↑解説はいらん!
み「しかし、立ち飲みというのも野暮なものじゃ。
あ、そうだ。
休憩所があったではないか。
しばし、反転じゃ」
み「ここここ。
ここなら、アメニティグッズも脇に置いて……。
のんびり飲めるではないか。
ぐびぐび。
しかし、これでテレビがあったら最高なんですけどね。
いかにも無聊じゃ。
ひたすら飲むしかないわい。
ぐびぐび」
しばし省略。
律「ちょっと、あんた。
何でこんなところで飲んでるのよ」
み「やっと来たな。
先生が、部屋の鍵、持ってるでしょうに」
律「そんなら、引き返して取りに来ればいいのに」
み「ビールを買ってから気がついたんでやんす。
ただ待ってたら、ビールが温くなってしまうと思って……。
取りあえず、1本開けて、飲み申した。
しかし、立ち飲みってのもなぁ。
そう考えたら、ここに椅子があったことを思いだしたわけ」
律「それでビール、3本も飲んじゃったわけ?」
み「あり?」
律「あり?、じゃないわよ。
わたしの分が1本しかないじゃない。
いいわ。
それもあんたが飲みなさい。
自分のは買い直してくる。
はい、部屋の鍵。
なくさないでよ」
み「部屋は目と鼻の先でやんしょ。
なくしようがありませんがな」
律「それをなくしかねないのがあんたでしょ」
↑わかる気がします。
しばし省略。
部屋で、最後の1本を飲む「み」さん。
律子先生が、缶ビールを買い直して帰って来ました。
ここで、「み」さんが寝てしまい……。
オートロックで、律子先生が閉め出されるというネタも考えました。
でもたぶん、オートロックじゃない気がします。
恐山に泊まる人たちの客種をおもんぱかるに……。
↑恐山大祭。
オートロックにしたら、トラブルが頻発する気がするからです。
み「ビール、まだ残ってそうだった?」
律「わからないわよ。
あと何本あるかなんて」
み「やっぱり、温くなることを覚悟で……。
すべて買い占めて来ますか」
↑下の商品は、からし明太子のパスタソースのようです。これを買い占めるんですかね?
律「こういうところに泊まるのは……。
そういう卑しさを捨てるための修業です」
↑懐かしや「脳内メーカー」。
み「リスキー過ぎる。
飲み足りずに酒が切れた夜は……。
思い切り暴れそうじゃ」
↑群馬のご当地怪獣「ダルーマ」だそうです。
み「この気温じゃ、窓の外に出してても、温くなっちゃうしな。
やっぱ、外界から持ってくればよかったな」
律「ビールを?
どうやって持ってくるのよ。
温くなるのは一緒でしょ。
まさか、クーラーボックス引っ張ってくるわけにもいかないでしょ」
↑吉祥閣に泊まられる際には、ぜひ。
み「今度来るときは……。
保険として、焼酎を持って来るべきじゃ。
強いお酒は割って飲めるので、携帯に便利なり」
↑リュックのポケットに、すぽすぽ入ります。
律「氷はどうするのよ?」
み「確かに、水は洗面所で確保できるが……。
氷だけは無理じゃな。
水割りで氷なしじゃ、あまりにも無念」
↑そういう気分のとき、こういう解説をされたら……。殺しかねませんね。
律「だから、どうするのよ?」
み「簡単な話。
お湯割りにすればいいんです。
お湯なら、ポットでいくらでも湧かせる」
律「なくなったら終わりじゃないの?」
み「ぱかもん。
ちゃんと、電源コードが出ておったわ。
しかも、通電ランプが点いてた」
律「よく見てたわね」
み「抜かりなし!
あれは、明らかに電気ポットです。
つまり、水を足せば、お湯には不自由しないわけです。
お湯割りなら、お代わり自由じゃ。
そうそう。
梅干しも持ってこよう。
あれなら、大して嵩張らん。
腐らんし」
↑これこれ。
律「でも、電気製品はすぐダメになるんじゃなかったの?
なんで、電気ポットは大丈夫なのよ?」
み「確かに……。
電気ポットはオッケーで、テレビや冷蔵庫がダメな理由ってなんじゃろ?」
律「電子回路が壊れるとか?」
↑なんだか都市みたいですね。
み「それならむしろ、電気ポットはダメで、冷蔵庫はオッケーじゃないの。
冷蔵庫に、電子回路なんてないでしょ。
律「そう云えば、大浴場にはドライヤーもあったわ」
律「問題なく動いたわよ」
み「密かに、爆発することを願っておったのだが」
律「おあいにくさま。
日ごろの精進がいいですからね」
み「あ!
ピカーン」
律「何よそれ?」
み「閃いた音。
ひょっとして、熱くなるのはオッケーで……。
冷たくなるのがダメなんじゃないの?
なので、熱くなる電気ポットとドライヤーは備え付けてある。
逆に、冷たくなるエアコンと冷蔵庫は置いてない」
↑冷凍人間・岡崎(『怪奇大作戦』)。
律「テレビは熱くなるけど」
み「問題を複雑にすな!
そもそも、エアコンと冷蔵庫は、どうやって冷たくなるんじゃ?」
律「あ、それ知ってる。
こないだ、ナースステーションのエアコンが調子悪くなって……。
事務長が業者を呼んだのよ。
そしたら業者の人が、“れいばい”が漏れてるって」
み「“れいばい”ってなんじゃ?
まさか、あれじゃあるまいな」
律「何よ?」
み「イタコの類いですがな」
↑もちろん、この「潮来」ではありません。
律「やっぱりそう思う?
聞いてた看護師も、そう思った子が多かったみたい」
み「違うのか?」
律「違うに決まってるでしょ」
み「そしたら、何のこっちゃねん?」
律「冷気を媒介するガスのことよ。
冷媒」
み「エクトプラズムみたいなものか?」
↑鼻から脳が出てるとしか思えません。
律「わたしもちょっと気になったから……。
そのとき、スマホで調べてみたの。
そしたら、エアコンの中では……。
室内機と室外機の間を、冷媒と呼ばれるガスがぐるぐる回ってるんだって」
み「回ってどうする?」
律「冷媒の役割は、空気の中にある“熱”を運ぶことなの。
それ以上は、よくわからなかったけど……。
つまり、そのガスが熱を移動させることによって、冷たい空気が出るらしいわけ。
詳しい仕組みまでは、読む気にならなかったけど」
↑クリックすると、大きい画像が見られます。さっぱりわかりませんが。
み「まぁ、いいわい。
説明されても、わからんだろうから。
てことはひょっとして……。
冷蔵庫にも、その冷媒が住んでるんじゃないのか?」
律「そうかもね。
電気を使って冷やすというのは同じなんだから」
↓調べたら、実際、冷蔵庫にも「冷媒」が使われてました!
思いつきで書きましたが、大正解でしたね。
エアコンや冷蔵庫の冷媒には、昔は「フロン」が使われてたそうです。
でも、人工的に化学合成された物質であるフロンは……。
オゾン層を破壊することがわかってきました。
そのため今は、生産が全廃されてます。
現在は、フロンを使わない冷媒が使われてます。
↑このマークのある製品を買いましょ-。
み「わかった!」
↑石坂浩二主演の金田一耕助氏シリーズでの、加藤武(等々力警部)の名セリフ。
律「冷房の仕組みが?
大したものじゃない」
み「違いまんがな。
ここ恐山で……。
冷たくなる電気製品に限って、調子が悪くなるわけ」
律「ぜったい違ってると思う」
み「まだ、何も言ってないだろ!
いいか。
冷蔵庫やエアコンの中に封じられた冷媒の気体」
み「これと、恐山に満ち満ちる霊媒の気」
み「この2つが、早い話、障る訳よ。
お触りの“触る”じゃないぞ。
差し障るの“障る”じゃ」
律「馬鹿馬鹿しい。
じゃ、テレビはどうしてダメになるの?
携帯は?
冷たくならないでしょ。
むしろ、点けておけば熱くなるわよ」
↑いくらなんでも、こうはなりません。
み「それは……。
テレビや携帯の中には、最初から霊媒が入ってるからでやんす」
律「冷たくならないじゃないの」
み「その冷媒ではない。
文字どおり、霊界通訳の方の霊媒じゃ」
律「それが、テレビや携帯に入ってるって言うわけ?」
み「左様じゃ」
律「アホくさ」
み「良いか。
テレビは、中から貞子が出て来たりするでしょ」
み「異界とを繋いでるわけよ」
律「それは映画の話でしょ」
み「携帯も、テレビが映るから同じじゃ」
↑小さい貞子です。
み「すなわち、人の姿を映すものには……。
必ず霊が宿っておる。
その霊と、恐山の霊気が障るわけよ。
お分かり?」
律「わかるわけありません。
もうビールが空いちゃったわね。
それじゃ、じゃんけん」
み「さっきから、わたしばっかり行ってるじゃんか」
律「負けるんだから仕方ないわよ」
↑ジャンケンだけは弱い。
み「今度から、勝った人が行くことにしない?」
律「いいわよ」
み「それでは!
最初はグー。
あ、ちょっとタンマ。
この“最初はグー”って、誰が始めたか知ってる?」
律「知らないわよ。
でも、子供のころは、そんなことしてなかったと思うけど」
み「だしょー。
起源は、案外最近なんだよ。
さぁ、誰が発案したのでしょう?」
律「知るわけないでしょ」
み「はい、負け。
ビール買ってきて」
律「何でよ!」
み「ウンチク代ですがな。
飲み屋での話題に使えまっせ」
律「飲み屋なんか行ってる暇ないから、知らなくていい」
み「語らせろ」
律「勝手にしゃべりなさいよ。
タダで聞いてやるから」
み「ほんまにケチじゃな。
まぁ、いい。
発案者は、志村けんなのです」
律「またヨタを」
み「ほんまじゃ。
古き良き時代、ドリフ大爆笑のころと云う。
聞いとるけ?」
律「それは、サンマでしょ」
み「サンマは、しっとるけじゃ」
み「いいか。
番組の打ち上げで、飲み屋に行ったわけよ。
で、支払いの段。
当時は、割り勘のアプリもない」
み「芸能人が、財布取り出して金集めてるなんて、みっともない。
ということで、じゃんけんで負けたヤツが、全額支払うことになったのじゃ」
律「すごい金額なんじゃない?」
↑一番下の「税抜特別料理」の数量のところに、金額を入れてしまったんですね。合計して消費税8%(当時)を載せるとぴったり合います。
み「おそらくな。
酔いも醒めるほど真剣になったんじゃないかな。
ところが!
酔っ払ってる上に、気合いまで入ってる。
というわけで、じゃんけんのタイミングが、まったく合わなかったわけ。
そこで、志村けんが提案したのよ。
タイミングを合わせる方法を。
“最初はグー”で、拳を揃えて出す」
み「拳を引っこめると同時に、“じゃんけんぽん”。
これで、タイミングがぴったり合ったわけよ」
律「ほんとなの?」
み「ヨタではない。
はい、うんちく代」
律「だから、払わないって言ったでしょ」
み「ケチ」
み「それじゃ、志村けん方式でやるぞ。
勝った方が買いに行く。
いいな?」
律「お金も、勝った方が出すのね」
み「う。
急に真剣になってきた」
み「それじゃ、いくぞ」
律・み「最初はグー」
律・み「じゃんけんぽん」
み「……」
律「おめでとうございます。
やっと勝てたわね」
み「な、なぜじゃ……」
律「そういう星の下に生まれてきたということよ」
み「くそ。
まだ次がある」
律「早く買ってきて」
入り口の扉を出た「み」さんですが……。
すぐに戻って来ました。
律「ちょっと、もう買ってきたの?
そんなわけないわよね」
み「廊下が、真っ暗でやんす」
律「あら、いつの間にか、10時を過ぎてるわ。
消灯ってこと?」
み「残念なり」
律「何言ってんのよ。
自販機は動いてるでしょ。
あんなのまで、いちいち電源切るわけないわ」
み「真っ暗な中、わたしにあそこまで買いに行けと?」
律「道順は覚えたでしょう。
なんべんも行ったり来たりしたんだから。
壁を伝っていけばいいんだから、簡単よ」
↑この方は、トイレを目指してると思われます。
み「せめて、懐中電灯を……」
律「そんなものはありません。
あ、スマホのライトを使えばいいじゃない」
み「そんなの付いてないぞ」
律「みんな付いてるわよ。
貸してご覧なさい。
こうやって、スワイプして……」
律「ライトをタップすればいいの」
律「ほーら、点いた」
み「淋しい明かりでやんす」
律「大丈夫。
きっと一緒に行ってくれる人がいるわよ」
み「先生、優しい!」
律「わたしは行かないわよ」
み「ほかにいないではないか?」
律「いっぱいいるでしょ。
霊の方々」
み「また、そんなことを言う!」
律「悪いことしてなければ、怖がることなんかないでしょ」
み「そういうものじゃないだろ。
悪いことしてなくても、災いは降りかかるものじゃ」
↑これって、ジョークですよね?
律「そんなら、諦めもつくじゃない」
↑コロナの今、立ち止まって考えるべき言葉だと思います。
み「つきませんって!」
律「あ、あなた。
立派な悪いことしてるじゃない。
恨まれてるわよ。
なにしろ、殺しちゃったんだから」
み「誰を!
わたしが殺したのは、蚊とゴキブリくらいのものじゃ」
↑イラストにすると可愛いですが、本物はホンマに憎たらしい。
律「人間。
立派な殺人」
み「してませんって」
律「女教師さんよ。
車の事故で殺したでしょ」
み「小説だろ!
そんなこと言ったら、推理作家なんか、何人殺してるんだ!」
↑「D坂」は、千駄木にある団子坂だそうです。
み「しかも、きゃつらは、それで金もらってるんだぞ。
自慢じゃないがわたしは、1文ももらっとらん」
↑お恵みを乞う、人と犬と猫。
律「もらってる人は、たぶんそのお金で供養してるのよ」
み「そんなわけあるか!」
律「いいから、行って来なさいって。
同行2人」
↑『妖怪食品研究所』さんの「背後霊写真サービス」だそうです。
み「いやじゃー」
律「そんなにイヤ?」
み「泣くほどイヤでやんす」
律「仕方ないわね。
それじゃ、一緒に行ってあげるから」
み「かたじけない」
み「恩に着るでやんす」
律「ほら、先に出て。
ライトで前の方、照らしてちょうだい」
み「がってん」
ガチャ!
み「なんじゃ!
総身の血が引く音がしたぞ。
うおー。
なんてこったー。
扉が閉まっとる」
↑タオルがあって良かったですね。
み「ちょっと、先生!」
ドンドン!
ガチャガチャ!
み「お、おのれ。
鍵まで掛けおって。
何のつもりじゃ」
律「うるさいわね。
近所迷惑でしょ。
早く買ってきて。
買ってこない限り、扉、開けないから」
み「そ、そんな……。
忘れとった。
先生の酒癖。
飲むほどに、根性が曲がっていく……。
邪悪上戸」
み「いいですよ。
わかりましたよ。
買ってくればいいんでしょ。
自販機までの道のりは……。
この身に染みつき申した。
渡り鳥みたいなものじゃ」
み「飛べないけど」
「み」さん、足元をスマホで照らしながら階段を下り……。
ようやく、大浴場の入口前までたどり着きました。
み「着いたぞ。
はるばる来たぜ、函館」
↑名曲です。
み「じゃなくて、自販機。
この壁を回りこめば……。
酒が待っておる。
久々に、若山牧水の名歌を思いだしてしまった」
●足音を 忍ばせて行けば 台所に わが酒の壜は 立ちて待ちをる
み「痛いほど、その気持ち、わかり申す。
時空を越えた我が友と言いたい」
↑一緒には飲みたくありませんが。
み「うひゃひゃー。
びっくりしたー。
スマホのライトが消えてしもうた。
おのれ、バッテリー切れか。
しかも……。
驚きすぎて、財布を落としてしまいましたぞ。
大変じゃ。
せっかく風呂に入ったのに……。
こんなとこで四つん這いじゃ。
往年の“やすしきよし”漫才の鉄板ネタを思いだすわい」
↑メガネを探してます。
み「ないない。
どこに転げたのじゃ。
こういうとき、むやみに動くと、最初の場所を忘れてしまう。
よし。
まず、スリッパを脱いでと。
目印じゃ」
↑このスリッパだと、暗闇では見づらいでしょうね。
み「とにかく、この周りを探せばいいのだ。
しかし……。
淋しいもんですな。
独り言って」
↑この子は多分、頭が割れて痛いのでしょう。
み「ぅひゃー。
ぅひゃひゃひゃ」
↑びっくり仰天の様子。
み「せ、先生ですか?
今、わたしの背中を触ったの?
先生ですよね?
お願いですから、そう言ってください」
声「確かに、先生と呼ばれていた」
み「違うんですけど。
声が違うんですけど」
↑首を振っております。
声「ここ恐山で迷っていたら……。
ひとすじ、脳天気な女の気が漂うておった」
声「わたしには、この世に係累などないはずなのだが……。
その気だけは、あまたのほかの気とは違っておった」
み「恐山で迷うって……。
ここで道に迷ったんですよね」
み「まさか、あの世への……」
↑自転車の青年は、こちらへ戻ってきたんですかね?
み「否!
断じて、否!
そんなものおるわけがない。
あなた、ここの泊まり客ですか?
こんな声の人は記憶にないのですが」
声「よくしゃべる女だ」
み「怖いからに決まってるでしょ。
悪い冗談は、止めて下さい。
お坊さん、呼んできますよ。
叱られますからね」
み「か、関係のない善良な市民を脅かしたりして」
声「関係ないだと?
おまえは、この世で、たった一人……。
わたしと関係のある人間だ」
み「なんでですかー。
心当たりありませんけど」
み「えー、そうですとも。
これっぽっちも」
声「まだ、そんなことを言うか。
おまえは、わたしを殺したではないか」
み「そんなー。
わたしはそんな重罪は、犯しておりません。
いえ、決して清廉潔白とは申しません。
確かに、500円玉を拾って自分のものにしたことはあります」
み「でも、その程度です。
間違っても、人を殺したことなど……」
声「それでは、わたしの顔を見てみろ」
み「断ります」
み「断じて断ります。
結構毛だらけ……」
↑猫灰だらけ。
声「それなら、わたしが前に回ってやろう」
み「……」
声「目をつぶるな!」
み「見え申さん。
ええ、何も」
声「おまえは、目の前の困難から、常にそうして逃げてきた」
↑この困難からは逃げてもいい。
み「そ、それでここまで、無事に世を渡って来れたでやんす」
●あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり
↑赤道は、黄色い線でした。
声「斎藤茂吉がどうした?」
↑茂吉と、次男の北杜夫。北さん、美男です。
み「さすが、茂吉の歌をご存じで」
声「教師だと言っただろう。
突然、なんで茂吉が出てくるのだ」
み「ですから……。
首尾一貫した、わたしの生き様に通ずるかと」
↑これぞ、首尾一貫焼き?
声「首尾一貫して、目の前の困難から逃げてきたと?」
み「左様でやんす」
声「ぜんぜん歌の趣旨と違うではないか。
愚か者が」
声「目をつぶっても、意味がないのがわからんか」
み「わ、わかり申さん」
声「そもそもここは、何の明かりもない真っ暗闇だろうが。
目を開けても何も見えんわ」
み「開けません。
えー、開けませんとも。
見える気がするんでやんす」
声「そうだな。
それでは、おまえの頭の中に入って……。
視神経に、直接、わたしの姿を映してやろう。
ほーれ」
み「あんぎゃー」
ブクブク。
律「ちょっと、いきなり大声あげて、どうしたのよ。
呆れた。
泡まで噴いて。
マムシに噛まれた夢でも見たのかしら」
↑マジで面白いです。
律「起きなさい。
起きなさいって」
み「……。
ひえー。
せ、先生!
やっぱり、助けに来てくれたんだね。
助かったでやんす。
ところで、女教師は消えたんだよね?」
律「何言ってるの、あなた。
飲み過ぎじゃないの?」
み「あれしきのビール、何ともおへんがな」
↑考えましたね。でも、微妙に邪魔かも……。
律「焼酎も飲んだじゃないの。
半身揚げと焼き鳥で」
み「や、焼き鳥?
恐山で焼き鳥なんか食べれませんよ。
そんなことしたら、地獄行きです」
み「しかし……。
なんじゃ、この匂いは?」
み「明らかに焼き鳥ではないか!
しかも、明るい。
消灯したはずなのに」
律「さっきから、何、言ってるの?」
み「ここは……。
どこ?」
律「あんたが連れてきてくれたんでしょ。
鳥料理の『せきとり』」
み「ウソ……。
ですよね?
でも、ウソだとしたら……。
この大がかりなセットは何?
しかも、エキストラまで、こんなに一杯!」
↑前列中央が『せきとり』のご主人。両脇はアナウンサー。
み「しかも全員、本人にそっくり!」
律「まだ寝言言ってるの!
しっかりしてよ。
これから、東北の旅に出るんでしょ」
↑東北の旅には、“融通無碍な時間が流れてる”と言うときのお決まり画像(Mikiko作成)。
み「こ、これから?
これから……。
これからまた、あの長い旅を、もう一度始めようって言うの?
う、うそじゃー。
うそでござるぅぅぅぅぅ。
ブクブク」
律「また、沈没しちゃった。
ほら、起きなさいって。
もう、看板だってよ。
9時半で看板なんて、東京じゃあり得ないわ。
さ、次、行くわよ。
ぜんぜん、飲み足らないんだから」
突然ですが……。
『紙上旅行倶楽部/東北に行こう!』、本日で終了とさせていただきます。
一時は、体力的に書けなくなるまで続けようと思ったんですけどね。
その前に、気力の方が、少々へたってしまいました。
この連載が始まったのは、奇しくも……。
2010年10月8日の『由美と美弥子 0556』のコメントでした。
当初『紙上旅行倶楽部』は、『由美と美弥子』のコメントとして連載してたんですよ。
ところが、FC2を追い出され、ライブドアに移転したところ……。
コメントに、画像を表示できなくなりました。
ということで、本編記事として独立したわけです。
しかし、奇しくも本日は、2020年10月9日。
きっちり、丸10年でした。
もっとも後半は、ずいぶんお休みがありましたけどね。
2014年からは、リアルの旅行記である『単独旅行記』が始まったからです。
『東北に行こう!』は、その合間を埋めるかたちの連載となってました。
この度の最終回を書くにあたり、冒頭のシーンと繋げるため……。
連載当初の文章を読み直しました(『東北に行こう!・総集編(1)』)。
しっかり調べて書いてたことに、少なからずショックを受けました。
筆力が落ちたとは思いたくありませんが……。
モチベーションが、今とは段違いだったことは認めないわけにはいきません。
やっぱり、いいやめどきだったんですよ。
しかし、なんであんなにしっかり書けてたんだろう。
と、やや消沈したのですが……。
わかりました!
↑に書いたように、当初は、『由美と美弥子』のコメントとして連載してたんですよ。
だから、ほかのコメントはまったく書かなくてよかったんです。
ところが今はどうでしょう。
『由美と美弥子』『東北に行こう!』の両方にコメントを付けてます。
書いてる量、ぜんぜん違いますよね。
ちょっと安心しました。
ところで、本日2020年10月9日は、もうひとつ、感慨深い日となったんです。
『東北に行こう!』の冒頭シーンは……。
新潟駅の万代口からタクシーに乗るところから始まります。
その万代口が、きのうをもって閉鎖されたんです。
新潟駅の高架化に伴う「万代広場整備事業」により……。
現駅舎が撤去されることになってたからです。
それにともない、現在の万代口は閉鎖され……。
仮設の改札口が設置されることになりました。
新駅舎が完成したら、万代口は、2階になるんですかね?
いずれにしろ、現在の万代口の閉鎖が、今日なんです。
きのうの帰りは、少し感慨を持って万代口を眺めて来ました。
で、仮設の万代口。
いったいどうなってるのか、今日これから、初めて見ることになります。
楽しみな反面……。
ものすごく不便になってたらどうしようというという不安もあります。
ま、行ってみなければわかりません。
しかし、この日が奇しくも『東北に行こう!』の最終日となったこと……。
ほんとうに不思議です。
まったく意図してなかったんですよ。
なにかの意思が働いてるようにさえ思えてしまいます。
さて、「完」と銘打ちましたが……。
同時に、「永遠に続く」とも書きました。
もう1度、冒頭のシーンに戻って読み直していただけたら……。
望外の喜びです(『東北に行こう!・総集編(1)』)。
わたしも、老後の楽しみとして読み返したいと思います。
また、もしも気が変わったら……。
恐山のシーンからの続きを書くかも知れません。
これはまだ、だいぶ先の話になりそうですが。
なお、『鳥専門店 せきとり』は……。
コロナも乗り越え、今も健在です。
こちらの「半身揚げ」がどう言うものかは、YouTubeでご覧になって下さい(「新潟 せきとり」で検索)。
ただ、本店を訪ねる場合は、要注意。
ほんとに不便な場所にあるんです。
お酒を飲んでしまったら、帰りはタクシーしかありません。
なお、上記リンクのホームページには、「お取り寄せ販売」のページも掲載されてます。
冷凍されており、レンジでチンするだけで食べられます。
わたしも、今度のクリスマスには、注文してみようかな。
ともあれ!
10年間。
ほんとに……。
ほんとうに、ありがとうございました。m(_ _)m
律「仕方ないでしょ。
娯楽が目的じゃないんだから。
み「ピンクコンパニオンとか、呼べんのか」
律「聞いてみたら、フロントに」
↑聞ける雰囲気ではありません。
み「嫌がらせで、イタコを派遣されたら困る」
↑海洋堂のイタコフィギュア。持ってます。
み「しかし、テレビもないってのは、現代の宿じゃおませんがな」
律「WI-FIも届かないでしょうから、見る手段はなさそうね」
み「やっぱり、団体で泊まる人たちは……。
花札とか持って来てるんでしょうな」
み「翌日、裸で帰る人がいたりして」
律「いるわけないでしょ。
そうだ、裸と云えば、お風呂がまだだったわね。
いただきましょうよ。
せっかくなんだから」
み「んだすな。
それも、12,000円のうちだで。
浴衣、浴衣」
み「サイズとか、あるのかな?」
律「子供用じゃなきゃ、みんな一緒でしょ」
み「デカかったら、松の廊下になるではないか」
律「折って、帯で締めればいいんじゃないの」
み「ちょっと長めかも」
律「お端折りしなさいよ」
み「脱いでまた着るのに、そんな面倒なこと出来ませんがな。
こうやって端折ればいいんでないの」
律「岡っ引きか」
み「浴衣で思い出したけど……。
ユカタン半島ってあったよね」
律「何それ?」
み「どこかにある半島でんがな」
↑ここにありました。中米だとは思わななんだ。
み「あと、スケベニンゲン。
どっかの都市」
↑オランダでした。ほかの地名もすべて実在のようです。
み「わたしが学校の地理で覚えた地名は……。
この2つだけです」
律「胸を張って言うな」
み「あ、財布は忘れられませんぞ。
帰りに、ビールを買わねばならぬ。
どうやって持っていくかな。
やっぱり、このアメニティ袋か」
律「ポーチとか、持ってきてないの?」
み「ポチ?」
↑ポチではありませんが、面白かったので。飼い主の入れ歯を咥えてしまったようです。
み「なんで犬を連れてこにゃならんのだ」
律「わざとボケてるわね」
み「ま、旅行にありがちなハイテンションですな」
律「わたしのポーチに入れていく?」
み「先生の財布も、そこに入れたの?」
律「そうよ」
み「危険」
律「何が?」
み「そのポーチが盗まれたら……。
われらは、無一文ではないか」
↑こんなに可愛ければ、何とかなります。
律「急に用心深くなったわね」
み「キャッシュカードとかクレジットカードは置いてった方がいい。
お金も、小銭と千円札以外は置いていく。
しかし……。
この部屋、金庫がないではないか」
↑たいがい、床の間付近にありますよね。
律「そういえばそうね」
み「だだっ広いばかりで、隠し場所がない」
律「洋服入れの中は?」
み「却下。
ありきたりじゃ。
泥棒が真っ先に開けるわい」
律「座布団に挟むとか」
み「よその部屋で宴会が入ったとかで……。
座布団だけ運び出される可能性がある」
律「ここに宴会が入るわけないでしょ!
あ、いっそ、ゴミ箱の中は?」
↑ゴミ箱は置いてないっぽいですね。
み「ぱきゃもーん!
忘れたまま帰ったら、捨てられてしまうではないか」
律「忘れる方がバカでしょ」
み「いっそ、トイレのタンクに沈めるか」
↑ここにゴミ箱があった! 入れる気にはなりませんが。
律「あんたのだけにしてよ」
み「靴の中はどうだ?」
律「財布が臭くなるでしょ!」
み「足臭さですか?」
↑飼い主の足を嗅いだ猫の反応。
律「そもそも財布なんて入らないわよ。
長靴じゃないんだから」
み「どうやら、安心して隠せる場所は見あたらんな。
畳剥ぐ?」
律「お断り」
み「忍者なら、畳返しという技で一発なのだが」
↑立ち位置が間違ってるのでは?
律「畳の下に隠したら、畳が膨らんで、一発でバレるでしょ」
み「愚か者。
床板も剥ぐんじゃないですか」
↑甕が埋まってたら嬉しい。
律「付き合ってられない。
あ、ここでいいでしょ。
お茶セットの中」
み「ありきたりじゃ。
ポットの中にするか」
律「財布を煮る気?」
み「そんなら、どこにすんだよ!」
律「鍵を掛けて出るんだから、この部屋自体が金庫みたいなものでしょ」
み「マスターキーで入れると思います」
律「そこまで疑う気?」
み「ま、仕方おへんか。
妥協のしどころですかね」
律「早く行くわよ」
↑2階にあります。
み「ここは、何するところ?」
律「お話ししたりするんじゃないの」
み「なんで、部屋でしないわけ?」
律「お部屋は、男女別でしょ。
団体さんとかでは」
み「しかし、見事に何もおへんな。
灰皿もない」
律「いいじゃないの、すっきりしてて」
み「おー、こっちじゃな」
律「ちょっと、そっちは男湯でしょ」
み「ありゃりゃ、うっかりしましたな」
律「あんなにデカデカと書いた暖簾が出てるじゃないの」
み「お約束のギャグですよ」
律「せんでいい」
み「お。
自販機発見。
ヤツの云うことは、デマではなかったな。
よしよし、売り切れのランプは点いてないな。
しかし、返す返すも、部屋に冷蔵庫がないのが難点じゃ。
それさえあれば、先に買い占められるものを。
落ち着いて、風呂にも入れんではないか」
律「食堂で、誰も飲まないって確認したじゃないの」
み「気が変わるやも知れん。
剣呑剣呑。
早いこと入らねば。
行きますぞ」
自販機のある場所ですが、ネットでは確認出来ませんでした。
お風呂にはカメラを持参しないため、誰も撮らなかったのかも知れません。
わたしが思うに、男湯と女湯の間にある衝立(?)の裏側じゃないですかね。
↑この裏が怪しい。
あるいは、この写真を撮った方の後ろ側かも知れません。
み「お、何やら注意書きが」
み「『スリッパは下足棚へお入れ下さい』。
なるほど、床に脱ぎ散らかしちゃダメですよってことか」
↑これはマシな方。
み「温泉旅館でありがちですね。
自分が履いて来たスリッパを、誰かが履いて帰っちゃうってこと。
裸足で帰るわけにいかないから……。
こっちも、人のを履いて帰る。
そいつが水虫だったらどうしてくれる」
↑やっぱり、スリッパでも感染しますよね。
律「確かに、あれは不衛生よね。
そういうことが無いように、下足棚に入れるんじゃないの」
み「一番取りにくい、遠いところに入れるべきじゃな。
左の方。
これは、ちょっと面白いことが書いてありますぞ。
午後7時30分ころ、“従業員が出入りする”とある。
今、何時ころ?」
律「部屋を出たのが、7時ころだったんじゃないの?」
み「てことは……。
来ますな。
従業員」
律「それがどうしたのよ?」
み「宿坊に、女の従業員がいると思います?」
律「じゃ、男の従業員が、女湯に入ってくるってこと?」
み「そうとしか思えませんがな。
ぜひ、確認せねば。
次」
↑「当温泉はイオウ泉ですので入浴時間は三分~十分程度とし、長湯しないようご注意下さい」
み「入浴時間は、3分から10分にせいとな」
律「そんなに短いの?」
み「先生は普段、どのくらい浸かってるわけ?」
律「20分くらいじゃないの」
↑こういうことしてる人、ほんとにいるんですかね?
み「ふやけまっせ。
わたしはたぶん、30秒くらいだね」
↑短いですが、何度でも浴びます。
律「何のために浸かるかわからないじゃないの」
み「しゃぶしゃぶより早いぞ」
↑たぶん、食べたことないです。
律「どういう自慢よ」
み「さらに、窓を開けて、換気を良くして入れとな。
覗き放題ではないか」
律「こんなところで、覗きをする輩なんていないわよ」
み「覗くのは……。
この世のものではないかも知れん」
み「魂魄この世に留まりてというやつじゃ。
おなごの裸が恋しゅうて、死んでも死にきれましぇん」
↑かの有名な出歯亀氏。
律「哀れな亡霊ね。
見せてやんなさい」
み「金、取るかな」
律「取れる裸か」
み「失礼千万な」
律「ほら、行くわよ。
あんたと一緒だと、事が進まないわ」
律「綺麗な脱衣所じゃない。
洗面台には、ドライヤーもあるし」
↑ドライヤーは、硫黄で壊れないんですかね?(壊れてたら恐ろしいことに……)
律「普通の旅館と変わりないわ」
み「大ありでんがな。
見んさいな、この脱衣カゴを」
律「どこがヘンなの?」
み「昭和の銭湯か。
鍵も何も付いておらん。
板の間稼ぎの天国じゃおませんか」
律「ここでそんなことする人いないわよ。
銭湯と違って、お金持って来る人なんていないんだから」
み「持って来てまんがな、わたいら」
律「小銭と千円札が何枚かじゃない」
み「小銭をバカにするものは、小銭に泣く!」
律「別にバカにはしてないわよ。
でも確かに、銭湯なんかじゃ、これだと物騒かもね」
み「だしょ」
律「だけど、それが大問題にならなかったのは、日本人の国民性じゃない」
み「ちゃいまんがな」
律「何が?」
み「銭湯には、番台というものがあったでしょ」
↑「み」(台東区上野『下町風俗資料館』)。2年前の『単独旅行記Ⅴ』で、わたしが撮った写真です。
み「入口の男湯と女湯の間の高いところ。
男性の憧れの職業第1位。
あれは決して、客の裸を見るための設備ではありません」
律「当たり前だわ」
み「つまり、あの高いところから……。
妙な動きをする客がいないか、見張ってたんです。
間違いでもあったら、すぐに評判が広がるからね。
女湯の伝播力はそうとうなものだったはず。
客が来なくなるよ。
昔は近所に銭湯なんか、ひとつだけじゃなかったんだから。
つまり、番台の使命は重要だったわけ。
裸に気を取られてるようでは、店が立ち行かないんです。
その使命に専心するため……。
番台に上がる主人は、去勢手術を受けてたと云う」
↑トルコの去勢(1466年)。これは、竿を切り落としてるんですかね? 怖すぎ。
律「うそおっしゃい。
猫じゃあるまいし」
み「最後のは、ちょっとだけ盛りましたが……。
つまり、そういうこと。
番台から、ランランと目を光らせてたわけ」
み「だから、板の間稼ぎなんか出来なかったのよ」
律「ま、それはある程度、わかるけど」
み「ところが!
やはり、女湯の脱衣所を堂々と見渡せる位置に男が座るというのに……。
はなはだ抵抗を感じるようになってきたわけだな。
日本人も」
律「当然でしょうね」
み「時代は変わりました。
なにしろ、昔の銭湯は、混浴だったからね」
↑ペリーの来日中に描かれたスケッチ。
み「男の三助が、女湯で客の背中を流してたし」
み「来日した外国人は、びっくら仰天こいたわけよ。
こいつらは、猿かーって」
↑こういう顔のおじいさん、いますよね。
律「そのころはまだ、温泉に入る猿はいなかったんじゃないの?」
み「ま、そうでしょうが。
話を進めていいか」
律「打ち切ってよし」
み「ご無体な。
で、時は流れ、世相は代わり……。
番台から主人に裸を見られることを嫌がるご婦人が増えた」
律「当たり前だわ」
み「ということで、番台は徐々に廃止され……。
代わりに、脱衣所の外に、カウンターを設けるようになった」
み「そこで、料金を受け取るシステムになったわけ。
すると!
脱衣所を見張るものがいなくなってしまったわけよ。
このままじゃ、板の間稼ぎの天国になってしまう。
ということで……。
脱衣カゴじゃなくて、鍵付きのロッカーになったということ」
律「結局、何が言いたいわけ?」
み「つまりじゃ。
脱衣カゴなら、番台があるべき。
番台がないのなら、鍵付きのロッカーにすべき。
しかるにここは、番台がないにもかかわらず……。
脱衣カゴになっとる。
こういう組み合わせの銭湯は、かつてなかったはず」
律「ここは銭湯じゃないでしょ」
み「旅館でも一緒じゃん。
番台のある大浴場はないだろうから……。
すなわち、鍵付きのロッカーにすべき。
でも、なんでロッカーにしないのかね?
カゴを入れる棚は作ったんだから……。
そこに鍵付きの蓋を付けるくらい、大した投資じゃないと思うのだが」
律「やっぱり、ご老人が多いでしょうから……。
鍵をなくしたりのトラブルが心配だったんじゃないの。
あ、わかった。
鍵を付けるというのは、人を疑うと云うこと。
修行の場である宿坊に、そういう設備を付けるわけにはいかなかった」
↑これが出来れば、もう修行は終わりだと思います。
み「ま、建前的にはそうでやんしょうな。
でも本当は……」
律「本当は?」
み「鍵が開かなくなるんでないの?
硫黄泉による影響で。
鍵自体、真っ黒になっちゃうと思うし」
↑シルバーの指輪は、真っ黒になってしまうとか。
律「ま、そんなところかしらね。
いい加減、入りましょう」
み「だすな。
従業員、まだ来ませんな。
せっかく脱ぐところなのに。
先生にしか見せられん」
律「職業柄、女性の裸は毎日のように見てますから。
お先に」
み「もう脱いじゃったの。
早業じゃな。
マジシャンになれるぞ」
↑Tシャツを一瞬で脱ぐ方法。いったい、何の意味が……。
律「脱ぐのが遅い患者さんも少なくないわけよ。
もたもたもたもた。
さっさと脱げ、後がつかえてるんだから。
そう言いたくなる人もいるの。
そういうのを見てるから……。
自分が脱ぐときも、少しでも手間取ると腹が立つわけ」
み「悲しい性よのぅ」
↑“さが”違い。
み「男の前でそれやったら、百年の恋も醒めまっせ」
律「そういう心配は要りません。
それじゃ、お先に行ってるわよ」
み「プリケツじゃ」
み「おー。
広い。
しかも、空いとる」
み「お、先生はもう浸かってますな。
どれどれ、わたすも」
律「ちょっと、かけ湯したの?」
↑フリーアナの森たけしさん。温泉ロケで必ず決めるギャグだそうです。
み「おっと、忘れるとこだった。
桶はと……。
あったあった」
み「おー、なんと、木の桶じゃござんせんか」
確かに、画像では木桶に見えます。
でも、ほんとにそうでしょうか?
問題は、タガの方です。
タガというのは、銅か真鍮のようです。
画像を調べたところ、真鍮は明るい金色でした。
吉祥閣の画像では、いわゆる銅色なので、銅製のタガでしょう。
でも、硫黄で変色しないものですかね?
ひょっとしたら、プラの桶を木製風に着色したものかも。
↓しつこく楽天で探したら、ありましたよ。
この商品、桶は木製ですがタガは樹脂製。
お値段は、金属製より遙かに安いです。
最初の真鍮製タガの桶は、2万3千円とかでした。
ま、桶も木曽檜だそうですから。
吉祥閣のは、おそらく樹脂製のものじゃないですかね?
でも、それで十分だと思います。
律「ちょっと待ちなさい」
み「なんでっか?」
律「頭から被る気?」
↑花祭りのお釈迦様。かけられてるのは、甘茶です。
み「あきまへんのん?」
律「さっきの注意書き、読まなかったの?
浴槽の水で顔を洗わないで下さいってあったでしょ」
↑これは、境内の温泉の注意書き。同じことが書かれてます。
み「そんなこと書いてあった?」
律「ほんとに、こういうお客がいるから困るのよ。
何のための貼り紙かしら。
硫黄泉でしょ」
↑浴槽のお湯は、白濁してます。
律「目に入ったら大変よ」
み「おー、そうであった。
じゃ、首から下だけ。
それじゃ、ちょっくらご免なすって」
↑美しき“御免なすって”。
み「あちゃ!」
↑全然関係ない動画ですみません。面白かったので。お湯から飛び出る画像を探してて見つけました。
み「熱いではないか」
律「そうでもないわよ」
み「従業員の三助を呼ばねば」
↑どう考えてもオイシい仕事。股間、妙な具合になってませんか?
律「三助なんて書いてなかったでしょ。
首まで浸かりなさい」
↑こんな猫もいるんですね。このまま寝落ちしてしまうこともあるとか。
み「人を幼児扱いすな!
中で小便するぞ」
↑すごい勢いです。
律「汚い女ね。
したら、顔まで浸かってもらうわ」
み「したってわかりませんがな。
幼児のころは、家の風呂の中で毎日しておった」
律「ぜったい止めてちょうだいね」
み「浸かってたら、大分熱さにも慣れて来たな。
しかし、なんですな。
この広い湯船に、わたしらだけでっせ」
律「確かに贅沢よね」
み「大祭のときは、ここが芋洗いになるんでしょうな」
↑どこかはわかりませんでした。でも、混浴ではなく女性だけのようです。
み「あ、芋洗いは、男湯だけか」
↑想像するだけで気鬱。
律「下ネタは止めて」
み「こうまで広いと、ちょっくら泳ぎたくなるわい」
律「やめなさい。
顔を付けられないんだから」
み「クロールするバカがいますか」
↑クロールするおもちゃのようです。
律「平泳ぎか」
み「自慢じゃありませんが、わたしは平泳ぎは出来ません。
だんだん足が沈んできて、身体が縦になってしまう」
↑こうなっていきます。
み「友達には、釣りのウキみたいと言われた。
おんなじ場所で、上下してるだけだから」
律「じゃ、まさか背泳ぎ?」
↑溺れてるようにしか見えません。
み「アホきゃ。
前が見えない泳ぎ方なんか、まったくの非実用的じゃ。
ロープを張ったプールでしかできない泳法ではないか。
こんなところでやったら、縁に頭をぶつけて沈没してしまうわ。
ま、それ以前に、背泳ぎは出来んがの」
↑メドレーリレーで、「背泳ぎ」が必ず第1泳者なのは……。飛びこめないからです。
律「じゃ、何泳ぎよ。
立ち泳ぎじゃ、足が着いちゃうでしょ」
↑「おたる水族館」のアザラシ。
み「わたしの唯一可能な泳法。
ご覧あれ」
律「……。
犬かきね」
↑「Dog Paddle(犬かき)」泳法。なんで、顔を浸ける必要があるんです?
み「犬かきといいますがね。
たいがいの動物が泳ぐときは、この泳法ですよ。
海峡を渡る鹿とかもね」
↑こちらは、洞爺湖を泳いでます。余裕です。冬は無理でしょうけど。
み「クロールで泳ぐ鹿なんか、どこにもいませんがな。
すなわち、最も自然で理に適った泳法が……。
犬かきということです。
動物は、習わずとも、この泳ぎを知っているわけ。
人間も同じですよ。
わたしは、小学校の水泳の検定でも、犬かきで受けた」
律「受けられたの?」
み「平泳ぎしようとしたんだけど……。
途中から無理と判断し、犬かきに切り替えたのじゃ。
機転が利くよな。
笑われたけど。
ほろ苦い思い出じゃ」
律「あんたらしいわ」
み「恐山の湯で、犬かきしてるかと思うと……」
み「しみじみと、人生の不思議を感じるわい」
律「馬鹿馬鹿しい。
そろそろ、上がるわよ」
み「いつもは、20分浸かるんでないの?」
律「入浴時間は、3分から10分って書いてあったでしょ」
↑外湯の注意書きですが、内湯も同じです。
み「なんか、ウルトラマンみたいですな」
み「そんなら、上がりまっか。
しかし、こんなに空いてる大浴場は、初めてだね」
み「ここ、10時までだっけ?」
律「食堂で、お客さんがそう言ってたわね」
み「たとえば、24時間入浴可能にした場合……。
夜中に入る気になる?」
律「ま、いくら眠れなくても……。
誰もいないようなお風呂に行こうとは思わないわね」
み「だすな。
脱衣所のカゴに、脱いだものがひとつもなかったのに……。
扉を開けたら、湯船に人影がある」
律「部屋から裸で来たっていうの?」
み「あほきゃー。
それじゃ、変態ですがな」
み「そうじゃなくて!
早い話、その人影は、この世のものじゃないってこと」
律「幽霊ってこと?
何でお風呂に入るの?」
み「幽霊は、お風呂が好きなの!
目玉おやじとか、垢舐めとか」
律「それは妖怪でしょ」
↑垢舐め。変態としか思えません。
み「早い話!」
律「ちっとも早くないんですけど」
み「10時以降は、そういうものたちの貸し切りなわけよ。
この大浴場は。
だから……。
決して、10時以降に入浴しようなどとは思ってはなりませぬ」
律「電気も消えてるお風呂に、誰が入るのよ。
さ、出るわよ」
み「もう洗ったのか?」
律「あんたの馬鹿話を聞きながら、ずっと洗ってたでしょ」
み「人の話は真剣に聞け!」
律「真剣に聞ける内容か。
それじゃ、お先に」
み「待たんきゃーい。
こんなところに、ひとりで取り残されたら……。
変態妖怪の餌食になってしまうわ。
妖怪、股舐めとか」
律「下ネタはやめてって」
律「10分も入ってなかったのに、温まるわね。
ポカポカ」
み「うむ。
ビールがわたしを呼んでいる」
↑これこれ。
み「よしよし。
小銭も盗まれてないぞと。
ほれ、行きますぞ。
いざ、自販機へ」
律「髪、乾かしてから」
み「落ち着くでない。
急に気がせく。
今しも、残り少ないビールを、誰かが買ってるやも知れん」
律「それじゃ、先に買っててよ」
み「何本買う?」
律「2本ずつでいいんじゃないの」
み「2本目は温いぞ」
↑温かったんだと思います。
律「1本飲むごとにここまで来るんじゃ、忙しないでしょ」
み「うむ。
1本目は、一気だろうしな。
最初は、2本ずつ買って……。
次からは、1本ずつってのはどう?」
律「いいわよ」
み「あ、いいこと思いついた。
2回目からは、じゃんけんにしよう」
↑気迫の「グー」。
み「負けた方が買いに行く。
如何?」
律「オッケー」
み「では、買って先に帰ってるぞ」
律「お願い」
自販機については、情報がありません。
唯一、見つけたのがこちらのページ。
↓の一文だけです。
+++
内湯の入り口には自動販売機があって、ちゃんとビールが売っていました(^^;)
+++
この「入り口」というを、どう捉えるかです。
文字どおり「内湯」を、湯船のある洗い場と捉えれば……。
その「入り口」は、脱衣所内ということになります。
でもねー。
となると、脱衣所内での飲酒が可能ということになります。
そんなことしますかね。
あ、それに……。
それだと、男湯女湯2カ所に自販機を置かなければなりません。
まさか、男湯だけってわけにはいかないでしょう。
もしそうなら、それは、お酒を飲む女性に対する偏見です。
↑こうなると、ちと問題ですが……。それは男性も同じことです。
娯楽が目的じゃないんだから。
み「ピンクコンパニオンとか、呼べんのか」
律「聞いてみたら、フロントに」
↑聞ける雰囲気ではありません。
み「嫌がらせで、イタコを派遣されたら困る」
↑海洋堂のイタコフィギュア。持ってます。
み「しかし、テレビもないってのは、現代の宿じゃおませんがな」
律「WI-FIも届かないでしょうから、見る手段はなさそうね」
み「やっぱり、団体で泊まる人たちは……。
花札とか持って来てるんでしょうな」
み「翌日、裸で帰る人がいたりして」
律「いるわけないでしょ。
そうだ、裸と云えば、お風呂がまだだったわね。
いただきましょうよ。
せっかくなんだから」
み「んだすな。
それも、12,000円のうちだで。
浴衣、浴衣」
み「サイズとか、あるのかな?」
律「子供用じゃなきゃ、みんな一緒でしょ」
み「デカかったら、松の廊下になるではないか」
律「折って、帯で締めればいいんじゃないの」
み「ちょっと長めかも」
律「お端折りしなさいよ」
み「脱いでまた着るのに、そんな面倒なこと出来ませんがな。
こうやって端折ればいいんでないの」
律「岡っ引きか」
み「浴衣で思い出したけど……。
ユカタン半島ってあったよね」
律「何それ?」
み「どこかにある半島でんがな」
↑ここにありました。中米だとは思わななんだ。
み「あと、スケベニンゲン。
どっかの都市」
↑オランダでした。ほかの地名もすべて実在のようです。
み「わたしが学校の地理で覚えた地名は……。
この2つだけです」
律「胸を張って言うな」
み「あ、財布は忘れられませんぞ。
帰りに、ビールを買わねばならぬ。
どうやって持っていくかな。
やっぱり、このアメニティ袋か」
律「ポーチとか、持ってきてないの?」
み「ポチ?」
↑ポチではありませんが、面白かったので。飼い主の入れ歯を咥えてしまったようです。
み「なんで犬を連れてこにゃならんのだ」
律「わざとボケてるわね」
み「ま、旅行にありがちなハイテンションですな」
律「わたしのポーチに入れていく?」
み「先生の財布も、そこに入れたの?」
律「そうよ」
み「危険」
律「何が?」
み「そのポーチが盗まれたら……。
われらは、無一文ではないか」
↑こんなに可愛ければ、何とかなります。
律「急に用心深くなったわね」
み「キャッシュカードとかクレジットカードは置いてった方がいい。
お金も、小銭と千円札以外は置いていく。
しかし……。
この部屋、金庫がないではないか」
↑たいがい、床の間付近にありますよね。
律「そういえばそうね」
み「だだっ広いばかりで、隠し場所がない」
律「洋服入れの中は?」
み「却下。
ありきたりじゃ。
泥棒が真っ先に開けるわい」
律「座布団に挟むとか」
み「よその部屋で宴会が入ったとかで……。
座布団だけ運び出される可能性がある」
律「ここに宴会が入るわけないでしょ!
あ、いっそ、ゴミ箱の中は?」
↑ゴミ箱は置いてないっぽいですね。
み「ぱきゃもーん!
忘れたまま帰ったら、捨てられてしまうではないか」
律「忘れる方がバカでしょ」
み「いっそ、トイレのタンクに沈めるか」
↑ここにゴミ箱があった! 入れる気にはなりませんが。
律「あんたのだけにしてよ」
み「靴の中はどうだ?」
律「財布が臭くなるでしょ!」
み「足臭さですか?」
↑飼い主の足を嗅いだ猫の反応。
律「そもそも財布なんて入らないわよ。
長靴じゃないんだから」
み「どうやら、安心して隠せる場所は見あたらんな。
畳剥ぐ?」
律「お断り」
み「忍者なら、畳返しという技で一発なのだが」
↑立ち位置が間違ってるのでは?
律「畳の下に隠したら、畳が膨らんで、一発でバレるでしょ」
み「愚か者。
床板も剥ぐんじゃないですか」
↑甕が埋まってたら嬉しい。
律「付き合ってられない。
あ、ここでいいでしょ。
お茶セットの中」
み「ありきたりじゃ。
ポットの中にするか」
律「財布を煮る気?」
み「そんなら、どこにすんだよ!」
律「鍵を掛けて出るんだから、この部屋自体が金庫みたいなものでしょ」
み「マスターキーで入れると思います」
律「そこまで疑う気?」
み「ま、仕方おへんか。
妥協のしどころですかね」
律「早く行くわよ」
↑2階にあります。
み「ここは、何するところ?」
律「お話ししたりするんじゃないの」
み「なんで、部屋でしないわけ?」
律「お部屋は、男女別でしょ。
団体さんとかでは」
み「しかし、見事に何もおへんな。
灰皿もない」
律「いいじゃないの、すっきりしてて」
み「おー、こっちじゃな」
律「ちょっと、そっちは男湯でしょ」
み「ありゃりゃ、うっかりしましたな」
律「あんなにデカデカと書いた暖簾が出てるじゃないの」
み「お約束のギャグですよ」
律「せんでいい」
み「お。
自販機発見。
ヤツの云うことは、デマではなかったな。
よしよし、売り切れのランプは点いてないな。
しかし、返す返すも、部屋に冷蔵庫がないのが難点じゃ。
それさえあれば、先に買い占められるものを。
落ち着いて、風呂にも入れんではないか」
律「食堂で、誰も飲まないって確認したじゃないの」
み「気が変わるやも知れん。
剣呑剣呑。
早いこと入らねば。
行きますぞ」
自販機のある場所ですが、ネットでは確認出来ませんでした。
お風呂にはカメラを持参しないため、誰も撮らなかったのかも知れません。
わたしが思うに、男湯と女湯の間にある衝立(?)の裏側じゃないですかね。
↑この裏が怪しい。
あるいは、この写真を撮った方の後ろ側かも知れません。
み「お、何やら注意書きが」
み「『スリッパは下足棚へお入れ下さい』。
なるほど、床に脱ぎ散らかしちゃダメですよってことか」
↑これはマシな方。
み「温泉旅館でありがちですね。
自分が履いて来たスリッパを、誰かが履いて帰っちゃうってこと。
裸足で帰るわけにいかないから……。
こっちも、人のを履いて帰る。
そいつが水虫だったらどうしてくれる」
↑やっぱり、スリッパでも感染しますよね。
律「確かに、あれは不衛生よね。
そういうことが無いように、下足棚に入れるんじゃないの」
み「一番取りにくい、遠いところに入れるべきじゃな。
左の方。
これは、ちょっと面白いことが書いてありますぞ。
午後7時30分ころ、“従業員が出入りする”とある。
今、何時ころ?」
律「部屋を出たのが、7時ころだったんじゃないの?」
み「てことは……。
来ますな。
従業員」
律「それがどうしたのよ?」
み「宿坊に、女の従業員がいると思います?」
律「じゃ、男の従業員が、女湯に入ってくるってこと?」
み「そうとしか思えませんがな。
ぜひ、確認せねば。
次」
↑「当温泉はイオウ泉ですので入浴時間は三分~十分程度とし、長湯しないようご注意下さい」
み「入浴時間は、3分から10分にせいとな」
律「そんなに短いの?」
み「先生は普段、どのくらい浸かってるわけ?」
律「20分くらいじゃないの」
↑こういうことしてる人、ほんとにいるんですかね?
み「ふやけまっせ。
わたしはたぶん、30秒くらいだね」
↑短いですが、何度でも浴びます。
律「何のために浸かるかわからないじゃないの」
み「しゃぶしゃぶより早いぞ」
↑たぶん、食べたことないです。
律「どういう自慢よ」
み「さらに、窓を開けて、換気を良くして入れとな。
覗き放題ではないか」
律「こんなところで、覗きをする輩なんていないわよ」
み「覗くのは……。
この世のものではないかも知れん」
み「魂魄この世に留まりてというやつじゃ。
おなごの裸が恋しゅうて、死んでも死にきれましぇん」
↑かの有名な出歯亀氏。
律「哀れな亡霊ね。
見せてやんなさい」
み「金、取るかな」
律「取れる裸か」
み「失礼千万な」
律「ほら、行くわよ。
あんたと一緒だと、事が進まないわ」
律「綺麗な脱衣所じゃない。
洗面台には、ドライヤーもあるし」
↑ドライヤーは、硫黄で壊れないんですかね?(壊れてたら恐ろしいことに……)
律「普通の旅館と変わりないわ」
み「大ありでんがな。
見んさいな、この脱衣カゴを」
律「どこがヘンなの?」
み「昭和の銭湯か。
鍵も何も付いておらん。
板の間稼ぎの天国じゃおませんか」
律「ここでそんなことする人いないわよ。
銭湯と違って、お金持って来る人なんていないんだから」
み「持って来てまんがな、わたいら」
律「小銭と千円札が何枚かじゃない」
み「小銭をバカにするものは、小銭に泣く!」
律「別にバカにはしてないわよ。
でも確かに、銭湯なんかじゃ、これだと物騒かもね」
み「だしょ」
律「だけど、それが大問題にならなかったのは、日本人の国民性じゃない」
み「ちゃいまんがな」
律「何が?」
み「銭湯には、番台というものがあったでしょ」
↑「み」(台東区上野『下町風俗資料館』)。2年前の『単独旅行記Ⅴ』で、わたしが撮った写真です。
み「入口の男湯と女湯の間の高いところ。
男性の憧れの職業第1位。
あれは決して、客の裸を見るための設備ではありません」
律「当たり前だわ」
み「つまり、あの高いところから……。
妙な動きをする客がいないか、見張ってたんです。
間違いでもあったら、すぐに評判が広がるからね。
女湯の伝播力はそうとうなものだったはず。
客が来なくなるよ。
昔は近所に銭湯なんか、ひとつだけじゃなかったんだから。
つまり、番台の使命は重要だったわけ。
裸に気を取られてるようでは、店が立ち行かないんです。
その使命に専心するため……。
番台に上がる主人は、去勢手術を受けてたと云う」
↑トルコの去勢(1466年)。これは、竿を切り落としてるんですかね? 怖すぎ。
律「うそおっしゃい。
猫じゃあるまいし」
み「最後のは、ちょっとだけ盛りましたが……。
つまり、そういうこと。
番台から、ランランと目を光らせてたわけ」
み「だから、板の間稼ぎなんか出来なかったのよ」
律「ま、それはある程度、わかるけど」
み「ところが!
やはり、女湯の脱衣所を堂々と見渡せる位置に男が座るというのに……。
はなはだ抵抗を感じるようになってきたわけだな。
日本人も」
律「当然でしょうね」
み「時代は変わりました。
なにしろ、昔の銭湯は、混浴だったからね」
↑ペリーの来日中に描かれたスケッチ。
み「男の三助が、女湯で客の背中を流してたし」
み「来日した外国人は、びっくら仰天こいたわけよ。
こいつらは、猿かーって」
↑こういう顔のおじいさん、いますよね。
律「そのころはまだ、温泉に入る猿はいなかったんじゃないの?」
み「ま、そうでしょうが。
話を進めていいか」
律「打ち切ってよし」
み「ご無体な。
で、時は流れ、世相は代わり……。
番台から主人に裸を見られることを嫌がるご婦人が増えた」
律「当たり前だわ」
み「ということで、番台は徐々に廃止され……。
代わりに、脱衣所の外に、カウンターを設けるようになった」
み「そこで、料金を受け取るシステムになったわけ。
すると!
脱衣所を見張るものがいなくなってしまったわけよ。
このままじゃ、板の間稼ぎの天国になってしまう。
ということで……。
脱衣カゴじゃなくて、鍵付きのロッカーになったということ」
律「結局、何が言いたいわけ?」
み「つまりじゃ。
脱衣カゴなら、番台があるべき。
番台がないのなら、鍵付きのロッカーにすべき。
しかるにここは、番台がないにもかかわらず……。
脱衣カゴになっとる。
こういう組み合わせの銭湯は、かつてなかったはず」
律「ここは銭湯じゃないでしょ」
み「旅館でも一緒じゃん。
番台のある大浴場はないだろうから……。
すなわち、鍵付きのロッカーにすべき。
でも、なんでロッカーにしないのかね?
カゴを入れる棚は作ったんだから……。
そこに鍵付きの蓋を付けるくらい、大した投資じゃないと思うのだが」
律「やっぱり、ご老人が多いでしょうから……。
鍵をなくしたりのトラブルが心配だったんじゃないの。
あ、わかった。
鍵を付けるというのは、人を疑うと云うこと。
修行の場である宿坊に、そういう設備を付けるわけにはいかなかった」
↑これが出来れば、もう修行は終わりだと思います。
み「ま、建前的にはそうでやんしょうな。
でも本当は……」
律「本当は?」
み「鍵が開かなくなるんでないの?
硫黄泉による影響で。
鍵自体、真っ黒になっちゃうと思うし」
↑シルバーの指輪は、真っ黒になってしまうとか。
律「ま、そんなところかしらね。
いい加減、入りましょう」
み「だすな。
従業員、まだ来ませんな。
せっかく脱ぐところなのに。
先生にしか見せられん」
律「職業柄、女性の裸は毎日のように見てますから。
お先に」
み「もう脱いじゃったの。
早業じゃな。
マジシャンになれるぞ」
↑Tシャツを一瞬で脱ぐ方法。いったい、何の意味が……。
律「脱ぐのが遅い患者さんも少なくないわけよ。
もたもたもたもた。
さっさと脱げ、後がつかえてるんだから。
そう言いたくなる人もいるの。
そういうのを見てるから……。
自分が脱ぐときも、少しでも手間取ると腹が立つわけ」
み「悲しい性よのぅ」
↑“さが”違い。
み「男の前でそれやったら、百年の恋も醒めまっせ」
律「そういう心配は要りません。
それじゃ、お先に行ってるわよ」
み「プリケツじゃ」
み「おー。
広い。
しかも、空いとる」
み「お、先生はもう浸かってますな。
どれどれ、わたすも」
律「ちょっと、かけ湯したの?」
↑フリーアナの森たけしさん。温泉ロケで必ず決めるギャグだそうです。
み「おっと、忘れるとこだった。
桶はと……。
あったあった」
み「おー、なんと、木の桶じゃござんせんか」
確かに、画像では木桶に見えます。
でも、ほんとにそうでしょうか?
問題は、タガの方です。
タガというのは、銅か真鍮のようです。
画像を調べたところ、真鍮は明るい金色でした。
吉祥閣の画像では、いわゆる銅色なので、銅製のタガでしょう。
でも、硫黄で変色しないものですかね?
ひょっとしたら、プラの桶を木製風に着色したものかも。
↓しつこく楽天で探したら、ありましたよ。
この商品、桶は木製ですがタガは樹脂製。
お値段は、金属製より遙かに安いです。
最初の真鍮製タガの桶は、2万3千円とかでした。
ま、桶も木曽檜だそうですから。
吉祥閣のは、おそらく樹脂製のものじゃないですかね?
でも、それで十分だと思います。
律「ちょっと待ちなさい」
み「なんでっか?」
律「頭から被る気?」
↑花祭りのお釈迦様。かけられてるのは、甘茶です。
み「あきまへんのん?」
律「さっきの注意書き、読まなかったの?
浴槽の水で顔を洗わないで下さいってあったでしょ」
↑これは、境内の温泉の注意書き。同じことが書かれてます。
み「そんなこと書いてあった?」
律「ほんとに、こういうお客がいるから困るのよ。
何のための貼り紙かしら。
硫黄泉でしょ」
↑浴槽のお湯は、白濁してます。
律「目に入ったら大変よ」
み「おー、そうであった。
じゃ、首から下だけ。
それじゃ、ちょっくらご免なすって」
↑美しき“御免なすって”。
み「あちゃ!」
↑全然関係ない動画ですみません。面白かったので。お湯から飛び出る画像を探してて見つけました。
み「熱いではないか」
律「そうでもないわよ」
み「従業員の三助を呼ばねば」
↑どう考えてもオイシい仕事。股間、妙な具合になってませんか?
律「三助なんて書いてなかったでしょ。
首まで浸かりなさい」
↑こんな猫もいるんですね。このまま寝落ちしてしまうこともあるとか。
み「人を幼児扱いすな!
中で小便するぞ」
↑すごい勢いです。
律「汚い女ね。
したら、顔まで浸かってもらうわ」
み「したってわかりませんがな。
幼児のころは、家の風呂の中で毎日しておった」
律「ぜったい止めてちょうだいね」
み「浸かってたら、大分熱さにも慣れて来たな。
しかし、なんですな。
この広い湯船に、わたしらだけでっせ」
律「確かに贅沢よね」
み「大祭のときは、ここが芋洗いになるんでしょうな」
↑どこかはわかりませんでした。でも、混浴ではなく女性だけのようです。
み「あ、芋洗いは、男湯だけか」
↑想像するだけで気鬱。
律「下ネタは止めて」
み「こうまで広いと、ちょっくら泳ぎたくなるわい」
律「やめなさい。
顔を付けられないんだから」
み「クロールするバカがいますか」
↑クロールするおもちゃのようです。
律「平泳ぎか」
み「自慢じゃありませんが、わたしは平泳ぎは出来ません。
だんだん足が沈んできて、身体が縦になってしまう」
↑こうなっていきます。
み「友達には、釣りのウキみたいと言われた。
おんなじ場所で、上下してるだけだから」
律「じゃ、まさか背泳ぎ?」
↑溺れてるようにしか見えません。
み「アホきゃ。
前が見えない泳ぎ方なんか、まったくの非実用的じゃ。
ロープを張ったプールでしかできない泳法ではないか。
こんなところでやったら、縁に頭をぶつけて沈没してしまうわ。
ま、それ以前に、背泳ぎは出来んがの」
↑メドレーリレーで、「背泳ぎ」が必ず第1泳者なのは……。飛びこめないからです。
律「じゃ、何泳ぎよ。
立ち泳ぎじゃ、足が着いちゃうでしょ」
↑「おたる水族館」のアザラシ。
み「わたしの唯一可能な泳法。
ご覧あれ」
律「……。
犬かきね」
↑「Dog Paddle(犬かき)」泳法。なんで、顔を浸ける必要があるんです?
み「犬かきといいますがね。
たいがいの動物が泳ぐときは、この泳法ですよ。
海峡を渡る鹿とかもね」
↑こちらは、洞爺湖を泳いでます。余裕です。冬は無理でしょうけど。
み「クロールで泳ぐ鹿なんか、どこにもいませんがな。
すなわち、最も自然で理に適った泳法が……。
犬かきということです。
動物は、習わずとも、この泳ぎを知っているわけ。
人間も同じですよ。
わたしは、小学校の水泳の検定でも、犬かきで受けた」
律「受けられたの?」
み「平泳ぎしようとしたんだけど……。
途中から無理と判断し、犬かきに切り替えたのじゃ。
機転が利くよな。
笑われたけど。
ほろ苦い思い出じゃ」
律「あんたらしいわ」
み「恐山の湯で、犬かきしてるかと思うと……」
み「しみじみと、人生の不思議を感じるわい」
律「馬鹿馬鹿しい。
そろそろ、上がるわよ」
み「いつもは、20分浸かるんでないの?」
律「入浴時間は、3分から10分って書いてあったでしょ」
↑外湯の注意書きですが、内湯も同じです。
み「なんか、ウルトラマンみたいですな」
み「そんなら、上がりまっか。
しかし、こんなに空いてる大浴場は、初めてだね」
み「ここ、10時までだっけ?」
律「食堂で、お客さんがそう言ってたわね」
み「たとえば、24時間入浴可能にした場合……。
夜中に入る気になる?」
律「ま、いくら眠れなくても……。
誰もいないようなお風呂に行こうとは思わないわね」
み「だすな。
脱衣所のカゴに、脱いだものがひとつもなかったのに……。
扉を開けたら、湯船に人影がある」
律「部屋から裸で来たっていうの?」
み「あほきゃー。
それじゃ、変態ですがな」
み「そうじゃなくて!
早い話、その人影は、この世のものじゃないってこと」
律「幽霊ってこと?
何でお風呂に入るの?」
み「幽霊は、お風呂が好きなの!
目玉おやじとか、垢舐めとか」
律「それは妖怪でしょ」
↑垢舐め。変態としか思えません。
み「早い話!」
律「ちっとも早くないんですけど」
み「10時以降は、そういうものたちの貸し切りなわけよ。
この大浴場は。
だから……。
決して、10時以降に入浴しようなどとは思ってはなりませぬ」
律「電気も消えてるお風呂に、誰が入るのよ。
さ、出るわよ」
み「もう洗ったのか?」
律「あんたの馬鹿話を聞きながら、ずっと洗ってたでしょ」
み「人の話は真剣に聞け!」
律「真剣に聞ける内容か。
それじゃ、お先に」
み「待たんきゃーい。
こんなところに、ひとりで取り残されたら……。
変態妖怪の餌食になってしまうわ。
妖怪、股舐めとか」
律「下ネタはやめてって」
律「10分も入ってなかったのに、温まるわね。
ポカポカ」
み「うむ。
ビールがわたしを呼んでいる」
↑これこれ。
み「よしよし。
小銭も盗まれてないぞと。
ほれ、行きますぞ。
いざ、自販機へ」
律「髪、乾かしてから」
み「落ち着くでない。
急に気がせく。
今しも、残り少ないビールを、誰かが買ってるやも知れん」
律「それじゃ、先に買っててよ」
み「何本買う?」
律「2本ずつでいいんじゃないの」
み「2本目は温いぞ」
↑温かったんだと思います。
律「1本飲むごとにここまで来るんじゃ、忙しないでしょ」
み「うむ。
1本目は、一気だろうしな。
最初は、2本ずつ買って……。
次からは、1本ずつってのはどう?」
律「いいわよ」
み「あ、いいこと思いついた。
2回目からは、じゃんけんにしよう」
↑気迫の「グー」。
み「負けた方が買いに行く。
如何?」
律「オッケー」
み「では、買って先に帰ってるぞ」
律「お願い」
自販機については、情報がありません。
唯一、見つけたのがこちらのページ。
↓の一文だけです。
+++
内湯の入り口には自動販売機があって、ちゃんとビールが売っていました(^^;)
+++
この「入り口」というを、どう捉えるかです。
文字どおり「内湯」を、湯船のある洗い場と捉えれば……。
その「入り口」は、脱衣所内ということになります。
でもねー。
となると、脱衣所内での飲酒が可能ということになります。
そんなことしますかね。
あ、それに……。
それだと、男湯女湯2カ所に自販機を置かなければなりません。
まさか、男湯だけってわけにはいかないでしょう。
もしそうなら、それは、お酒を飲む女性に対する偏見です。
↑こうなると、ちと問題ですが……。それは男性も同じことです。