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美弥子は、仰のいた由美の顔を見下ろしていた。
瞳は上瞼に隠れ、真っ白い目を見開いている。
食いしばった口の脇から、泡が噴きこぼれていた。
壊れた人形のようだった。
美弥子は、人形の髪を撫でた。
美弥子の脳裏には、幼いころ持っていた1体の人形が蘇っていた。
腕が可動する、セルロイドの人形だった。
美弥子が、あまりにも腕を動かしすぎたのだろう。
肩に接続する腕の差しこみ口が、剥がれてしまった。
片腕が、脱臼したように肩からぶら下がった。
なるべく触らないようにしたが、着替えをさせるときは、腕を外さなければならなかった。
母は、新しい人形を買ってやるから、その子はもう捨てなさいと言った。
美弥子は、頑なに頸を振り続けた。
新しい人形が欲しくなかったわけではないが、腕の取れた人形を捨てる気には、どうしてもなれなかった。
壊れてからむしろ、愛しさが増した。
垂れ下がった腕を撫でさすりながら、人形に頬を擦りつけた。
魂を飛ばし横たわる由美の姿は、美弥子にその人形を思い出させた。
美弥子は、真っ直ぐな由美の髪を撫でた。
由美の目を醒まさないように、そっと身を離す。
由美の股間を離れた美弥子の陰核は、勃起したままだった。
美弥子は、由美の顔を見下ろす位置に座り直した。
陰核を摘む。
由美が、美弥子のマンションを離れていたのは、ごく僅かな期間だ。
しかし、その僅かな間に、美弥子には再びオナニーの習慣が戻っていた。
由美のいない夜は、自分で慰めずにはおれなかった。
いや……。
夜だけでは無い。
昼間も……。
あれは……。
ひとりの寂しさを紛らわすため、廊下にモップ掛けをしているときだった。
玄関には、由美の赤いレインブーツが立っていた。
このレインブーツは、梅雨のはしりのころ、商店街のウィンドウで見つけていたものだった。
由美と知り合う前のことだ。
そのときは、ウィンドウを横目で眺めていただけだった。
由美と暮らし始めてからの、ある雨の日のことだった。
パンプスを履いた由美は、舗道の水溜まりを避けながら歩いていた。
それを見たとき、あのレインブーツが頭に浮かんだ。
店の前はすでに通り過ぎていたが、美弥子は由美の手を取り、商店街を引き返した。
訝しげに問いかける由美を宥めながら、店に入る。
美弥子は、仰のいた由美の顔を見下ろしていた。
瞳は上瞼に隠れ、真っ白い目を見開いている。
食いしばった口の脇から、泡が噴きこぼれていた。
壊れた人形のようだった。
美弥子は、人形の髪を撫でた。
美弥子の脳裏には、幼いころ持っていた1体の人形が蘇っていた。
腕が可動する、セルロイドの人形だった。
美弥子が、あまりにも腕を動かしすぎたのだろう。
肩に接続する腕の差しこみ口が、剥がれてしまった。
片腕が、脱臼したように肩からぶら下がった。
なるべく触らないようにしたが、着替えをさせるときは、腕を外さなければならなかった。
母は、新しい人形を買ってやるから、その子はもう捨てなさいと言った。
美弥子は、頑なに頸を振り続けた。
新しい人形が欲しくなかったわけではないが、腕の取れた人形を捨てる気には、どうしてもなれなかった。
壊れてからむしろ、愛しさが増した。
垂れ下がった腕を撫でさすりながら、人形に頬を擦りつけた。
魂を飛ばし横たわる由美の姿は、美弥子にその人形を思い出させた。
美弥子は、真っ直ぐな由美の髪を撫でた。
由美の目を醒まさないように、そっと身を離す。
由美の股間を離れた美弥子の陰核は、勃起したままだった。
美弥子は、由美の顔を見下ろす位置に座り直した。
陰核を摘む。
由美が、美弥子のマンションを離れていたのは、ごく僅かな期間だ。
しかし、その僅かな間に、美弥子には再びオナニーの習慣が戻っていた。
由美のいない夜は、自分で慰めずにはおれなかった。
いや……。
夜だけでは無い。
昼間も……。
あれは……。
ひとりの寂しさを紛らわすため、廊下にモップ掛けをしているときだった。
玄関には、由美の赤いレインブーツが立っていた。
このレインブーツは、梅雨のはしりのころ、商店街のウィンドウで見つけていたものだった。
由美と知り合う前のことだ。
そのときは、ウィンドウを横目で眺めていただけだった。
由美と暮らし始めてからの、ある雨の日のことだった。
パンプスを履いた由美は、舗道の水溜まりを避けながら歩いていた。
それを見たとき、あのレインブーツが頭に浮かんだ。
店の前はすでに通り過ぎていたが、美弥子は由美の手を取り、商店街を引き返した。
訝しげに問いかける由美を宥めながら、店に入る。
「あぁあ。
あぁあ」
美弥子が動き始めた。
臼を轢くような回転運動だった。
由美の陰核が、美弥子の恥丘に磨り潰される。
「あひぃ。
あひぃ」
もう慎みを保った声は出せなかった。
堪らず倒した頬に、美弥子の汗が落ち始めた。
ファンデーションの溶ける匂いが起ちあがる。
唇に汗が流れこむ。
汗の辛みとファンデーションの苦みが舌先に落ち、口中を拡がった。
由美は再び顔を振り上げた。
既に絶頂が近かった。
美弥子が見下ろしていた。
互いの瞳を凝視する。
灰色を帯びた美弥子の瞳の中に、由美が映っていた。
美弥子の中に、自分は棲んでいるのだと思った。
「美弥ちゃん、イク……。
由美イクから……」
「いいよ。
いいよ。
イッていいのよ」
美弥子の腰の蠕動が激しくなった。
陰核が練り立てられる。
「あがが。
あがっ」
美弥子の腰の上で絡んでいた両脚が外れた。
膝から下が、天井を指して立ち上がった。
指の股が、綻ぶように開いていった。
由美は、歯を食いしばり頸をもたげた。
自らの額を、美弥子の額に押し付ける。
そのまま美弥子の瞳を凝視した。
手の平に、汗の染み始めた美弥子のブラウスが吸い付くのを感じた。
「あぎゃ」
由美の頸が折れ落ち、玄関のドアが見えた。
シャッターが降りるように、それきり視界は暗転した。
あぁあ」
美弥子が動き始めた。
臼を轢くような回転運動だった。
由美の陰核が、美弥子の恥丘に磨り潰される。
「あひぃ。
あひぃ」
もう慎みを保った声は出せなかった。
堪らず倒した頬に、美弥子の汗が落ち始めた。
ファンデーションの溶ける匂いが起ちあがる。
唇に汗が流れこむ。
汗の辛みとファンデーションの苦みが舌先に落ち、口中を拡がった。
由美は再び顔を振り上げた。
既に絶頂が近かった。
美弥子が見下ろしていた。
互いの瞳を凝視する。
灰色を帯びた美弥子の瞳の中に、由美が映っていた。
美弥子の中に、自分は棲んでいるのだと思った。
「美弥ちゃん、イク……。
由美イクから……」
「いいよ。
いいよ。
イッていいのよ」
美弥子の腰の蠕動が激しくなった。
陰核が練り立てられる。
「あがが。
あがっ」
美弥子の腰の上で絡んでいた両脚が外れた。
膝から下が、天井を指して立ち上がった。
指の股が、綻ぶように開いていった。
由美は、歯を食いしばり頸をもたげた。
自らの額を、美弥子の額に押し付ける。
そのまま美弥子の瞳を凝視した。
手の平に、汗の染み始めた美弥子のブラウスが吸い付くのを感じた。
「あぎゃ」
由美の頸が折れ落ち、玄関のドアが見えた。
シャッターが降りるように、それきり視界は暗転した。