2016.7.19(火)
「ひえっ」
志摩子は短い悲鳴を上げたが、道代に取られた足を引こうとはしなかった。志摩子は仰向けに後部座席に横たわり、道代に足先を預けていた。両足の白足袋を脱がされた志摩子は、一糸すら纏っていなかった。真正の全裸であった。
いや、志摩子はその髪に、舞妓の花簪をまだ着けていた。舞妓の日本髪は鬘ではない、地毛である。その髪に花簪を着けているということは、志摩子は厳密には全裸ではなかった。
花簪を置く髪。その髪以外の全身の肌を隈なく、隅々まで露わにした志摩子は、道代の口に足先を咥えられ、軽く仰け反(のけぞ)った。
「あ……」
道代は後部座席の下、車の床に膝を突き、上体を起こしていた。道代がその両手で捉え、口に咥えたのは、志摩子の左の足先だった。正確には、左足の最も太い指だった。
足の五つの指。手指ならそれぞれ親指(母指;ぼし)、人差し指(示指;じし)、中指(なかゆび;ちゅうし)、薬指(くすりゆび;やくし)、小指(こゆび;しょうし)であるが、足指はそもそも"指"とは書かない、「趾(し)」と書く。
名称はそれぞれ第一趾から始まり第二趾、第三趾、第四趾、第五趾、と単純である。ただ、両端の第一趾は母趾(ぼし)、第五趾は小趾(しょうし)とも称するようであるが、もちろん手指に比べて馴染みは薄い。これは、手指(しゅし)に比べ足趾(そくし)は、日常さほど意識することが少ないからであろうか。
ともあれ、道代が咥えたのは志摩子の左の第一趾、母趾であった。最も太い足趾とはいえ、志摩子のそれは小振りであった。道代は吸い込むように軽々と、志摩子の左母趾を咥えた。口中深く取り込んだ。
道代の口は、先ほど迎え入れた志摩子の舌と同様、今度は志摩子の左足の母趾を迎え入れた。限りなく愛しいものを迎え入れた。たとえようもなく貴重な宝物を迎え入れた。それは、他に換えようもない、唯一無二の美術品の搬入に立ち会う、美術館の学芸員の様を思わせた。
道代は、搬入された志摩子の左母趾に舌を這わせた。確かめるように、ご機嫌を窺うように、慈しむように趾全体を舐め回した。趾の先から爪先、爪、趾の背、側面、趾の腹に至るまで舐めた。幾度も舐めた。舐め回した。
壊れ物を扱うような道代の舌の動きは、しかし次第に大胆になっていった。幾度も幾度も趾(ゆび)に戯れるうちに、道代の舌の動きは他の四趾にも及んだ。道代は大きく口を開いた。志摩子の左足の母趾だけではなく、五本の足趾の全てを纏めて口中に収めた。道代の口は、志摩子の左の足先全てを飲み込んだ。
「がふう」
道代は荒い息を吐いた。口からだけでは到底足りず、二本の鼻孔から激しく息を漏らした。
「げふう」
道代の口元から、滝のような勢いで白濁した唾液が滴った。道代の唾液は志摩子の足を濡らし、足の甲を濡らし、踝を濡らし、踵から脛(すね)を伝い、脹脛(ふくらはぎ)を伝い、膝の裏から太腿を伝い、志摩子の股間目指して流れ下って行った。
「がぶ」
「ごぶ」
「ぐぶ」
「げぶう」
道代は切れ切れに声を漏らした。
いや、それは喘ぎだった。
ただの呼気だった。
白濁した泡混じりの、獣の口から洩れる呼気だった。
それは吸気でもあった。
漏らした泡とともに体内に取り込む、切迫した、激しい吸気だった。
獣の道代は、志摩子の足先を咥えた獣の道代は、絶え入るような荒い呼吸を続けた。
「ごぶ」
獣は一呼吸置いた。
自らの口中にある愛しいものを、落ち着いて味わおうとした。
道代の舌先は、口中にある愛しい物の表面を、確かめるように触れていった。
舐めていった。
舌先で、舌の腹で、舌の全てを使って、捉えた獲物を味わうようにぞろりと舐め回した。
獲物の体は、五本に分岐していた。
獣が噛み割いたわけではない。
愛しい獲物に、獣が歯を立てるわけがない。
獣の口中にある獲物は、もともと五本に分岐しているのだ。
獣は、五本の分岐の裂け目に舌先を押し込んだ。
「ひいぃ」
志摩子は高く悲鳴を上げた。
道代の舌先に、足趾(あしゆび)の間を抉(えぐ)られたのだ。
志摩子は仰け反った。
志摩子は喉元を曝して仰け反った。
剥き出しの志摩子の喉は白かった。
薄暗い車内。
灯りといえばわずかな車外の雪明り。
その微かな灯りを欺くように、志摩子は白い喉元を惜しげもなく曝し、天を仰いだ。
「ひいいいぃ」
道代は構わず、志摩子の足趾(あしゆび)の間、四つの裂け目の全てに舌先をねじ込んだ。
「ごぶう」
道代の口元から溢れ出る白濁した、泡混じりの唾液は、そのほとんどが志摩子の脚を伝い、志摩子の股間を目指して流れていった。それは、距離を置いたオーラルセックス、遠隔操作のクンニリングスであった。
道代の唾液は、志摩子の陰部を抉った。
志摩子の陰部は、道代の泡混じりの唾液に蹂躙された。
その様は、獣に貪り喰われる草食動物の断末魔を思わせた。いや、草食動物はただ喰われるだけではなかった。獣の咢(あぎと)は、草食動物の反撃を受けた。
道代の口元から零れ、志摩子の陰部に至る泡混じりの白濁液。その液は、喰うものと喰われるものとをしっかりと繋ぎ、離れたものどうしを密接に結びつけていた。
道代の口と、志摩子の陰部は、しっかりと結びついていた。それは、これまでの、今の、これからの二人の運命を象徴しているようであった。道代の漏らす唾液を介して、道代と志摩子は交合していた。
「かはああ」
志摩子は、道代に捕らわれていない脚、右脚を跳ね上げた。跳ね上がった志摩子の右脚は、前部座席の背凭れに激しい勢いで落ち掛かった。志摩子の両脚は大きく開かれた。何覆うものもない、一糸纏わぬ志摩子の股間は剥き出しになった。志摩子の陰部は大きく開き、「これ、見よや」と見栄を切らんばかりに中空に曝された。舞台中央で見栄を切る千両役者。昼を欺く照明を受け、やんやの大喝采の只中にある一世一代の檜舞台……。
だが、この千両役者には照明は当たらなかった。舞台は闇の中に沈んでいた。喝采を送るべき観客は一人としていなかった。いや、一人だけ。舞台の進行を司る舞台監督であり、観客でもある者が一人だけいた。
道代である。
志摩子と道代。
孤独な役者と唯一の観客。
だが、二人にはそれで充分であった。
雪に埋もれた貴船の山中。
命の危険すらある切迫した状況。
このぎりぎりの舞台にあっては、登場人物は二人で充分であった。
これ以上、何が必要であろう。
道代は志摩子であり、志摩子は道代であった。
そのように、これまで生きてきたのだ。
そのように二人は生きてきたのだ。
二人で一人、縺れあうように生きてきた二人なのだ。
これ以上、何を望むことがあろう。
二人で生きてきた以上、死ぬ時も二人なのだ。
何を悔いることがあろう。
道代は、志摩子の足先を咥えたまま志摩子の視線を捉えた。
志摩子は、足先を道代に預けたまま道代の目を見返した。
互いの顔つきすら判然としない薄暗がりの中、二人の視線は確かに絡み合った。
道代は微笑んだ。
志摩子は微笑み返した。
互いの表情を、二人は間違いなく確かめ合った。
(道……)
(志摩ちゃん……)
(おおきにな、道)
(どこまいでも一緒ですえ、志摩ちゃん)
志摩子は、両腕を道代に伸べた。
呼ぶように、求めるように、志摩子は両腕を道代に伸ばした。
道代は、口から志摩子の足先をそっと外した。
伸べる志摩子の両腕に曳かれ、横たわる志摩子に道代は覆いかぶさった。
「道い……」
「姐さん……」
コメント一覧
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1. 足が好きっHQ- 2016/07/19 09:00
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『志摩子物語 貴船山中の場』
今回の趣向は足舐め、足しゃぶり。
相手を愛しむ、可愛がるというより、責める、虐めるという色合いが濃いのかもしれません。つまり一種のSMプレイですね。
責めるのは従者道代。
責められるのはその主、祇園の舞妓、小まめの志摩子です。
しかし足舐め。
わたしは全く経験ありません。
舐められたことはもちろん、舐めたことすらありません。
やはり……
>そんなあんた、きちゃない(汚い)……
(『アイリス』#156;志摩子)
という意識がどこかにあるのかもしれません。
が、AVなどではけっこう見かけます、足舐め。
いろんな意味で、興味深いプレイなのでしょうか。
長くなっております『貴船の場』。
次回あたりで切り上げたいと思います。
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2. Mikiko- 2016/07/19 19:42
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足の指
汚いかどうかは、感覚の問題でしょうが……。
それ以前に、臭いと思います。
特別足臭さの人でなくとも、汗はかきますから、多少なりと臭いはあるはず。
1日、足袋でいれば、なおさらです。
特に最近では、ブーツが最悪です。
臭いは、ほぼ納豆級。
彼氏の部屋に行くときは、ブーツはやめた方がいいですね。
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3. 水虫はどうするHQ- 2016/07/19 23:18
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臭い足
スーツにパンプス。白いブラウス。
しゃきっとしたOLさんなんか見てると、足が匂うようには見えないんですが、そうでもないんだ。じゃあ、飲み会なんかでも、座敷は嫌われるということですかね。
わたしらの業界では、少なくとも講師はスニーカー、今の季節ですと素足にサンダルの人が多いですから、比較的ましかな。
志摩子の足は……。
現在、場面は雪の貴船山中。しかも暖房の止まった車内。
寒いです。車内温度はどんどん下がっています。少々の足の臭いは抑えられるでしょう。
それでなくても、肉の絡み合いというのは、体臭・悪臭の交換会でもあります。匂いも興奮剤。食で云いますとフレーバー、香味・風味と捉えるべきでしょう。
一種のドーピング剤だったりして。
ロシア、どうなってるんですかね。
どうなるんですかね、オリンピック。
また、ボイコット騒ぎになったりして。
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4. Mikiko- 2016/07/20 07:30
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パンプスは……
大したことないです。
ブーツです。
特に、ブーツにストッキングは最悪。
5本指ソックスがいいです。
でも、これはこれで座敷には上がりにくいですが。
ロシア人。
基本的に、ドーピングが悪いという感覚が無いんだと思います。
国家主導なんだから、当然ですね。
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5. 土方馬方ハーレクイン- 2016/07/20 10:21
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5本指
こりゃあいいや、という向きも多いようです。
しかし、近ごろの発明ではありません、古くから現場作業の方々には愛用されていました。軍手に倣って「軍足」と称していたようです。
5本指。
わたしもいっとき愛用しましたが、この頃はさっぱりです。やはり履くのが面倒なんですね。
それにしてもブーツにストッキングですか。
まあ、道代や志摩子には無縁の代物。これまでもそうですが、今後生涯、履くことはないでしょう。
いや、そうでもないか。
突発事態が起こり「花よ志」が潰れる。
道代も志摩子も、うまく立ち回ってどこぞの安キャバのホステスに転身。網タイツにブーツで新京極あたりを徘徊する、というのはどうでしょう。
で、思ったんですが、足袋というのは5本指ソックスの先駆けじゃないですかね。足袋をヒントに開発されたのが5本指。どうでしょう。
ドーピングは体に悪いそうです。
国を挙げて、若者の健康を害してどうする!
まあしかし、いまさらプーチン氏が「ごめんなさい。今後はやりません。これまでのメダルは返上します(ついでに北方領土も返します)」なんて、口が裂けても言わんわな。
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6. Mikiko- 2016/07/20 19:54
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5本指ソックスの起源は……
↓なんと、スペインだそうです。
http://goyaku.blog45.fc2.com/blog-entry-635.html
5本指ソックスは、冬場に愛用してます。
室内履きはもちろん、外出時にも着用します。
外出先では、足袋裸足になるのがためらわれそうですが……。
大丈夫。
5本指ソックスの上に、普通の先丸ソックスを重ね履きすればいいのです。
5本指ソックスは、指の股の汗を吸ってくれるので……。
冬場、足指が冷たくなる人には、うってつけですよ。
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7. 5本指ハーレクイン- 2016/07/20 20:59
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起源はスペイン
残念ながら、品質が悪くアイディア倒れに終わったとか。
で、このアイディアを日本のメーカーがパクったとか。さすが、物まね大国ニッポン、チャチャチャ。
それにしても、足袋が起源じゃないのか。うーん、残念。
もうひとひねりしていればなあ。ねえ、福助さん。
♪おけらなぜ泣くあんよが寒い
足袋がないから泣くんだよ











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