これは、第308回から第334回までのコメント欄で連載した、「福島に行こう!(Ⅰ~ⅩⅩⅤ)」を、『紙上旅行倶楽部』の1本としてまとめたものです。
量が膨大となるので、(Ⅰ~Ⅲ)に分割しました。
お待たせしました!
「紙上旅行倶楽部」、待望の第3段です。
待ってなくても、進めるけどね……。
1ヶ月に1回はやりたいと思ってたんですが……。
ちょっと間が空いちゃいましたね。
こんなペースでやってると……。
全都道府県回るのに、5年以上かかっちゃいます。
と言うことで、今回はムリヤリ企画しました。
考えてみれば、前の2回はキッカケがあったんですよ。
北海道のときは……。
フェリーのスイートに乗りたいなぁって話をして……。
その流れで、北海道旅行を企画することになったんでした。
島根のときは、その前にヤマタノオロチのコメント書いてて……。
出雲に行きたいって思った。
でも今回は、そういう動機がありません。
どこに行こうかと、迷いました。
で……。
初回の北海道、2回目の島根と……。
30万円コースを連発しちゃったので……。
今回は、近場で安価であげることにしました。
ボーナス前だしね。
と言うことで……。
一番身近な隣県、福島県に行ってきます。
わたしにとっては身近でも……。
みなさんのお住まいから離れてれば、旅情も感じていただけるかと……。
さて、日程ですが……。
11月3日の文化の日が、火曜日です。
なので、11月2日に有給休暇を取れば……。
10月31日から4連休になります。
ということで、10月31日からの2泊3日に決定!
今回のコンセプトは、“節約旅行”です。
露天風呂付き客室なんかには、泊まりませんよ。
もちろん飛行機にも乗らないから、相当安くあげられるはず。
やっぱり、ほんとに行けるかもって旅程にしないと、臨場感ないしね。
今回は、自腹で行くつもりで考えてみました。
さて、旅のお供ですが……。
前2回は、全美貞ちゃんにお願いしたんですが……。
彼女、シーズンが終わって、韓国に帰っちゃいました。
と言って……。
晩秋の女一人旅では、あまりにも寂しいので……。
お供がほしいです。
で、誰にお願いしようかと思案を巡らせたところ……。
いました、いました。
というわけで、今回わたしと一緒に旅をしてくれるのは……。
この人です!
「みなさん、こんにちは。
藤村由美です♪
いつも『由美美弥』読んでもらって、ありがとうございます。
今日は、Mikikoさんに呼び出されて新潟まで来てます」
「嫌々来たみたいじゃないか」
「だって!
行き先が福島なら、わざわざ新潟回ることないじゃないですか。
現地集合にしてくれればよかったのに」
「ばかもん!
出張に出るわけじゃないんだぞ。
旅というのは、現地に着けばいいってもんじゃない。
行き着くまでの過程を楽しむのが、旅ってもんだろ」
「そんなら、新潟までの旅費、Mikikoさんが出してくださいよ。
ちょっと!
また聞こえないふりする!」
さて……。
気にしないでいきましょう。
◆10月31日(土曜日)【1日目】
新潟から福島に行く方法は、2通りあります。
1つは高速道路。
磐越自動車道が通っていて、高速バスの路線があります。
もう1つは鉄道。
磐越西線が通じてます。
まぁ、普通は高速バスを使いますね。
鉄道より早い上に安いんだから、勝負になりません。
なにしろ磐越西線には、特急も急行も走ってないんですから。
でも……。
わが「紙上旅行倶楽部」では、あえて鉄道を使います!
なぜでしょう?
「こら、由美!
ぼーっとしない!
答えてください」
「いきなり振らないでくださいよぉ。
あー、びっくりした。
そんな理由、わかるわけないじゃないですか。
福島なんか、行ったことないんだから……。
あ、ひょっとして、バス酔いするから?」
「ブ、ブー!。
大人になってから、バス酔いはしなくなりました」
「それじゃぁ……。
ぜんぜんわかんない。
Mikikoさんが天の邪鬼だから?」
「ばかもん!
天の邪鬼なことは認めるが……。
天の邪鬼で旅程組むほど、ヘソ曲がりではない。
さて、もう2回間違ったぞ。
今度間違ったら、カエルにするからな」
「デーケドンですか!(198のコメント参照)
もう、降参しますから、教えてくださいよ」
「しかたないのぅ。
それでは教えてつかわそう。
磐越西線には、SLが走ってるからじゃ!
……。
なんじゃ、その点目は?」
「SLって、何ですか?」
「なにー!
SLも知らんのか?
日本の学校教育は何を教えてるんだ!
SLというのは……」
「SLというのは?」
「シリアス・レズビアンのことじゃ!」
「うそ!」
「よく嘘とわかったな?」
「あたりまえでしょ。
鉄道と関係ないじゃないですか。
てか、Mikikoさん……。
この会話、ちょっと引っ張りすぎじゃないですか?」
「ははは。
これも、行数を稼ぐテクニックでな。
脱線と会話は、行数稼ぎには一番おいしいんじゃ。
でもまぁ、このくらいにしておこう。
SLとは……」
「SLとは?」
「スクール・レズ……。
痛てっ!
殴ることないだろ!
「読者に変わって鉄槌です!」
「案外気が短いな……。
そんな子に造形したつもりはないんだが……。
まぁいい。
それじゃ本題に入ろう。
SLというのは、『Steam Locomotive』、すなわち蒸気機関車のことじゃ」
「それだけのこと言うのに、これだけ引っ張ったの?」
そうでーす。
それでは、出発の前に、磐越西線を走るSLについて説明しましょう。
愛称は、「SLばんえつ物語」号です。
新潟から福島県の会津若松まで、定期運行されてます。
型式は「C57」。
ちなみに、機関車の型式に付く「C」とか「D」の意味ってわかります?
これは、軸で繋がれた動輪の数なんですね。
つまり、「C」は動輪が3つ、「D」は4つってわけ。
詳しいでしょう?
昔、関口知宏さんが「片道切符の旅」をしてたころ……。
鉄ちゃんの集まるみたいな特番があり、そこで覚えました。
磐越西線の起点は新津駅です。
新津は、鉄道の要衝として発展した町ですが……。
その新津第一小学校に、昭和44年(1969年)に引退した「C57」が保存されてたんですね。
保存場所には、屋根がかけられ……。
年2回、研磨・油さしなどの整備が続けられてたため……。
非常に保存状態が良かった。
というわけで、30年ぶりに現役復帰したんです。
今から10年前、1999年のことでした。
と、長々と偉そーに書いてますけど……。
乗ったことありません(汗)。
なので今回が、初体験ね(実際には乗らないけど……)。
さて、10月31日です。
磐越西線の起点は新津駅ですが……。
「SLばんえつ物語」号の始発は、新潟駅です。
1台しかない車両なので、当然1日1往復。
会津若松行きは1便しかないので……。
選択の余地はありません。
新潟駅の発車時刻は、9:43。
早からず遅からず、いい時間ですね。
各駅の発車時間は、次のとおり(会津若松のみ到着時間)。
新潟(9:43) → 新津(10:14) → 五泉(10:30) → 咲花(10:46) → 三川(11:02) → 津川(11:29) → 日出谷(11:46) → 野沢(12:18) → 山都(12:49) → 喜多方(13:07) → 塩川(13:17) → 会津若松(13:31)
新潟駅への入線は8:53なので、早めに行って記念写真を撮りましょう。
それでは、出発進行!
スゴい汽笛の音!
由美ちゃんは耳押さえちゃってますよ。
沿道の踏切では、子供を連れた見物の人が手を振ってくれてます。
それに応えて、私たちも手を振ります。
見物の多い踏切では、汽笛も鳴らされます。
もちろん、窓は全開。
ちょっと寒いけど、気持ちがいい。
石炭の燃える匂いが、旅情をそそりますね。
磐越西線は、阿賀野川に沿って敷かれてます。
会津へは、阿賀野川を源流へと遡る旅です。
風光明媚。
阿賀野川に、晩秋の光が踊ってます。
山々は紅葉の真っ盛り。
客席から歓声があがるほど。
いやー、SLの旅、大正解ですね。
さっきの時刻表を見てもらえばわかりますが……。
会津若松まで、3時間48分かかります。
高速バスだと、2時間切るんですよ。
でも、この4時間近い旅、ぜったいに飽きません。
しかも!
こんな楽しいSLの旅なのに……。
料金が安い。
乗車券は、新潟から会津若松まで、2,210円です。
このほかにかかるのは、指定席料の510円だけです。
特急券も急行券もいりません。
なぜならこのSL、「快速」扱いだからです。
駅を飛ばして走るけど、スピードは普通列車並みですから。
速い列車には割増料金がいるけど……。
楽しい列車にはいらないんですね。
「どう、由美ちゃん?
新潟回りで福島行く乗ってのも、悪くないでしょ」
「はい!
前言撤回です。
Mikikoさん、ありがとう♪」
「よしよし、素直でよい子だ。
ところで、そろそろお腹が空かないかい?」
「え……。
まだ、11時ですよ。
朝ご飯、食べなかったんですか?」
「しっかり食べた。
普段は、お昼食べないしね」
「じゃ、なんで?」
「旅を共にする人と、美味しいものを一緒に食べるってのは……。
旅の楽しみのひとつでしょ?」
「はは。
それには異存ありませんけど~。
じゃ、お弁当買いに行きます?
さっき行った展望車の隣に、売店がありましたよね。
確か、『SLばんえつ物語弁当』とか売ってた」
「売店では買わないの」
「何で?」
「駅弁というのは、駅で買うものだからじゃ」
「じゃ、新潟駅で買ってから乗れば良かったじゃないですかぁ」
「ばかもん!
それじゃ面白味がないわい。
途中駅で買うのが、醍醐味なの!」
「でも、今までの駅でお弁当なんて売ってましたっけ?」
「これから止まる駅で売っておる」
「次は……。
津川ですよね。
じゃ、津川で買えるんだ?」
「否!
その次の日出谷で買う」
「日出谷に着くのは……。
11時43分か。
ちょうどいい時間ですね。
じゃ、日出谷でお弁当……。
……、ふご、ふご。
ちょっと、いきなり口塞がないでくださいよ!
なんなんですか!」
「声が高い!
前かがみになって、顔を寄せろ」
「……。
なんで、こんな密談ポーズしなきゃいけないんです?」
「日出谷駅で売ってる『とりめし』を買おうとしてるからじゃ」
「それがどうして密談なんです?」
「少量生産のため、希望者全員は買えないんじゃ」
「予約しとけばいいんじゃないですか?」
「駅売りでは、予約はできん。
ただただ、早いもの勝ち」
「そんなぁ。
わたし、足遅いからムリです。
Mikikoさん買って来てくださいよ」
「由美が足遅いなんて設定、書いてないぞ。
高校時代陸上部で、インターハイにも出たことにしようか?
ハードルの選手で、人の頭を飛び越して行く……」
「勝手に作らないでください。
わたしには似合いませんって」
「まぁ、安心しろ。
わたしには、秘策がある」
「どんな?」
「日出谷駅での『とりめし』は、ホームの待合室で売られるそうな。
そして、その待合室に一番近いのは、前よりの2号車あたり」
「えー。
じゃあ、あたしたち、めちゃめちゃ不利じゃないですか。
ここ、最後尾の7号車ですよ」
「7号車からホームに飛び出しても……。
まず、買えないだろうね」
「じゃ、どうするんです?」
「少しは考えろ!
日出谷に着く前に、2号車に移動しとけばいいだろ」
「そうか!
さすが、Mikikoさん。
ずる賢い!」
「頭がいいと言え!」
「はいはい。
それじゃ、津川過ぎたら2号車行きましょうね」
「愚か者!」
「なんで!」
「日出谷の手前で車両移動なんかしたら……。
ライバルたちを刺激するでしょ。
一斉に浮き足立って、ぞろぞろ移動し始めたらどうする?
条件が一緒になっちゃったら、オンナには不利だろ」
「じゃ、どうするんです?」
「だから、作戦があると言っておる。
いいか。
次の駅、すなわち津川では16分も停車する。
給水や点検が、成されるわけだな。
で、「石炭ならし」とかの風景を撮るために……。
鉄っちゃんたちが、たくさんホームに降りるの。
それに紛れて、わたしたちも降りる。
で、記念撮影なんかしながら、さりげなく16分やり過ごして……
ぎりぎり最後に乗車する」
「それのどこが作戦なんですか?」
「つくづく勘の鈍いオンナだな。
読者はもう気づいておるぞ」
「じらさないで、早く言って!」
「だから!
さりげなく、2号車に乗車するの!
そして、そのまま扉付近にとどまる。
どうだ!」
「なるほど!
それなら、間違いなくトップで待合室に駆けこめますね」
「だろー」
「さすが、Mikikoさん。
卑怯なこと考えさせたら日本一!
痛いっ」
作者を嘲弄するケシカラン主人公に鉄槌!
さて、そうこうするうち……。
11:13、津川駅到着です。
発車は、11:29。
お天気もいいので……。
案の定……。
たくさんの人がホームに下りて来ました。
おー、「石炭ならし」やってる!
作業する方のユニホームも、「国鉄」って感じでいいですね。
さて、由美ちゃんと2人、天真爛漫を装いながら発車時刻を待ちます。
まさかこの2人が、どす黒い企みを抱いていようとは……。
お釈迦様でも、気がつくめぇ。
いかにもトロい女2人組を演じつつ、最後尾から乗車します。
もちろん、2号車に……。
扉が閉まると、2人で顔を見合わせニターリ。
もう、勝ったも同然です。
しかし……。
そう思ったのは、束の間でした。
日出谷駅到着は、11:43。
津川からは、14分しかありません。
津川を出てしばらくすると……。
続々と扉付近に人が集まってきました。
間違いなくライバルたちです。
屈強そうな鉄っちゃんもいます。
扉に貼りついてるとは言え……。
待合室まで、どのくらいの距離かわかりません。
ちょっとでも離れてたら、きっと抜かされます。
額から頬へ、冷たい汗が流れます。
由美も、怯えた視線で見上げてきます。
もうすぐ日出谷駅。
緊張が高まります。
運動会のスタート前みたいな気分……。
うんこが出そうな感じ……。
わたしは、由美の耳元に顔を寄せました。
「作戦変更。
よく考えたら、2人して買いに行く必要はない」
「え?
じゃあ、Mikikoさんが2人分買ってきてくれるんですか?」
「ばかもん!
買いに行くのは由美!」
「そんな!
Mikikoさんは見てるだけ?」
「ばかたれ!
わたしが決死隊になるんじゃ。
ここに残って、ライバルの降車を阻止する!」
「そんな!
卑怯すぎ!」
「ほら、もう日出谷駅に着くぞ!」
扉が開くと同時に、わたしは由美の背中を押した。
2分後……。
「Mikikoさ~ん、買えました!
ちゃんと2つ買えました。
あれ?
Mikikoさん、なんで扉の前で潰れてるんです?
背中の上、靴跡がいっぱい……」
由美ちゃんに引きずられるようにして、ようやく席に戻りました。
命を張って手に入れた「とりめし」です。
膝の上で開きます。
茶飯の上に、鶏そぼろと煎り卵が載ってます。
真ん中を仕切るのは、青海苔と梅干し。
色からもわかるとおり、茶飯は薄味。
鶏そぼろは……。
はっきり言って、かなり甘いです。
上にあるおかずは、左から……。
昆布の佃煮、タクアン、キュウリの漬け物、ショウガ、しいたけの煮物、パイン2切れ。
そこに、わたしの涙をかけていただきます。
容器はさほど大きくないので……。
あっという間に完食でした。
さて、無事「とりめし」をお腹に収めたら……。
再び窓外に目を移しましょう。
列車は、阿賀野川を右に左に渡りながら……。
ずっと川に沿って走ってきました。
日出谷を過ぎると、その阿賀野川の流れが緩やかになり、川幅も広がります。
まるで湖のようです。
阿賀野川にかかる橋梁を、またまた渡り……。
日出谷からずっと右側を沿っていた阿賀野川が、左側に移ると……。
ここはもう福島県です。
山都駅では、「山都そばSL弁当」の立ち売りがされてました。
「とりめし」を買いそびれたと思われるお客さんが……。
買い求めてましたね。
合掌……。
さて、山都を過ぎると、ずっと併走して来た阿賀野川ともお別れです。
これから列車は、最後の山越え。
上り坂のSLって、ほんとに生き物みたいですよね。
性的な魅力を感じるほど力強いです。
やっぱり……。
ピストンの動きを想像しちゃうからなんでしょうか……。
由美ちゃんの頬も、心なしか上気してるみたいです。
峠の慶徳トンネルを抜けると、喜多方です。
ラーメンの町として有名ですね。
時間があったら、立ち寄りたいとこなんですが……。
残念ながら、旅程の折り合いが付きませんでした。
また今度……。
2回目の「福島に行こう!」開催の折には……(国体か!)。
ぜひ、寄りたいと思います。
喜多方を過ぎると、にわかに景色が開けました。
会津盆地の田園風景が広がります。
背後には磐梯山の山並み。
最後の停車駅、塩川を過ぎ……。
列車は、ようやく会津若松に到着しました。
13:31です。
新潟を出たのが、9:43ですからねー。
3時間48分の列車の旅でした。
楽しかったなぁ。
「とりめし」も食べれたし……。
福島への旅、順風満帆の出だしですね(Ⅵ回にして、まだ出だしか……)。
さて、会津若松駅に降り立ちました。
なんだか、まだ……。
蒸気機関車のラッセル音が、体内に響いてる感じです。
わたしが、ホームを繋ぐ跨線橋を上ろうとすると……。
「Mikikoさん!
階段使わなくても、あそこから改札行けるみたいですよ」
「ばんえつ物語」号が着いたのは2番線。
1,2番線は、行き止まりの頭端式ホームなので……。
ホーム先端を回りこめば、階段使わなくても改札まで行けるんです。
「こっちでいいの。
乗り継ぎするから」
「会津若松の観光、しないんですか?」
「ちゃんと、別の日にとってあるよ。
これからまた、面白い列車に乗せてあげる」
「ほんと?
なんだろ?」
「会津鉄道」
「え?
JRじゃないんですか?
私鉄なら、いったん改札出なきゃダメなんじゃないですか?」
「会津鉄道と云っても……。
旧国鉄の会津線が、第三セクターに引き継がれたんだよ。
だから、ホームはJRと一緒なの」
「へー」
「さ、早く階段上ろ。
そんなに時間ないからね」
ホームには、すでに列車が待ってました。
「なんだ。
普通の電車じゃ無いですか。
しかも、3両しかないし……」
「よく見ろ」
「うわ!
なになに、この電車。
ヘン!」
「ユニークと言わんかい!」
会話だけで説明してると、ラチが開かないので……。
地の文で説明します。
会津鉄道のホームページ()、「お座トロ展望列車」と書かれてるとおり……。
先頭が「お座敷」車両、真ん中が「トロッコ」車両、後尾が「展望」車両という編成。
どのタイプの車両に乗るかは……。
「トロッコ整理券」というのを購入(300円)するときに決めます。
席数分しか販売されないので……。
満席だと乗れないことになりますが……。
まぁ、大丈夫でしょう。
わたしたちの乗った列車には、「会津浪漫星号」という名前がついてました。
「Mikikoさん、どの車両乗ります?
展望車両ってのが、綺麗そうじゃないですか」
「たしかに、座席は展望車両が一番いいらしい。
でも、会津若松発の便は、展望車両が最後尾になっちゃうからな」
「じゃ、トロッコ車両にします?
でもなんか、一番普通の席ですね」
「もっと早い時期だと良かったんだけどね。
10月中旬まで、この車両、窓が無いんだよ」
「あ、それでトロッコなのか!」
「そゆこと」
「なんだー。
窓があったら、ぜんぜんトロッコに見えないですよね」
「てことは、残るはひとつだね。
お座敷列車に乗ろう」
「うわ。
かわいい掘りごたつ!
見て見て、2人差し向かいの掘りごたつですよ。
この車両、ぜったいに正解!
美弥ちゃんと乗りたかったなぁ」
「わたしじゃ、不満かい!」
「ごめんなさ~ぃ。
つい本音が……」
あとで泣かす……。
さて、2人を乗せたトロッコ列車は、13:50、会津若松駅を発車しました。
晩秋の会津路を、のんびりと走ります。
「楽し~。
ほんと、動くお座敷ですね」
鉄道に速さだけを求める時代は、もう終わったんじゃないでしょうか?
リニアモーターカーなんて、ほんとに必要なの?
速く着きたいんなら、飛行機を使えばいいでしょ。
それより鉄道会社は……。
乗ってること自体の楽しさを、提供すべきなんじゃないでしょうか。
その意味では……。
「SLばんえつ物語」号とか、トロッコ列車とか……。
大正解。
ほんとの鉄道の良さを感じさせてくれます。
「さて、次で降りるぞ」
「え~。
まだ終点じゃないんでしょ?
由美、もっと乗るぅ」
「ダメ!」
わたしだって、名残惜しいけど……。
このまま終点の会津田島まで行っちゃったら、その後の旅程が苦しくなるので……。
ぐずぐず言う由美を引きずって、湯野上温泉駅で降ります。
14:47。
改札を抜けたところで、由美が立ち止まりました。
「Mikikoさん。
これって、囲炉裏ですよね?」
駅舎の中に囲炉裏が切ってありました。
駅舎を出たら、背後の駅を振り返ってみましょう。
「Mikikoさん、この駅、藁葺き!
藁葺き屋根の駅なんて、初めて見ました」
「藁葺きでなくて、茅葺き!
茅葺き屋根の駅舎は、日本でここだけだって。
建物がL字型になってるでしょ。
これは、曲がり家と云って、東北の農家の造りなの。
L字の長い棒が母屋だとすると、短い棒が厩。
馬は、家族と一緒に家の中で暮らしてたの。
農耕を助けてくれる馬を、それだけ大切にしたってことだね」
「へー。
じゃぁ、この駅にも馬がいたんだ」
「いません!
この駅は、昭和62年に建てられたものです」
さて、駅前からタクシーに乗ります。
「どこ行くんです?」
「江戸時代」
「え?」
「行って見ればわかるよ」
空いてれば、10分ほどで着くはずなんですけど……。
紅葉時期の4連休ですからねぇ。
大渋滞して、ヘタすると2時間くらいかかるかも知れません……。
でもこの日は、奇跡的(ご都合主義的)に、スムーズな道のり。
ほどなくタクシーは、大きな駐車場に着きました。
駐車場からしばらく歩くと……。
アスファルト舗装が、土舗装に変わります。
「うわっ。
何ここ?
時代劇の撮影所ですか?」
「ばかもん!
ここは、大内宿と云って、昔からの街道添いの町並みなのじゃ」
知ってる方も多いかと思いますが……。
大内宿について、少しだけ説明しておきましょう。
大内宿は、日光から会津若松に通じる、会津西街道(別名・下野街道)沿いの宿場町です。
江戸時代……。
会津藩はもちろん、新発田藩(新潟県)、村上藩(新潟県)、米沢藩(山形県)の参勤交代が、この街道を使いました。
年貢米も通る、まさしく交通の要衝。
その街道沿いの宿場町として、大内宿は大いに賑わってました。
ところが!
明治17年。
日光街道が会津まで伸びると、事情は一変します。
日光街道は、関東と会津を最短距離で結んだうえ、道幅も広かったので……。
下野街道は、あっという間に廃れました。
大内宿は山間の僻村と化し、時代から取り残されることになります。
でも、それが逆に……。
大川宿の町並みを、奇跡的に保存することになったのです。
そして、昭和56年。
長野県の妻籠宿(左)、奈良井宿(右)に続き……。
大内宿が、全国で3番目の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されました。
これにより大内宿は、忽然と時代の中に浮上したのです。
まるで、コールドスリープから目覚めたように……。
というわけで!
500メートルにわたり、茅葺き屋根の宿場町が続きます。
家の前を、山の湧き水が引かれた水路が流れてます。
ほんとに、江戸時代タイムスリップしたみたい……。
ただし、人がいなければ、だけど。
とにかく、狭い街道が、人、人、人に埋め尽くされてます。
ここは絶対、ムリしてでも、平日に来るべきところだと思います。
実際に泊まれる宿もあるので……。
そこに宿泊して、朝一番に街道を散歩するってのが……。
一番贅沢な楽しみ方かも知れません(写真は早朝の様子)。
「Mikikoさん!
ほら、おっきいあせんべが、売ってる。
わたしの顔くらいありますよ。
あれ買って、食べながら歩きましょうよ」
「あ、すごいのがありました!
おまんじゅうの天ぷらだって!
どんな味がするんだろ?」
「あそこにも、わかんないのがある。
『しんごろう』ってなんですか?
干潟とかにいるサカナ?」
「それは、ムツゴロウ!」
「Mikikoさん、何食べます?
わたしはやっぱり、おまんじゅうの天ぷらかな」
「ダ~メ!
ここでの飲食は、全面的に禁止する!」
「何で!」
「もう、3時過ぎてるだろ。
宿の夕食に影響する」
「少しくらい大丈夫ですって。
甘いものなら別腹ですよ」
「ダメったら、ダメ!
今日の夕食は、ぜったいに空腹で迎えたいの」
「けち!」
「けちで結構。
さ、食べ物はあきらめて、まずはお勉強だ」
宿の真ん中あたりに、「大内宿町並み展示館」という資料館があります。
もちろんその建物自体、江戸時代の本陣を復元した茅葺き屋根。
わたしは、こういう施設が大好きなんですね。
本陣ってのは、三勤交代のとき、殿様が泊まった宿です。
殿様の寝所、「上段の間」などが再現されてます。
うーむ。
広すぎて、落ち着かん部屋だのう。
あとは、近隣から収集した江戸時代の生活用具なんかが展示されてます。
昔の人たちの暮らし、興味がつきませんね。
時間を忘れます。
でも……。
ここで、はっと腕時計を見てびっくり!
ほんとに時間を忘れてました。
この大内宿には、16時20分くらいまでしかいられないんです。
着いたのが15時くらいで……。
町歩きと展示館見物してたら……。
もう16時になるじゃないか!
まだ、何もお土産買ってない!
「走るぞ!」
わたしがお土産買おうとしてたのは、駐車場から一番遠いとこにあります。
本家叶屋さん。
会津縮緬で作られた小物が、ところ狭しと並んでます。
天井からも吊り下がってます。
「うわ~。
可愛いぃ!」
由美ちゃんは顔を輝かせてます。
「どれにしようかな?」
「早く選べ!
時間がないぞ」
「もう!
なんで、真っ先にここに来ないんですか。
殿様の寝床なんて、見なくて良かったのに!」
あれこれ迷う由美に、押しつけるように選ばせ、やっとのことでお店を出ます。
「ぎゃー!
もう、16時15分じゃないか!
駐車場まで、走るぞ!」
「何でこんな目に遭うの!」
「つべこべ言うな!
ついて来い、フィラストラトス!」
「あんたはメロスか!」
~つづく~
量が膨大となるので、(Ⅰ~Ⅲ)に分割しました。
お待たせしました!
「紙上旅行倶楽部」、待望の第3段です。
待ってなくても、進めるけどね……。
1ヶ月に1回はやりたいと思ってたんですが……。
ちょっと間が空いちゃいましたね。
こんなペースでやってると……。
全都道府県回るのに、5年以上かかっちゃいます。
と言うことで、今回はムリヤリ企画しました。
考えてみれば、前の2回はキッカケがあったんですよ。
北海道のときは……。
フェリーのスイートに乗りたいなぁって話をして……。
その流れで、北海道旅行を企画することになったんでした。
島根のときは、その前にヤマタノオロチのコメント書いてて……。
出雲に行きたいって思った。
でも今回は、そういう動機がありません。
どこに行こうかと、迷いました。
で……。
初回の北海道、2回目の島根と……。
30万円コースを連発しちゃったので……。
今回は、近場で安価であげることにしました。
ボーナス前だしね。
と言うことで……。
一番身近な隣県、福島県に行ってきます。
わたしにとっては身近でも……。
みなさんのお住まいから離れてれば、旅情も感じていただけるかと……。
さて、日程ですが……。
11月3日の文化の日が、火曜日です。
なので、11月2日に有給休暇を取れば……。
10月31日から4連休になります。
ということで、10月31日からの2泊3日に決定!
今回のコンセプトは、“節約旅行”です。
露天風呂付き客室なんかには、泊まりませんよ。
もちろん飛行機にも乗らないから、相当安くあげられるはず。
やっぱり、ほんとに行けるかもって旅程にしないと、臨場感ないしね。
今回は、自腹で行くつもりで考えてみました。
さて、旅のお供ですが……。
前2回は、全美貞ちゃんにお願いしたんですが……。
彼女、シーズンが終わって、韓国に帰っちゃいました。
と言って……。
晩秋の女一人旅では、あまりにも寂しいので……。
お供がほしいです。
で、誰にお願いしようかと思案を巡らせたところ……。
いました、いました。
というわけで、今回わたしと一緒に旅をしてくれるのは……。
この人です!
「みなさん、こんにちは。
藤村由美です♪
いつも『由美美弥』読んでもらって、ありがとうございます。
今日は、Mikikoさんに呼び出されて新潟まで来てます」
「嫌々来たみたいじゃないか」
「だって!
行き先が福島なら、わざわざ新潟回ることないじゃないですか。
現地集合にしてくれればよかったのに」
「ばかもん!
出張に出るわけじゃないんだぞ。
旅というのは、現地に着けばいいってもんじゃない。
行き着くまでの過程を楽しむのが、旅ってもんだろ」
「そんなら、新潟までの旅費、Mikikoさんが出してくださいよ。
ちょっと!
また聞こえないふりする!」
さて……。
気にしないでいきましょう。
◆10月31日(土曜日)【1日目】
新潟から福島に行く方法は、2通りあります。
1つは高速道路。
磐越自動車道が通っていて、高速バスの路線があります。
もう1つは鉄道。
磐越西線が通じてます。
まぁ、普通は高速バスを使いますね。
鉄道より早い上に安いんだから、勝負になりません。
なにしろ磐越西線には、特急も急行も走ってないんですから。
でも……。
わが「紙上旅行倶楽部」では、あえて鉄道を使います!
なぜでしょう?
「こら、由美!
ぼーっとしない!
答えてください」
「いきなり振らないでくださいよぉ。
あー、びっくりした。
そんな理由、わかるわけないじゃないですか。
福島なんか、行ったことないんだから……。
あ、ひょっとして、バス酔いするから?」
「ブ、ブー!。
大人になってから、バス酔いはしなくなりました」
「それじゃぁ……。
ぜんぜんわかんない。
Mikikoさんが天の邪鬼だから?」
「ばかもん!
天の邪鬼なことは認めるが……。
天の邪鬼で旅程組むほど、ヘソ曲がりではない。
さて、もう2回間違ったぞ。
今度間違ったら、カエルにするからな」
「デーケドンですか!(198のコメント参照)
もう、降参しますから、教えてくださいよ」
「しかたないのぅ。
それでは教えてつかわそう。
磐越西線には、SLが走ってるからじゃ!
……。
なんじゃ、その点目は?」
「SLって、何ですか?」
「なにー!
SLも知らんのか?
日本の学校教育は何を教えてるんだ!
SLというのは……」
「SLというのは?」
「シリアス・レズビアンのことじゃ!」
「うそ!」
「よく嘘とわかったな?」
「あたりまえでしょ。
鉄道と関係ないじゃないですか。
てか、Mikikoさん……。
この会話、ちょっと引っ張りすぎじゃないですか?」
「ははは。
これも、行数を稼ぐテクニックでな。
脱線と会話は、行数稼ぎには一番おいしいんじゃ。
でもまぁ、このくらいにしておこう。
SLとは……」
「SLとは?」
「スクール・レズ……。
痛てっ!
殴ることないだろ!
「読者に変わって鉄槌です!」
「案外気が短いな……。
そんな子に造形したつもりはないんだが……。
まぁいい。
それじゃ本題に入ろう。
SLというのは、『Steam Locomotive』、すなわち蒸気機関車のことじゃ」
「それだけのこと言うのに、これだけ引っ張ったの?」
そうでーす。
それでは、出発の前に、磐越西線を走るSLについて説明しましょう。
愛称は、「SLばんえつ物語」号です。
新潟から福島県の会津若松まで、定期運行されてます。
型式は「C57」。
ちなみに、機関車の型式に付く「C」とか「D」の意味ってわかります?
これは、軸で繋がれた動輪の数なんですね。
つまり、「C」は動輪が3つ、「D」は4つってわけ。
詳しいでしょう?
昔、関口知宏さんが「片道切符の旅」をしてたころ……。
鉄ちゃんの集まるみたいな特番があり、そこで覚えました。
磐越西線の起点は新津駅です。
新津は、鉄道の要衝として発展した町ですが……。
その新津第一小学校に、昭和44年(1969年)に引退した「C57」が保存されてたんですね。
保存場所には、屋根がかけられ……。
年2回、研磨・油さしなどの整備が続けられてたため……。
非常に保存状態が良かった。
というわけで、30年ぶりに現役復帰したんです。
今から10年前、1999年のことでした。
と、長々と偉そーに書いてますけど……。
乗ったことありません(汗)。
なので今回が、初体験ね(実際には乗らないけど……)。
さて、10月31日です。
磐越西線の起点は新津駅ですが……。
「SLばんえつ物語」号の始発は、新潟駅です。
1台しかない車両なので、当然1日1往復。
会津若松行きは1便しかないので……。
選択の余地はありません。
新潟駅の発車時刻は、9:43。
早からず遅からず、いい時間ですね。
各駅の発車時間は、次のとおり(会津若松のみ到着時間)。
新潟(9:43) → 新津(10:14) → 五泉(10:30) → 咲花(10:46) → 三川(11:02) → 津川(11:29) → 日出谷(11:46) → 野沢(12:18) → 山都(12:49) → 喜多方(13:07) → 塩川(13:17) → 会津若松(13:31)
新潟駅への入線は8:53なので、早めに行って記念写真を撮りましょう。
それでは、出発進行!
スゴい汽笛の音!
由美ちゃんは耳押さえちゃってますよ。
沿道の踏切では、子供を連れた見物の人が手を振ってくれてます。
それに応えて、私たちも手を振ります。
見物の多い踏切では、汽笛も鳴らされます。
もちろん、窓は全開。
ちょっと寒いけど、気持ちがいい。
石炭の燃える匂いが、旅情をそそりますね。
磐越西線は、阿賀野川に沿って敷かれてます。
会津へは、阿賀野川を源流へと遡る旅です。
風光明媚。
阿賀野川に、晩秋の光が踊ってます。
山々は紅葉の真っ盛り。
客席から歓声があがるほど。
いやー、SLの旅、大正解ですね。
さっきの時刻表を見てもらえばわかりますが……。
会津若松まで、3時間48分かかります。
高速バスだと、2時間切るんですよ。
でも、この4時間近い旅、ぜったいに飽きません。
しかも!
こんな楽しいSLの旅なのに……。
料金が安い。
乗車券は、新潟から会津若松まで、2,210円です。
このほかにかかるのは、指定席料の510円だけです。
特急券も急行券もいりません。
なぜならこのSL、「快速」扱いだからです。
駅を飛ばして走るけど、スピードは普通列車並みですから。
速い列車には割増料金がいるけど……。
楽しい列車にはいらないんですね。
「どう、由美ちゃん?
新潟回りで福島行く乗ってのも、悪くないでしょ」
「はい!
前言撤回です。
Mikikoさん、ありがとう♪」
「よしよし、素直でよい子だ。
ところで、そろそろお腹が空かないかい?」
「え……。
まだ、11時ですよ。
朝ご飯、食べなかったんですか?」
「しっかり食べた。
普段は、お昼食べないしね」
「じゃ、なんで?」
「旅を共にする人と、美味しいものを一緒に食べるってのは……。
旅の楽しみのひとつでしょ?」
「はは。
それには異存ありませんけど~。
じゃ、お弁当買いに行きます?
さっき行った展望車の隣に、売店がありましたよね。
確か、『SLばんえつ物語弁当』とか売ってた」
「売店では買わないの」
「何で?」
「駅弁というのは、駅で買うものだからじゃ」
「じゃ、新潟駅で買ってから乗れば良かったじゃないですかぁ」
「ばかもん!
それじゃ面白味がないわい。
途中駅で買うのが、醍醐味なの!」
「でも、今までの駅でお弁当なんて売ってましたっけ?」
「これから止まる駅で売っておる」
「次は……。
津川ですよね。
じゃ、津川で買えるんだ?」
「否!
その次の日出谷で買う」
「日出谷に着くのは……。
11時43分か。
ちょうどいい時間ですね。
じゃ、日出谷でお弁当……。
……、ふご、ふご。
ちょっと、いきなり口塞がないでくださいよ!
なんなんですか!」
「声が高い!
前かがみになって、顔を寄せろ」
「……。
なんで、こんな密談ポーズしなきゃいけないんです?」
「日出谷駅で売ってる『とりめし』を買おうとしてるからじゃ」
「それがどうして密談なんです?」
「少量生産のため、希望者全員は買えないんじゃ」
「予約しとけばいいんじゃないですか?」
「駅売りでは、予約はできん。
ただただ、早いもの勝ち」
「そんなぁ。
わたし、足遅いからムリです。
Mikikoさん買って来てくださいよ」
「由美が足遅いなんて設定、書いてないぞ。
高校時代陸上部で、インターハイにも出たことにしようか?
ハードルの選手で、人の頭を飛び越して行く……」
「勝手に作らないでください。
わたしには似合いませんって」
「まぁ、安心しろ。
わたしには、秘策がある」
「どんな?」
「日出谷駅での『とりめし』は、ホームの待合室で売られるそうな。
そして、その待合室に一番近いのは、前よりの2号車あたり」
「えー。
じゃあ、あたしたち、めちゃめちゃ不利じゃないですか。
ここ、最後尾の7号車ですよ」
「7号車からホームに飛び出しても……。
まず、買えないだろうね」
「じゃ、どうするんです?」
「少しは考えろ!
日出谷に着く前に、2号車に移動しとけばいいだろ」
「そうか!
さすが、Mikikoさん。
ずる賢い!」
「頭がいいと言え!」
「はいはい。
それじゃ、津川過ぎたら2号車行きましょうね」
「愚か者!」
「なんで!」
「日出谷の手前で車両移動なんかしたら……。
ライバルたちを刺激するでしょ。
一斉に浮き足立って、ぞろぞろ移動し始めたらどうする?
条件が一緒になっちゃったら、オンナには不利だろ」
「じゃ、どうするんです?」
「だから、作戦があると言っておる。
いいか。
次の駅、すなわち津川では16分も停車する。
給水や点検が、成されるわけだな。
で、「石炭ならし」とかの風景を撮るために……。
鉄っちゃんたちが、たくさんホームに降りるの。
それに紛れて、わたしたちも降りる。
で、記念撮影なんかしながら、さりげなく16分やり過ごして……
ぎりぎり最後に乗車する」
「それのどこが作戦なんですか?」
「つくづく勘の鈍いオンナだな。
読者はもう気づいておるぞ」
「じらさないで、早く言って!」
「だから!
さりげなく、2号車に乗車するの!
そして、そのまま扉付近にとどまる。
どうだ!」
「なるほど!
それなら、間違いなくトップで待合室に駆けこめますね」
「だろー」
「さすが、Mikikoさん。
卑怯なこと考えさせたら日本一!
痛いっ」
作者を嘲弄するケシカラン主人公に鉄槌!
さて、そうこうするうち……。
11:13、津川駅到着です。
発車は、11:29。
お天気もいいので……。
案の定……。
たくさんの人がホームに下りて来ました。
おー、「石炭ならし」やってる!
作業する方のユニホームも、「国鉄」って感じでいいですね。
さて、由美ちゃんと2人、天真爛漫を装いながら発車時刻を待ちます。
まさかこの2人が、どす黒い企みを抱いていようとは……。
お釈迦様でも、気がつくめぇ。
いかにもトロい女2人組を演じつつ、最後尾から乗車します。
もちろん、2号車に……。
扉が閉まると、2人で顔を見合わせニターリ。
もう、勝ったも同然です。
しかし……。
そう思ったのは、束の間でした。
日出谷駅到着は、11:43。
津川からは、14分しかありません。
津川を出てしばらくすると……。
続々と扉付近に人が集まってきました。
間違いなくライバルたちです。
屈強そうな鉄っちゃんもいます。
扉に貼りついてるとは言え……。
待合室まで、どのくらいの距離かわかりません。
ちょっとでも離れてたら、きっと抜かされます。
額から頬へ、冷たい汗が流れます。
由美も、怯えた視線で見上げてきます。
もうすぐ日出谷駅。
緊張が高まります。
運動会のスタート前みたいな気分……。
うんこが出そうな感じ……。
わたしは、由美の耳元に顔を寄せました。
「作戦変更。
よく考えたら、2人して買いに行く必要はない」
「え?
じゃあ、Mikikoさんが2人分買ってきてくれるんですか?」
「ばかもん!
買いに行くのは由美!」
「そんな!
Mikikoさんは見てるだけ?」
「ばかたれ!
わたしが決死隊になるんじゃ。
ここに残って、ライバルの降車を阻止する!」
「そんな!
卑怯すぎ!」
「ほら、もう日出谷駅に着くぞ!」
扉が開くと同時に、わたしは由美の背中を押した。
2分後……。
「Mikikoさ~ん、買えました!
ちゃんと2つ買えました。
あれ?
Mikikoさん、なんで扉の前で潰れてるんです?
背中の上、靴跡がいっぱい……」
由美ちゃんに引きずられるようにして、ようやく席に戻りました。
命を張って手に入れた「とりめし」です。
膝の上で開きます。
茶飯の上に、鶏そぼろと煎り卵が載ってます。
真ん中を仕切るのは、青海苔と梅干し。
色からもわかるとおり、茶飯は薄味。
鶏そぼろは……。
はっきり言って、かなり甘いです。
上にあるおかずは、左から……。
昆布の佃煮、タクアン、キュウリの漬け物、ショウガ、しいたけの煮物、パイン2切れ。
そこに、わたしの涙をかけていただきます。
容器はさほど大きくないので……。
あっという間に完食でした。
さて、無事「とりめし」をお腹に収めたら……。
再び窓外に目を移しましょう。
列車は、阿賀野川を右に左に渡りながら……。
ずっと川に沿って走ってきました。
日出谷を過ぎると、その阿賀野川の流れが緩やかになり、川幅も広がります。
まるで湖のようです。
阿賀野川にかかる橋梁を、またまた渡り……。
日出谷からずっと右側を沿っていた阿賀野川が、左側に移ると……。
ここはもう福島県です。
山都駅では、「山都そばSL弁当」の立ち売りがされてました。
「とりめし」を買いそびれたと思われるお客さんが……。
買い求めてましたね。
合掌……。
さて、山都を過ぎると、ずっと併走して来た阿賀野川ともお別れです。
これから列車は、最後の山越え。
上り坂のSLって、ほんとに生き物みたいですよね。
性的な魅力を感じるほど力強いです。
やっぱり……。
ピストンの動きを想像しちゃうからなんでしょうか……。
由美ちゃんの頬も、心なしか上気してるみたいです。
峠の慶徳トンネルを抜けると、喜多方です。
ラーメンの町として有名ですね。
時間があったら、立ち寄りたいとこなんですが……。
残念ながら、旅程の折り合いが付きませんでした。
また今度……。
2回目の「福島に行こう!」開催の折には……(国体か!)。
ぜひ、寄りたいと思います。
喜多方を過ぎると、にわかに景色が開けました。
会津盆地の田園風景が広がります。
背後には磐梯山の山並み。
最後の停車駅、塩川を過ぎ……。
列車は、ようやく会津若松に到着しました。
13:31です。
新潟を出たのが、9:43ですからねー。
3時間48分の列車の旅でした。
楽しかったなぁ。
「とりめし」も食べれたし……。
福島への旅、順風満帆の出だしですね(Ⅵ回にして、まだ出だしか……)。
さて、会津若松駅に降り立ちました。
なんだか、まだ……。
蒸気機関車のラッセル音が、体内に響いてる感じです。
わたしが、ホームを繋ぐ跨線橋を上ろうとすると……。
「Mikikoさん!
階段使わなくても、あそこから改札行けるみたいですよ」
「ばんえつ物語」号が着いたのは2番線。
1,2番線は、行き止まりの頭端式ホームなので……。
ホーム先端を回りこめば、階段使わなくても改札まで行けるんです。
「こっちでいいの。
乗り継ぎするから」
「会津若松の観光、しないんですか?」
「ちゃんと、別の日にとってあるよ。
これからまた、面白い列車に乗せてあげる」
「ほんと?
なんだろ?」
「会津鉄道」
「え?
JRじゃないんですか?
私鉄なら、いったん改札出なきゃダメなんじゃないですか?」
「会津鉄道と云っても……。
旧国鉄の会津線が、第三セクターに引き継がれたんだよ。
だから、ホームはJRと一緒なの」
「へー」
「さ、早く階段上ろ。
そんなに時間ないからね」
ホームには、すでに列車が待ってました。
「なんだ。
普通の電車じゃ無いですか。
しかも、3両しかないし……」
「よく見ろ」
「うわ!
なになに、この電車。
ヘン!」
「ユニークと言わんかい!」
会話だけで説明してると、ラチが開かないので……。
地の文で説明します。
会津鉄道のホームページ()、「お座トロ展望列車」と書かれてるとおり……。
先頭が「お座敷」車両、真ん中が「トロッコ」車両、後尾が「展望」車両という編成。
どのタイプの車両に乗るかは……。
「トロッコ整理券」というのを購入(300円)するときに決めます。
席数分しか販売されないので……。
満席だと乗れないことになりますが……。
まぁ、大丈夫でしょう。
わたしたちの乗った列車には、「会津浪漫星号」という名前がついてました。
「Mikikoさん、どの車両乗ります?
展望車両ってのが、綺麗そうじゃないですか」
「たしかに、座席は展望車両が一番いいらしい。
でも、会津若松発の便は、展望車両が最後尾になっちゃうからな」
「じゃ、トロッコ車両にします?
でもなんか、一番普通の席ですね」
「もっと早い時期だと良かったんだけどね。
10月中旬まで、この車両、窓が無いんだよ」
「あ、それでトロッコなのか!」
「そゆこと」
「なんだー。
窓があったら、ぜんぜんトロッコに見えないですよね」
「てことは、残るはひとつだね。
お座敷列車に乗ろう」
「うわ。
かわいい掘りごたつ!
見て見て、2人差し向かいの掘りごたつですよ。
この車両、ぜったいに正解!
美弥ちゃんと乗りたかったなぁ」
「わたしじゃ、不満かい!」
「ごめんなさ~ぃ。
つい本音が……」
あとで泣かす……。
さて、2人を乗せたトロッコ列車は、13:50、会津若松駅を発車しました。
晩秋の会津路を、のんびりと走ります。
「楽し~。
ほんと、動くお座敷ですね」
鉄道に速さだけを求める時代は、もう終わったんじゃないでしょうか?
リニアモーターカーなんて、ほんとに必要なの?
速く着きたいんなら、飛行機を使えばいいでしょ。
それより鉄道会社は……。
乗ってること自体の楽しさを、提供すべきなんじゃないでしょうか。
その意味では……。
「SLばんえつ物語」号とか、トロッコ列車とか……。
大正解。
ほんとの鉄道の良さを感じさせてくれます。
「さて、次で降りるぞ」
「え~。
まだ終点じゃないんでしょ?
由美、もっと乗るぅ」
「ダメ!」
わたしだって、名残惜しいけど……。
このまま終点の会津田島まで行っちゃったら、その後の旅程が苦しくなるので……。
ぐずぐず言う由美を引きずって、湯野上温泉駅で降ります。
14:47。
改札を抜けたところで、由美が立ち止まりました。
「Mikikoさん。
これって、囲炉裏ですよね?」
駅舎の中に囲炉裏が切ってありました。
駅舎を出たら、背後の駅を振り返ってみましょう。
「Mikikoさん、この駅、藁葺き!
藁葺き屋根の駅なんて、初めて見ました」
「藁葺きでなくて、茅葺き!
茅葺き屋根の駅舎は、日本でここだけだって。
建物がL字型になってるでしょ。
これは、曲がり家と云って、東北の農家の造りなの。
L字の長い棒が母屋だとすると、短い棒が厩。
馬は、家族と一緒に家の中で暮らしてたの。
農耕を助けてくれる馬を、それだけ大切にしたってことだね」
「へー。
じゃぁ、この駅にも馬がいたんだ」
「いません!
この駅は、昭和62年に建てられたものです」
さて、駅前からタクシーに乗ります。
「どこ行くんです?」
「江戸時代」
「え?」
「行って見ればわかるよ」
空いてれば、10分ほどで着くはずなんですけど……。
紅葉時期の4連休ですからねぇ。
大渋滞して、ヘタすると2時間くらいかかるかも知れません……。
でもこの日は、奇跡的(ご都合主義的)に、スムーズな道のり。
ほどなくタクシーは、大きな駐車場に着きました。
駐車場からしばらく歩くと……。
アスファルト舗装が、土舗装に変わります。
「うわっ。
何ここ?
時代劇の撮影所ですか?」
「ばかもん!
ここは、大内宿と云って、昔からの街道添いの町並みなのじゃ」
知ってる方も多いかと思いますが……。
大内宿について、少しだけ説明しておきましょう。
大内宿は、日光から会津若松に通じる、会津西街道(別名・下野街道)沿いの宿場町です。
江戸時代……。
会津藩はもちろん、新発田藩(新潟県)、村上藩(新潟県)、米沢藩(山形県)の参勤交代が、この街道を使いました。
年貢米も通る、まさしく交通の要衝。
その街道沿いの宿場町として、大内宿は大いに賑わってました。
ところが!
明治17年。
日光街道が会津まで伸びると、事情は一変します。
日光街道は、関東と会津を最短距離で結んだうえ、道幅も広かったので……。
下野街道は、あっという間に廃れました。
大内宿は山間の僻村と化し、時代から取り残されることになります。
でも、それが逆に……。
大川宿の町並みを、奇跡的に保存することになったのです。
そして、昭和56年。
長野県の妻籠宿(左)、奈良井宿(右)に続き……。
大内宿が、全国で3番目の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されました。
これにより大内宿は、忽然と時代の中に浮上したのです。
まるで、コールドスリープから目覚めたように……。
というわけで!
500メートルにわたり、茅葺き屋根の宿場町が続きます。
家の前を、山の湧き水が引かれた水路が流れてます。
ほんとに、江戸時代タイムスリップしたみたい……。
ただし、人がいなければ、だけど。
とにかく、狭い街道が、人、人、人に埋め尽くされてます。
ここは絶対、ムリしてでも、平日に来るべきところだと思います。
実際に泊まれる宿もあるので……。
そこに宿泊して、朝一番に街道を散歩するってのが……。
一番贅沢な楽しみ方かも知れません(写真は早朝の様子)。
「Mikikoさん!
ほら、おっきいあせんべが、売ってる。
わたしの顔くらいありますよ。
あれ買って、食べながら歩きましょうよ」
「あ、すごいのがありました!
おまんじゅうの天ぷらだって!
どんな味がするんだろ?」
「あそこにも、わかんないのがある。
『しんごろう』ってなんですか?
干潟とかにいるサカナ?」
「それは、ムツゴロウ!」
「Mikikoさん、何食べます?
わたしはやっぱり、おまんじゅうの天ぷらかな」
「ダ~メ!
ここでの飲食は、全面的に禁止する!」
「何で!」
「もう、3時過ぎてるだろ。
宿の夕食に影響する」
「少しくらい大丈夫ですって。
甘いものなら別腹ですよ」
「ダメったら、ダメ!
今日の夕食は、ぜったいに空腹で迎えたいの」
「けち!」
「けちで結構。
さ、食べ物はあきらめて、まずはお勉強だ」
宿の真ん中あたりに、「大内宿町並み展示館」という資料館があります。
もちろんその建物自体、江戸時代の本陣を復元した茅葺き屋根。
わたしは、こういう施設が大好きなんですね。
本陣ってのは、三勤交代のとき、殿様が泊まった宿です。
殿様の寝所、「上段の間」などが再現されてます。
うーむ。
広すぎて、落ち着かん部屋だのう。
あとは、近隣から収集した江戸時代の生活用具なんかが展示されてます。
昔の人たちの暮らし、興味がつきませんね。
時間を忘れます。
でも……。
ここで、はっと腕時計を見てびっくり!
ほんとに時間を忘れてました。
この大内宿には、16時20分くらいまでしかいられないんです。
着いたのが15時くらいで……。
町歩きと展示館見物してたら……。
もう16時になるじゃないか!
まだ、何もお土産買ってない!
「走るぞ!」
わたしがお土産買おうとしてたのは、駐車場から一番遠いとこにあります。
本家叶屋さん。
会津縮緬で作られた小物が、ところ狭しと並んでます。
天井からも吊り下がってます。
「うわ~。
可愛いぃ!」
由美ちゃんは顔を輝かせてます。
「どれにしようかな?」
「早く選べ!
時間がないぞ」
「もう!
なんで、真っ先にここに来ないんですか。
殿様の寝床なんて、見なくて良かったのに!」
あれこれ迷う由美に、押しつけるように選ばせ、やっとのことでお店を出ます。
「ぎゃー!
もう、16時15分じゃないか!
駐車場まで、走るぞ!」
「何でこんな目に遭うの!」
「つべこべ言うな!
ついて来い、フィラストラトス!」
「あんたはメロスか!」
~つづく~