「駿河屋さん。
何か言いなさいよ。
ちょっと、あなた。
大丈夫?」
若主人は侑人を凝視したまま、脂汗を流し始めていた。
子供のころの同級生に似た子を前にしているだけだろう。
この様子は尋常ではない。
「あなた、ほんとにどこか悪いんじゃないの?」
幸恵は、若主人の肩に手を置いた。
若主人は、スタンガンをあてられたように飛びあがると、テーブル脇の絨毯にガマガエルのごとくつくばった。
頭は侑人を向いていた。
「ちょっと、どうしたのよ?」
「アキラ……。
アキラ、ごめんよぉぉぉ」
額を絨毯に擦りつけ、号泣を始めた。
侑人は最上級のドン引き顔で、幸恵の顔を窺った。
“このオヤジ、ヤバすぎ”と顔が言っていた。
「駿河屋さん!
しっかりして!」
「思い出しました。
思い出したんです。
ずっと不思議だったんです。
なんで……。
なんで、アキラが行方不明になったときの記憶が曖昧なんだろうって。
でも、今、思い出しました。
ぜんぶ」
若主人はくしゃくしゃの顔をあげ、侑人を仰いだ。
「何を思いだしたっていうの?」
「アキラは……。
アキラは、自分が殺したんです」
「ちょっと。
冗談はやめてよ」
「ほんとです。
修学旅行が終わって、学校が始まったときのことです。
学校に行くのが、楽しみでしょうがなかったです。
アキラと、あんな関係になったんですから。
学校でも、ずっと一緒に過ごせると思ってました。
でもアキラは、わたしとのことなんかなかったみたいな顔をして……。
ほかのやつとじゃれたりしてたんです。
ショックでしたし、うぬぼれてた自分がバカに思えました。
で、その日の帰り道、ひとりで歩いてました。
そしたら、アキラが追いついてきたんです。
呼び止められましたが、わたしはまだ怒ってたんで無視しました。
そしたら、後ろからまとわりついてたアキラが、わたしの真ん前に出ました。
わたしに合わせて歩きながら、わたしの行く手を塞ぎます。
わたしが右に避けようとすると右に身を寄せ、左に動けば左に寄って邪魔します。
そんなことをしながら、2人で道路をジグザクに歩いてました。
酷く悲しかったです」
何か言いなさいよ。
ちょっと、あなた。
大丈夫?」
若主人は侑人を凝視したまま、脂汗を流し始めていた。
子供のころの同級生に似た子を前にしているだけだろう。
この様子は尋常ではない。
「あなた、ほんとにどこか悪いんじゃないの?」
幸恵は、若主人の肩に手を置いた。
若主人は、スタンガンをあてられたように飛びあがると、テーブル脇の絨毯にガマガエルのごとくつくばった。
頭は侑人を向いていた。
「ちょっと、どうしたのよ?」
「アキラ……。
アキラ、ごめんよぉぉぉ」
額を絨毯に擦りつけ、号泣を始めた。
侑人は最上級のドン引き顔で、幸恵の顔を窺った。
“このオヤジ、ヤバすぎ”と顔が言っていた。
「駿河屋さん!
しっかりして!」
「思い出しました。
思い出したんです。
ずっと不思議だったんです。
なんで……。
なんで、アキラが行方不明になったときの記憶が曖昧なんだろうって。
でも、今、思い出しました。
ぜんぶ」
若主人はくしゃくしゃの顔をあげ、侑人を仰いだ。
「何を思いだしたっていうの?」
「アキラは……。
アキラは、自分が殺したんです」
「ちょっと。
冗談はやめてよ」
「ほんとです。
修学旅行が終わって、学校が始まったときのことです。
学校に行くのが、楽しみでしょうがなかったです。
アキラと、あんな関係になったんですから。
学校でも、ずっと一緒に過ごせると思ってました。
でもアキラは、わたしとのことなんかなかったみたいな顔をして……。
ほかのやつとじゃれたりしてたんです。
ショックでしたし、うぬぼれてた自分がバカに思えました。
で、その日の帰り道、ひとりで歩いてました。
そしたら、アキラが追いついてきたんです。
呼び止められましたが、わたしはまだ怒ってたんで無視しました。
そしたら、後ろからまとわりついてたアキラが、わたしの真ん前に出ました。
わたしに合わせて歩きながら、わたしの行く手を塞ぎます。
わたしが右に避けようとすると右に身を寄せ、左に動けば左に寄って邪魔します。
そんなことをしながら、2人で道路をジグザクに歩いてました。
酷く悲しかったです」
「わたしもいただいちゃお」
もちろん、コップは2つ持ってきていた。
「ご対面のときは、わたしがいない方がいいかしら?」
「ダメです。
いてください」
「なんだか、お見合いの席の親みたいね」
若主人が、幸恵の差し出したコップにビールを注ぐ。
まだ手が震えている。
若主人は、自分のコップにもビールを注ぎ足した。
「どうやら、平静になるのは無理みたいね。
その前に酔っ払っちゃうわ。
呼ぶわね」
幸恵はポケットからスマホを取り出し、侑人に架けた。
10時に来てくれと言ってあったのだが、まだ15分もある。
「侑くん?
今、家?
そう。
良かったら来て」
ほどなく、ドアホンのチャイムが鳴った。
センターテーブルの子機を取りあげる。
「開いてるから。
入ったら鍵、閉めて」
若主人は、塑像のように凝固していた。
笑いが堪えられない。
スリッパの音がほとほとと歩んでくる。
リビングの入口に、侑人が現れた。
ソファーの若主人を見て、驚いた顔をした。
当然だろう。
ほかに人がいるとは言ってなかったのだ。
「お客さん?」
「いいのよ。
こっち来て、前、座って」
侑人は怪訝な顔をしたまま、対面の1人掛けソファーに座った。
カーゴパンツにトレーナー。
いつもの格好だ。
「この人、知ってる?」
侑人は、顔を横振った。
「駅前の酒屋さん。
いつも、お酒届けてもらってるの」
侑人は、いっそう怪訝な表情を深めた。
酒の配達に、スーツで来るわけがない。
もちろん、コップは2つ持ってきていた。
「ご対面のときは、わたしがいない方がいいかしら?」
「ダメです。
いてください」
「なんだか、お見合いの席の親みたいね」
若主人が、幸恵の差し出したコップにビールを注ぐ。
まだ手が震えている。
若主人は、自分のコップにもビールを注ぎ足した。
「どうやら、平静になるのは無理みたいね。
その前に酔っ払っちゃうわ。
呼ぶわね」
幸恵はポケットからスマホを取り出し、侑人に架けた。
10時に来てくれと言ってあったのだが、まだ15分もある。
「侑くん?
今、家?
そう。
良かったら来て」
ほどなく、ドアホンのチャイムが鳴った。
センターテーブルの子機を取りあげる。
「開いてるから。
入ったら鍵、閉めて」
若主人は、塑像のように凝固していた。
笑いが堪えられない。
スリッパの音がほとほとと歩んでくる。
リビングの入口に、侑人が現れた。
ソファーの若主人を見て、驚いた顔をした。
当然だろう。
ほかに人がいるとは言ってなかったのだ。
「お客さん?」
「いいのよ。
こっち来て、前、座って」
侑人は怪訝な顔をしたまま、対面の1人掛けソファーに座った。
カーゴパンツにトレーナー。
いつもの格好だ。
「この人、知ってる?」
侑人は、顔を横振った。
「駅前の酒屋さん。
いつも、お酒届けてもらってるの」
侑人は、いっそう怪訝な表情を深めた。
酒の配達に、スーツで来るわけがない。











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