Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
カテゴリ:紙上旅行倶楽部/総集編 > 大分に行こう!
「さっそく、お部屋の説明をさせていただきますね。
 まず、一番安い部屋は、1泊3,100円です」
「それって……。
 1人あたりの値段ですか?」
「いいえ。
 1部屋の料金です」
「てことは……。
 2人で泊まっても……。
 3,100円?」
「そうです」

 や、安……。
 思わず、美弥ちゃんと顔を合わせます。
 さっきの人力車が、2人で3,000円でしたから……。
 ほぼ同じ。

「でも……。
 このお部屋は……。
 女性の方にはお勧めしてません」
「どうしてです?」
「こちらの部屋は、旧館と云う、うちで一番古い棟にあります。
 部屋は、相部屋ではありませんが……。
 隣との仕切は、襖です。
 玄関も台所もトイレも、共同です。
 今はいいですけど……。
 エアコンもありませんし……。
 襖はもちろん、玄関にも鍵が掛かりません」
とくなが荘・旧館の玄関

 カンペキなる無防備ってことですね。
 “さぁ殺せ”状態……。
 美弥ちゃんと顔を見合わせます。
 美弥ちゃんの目は、絶対ムリと訴えてました。

「そのお部屋、どういう人が泊まられるんですか?」
「そうですね……。
 由布岳に登る人たちや……。
 全国を巡って鉄道の写真を撮ってる人とか……。
 リュックを背負った外人さんなんかですね」

 登山家に、鉄ちゃんに、バックパッカーの外人……。
 いざとなったら、野宿も出来るってヤツらばっかりじゃないか。

「別の部屋にします」
「それがいいですね。
 うちのお客さんは、みんないい人ですけど……。
 あなた方みたいな人が同じ棟に泊まったら、気になって眠れないかもしれないですから」
「旧館があるってことは、新館もあるってことですね」
「はい。
 ここが新館になります」
とくなが荘・新館

「お部屋は、1泊3,600円です。
 冷蔵庫とエアコンが付いてます。
 でも、台所はありません。
 ご覧のとおり、玄関も共同です」
「う~む」

「お部屋には、もう1タイプありまして……。
 女性グループには、こちらをお勧めしてます」
「どういうお部屋なんですか?」
「“離れ”です」
「え!
 “離れ”なんてあるんですか?」
「3棟あります」
とくなが荘・離れ

「“離れ”には、コンロの付いた台所のほか……。
 冷凍冷蔵庫、ポット、食器、湯沸かし器もあります」
「そこにします!」
「でも、少しお高いですよ?」
「お、おいくらですか?
 まさか……。
 百万円とか?」
「5,000円になります」
「う、安い。
 それって、1人の値段ですか?」
「いいえ。
 1棟の料金です」
「そこにします!」

 美弥ちゃんも、一緒になって頷いてます。
 ひとり2,500円で、さっきの装備の付いた“離れ”に泊まれるんですよ。
 隣室との気兼ねも要らないしさ。
 選択の余地無し!

 さて、荷物を受け取り、若女将(?)に鍵をもらい、“離れ”に向かいます。

 途中、お風呂を偵察。
 お風呂は、別棟になってるそうなんです。
 1階と2階にひとつずつあり、それぞれ内鍵が掛かるので、貸し切りで使えるとか。
 内風呂だけなら、いいんですが……。
 外からうかがう限り……。
 どうやら、露天風呂構造のようです。
 なんだか、掘っ立て小屋みたいですね。
とくなが荘・お風呂棟

 ワイルドすぎて、女性客が使うには、かなりの勇気が要りそうです。
 誰も入ってないみたいなので、ちょっと中を覗いてみます。
とくなが荘・お風呂の中

「なんか、外から見えそうだな……。
 どう?」

 美弥ちゃんのクビは、ぶるんぶるんと左右に振れました。

「美弥なら、見せつけてやればいいのに」
「ムリです。
 わたし、入れません」
「考えてみたら、バスタオルも持ってないしね。
 この様子じゃ、備え付けのタオルなんか、ありっこないよね」
「ここは、あきらめましょう」
「でも、1日の終わりにお風呂無しじゃなぁな……」
「そうだ!
 さっき人力車降りたとき、日帰りの入浴施設みたいなのが見えましたよ」
「ほんと?
 あのあたりなら、5分もかからないよね。
 よし、そこにしよう」

 さて、教えられた“離れ”に入ります。

「おぉ~」

 オシャレ度は限りなくゼロですが……。
 諸設備はちゃんとそろってます(画像が見つかりませんでしたので、想像です)。

「お風呂行って、そのまま夕飯食べに行く?
 食べてからお風呂じゃ、めんどくさいよな」
「Mikikoさん、ここで食べませんか?」
「ここで?」
「コンロもあるし、ちょっとした料理なら出来ますよ」
「わたしには、出来ないぞ」
「Mikikoさんは、食べるだけでいいですよ」
「ほんと?
 う~ん。
 冷蔵庫もあるしね。
 ビールだって、たくさん冷やせそうだ。
 観光客相手のお店で、財布の中身と相談しながら注文するより……。
 好きなもの買ってきて、ここで食べた方が楽しいかもね。
 でも、買い出しできるようなお店があるかな?」
「さっきの若女将に聞いてみましょうよ」

 若女将が、スーパーの場所を教えてくれました。
 なんと、スーパーも、さっき人力車を降りたそばにあったんです。
 『グルメシティ』というお店だそうです。
 温泉施設とスーパーが、人力車を降りた「城橋」を挟んであったんですね。
由布院「城橋」

 お誂え向きってのは、このことを言うんでしょうか?
 それじゃ、お財布だけ持って、レッツゴー。

 日帰り温泉施設は、「クアージュゆふいん」という名称でした。
「クアージュゆふいん」

 思ってたより小規模なうえ、建物の雰囲気からは、お客を集めようと云う意識が感じられません。
 どうやら、観光客目当ての施設じゃないようです。
 もともとは湯布院町が運営する施設で、合併により由布市に移管されたものらしく……。
 正式名称は、「由布市湯布院健康温泉館」。
 設立目的は、町民の健康増進だったようです。
 保健師さんが常駐しており、無料で健康相談も受けられるとか。
 ま、「クアージュ」ってネーミングは、いかにも公共施設って感じですよね。

 外見は、和風ですが……。
「クアージュゆふいん」外観

 ドイツの温泉治療技術を取り入れ、超音波ジャグジーや、サウナ、運動プールなどがあるそう。
「クアージュゆふいん」内部

 残念ながら、ドクターフィッシュはいないようです。

 なお、こうした設備は男女別では無いので……。
 水着の着用が義務づけられてます。
 このへんも、ドイツ風ですね。
 でも、水着を持たずに来ても大丈夫なんです。
 利用料金の800円には、水着やタオルのレンタル料も含まれてます。
 もちろん、クア施設のほかに、裸で入れる露天風呂もあります。
 当然こちらは、男女別です。
 なお、プールを利用せず、お風呂だけって人は、500円です。
 ただし、タオルなどをレンタルする場合は、別料金になります。
 タオルが100円、バスタオルが200円。
「クアージュゆふいん」レンタル料金

 おいおい。
 合計すると、800円になっちまうじゃないか。
 早い話、手ぶらで来た人は、800円払わにゃならんってことですね。

 施設は、21時30分まで開いてますから……。
 時間はたっぷり。
 500円で済むんならお風呂だけにしようかと思いましたが、タオルが無いので……。
 800円の水着付きにして、せっかくだからプールも入りましょう。
 でもわたし、水着苦手なんだよね。
 泳げないので、水着着ると不安になるんです。
 全裸だったら平気なんだけどな。

「どこ見てるんです」
「水着の上からじゃ、わかんないもんだね。
 あのクリ」
「当たり前でしょ!」

 美弥ちゃんの貸し水着は、パッツパツ。
 胸なんか、はち切れそうです。
 対するわたしは……。
 余裕ありまくりでした(泣)。

 クア施設は、水着を着てるせいもあるのか、一見、プールみたいな感じですが……。
 足が立たないとこも無く……。
 ギャーギャー騒ぐガキもいなくて、思いのほかゆったり出来ました。
 でも、夜が短くなっちゃうので、早々に切り上げましょう。

 対するお風呂は、こぢんまりとしたものでした。
 あくまで、クア施設がメインってことなんでしょうね。

 さて、サッパリと汗を流したら……。
 スーパーへ向かいましょう。

 若女将(?)に教えられたスーパーは、『グルメシティ湯布院店』というお店でした。
グルメシティ湯布院店

 規模はそれほど大きくありませんが、日常生活品の調達には十分のようです。

 『グルメシティ』というスーパーは、新潟には無いので……。
 地元資本かと思ってたら、大間違い。
 ダイエーグループのスーパーでした。

 ところで、そのダイエーですが……。
 今、新潟には、1店舗もありません。
 でも、5年前まではあったんです。
 新潟市の「万代シティ」という商業地には、旗艦店がありました。
「万代シティ」にあったダイエー

 開店は、1973年。
 1979年には、売上高が、全国のダイエー店舗中でトップになったそうです。
 最盛期の年間売上高は、200億円近かったとか。
 わたしは生まれてましたが……。
 そのころの記憶はありません。
 土・日には、店内が立錐の余地も無かったとか……。
 でも、中心商業地にあったため、駐車場が店舗に隣接してませんでした。
 離れてた上に、有料。
 その後、郊外に……。
 滑走路のような無料駐車場を完備したスーパーが、続々と建つようになります。
 郊外からのクルマ客が来なくなると、売上げは激減。
 ピーク時の3分の1になっちゃいました。
 そしてついに……。
 2005年、閉店。
 新潟店以外の県内店舗も、これ以前に閉鎖されており……。
 新潟店の閉鎖で、新潟県からダイエーは無くなりました。

 ダイエーが、「万代シティ」に出店する前は……。
 新潟の中心商業地は、信濃川を渡った「古町(ふるまち)」という地域でした。
 大和デパートがあったところね。
 その客足を、ダイエーを中心とする「万代シティ」が奪ったのです。
 そしてその「万代シティ」も、郊外の大規模店に客足を奪われ、衰退していきました。
 まさに、栄枯盛衰ですね。

 今、ダイエーだった建物は、「LoveLa(ラブラ)万代」という、専門店の集まった施設になりました。
LoveLa(ラブラ)万代

 さて、てなわけで、ひさびさにダイエー系列でのお買い物。

 なにしろ、今夜の宿は、1人2,500円です。
 俄然余裕が出来ました。
 しかも、外食するつもりでいましたからね。
 由布院のお店で、夕食食べてお酒も飲んだら……。
 どう考えても、1人前5,000円近くなっちゃうんじゃないの?
 2人で、10,000円です。
 スーパーの総菜で10,000円も買ったら、カートがてんこ盛りになっちゃいます。
 もちろん、2人でなんか食べられっこありませんよ。
 てなわけで……。
 今日は、ビールを奢りましょう。
 普段は、第3のビールしか飲んでないからね。
 本物のビールは、久しぶりです。

「お刺身、どうします?」
「わたし、生魚ダメなんだ。
 でも、美弥が食べたかったら、買っていいよ」
「お昼がお肉だったから……。
 お魚が食べたいなと思って。
 切り身買ってって、コンロで焼きましょうか?」
「いいよ。
 面倒じゃない。
 こんなにお総菜があるんだから、みんな出来合いで大丈夫」
「焼いてあるお魚、買って行きます?
 でも、レンジもオーブンも無かったから……。
 暖め直せませんよ」
「いいよ、冷たくても。
 あ!
 いいこと思いついた。
 お刺身を、多めに買っていこう」
「でも、生魚食べれないんでしょ?」
「だから……。
 お刺身を、コンロで炙って食べる。
 美弥は、生で食べればいいんだよ」
「そんなことしなくても……。
 切り身、焼いてあげますって」
「ほら、高知であったじゃん。
 鰹のタタキ。
 あれ、おいしそうだった。
 炙った鰹。
 考えてみればさ。
 お刺身ってのは、一口サイズに切ってある魚ってことだよな。
 焼き肉用の肉と一緒だよ。
 お刺身の裏表を、ちょちょっと炙って食べたら、絶対美味しいって。
 きっと、いい旅の思い出になるよ。
 お刺身焼いて食べることなんて、もう二度と無いかも知れないんだから」
「お刺身焼くなんて、よく思いつきましたね」
「実は、小説で読んだことがあるんだ。
 確か、曽野綾子の『太郎物語』だったと思うけど……。
 『高校編』と『大学編』があってね。
曽野綾子『太郎物語・高校編』曽野綾子『太郎物語・大学編』

 確か、『大学編』の方だったと思うけど……。
 お刺身を焼いて食べるシーンがあったんだよ。
 読んだのは高校生のころだから、十ウン年も前だけど……。
 美味しそうだなって思ったこと、はっきり覚えてる」
「へ~。
 どんな小説なんです?」
「内容は、忘れた。
 でも、『大学編』読んで、ひとり暮らしに憧れたことだけは覚えてる。
 あと、もう1カ所。
 主人公が『帯状疱疹』に罹るシーンがあってね。
 『帯状疱疹』って病名は、ここで知ったんだ。
 痛い病気なんだって。
 この小説で覚えてるのは、刺身を焼いて食べるシーンと、『帯状疱疹』の病名だけ」
「小説って、そんなもんかも知れませんね」
「むしろ、覚えてる方じゃないの?
 何ひとつ残らない方が、普通かも知れないよ」
「で、お刺身焼いてみたんですか?」
「うんにゃ。
 読んだのは、高校時代だからね。
 部屋にコンロも無かったし。
 大学に入ってすぐに、生魚が食べれなくなって……。
 以来、お刺身は食べてないから」
「まぁ、Mikikoさんがいいんなら、構いませんけど……。
 美味しくなくたって、知りませんよ」
「美味しくないわけないよ。
 お刺身ってのは、生で食べれるほど新鮮な魚ってことなんだから。
 きっと今日は、長い間の思いが叶う日なんだよ。
 もう一つの思いも、叶ってほしいな~」
「なんです、もうひとつの思いって?」
「いけずぅ。
 知ってるくせに。
 今夜こそ逃がさんぞ」
「イヤな予感……」

 さて、お刺身をメインに、たっぷりと夕食を仕入れました。
 もちろん、本物のビールも。
本物のビール

 重そうだったので、エコバッグまで買っちゃった。

 川沿いの道を、美弥ちゃんと歩きます。
 春の夕暮れは早く、もう真っ暗ですね。
由布院・川沿いの道

「なんかさ~。
 こうやって、2人でレジ袋下げて歩いてると……。
 同棲してるみたいだね~」
「はぁ」
「もうちょっと、乗ってよ~。
 いいシーンじゃないのぉ」
「う~ん。
 ビールとお刺身下げてるってのが、ちょっとオシャレじゃないかも……」
お刺身のパック

「なるほど。
 ワインとローストビーフなんかの方が良かったか」
ワインとローストビーフ

「それに……。
 一番オシャレじゃないのは……。
 ここのような気が……」

 そぞろ歩きを楽しむ間もなく、今夜のお宿「とくなが荘」に着いちゃいました。

 お風呂棟には、明かりが点いてました。

「覗けるかどうか、調べてみようか?」
「止めてください!
 ほんとに覗けたら、犯罪ですよ」
「女が覗いても、犯罪になるの?」
「当然でしょ」

 美弥ちゃんは、さっさと“離れ”へと足を進めます。
 さすがに、ひとりで覗く勇気は無いです。
 もし、毛むくじゃらの男が入ってて……。
 目が合ったりしたら、タイヘン。
 そいつが、「きゃぁ」なんて言って、胸毛の繁る胸を隠したりしたら……。
 うぅ。
 背筋に鳥肌が立ちました。

「待ってよ~j

 慌てて、美弥ちゃんの背中を追いかけます。

「“離れ”は、そこそこオシャレだろ」
とくなが荘“離れ”

「そうですね。
 隣との気兼ねが要らないってのが、一番かも」

 ほかの2棟には、明かりが見えません。
 まだ着いてないのか、予約が無いのか……。

 さっそく、2人だけの宴会、開始です。

「カンパ~イ」
「カンパ~イ」
「うめぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「Mikikoさん、オヤジみたい。
 でも、ほんと美味しい」
「風呂上がりに……。
 本物のビール」
本物のビール

「目の前には美人。
 言うことないなぁ」
「お上手ですねぇ。
 何も出ませんよ」
「目の前に、こんなに出てるでないの。
 さっそくやってみよう。
 刺身のアブリ。
 パック開けて」
刺身のパック

「いきなりやるんですか?
 なんだかもったいないな」
「生で食えるものを、焼いて食べる。
 究極の贅沢なんじゃ、あ~りませんか。
 ほら、いい匂いしてきた」
「ほんとだ。
 でも、味付け無いですよ」
「いいよ。
 お刺身に付いてる醤油で」
 それじゃ、1番、いっただきま~す」
「どうです?」
「んまい!」
「ほんとに?」
「食べてみて」
「どれどれ。
 ……。
 ほんとだ!
 美味しい~」
「だろ~。
 生で食うヤツの気が知れんわい」
「あ、いいこと思いついた」

 美弥ちゃんは、そそくさと立って、自分のバッグを開いてます。
 何か取り出し、戻ってきました。

「これ使ってみましょうよ」

 美弥ちゃんが持ってきたのは……。
 湯の坪街道で買った“かぼす蜂蜜醤油”。
かぼす蜂蜜醤油

「美味しそうだけど……。
 開けちゃうの、もったいないじゃん」
「いいですよ。
 美味しかったら、ネットでも買えるみたいだし。
 味見、味見」
「それじゃ、遠慮無く……。
 ん!
 うまい!」
「じゃ、わたしも」
「どう?」
「美味しい!
 これ、リピします」
「それじゃ、わたしも……」

 自分のバッグから取り出したものは……。

「じゃじゃ~ん。
 “ゆずこしょう”ちゃん、登場~」
ゆずこしょう

「え~。
 いいんですか?
 お母さまへのお土産でしょ」
「いいの!
 美弥だけに、お土産提供させるわけにいかないじゃん。
 これを、炙った刺身の端に、ちょちょっと付けて……」
「どうです?」
「うまい!
 食べてみて」
「ほんとだ。
 お魚の脂に、“ゆず”の風味。
 合いますね」
「湯の坪街道で、これ買ったときは……。
 まさかその晩、焼いたお刺身につけて食べるとは、思いもしなかったよね」
「ほんとですね~」
「野菜も乗っけちゃおうよ」
「完全に、バーベキューになっちゃいましたね」
「夜に食べてもバーベキュ~」
「ぜんぜん洒落になってないんですけど」
「ははは。
 何が何だかわからないボケって、受けない?」
「微妙ですね~。
 外したら悲惨ですよ」
「そうだな~。
 あ、これも買ったんだった」
「油揚げ?」
「わたしは、生で食べるくらい、油揚げが好きでね。
 狐の生まれ変わりじゃないかと思うくらい。
 新潟県の栃尾ってとこ、今は長岡市になっちゃったけど……。
 そこには、有名な油揚げがあるんだ」
栃尾の油揚げ

「どうして有名なんです?」
「とにかく、分厚くてデカい」
栃尾の油揚げ

「焼いて食べると絶品だよ」
焼いて食べる栃尾の油揚げ

「さっき買って来たやつは、普通のペナペナ油揚げだけど……」
ペナペナ油揚

「これだって、焼いたら絶対美味しいよ」
「包丁、取ってきますね。
 あるかな?」
「コンロがあるんだから、包丁くらいあるでしょ。
 どう?」
「ありました。
 うわっ、いい匂い。
 香ばしい」
「油揚が焦げる匂いって、ほんといいよね」
「焼きすぎると、焦げちゃいそうですね」
「衣に色が付いたら、もういいんじゃないの?」
「それじゃ、こんなかな」
「手で取るなよ。
 火傷するからな」
「お箸で転がしますね」
「早く切って」
「セッカチなんだから。
 逃げませんから。
 じゃ、切りますよ。
 ちょっと、何で手を添えるんです。
 ひとりで切れますって」
「ふたりで行う初めての共同作業です」
「ウェディングケーキじゃないんですから!」
ケーキ入刀

「入刀~」
「うわっ、サクサク切れる。
 気持ちいい」
「ひとくち、あ~ん」
「もう!
 何つけます?」
「とりあえず、刺身の醤油でいいよ」
「それじゃ……。
 はい、あ~ん」
「あ~ん。
 はぐはぐはぐ。
 おい、ぴー!」
「なんで、のりピー語になるんです?」
「熱いんだもん。
 狐だけど猫舌なんだよ。
 でも、ほんと美味しいから。
 美弥も、食べてみ」
「それじゃ。
 ……。
 ほんとだ、美味しい!」
「だろ~。
 これ、最初から短冊に切っておいて、焼きながら食べてもいいかも」
「そうですね。
 じゃ、残りのは、先に切っちゃいましょう」
焼く前に油揚げを切る

「いいこと思いついた」
「また思いついたんですか?」
「この油揚げに……。
 焼いた刺身を載っける。
 で、ちょちょいと、かぼす醤油をつけて……。
 ほれ、どうよ?」
「美味しそうな、予感……」
「いただきま~す。
 んまい!」
「じゃ、わたしもマネっこしよ。
 こうやってと。
 どれどれ。
 ほんとだ!
 美味しい、これ」
「だろ~。
 即興でこういうの思いつくって……」
「料理の天才?」
「ははは。
 料理と言えるかどうかは……。
 ギモンだけどね」
「でも、美味しいことだけは確かですよ。
 この料理、名前付けませんか?」
「う~ん。
 何て名前にしようか?
 『刺身と油揚げを一緒に焼いてみました』ってのは?」
「そのまんまじゃないですか。
 それに、長すぎます」
「油揚げと言えば、キツネだよな。
 『キツネのコンちゃん、こんがり焼き』」
「お刺身が抜けてますよ」
「う。
 『刺身を持ったコンちゃん、こんがり焼き』」
「なんか……、残酷童話みたい。
 そうだ!
 北海道に、『ちゃんちゃん焼き』ってありますよね」
ちゃんちゃん焼

「だからこれは……。
 『Mikiちゃん焼き』!」
「お~。
 いいね、それ♪
 それじゃ、『Mikiちゃん焼き』に……。
 もう1度、乾杯!」
「乾杯~」

 春の夜長……。
 2度と無い1夜を、思い切り楽しみましょう。
 美弥ちゃんの瞳に、わたしが映ってます。
 ビールと……。
 『Mikiちゃん焼き』と……。
 由布院の夜に、もう1度、乾杯!

「Mikikoさん……」
「ん?」
「大丈夫ですか?
 さっきから、ビール片手に、船漕いでますよ」
「まだ、大丈夫。
 でも、あらかた食べちゃったね~」
「美味しかったもの」
「お昼、ステーキだったけど、お腹空いたよね」
「いろんなこと、ありましたもんね」
「ほんと、1日の出来事とは思えませんよ」
「九重の大吊橋からだからね」
九重の大吊橋

「誰かさん、お漏らししちゃいましたね~」
「それは、言いっこなし!」

「花山酔で、牛ステーキ食べて……」
牛ステーキ

「やまなみ牧場で、うさぎを抱っこして……」
「やまなみ牧場」うさぎ

「それから、由布院に来たんですよね」
「迷宮館に、醤油屋」
「湯の坪横丁の、ドクターフィッシュ!」
ドクターフィッシュ

「金鱗湖に、鍵屋。
 それからやっぱり、人力車のあんちゃんだよな」
人力車のあんちゃん

「それから、ここ。
 とくなが荘!
 一番のビックリかも」
とくなが荘

「ほんとに、いろんなことがあったね~。
 ふわぁぁぁぁぁぁ」
「ほら、Mikikoさん、やっぱりお眠むですよ」
「うんにゃ……。
 まだ寝ないぞ」

 と、強がったものの……。
 瞼は、すでに重力に逆らえなくなってました。
 美弥ちゃんに、肩を揺さぶられたのを最後に……。
 わたしの意識は、闇の中へと解けていきました。
 美弥ちゃんを乗せた人力車を引いて……。
 月夜の空を、どこまでも昇っていく夢を見ました。
月夜の空を昇っていく夢


++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
●3月24日(水)5日目

「Mikikoさん。
 Mikikoさん」
「ん……。
 何?
 今、何時?」
「朝です。
 もう9時を回ってます」
「しまった!
 また、やっちまった。
 くそー。
 最後の夜だったのにぃ。
 また、何も出来んかった。
 わたしの夜を返して」
「あれだけ飲んで食べたんだから、十分でしょ」
「うぅ。
 夜が帰らないんなら……。
 朝でもいいや。
 今、ここでしよう!」
「もう!
 シャワーも無いとこで、しません」
「げ!
 シャワーがあったら出来たのか?」
「そういうわけじゃ無いけど……。
 それより、Mikikoさん、大変なこと忘れてましたよ」
「なに?」
「朝食買い忘れてました」
「なんだ……。
 それがタイヘンなことなのか?」
「わたし、朝、食べないと力が出ないんです」
「旅行に来て、力出す用も無いだろ」
「そうですけど……。
 1日の始まりは、朝食からですよ」
「なんか、公共広告みたいだな。
 きのうのオカズ、残ってない?」
「みんな食べちゃいました」
「美味かったもんな。
 『Mikikoちゃん焼き』」
「ですね~。
 でも、ご飯もの食べなかったから……。
 お腹が持たなくて」
「それじゃ、チェックアウトしようか。
 最後の1日だからね。
 グダグダしてないで、思いっ切り楽しまなきゃ。
 若女将に、朝食食べれるお店、聞いてみよう」

 荷物をまとめ、新館へ。
 今朝も、若女将の笑顔が迎えてくれました。
 思いがけない、楽しい1夜をありがとう。
 心からのお礼を言って、とくなが荘を後にします。
 なお、若女将の顔写真が、下のサイトに出てましたよ。
「とくなが荘」若女将

 さて、駅前まで戻りましょう。
 とくなが荘からは、歩いて10分もかかりませんでした。

「今日は、どんな予定なんですか?」
「由布院駅から、電車に乗る」
「何時発?」
「12時02分」
「え~。
 そんなに先なんですか?
 まだ、10時前ですよ」
「朝食だけじゃ、間が持たないよね」
「お散歩でもしますか?」
「昨日、いっぱい歩いたからなぁ」
「じゃ、また人力車?」
「1区画じゃ、あっと言う間だよ。
 1時間くらいヒマ潰さなきゃならないからね。
 1時間の貸し切りコースだと、確か2人で15,000円だったよな。
 完全に予算オーバー」

 思案するわたしたちの耳に……。
 聞き慣れない音が。
大分に行こう!(5)目次大分に行こう(7)



 さて、今の金鱗湖です。
 水深は、深いところでも2メートルしかありません。
 でも、その湖底から、温泉が湧いてるんです。
 水温が高いので、冬は、湖面から水蒸気が立ちのぼります。
 湯布院盆地の朝霧は、金鱗湖から生まれるとも言われており……。
 冬の風物詩となってます。
朝霧の金鱗湖

 湖水をそーっと覗いて見ると……。
 ときおり、妙な小魚が見えるとか。
グッピー

 グッピーです。
 誰かが、飼えなくなって流したんでしょうね。
 こういう生態系を乱すことをしてはイカンな。
 ふつうの池なら、冬を越すことなど出来ないんでしょうが……。
 温泉の湧く金鱗湖では、生き残って住み着いたというわけです。

 湖畔には、ガチョウも住んでます。
金鱗湖のガチョウ

 観光客が投げる餌で、安楽に暮らしてるとか。
 蕎麦まで食うようです。
金鱗湖・蕎麦を食うガチョウ

 さて、1周400メートルの池を、一回りしてみてもしょうがありませんね。
 でも、それじゃ何しに来たのかと言われそうです。

 実は、湖畔に、寄ってみたい施設があったんです。
 それは……。
 「マルク・シャガール ゆふいん金鱗湖美術館
マルク・シャガール ゆふいん金鱗湖美術館

 熱狂的というほどではありませんが……。
 わたしは、シャガール(1887~1985)が好きなんです。
シャガール・枝

 このシャガール、新潟に来たことがあります。
 もちろん、シャガール本人が来たわけじゃありませんよ。
 本人は、25年前に亡くなってますからね。
 新潟に来たのは、シャガール展。
 今から、8年前のこと。
 先日まで、長岡にある県立近代美術館で、「奈良の古寺と仏像」展が開かれてましたが……。
「奈良の古寺と仏像」長岡市にある新潟県立近代美術館

 シャガール展が開かれたのも、この近代美術館。
長岡市にある新潟県立近代美術館

 有名な絵では、「誕生日」が来てました。
シャガール「誕生日」

 そのころはまだ、東京に住んでたので……。
 わたしは、新潟に回ってくる前の東京会場(東京都美術館)で見ました。
 もし今、シャガールが長岡に来たら、ぜったい見に行くでしょうね。
 仏像展は、行く気にならんかったけど。

 で、その「奈良の古寺と仏像」展ですが……。
 県外からも、大型観光バスがたくさん来てたようです。
 もちろん、熱心な仏教徒が、集団で仏像を拝みに来たというわけではなく……。
 美術品として、仏像を見に来た人たちですね。
 でも、仏像ってのは、そもそも美術品じゃないよね。
 仏師は、彫刻として仏像を作ったわけじゃありません。
 信者が、お寺で拝むために作ったわけです。
 つまり、美術館で見るもんじゃありません。
 アフガニスタンのバーミヤンで……。
 タリバンによる仏像破壊が問題になったことがありました。
タリバンによる仏像破壊

 先日亡くなった平山郁夫さんが、なんとか仏像を救いたいと訴えてるのを、テレビで見たことがあります。
 でも、わたしは仕方無いと思いますね。
 人類の歴史は、宗教戦争の歴史でもあるわけだからね。
 異教徒の崇敬物を破壊するってのは、ごく自然な行為だと思う。
 仏像を美術品のように扱って、貴重な遺跡だから残そうなんて考えが甘いと思いますね。
 歴史の中で、滅びるものは滅びるしかないです。

 話が、また脱線してますね。
 そう言えば、この仏像展ですが……。
 入場規制がかかるほどの盛況だったとか。
 県立の大きな美術館でさえ、そうなんですよ。
 この展覧会、当初は新潟市美術館で行われる予定でした。
「奈良の古寺と仏像」新潟市美術館

 それが、新潟市美術館で、カビが生えたりクモが沸いたりしたため……。
 文化庁が、展示を許可しなかったんです。
 それで、県立近代美術館に会場が変更になった。
 近代美術館は「公開承認施設」という施設で、文化庁の許可を必要としないそうです。

 で、この仏像展ですが……。
 もし、新潟市美術館で行われてたら……。
新潟市美術館

 大変だったと思います。
 建物自体は、前川國男の設計で、いいものなんですが……。
 県立近代美術館と比べ、規模は遙かに小さいです。

 それ以前に、新潟市美術館には、満足な駐車場も無いんです。
 観光バスが2,3台も入ったら、一般車なんか止められないと思う。
 場所も、海岸近くのドン詰まりみたいなとこだから……。
 渋滞するだろうし。
 県外からのマイカーなんかが殺到したら……。
 新潟市中が、交通マヒ状態になったんじゃなかろうか?
 たぶん今ごろ……。
 市長を始め新潟市関係者は、胸を撫で下ろしてるでしょうね。
 許可しなかった文化庁に、感謝してるかもです。
 もし開催されてたら、間違いなく混乱が起こり……。
 苦情が殺到してただろうからね。

 さて、「マルク・シャガール ゆふいん金鱗湖美術館」です。
マルク・シャガール ゆふいん金鱗湖美術館

 落ち着いた、いい雰囲気ですけど……。
 この美術館にあるのは、ほとんどがリトグラフ(版画)のようです。
「マルク・シャガール ゆふいん金鱗湖美術館」内部

 ま、有名な油彩なら、美術館本体の建設費より高いでしょうから……。
 仕方ありませんね。
 由布院に来ることなんて、もう無いかも知れませんから……。
 シャガールのそばまで行ったのに……。
 立ち寄れなかった、なんて後悔だけはしたくありませんでした。

「あー、気が済んだ」
「良かったですね。
 これから、どうします?」
「もう一箇所、覗いてみたいとこがあるんだ」

 金鱗湖のほとりに、「亀の井別荘」という旅館があります。
亀の井別荘

 由布院御三家のひとつに数えられ……。
 泊まってみたい旅館・全国ベスト10に、必ず入るという名館。
 ちなみに、御三家のあと2つは、「由布院 玉の湯」と「山荘無量塔(さんそうむらた)」。
 いいお宿なことは、“るるぶ”や“まっぷる”を見れば一目瞭然ですが……。
 値段が値段なんだから、良くて当たり前ですよね。
 最低でも、3万5千円。
 平均的なお部屋は、5万円ってとこじゃないでしょうか。
 もちろん、1人1泊の料金ですよ。
 2人なら、1泊10万円……。
 いったい、どんな人たちが泊まるんでしょうね。

 てなわけで、金鱗湖の「亀の井別荘」は、本日のお宿ではありません。
 なにしろ、とっくに新潟に帰ってるはずなのに……。
 まだ、大分にいるんですからね。
 カンペキに予算オーバーです。

 では、何で「亀の井別荘」に来たかと言うと……。
 旅館に併設された「鍵屋」というお店が目当てなんです。
鍵屋

 「亀の井別荘」が営む土産物店です。
「亀の井別荘」が営む「鍵屋」

 さすが御三家とあって、品揃えのセンスは“るるぶ”でも強調されてました。

 さて、店内には、食品から生活雑貨まで、さまざまなアイテムが揃ってます。
 「亀の井別荘」で使ってる、枕や器なども販売されてるようです。
「鍵屋」商品

 お宿には泊まれないけど……。
 関連グッズだけは手に入れたいって人も、かなりいらっしゃるらしいですね。
 ま、わたしもその一人ではありますが……。

 わたしが欲しかったのは、これです。
 馬油石鹸。
「鍵屋」馬油石鹸

 馬油は、バーユ(マーユ)と読みます。
 文字通り、馬から採った油。
 馬の脂肪を長時間煮て、不純物を濾過した油です。
 馬の脂肪は、人間の脂肪と成分が酷似しているそうです(↓原材料を見ると、ちょっと引きますけど)。
馬油の原材料

 そのため馬油は、人肌との親和性が非常に高いんだそうです。
 馬油の効能については、こちらのサイトさんのページが詳しいです→「http://www.neo-natural.com/bayu.htm」。

 本も出てます。
「馬の油」の成分に凄い薬効があった

 馬油は、乾癬にも良いそうです。
 実はわたし、もう使い始めてます。
 クリームですけど。
馬油100%のクリーム

 馬の油っていうと、何か臭いがしそうですが……。
 このクリーム、ほんっとに何の匂いもしないんですよ。
 なので、花粉症対策に、鼻の穴に塗る人もいるとか。
 鼻の通りが、良くなるそうです。

 わたしは、お風呂上がりに、手足に塗ってます。
 ハンドクリームとして使うのなら……。
 ほのかな香りがある方がいいかも?
 バニラの香りがお勧めです(これも買いました)。
ソンバーユ バニラ

 ただし、ネコちゃんを買ってる方は、バニラは止めといた方がいいかもね。
 手のクリームを、ぜんぶ舐め取られちゃうそうです。
 バニラの他には、ヒノキ、クチナシ、ジャコウの香りがあります。
 鼻の穴に塗る場合は、ヒノキがスースーして良いとか。

 さて、気になる効果のほどですが……。
 まだ、わかりません。
 使い始めたばっかりですからね。
 顔が長くなったり、ニンジンを食べたくなったりもしてません。

 さて、「鍵屋」の馬油石鹸です。
「鍵屋」の馬油石鹸

 これには、庭内の泉源から汲み上げた温泉水が練り込んであるそうです。
 馬油+温泉水。
 さらに、天然の柚子の香りも配合してあります。
 これで効かないはずはないって感じですね。
 1個1,260円しますが、これで効いてくれたら安いものです。

 さて、「鍵屋」を出るころには……。
 春の日も傾き始めました。

「これから、どうするんですか?」
「今日はもう、終わり。
 くたびれたぁ。
 あとは、宿に入るだけ」
「今日のお宿は、由布院なんでしょ?
 どこに取ってあるんです?」
「また、駅前まで戻らなくちゃなんない」
「え~。
 また駅まで、歩くんですか?
 20分以上かかりますよ。
 バスとか、通ってないのかな?」
「こんな細い道ばっかりだからな。
 途中、バス停なんか、無かったよね」
「そう言えば、客待ちのタクシーも見かけませんでしたね」
「止めておけるとこが無いからかね?」
「仕方ない。
 歩きますか。
 荷物も無いことだし」
「荷物、持ってみない?」
「鍵屋の石鹸?
 いいですよ」
「そんなんじゃないよ。
 荷物は、わたし。
 疲れちゃったから……。
 オンブして」
「バカなこと言わないでください。
 わたしだって、疲れてるんだから」
「じゃぁさ、交代でオンブするってのは?
 わたしが5分オンブしたら、美弥が10分」
「小学生じゃあるまいし。
 だいたい、なんでわたしが2倍オンブしなきゃならないんです?」
「若いんだから、いいじゃんよ。
 オンブ~」
「もう!
 とっとと歩きましょうね」
「痛い、痛い。
 腕が抜ける」
「抜けません。
 ほら、ちゃんと歩けるじゃないですか」
「歩いてるんじゃないよ~。
 引きずられてるんだよ~。
 わかったって。
 自分で歩くよ」
「ほんとですか?」
「おー痛て。
 手首に指の跡が付いたじゃないか。
 怪力女め……。
 アイアンクローが出来るんじゃないか?」
アイアンクロー

 画像を探してたら、こんなのもありました。
ネコクロー

「何か言いました?」
「いいえ」
「それじゃ、わたしが後ろから押してあげます。
 それ、ガンバ」
「お~、楽ちん楽ちん」
「5分ずつ交代ですよ」
「美弥は、10分」
「いやです」
「あ、美弥、ストップ」
「何です?
 まだ、5分経ってませんけど」
「あそこに、妙なヤツがいるぞ」
「どこ?」
「ほら、あそこ」
「あ」
「あれって、乗り物だよね」
「そうですね」
「しかも、あの様子……。
 ぜったい客待ちしてると思わない?」
「そんな感じですね」
「あ、目が合った。
 笑ったぞ」
「いちいち中継してもらわなくても、わかります」
「美弥、聞いてみて?」
「わたしがですか?
 わたし、男の人と話すの苦手なんですけど」
「ナンパしようってわけじゃないんだからさ。
 美弥が聞く方が、ぜったい喜ぶから」
「何を聞くんです?」
「決まってるだろ。
 2人乗せて、駅前まで行ってくれるかって聞くの。
 ほら、早く」
「押さないでくださいよ。
 あ、あの~」
「はい!
 いいっすよ。
 喜んで!」
「え?
 まだ何も言ってませんけど」
「聞こえてました」
「すいません……」
「どうぞ。
 そろそろ営業終了なんで、駅前ならありがたいっす」

 このあんちゃんの格好は……。
 股引きに法被、地下足袋を履いて、頭には菅傘を被ってます。
 傍らには、時代劇でしか見たことのない乗り物が……。
人力車

 人力車です。

「さあ、どうぞ」

 あんちゃんが、わたしを促します。
 さては、わたしが目当て?
 なわけ、ないわな。
 わたしの方が、あきらかに年上に見えるので……。
 わたしを先にしたんでしょう。
 でも、どうやって乗るの、これ?
 座席が、ものすげー高いんですけど。
 よじ登るわけ?

「あ、そちらに足をかけてもらって……。
 手はそこに。
 よろしければ、おれの肩も使ってください」

 お~。
 接遇マナーがなってるでないの。
 国鉄のボイってのは、こんな感じだったのかね?
 なんか、その気になって来る。
 明治の芸者さんみたいだな。

「車屋さん。
 三宅坂までやっておくれ」

 とかさ。
芸者と車夫

「Mikikoさん、ほら早くして。
 待ってらっしゃるでしょ」

 風情のないオンナだぜ。

「よっこらしょっと。
 あ……」

 つい、言っちまった。
 明治の芸者が、“よっこらしょ”は言わんわな……。

 美弥ちゃんは、あてつけのようにヒラリと乗り込みます。

 すかさず、あんちゃんが、赤い膝掛けをかけてくれました。
人力車の赤い膝掛け

 う~ん。
 ますます気分がいい。

「それじゃ、まいります」

 あんちゃんがわたしたちに背を向け、梶棒が上がりました。
車夫の背中

「高け~」
「ほんとですね」

 人力車の上は、思いがけないほど高く、見晴らしがいいです。
 道行く人が、見上げてます。

「ねえ、美弥」
「なんです、ひそひそ声で?」
「これって、いくら?」
「え?」
「値段だよ。
 メーターとか、どこにも付いてないよな」
「付いてるわけ、ないと思います」
「あんまり高いと、マズいんだけど。
 予算オーバーだから」
「聞いてみればいいでしょ」
「わたしが?
 美弥が、聞いてよ。
 ひょっとしたら、安くなるかも」
「そんなわけないですって。
 でも、聞いてみます。
 ……。
 Mikikoさん」
「なんだよ?」
「この方、なんてお呼びすればいいんですか?」
「う~ん。
 運転手さん……。
 じゃないよな。
 やっぱ、車屋さんじゃないの?
 ちょいと、車屋さん!」
「へい!」
「げ、聞こえちゃった」
「なんでしょう?」
「あのさ、ここから駅前まで行くと……。
 いくらかかるわけ?」
「あ。
 すみません。
 最初に料金のこと、説明しなきゃならんかったのに。
 あんまり美人を乗せたもんだから、舞い上がっちまいました」

 ほー。
 その美人には、わたしも含むのか?
 まあいい。
 あんまり追求して、高くなっちゃかなわんからな。

「料金は、1区画ごとの計算になります。
 1区画は約1キロで、おひとり様2,000円になってます。
 おふたりの場合は、3,000円です。
 そのほか、30分や1時間の貸切コースもあります(料金表
「で、駅までだと、何区画なの?」
「1区画だと、ちょっと出ちゃいますね~」
「なら、2区画?
 2人で6,000円かぁ。
 ちっと高いんじゃないの?」
「すんません」
「500円にならない?」
「……。
 個人でやってんなら……。
 お客さんみたいな人を乗せたら、絶対タダにするんですけどね。
 サラリーマンなもんで」
「会社組織なの?」
「はい。
 店は、ここのほかに……。
 小樽、浅草、鎌倉に……。
 京都が、東山と嵐山の2店……。
 あと、奈良と関門」
えびす屋・店舗一覧

「人事異動で、転勤とかもあるんですよ」
「げ。
 そうなの。
 まさか、車引きに転勤があるとは思わなんだ」
「実はおれも、前は函館にいたんです。
 でも、函館の店が無くなっちゃいましてね」
「なんで?」
「あの街は、冬場が開店休業状態な上に、かき入れ時の夏に雨が多くて……。
 ここなんかと違って、見所がバラバラに点在してますし。
 で、函館の店が無くなって、こっちに転勤になったってわけです」
「ふ~ん。
 由布院は、走りやすい?」
「楽っすよ。
 盆地で、坂が少ないし。
 女の車夫もいます」
由布院・女の車夫

「函館は坂だらけですからね。
 うっかりすると、止まらなくなっちゃうんですよ。
 ブレーキ付いてませんから」
「人力車って、どのくらい、スピード出るの?」
「そうですね……。
 マッハ3くらい出ます」
「うそこけ!」
「すんません。
 ウソです。
 でも、チャリなら追い抜きますよ」
「へ~。
 でも、この道じゃ、スピード出せないよね」
「観光客の多い街道は、無理ですね。
 じゃ、駅前まで2区画でいいっすか?」
「うんにゃ。
 駅方向に1区画分だけ」
「はぁ。
 わかりました。
 湯の坪街道を行きますか?」
「あの道は、さっき歩いたしな。
 脇道とか、無いの?」
「あります。
 でも、お店は何にも無いですよ。
 賑やかな道は、あの道1本なんで」
「そんなら、人も歩いてないから……。
 スピード出せるじゃん。
 出してみてよ、マッハ3」
「ほんとっすか?
 実は今日1日、歩きながらのガイドばっかりで……。
 いえ、それがイヤだってわけじゃないんですけどね。
 おれ、ラグビー部でウィングだったんで……。
 1日1回は、思いっきり足掻き回して走りたいんすよ。
 高校のときなんか、寝坊して乗り遅れたバス追いかけて……。
 途中で抜いちまったこともあります。
 あ、こりゃ走ったほうが早えーやって、そのまま学校まで行っちまいました。
 バスより3分早く着きましたね。
 こんな話してたら、ますます走りたくなっちまいました。
 サービスして、1.5区画分走ります。
 そんじゃ、こっちに曲がってと……」

 人力車は、小さな川に沿った道に出ました。

「この川、“大分川”って云うんですよ」
「大した名前だね」
「水の少ないときは、飛び越せます」

 広い道ではありませんが……。
 観光客は、ほとんど歩いてません。
由布院・大分川に沿う道

 岸辺には菜の花が咲いてます。
 春の小川ですね~。
由布院・菜の花の咲く大分川

「あ、ここが有名な『由布院 玉の湯』です」
由布院 玉の湯

 例の、御三家のひとつですね。
 道路からは、雑木林のような木立と、その中を、宿へと続く石畳しか見えません。
 打ち水された石畳には、木立の陰が映ってます。
 夏だったら、この石畳に踏み込んだだけで、温度が違うかも知れません。
由布院 玉の湯・打ち水された石畳

 まさしく、別世界へのエントランスって感じですね。
 しかし、この庭、年間いくらくらい維持費がかかるんでしょう。
 ちょっと想像がつきません。

「あ、さっきの迷宮館」
由布院・トリックアート迷宮館

 美弥ちゃんが、小川の向こうを指さしました。
 なるほど。
 あの裏手にあたるのか。

「塩梅よく車も見えないようなんで……。
 それじゃ、走らせてもらいますよ。
 しっかりつかまっててくださいね」

 梶棒が、ぐいっと上がりました。

「舌噛むといけませんから、歯食いしばっててください。
 それじゃ、行きまっせ~」

 あんちゃんのシシャモみたいなふくらはぎに、ぐっと力が籠もりました。
シシャモみたいなふくらはぎ

 その途端……。
 がくんとショックを感じ、背もたれに背中が張りつきました。
 Gを感じるほどの出足です。

「そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 咆哮と共に、いきなりフルスロットルです。
 掻き回す足が、霞んで消えてます。
 こいつ、マジ早えぇ。

「ありゃありゃありゃありゃありゃありゃ」

 風景の輪郭が流れ始めました。
流れる風景

「ひぇぇぇぇ」

 思わず、美弥ちゃんの手を握り締めます。
 幌が風を孕み……。
 一瞬、車輪が浮き上がったように感じました。
 脳裏に一瞬、「E.T.」の一場面が……。
「E.T.」の一場面

 このまま、由布院の空に駆けあがるかと思えた途端……。
 がっくりと、スピードが落ちました。
 消えていたあんちゃんの脚が、輪郭を現しました。
 へろへろです。
 どうやら、ガス欠のようです。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。
 か、感じてもらえましたか……?
 い、今……。
 一瞬ですけど……。
 音速を……、超えました」
「はぁ、はぁ、はぁ。
 ウ、ウソ、こけ……」
「はぁ、はぁ。
 すんません。
 ウソでした」

 肩で息するあんちゃんは……。
 まるで、大八車を引くジイサマのようです。
大八車を引くジイサマ

「このまま、店まで戻りますんで……。
 乗ってていいですよ。
 割り増しはいただきません」

 あんちゃんはそう言ってくれたんですが……。
 降りることにしました。
 “るるぶ”の地図を見ると……。
 見えて来た橋は、大分川と白滝川の合流点に架かる「城橋」のようです。
大分川と白滝川の合流点に架かる「城橋」

 ここで降りれば、今日の宿はすぐそこなんです。

 あんちゃんは、しきりと名残を惜しんでくれます。
 わたしも、この脳味噌筋肉質のあんちゃんに、情が移りかけちゃいました。
 美弥ちゃんなんか、涙ぐみそうな顔してます。
 このあんちゃんとは……。
 もう、一生会うことが無いかも知れないんだ。
 そう思ったら……。
 わたしの目頭にも、思わず熱いものが……。

 春の夕暮れ。
 菜の花の咲く川縁の道を……。
 へろへろと遠ざかっていく人力車を見送りながら……。
 人の世の儚さと……。
 儚い世を、一生懸命生きてる人たちへの愛しさで……。
 小さな胸が、いっぱいになりました。

「さ、気を取り直して……。
 もう少し、歩くぞ!」
「はい。
 夕べの別府は、ホテルだったから……。
 由布院では、旅館ですか?」
「うんにゃ」
「じゃ、ホテル?」
「うんにゃ」
「なら、なんなんですか?
 あ、また国民宿舎?」
「うんにゃ」
「もう!
 どこに泊まるんです!」
「今日はね……。
 貸別荘だよ~ん」
「え~。
 おしゃれですね~」

 美弥ちゃんの瞳の中には、バラの花が飛んでました。
 おそらくは、森の中の隠れ家みたいな、ペンション風佇まいを想像してるんでしょうね。
森の中のペンション

「あのね。
 言っとくけど……。
 美弥が想像してるのとは、違うと思う」
「なんでです?」
「だから、日程オーバーで、予算が無いわけ。
 従って、高いとこには泊まれません。
 なので、今日の宿は、“安い”というキーワードで探したの」
「でも、別荘には違いないんでしょ?
 ペンション級じゃなくても……。
 バンガローみたいだって、十分おしゃれじゃないですか?」
バンガロー

「お~。
 バンガロー!
 ひさびさに耳にしたね。
 そう言えば子供のころ、『テレビ探偵団』って番組があってさ。
テレビ探偵団

 昔のテレビ番組を紹介するわけ。
 三宅裕司が司会だったな。
 泉麻人がコメンテーターでさ。
 で、ゲストで出た陣内孝則が……。
 財津一郎のギャグを披露してた。
 財津一郎、知ってる?
 財津和夫じゃないよ」
「知りません」
「こないだ亡くなった藤田まことの『てなもんや三度笠』なんかに出てた人」
てなもんや三度笠・財津一郎

「わたし、一時期、『てなもんや三度笠』とか、昔のお笑いビデオに凝ってたことがあってね。
 東京にいたとき、よく借りてたんだよ」
「それで、バンガローがどうしたんです?」
「だから、財津一郎が、山小屋をバックにした舞台に登場して……。
 開口一番、発したギャグだよ」
「なんて言ったんです?」
「“昼間借りても、バンガロ~”」
「……」
「面白くない?」
「あんまり」
「え~。
 面白いと思うけどな」
「で、今日の宿は、そのバンガローなんですか?」
「だから……。
 ペンションとか、バンガローとか……。
 そう言う横文字は、似合わない可能性がある」
「なんでです?」

 大分川に沿って歩むうち……。
由布院・大分川に沿って歩む

 本日のお宿の看板が、わたしの目に飛び込んで来ました。

「あったよ、貸別荘」
「え?
 どこです?」

 美弥ちゃんは、伸び上がってあたりを見回してます。

「わたしに見えてるんだから、美弥が伸び上がる必要ないでしょ」
「だって、別荘らしい建物なんて、見えませんよ」
「看板があった」
「どこ?」
「わたしの指の先」
「……。
 あ」
温泉付貸別荘

「あったでしょ?」
「あれって……。
 ほんとに別荘の名前なんですか?」
「看板に書いてあるじゃないか。
 『温泉付貸別荘』って。
 温泉マークまで付いてる。」
「だって!
 『とくなが荘』ですよ!
 昭和のアパートじゃないんですから」
「そう言えば……。
 東京で、わたしが初めて住んだアパートは……。
 『平安荘』だったな」
「そんな思い出話はいいですけど……。
 なんで、ここにしようって思ったんです?」
「さっきも言ったろ?
 あれだよ。
 あれに尽きる」
ゆふいんで1番安い宿

「“ゆふいんで1番安い宿”……。
 ほかを、あたりませんか?」
「もう予算が無いの。
 人力車も乗っちゃったし」
「Mikikoさんが、乗ろうって言ったんでしょ!
 こんなことなら、オンブして来れば良かった」
「だろ~。
 わたしをオンブしなかった祟りじゃ」
「勝手なこと言って。
 1番安くなくたって、いいじゃないですか?
 2番じゃ、ダメなんですか?」
「おまえは、蓮舫か!」
蓮舫

「第一、ここで引き返すわけにはいかないだろ。
 なにしろ、『ゆふいんチッキ』で、荷物ここに送っちゃってるんだから」
「あ、そうか」
「だろ。
 少なくとも、顔は出さにゃならんわけ。
 美弥、そこでキャンセルできる?
 やっぱ、止めますなんてさ」
「……。
 出来ません」
「よし、じゃ入るぞ」

 玄関前です。
とくなが荘・玄関

「ここ絶対、別荘じゃない……」

 勇気を奮って、玄関の引き戸を開けます。
 引き戸ってのが、すでに“別荘”的じゃありませんよね。
とくなが荘・新館玄関

「いらっしゃいませ!」

 思いがけない若い声に驚きました。
 外観から受ける連想では……。
 三途の川の奪衣婆のようなのが、帳場に座ってると思ったんですが……。
三途の川の奪衣婆

 ここの娘さんでしょうか?
 溌剌とした笑顔に迎えられ、こちらの頬も、やや緩みます。

「お世話になります」
「お待ちしてました」

 美弥ちゃんも、一緒に頭を下げます。
 すでに、キャンセルできる雰囲気では無くなりました。
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