Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
カテゴリ: 八十八十郎劇場
「ウルトラウーマン」作:八十八十郎(はちじゅうはちじゅうろう)


(44/最終章)~ 星に向かって


 決戦から一週間が過ぎたある日。
 日本科学特捜隊、午前10時。

「中山です」
 インターフォンの声に篠原涼子は顔を上げた。
「どうぞ」
 怜子がボタンを押すと研究室のドアが音もなく開く。
 2,3歩足を踏み入れた希美は、怜子に向かって立ち止まった。
「お帰りなさい」
「ただいま」
 いつものように、怜子はクールな笑みでデスクから立ち上がる。
「怜子さん………」
 希美の目から涙が溢れた。
 泣き顔で駆け寄る希美を怜子はその胸に抱き留める。
「よかった、無事で………」
 希美の涙が怜子の白いブラウスを濡らす。
 怜子は希美の髪に頬を寄せて、その身体をきつく抱きしめた。

 お互いの身体のぬくもりを確かめ合った後、怜子はゆっくりとその抱擁を解いた。
「あたしね、希美ちゃん。もうここを辞めることにしたの」
「え! どうして!?」
 目を見開いた希美に怜子は背中を向ける。
「私今回の業務を終えて、何となくここの仕事に区切りがついたと感じたの。これからまた世界を回って、自分のやりたいことを見つけたいと思ってる」
 突然のことに、希美は怜子の背中にすがりついた。
「まだずっと一緒に居られると思ってたのに、ひどいわ、怜子さん」
「ひどい? 私には私の道があるの。あなたにも、………あなたの生活があるでしょ?」
「いや! いやよ怜子さん、どこにもいかないで!」
 希美は泣きながら怜子の身体を揺さぶった。
「明日には隊を離れるわ。希美ちゃん元気でね」
「いやいや、怜子さんこっちを向いて!」
「もう終わったのよ、早く出てって!!」
「いやだったら!」
 希美は腕を掴んで強引に怜子を振り向かせる。
 怜子の目からは幾筋もの涙が流れ落ちていた。
「さようなら」
 逃げるように実験室に向かう怜子の手を希美は掴んだ。
「お願い怜子さん、これを見て」
 希美は小さな箱を手に乗せて差し出す。
「な、なに………?」
 怜子の目の前で、希美は小箱のふたを開けた。
「私と結婚してください。怜子さん」
 箱の中には、小さなダイヤを飾り付けた指輪が入っていた。

「け、結婚って、あなたにはご主人が………」
 怜子はつぶやいた。
 希美は怜子の視線を避けて宙を見つめる。
「私たち、離婚したの……。ある日勤務時間中に帰宅した時、主人と穂茂田部長が深い関係になっていることが分かったの」
「ええ! 部長とご主人が?」
 希美はゆっくりと頷いた。
「私その時は気も動転したけれど、そのうちこれが私たちの運命だったのかもしれないと思い始めた。だってその時はもう、私の心は怜子さんのものだったんだもの」
 希美の頬をまた涙が伝い降りた。
「一心同体の練習を重ねて、主人と部長はお互いの絆に気が付いたって話してくれた。それで私も怜子さんへの気持ちを主人と部長に話した。二人は私の幸せを祈って、今旅行に出かけてるわ」
 怜子はうつむいた希美を見つめた。
 希美は小箱から指輪を取り出す。
「お願い。ずっと私と一緒にいて、怜子さん……」
 希美は震える手で指輪を差し出した。
「希美ちゃん……」
 怜子の頬を新しい涙が伝い降りた。
 そして怜子は、希美の前にそっと左手を差し出した。

 その日の午後。
 五反田の居酒屋。

 店に入るなり目加田恵子はぐるぐると周囲を見回した。
「あ~!」
 相手を見つけた恵子が大股で座敷席に歩み寄る。
「元気そうでよかった」
 片手を上げた矢野彩香が笑顔で迎えた。
「あら、今日は可愛い人と一緒なのね。紹介して」
「え? この人? ……うふふ、この人はね……」
 上がり段の手前でもったいを付ける恵子に代わって、美波本人が頭を下げた。
「岸部美波春子です。地球防衛軍の従軍医師をしています」
 上品にほほ笑んだ美波は片手で鼻先の眼鏡をずり上げた。
「矢野彩香です、よろしく。恵子さんたら随分いい人見つけたのね。さ、上がって乾杯しましょ。おねえさあ~ん、ここ生大三つ!」
「やった! 美波ちゃん、さあ飲もう」
 “ゴン!”
 勢い込んで段を上がる途中で、座敷に響く鈍い音がした。
「また? 大丈夫~?」
「もちろん大丈夫」
 心配そうな彩香の前で、向う脛をさすりながら涙目の恵子がどっかと座布団に座り込む。
「お待ちどうさま~、はい生三つ」
 3人の前に生ビールのジョッキが運ばれてきた。
「じゃ、お互いの無事を祝して……」
「カンパア~イ!」
 午後3時の居酒屋に乾杯の声が響いた。

 テーブルの上に空のビールジョッキが並んでいる。
 ほんのりと顔を桜色に染めた美波は、ふと恵子に顔を向けた。
「ところで、小林隊長はどうしたんですか? 現地脱出の時、恵子さん一緒だったんでしょ?」
 恵子はゆっくりとテーブルに箸を置く。
「乗ったのは水上セスナだったから、佐渡島の洋上で着水して島に上陸したの。その時はまだ、司令部が洗脳を解かれているなんて知らなかったからね」
 美波は恵子に頷いた。
「それからジェットフォイル(水中翼船)で新潟に渡り、隊長とはそこで別れたっきり……。元気にしてればいいけど……」
 恵子は寂しげにテーブルの上を見つめる。
「ふふ……大丈夫よ」
 恵子と美波は笑みを浮かべた彩香に目を向けた。
「2,3日前、小林さんと連絡がついたの。私約束のものを送ったわ。そろそろ着く頃だと思うけど、いつまでそこにいるかは分かんない」
「へえ、そうだったの。よかった」
 恵子と美波は少し表情を明るくして顔を見合わせる。
「じゃあ、美波さんはどうやって帰って来たの?」
 恵子も思い出したように美波に問いかけた。
「え~と、大河内本部長が軍用機を手配してくれて、篠原怜子さんとグレタさんと一緒に帰ってきましたよ」
「え~、グレタと~!!」
 驚いた恵子に美波はこくんと頷く。
「基地が引き上げて解任だから、もう敵も味方も無いんだって。日本でお気に入りのすし屋に行くって同乗してきたんです」
「へえ~。で、それからグレタはどこ行ったの?」
「分かりません。成田で別れたけどそれからは………」
「ふ~ん、小さいと言っても日本もそこそこ広いからね」
 恵子はぐい飲みの日本酒を一気に煽った。
「案外近くにいるかもよ……」
 矢野彩香は真剣な眼差しで恵子の後ろを見つめる。
「あはは……」
 恵子は乾いた笑い声を上げた。
「動くな!」
 恵子の後頭部に何かが突き付けられた。
「よくもあたしを出し抜いてくれたわね。手を上げなさい」
 背後の声に恵子はゆっくりと両手を上げる。
「仕返しにこれをお前のあそこに突っ込んでやる」
 後ろから回って来た手が、串刺しのウインナーを恵子の顔に突き付けた。
「あぐ!」
 恵子がそれに食いつくと、一瞬で20cmのウインナーが5cmの長さに変わった。
「どう? これで届かなくなったわよ」
「ぷ……あ……あははは………」
 彩香と美波は思わず吹き出して笑った。
「気配を消して近づくなんて、相変わらず趣味の悪い女ね」
「あっはははは………」
 グレタも後ろから恵子の首に抱き着く。
「基地のお返しよ。岸部医師のあとを付けて来たんだけど、どう? これでお相子になったでしょ?」
「ふ……なるほど……」
 恵子は鼻で笑うと背中を揺すった。
「相変わらずすごい圧力ね、あんたのおっぱいは。こっちにおいでよ、4人で飲み直そう」
「そう来なくっちゃ」
 グレタは嬉しそうに彩香の隣に座る。
「じゃ、改めてかんぱ~い!」
 再び店内に威勢のいい女性たちの声が響いた。

 店内に入ってくる客を見ながら彩香が口を開いた。
「もう夕方ね。お勘定にしましょうか」
「そうね。やっぱり少し疲れたわ。そろそろ帰って寝よう」
「あ、ちょっと待ってください」
 腰を上げかけた恵子を美波が呼び止めた。
「小林隊長のこれからの無事を祈って、最後に乾杯しましょう」
「そうね。そうしよう!」
 恵子は満面の笑みで再び腰を下ろす。
 4人はそれぞれに飲みかけのグラスを掲げた。
「じゃあ、小林隊長の無事と再会を祈って」
「隊長頑張ったわね、指令室の中で」
「あたしのプレゼントを楽しんでくれますように」
「隊長の飛距離がもっと伸びますように」
「あはははは………。じゃあ、かんぱ~~~い!!!」
 4人の女性たちは高らかに声を揃えて再会を誓った。

 その日の午後6時。

 ここは熊本県球磨郡五木村。
 五木の子守歌発祥の地で、深い山間の村である。
 濃い緑の森を縫うように曲がりくねった林道を、一人の中年の男が自転車で走っている。
 だらだらと下るその道は切り立った山のせめぎを抜けて、こじんまりとした平地に民家の点在する集落へと続いていた。
 山入端やまのは越しに降り注ぐ夕日が、その集落を周囲の景色から明るく浮かび上がらせている。

 その男は一軒の古びた木造アパートの前で自転車を止めた。
 アパートの入り口には「球磨焼酎組合従業員宿舎」なる表示が付いている。
 男は作業服の埃をはたくと、帽子を取り額の汗をぬぐった。
「は……は……はくしょん!!」
 男は大きなくしゃみをして辺りを見回す。
「誰か俺のうわさでもしてるのか……」
 誰あろうその男は、元科学特捜隊隊長小林誠二その人であった。
 小林は自分の部屋に戻る前に、郵便受けの中を覗き込む。
 今日はその中に白く四角い小包が届いていた。
 急いで取り出して裏を確かめると、差出人は“西荻窪宮前5丁目 矢野”とピンクのポップ調の文字で書かれていた。
 “来たか……”
 小林は目を閉じて胸の前にその包みを硬く握りしめる。
 “大事を取って居場所を変えるか。就職したばかりだが、もうここにはいられないだろう”
 ゆっくり開いた目に、山々の間から青い空が写った。
 その遥か彼方には無限の宇宙空間が広がり、常人の思いもつかぬ出来事が存在する。
 小林は何故か瞼が熱くなるのを覚えた。
 今日一日に別れを告げるべく山入端に入りかけた太陽は、立ち尽くす小林隊長の顔を赤く染め上げていた。

 その翌日早朝。

 ノックの音でウルトラウーマンは目を開いた。
 ベッドで飛鳥ゆり子の柔らかい胸に顔を埋めている。
「昨日は遅かったでしょうけど、そろそろ起きて。“愛してる”は十分言ったでしょう? もうパンが焼けるわよ」
「は~い」
 ハンナにそう返事をすると、ウルトラウーマンはゆり子と悪戯っぽい笑みを交わした。

 徐々に日が高くなり、遠くの砂漠の景色が揺らぎ始めた。
 玄関から外に出たウルトラウーマンと飛鳥は、ゆっくりと後ろを振り返る。
 スワンと並んだハンナの目は、もううっすらと潤んでいた。
「もう本当に行ってしまうのね……」
「おばちゃん、泣かないで………」
 スワンはハンナの手をそっと握った。
 ウルトラウーマンは二人の前に歩み寄る。
「ハンナさん、ひとつお願いがあるんだけど、スワンちゃんは家族もいないし家も無いの。これからハンナさんと一緒にこの家で暮らすわけにはいかないかしら………?」
 それを聞いたハンナは、スワンの肩を抱いて笑みを浮かべる。
「あたしはとっくにそのつもりよ。この子がいれば、あなたたちが行っても寂しくない。
 そしてもしあたしがいなくなっても、ここにずっと住んでいて欲しいわ」
「おばちゃん、そんなこと言っちゃいや。ずっと一緒よ!」
 そう叫んだスワンを、ハンナはその胸に抱きしめた。
「ごめんなさい。そうね、ずっと一緒よ」
 その時なにかの動物の足音でウルトラウーマンは周囲を見回した。

「いやあ~間に合ったか、よかったよかった」
 ウルトラウーマンたちの前にナントモおじさんを乗せたラクダが止まった。
「ナントモおじさん、目が覚めたのね!」
 ハンナは顔を輝かせた。
「ああもう……エンドウ豆の親分みたいな怪物に眠らされて、えらい目に合ったぞい」
 4人は短い足で走ってくるナントモおじさんを笑顔で迎えた。
「お前もう行くのか? 最後のお別れじゃ」
 ナントモおじさんはウルトラウーマンに抱き着くとその豊かな胸に顔を埋める。
「ナントモおじさん! こら、だめよ!」
 叱るハンナを片手で制すると、ウルトラウーマンはナントモおじさんの背中を優しく抱いた。
「ありがとう、ナントモおじさん。また会う時まで元気でね」
「お前もな。……待っとるぞ……」
 さすがにナントモおじさんはその言葉尻を震わせた。
 顔を上げたナントモおじさんは、隣の飛鳥ゆり子に目を向ける。
「おお、あんたがこの子の連れ合いか……。じゃ、あんたにもお別れを……」
「きゃー!!」
「おじさん!」
 ゆり子の胸に顔を押し付けようとしたナントモおじさんをハンナが引きはがす。
 ウルトラウーマンは笑ってゆり子を抱き寄せた。
「おじさん。だめよ、この人のおっぱいは私だけのもの」
「ちぇ、ケチ……」
「あはははは………」
 ハンナたちは声を上げて笑った。

「じゃあ私たち行きます」
 ウルトラウーマンと飛鳥ゆり子は手をつないでハンナ、スワン、ナントモおじさんと向かい合った。
 ウルトラウーマンが大きく両手で円を描くと、直径3メートルほどの透明な球体が出現した。
「この中に居れば、宇宙空間でも地球と同じ環境を維持できます。じゃ、ゆり子さん入ってみて」
 ゆり子は恐る恐るその全身を球体の中に収める。
「ほんとだ。外と全く変わらないわ」
「大きさはまだ自由に大きく出来るの。途中で休む時は、私も中に入れるし」
 ウルトラウーマンの説明にゆり子も頷いた。
「ウルトラの星までどのくらいかかるの?」
 スワンはウルトラウーマンに問いかける。
「そうね、ゆっくり行くから、地球の時間なら3か月くらいかしら」
「3か月!」
 ハンナは目を丸くした。
「赤ちゃんが出来ちゃうかも……あはは……」
 スワンの冗談にナントモおじさんが続ける。
「どちらが産むのかな?」
 ウルトラウーマンはゆり子と顔を見合わせた。
「どちらが産んでも、二人の子供であることに変わりはありません」
「そういうことじゃな。そういう時代が、いつか来るのかも……」
 おじさんは笑顔で続ける。
「宇宙じゃ発作も起きんから、二人でゆっくり楽しめばよかろう」
 ハンナはナントモおじさんの言葉を聞いて、首を横に振る。
「いいえ、おじさん。昨夜の調子だと、この二人はもっと忙しいかも……」
「なんじゃと………あっはははは……」
「あはははは……」
 皆の笑い声の中でウルトラウーマンとゆり子はその顔を赤らめた。

 ゆり子が入った透明な球体を、ウルトラウーマンは両手で高々と頭上に差し上げた。
 その周りに天に向かって見えない気流が立ち上っている。
「気を付けてね、ウルトラウーマン。またきっと帰って来て!」
 ハンナは叫んだ。
 ウルトラウーマンの足が地面から浮きあがると、立ち上る気流が銀色の光を放ち始める。
「おねえちゃん、きっとまた遊びに来て!」
「待っとるぞ。また一緒に空を飛ばせてくれ!」
 スワンとナントモ爺さんは二人を見上げて叫んだ。
「皆さん……あ………ありがとう………」
 徐々に上昇しながらウルトラウーマンは言葉を詰まらせた。
 その目から涙が溢れ、その涙は次々と気流に乗って空に舞い上がっていく。
「さ、さようなら………」
 その言葉は、もう地上のハンナたちには届かなかった。
 ウルトラウーマンと飛鳥ゆり子は、自らの涙を追うように空へと向かう。
「ありがとう、ウルトラウーマン……」
 ハンナは胸の前で両手を組むと、光に包まれて舞い上がって行く二人に祈りを捧げた。
 やがてウルトラウーマンの姿は天空の星と同じ小さな輝きとなり、限りなく広がる宇宙の彼方に消えて行った。

(完)



<オリジナルのあとがき>

 もう急いで筆を置くことにしよう。
 北側圭子と彩香の映像を見終わった今、すぐに引っ越しの準備をしなければならないからだ。
 残念ながらその映像を読者に披露する訳にはいかない。
 何故なら、私の人生をかけた行動の最後に残った唯一のものだからだ。
 内容は言うまでもなく、巷のお宝映像などとは次元の違う素晴らしいものだった。
 だが今私の心の中には、この映像以上に満足をもたらしてくれるものがある。
 それは最後までビアンを愛する心を捨てなかったことである。
 読者には今のささやかな楽しみを失くしてほしくはない。
 5本もレズビアン物を購入したのに全く外れで、
「うぎゃー、なんだこれは! 金返せ! 監督、責任者出てこい!!」
 と叫びたくなる気持ちはよく分かる。
 でも明るい太陽の下、自由にビアンを楽しめる今の生活の方がよくはありませんか?
 最後に私が書いた拙文をここまで読んでくださった皆様のために、映像の冒頭に入っていた矢野彩香の挨拶だけここに紹介しよう。
 彼女は画面の中から私に微笑みかけながら言った。

「小林隊長、お元気? 約束のものを送りました。私も隊長のために腕によりをかけて頑張ったんで、圭子ちゃんも4,5回いっちゃってると思うわよ。たっぷり楽しんでね。きっとこれから大変だと思う……。でもガンバ!! 私頑張ってるオジサマ大好きよ。それじゃあ、身体に気を付けて。さよなら」

 それでは読者諸氏もお元気で。さようなら。    小林


<19年前の自分のあとがきに添えて>

 「ウルトラウーマン」、後書きまで終了いたしました。
 最後まで拙文を読んでくださいました皆様には、本当に心より御礼申し上げます。

 と言うことで、お前これ以上何をか言わんやなのですが、手元の記録から少々ご報告を。
 手元に残っている記録を見ますと、この「ウルトラウーマン」のオリジナルは2003年の下半期に書いております。
 私としては「身体の涙」に続いて2番目に書いた書き物です。
 Mikikoさんにお許しをいただいて、では消えかかった感熱紙から書き写しを……のつもりが、最初の1,2章と前述のあとがきを除いて、ほとんどオリジナルと違うものになってしまいました。
 章の数も22章だったものが44章と倍になりました。
 そして月日の経つのは早いものです。
 19年………これを最初書いたころに生まれた方が、もうすぐ成人するんですからねえ。
 このような書き物も読んでいただける年齢です。(笑)

 ところで今回の物語には洗脳という概念が入って参りました。
 洗脳というのは、洗脳されていると自分で気づかないところが厄介です。
「ああ、俺先週洗脳したからね」
「ごめんなさい。あたし洗脳中なのよ、今……」
 なんていうことは先ずないでしょう。
 現在も常軌を逸したような指導者のお陰で、世界中が大騒ぎしているようなこともあります。(最もこの掲載時期はまだ数か月先なので、その時点でどうなっているかは分かりませんが)

 私もそこそこの期間生きて思うのですが、最近の音楽や芸術には人間性・抒情性が薄れてきたように皆さんお感じになりませんか?
 今回の書き物ではありませんが、世の中にはいつの間にか洗脳されて動いてる人間が増えてるのではないかしらん。
 メイクにしてもへスタイルにしても、まるでセルロイドの人形のよう。
 私も含めて、いつの間にか洗脳されてる方が大勢いらっしゃるのかもしれません。
「絶対に俺はそんなことない」
 、とおっしゃってもねえ……。
 自分では洗脳されてることに気づかないんですから。
「なにぼうっとしてるの?」
「ねえ、今聞いてた? ほんとにぼうっとして………」
 なんて、時々言われませんか?
 もし頭の形や体形がさやえんどうに似た方を見かけたら、ご用心ご用心。
(そんな人はいないか、笑)
 まあ何は無くとも、お互いが理解しあって平和に暮らす世の中が一番ですね。

 最後のあとがきで、私は劇中の小林隊長と同化した終わり方を試みていたようです。
 今読み返してみると背中が痒くなり、顔が火照る思いがします。
 私の拙い書き物を長い間掲載していただき、そして目を通していただき、本当にありがとうございました。
 この「ウルトラウーマン」が、皆様の心を少しでも和ませることが出来たら幸せなのですが………。

 劇中の小林隊長のように、暮れかかる夕日が部屋の中を赤く染めています。
 一日の仕事を終えて少なからずまったりしてる方。
 まだ仕事をしてる方、そしてこれからお仕事に向かう方。
 すべての方に、同じように時は流れていきます。

 それでは、またお逢いする時が来ることを楽しみにしております。
 皆さん、お元気で。
 さようなら。
令和4年 夏 改作

オリジナル筆者ビビこと
八十八十郎

ウルトラウーマン(43)目次【マッチロック・ショー】フェアリーズ・パーティ(Ⅰ)
「ウルトラウーマン」作:八十八十郎(はちじゅうはちじゅうろう)


(43)洗脳解除


 攻勢に転じたウルトラウーマンを見て、スワンと怜子はその表情を輝かせた。
 飛鳥ゆり子を完全に組み敷いて、ウルトラウーマンの裸体が夕日に映えて躍動する。
「やった、いけるいける!」
 身を躍らせる恵子にスワンが口を開く。
「まだ分からない。あたしあの女の人知ってる」
「え……?」
 怜子はスワンの顔を見つめる。
「あの人すごく上手だもの。でもあたし、あの人の喜ぶことも知ってる」
「なに、何なのそれ?」
「まだ早いわ。使う前に負けちゃうかもしれない。でも最後まで持ち込んだら……とどめを刺せるかも」
 スワンは澄み切った青い目でウルトラウーマンを見上げた。

 ウルトラウーマンの引き締まった臀部が飛鳥ゆり子に燃える様な情念をぶつけていた。
「う………」
 詰まった息を吐いて、ゆり子はウルトラウーマンの肩を掴む。
 テクニックは稚拙であったが、その圧倒的な体力と根性がゆり子の身体を少しずつ熱くしていたのだ。
 “ああ……やばい……この子………”
 少しでも刺激を交わそうと腰を押し返そうとしても、有無を言わさず逞しいものが快感を送り込んでくる。
「おねえちゃん、頑張って!」
「えぐり込む様に打つべし打つべし!!」(あさってのジョーより)
 スワンと怜子の声援でウルトラウーマンはますます身を奮い立たせる。
 飛鳥ゆり子はウルトラウーマンの首に両手を回した。
「ああ………もういきそう……」
 そうつぶやいて、ゆり子は潤んだ眼でウルトラウーマンを見上げる。
「ゆり子さん……」
「ねえキスして……。キスされながらいきたい」
「ゆり子さん!」
 ウルトラウーマンは夢中でゆり子に覆い被さっていく。
「だめ、おねえちゃん!!」
 スワンは叫んだ。
 情念に駆られたウルトラウーマンには、スワンの声は届かなかった。。
「お、おねえちゃんが!」
 スワンは怜子の腕を掴んだ。
「飛鳥ゆり子………、すごいしたたかな女だ……」
 ねっとりと唇を重ねながら、見る間にウルトラウーマンの身体が弛緩していく。
 突然ゆり子の両手が背中に回ったかと思うと、二人の身体を転がして上下の関係が入れ替わった。
 ゆり子はあっと言う間にウルトラウーマンに馬乗りになって、二人の両手を握り合わせる。
 誇らしげに乳房を揺らしながら、ウルトラウーマンのペニスを根こそぎ揺さぶるように腰を使い始める。
「あ………」
 ウルトラウーマンの眉が苦し気に寄せられた。
「いつでもいいわよ。あなたの熱くて濃いのを、あたしの中にたっぷりちょうだい」
 怜子とスワンはゆり子の見事な反撃に息を呑んだ。

 全世界のモニター前で悲鳴が上がった。
「キャー、ウルトラウーマン頑張って! まだ出しちゃだめよ!」
「いきそうなんて演技しやがって、汚いぞ飛鳥!」
「いきそうな時は数を数えろ! 羊が一匹羊が二匹……あれ、違ったっけ……ZZZ」
「根性ですたい!」(右門豊作調)
 とウルトラウーマン派は叫び、一方では、
「いてまえ、飛鳥ゆり子! 往生しまっせ……」
「根こそぎ吸い上げて、空っぽにしたれ!」
「ぎゃー! 俺にもしてくれ!!」
 と飛鳥ゆり子派は、地球の運命がかかっているにも関わらず、エンゼルスのホームゲームの様に盛り上がっていた。
 同時にハンナの家では、テレビの前でハンナが両手を握り合わせていた。
「このままではだめだわ。何とかしなくっちゃ………。そうだ!」
 携帯電話を取り出し電話番号を調べる。
「Shinohara……Ryouko……これだわ、お願い電話に出て……」
 電話を耳に付けたまま、ハンナは今にも射精しそうなウルトラウーマンの様子を見つめた。

「ん………?」
 怜子は胸元に震えを感じた。
 “上野は~♪ おいらの~♪、こころ~の駅~だ~~♪♪……”
 忙しないウルトラウーマンの喘ぎ声に混じって、微かに歌が聞こえて来る。
「電話!?」
 怜子は急いで胸ポケットから携帯電話を取り出す。
 “怜子さん?”
「ハ、ハンナさん!」
 “何とかしなくちゃ。お願い、あたしの声をウルトラウーマンに聞かせて!”
「え、ええ、分かった。そのまま呼びかけ続けて」
「テレビの画面で見てるわ。気を付けて!!」
 怜子はスピーカーに切り替えて音量を最大にするとスワンを振り返る。
「スワンちゃん、行くわよ!」
「OK!!」
 それはかなり危険な行為に違いなかった。
 女性二人の性行為と言っても、それは50メートル級の怪獣が暴れている場所に近づいていくことと同じなのだ。
 二人は必死に砂丘を登って行く。
 目の前では、ゆり子が巨大なお尻を振ってウルトラウーマンを責め苛んでいる。
 ウルトラウーマンもゆり子にリードされながら射精させられるばかりの状態である。
「スワンちゃん、彼女たちの動きに気を付けて!!」
 残り20メートルを切って怜子はスワンに叫んだ。
 仰向けでゆり子と繋がっているウルトラウーマンに向かって、怜子は拝む様に電話を突き出す。
 “ウルトラウーマン、あたしよ! ハンナよ!!”
 何やら声が聞こえたような気がして、ゆり子はウルトラウーマンのペニスを揺さぶりながら周囲を見回した。

「あ……!」
 ゆり子は足元に怜子とスワンの姿を見つけた。
 “ウルトラウーマンまだ駄目よ! お尻の穴をしっかり締めて!”
「ハ……ハンナさん」
 ハンナの声にウルトラウーマンは目を開いた。
「邪魔しないで!」
 繋いでいた左手を離してゆり子は怜子を払い除ける。
 危うく身を転がしてその手を避けた怜子も、弾かれた砂の勢いで5メートル以上飛ばされた。
「スワンちゃんお願い!」
 砂まみれで転がった怜子は、必死に携帯電話をスワンに投げる。
「わかった!」
 辛うじて電話をキャッチしたスワンは、飛鳥の目の届かないお尻の後ろに走り込んだ。
 “ウルトラウーマン、あなたはもっと出来るわ! あなたは出来るのよ!!”
 祈るように捧げ持った電話からハンナの声が響く。
「ハンナさん!」
 ウルトラウーマンはそう叫んで両腕をゆり子の腰のくびれに回した。
「危ない! スワンちゃん逃げて~!!」
 怜子の叫びでスワンが走り出すと同時に、競り合った二人の身体が回転して再びウルトラウーマンがゆり子を組み敷いた。
 その動きで雪崩状態となった砂が斜面を滑り落ちる。
「キャー!!!」
 あっと言う間にスワンの身体が砂の波に飲み込まれる。
「ス、スワンちゃん!」
 怜子は夢中で崩れた砂の辺りに駆け寄った。
「どこ! どこなの!」
 怜子はそう叫びながら両手で砂の中を探る。
 その時巨大な手が、砂もろとも怜子を斜面から救い上げた。
 ゆり子と繋がったままのウルトラウーマンが、片手を差し伸べて怜子たちを助けたのである。
 そのまま優しく怜子たちを地面に戻すと、砂の中からスワンの白いブラウスが現れた。
「スワンちゃん! スワンちゃん!」
 怜子は急いでスワンを抱き起す。
「ゴ、ゴホゴホ……」
 目を開いたスワンは怜子の胸の中で激しく咳き込んだ。
「大丈夫!? スワンちゃん」
「ゴホン……だ、大丈夫………」
 スワンは怜子の胸から起き上がってウルトラウーマンを見上げた。
 沈みゆく夕日に赤く染まりながら、女同士の獣じみた交尾がいよいよ断末魔に近づいていた。

 飛鳥ゆり子は握り合わせていた両手を離して、ウルトラウーマンの背中に回した。
 皮膚の下でうごめく背中の筋肉を掴む様にして、下から微妙に腰を振るい始める。
 “確かにあなたは頑張ったわ。あたしも体が熱くなるほど感じてる。でも私を先にいかせるにはまだまだ経験不足よ。そろそろ引導を渡してあげる”
 激しく押し入ってくるペニスを柔らかい腰の動きで受け流しながら、ゆり子はそれを締め付けて細かく揺さぶる。
「う………」
 ウルトラウーマンは眉を寄せて唇を噛んだ。
 まるで暖簾に腕押し、いやそんな風に手ごたえが無いばかりではなかった。
 腕を避けた暖簾が、幾重にも腕に絡み付いてくるのだ。
 疼くような快感が下半身に膨れ上がっていく。
 “ああ……気持ちい………このままだと出しちゃう……。もう……一か八か……”
 ウルトラウーマンはゆり子の身体を抱きしめると、激しく腰を使い始めた。
 しゃくりあげる動きでゆり子の裸身が上下にバウンドする。
「頑張ってウルトラウーマン!」
 決着の時を感じて、怜子はそう叫んだ。
「い、いけるかも………」
「え………?」
 スワンのつぶやきに怜子は振り返った。
 青い目は何かのタイミングを計る様にじっとウルトラウーマンを見つめていた。

「う………あ………く!」
 湿った交尾音と共にウルトラウーマンは必死で腰を振るう。
 “あ……だめ………もう出そう。お願い、飛鳥隊員……もういって………”
 ゆり子の口元が微かに緩んだ。
 “ああ………気持ちいい! すごいわこの子………。でももう終わりね、私の一手勝ち……”
 その時スワンはウルトラウーマンに向かって走った。
「ウルトラウーマン、お尻よ。お尻の穴を触って!!」
 ウルトラウーマンはスワンの叫びに目を開いた。
 もう鎌首まで精液が込み上げている。
 ウルトラウーマンは必死で右手を伸ばした。
 長い右手がゆり子の双丘に滑り込んでいく。
「あ! ダメ!!」
 腰を引こうとしたゆり子の身体を、ウルトラウーマンの左手が引き寄せる。
「周りをクリクリして! 腰を忘れちゃダメ!」
 ウルトラウーマンは再び腰を使いながら、菊のつぼみに垂れ堕ちていた露を纏わせた指で、その周りをなぞっていく。
「あ………いやあ!!」
 狼狽した悲鳴を上げて、ゆり子の裸体が反り返った。
「中に指を入れて!」
 ウルトラウーマンの右手の中指が、第一関節を過ぎたあたりまでぬうっと菊の中心に入り込む。
「あ~~!2」
 ゆり子は喉を反らせて大きく口を開いた。
「おチンチンも指も一緒にグリグリして!!」
 “あ~~出る………”
 ウルトラウーマンは1発目の射精の塊が少し鈴口から漏れるのを覚えた。
 必死に下唇を噛んで、ペニスを根元まで押し込む。
 そのままゆり子の身体の中をかき回す様にペニスと指をうねらせた。
「あ………あああ……イクイクイクイク!!!」
 叫びとともにゆり子の身体が反り上がって硬直した。
 美しい裸体が桜色に染まり、オーガズムの快感に包まれてぶるぶると震える。
「あぐ! ……出る!!」
 ゆり子の締め付けを押し開いて、ウルトラウーマンは激しく射精した。
 泣きたいような快感が身体を貫く度に、筋肉質の体が筋張って痙攣する。
 その時突然、二人の身体が金色の輝きに包まれた。
「やったわ………」
 輝きを片手で避けながら怜子はつぶやいた。
「成功……? おねえちゃんは無事に帰ってくる?」
 スワンが怜子を見上げる。
 怜子はスワンに大きく頷いた。
「成功よ。洗脳は解ける。二人は無事に帰ってくるわ」

「やった~~!!」
 全世界で歓声が上がった。
「世界はひとつ。人類は皆兄弟!」
 ウルトラウーマン派も飛鳥ゆり子派も、手を取り合って白い祝砲を飛ばした。
 女性も右手、左手、両手、または器具使いと方法は多々あれど、「いく」「落ちる」「だめ」「こわれる」と表現は多々あれど、快感を共にして女性同士の悦びを祝したのである。

「あれ………僕はここで何してるんだろ?」
 島田副官は画面の金色の輝きを見ながら目を瞬かせた。
 廻りの警備兵もきょとんとした表情で周りを見回している。
「本部長! 本部長! どちらですか?」
 島田副官は大河内本部長の姿を探す。
「絶対に爆破などさせんぞ! 死んでもわしはここを動かん!」
 廊下から聞こえた声で、島田副官はドアに駆け寄る。
「本部長、爆破っていったい何のことですか? ゼットンもウルトラウーマンが撃退しましたし、たった今ウルトラウーマンと飛鳥ゆり子のショータイムも終わったところです」
「な、なんだって……」
 恐る恐るドアを開けて大河内本部長が姿を現わす。
「島田君、君は爆破を勧めてたが……」
「危険のないものを、どうして爆破するんですか? 本部長」
 島田をじっと見つめる大河内の表情が和らいだ。
「いや、もちろん君の言うとおりだ、島田副官」
「では本部長、これからのご命令を」
 大河内は室内のスクリーンに目を向けた。
 画面の中では、抱き合ったウルトラウーマンと飛鳥ゆり子がまばゆい金色の輝きを放っていた。
「基地をたたんで撤収する」
「了解しました。いつまでもここで予算を使うわけにはいきません」
「ははは、まったく君の言うとおりだよ」
 大河内本部長は、愉快そうに笑い声を上げた。
 “ありがとう、小林君。ありがとう、ウルトラウーマン”
 大河内は万感胸に迫る思いで、ゆっくりと司令官席に腰を下ろした。

「は………! あたしは何を…………?」
 ふと目を開いた飛鳥ゆり子が周りを見回した。
「気が付いたのね、飛鳥隊員」
「あなたは………?」
「私はウルトラウーマン。ゼットンから地球を救いに来ました」
「まあウルトラウーマン………」
 ゆり子は瞳を輝かせてウルトラウーマンを見上げた。
 ウルトラウーマンはゆり子が洗脳から醒めたことを確信した。
 その澄み切って輝く瞳は、以前からウルトラウーマンが憧れた飛鳥ゆり子隊員のものに違いなかったからだ。
「よかった。二人とも無事で」
「ありがとう、スワンちゃん」
 喜ぶスワンにウルトラウーマンも笑みを返した。
「あ、あの、お話し中申し訳ないんだけど………」
 見かねて怜子が口をはさむ。
「その……裸で合体したままじゃちょっと……」
「きゃー!」
 自分の姿を確認したゆり子が悲鳴を上げた。
 ウルトラウーマンと飛鳥ゆり子は、まだ全裸の正常位でひとつになったままだったのだ。
「ああ、そうでした。じゃ、縮小します」
 慌てて目を閉じたウルトラウーマンは二人の身体を人間大に縮小した。
「ああ、飛鳥隊員よかった………」
 ウルトラウーマンは瞳を潤ませてゆり子の身体を抱きしめた。
「え………?」
 ゆり子は多少戸惑いながらもウルトラウーマンの抱擁を受け入れる。
 もうウルトラウーマンは自分の感情を抑えることが出来なかった。
「私、昔からあなたに憧れて………飛鳥隊員、私あなたのことが好きです」
「ウ、ウルトラウーマン、私どうこたえていいか……」
 ゆり子はおずおずとウルトラウーマンの肩に手を添えた。
「合体しながらこんな事言ってもねえ……。ふつうは告白が先で合体が後でしょ?」
「し! スワンちゃん……」
 怜子は口に人差し指をあててスワンを止めると、二人に微笑みかける。
「もう日が暮れて寒くなって来たわ。とにかくハンナさんの家に帰りましょう。温かいもの食べて、話はそれからよ」
「わ~い、そうしよう。お腹減っちゃった」
 ウルトラウーマンとゆり子も笑顔で頷く。
「あの、じゃあそれ、そろそろ抜いたら……? そしてウルトラウーマン、私たちを一緒に連れて行って」
「分かりました。じゃあ……」
 ゆり子は顔を赤くして目を伏せる。
 ウルトラウーマンはゆっくりとペニスバンドを引き抜くと怜子に渡した。
「じゃあまた巨大化します」
 他の3人から30メートルくらい離れて右手を上げると、ウルトラウーマンの身体がみるみる夕暮れの空にそびえ立った。
「じゃあ皆さん、これに乗って」
 怜子たちは器の様に丸く合わせたウルトラウーマンの両手に乗り込む。
「あ、忘れてた! スワンちゃん、ジープから美波医師も連れて来て。きっとジープの中で気絶したままだわ」
 怜子に言われて、スワンはウルトラウーマンの手から飛び降りて走っていく。
「早く早く!」
 スワンに手を引かれて、美波がやっと近づいてきた。
「はあはあ………私走るのは苦手で………きゃあああ!! きょきょ……巨人!」
「よく悲鳴する人だわね。もう気絶しないで。大きくてもお友達なんだから大丈夫よ。ねえウルトラウーマン」

 怜子が合図すると、ウルトラウーマンは胸の前で両手を握り合わせた美波に微笑みかける。
「美波さんですね、よろしく。これからみんなで食事するんですよ。よかったら一緒に行きましょう」
「え、ええ、それでは私も……」
 美波はまだぎこちない笑みで頷くと手の上に乗り込んだ。
「じゃあ飛びます」
 かけ声を発することもなく、ウルトラウーマンは風の様に地面を離れた。

 星の瞬きを背景に銀色の髪をなびかせながら、ウルトラウーマンは滑るように空に舞い上がっていく。
 4人を乗せたまま、空に向かって両手を差しだす。
「わあ、すご~い! 手を伸ばすと星に届きそう」
「ほんとだ……」
 スワンの歓声に怜子とゆり子、美波も空を見上げた。
「ハンナさんの家に着いたら、お得意の野菜スープを作ってもらいましょう。温かくて、とっても美味しいですよ」
 スワンは巨大なウルトラウーマンの顔を振り返る。
「ほんと?」
 怜子がスワンに右手の親指を立てて見せる。
「ウルトラウーマン、もっとスピード出して!!」
「まあ、あっはははは……」
 スワンの注文に3人は声を出して笑った。
「OK!」
 いつもと変わらぬ穏やかな夕暮れの空を、ウルトラウーマンたちの姿はみるみる西の空に遠ざかって行った。
ウルトラウーマン(42)目次ウルトラウーマン(44/最終章)
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