美弥子は混乱した。
普通、空いた個室が幾つかある場合……。
使用中の隣には、入らないのではないか。
いったいどういうつもりだろう。
立ち尽くす美弥子をよそに、隣室から水音が聞こえて来た。
明らかに小用の音だった。
隣室に入ったのは、他意は無いのかも知れない。
音を消すための水を流さないくらいだ。
大ざっぱな性格なのだろう。
隣室の水音を聞いているうち、美弥子も催してきた。
考えてみれば、トイレに入ってから、まだ用を足していないのだ。
蓋を開けたままの便座に腰掛ける。
水洗レバーに手を伸ばそうとして、美弥子はためらった。
ここで水音を立てたりしたら、隣室の不作法を詰るように聞こえないか……。
と言っても、水洗を流さずに小用を足す気にはなれなかった。
やはり、隣室の主が立ち去るのを待とう。
水洗レバーに伸びかけた美弥子の手が、膝上に戻った。
しかし、水音が消えてからも、トイレットペーパーを繰る音は聞こえて来なかった。
何をしているのだろう?
美弥子は耳をそば立てた。
「ん……」
隣室から、息むような声が漏れた。
声に続いて、微かな水音が立った。
重いものが、便器の底に落ちたようだ。
同時に、濃厚な香りが、板壁の下から這いこんできた。
明らかに大便臭だった。
美弥子は、狼狽を覚えた。
小用だけならまだしも……。
大便をしようという場合、人の入った個室の隣を、わざわざ選ぶだろうか。
あえてそうしたとしか思えなかった。
隣室の主が用を足してる隙に、個室を飛び出したかった。
しかし、全裸ではどうしようも無い。
着衣している間に、隣の用は終わってしまうだろう。
隣室の主が立ち去るまで、このまま待つしかない。
普通、空いた個室が幾つかある場合……。
使用中の隣には、入らないのではないか。
いったいどういうつもりだろう。
立ち尽くす美弥子をよそに、隣室から水音が聞こえて来た。
明らかに小用の音だった。
隣室に入ったのは、他意は無いのかも知れない。
音を消すための水を流さないくらいだ。
大ざっぱな性格なのだろう。
隣室の水音を聞いているうち、美弥子も催してきた。
考えてみれば、トイレに入ってから、まだ用を足していないのだ。
蓋を開けたままの便座に腰掛ける。
水洗レバーに手を伸ばそうとして、美弥子はためらった。
ここで水音を立てたりしたら、隣室の不作法を詰るように聞こえないか……。
と言っても、水洗を流さずに小用を足す気にはなれなかった。
やはり、隣室の主が立ち去るのを待とう。
水洗レバーに伸びかけた美弥子の手が、膝上に戻った。
しかし、水音が消えてからも、トイレットペーパーを繰る音は聞こえて来なかった。
何をしているのだろう?
美弥子は耳をそば立てた。
「ん……」
隣室から、息むような声が漏れた。
声に続いて、微かな水音が立った。
重いものが、便器の底に落ちたようだ。
同時に、濃厚な香りが、板壁の下から這いこんできた。
明らかに大便臭だった。
美弥子は、狼狽を覚えた。
小用だけならまだしも……。
大便をしようという場合、人の入った個室の隣を、わざわざ選ぶだろうか。
あえてそうしたとしか思えなかった。
隣室の主が用を足してる隙に、個室を飛び出したかった。
しかし、全裸ではどうしようも無い。
着衣している間に、隣の用は終わってしまうだろう。
隣室の主が立ち去るまで、このまま待つしかない。
「あがが」
圧迫を加えただけで、もう小魚は瀕死の状態だった。
膝が崩れかかる。
背中を壁に凭せていなかったら、腰が落ちていたかも知れない。
ここでイッてはいけない。
判ってはいたが、もう止められそうに無かった。
もう一方の手で乳房を持ち上げ、頬を擦りつける。
『イッても、いいでしょ?』
心の中で、鏡に語りかけた。
鏡の中の美弥子が、小さくうなずいた。
その時だった。
扉の外から、間近な靴音が聞こえた。
顔を振り向けると、磨りガラスが翳るのが見えた。
美弥子は壁を背中で跳ね上げ、身を反転させた。
扉が開く音を聞いたのは、個室の並ぶ通路に折れると同時だった。
辛うじて、見られていないはずだ。
しかし、タイルを叩くヒール音までは隠しようが無かった。
美弥子は、音高くタイルを踏み鳴らしながら、一番奥の個室に飛びこんだ。
個室の扉を閉じるときには、すでに靴音は洗面所を抜け、通路を廻りこんでいた。
扉のラッチを閉じると、全身が震え出した。
『見られてない……。
絶対に見られてない』
美弥子は、うわごとのように自分に言い聞かせた。
通路で、靴音が止まった。
何か思案しているのだろうか。
ひょっとしたら靴音の主も、一番奥の個室を目指したのかも知れない。
このトイレは、美弥子の籠もる一番奥以外は和式だ。
高いヒールを履いたままでは、用を足しづらい。
和式を敬遠する学生も多いだろう。
靴音の主には気の毒だが、このまま立ち去ってくれることを願うばかりだ。
しかし、再び靴音が生まれると、靴音の主は、そのまま隣の個室に入った。
扉が閉まり、ラッチ音が響いた。
圧迫を加えただけで、もう小魚は瀕死の状態だった。
膝が崩れかかる。
背中を壁に凭せていなかったら、腰が落ちていたかも知れない。
ここでイッてはいけない。
判ってはいたが、もう止められそうに無かった。
もう一方の手で乳房を持ち上げ、頬を擦りつける。
『イッても、いいでしょ?』
心の中で、鏡に語りかけた。
鏡の中の美弥子が、小さくうなずいた。
その時だった。
扉の外から、間近な靴音が聞こえた。
顔を振り向けると、磨りガラスが翳るのが見えた。
美弥子は壁を背中で跳ね上げ、身を反転させた。
扉が開く音を聞いたのは、個室の並ぶ通路に折れると同時だった。
辛うじて、見られていないはずだ。
しかし、タイルを叩くヒール音までは隠しようが無かった。
美弥子は、音高くタイルを踏み鳴らしながら、一番奥の個室に飛びこんだ。
個室の扉を閉じるときには、すでに靴音は洗面所を抜け、通路を廻りこんでいた。
扉のラッチを閉じると、全身が震え出した。
『見られてない……。
絶対に見られてない』
美弥子は、うわごとのように自分に言い聞かせた。
通路で、靴音が止まった。
何か思案しているのだろうか。
ひょっとしたら靴音の主も、一番奥の個室を目指したのかも知れない。
このトイレは、美弥子の籠もる一番奥以外は和式だ。
高いヒールを履いたままでは、用を足しづらい。
和式を敬遠する学生も多いだろう。
靴音の主には気の毒だが、このまま立ち去ってくれることを願うばかりだ。
しかし、再び靴音が生まれると、靴音の主は、そのまま隣の個室に入った。
扉が閉まり、ラッチ音が響いた。