2016.8.2(火)
「ひ」
悲鳴とも、嬌声ともつかぬ声とともに、志摩子の首が跳ね上がった。首とともに、仰向けの志摩子の上体も踊った。志摩子の首と上体は、即座に落下した。
「ひい」
志摩子は、座席に落下した首と上体をくねらせた。いや、その動きは、志摩子の意識とは無関係だった。それは純粋に反射運動だった。
反射。
本人の意識に関係なく、いや意識に正に反するように体が動く反応を反射という。反射を成り立たせるシステムとも云えるものが神経系である。神経系は大きく『末梢神経系』と『中枢神経系』に区分できる。末梢神経系は更に『感覚神経系』と『運動神経系』に大別される。
神経系の正に中枢を成すのが『中枢神経系』である。ここで様々な情報処理と、体の動きをコントロールする判断・命令が行われる。
そのためにはまず、体に加わる外部刺激情報が必要である。外部情報を捉えるのは、眼や耳などの感覚器である。
感覚器がキャッチした外部情報を、中枢神経系に伝える働きを行うのが、末梢神経系の一つである『感覚神経系』である。
中枢神経の指令を筋肉や腱(『作動体』とも云う)に伝え、何らかの体の動きを生じさせるのが『運動神経系』である。
『感覚器』→『感覚神経系』→『中枢神経系』→『運動神経系』→『筋肉』は、全体で一つのシステムを成している。情報は、この順に伝わり、外部情報に適切に対応した体の動き・反応が生じる。ただし、感覚神経と運動神経は、いわば単なるケーブルであり、情報処理はほとんど行わない。
コンピューターに例えるなら、『中枢神経系』はその本体、CPUに擬(なぞら)えることができる。収集した外部情報をもとに、最も適切な対応・体の反応を判断する情報処理システムが『中枢神経系』である。
“ものを考える”のが中枢神経系である。末梢神経系は“何も考えない”。ひたすら、情報を伝えることに専念するのが末梢神経である。
末梢神経の先には、必ず“周辺機器”が接続されている。コンピューターで云うならキーボ-ド、スキャナー、モニター、プリンター……などである。
では、ヒトの体の周辺機器とは何であろう。まず、眼や耳などの感覚器官である。感覚器官の役割は、外部情報の収集である。光や音など、人体に加わる「刺激」という外部情報。これを捉え、簡単な下処理をしたのちに、末梢神経、つまりケーブルである感覚神経に送り出すのが感覚器官である。その役割から、感覚器官は『受容体』とも呼ばれる。
いま一つの周辺機器は、筋肉や腱など、中枢神経からの指令によって動かされるものである。これらはその役割から、『作動体』と呼ばれる。
『受容体』『中枢神経』『作動体』。この三者のいわば連係プレイで、ヒトの体は適切な反応・動きを行うことができる。そして、この三者を繋ぎ、情報の伝導・伝達を行う接続ケーブルが、末梢神経系なのである。
中枢神経には、大別して脳と脊髄がある。脳は更に大脳・間脳・中脳・小脳・延髄に区分され、それぞれ固有の情報処理を行っている。が、意識・感覚・記憶・感情、さらに個性や自我など、高度な精神作用を行うのは大脳のみである。本能や無意識なども大脳の機能である。だが、大脳の機能については、実はまだまだ分かっていないことが多い。21世紀の科学の、大きなテーマの一つが『大脳』なのである。
道代の舌と唇により、志摩子の乳首に加えられた外部刺激は、乳首の皮膚感覚器によってまず捉えられた。
いわゆる五感……視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚。このうち、皮膚感覚器に生じる感覚が触覚である。五感はそれぞれ眼・耳・鼻・舌・皮膚感覚器に生ずるものであるが、このうち皮膚感覚器は最も簡単な構造の感覚器である。
それは末梢神経の一つ、感覚神経の単なる末端部とも云える。感覚器の構造が簡単なだけに、触角は最もシンプルな感覚とも云えるし、最も原初的な感覚であるのかもしれない。
志摩子の右の乳首に生じた触角は、乳首に接続されている感覚神経に伝わり、中枢神経の最も下位にある脊髄で情報処理され、直ちに運動神経に伝えられた。脊髄での情報処理は極めて簡素である。それは単に、感覚神経からの情報をそのまま運動神経に伝える、と云うだけのものである。それだけにその反応速度は大きい。志摩子の右の乳首に加わった刺激は、須臾の間をおいて、志摩子の上体を跳ね上げるという反応を生じさせた。もちろん、志摩子はそのように「考えて」反応したのではない。まったく無意識のうちに、いわゆる「反射的に」体が動いたのだ。
これが『反射』である。別名、無条件反射とも称されるこの反応は、訓練して身に付けたものではもちろん無い。どのような人でも、生まれたときから身に備わっている反応システムなのだ。志摩子が上げた短い「ひ」「ひい」という悲鳴も、反射なのかもしれなかった。志摩子が意識して漏らした悲鳴ではなかった。
志摩子の乳首からの情報は、脊髄以外の中枢神経にも伝わる。その一つが大脳である。大脳での情報処理システムはほとんど解明されていない。しかし、ここで何らかの感覚が生じることも明らかなことである。反射的に上体が跳ね上がるのにわずかに遅れ、志摩子の大脳には感覚が生じた。志摩子は、それを快感と認識した。ほとんど苦痛と区別できないほどの、激烈な快感だった
(気……)
(気持ち、ええ)
(気持ちええわ)
(自分でいら〔弄〕うより)
(ずうっと、気持ちええわ)
大脳に生じた感覚は、次に志摩子に声を挙げさせた。
「いひい」
今度は、意識して志摩子が上げた歓喜の声だった。
「ええ」
「ええよ」
「気持ち、ええ」
「道」
「なんでこないに、気持ちええのん」
「道ぃ」
道代は返事しなかった。
いや、出来なかった。
道代の口唇と舌は、今、志摩子の乳首にかかりきりなのだ。道代は、志摩子の右の乳首を強く吸いたてた。大きな音が、志摩子の乳首と、道代の唇との間に生じた。啜り上げるような音が、車内に響いた。
「ひいいっ」
道代は、上下の前歯で志摩子の乳首を挟み込んだ。噛む。幾度も幾度も、噛む。道代は志摩子の右の乳首を噛み続けた。
「いやあ」
「あかん」
「あかんっ」
「道っ」
道代は、歯と唇を乳首から外した。
「お嫌どすか、姐さん」
志摩子は、今度は自分の意志で首を擡(もた)げた。道代の顔を見詰め、切迫した声を上げる。
「あかん。やめたらあかん、道」
「ええんどすか、姐さん」
「ええよ、ええ、ええにきまってるやん、やめたらあかん」
「へえ、姐さん」
道代は、改めて志摩子の右の乳首を吸いたてた。舌を当てる。舌先で乳首を舐める、擦る、圧迫する。上下の唇で乳首を挟み込み、吸い込む。吸い込んだ乳首を舌先で嬲りたてる。
志摩子の乳首は大きく勃起し、固くしこった。その様は、志摩子の唇と舌に抗し、弾き返そうかというほどの変化だった。その、固く大きく勃起した乳首を、道代の歯先が挟み込んだ。道代の上下の前歯は志摩子の乳首に深く食い込んだ。
「うひい」
道代は右手を伸ばした。その伸びる先は、志摩子の左の乳房。いや、乳首。道代の指先は過たなかった。目で確認せずとも、道代の指が志摩子の乳首を外すはずはなかった。道代の右手の指先は、一直線に志摩子の左の乳首に辿りついた。親指と人差し指。最も使い慣れた二本の指は、志摩子の乳首を捻り上げた。それは、道代の上下の前歯が、志摩子の右の乳首を噛み締めるのと同時だった。道代の歯と指が、志摩子の両の乳首に深々と食い込んだ。
「ぎいいいいいっ」
志摩子は、くいしばった歯の間から絶え入るような悲鳴を漏らした。それは、捕食者の咢(あぎと)に喉首をくい切られようとする草食獣の悲鳴に聞こえた。
草食獣は懇願した。
「みち、道。いろ(弄)て。おめこ、おめこいろて」
道代は返事も返さず、右手を乳首から外し志摩子の股間に送った。今回も、道代の指先が行く手を過つことはなかった。道代の右手の指先が志摩子の陰部を抉った。同時に、改めて前歯で志摩子の乳首を齧った。
「げ」
志摩子は気をやると同時に失神した。
失神していた志摩子が目を開けた。気を失っていたのはわずかな時間である。道代の顔がすぐ前にあった。
「道ぃ」
「姐さん」
「口、吸うて……」
道代は、軽く志摩子に接吻した。挨拶をするような、本当に軽い接吻だった。
志摩子も、それ以上のことは望まなかった。
道代は、志摩子の目をその視線で捉え、微笑みながら声を掛けた。
「小まめ姐さん」
「なんえ、道」
志摩子の声音は、限りなく柔らかかった
「姐さん。もう二度とは言いまへんさかい、最後にいっぺんだけ、ゆ(言)わせてもろてよろしおすやろか。失礼なことなんどすけど」
「なんやのん、道。あんたとうちの仲や。なんでもゆうたらええがな」
「へえ、おおきに。ほな……」
「なんえ、道」
道代は、志摩子の目を真正面から捉え、一言囁いた。
「志摩ちゃん……」
道代は、小まめの志摩子をしっかりと抱きしめた。
コメント一覧
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1. 舐めたらあかんHQ- 2016/08/02 10:37
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↑天童よしみ姐さん歌唱の、コマソンの一節
>やめたらあかん
今回、道代に乳首を舐められる志摩子の感想、と云いますか、感慨と云いますか、です。
まあ、先ほどまでさんざん全身を嬲られた志摩子です。乳首くらいで何を今さら、という気もしますが、読み返してみましたらどうも乳首責めがここまでなかったようなんですね。で、最後に、お名残り惜しや、の乳首責めと相成りました。
最後
『アイリス』が、ではありません。「志摩子物語・貴船山中の場」という、まあちょっとしたエピソードが、今回で幕、ということです。
長くなっております志摩子昔語り。そろそろ「花よ志」に戻らねばならないのですが、残念ながらそうは参りません。
そもそも、この「志摩子物語」を始めた目的は、「殺したいほどの、あやめへの恨み」これです。この志摩子の恨みを明かそうというのが目的でした。そういうことでは「志摩子物語」は、ここからがクライマックスに突入、という段取りになります(まだやるんかい)。
申し訳ございませんが、今少しお付き合いをお願いいたします。次回から場面が変わりまして「嵯峨野の場」。
京都・嵯峨野をご存じないお方は少なかろう。行ったことが無くとも名称は知っている。それほど著名な……今は観光地になっちゃいましたが、京の奥座敷とも云える閑静な場所です。ここを舞台に、志摩子昔語りの最後の場面が展開されることになります。
今後ともご愛顧のほど、伏して御願い奉ります。 作者敬白。
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2. Mikiko- 2016/08/02 19:45
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嵯峨野
修学旅行で行ったような気がします。
大覚寺、落柿舎、化野念仏寺などがあるところですよね。
聞き覚えのあるところばかりですが、実際に行ったかどうか定かでありません。
右京区ということは、ど田舎ですよね。
でも、府立嵯峨野高校は、非常に優秀なようです。
今春は、京大に12名、阪大に32名合格してます。
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3. 京都市観光課HQ- 2016/08/02 21:19
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ど田舎嵯峨野
確かに、かつては「人里離れた隠里」、という風情がありました。
特に化野(あだしの)は、怪談やホラーの舞台によくなりました。野晒しが転がってたり……。まるで安達ケ原をパクったような雰囲気がありましたが、さすがに近頃はそうでもなくなりました。
特に隣接する(と云いますか嵯峨野の一部)嵐山(あらしやま)が開け、きつく言いますと通俗化するとともに、嵯峨野も人が増えたようです。休日に嵯峨野・嵐山に行きますとと、「芋を洗う」とはこういうことか、と実感できます。
がまあ、『アイリス』での時代設定は舞妓の志摩子の頃。まだまだ嵯峨野には怪しい風が吹いていたことでしょう、ということで話は進めたいと思います。
あまり知られていないようですが、京都市には30を超える大学・短大があります。それに比して有名高校も多い。京都市は観光都市であるとともに、有数の文教都市でもあります。
わたしの姪の娘が今春入学した進学校も京都です。まあこやつ、あまり勉強していないようですが。
♪京都~嵐山(らんざん)大覚寺~
(デューク・エイセス『女ひとり』)
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4. Mikiko- 2016/08/03 07:40
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嵐山
“あらしやま”と“らんざん”。
読み方は、どちらも使われてるようですね。
なお、埼玉県比企郡には、嵐山町という自治体があります。
こちらの読みは、“らんざんまち”だそうです。
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5. 埼玉県比企郡HQ- 2016/08/03 11:32
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嵐山町
埼玉県はホント、馴染みがありません。
地図を見ましたら、県のほぼ中央部という位置ですね。最寄りの鉄道は、東武東上線でしょうか。
しかし、知りませんでした「嵐山町」。
向こう(埼玉・嵐山)の方はご存じなんですかね。
「京都に嵐山てあるそやで。『あらしやま』て読むんやて。変わっとるよなあ」、と関東弁で言うてはるとか。
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6. Mikiko- 2016/08/03 19:47
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埼玉県は……
東京に行くとき、上越新幹線でも高速バスでも通りますから、馴染みのある県です。
でも、「嵐山町」は知りませんでした。
このあたりも、合併協議がまとまらなかった地域みたいですね。
北関東は口調がきついから、すぐに喧嘩になるんですかね。
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7. 言語学者ハーレクイン- 2016/08/03 21:56
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北関東弁
てやんでい、べらぼうめ。おとといきやあがれ。
これは江戸弁ですね。
で、これでいつも思うんですが「おととい」って何なんですかね「一昨日」? だとすると、全く非論理的ですね。だから罵りになるんでしょうけど。
これが“あさって(明後日)”なら「へい、わかりやした、出直します」なんですが、これじゃあ面白くないですね。
学生の時の後輩に関東出身の野郎がいました。残念ながら埼玉じゃなくて群馬県だったんですが、こやつがあるとき「きっけ?」とぬかしやがりまして、周りの誰もが立ちすくみました。もちろん、意味不明だからです。メンバーは地元石川と、あとは全員関西出身者。
で、この異国語を発した野郎を全員で取り囲み、糾弾?しました。しばらくの後ようやく意味が判明。漢字にしますと「来っけ?」。つまり「来ますか?」「お出でになりますか」と、野郎は言いたかったそうです。
彼の地では「くる(来る)」を「きる」とほざきくさるんですね。
文法から言いますと「カ行変格活用」をしない。
「来る」は、口語ですと本来「こ・き・くる・くる・くれ・こい」と活用するところが、かの異国では「き・き・きる・きる・きれ……」と、ほとんど活用しないわけです。命令形は不明ですが……。
かの異国人、しばらくの間「*人」と呼ばれてました。
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8. 手羽先 鶏造- 2016/08/04 06:51
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お邪魔させていただきます。
嵯峨野と申せば、昔、
「京都 嵯峨野に降る雨は ♪
嵯峨野 笹の葉 さやさやと」
とかいう歌詞の、それは上品そうな
女性デュオの唄がありましたっけ。
SAという韻を品よく繋いで、お見事な
作品でしたなあ。
失礼しました。
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9. Mikiko- 2016/08/04 07:35
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京都とも埼玉とも関係ありませんが……
本日4日と、来週の11日、2週にわたって……。
『ローカル路線バス乗り継ぎの旅【大阪城→金沢兼六園】』が放送されます(BSジャパン/18:23)。
マドンナは、マルシア。
なんとなく、見た気がするのですが、ま、もう一度見てもいいかな。
季節は真冬。
琵琶湖をどっち回りで抜けるかが、最初の見どころ。
あと、冬の太平洋側と日本海側。
天気がどこで変わるかも興味深いです。
もう一つ。
今日は、甲子園の組み合わせ抽選日です。
新潟県代表、中越高校。
前評判は高くなかったのですが、試合を重ねるごとに強くなった感じです。
と言っても、全国レベルでは苦しいでしょう。
↓こちらの戦力分析では、最低のDランク。
http://highschoolbaseball.sblo.jp/article/176213259.html#more
相手に恵まれれば、1つくらい勝てるかもしれませんが。
出雲高校、希望です。
たぶん、向うも同じ希望でしょうが。
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10. 嵯峨野の甲子園HQ- 2016/08/04 17:30
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手羽先 鶏造さん&Mikikoさん
>手羽先 鶏造さん
これは懐かしい歌ですね。You Tubeで聞いちゃいました。
↓これの事でしょうか。
『嵯峨野さやさや』
作詞:伊藤あきら
作曲:小林亜星
歌唱:たんぽぽ
♪京都嵯峨野の直指庵
旅のノートに恋の文字
どれも私によく似てる
嵯峨野笹の葉さやさやと
嵯峨野笹の葉さやさやと
♪雨の落柿舎たんぼみち
藪の茶店で書く手紙
きのう別れたあの人に
京都嵯峨野の笹が鳴る
京都嵯峨野の笹が鳴る
♪朝の祇王寺こけの道
心がわりをした人を
責める涙が濡らすのか
嵯峨野笹の葉さやさやと
嵯峨野笹の葉さやさやと
♪京都嵯峨野に吹く風は
愛の言葉を笹舟に
のせて心にしみとおる
嵯峨野笹の葉さやさやと
嵯峨野笹の葉さやさやと
さやさやと
お笑いCMソングの大家、小林亜星、こんな曲も作るんですねえ。
「たんぽぽ」は、宮村保志子・三代の姉妹デュオですが、もう引退しちゃったそうです。
>Mikikoさん
路線バスの旅『大阪城→兼六園』は、以前に放送されたと思います。
で、も一度見ようかどうしようか、迷っています。
甲子園速報。
1回戦の組み合わせが決まりました。
新潟代表の中越は、大会5日目(11日)第2試合、富山第一との隣県対戦です。ご希望の出雲はなんと! 選抜優勝校、奈良の智辯学園です。
1回戦最大の見どころは、3日目(9日)第3試合、東北(宮城)-横浜(神奈川)でしょうか。