2023.4.4(火)
この『単独旅行記Ⅶ・総集編(4)』は、『単独旅行記Ⅶ(031)』から『単独旅行記Ⅶ(040)』までの連載を、1本にまとめたものです。

み「しかし、仙台育英の創設者の碑も……。
鶴ヶ城を向いてるってことだよね」
ハ「ほかのお墓も、みんなそうやないか。
ここから鶴ヶ城やと、南西の方角になる。
山を背負っとるから、冬の季節風もあたらんわな。
住み良いお墓やないか」
み「夏はカンカン照りではないか」
ハ「寒いのよりマシやろ」
み「ま、どっちか選ぶんならそうなるけど。
回して向きを変えられるお墓ってないのかね?」
ハ「誰が回すんや?」
み「海老一染之助だろ。
で、染太郎が……。
“いつもより余計に回しております!”って掛け声かける」
ハ「アホか。
2人とも、亡くなっとるがな」
み「お墓にピッタリじゃないか。
夜の墓場で、墓回し芸。
人魂でジャグリングしたりしてね」
ハ「よう、そんな不謹慎なことが言えるもんや」
海老一染之助・染太郎さん。
すみませんでした。
兄の染太郎さん(掛け声の方)は、2002年に……。
弟の染之助さんは、2017年に亡くなられてました。
お正月番組には、無くてはならない方々でした。
ご冥福をお祈りいたします。
なお、仙台育英の創設者の碑ですが、2022年夏の甲子園終了後……。
仙台育英の監督と3年生部員がここを訪れ、優勝を報告したそうです。
下関国際高校には、何の罪もありませんが……。
長州に勝っての優勝、ほんとに良かったと思います。

み「やっぱり見えん」
ハ「逃げたヤツの生まれ変わりには、見えんちゅうこっちゃ」
み「ふん。
あ、下に降りる階段がある」

み「下りは楽ちんだねー。
あの高さも、あっという間に降りてきた」
ハ「帰りは登りやぞ」
み「げ。
このまま下まで降りれるんじゃないの?」
ハ「まだ、さざえ堂を見とらんやろ。
あれは、上やったで」
み「しまった……」

み「まだ下がある」
ハ「下りてみるか?
見所があるやも知れんぞ」
み「やめ。
回り右。
戻るぞ。
まだ傷は浅い」
ハ「情けないやっちゃ」
み「“見切り千両、損切り万両”」
ハ「なんやそれ?」
み「相場の格言じゃ。
これが出来なかったがために……。
わたしは株をやめました」
ハ「それは正しい判断やったな」
み「然り。
おかげで、こうして旅行に来れるくらいの貯えは残った」

み「しかし、山の上にこんな平坦なところ……。
元からあったのかね?」
ハ「造成や言うんか?
何のために?
何にも無いやないか」
み「さっきのお墓を見れば、何となく想像がつくだろ。
あんな斜面にあるお墓だったら、大勢の人は集まれない。
白虎隊を追悼する式典とか、毎年、あるんじゃないの?
来賓や参列者、大勢来るでしょ。
だから、こういう平坦地が必要だったわけ」
ハ「ほんまかいな」
み「知らんけど」
ハ「やっぱりな」

み「お、あっちが順路だな。
何番だ?」
ハ「行けばわかるがな」

み「参拝順路『8』?
もう、『8』なの?
『6』とか『7』ってあった?」
ハ「もっと前から無かったんやないか?」
み「あ、そうだ。
最後に見たのは……。
“これじゃ心霊スポットだよ”って言ったときだ」
↓これでした。

み「ま、いいわい。
『下山道』ってのが嬉しいじゃないの」
ハ「人生ももう折り返して、下り坂やからな」
み「そういうこと言うな!」

み「でたー。
さざえ堂。
よくもまぁ、こんな奇天烈な建物を考えたもんだよな。
でも、待てよ……。
栄螺(さざえ)って、海に棲んでるんだよね」
ハ「あたり前やがな」
み「会津に、海はないじゃない。
名前を付けるとしたら……。
タニシ堂とか、カタツムリ堂になるんじゃないの?」
ハ「知らんがな」
み「即、検索!」
ハ「いちいち難儀やな。
ふーむ。
なるほど」
み「納得してないで、説明!」
ハ「金取るぞ」
み「金もらって、どうやって使うつもりだ?」
ハ「くそー。
栄螺堂ってのはな、これひとつやなかったんや。
ええか。
Wikiを読み上げるぞ(出典)。
+++
栄螺堂(さざえどう、さざいどう)は、江戸時代後期の東北から関東地方にかけて見られた特異な建築様式の仏堂である。
堂内は螺旋構造の回廊となっており、順路に沿って三十三観音や百観音などが配置され堂内を進むだけで巡礼が叶うような構造となっている。
仏教の礼法である右繞三匝(うにょうさんぞう)に基づいて、右回りに三回匝る(めぐる)ことで参拝できるようになっていることから、本来は三匝堂(さんそうどう)というが、螺旋構造や外観がサザエに似ていることから通称で「栄螺堂」、「サザエ堂」などと呼ばれる。
アニメ「サザエさん」とは無関係。
+++
やて」
み「最後の一文は余計じゃ」
ハ「わしのせいやないわ」
み「それじゃ、ほかにも現存してるってこと?」
ハ「Wikiには……。
ここのほかに、7箇所の現存例が書かれたあるな。
群馬、茨城、青森、東京、埼玉、大分や。
東京だけ、2箇所や」
み「大分?
なんで九州?
東北から関東にかけて見られたんじゃないの?」
ハ「あ、そのうち2箇所は、最近作られたもんやった。
東京の1箇所と、大分」
み「それでか」
ハ「あと、東京のもう1箇所と埼玉のは、明治期に再建されたもんやった。
せやから、江戸時代のが残っとるのは、会津のほかに3箇所やな。
群馬、茨城、青森や。
えーと、それから、成立の経緯は……」
み「よし、見学するぞ」
ハ「話を最後まで聞け!」
み「百聞は一見にしかずじゃ」
ハ「勝手に切りあげおって……」

み「正直……。
趣味、よろしおまへんな。
なんじゃ、この柱に巻き付いた龍は。
アナゴか?」
ハ「サザエさんには、アナゴさんが出てくるわな」
み「不要な情報じゃ。
“アニメ「サザエさん」とは無関係”なんでしょ」
ハ「当たり前やがな」

み「ん?
インバウンド用の案内板か?
“Sanso-do”?
栄螺って、英語で“Sanso”なの?」
ハ「ちゃうがな。
やから、説明を最後まで聞けっちゅうたんや。
栄螺堂は通称で、本来は三匝堂(さんそうどう)云うんや。
“匝(そう)”は、巡るっちゅう意味や。
三層を巡るから、三匝堂」
み「四層に見えるけど」
ハ「そんな気がせんでもないがな」
み「わかった。
これも、染之助・染太郎のしわざじゃ。
いつもより余計に回しております!」
ハ「またそれか!」
み「よし、入るぞ」
ハ「続き、読まんのかいな」
み「インバウンドじゃないんで」
ハ「読めんだけやな」

み「誰じゃ?」
ハ「郁堂禅師て、書いたるがな。
この、さざえ堂を建てた人やろ」
み「建てたって、棟梁ってこと?」
ハ「何で禅師が棟梁なんや。
施主やろ」
み「禅師がそんな金、持ってんの?」
ハ「寄進を募ったんやないか?
棟梁の方も、もうけ度外視で請け負ったのかも知れんし」
み「こんなややこしい建物、善意だけで請け負えんだろ。
棟梁は手弁当でも、大工には賃金やらないわけにいかんじゃないの。
そもそも、設計図なんてあったのか?」
ハ「なかったんちゃうか」
み「するってえとなにかい?
こんな頭のおかしくなりそうな建物……。
現場の見当合わせで造ったって言うの?
大天才じゃないの。
立体パズルだよ。
どんな脳みそしてたんだ?」
ハ「さざえみたいな脳みそやったんやろな」
み「そんな結論でいいのか!」

み「しかし、この千社札は……。
どういう料簡なのかね。
ここは、国指定の重要文化財だよね。
そういうところに千社札を貼るのは、法律違反なんじゃないの?
ちょっと、調べて」
ハ「ふむ。
どうやら、『文化財保護法』に抵触するようやな。
札を剥がす際に、建物に傷を付ける怖れがあるからやて。
実際、仁和寺に千社札を貼った男が書類送検されたそうや」
み「待てよ。
じゃ、重要文化財じゃない寺には貼り放題なのかな?」
ハ「ふむふむ。
器物損壊罪やいうて怒っとる寺もあるようやで」
み「当然だよ」
ハ「せやけど……。
犯行現場を押さえん限りは、罪に問うのは難しいみたいやな」
み「書類送検なんて軽すぎるだろ。
日本の歴史への冒涜じゃない。
日本への攻撃と同じ。
テロリストだろ」
ハ「えらい極論やな」
み「こういう輩には、身に染みる罰を与えなきゃ応えないよ。
犯行現場の掃除、1年間とかね」
ハ「会社、クビやがな」
み「こんなの貼って回ってるのは、定年後のヒマ人だろ」
ハ「そうとは限らんやろ」
み「じゃ、掃除1年間、もしくは、罰金1千万円」
ハ「高か!」
み「跡が残らないように剥がすんだから、そのくらいかかるんじゃない?」
ハ「さっきから、偉い剣幕やな」
み「こういうの、嫌いなの。
自己顕示欲の醜さを見せつけられるみたいでさ」
ハ「わかったから。
早よ、次、行こうや」

み「おぉ、栄螺の殻の中の始まりだ。
しかしさ、この踏み板……。
1枚たりとも、同じ形のがないんじゃないの?」
ハ「そうかも知れんな」
み「造るのに、何年かかったの?」
ハ「建立年は、寛政8年やな。
西暦で、1796年や。
せやけど、着工がいつかは……。
どこにも書いたらへんな。
あ、あったぞ。
『福島県の町並みと歴史建築』というサイトのページや。
『伝承によると、郁堂和尚が二重紙縒 りを示唆する霊夢を見た事でさざえ堂を着想し寛政7年(1795)に発願した』」
み「アホきゃ!
こんなのが、着想して1年で出来るわけないだろ。
まず、資金集めからじゃない」
ハ「知らんがな。
“伝承によると”とあるやないか」
み「しかし、千社札が目障りじゃ。
どうせなら踏み板に貼って……。
どうぞ踏んで下さいって謙虚さがないもんかね」
ハ「ちゃっちゃと進まんと、日が暮れるで」

み「おー、陽の光が入って、神秘的じゃない」
ハ「時間によっても、感じが違うんやろな」
み「雨風も吹きこむよね」
ハ「窓ガラス、入れるわけにもいかんやろ」

み「天井にまで貼ってる。
バカと煙は高いとこに上りたがるって、このことだよ」
ハ「もう、ええっちゅうねん」

み「腰板も、だいぶくたびれて来てるね。
ここの修理って、どうなってんの?」
ハ「明治23(1890)年に、大修理があったようやな」
み「誰がお金出したの?」
ハ「寄付やな。
有志が発起人となって、広く寄付を募ったようや」
み「1890年って云うと、建立から94年後か。
それからもう、132年も経ってるじゃない」
ハ「その後、屋根の葺き替えや、傾いた堂の引き起こしなんかは行われとる。
しかし、全面的な大修理は明治のときだけみたいやな」
み「むしろ今なら、出来るんじゃないの?
クラウドファンディングでさ」
ハ「なるほどな」

み「うーむ。
こりゃ絶対、修理が必要だわ」
ハ「発起人になったらどうや?」
み「よそ者がしゃしゃり出たら失礼でしょ。
会津人に任せます」
ハ「ものは言いようや」

み「なんだか、目が回ってきた。
酔いそうじゃ。
小学校の修学旅行で、バスに酔った記憶が蘇ったのかも知れん」
ハ「小間物屋開くのだけは、止めてくれれよ」

み「おー、ついに下りだ。
しかし、上りと下りがすれ違わないってのは、ほんとにスゴい構造だよね。
ていうか、まさにコロナ時代を見越した建造物なわけだ。
ひょっとしたら、疫病終息祈願で建てられたんじゃないの?
赤べこと同じだよ」
ハ「うがち過ぎやて」

み「残念ながら……。
車椅子の人は、見学できそうにないね」
ハ「当たり前やがな」
み「しかし、子供がすっ転んだら……。
一番下まで転げ落ちるんじゃない?」
ハ「頭、ボコボコやで」
み「集団で転けたら……。
出口で、パチンコの出玉みたいになるんじゃないの」
ハ「つくずく、不謹慎なやっちゃな」

み「やっぱり、修繕が必要だな。
ていうか、ここで転げたら……。
あの腰板破って、外に飛び出すんじゃないの?」
ハ「それはないやろ。
内側に向けて、バンクつけたるさかいな」
み「そのための傾き?」
ハ「案外、そうかも知れんで。
外側には、何も掴まるところがあらへんけど……。
内側には、けっこう掴まりどころがあるしな」

み「ちょっと待った。
これ、階段じゃないね。
平らな床板に、桟木が打ってあるんだ」
ハ「せやな。
滑り止めっちゅうわけや。
人間だけやのうて、ものを落としたときでも……。
下まで転がらん仕組みやな」
み「これなら、階段と違って……。
ある程度、アバウトでも造れるんじゃない?」
ハ「確かにな。
弟子に任せられる工程かも知れんな」

み「神棚?
こういうのは普通、内側にあるもんじゃないの?」
ハ「内側やったら、人間が転げこみかねんで」
み「あのお酒の入れ物、全部なぎ倒して……。
ストライクってか?」
ハ「つくずく、不謹慎なやっちゃ」

み「おっ、ようやく外が見えた」
ハ「転げんと、無事出られそうやな」

み「これは明らかに、イタズラ書きだよな」
ハ「言語道断やな」
み「出来心なんかじゃないよ。
完全な計画犯。
これ、筆かなんかでしょ」
ハ「確かにな。
普段、こないなもの、持ってへんわな」

み「はい、無事、下りられましたぁ」
ハ「お日さまが眩しいのぅ。
内と外での、明暗のコントラストも味わいどころやな」

み「説明書きがあった」
ハ「こういうのは普通、入る前に見るもんやで」

み「でも……。
“世界唯一”ってのは、違うよね。
ここのほかに、江戸時代のが、3つも残ってるんだから」
ハ「こういう構造の建物は……。
日本にある栄螺堂だけっちゅう意味やないか?」
み「しかし、この説明板……。
どこが設置したのか書いてないね。
そもそも、さざえ堂の所有者って誰?
会津若松市?
ちょっと調べて」
ハ「ほほぅ」
み「所有者はフクロウか?」
ハ「アホきゃ。
なんと、個人所有やったぞ。
すぐ脇にある『山主飯盛本店 』ちゅう土産物屋が所有者やて」
み「個人で維持管理してんの?」
ハ「国指定の重文なんやから……。
補助金とか、出るんやないか?」
み「そういうのもらうと……。
監査とかあって、面倒なんじゃないの?
落書きや千社札対策もしなきゃならないだろうし」
ハ「もらわんと、放っておく方が楽っちゅうわけか?」
み「ケ・セラ・セラ~。
なるようになる~」
ハ「そんな結論でいいんか」

み「お、この説明書きには、どこが出したか書いてあるぞ。
『福島県教育委員会』か」
ハ「重文指定は、案外新しいな。
昭和57年や」
み「しかしこの、所有者の名前がスゴいじゃない。
飯盛正日。
『山主飯盛本店』の飯盛って、苗字ってこと?」
ハ「本名かどうかわからんけど……。
『白虎隊精神秘話』ちゅう本も出したる人みたいや」
み「ひょっとしたら、明治になって苗字を付けるときに……。
飯盛って付けたのかも知れないね(注:憶測です)」

み「おー、いつの間にやら、『参拝順路10』じゃ」
ハ「最前に見たのは、確か『8』やったぞ」
み「細かいことを気にするでない。
だんだん増えていってるんだから……。
間違ってないってことだろ」
ハ「細かいことやのうて……。
大事なことなんとちゃうか?」

み「ほら、下山道で合ってる」
ハ「当たり前や。
登りと下りを間違えとったら、エラいこっちゃやがな」
み「『白虎隊士引揚げの水洞』って何じゃ?」
ハ「行けばわかるやろ」

み「句碑があった。
へー、水原秋桜子か」
ハ「ちゃうがな。
成瀬櫻桃子やないか」
み「知らんぞ。
そんな俳人、いたの?」
ハ「いたから、句碑が残っとるんやろ」
み「しかし……。
句碑にするほどの句かね?
さざえ堂とピサの斜塔を見あげると……。
どっちも、高い空が見えるってこと?」
ハ「ま、当たり前のことやわな」
み「この季語はなんになるの?
まさか、サザエじゃないよね」
ハ「少しは考えたれや。
天高しやろ。
“天高く馬肥ゆる秋”や」
み「“天高く”と“秋”で、季重なりじゃない」
ハ「アホか。
これは、俳句やないやろ。
5と7しかないやないか。
結句があらへんがな」
み「ほんとは、結句があったんじゃないの?」
ハ「どんな結句や?」
み「“貴社におかれましてはますますご清祥のこととお慶び申し上げます”」
ハ「なんやそれ!
ビジネス文の初っぱなの挨拶やないか」
み「早よ行くぞ。
こんなところで油売ってたら、日が暮れてしまうわ」
ハ「こっちの台詞や」

み「おー、綺麗な水だね」
ハ「湧き水みたいやな」
み「やっぱ、こういう水が流れる土地はいいね」
ハ「酒も蕎麦も美味いんやろな」

み「神社みたいなところに出たぞ」
ハ「順路、間違うてへんやろな」
み「下りの方向に進めばいいんだから……。
間違えようがないだろ」
ハ「方向は間違うてのうても……。
大事なのを見落としとるかも知れんやないか」

み「なんでハチがいるんじゃ?
花も咲いてないのに」
ハ「スズメバチやろ。
こやつらは肉食や」
み「しかし、どう注意すればいいんだ?」
ハ「黒いものを攻撃すると聞いたで」
み「じゃ、大丈夫じゃない。
黒い服なんか着てないもん」
ハ「髪の毛が黒いやないけ」
み「げ。
帽子、被ってくれば良かった。
あんたはいいねぇ。
つるっパゲで」
ハ「やかましわ!
埴輪に毛があったら、かえってヘンやろ!」

み「おー、ここにも流れてる」
ハ「そうとうな水量やな」

み「『慈母子育観音』か……。
自刃した白虎隊の少年たちを慰めてんだろうね」
ハ「切ないわな」

み「子供のころ遊んだところで……。
最期を遂げたってわけか」
ハ「言葉もないわ」

み「なんで?」
ハ「湧き水いうても、綺麗とは限らんやろ。
早い話、生水っちゅうことや。
飲んでみるか?」
み「飲むかい。
お腹が、ぴーひゃらどんどんになったら大ごとじゃ」

み「ほんとにスゴい水量だね」
ハ「見事なもんや」
み「水洗トイレにしたいくらい」
ハ「なんでやねん」

み「さらばじゃ、さざえ堂」
ハ「下から上がって来た方が、趣があったんやないか?」
み「いまさら言うな」

み「昔の子供なら、絶対ここで泳いだよな」
ハ「白虎隊の子らもな」
み「ひょっとしたら……。
“湧き水飲むな”はそういうことか……」
ハ「どういうこっちゃ?」
み「子供がここで遊んでたら、絶対に身体が冷えるでしょ」
ハ「はぁ?
さっぱり話が見えんで」
み「身体が冷えたら、したくなるじゃん」
ハ「なにを?」
み「おしっこ」
ハ「アホか……。
武士の子が、そないなことするか?」
み「子供はみんな一緒。
この流れ見てると、水洗トイレにしか見えん」
ハ「異常やで」

み「立派な杉だね。
そうか……。
ここは高台だから、水はけがいいのか」
ハ「杉は、水はけが悪いとダメなんか?」
み「新潟市街は、“杉の木と男の子は育たない”って言われてる土地なのよ。
低湿地だからね。
水はけが悪いと、杉は育ちにくいってこと」
ハ「杉は、わかったわいな。
せやけど、男の子は何で育たへんねん?」
み「農家では、長男ひとりが田畑をみんな継ぐわけだ。
子供のころから、大事にされて育つから……。
バカ殿みたいなのができあがるってわけ」
ハ「長男がぜんぶ継ぐのは、会津の武家でも一緒やろ」
み「でも、ぜったい甘やかされないよね。
むしろ、一番厳しく育てられるんじゃない?」
ハ「それで、こないに立派な杉に育つちゅうわけやな」
み「左様。
でも、わたしが生まれ変わるとしたら……。
ぜったいバカ殿がいい」
ハ「せやろな」

み「魚はいないのかな?」
ハ「流れが早よすぎて棲めんのやろ。
寝たら流されてまうわ」
み「泳ぎながら寝るんじゃないの?」
ハ「それは、海の回遊魚やろ。
マグロとか、カツオや。
きゃつらは、エラをパクパク動かせんのや。
泳ぐことでしか、エラに酸素を取りこめんちゅうわけや」
み「止まると息が出来なくなっちゃうってわけ?」
ハ「そういうこっちゃな」
み「切ない生き物じゃ。
そうやって泳ぎ続けて……。
止まったときには、寿司のネタになってる」
ハ「回転寿司やったら、まだ回っとるで」
み「哀しすぎるサガじゃ」

み「げ。
何でここに厳島神社があるんだ?」
ハ「書いたあるやろ」
み「字が消えかけてて読めん」
ハ「ま、そういうこっちゃ」
み「どういうこと!」
ハ「早よ行かんと、日が暮れるで」
み「わからんのだな」

み「さっきの杉は、厳島神社の所有ってことか」
ハ「せやろな」

み「しかし、『自然景観指定緑地』の看板に、この柵はいただけないね」
ハ「何でやねん?」
み「擬木だろ。
コンクリートだよ」
ハ「そこまで言うたりなや。
生木で作っとったら、管理かてたいがいやないで」

み「おー、池に出た」

み「ていうか、さっきまでの流れは、ここが源流だね」

ハ「あこから水が出とる。
源流は、もっと上(かみ)やで」

み「にゃんとー。
猪苗代湖から水を引いたっての!
何キロあるのよ。
Googleマップ見て」
ハ「猪苗代湖から飯盛山までは……。
直線距離で、5キロやな」
み「昔の人の根気には、ほんと頭が下がるよ。
寿命が短いのに」
ハ「あんたにはでけんわな」
み「でけん!」
ハ「きっぱりと断言すな」
み「戸ノ口原ってどこ?」
ハ「猪苗代湖のねきやな」
み「なるほど。
白虎隊士たちは、知ってたんだね。
この水路を抜ければ、飯盛山に出るってことが」
ハ「子供のころ、よっぽど遊んでたやろからな」
み「そうやって、せっかく生き延びた命なのに……。
鶴ヶ城が燃えてると思って、自刃してしまった」
ハ「切ない運命や」

み「剣呑じゃのぅ」
ハ「この幹やったら、枝もそうとう太いんちゃうか」
み「こういう杉が生えてる深山じゃ……。
枝の落下なんて、日常茶飯事なんじゃないの」
ハ「かも知れんな」
み「しかし、こんな大木じゃ、枝打ちなんて不可能じゃろ」
ハ「クレーン車、使ったらどうなんや」
み「パカモン。
ここまで、どうやってクレーン車を上げるんだ?
クレーン車が、曲垣平九郎の馬みたいに、階段を駆けあがってくるのか?」
ハ「そういう機械が出来れば、災害復興に大活躍やな」
み「出来ませんよ。
福島原発の事故処理のニュースとか見てると……。
ほんと正直なところ、日本のロボット工学には期待できんって感じだね」
ハ「そこまで言うたりなや」
み「アメリカ陸軍の軍用ロボットなんか、バク宙できるんだよ。
日本のは、キャタピラでモタモタ動いて……。
障害物で亀みたいにひっくり返って終わり」
ハ「怨みでもあるんか」
み「残念感が大きいの。
鉄腕アトム誕生の設定は、2003年だったわけよ。
今、それからさらに20年経つけど……。
アトムどころじゃないでしょ」
ハ「横浜に、ガンダムがおるやないか」
み「あれはもう、がっかりの最たるもんだよ。
自立すらできてないじゃん。
あれを笑える未来が来るといいんだけど……。
なんだか、人類の進歩は、もう頭打ちって気がする」
ハ「えらい悲観的やな」

み「ここも擬木か。
しかも、継ぎ目のモルタルが雑すぎる」
ハ「おかんむりモードやな」

み「これでは順路がわからんではないか」
ハ「もともと、標識どおりに歩いてへんがな」

み「しかし、見事な水量じゃ。
これで、猪苗代湖が干上がらないもんだろうか」
ハ「猪苗代湖にしてみたら、こんな池、水溜まりみたいなもんやろ」
み「猪苗代湖って、日本で何番目に大きいんだっけ?
ちょっと調べて」
ハ「……、4番目やな。
琵琶湖、霞ヶ浦、サロマ湖の次や。
面積は、104.8平方キロある。
わしの生まれた松戸市の1.7倍や」
み「わからん例えじゃ。
そもそも、何で松戸生まれが関西弁なの?」
ハ「話をそこに戻すな。
猪苗代湖は、広さだけやのうて、深さもあるで。
95メートルや。
水量は、そうとうなもんやろ」
み「あ、そうか。
しかも、供給源は周り中にあるよね。
カルデラ湖だから。
周りの山はみんな、豪雪地帯だろ。
ちょうど農作業が始まるころ……。
周囲の山から、雪解け水が流れこむわけだ。
雪の季節を耐え抜いたご褒美ってわけだね」
ハ「せやけど、雪解け水やったら……。
農作業に使うには、えらい冷たいやろな」
み「日なたを長い時間流してから、田んぼに入れるんじゃないの?
でも、白虎隊士は、8月だったから、この水路を抜けられたんだよね」
ハ「せやな。
春先やったら、足が動かんなったやろ」

み「『参拝順路12』があった」
ハ「さいぜんの横倒しのは、『11』やったちゅうことやな」
み「それがわかっても、虚しいだけじゃ」

み「何の木だろ?」
ハ「えらいボロボロやな」
み「さっきの杉の枝が落ちてきたのかね?」
ハ「それでも、健気に生きとるわ」

み「根元から、枝が出てる。
弱ってる証拠だね。
高いところまで、水をあげられないんだよ」

み「姉が遊女で、弟が坊さんだったわけ?」
ハ「そないなるわな」
み「桜って、さっきのボロボロの?」
ハ「ちゃうやろ。
後ろに生えとる木がそうなんやないか。
花時やないと区別つかんけど」

み「あぁ、あの木か。
エドヒガンって、確かソメイヨシノの親だよ。
もう片親は、オオシマザクラ」
ハ「ヒガンザクラちゅうくらいやから、花は早いんやろな」
み「葉が出る前に咲くタイプだね。
オオシマザクラは、葉と花が同時。
ソメイヨシノは、そのちょうど中間ってことだ。
花は、エドヒガンより少し遅いけど……。
葉が出る前に咲くわけだ」
ハ「親のええとこを継いだってわけやな」
み「その代わり、短命だけどね。
人間と同じくらい。
戦後に植えられたソメイヨシノが、これからどんどん寿命を迎える。
倒れる前に伐りたいところだけど……。
反対する住民も多いだろうね」
ハ「自分と一緒に生きてきた木やったら……。
自分が伐られる気いするんやないか」

↑写真を撮り忘れてました。『会津若松観光ナビ』さんのこちらのページから、画像をお借りしました。
み「お、『白虎隊記念館』か。
入ってみべい」
ハ「何語やねん」

み「いくらじゃ?」
ハ「大人400円やな」
み「お主は、タダじゃな」
ハ「当たり前や」

み「げ。
窓口が閉まってる」
ハ「『四時閉館』やて」
み「まだ3時42分じゃないか」

ハ「入場は3時半までや」
み「むむ。
遅かりし由良之助!」
ハ「なんで忠臣蔵やねん」
み「しかし、なじょしてそげん早かね」
ハ「何語や」
み「まさか……。
早じまいして、酒を飲むつもりじゃあるまいな」
ハ「自分と一緒にすな。
事前調査の不足やないか」
み「ま、いいわい。
今回は、縁がなかった。
もう一度、会津に来いということだな」
ハ「せやな」

み「さて、麓まで降りてきた」
ハ「これからどうすんのや?
まだ4時前やで」
み「ホテルに帰る」
ハ「へ?
もう帰るんか?
ホテルから飯盛山まで、歩いて20分もかからんかったやないか。
行きに素通りした、蚕養国神社にでも寄ったらどうや」
み「いや。
気が急く」
ハ「何用があんねん?」
ハ「『白虎隊記念館』に習って……。
早く帰って酒を飲む」
ハ「アホか!
記念館の人はちゃうやろ」

み「バスで帰るぞ」
ハ「しかもバスかいな」
み「記念館の人が、もう酒を飲んでるかと思うと……。
気が急いてならん」
ハ「飲んでへんっちゅうに」

み「運転手さんは女性だな」
ハ「えらいレトロなバスやったな」
み「会津若松市街には、『まちなか周遊バス』というのが走ってるの。
2台あって、この青い“ハイカラさん”と、赤い“あかべぇ”。
600円の1日フリー乗車券を使えば、街中観光が便利なんじゃ」
ハ「これは調べてあったようやな」
み「抜かりはない」
ハ「抜かりだらけやったやないか」

み「さぁ、ホテルにゴー」
ハ「もったいないわ。
こないにええ天気やのに」

ハ「カラフルで、えらい洒落たあんな」
み「水戸岡鋭治か?」
ハ「んなわけあるかい」

み「渋滞した」
ハ「ただの信号待ちやがな。
行きに渡った歩道橋のとこやないか」
み「よし、降りるぞ」
ハ「ホテルまで、まだやで」
み「いいの」

ハ「こないなとこで降りて、何すんねん。
ホテルは、あっちゃに見えるビルやろ」
み「手ぶらで帰ってどうする。
酒を仕入れにゃならんだろ」
ハ「それかいな」

み「ほれ、目指すファミマじゃ。
ここで、さっきフロントでもらった……。
↓2,000円分のクーポンを使うわけじゃ」

ハ「こういう段取りだけは確かやな」
ファミリーマートで、お酒と氷、翌日の朝食を仕入れました。
合計、2,901円。
でも、クーポンの2,000円が引かれたので……。
支払額は、たっの901円。
大満足でした。

み「戻って来ました、マイル~ム~」
ハ「まだ、4時20分やで。
この時期やったら……。
日暮れまで、まだ2時間半はあるわ。
もったいないのぅ」
み「日の高いうちから飲むお酒は、美味しいのじゃ」
ハ「アル中の発言やな」
み「さて、まずはお風呂じゃ。
見るなよ」
ハ「見んわい」

入浴場面は、「み」さんの特別な許可が得られなかったので割愛します。
み「あ~、いいお湯だった。
運動したあとのお風呂は、気持ちいいねぇ。
これで、酒を飲む準備は万端……。
あ、もうひとつやることがあった」
ハ「なんやねん」

み「これじゃ」
ハ「サロンパス……。
オババや」
み「やかましい!
中国では、神薬と呼ばれてるんだぞ。
わたしも昔は、婆さんが貼るものと思ってた。
でも偶然、薬局で試供品をもらったんだ。
捨ててしまうのももったいないから、貼ってみた。
驚いたね。
あれほど効くとは思わなかったよ。
以来、常備品となっとる」
ハ「早い話、ババアになったっちゅうことやろ」
み「お主は、人のこと言えるのか?
埴輪時代は、1500年も前だぞ」
ハ「古墳時代や、ちゅうとろうが」

み「昼酒の気分だな」
ハ「カーテン、開けてみい」

ハ「完全に昼間や」
み「しかしさ。
あの向かいのマンションからだと……。
こっちの部屋が丸見えだよね」
ハ「お互いさまやろ」
み「わたしだったら、ぜったい望遠鏡で覗くけど」

ハ「この近さやで。
あのベランダで、望遠鏡こっち向けとったら……。
間違いのう通報されるて」
み「うーむ。
ベランダが柵ってのが問題だな。
↓でも今は、目隠し用ネットとか売ってるからね」
み「そのネットに穴を開けて、レンズを出せば……。
わからないんじゃない?」
ハ「完璧に覗きや。
レンズ、ここからやったら見えると思うで」
み「それは今、明るいからでしょ。
夜になって、向こうの電気が消えてれば、ぜったいに見えないよ。
宿泊客は気が緩んでるから……。
電気点けたまま、カーテン開けてある可能性が高い。
で、カップルが窓際で事に及ぶ」
ハ「そんなん、確信犯の露出狂やないか」

み「コロナ以来、急激に使い捨てスリッパに代わったよね。
これ、列車の中で履いてると楽なのよ」
ハ「『ばんえつ物語』でも履いとったな」

み「うむ。
いい感じじゃ」
ハ「自殺現場みたいや」
み「そういうこと言うな」

み「じゃ~ん。
本日の豪華夕食、登場~」
ハ「昼間、リオンドールで買ったやつやな。
パック、開けてから撮ったれや」
み「今、開けるわい」

み「その前に……。
じゃ~ん、使い捨て手袋」
ハ「何すんねん」
み「これを着けて、パックを開けるに決まっとる。
手が汚れないだろ」
ハ「洗えばええだけやないか」
み「出来るだけ皮脂を落としたくないの」
ハ「バサマや」
み「いちいちやかましい!
ちょっとそこに立って。
記念撮影」

み「パチリ」
ハ「なんで缶ビールが隣なんや」
み「だから、記念だって。
本物のビール飲むのは、こういうときくらいだからね。
本物なのに、糖質ゼロは嬉しいよね。
しかも、十分に美味しいし」

み「おー。
5時前スタートじゃ。
長い夜になるぞ」
ハ「罰当たりや」
み「年に1度の宴だぞ。
いや、年に1度どころじゃないな。
旅行は、コロナ前の2019年以来だから……。
3年振りだ。
感慨深いわい」

み「WiFiも無事、繋がったし。
美味しそうな料理動画を見ながら飲めば……。
オカズが2倍になる」
ハ「ならんわい。
『うなぎの嗅ぎ賃』と一緒や」
み「想像力のないヤツだな」
ハ「そんないじましい想像力は持ってないわ」
み「リオンドールの惣菜だって、そんなにいじましくないぞ」

み「ほら、豪華じゃないの。
えーっと、これは何だったかな?
そうだ。
レシート、取ってあったな。
えーっと。
『中華風玉子焼き』だ。
税抜き、368円。
本日のメインディッシュ~」
ハ「ま、これは確かに美味そうやな」

み「続きまして、セロテ~プ~」
ハ「食うんか?」
み「何で買ったんだろ?」
ハ「知るかいな」
み「これはリオンドールじゃなくて、さっきのファミマだな。
ま、そのうちに思い出すだろ」

み「天ぷら!
えーっと、これは……。
『会津名物にしんの天ぷら』じゃ。
税抜き、148円。
安い!」
ハ「何で、にしんが会津名物なんや?」
み「猪苗代湖で獲れるんじゃないの?」
ハ「獲れるかい!
海の魚やないか」
み「何で名物なのか、即検索!」
ハ「目の前にパソがあるやないか」
み「こっちは、動画見てるから」
ハ「横着なやっちゃな。
ふむふむ。
どうやら、“身欠きにしん”のようやな」
み「なんじゃそれ?
ツルツルに磨いてるのか?」
ハ「ちゃうがな。
何で、にしんを磨くんや。
乾物や。
昔は、にしんが大量に獲れた。
せやけど、冷蔵技術が発達しとらんころや。
生のままやったら、腐らせてまうだけや。
で、大量のにしんを日本各地に流通させるため……。
干物に加工したわけや。
“身欠き”は、身が欠けると書く。
干物を戻すと、筋ごとに取れやすくなるからやな」
み「なるほど。
それで、会津にもにしんが流通してたってわけか。
海の魚なんて、簡単に食べられなかっただろうからね。
天ぷらにすると、さらにご馳走感が増すしね」
ハ「スルメの天ぷらもあるみたいやで」

み「これは、『レンコンチップス』だな。
税抜き、180円。
安い!」
ハ「揚げ物ばっかしやな」
み「2品目だろ。
これも会津名物?」
ハ「これは……。
全国区みたいやな」
み「熊本なら、辛子が入ってるかもね」

み「漬物!
こういうのが、箸休めには最高なのよ。
『CGC 食彩鮮品 かぶ胡瓜』。
税抜き、198円」
ハ「CGCてなんや?」
み「即検索!」
ハ「聞いたわしがアホやった。
食品メーカー名やな。
『シー・ジー・シー・ジャパン』や」

み「うーむ。
このセロテープ、何で買ったんだ?」
ハ「知らんがな」
み「ちと、食卓が寂しいの」
ハ「動画で補うんやないのか」
み「動画で腹は満たされぬ」
ハ「最初から当たり前の話や」

み「じゃーん。
さっきのファミマで……。
明日の朝食用に買った『豚角煮』を開けよう」
ハ「朝食に、豚の角煮かい」
み「柔らかくて消化にいいだろ。
321円。
これは、税込だな」

み「ほーら、美味そうじゃ」
ハ「確かにな」
み「最近のコンビニの惣菜は、ほんとクオリティが高いよ。
ま、値段もそこそこだけどね」

み「しかし、仙台育英の創設者の碑も……。
鶴ヶ城を向いてるってことだよね」
ハ「ほかのお墓も、みんなそうやないか。
ここから鶴ヶ城やと、南西の方角になる。
山を背負っとるから、冬の季節風もあたらんわな。
住み良いお墓やないか」
み「夏はカンカン照りではないか」
ハ「寒いのよりマシやろ」
み「ま、どっちか選ぶんならそうなるけど。
回して向きを変えられるお墓ってないのかね?」
ハ「誰が回すんや?」
み「海老一染之助だろ。
で、染太郎が……。
“いつもより余計に回しております!”って掛け声かける」
ハ「アホか。
2人とも、亡くなっとるがな」
み「お墓にピッタリじゃないか。
夜の墓場で、墓回し芸。
人魂でジャグリングしたりしてね」
ハ「よう、そんな不謹慎なことが言えるもんや」
海老一染之助・染太郎さん。
すみませんでした。
兄の染太郎さん(掛け声の方)は、2002年に……。
弟の染之助さんは、2017年に亡くなられてました。
お正月番組には、無くてはならない方々でした。
ご冥福をお祈りいたします。
なお、仙台育英の創設者の碑ですが、2022年夏の甲子園終了後……。
仙台育英の監督と3年生部員がここを訪れ、優勝を報告したそうです。
下関国際高校には、何の罪もありませんが……。
長州に勝っての優勝、ほんとに良かったと思います。

み「やっぱり見えん」
ハ「逃げたヤツの生まれ変わりには、見えんちゅうこっちゃ」
み「ふん。
あ、下に降りる階段がある」

み「下りは楽ちんだねー。
あの高さも、あっという間に降りてきた」
ハ「帰りは登りやぞ」
み「げ。
このまま下まで降りれるんじゃないの?」
ハ「まだ、さざえ堂を見とらんやろ。
あれは、上やったで」
み「しまった……」

み「まだ下がある」
ハ「下りてみるか?
見所があるやも知れんぞ」
み「やめ。
回り右。
戻るぞ。
まだ傷は浅い」
ハ「情けないやっちゃ」
み「“見切り千両、損切り万両”」
ハ「なんやそれ?」
み「相場の格言じゃ。
これが出来なかったがために……。
わたしは株をやめました」
ハ「それは正しい判断やったな」
み「然り。
おかげで、こうして旅行に来れるくらいの貯えは残った」

み「しかし、山の上にこんな平坦なところ……。
元からあったのかね?」
ハ「造成や言うんか?
何のために?
何にも無いやないか」
み「さっきのお墓を見れば、何となく想像がつくだろ。
あんな斜面にあるお墓だったら、大勢の人は集まれない。
白虎隊を追悼する式典とか、毎年、あるんじゃないの?
来賓や参列者、大勢来るでしょ。
だから、こういう平坦地が必要だったわけ」
ハ「ほんまかいな」
み「知らんけど」
ハ「やっぱりな」

み「お、あっちが順路だな。
何番だ?」
ハ「行けばわかるがな」

み「参拝順路『8』?
もう、『8』なの?
『6』とか『7』ってあった?」
ハ「もっと前から無かったんやないか?」
み「あ、そうだ。
最後に見たのは……。
“これじゃ心霊スポットだよ”って言ったときだ」
↓これでした。

み「ま、いいわい。
『下山道』ってのが嬉しいじゃないの」
ハ「人生ももう折り返して、下り坂やからな」
み「そういうこと言うな!」

み「でたー。
さざえ堂。
よくもまぁ、こんな奇天烈な建物を考えたもんだよな。
でも、待てよ……。
栄螺(さざえ)って、海に棲んでるんだよね」
ハ「あたり前やがな」
み「会津に、海はないじゃない。
名前を付けるとしたら……。
タニシ堂とか、カタツムリ堂になるんじゃないの?」
ハ「知らんがな」
み「即、検索!」
ハ「いちいち難儀やな。
ふーむ。
なるほど」
み「納得してないで、説明!」
ハ「金取るぞ」
み「金もらって、どうやって使うつもりだ?」
ハ「くそー。
栄螺堂ってのはな、これひとつやなかったんや。
ええか。
Wikiを読み上げるぞ(出典)。
+++
栄螺堂(さざえどう、さざいどう)は、江戸時代後期の東北から関東地方にかけて見られた特異な建築様式の仏堂である。
堂内は螺旋構造の回廊となっており、順路に沿って三十三観音や百観音などが配置され堂内を進むだけで巡礼が叶うような構造となっている。
仏教の礼法である右繞三匝(うにょうさんぞう)に基づいて、右回りに三回匝る(めぐる)ことで参拝できるようになっていることから、本来は三匝堂(さんそうどう)というが、螺旋構造や外観がサザエに似ていることから通称で「栄螺堂」、「サザエ堂」などと呼ばれる。
アニメ「サザエさん」とは無関係。
+++
やて」
み「最後の一文は余計じゃ」
ハ「わしのせいやないわ」
み「それじゃ、ほかにも現存してるってこと?」
ハ「Wikiには……。
ここのほかに、7箇所の現存例が書かれたあるな。
群馬、茨城、青森、東京、埼玉、大分や。
東京だけ、2箇所や」
み「大分?
なんで九州?
東北から関東にかけて見られたんじゃないの?」
ハ「あ、そのうち2箇所は、最近作られたもんやった。
東京の1箇所と、大分」
み「それでか」
ハ「あと、東京のもう1箇所と埼玉のは、明治期に再建されたもんやった。
せやから、江戸時代のが残っとるのは、会津のほかに3箇所やな。
群馬、茨城、青森や。
えーと、それから、成立の経緯は……」
み「よし、見学するぞ」
ハ「話を最後まで聞け!」
み「百聞は一見にしかずじゃ」
ハ「勝手に切りあげおって……」

み「正直……。
趣味、よろしおまへんな。
なんじゃ、この柱に巻き付いた龍は。
アナゴか?」
ハ「サザエさんには、アナゴさんが出てくるわな」
み「不要な情報じゃ。
“アニメ「サザエさん」とは無関係”なんでしょ」
ハ「当たり前やがな」

み「ん?
インバウンド用の案内板か?
“Sanso-do”?
栄螺って、英語で“Sanso”なの?」
ハ「ちゃうがな。
やから、説明を最後まで聞けっちゅうたんや。
栄螺堂は通称で、本来は三匝堂(さんそうどう)云うんや。
“匝(そう)”は、巡るっちゅう意味や。
三層を巡るから、三匝堂」
み「四層に見えるけど」
ハ「そんな気がせんでもないがな」
み「わかった。
これも、染之助・染太郎のしわざじゃ。
いつもより余計に回しております!」
ハ「またそれか!」
み「よし、入るぞ」
ハ「続き、読まんのかいな」
み「インバウンドじゃないんで」
ハ「読めんだけやな」

み「誰じゃ?」
ハ「郁堂禅師て、書いたるがな。
この、さざえ堂を建てた人やろ」
み「建てたって、棟梁ってこと?」
ハ「何で禅師が棟梁なんや。
施主やろ」
み「禅師がそんな金、持ってんの?」
ハ「寄進を募ったんやないか?
棟梁の方も、もうけ度外視で請け負ったのかも知れんし」
み「こんなややこしい建物、善意だけで請け負えんだろ。
棟梁は手弁当でも、大工には賃金やらないわけにいかんじゃないの。
そもそも、設計図なんてあったのか?」
ハ「なかったんちゃうか」
み「するってえとなにかい?
こんな頭のおかしくなりそうな建物……。
現場の見当合わせで造ったって言うの?
大天才じゃないの。
立体パズルだよ。
どんな脳みそしてたんだ?」
ハ「さざえみたいな脳みそやったんやろな」
み「そんな結論でいいのか!」

み「しかし、この千社札は……。
どういう料簡なのかね。
ここは、国指定の重要文化財だよね。
そういうところに千社札を貼るのは、法律違反なんじゃないの?
ちょっと、調べて」
ハ「ふむ。
どうやら、『文化財保護法』に抵触するようやな。
札を剥がす際に、建物に傷を付ける怖れがあるからやて。
実際、仁和寺に千社札を貼った男が書類送検されたそうや」
み「待てよ。
じゃ、重要文化財じゃない寺には貼り放題なのかな?」
ハ「ふむふむ。
器物損壊罪やいうて怒っとる寺もあるようやで」
み「当然だよ」
ハ「せやけど……。
犯行現場を押さえん限りは、罪に問うのは難しいみたいやな」
み「書類送検なんて軽すぎるだろ。
日本の歴史への冒涜じゃない。
日本への攻撃と同じ。
テロリストだろ」
ハ「えらい極論やな」
み「こういう輩には、身に染みる罰を与えなきゃ応えないよ。
犯行現場の掃除、1年間とかね」
ハ「会社、クビやがな」
み「こんなの貼って回ってるのは、定年後のヒマ人だろ」
ハ「そうとは限らんやろ」
み「じゃ、掃除1年間、もしくは、罰金1千万円」
ハ「高か!」
み「跡が残らないように剥がすんだから、そのくらいかかるんじゃない?」
ハ「さっきから、偉い剣幕やな」
み「こういうの、嫌いなの。
自己顕示欲の醜さを見せつけられるみたいでさ」
ハ「わかったから。
早よ、次、行こうや」

み「おぉ、栄螺の殻の中の始まりだ。
しかしさ、この踏み板……。
1枚たりとも、同じ形のがないんじゃないの?」
ハ「そうかも知れんな」
み「造るのに、何年かかったの?」
ハ「建立年は、寛政8年やな。
西暦で、1796年や。
せやけど、着工がいつかは……。
どこにも書いたらへんな。
あ、あったぞ。
『福島県の町並みと歴史建築』というサイトのページや。
『伝承によると、郁堂和尚が二重
み「アホきゃ!
こんなのが、着想して1年で出来るわけないだろ。
まず、資金集めからじゃない」
ハ「知らんがな。
“伝承によると”とあるやないか」
み「しかし、千社札が目障りじゃ。
どうせなら踏み板に貼って……。
どうぞ踏んで下さいって謙虚さがないもんかね」
ハ「ちゃっちゃと進まんと、日が暮れるで」

み「おー、陽の光が入って、神秘的じゃない」
ハ「時間によっても、感じが違うんやろな」
み「雨風も吹きこむよね」
ハ「窓ガラス、入れるわけにもいかんやろ」

み「天井にまで貼ってる。
バカと煙は高いとこに上りたがるって、このことだよ」
ハ「もう、ええっちゅうねん」

み「腰板も、だいぶくたびれて来てるね。
ここの修理って、どうなってんの?」
ハ「明治23(1890)年に、大修理があったようやな」
み「誰がお金出したの?」
ハ「寄付やな。
有志が発起人となって、広く寄付を募ったようや」
み「1890年って云うと、建立から94年後か。
それからもう、132年も経ってるじゃない」
ハ「その後、屋根の葺き替えや、傾いた堂の引き起こしなんかは行われとる。
しかし、全面的な大修理は明治のときだけみたいやな」
み「むしろ今なら、出来るんじゃないの?
クラウドファンディングでさ」
ハ「なるほどな」

み「うーむ。
こりゃ絶対、修理が必要だわ」
ハ「発起人になったらどうや?」
み「よそ者がしゃしゃり出たら失礼でしょ。
会津人に任せます」
ハ「ものは言いようや」

み「なんだか、目が回ってきた。
酔いそうじゃ。
小学校の修学旅行で、バスに酔った記憶が蘇ったのかも知れん」
ハ「小間物屋開くのだけは、止めてくれれよ」

み「おー、ついに下りだ。
しかし、上りと下りがすれ違わないってのは、ほんとにスゴい構造だよね。
ていうか、まさにコロナ時代を見越した建造物なわけだ。
ひょっとしたら、疫病終息祈願で建てられたんじゃないの?
赤べこと同じだよ」
ハ「うがち過ぎやて」

み「残念ながら……。
車椅子の人は、見学できそうにないね」
ハ「当たり前やがな」
み「しかし、子供がすっ転んだら……。
一番下まで転げ落ちるんじゃない?」
ハ「頭、ボコボコやで」
み「集団で転けたら……。
出口で、パチンコの出玉みたいになるんじゃないの」
ハ「つくずく、不謹慎なやっちゃな」

み「やっぱり、修繕が必要だな。
ていうか、ここで転げたら……。
あの腰板破って、外に飛び出すんじゃないの?」
ハ「それはないやろ。
内側に向けて、バンクつけたるさかいな」
み「そのための傾き?」
ハ「案外、そうかも知れんで。
外側には、何も掴まるところがあらへんけど……。
内側には、けっこう掴まりどころがあるしな」

み「ちょっと待った。
これ、階段じゃないね。
平らな床板に、桟木が打ってあるんだ」
ハ「せやな。
滑り止めっちゅうわけや。
人間だけやのうて、ものを落としたときでも……。
下まで転がらん仕組みやな」
み「これなら、階段と違って……。
ある程度、アバウトでも造れるんじゃない?」
ハ「確かにな。
弟子に任せられる工程かも知れんな」

み「神棚?
こういうのは普通、内側にあるもんじゃないの?」
ハ「内側やったら、人間が転げこみかねんで」
み「あのお酒の入れ物、全部なぎ倒して……。
ストライクってか?」
ハ「つくずく、不謹慎なやっちゃ」

み「おっ、ようやく外が見えた」
ハ「転げんと、無事出られそうやな」

み「これは明らかに、イタズラ書きだよな」
ハ「言語道断やな」
み「出来心なんかじゃないよ。
完全な計画犯。
これ、筆かなんかでしょ」
ハ「確かにな。
普段、こないなもの、持ってへんわな」

み「はい、無事、下りられましたぁ」
ハ「お日さまが眩しいのぅ。
内と外での、明暗のコントラストも味わいどころやな」

み「説明書きがあった」
ハ「こういうのは普通、入る前に見るもんやで」

み「でも……。
“世界唯一”ってのは、違うよね。
ここのほかに、江戸時代のが、3つも残ってるんだから」
ハ「こういう構造の建物は……。
日本にある栄螺堂だけっちゅう意味やないか?」
み「しかし、この説明板……。
どこが設置したのか書いてないね。
そもそも、さざえ堂の所有者って誰?
会津若松市?
ちょっと調べて」
ハ「ほほぅ」
み「所有者はフクロウか?」
ハ「アホきゃ。
なんと、個人所有やったぞ。
すぐ脇にある『
み「個人で維持管理してんの?」
ハ「国指定の重文なんやから……。
補助金とか、出るんやないか?」
み「そういうのもらうと……。
監査とかあって、面倒なんじゃないの?
落書きや千社札対策もしなきゃならないだろうし」
ハ「もらわんと、放っておく方が楽っちゅうわけか?」
み「ケ・セラ・セラ~。
なるようになる~」
ハ「そんな結論でいいんか」

み「お、この説明書きには、どこが出したか書いてあるぞ。
『福島県教育委員会』か」
ハ「重文指定は、案外新しいな。
昭和57年や」
み「しかしこの、所有者の名前がスゴいじゃない。
飯盛正日。
『山主飯盛本店』の飯盛って、苗字ってこと?」
ハ「本名かどうかわからんけど……。
『白虎隊精神秘話』ちゅう本も出したる人みたいや」
み「ひょっとしたら、明治になって苗字を付けるときに……。
飯盛って付けたのかも知れないね(注:憶測です)」

み「おー、いつの間にやら、『参拝順路10』じゃ」
ハ「最前に見たのは、確か『8』やったぞ」
み「細かいことを気にするでない。
だんだん増えていってるんだから……。
間違ってないってことだろ」
ハ「細かいことやのうて……。
大事なことなんとちゃうか?」

み「ほら、下山道で合ってる」
ハ「当たり前や。
登りと下りを間違えとったら、エラいこっちゃやがな」
み「『白虎隊士引揚げの水洞』って何じゃ?」
ハ「行けばわかるやろ」

み「句碑があった。
へー、水原秋桜子か」
ハ「ちゃうがな。
成瀬櫻桃子やないか」
み「知らんぞ。
そんな俳人、いたの?」
ハ「いたから、句碑が残っとるんやろ」
み「しかし……。
句碑にするほどの句かね?
さざえ堂とピサの斜塔を見あげると……。
どっちも、高い空が見えるってこと?」
ハ「ま、当たり前のことやわな」
み「この季語はなんになるの?
まさか、サザエじゃないよね」
ハ「少しは考えたれや。
天高しやろ。
“天高く馬肥ゆる秋”や」
み「“天高く”と“秋”で、季重なりじゃない」
ハ「アホか。
これは、俳句やないやろ。
5と7しかないやないか。
結句があらへんがな」
み「ほんとは、結句があったんじゃないの?」
ハ「どんな結句や?」
み「“貴社におかれましてはますますご清祥のこととお慶び申し上げます”」
ハ「なんやそれ!
ビジネス文の初っぱなの挨拶やないか」
み「早よ行くぞ。
こんなところで油売ってたら、日が暮れてしまうわ」
ハ「こっちの台詞や」

み「おー、綺麗な水だね」
ハ「湧き水みたいやな」
み「やっぱ、こういう水が流れる土地はいいね」
ハ「酒も蕎麦も美味いんやろな」

み「神社みたいなところに出たぞ」
ハ「順路、間違うてへんやろな」
み「下りの方向に進めばいいんだから……。
間違えようがないだろ」
ハ「方向は間違うてのうても……。
大事なのを見落としとるかも知れんやないか」

み「なんでハチがいるんじゃ?
花も咲いてないのに」
ハ「スズメバチやろ。
こやつらは肉食や」
み「しかし、どう注意すればいいんだ?」
ハ「黒いものを攻撃すると聞いたで」
み「じゃ、大丈夫じゃない。
黒い服なんか着てないもん」
ハ「髪の毛が黒いやないけ」
み「げ。
帽子、被ってくれば良かった。
あんたはいいねぇ。
つるっパゲで」
ハ「やかましわ!
埴輪に毛があったら、かえってヘンやろ!」

み「おー、ここにも流れてる」
ハ「そうとうな水量やな」

み「『慈母子育観音』か……。
自刃した白虎隊の少年たちを慰めてんだろうね」
ハ「切ないわな」

み「子供のころ遊んだところで……。
最期を遂げたってわけか」
ハ「言葉もないわ」

み「なんで?」
ハ「湧き水いうても、綺麗とは限らんやろ。
早い話、生水っちゅうことや。
飲んでみるか?」
み「飲むかい。
お腹が、ぴーひゃらどんどんになったら大ごとじゃ」

み「ほんとにスゴい水量だね」
ハ「見事なもんや」
み「水洗トイレにしたいくらい」
ハ「なんでやねん」

み「さらばじゃ、さざえ堂」
ハ「下から上がって来た方が、趣があったんやないか?」
み「いまさら言うな」

み「昔の子供なら、絶対ここで泳いだよな」
ハ「白虎隊の子らもな」
み「ひょっとしたら……。
“湧き水飲むな”はそういうことか……」
ハ「どういうこっちゃ?」
み「子供がここで遊んでたら、絶対に身体が冷えるでしょ」
ハ「はぁ?
さっぱり話が見えんで」
み「身体が冷えたら、したくなるじゃん」
ハ「なにを?」
み「おしっこ」
ハ「アホか……。
武士の子が、そないなことするか?」
み「子供はみんな一緒。
この流れ見てると、水洗トイレにしか見えん」
ハ「異常やで」

み「立派な杉だね。
そうか……。
ここは高台だから、水はけがいいのか」
ハ「杉は、水はけが悪いとダメなんか?」
み「新潟市街は、“杉の木と男の子は育たない”って言われてる土地なのよ。
低湿地だからね。
水はけが悪いと、杉は育ちにくいってこと」
ハ「杉は、わかったわいな。
せやけど、男の子は何で育たへんねん?」
み「農家では、長男ひとりが田畑をみんな継ぐわけだ。
子供のころから、大事にされて育つから……。
バカ殿みたいなのができあがるってわけ」
ハ「長男がぜんぶ継ぐのは、会津の武家でも一緒やろ」
み「でも、ぜったい甘やかされないよね。
むしろ、一番厳しく育てられるんじゃない?」
ハ「それで、こないに立派な杉に育つちゅうわけやな」
み「左様。
でも、わたしが生まれ変わるとしたら……。
ぜったいバカ殿がいい」
ハ「せやろな」

み「魚はいないのかな?」
ハ「流れが早よすぎて棲めんのやろ。
寝たら流されてまうわ」
み「泳ぎながら寝るんじゃないの?」
ハ「それは、海の回遊魚やろ。
マグロとか、カツオや。
きゃつらは、エラをパクパク動かせんのや。
泳ぐことでしか、エラに酸素を取りこめんちゅうわけや」
み「止まると息が出来なくなっちゃうってわけ?」
ハ「そういうこっちゃな」
み「切ない生き物じゃ。
そうやって泳ぎ続けて……。
止まったときには、寿司のネタになってる」
ハ「回転寿司やったら、まだ回っとるで」
み「哀しすぎるサガじゃ」

み「げ。
何でここに厳島神社があるんだ?」
ハ「書いたあるやろ」
み「字が消えかけてて読めん」
ハ「ま、そういうこっちゃ」
み「どういうこと!」
ハ「早よ行かんと、日が暮れるで」
み「わからんのだな」

み「さっきの杉は、厳島神社の所有ってことか」
ハ「せやろな」

み「しかし、『自然景観指定緑地』の看板に、この柵はいただけないね」
ハ「何でやねん?」
み「擬木だろ。
コンクリートだよ」
ハ「そこまで言うたりなや。
生木で作っとったら、管理かてたいがいやないで」

み「おー、池に出た」

み「ていうか、さっきまでの流れは、ここが源流だね」

ハ「あこから水が出とる。
源流は、もっと上(かみ)やで」

み「にゃんとー。
猪苗代湖から水を引いたっての!
何キロあるのよ。
Googleマップ見て」
ハ「猪苗代湖から飯盛山までは……。
直線距離で、5キロやな」
み「昔の人の根気には、ほんと頭が下がるよ。
寿命が短いのに」
ハ「あんたにはでけんわな」
み「でけん!」
ハ「きっぱりと断言すな」
み「戸ノ口原ってどこ?」
ハ「猪苗代湖のねきやな」
み「なるほど。
白虎隊士たちは、知ってたんだね。
この水路を抜ければ、飯盛山に出るってことが」
ハ「子供のころ、よっぽど遊んでたやろからな」
み「そうやって、せっかく生き延びた命なのに……。
鶴ヶ城が燃えてると思って、自刃してしまった」
ハ「切ない運命や」

み「剣呑じゃのぅ」
ハ「この幹やったら、枝もそうとう太いんちゃうか」
み「こういう杉が生えてる深山じゃ……。
枝の落下なんて、日常茶飯事なんじゃないの」
ハ「かも知れんな」
み「しかし、こんな大木じゃ、枝打ちなんて不可能じゃろ」
ハ「クレーン車、使ったらどうなんや」
み「パカモン。
ここまで、どうやってクレーン車を上げるんだ?
クレーン車が、曲垣平九郎の馬みたいに、階段を駆けあがってくるのか?」
ハ「そういう機械が出来れば、災害復興に大活躍やな」
み「出来ませんよ。
福島原発の事故処理のニュースとか見てると……。
ほんと正直なところ、日本のロボット工学には期待できんって感じだね」
ハ「そこまで言うたりなや」
み「アメリカ陸軍の軍用ロボットなんか、バク宙できるんだよ。
日本のは、キャタピラでモタモタ動いて……。
障害物で亀みたいにひっくり返って終わり」
ハ「怨みでもあるんか」
み「残念感が大きいの。
鉄腕アトム誕生の設定は、2003年だったわけよ。
今、それからさらに20年経つけど……。
アトムどころじゃないでしょ」
ハ「横浜に、ガンダムがおるやないか」
み「あれはもう、がっかりの最たるもんだよ。
自立すらできてないじゃん。
あれを笑える未来が来るといいんだけど……。
なんだか、人類の進歩は、もう頭打ちって気がする」
ハ「えらい悲観的やな」

み「ここも擬木か。
しかも、継ぎ目のモルタルが雑すぎる」
ハ「おかんむりモードやな」

み「これでは順路がわからんではないか」
ハ「もともと、標識どおりに歩いてへんがな」

み「しかし、見事な水量じゃ。
これで、猪苗代湖が干上がらないもんだろうか」
ハ「猪苗代湖にしてみたら、こんな池、水溜まりみたいなもんやろ」
み「猪苗代湖って、日本で何番目に大きいんだっけ?
ちょっと調べて」
ハ「……、4番目やな。
琵琶湖、霞ヶ浦、サロマ湖の次や。
面積は、104.8平方キロある。
わしの生まれた松戸市の1.7倍や」
み「わからん例えじゃ。
そもそも、何で松戸生まれが関西弁なの?」
ハ「話をそこに戻すな。
猪苗代湖は、広さだけやのうて、深さもあるで。
95メートルや。
水量は、そうとうなもんやろ」
み「あ、そうか。
しかも、供給源は周り中にあるよね。
カルデラ湖だから。
周りの山はみんな、豪雪地帯だろ。
ちょうど農作業が始まるころ……。
周囲の山から、雪解け水が流れこむわけだ。
雪の季節を耐え抜いたご褒美ってわけだね」
ハ「せやけど、雪解け水やったら……。
農作業に使うには、えらい冷たいやろな」
み「日なたを長い時間流してから、田んぼに入れるんじゃないの?
でも、白虎隊士は、8月だったから、この水路を抜けられたんだよね」
ハ「せやな。
春先やったら、足が動かんなったやろ」

み「『参拝順路12』があった」
ハ「さいぜんの横倒しのは、『11』やったちゅうことやな」
み「それがわかっても、虚しいだけじゃ」

み「何の木だろ?」
ハ「えらいボロボロやな」
み「さっきの杉の枝が落ちてきたのかね?」
ハ「それでも、健気に生きとるわ」

み「根元から、枝が出てる。
弱ってる証拠だね。
高いところまで、水をあげられないんだよ」

み「姉が遊女で、弟が坊さんだったわけ?」
ハ「そないなるわな」
み「桜って、さっきのボロボロの?」
ハ「ちゃうやろ。
後ろに生えとる木がそうなんやないか。
花時やないと区別つかんけど」

み「あぁ、あの木か。
エドヒガンって、確かソメイヨシノの親だよ。
もう片親は、オオシマザクラ」
ハ「ヒガンザクラちゅうくらいやから、花は早いんやろな」
み「葉が出る前に咲くタイプだね。
オオシマザクラは、葉と花が同時。
ソメイヨシノは、そのちょうど中間ってことだ。
花は、エドヒガンより少し遅いけど……。
葉が出る前に咲くわけだ」
ハ「親のええとこを継いだってわけやな」
み「その代わり、短命だけどね。
人間と同じくらい。
戦後に植えられたソメイヨシノが、これからどんどん寿命を迎える。
倒れる前に伐りたいところだけど……。
反対する住民も多いだろうね」
ハ「自分と一緒に生きてきた木やったら……。
自分が伐られる気いするんやないか」

↑写真を撮り忘れてました。『会津若松観光ナビ』さんのこちらのページから、画像をお借りしました。
み「お、『白虎隊記念館』か。
入ってみべい」
ハ「何語やねん」

み「いくらじゃ?」
ハ「大人400円やな」
み「お主は、タダじゃな」
ハ「当たり前や」

み「げ。
窓口が閉まってる」
ハ「『四時閉館』やて」
み「まだ3時42分じゃないか」

ハ「入場は3時半までや」
み「むむ。
遅かりし由良之助!」
ハ「なんで忠臣蔵やねん」
み「しかし、なじょしてそげん早かね」
ハ「何語や」
み「まさか……。
早じまいして、酒を飲むつもりじゃあるまいな」
ハ「自分と一緒にすな。
事前調査の不足やないか」
み「ま、いいわい。
今回は、縁がなかった。
もう一度、会津に来いということだな」
ハ「せやな」

み「さて、麓まで降りてきた」
ハ「これからどうすんのや?
まだ4時前やで」
み「ホテルに帰る」
ハ「へ?
もう帰るんか?
ホテルから飯盛山まで、歩いて20分もかからんかったやないか。
行きに素通りした、蚕養国神社にでも寄ったらどうや」
み「いや。
気が急く」
ハ「何用があんねん?」
ハ「『白虎隊記念館』に習って……。
早く帰って酒を飲む」
ハ「アホか!
記念館の人はちゃうやろ」

み「バスで帰るぞ」
ハ「しかもバスかいな」
み「記念館の人が、もう酒を飲んでるかと思うと……。
気が急いてならん」
ハ「飲んでへんっちゅうに」

み「運転手さんは女性だな」
ハ「えらいレトロなバスやったな」
み「会津若松市街には、『まちなか周遊バス』というのが走ってるの。
2台あって、この青い“ハイカラさん”と、赤い“あかべぇ”。
600円の1日フリー乗車券を使えば、街中観光が便利なんじゃ」
ハ「これは調べてあったようやな」
み「抜かりはない」
ハ「抜かりだらけやったやないか」

み「さぁ、ホテルにゴー」
ハ「もったいないわ。
こないにええ天気やのに」

ハ「カラフルで、えらい洒落たあんな」
み「水戸岡鋭治か?」
ハ「んなわけあるかい」

み「渋滞した」
ハ「ただの信号待ちやがな。
行きに渡った歩道橋のとこやないか」
み「よし、降りるぞ」
ハ「ホテルまで、まだやで」
み「いいの」

ハ「こないなとこで降りて、何すんねん。
ホテルは、あっちゃに見えるビルやろ」
み「手ぶらで帰ってどうする。
酒を仕入れにゃならんだろ」
ハ「それかいな」

み「ほれ、目指すファミマじゃ。
ここで、さっきフロントでもらった……。
↓2,000円分のクーポンを使うわけじゃ」

ハ「こういう段取りだけは確かやな」
ファミリーマートで、お酒と氷、翌日の朝食を仕入れました。
合計、2,901円。
でも、クーポンの2,000円が引かれたので……。
支払額は、たっの901円。
大満足でした。

み「戻って来ました、マイル~ム~」
ハ「まだ、4時20分やで。
この時期やったら……。
日暮れまで、まだ2時間半はあるわ。
もったいないのぅ」
み「日の高いうちから飲むお酒は、美味しいのじゃ」
ハ「アル中の発言やな」
み「さて、まずはお風呂じゃ。
見るなよ」
ハ「見んわい」

入浴場面は、「み」さんの特別な許可が得られなかったので割愛します。
み「あ~、いいお湯だった。
運動したあとのお風呂は、気持ちいいねぇ。
これで、酒を飲む準備は万端……。
あ、もうひとつやることがあった」
ハ「なんやねん」

み「これじゃ」
ハ「サロンパス……。
オババや」
み「やかましい!
中国では、神薬と呼ばれてるんだぞ。
わたしも昔は、婆さんが貼るものと思ってた。
でも偶然、薬局で試供品をもらったんだ。
捨ててしまうのももったいないから、貼ってみた。
驚いたね。
あれほど効くとは思わなかったよ。
以来、常備品となっとる」
ハ「早い話、ババアになったっちゅうことやろ」
み「お主は、人のこと言えるのか?
埴輪時代は、1500年も前だぞ」
ハ「古墳時代や、ちゅうとろうが」

み「昼酒の気分だな」
ハ「カーテン、開けてみい」

ハ「完全に昼間や」
み「しかしさ。
あの向かいのマンションからだと……。
こっちの部屋が丸見えだよね」
ハ「お互いさまやろ」
み「わたしだったら、ぜったい望遠鏡で覗くけど」

ハ「この近さやで。
あのベランダで、望遠鏡こっち向けとったら……。
間違いのう通報されるて」
み「うーむ。
ベランダが柵ってのが問題だな。
↓でも今は、目隠し用ネットとか売ってるからね」
み「そのネットに穴を開けて、レンズを出せば……。
わからないんじゃない?」
ハ「完璧に覗きや。
レンズ、ここからやったら見えると思うで」
み「それは今、明るいからでしょ。
夜になって、向こうの電気が消えてれば、ぜったいに見えないよ。
宿泊客は気が緩んでるから……。
電気点けたまま、カーテン開けてある可能性が高い。
で、カップルが窓際で事に及ぶ」
ハ「そんなん、確信犯の露出狂やないか」

み「コロナ以来、急激に使い捨てスリッパに代わったよね。
これ、列車の中で履いてると楽なのよ」
ハ「『ばんえつ物語』でも履いとったな」

み「うむ。
いい感じじゃ」
ハ「自殺現場みたいや」
み「そういうこと言うな」

み「じゃ~ん。
本日の豪華夕食、登場~」
ハ「昼間、リオンドールで買ったやつやな。
パック、開けてから撮ったれや」
み「今、開けるわい」

み「その前に……。
じゃ~ん、使い捨て手袋」
ハ「何すんねん」
み「これを着けて、パックを開けるに決まっとる。
手が汚れないだろ」
ハ「洗えばええだけやないか」
み「出来るだけ皮脂を落としたくないの」
ハ「バサマや」
み「いちいちやかましい!
ちょっとそこに立って。
記念撮影」

み「パチリ」
ハ「なんで缶ビールが隣なんや」
み「だから、記念だって。
本物のビール飲むのは、こういうときくらいだからね。
本物なのに、糖質ゼロは嬉しいよね。
しかも、十分に美味しいし」

み「おー。
5時前スタートじゃ。
長い夜になるぞ」
ハ「罰当たりや」
み「年に1度の宴だぞ。
いや、年に1度どころじゃないな。
旅行は、コロナ前の2019年以来だから……。
3年振りだ。
感慨深いわい」

み「WiFiも無事、繋がったし。
美味しそうな料理動画を見ながら飲めば……。
オカズが2倍になる」
ハ「ならんわい。
『うなぎの嗅ぎ賃』と一緒や」
み「想像力のないヤツだな」
ハ「そんないじましい想像力は持ってないわ」
み「リオンドールの惣菜だって、そんなにいじましくないぞ」

み「ほら、豪華じゃないの。
えーっと、これは何だったかな?
そうだ。
レシート、取ってあったな。
えーっと。
『中華風玉子焼き』だ。
税抜き、368円。
本日のメインディッシュ~」
ハ「ま、これは確かに美味そうやな」

み「続きまして、セロテ~プ~」
ハ「食うんか?」
み「何で買ったんだろ?」
ハ「知るかいな」
み「これはリオンドールじゃなくて、さっきのファミマだな。
ま、そのうちに思い出すだろ」

み「天ぷら!
えーっと、これは……。
『会津名物にしんの天ぷら』じゃ。
税抜き、148円。
安い!」
ハ「何で、にしんが会津名物なんや?」
み「猪苗代湖で獲れるんじゃないの?」
ハ「獲れるかい!
海の魚やないか」
み「何で名物なのか、即検索!」
ハ「目の前にパソがあるやないか」
み「こっちは、動画見てるから」
ハ「横着なやっちゃな。
ふむふむ。
どうやら、“身欠きにしん”のようやな」
み「なんじゃそれ?
ツルツルに磨いてるのか?」
ハ「ちゃうがな。
何で、にしんを磨くんや。
乾物や。
昔は、にしんが大量に獲れた。
せやけど、冷蔵技術が発達しとらんころや。
生のままやったら、腐らせてまうだけや。
で、大量のにしんを日本各地に流通させるため……。
干物に加工したわけや。
“身欠き”は、身が欠けると書く。
干物を戻すと、筋ごとに取れやすくなるからやな」
み「なるほど。
それで、会津にもにしんが流通してたってわけか。
海の魚なんて、簡単に食べられなかっただろうからね。
天ぷらにすると、さらにご馳走感が増すしね」
ハ「スルメの天ぷらもあるみたいやで」

み「これは、『レンコンチップス』だな。
税抜き、180円。
安い!」
ハ「揚げ物ばっかしやな」
み「2品目だろ。
これも会津名物?」
ハ「これは……。
全国区みたいやな」
み「熊本なら、辛子が入ってるかもね」

み「漬物!
こういうのが、箸休めには最高なのよ。
『CGC 食彩鮮品 かぶ胡瓜』。
税抜き、198円」
ハ「CGCてなんや?」
み「即検索!」
ハ「聞いたわしがアホやった。
食品メーカー名やな。
『シー・ジー・シー・ジャパン』や」

み「うーむ。
このセロテープ、何で買ったんだ?」
ハ「知らんがな」
み「ちと、食卓が寂しいの」
ハ「動画で補うんやないのか」
み「動画で腹は満たされぬ」
ハ「最初から当たり前の話や」

み「じゃーん。
さっきのファミマで……。
明日の朝食用に買った『豚角煮』を開けよう」
ハ「朝食に、豚の角煮かい」
み「柔らかくて消化にいいだろ。
321円。
これは、税込だな」

み「ほーら、美味そうじゃ」
ハ「確かにな」
み「最近のコンビニの惣菜は、ほんとクオリティが高いよ。
ま、値段もそこそこだけどね」