「すぐ近くにベンチがあります」
「連れてってくれる?
立つから」
女性は、アスファルトに手をついて立ちあがった。
足元が定まらないようで、侑人の腕を掴んだ。
スクールシャツの袖越しに、か弱い握力を感じた。
「あっちです」
歩き出すと、自然と腕を組むかたちになってしまった。
女性は、思いのほか背が高かった。
侑人より、頭半分ほど抜けている。
そんな女性に縋られて歩くのは、なんだかこそばゆかった。
幸い、誰の目もなかったが。
「君、中学生?」
「はい。
1年です」
「でも、こんな時間に……。
学校は?」
昼過ぎだった。
「定期テストなんで、学校は午前中だけです」
「あら大変。
帰って勉強しなくちゃ」
「いえ。
今日が最終日だったんで。
あ、あそこです」
ポケットパークが見えて来た。
何の目的で作られたのか分からないスペースだった。
バス停があるわけでもないのだ。
空き家が、敷地ごと自治体に寄付でもされたのだろうか。
ポケットパークの左右と奥は住宅だった。
奥の住宅は、1本向こうの通り側に玄関があるのだろう。
どの住宅も、ポケットパークに面した窓は小さな嵌め殺しで、ブラインドが降りていた。
奥の住宅との境目には、低木が列植されている。
その前に、木製のベンチが2基、並んで据えられていた。
ここに人が座っているのを、1度も見たことがなかった。
この日のベンチにも、木漏れ日が憩うだけだった。
女性を伴い、ベンチに歩み寄る。
女性は、ストンと落ちるようにベンチに座りこんだ。
「大丈夫ですか?」
「助かったわ。
ありがとう」
「連れてってくれる?
立つから」
女性は、アスファルトに手をついて立ちあがった。
足元が定まらないようで、侑人の腕を掴んだ。
スクールシャツの袖越しに、か弱い握力を感じた。
「あっちです」
歩き出すと、自然と腕を組むかたちになってしまった。
女性は、思いのほか背が高かった。
侑人より、頭半分ほど抜けている。
そんな女性に縋られて歩くのは、なんだかこそばゆかった。
幸い、誰の目もなかったが。
「君、中学生?」
「はい。
1年です」
「でも、こんな時間に……。
学校は?」
昼過ぎだった。
「定期テストなんで、学校は午前中だけです」
「あら大変。
帰って勉強しなくちゃ」
「いえ。
今日が最終日だったんで。
あ、あそこです」
ポケットパークが見えて来た。
何の目的で作られたのか分からないスペースだった。
バス停があるわけでもないのだ。
空き家が、敷地ごと自治体に寄付でもされたのだろうか。
ポケットパークの左右と奥は住宅だった。
奥の住宅は、1本向こうの通り側に玄関があるのだろう。
どの住宅も、ポケットパークに面した窓は小さな嵌め殺しで、ブラインドが降りていた。
奥の住宅との境目には、低木が列植されている。
その前に、木製のベンチが2基、並んで据えられていた。
ここに人が座っているのを、1度も見たことがなかった。
この日のベンチにも、木漏れ日が憩うだけだった。
女性を伴い、ベンチに歩み寄る。
女性は、ストンと落ちるようにベンチに座りこんだ。
「大丈夫ですか?」
「助かったわ。
ありがとう」
侑人は女性に歩み寄った。
道路に伸ばした腕に頬を載せ、眉をしかめている。
若い女性だった。
女性の年齢はよくわからないが、おそらくは二十歳前後だろう。
香織と同年代の雰囲気があった。
痩せぎすなところも似ていた。
しかし、香織とは比べものにならないほどの美形だ。
細面で、漆黒の髪を後ろで束ねていた。
「あの……。
大丈夫ですか?」
女性は目を半眼に閉じたまま、小さく頷いた。
大丈夫だとしても、このまま立ち去るわけにはいかないだろう。
滅多に車の通らない小路だが、曲がり角に転がっていては危険極まりない。
「起きられますか?」
女性はアスファルトに手を突き、懸命に身を起こそうとした。
侑人は、妙なところを掴まないように気を使いながら加勢した。
いい匂いがした。
キャメルのスカートに、トップスは黒の長袖だった。
女性のファッションのことは良くわからないが、材質はニットのようだ。
女性はようやく、上体だけ起こした。
「ごめんなさい。
急に飛び出して」
どうやら、一方的に責められることはなさそうだ。
「いえ。
ぼくの方こそ。
考えごとしてたんで。
立てますか?
道路に座ってたら危ないですから」
「少し休めるところ、ないかしら?
ちょっと、呼吸器の病気があって」
侑人は頭を巡らせた。
住宅街の真ん中だ。
腰を下ろして休めるところなど……。
あった。
ポケットパークだ。
絵里子たちに、初めて呼び出された場所だった。
その一角だけ、住宅街の並びが途切れ、道路から凹形に食いこんでいる。
植栽が施され、素焼き風のレンガが敷かれていた。
あとは、木製のベンチが2基あるだけのスペースだった。
道路に伸ばした腕に頬を載せ、眉をしかめている。
若い女性だった。
女性の年齢はよくわからないが、おそらくは二十歳前後だろう。
香織と同年代の雰囲気があった。
痩せぎすなところも似ていた。
しかし、香織とは比べものにならないほどの美形だ。
細面で、漆黒の髪を後ろで束ねていた。
「あの……。
大丈夫ですか?」
女性は目を半眼に閉じたまま、小さく頷いた。
大丈夫だとしても、このまま立ち去るわけにはいかないだろう。
滅多に車の通らない小路だが、曲がり角に転がっていては危険極まりない。
「起きられますか?」
女性はアスファルトに手を突き、懸命に身を起こそうとした。
侑人は、妙なところを掴まないように気を使いながら加勢した。
いい匂いがした。
キャメルのスカートに、トップスは黒の長袖だった。
女性のファッションのことは良くわからないが、材質はニットのようだ。
女性はようやく、上体だけ起こした。
「ごめんなさい。
急に飛び出して」
どうやら、一方的に責められることはなさそうだ。
「いえ。
ぼくの方こそ。
考えごとしてたんで。
立てますか?
道路に座ってたら危ないですから」
「少し休めるところ、ないかしら?
ちょっと、呼吸器の病気があって」
侑人は頭を巡らせた。
住宅街の真ん中だ。
腰を下ろして休めるところなど……。
あった。
ポケットパークだ。
絵里子たちに、初めて呼び出された場所だった。
その一角だけ、住宅街の並びが途切れ、道路から凹形に食いこんでいる。
植栽が施され、素焼き風のレンガが敷かれていた。
あとは、木製のベンチが2基あるだけのスペースだった。