女教師が再び舞台に現れた。
うなだれた女生徒が、その後ろに続いていた。
美弥子は驚愕した。
同じクラスの生徒だった。
しかも隣の席の。
助演女優と呼ぶには、あまりにも幼い少女だ。
むしろ子役に近かった。
小学生が、高校の制服を着たような体形だった。
両耳の後ろで髪をツインテールに絞り、赤いセルフレームのメガネを掛けていた。
入学して間もないある週末、抜き打ちで持ち物検査が行われたことがあった。
教師の靴音が近づくにつれ、隣の少女が身を固くするのが判った。
机の上にハンカチが出ていない。
忘れたらしい。
美弥子は、高校生に対しこんな検査をする学校に、少し反発を感じていた。
美弥子は予備に持つハンカチを、教師に見えないよう少女に渡した。
少女は驚いた目を見開いた。
無事に検査を終えた後、少女は幾度も礼を言った。
「このハンカチ、月曜日まで貸してもらえませんか。
洗ってお返しします」
「そんなことしなくていいのよ」
「お願いします」
翌週、綺麗にアイロンの掛かったハンカチが返された。
仄かな香水の香りがした。
以来この少女は、美弥子に特別な感情を持ったらしかった。
視線を感じて横を向くと、この少女がじっと自分を見つめてることが、度々あった。
美弥子と視線が合うとすぐに下を向いてしまうのだが、美弥子が前を向くと再び頬に視線を感じた。
「お座りなさい」
女教師が丸椅子を指して少女を促した。
少女はうなだれたまま腰を下ろし、鞄を腿の上に引き付けた。
鞄の下から、小さな膝頭が覗いていた。
ツインテールに結った髪が、肩を滑り胸前に落ちた。
女教師は立ったまま、少女を見下ろして言った。
「何で呼ばれたのか、わかってるわよね」
「……」
「宿題はやってきたの?」
少女は俯いたまま、頚を小さく左右に振った。
うなだれた女生徒が、その後ろに続いていた。
美弥子は驚愕した。
同じクラスの生徒だった。
しかも隣の席の。
助演女優と呼ぶには、あまりにも幼い少女だ。
むしろ子役に近かった。
小学生が、高校の制服を着たような体形だった。
両耳の後ろで髪をツインテールに絞り、赤いセルフレームのメガネを掛けていた。
入学して間もないある週末、抜き打ちで持ち物検査が行われたことがあった。
教師の靴音が近づくにつれ、隣の少女が身を固くするのが判った。
机の上にハンカチが出ていない。
忘れたらしい。
美弥子は、高校生に対しこんな検査をする学校に、少し反発を感じていた。
美弥子は予備に持つハンカチを、教師に見えないよう少女に渡した。
少女は驚いた目を見開いた。
無事に検査を終えた後、少女は幾度も礼を言った。
「このハンカチ、月曜日まで貸してもらえませんか。
洗ってお返しします」
「そんなことしなくていいのよ」
「お願いします」
翌週、綺麗にアイロンの掛かったハンカチが返された。
仄かな香水の香りがした。
以来この少女は、美弥子に特別な感情を持ったらしかった。
視線を感じて横を向くと、この少女がじっと自分を見つめてることが、度々あった。
美弥子と視線が合うとすぐに下を向いてしまうのだが、美弥子が前を向くと再び頬に視線を感じた。
「お座りなさい」
女教師が丸椅子を指して少女を促した。
少女はうなだれたまま腰を下ろし、鞄を腿の上に引き付けた。
鞄の下から、小さな膝頭が覗いていた。
ツインテールに結った髪が、肩を滑り胸前に落ちた。
女教師は立ったまま、少女を見下ろして言った。
「何で呼ばれたのか、わかってるわよね」
「……」
「宿題はやってきたの?」
少女は俯いたまま、頚を小さく左右に振った。
女教師が物入れの扉を開いた。
薬品や衛生用品のストックが詰まっていると思っていた庫内には、何も入って無かった。
ルーバーのスリットを抜けた光が、背板に横縞を落としている。
細かな埃が、光の中で揺れていた。
「何してるの。
入るんだよ、おまえが」
美弥子は背中を押された。
物入れは、美弥子の背丈よりも高かった。
しかし、中程に棚が造りつけられていて、立ったままでは入れなかった。
女教師は美弥子の頭を押さえつけた。
美弥子は物入れの底に手を突いた。
そのまま尻を送り込まれる。
乱暴に扉が閉められた。
金属音が続いた。
扉中央にあった閂が下ろされたのだ。
庫内は、思いの外奥行きがあった。
手足を自由に伸ばせるほどではなかったが、身動きの取れない窮屈さは無い。
ルーバーを抜けた光が、美弥子の全身を横縞に染めていた。
その縞の太さが、変わった。
「どうです?
お客さん。
よく見えます?」
ルーバーの角度は、外から自由に調節できるらしい。
明るい方の縞が太くなった。
ルーバーの隙間から、扉の外がはっきりと見えた。
女教師が観客席と言ったわけが、ようやく理解できた。
扉の外では、女教師が携帯メールを打っていた。
携帯をポケットに戻すと、物入れに顔を近づける。
にやりと笑う。
「心配しなくていいよ。
こっちからは中が見えないんだよ、真っ暗で。
中では、何してもいいのよ。
お客さんはみーんな、オナニーなさってるみたいだけどね」
女教師は、身体を起こすと白衣を脱いだ。
「そろそろ出番だからね。
今日はあたしが主演女優さ。
ゆっくり楽しんでってくださいね、お客さま」
女教師が、黒のタイトスカートと白いブラウスを脱ぎ落としたときだった。
保健室の扉が、ほとほとと叩かれた。
「登場だよ、助演女優が」
女教師は黒い下着の上に白衣を纏うと、音のする方へ向かった。
美弥子の視界から消えた。
がらんとした保健室の風景だけがそこに残った。
いったいこの舞台で、幾人の女生徒たちが泣いてきたのだろうか。
自分もまた、その一人に連なっているのだ。
美弥子は身体を縮め、両腕で胸を抱いた。
薬品や衛生用品のストックが詰まっていると思っていた庫内には、何も入って無かった。
ルーバーのスリットを抜けた光が、背板に横縞を落としている。
細かな埃が、光の中で揺れていた。
「何してるの。
入るんだよ、おまえが」
美弥子は背中を押された。
物入れは、美弥子の背丈よりも高かった。
しかし、中程に棚が造りつけられていて、立ったままでは入れなかった。
女教師は美弥子の頭を押さえつけた。
美弥子は物入れの底に手を突いた。
そのまま尻を送り込まれる。
乱暴に扉が閉められた。
金属音が続いた。
扉中央にあった閂が下ろされたのだ。
庫内は、思いの外奥行きがあった。
手足を自由に伸ばせるほどではなかったが、身動きの取れない窮屈さは無い。
ルーバーを抜けた光が、美弥子の全身を横縞に染めていた。
その縞の太さが、変わった。
「どうです?
お客さん。
よく見えます?」
ルーバーの角度は、外から自由に調節できるらしい。
明るい方の縞が太くなった。
ルーバーの隙間から、扉の外がはっきりと見えた。
女教師が観客席と言ったわけが、ようやく理解できた。
扉の外では、女教師が携帯メールを打っていた。
携帯をポケットに戻すと、物入れに顔を近づける。
にやりと笑う。
「心配しなくていいよ。
こっちからは中が見えないんだよ、真っ暗で。
中では、何してもいいのよ。
お客さんはみーんな、オナニーなさってるみたいだけどね」
女教師は、身体を起こすと白衣を脱いだ。
「そろそろ出番だからね。
今日はあたしが主演女優さ。
ゆっくり楽しんでってくださいね、お客さま」
女教師が、黒のタイトスカートと白いブラウスを脱ぎ落としたときだった。
保健室の扉が、ほとほとと叩かれた。
「登場だよ、助演女優が」
女教師は黒い下着の上に白衣を纏うと、音のする方へ向かった。
美弥子の視界から消えた。
がらんとした保健室の風景だけがそこに残った。
いったいこの舞台で、幾人の女生徒たちが泣いてきたのだろうか。
自分もまた、その一人に連なっているのだ。
美弥子は身体を縮め、両腕で胸を抱いた。