Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
単独旅行記Ⅶ・総集編(3)
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 この『単独旅行記Ⅶ・総集編(3)』は、『単独旅行記Ⅶ(021)』から『単独旅行記Ⅶ(030)』までの連載を、1本にまとめたものです。


改札前からも見えた
み「あ、改札前からも見えた」
ハ「今度こそ、見納めやな」
み「よし、目に焼きつけた。
 さぁ、改札、出るぞ」

会津に来たっていう気分になるな
み「うーむ。
 会津に来たっていう気分になるな」
ハ「なんや、犬みたいやな」
み「ゆるキャラフォルムが、今のトレンドだからね。
 そしたら、あんたもトレンドだ」
ハ「誰がゆるキャラや!」

さすが、武家の町らしい駅舎じゃ
み「さすが、武家の町らしい駅舎じゃ」
ハ「こじんまりしてるとこが、逆に味わいやな」

耳に痛いわい
み「うーむ。
 耳に痛いわい」
ハ「いくつ出来とるんや?」
み「……。
 聞くな」
ハ「ゼロやな」

白虎隊士の像だな
み「白虎隊士の像だな」
ハ「人の運命というものは……。
 ほんまに、生まれる時代に左右されてしまうもんやな」
み「埴輪時代は、いつ生まれても一緒だったからな」
ハ「古墳時代やと言うとるやろ!
 しかも、縄文時代と混同してるんやないか。
 古墳時代は、激動の時代やぞ」
み「はいはい」
ハ「人の話を聞け!」
み「さて、まずは夕食の調達じゃ」
ハ「もうか!
 まだ、2時前やないけ」
み「今の時間に、買い物をしておくのが……。
 最も効率的だと判断したの。
 スーパーに行くぞ。
 レッツラゴー」
ハ「死語や」

あんまり聞かんスーパーやな
み「着いた」
ハ「あんまり聞かんスーパーやな」
み「新潟には、けっこうあるよ。
 20店舗くらいあるんじゃないかな。
 だからずーっと、新潟のスーパーだと思ってた。
 ところが、会津若松が本拠地だったんよ。
 わたしはその事実を、この春、初めて知ることとなったのじゃ。
 ある悲惨な事故から」
ハ「なんや?」
み「知床遊覧船の沈没事故」
ハ「どういう関係があるんや?」
み「そのときの犠牲者の一人に……。
 この『リオン・ドール』の跡取り息子が含まれてたの。
 地元の名門、会津高校から、慶應義塾大学商学部に進んだ俊才。
 大学時代には、イギリス留学もしてたそう。
 事故当時、28歳。
 すでに取締役だったって。
 ほんとに、期待の御曹司だったわけよ。
 しかも、婚約もしてた。
 北海道に出張中で、週末に時間が出来たんで……。
 遊覧船に乗ったみたい」
ハ「無念やったろうな」
み「もちろん、本人が一番無念だったろうけど……。
 ご家族や婚約者の辛さを思うと、やりきれない。
 やっぱり、船は怖いわ。
 陸が一番」
ハ「なんや、その結論」

入口はこっちか
み「あ、入口はこっちか」
ハ「閑散としとるやないけ」
み「平日の2時前ならこんなもんでしょ」

 店内では写真を撮っていませんので、描写は割愛させていただきます。
 ごくごく、普通のスーパーでした。
 店内には、ちゃんとお客さんもいました。

今夜のホテル
み「見えて来たぞ。
 今夜のホテル」
ハ「もう行くんかい。
 チェックイン、できんやろ」
み「それが出来るの。
 14時から。
 なので、先にスーパーに寄って時間を使ったわけ。
 ほら今、14時4分だ」
ハ「エラい早く開けるんやな」
み「だから、この『会津若松ワシントンホテル』を選んだのよ」
ハ「しかし、なんでこんなに早くチェックインする必要があるんや?」
み「ひとつは、リュックを下ろしてから観光に出たかったから。
 パソコンも入ってて重いからね。
 最初は、会津若松駅のコインロッカーに預けるつもりだった。
 でも、2時チェックインのこのホテルを見つけたんで、急きょ予定を変更したってわけ。
 コインロッカー代が節約できるからね」
ハ「せいぜい300円やろ。
 せこ」
み「もうひとつ、大事な目的があったの!」

いざ参らん
み「いざ参らん」
ハ「頼もー、ってか?」
み「チェックイン中は、話しかけるなよ。
 混乱するから」
ハ「けっこう高級そうなホテルやないか?」
み「おうよ。
 素泊まり、6,350円じゃ」
ハ「なんや。
 大したことあらへんがな」
み「東京だったらね。
 でも、会津若松だぞ。
 バカにするわけじゃないが……。
 普段なら、この値段のホテルには泊まらないと思う」
ハ「今日は“普段”やないのかい?」
み「県民割が効くのじゃ」
ハ「別の県やろ」
み「近県は大丈夫なの」
ハ「いくら引かれるんや」
み「2,500円」
ハ「ちょびっとやないか」
み「喝!
 6,350円が、3,850円になるんだぞ。
 大違いじゃないの。
 しかもさらに、フロントでクーポンが2,000円分もらえる。
 ここら周辺で、今日明日のうちに使っちゃわないといけないみたいだけど」
ハ「アホか。
 そんなら、チェックインした後で……。
 クーポンの使える店で、夕食を買えばよかったやないけ」
み「まだ、お酒と明日の朝食を買ってないでしょ。
 2,000円なんか簡単に使っちゃえるよ。
 コンビニでもオッケーなんだから。
 さあ、改めて、いざ参らん」

 当然、チェックイン中の写真はありません。
 県民割が適用されるためには……。
 フロントで、新型コロナワクチンの接種証明を提示する必要がありました。
 スマホのアプリから、証明書を表示できます。

ハ「エラい無愛想な姉ちゃんやったな」
み「あんたもそう思った?
 わたしも、ちょっとびっくりした。
 東京のホテルとは大違いだ。
 向こうだと、蕩けるような顔してくれるからね。
 それがいいってわけじゃないけど。
 でも、あれほど無表情なフロントは初めて見た。
 アンドロイドかと思った」
ハ「けっこう美人やったけどな」
み「確かに、お武家顔だったね。
 むやみに歯を見せるなっていう土地柄なのかね」
ハ「今どきか?」
み「ま、いいや。
 無愛想だったけど、別に不愉快なわけじゃなかったから」

おー、立派立派
み「おー、立派立派。
 さすが、6,350円のホテルだ」
ハ「額面はな」

さて、入りましょう
み「さて、入りましょう」
ハ「カードキーやな」
み「お財布に入るから便利だよ」

おー、さすがセミダブル
み「おー、さすがセミダブル。
 広い広い。
 6,350円だけのことはある。
 これなら、落っこちる心配いらないよ」
ハ「落ちる方がどうかしてるわ」
み「深酒けしなきゃ落ちないんだけどね」
ハ「今日は、するつもりやな……」

冷蔵庫、チェーック
み「冷蔵庫、チェーック。
 ときどき、電源が入ってないホテルがあるからね。
 お、ちゃんと入ってるじゃない。
 無愛想だけど、こういうところはきっちりしてる。
 さっそく、買い出した夕食、入れておこう」
ハ「電源が入ってへんかったら、悪くなるとこやで」
み「電源入れておくかどうか、季節にもよるのかもね」

お、使い捨てスリッパだ
み「お、使い捨てスリッパだ。
 ここらあたりまでも、浸透してたんだね」
ハ「コロナで、一気に広まったんやないか?」
み「かもね。
 折りたたみ椅子まである。
 何に使うんだろ?」
ハ「座るんやろ」
み「椅子もベッドもあるじゃない。
 あ、そうか。
 荷物置きだ。
 床に直接置きたくないって声があったのかも。
 あんたを置くかな」
ハ「わしは荷物か!」

バスルーム、チェーック
み「バスルーム、チェーック」
ハ「ごく普通やな」
み「ま、ここはそれでいいのよ」

トイレットペーパーホルダーが、2段になってる
み「トイレットペーパーホルダーが、2段になってる。
 下痢の人用か?」
ハ「アホか。
 予備のペーパーを、そこらに置いとくより……。
 ホルダーにつけておいた方が、便利やからやないか」
み「なるほど」

フロントでもらった、2,000円分のクーポン
み「じゃーん。
 さっきフロントでもらった、2,000円分のクーポンじゃ」
ハ「これが酒になって消えるわけやな」
み「さてと。
 出発前に、ひとつやることがある」
ハ「さっき言ってた……。
 先にチェックインする目的とやらか」
み「左様。
 ひとつは、荷物を置くこと。
 そしてもうひとつは、腰にコルセットを巻くことなの」
ハ「そんなの、朝、出る前に巻いて来ればよかっただけやないか」
み「前の東京旅行では、そうしてた。
 でも、ちょっと不都合なことがあった」
ハ「なんや?」
み「新幹線の座席に座ってるとき、けっこう苦しかったんだよ。
 座った状態だと、お腹が圧迫されてね。
 しかも、今回の『ばんえつ物語』号では……。
 新幹線より、1時間半も長く座ってなきゃならない。
 なので、先にチェックインして、ホテルで巻くことにしたの。
 トイレの面倒さもあるからね」
ハ「下りる前に、トイレで巻くという手もあったやないか」
み「下り際は、トイレが混むでしょ。
 後ろに並んでる人に、うんこと思われたくない。
 じゃ、巻くから。
 見るなよ」
ハ「誰が見るかい」

 装着中、描写省略。

み「よし、これで万全だ。
 パン!パン!」
ハ「廻しか」
み「さぁ、出るぞ。
 リュックがないから、楽ちん楽ちん」

ロビーにも、赤べこがいた
み「ロビーにも、赤べこがいた」

疫病退散の力があるようやな
ハ「疫病退散の力があるようやな」
み「昔から、そういう目的で作られてきたのかな?
 ちょっと、ネット検索してみて」
ハ「……。
 なんと!
 横っ腹に黒い点があるやろ」
み「でっかい丸が付いてるね」
ハ「これは、疱瘡を表したものやそうや。
 天然痘やな。
 昔は、子供が罹ると死亡率が高かった病気や。
 子供が疱瘡にならないように……。
 身代わりとして、赤べこに描いたんやて」
み「それは知らなかったな」
ハ「しかも、赤は病魔を払う色やそうや」
み「まさしく、疫病退散のお守りだったんだね。
 わたしがこれまで、大病せずに過ごして来れたのは……。
 小学校の修学旅行で、赤べこを買って帰ったからかも。
 今でも、居間の茶箪笥に飾ってるから」
ハ「帰ったら、お礼せなあかんな」

さぁ、出発だ
み「さぁ、出発だ」
ハ「まさに、日盛りやな」
み「あ、もう14時半過ぎちゃってる」
ハ「どこ行くんや?
 駅とは逆方向やないか」
み「今日は徒歩移動なのじゃ。
 だから、コルセットを巻いたんじゃないの。
 バスでも行けるんだけど……。
 バスを待ってる時間で着いちゃうから。」

おー、立派なケヤキだ
み「おー、立派なケヤキだ。
 樹形も良いし。
 でも、ちょっと危ないな」
ハ「何がや?」
み「枝が電線に届いてる。
 大風でも吹くと、電線にあたって切っちゃう怖れもある」
ハ「剪定せなあかんやないか」
み「街路樹ならとっくにされてるでしょ。
 でもこれ、民家の敷地に生えてるんじゃないの。
 ひょっとしたら、市や東北電力からは……。
 枝を伐ってほしいという要望があったのかも。
 これだけ枝が広がってると……。
 信号や交通標識が見えなくなったりもするからね」
ハ「剪定を断ったということか?」
み「この丸い樹冠の道路側だけ伐ったら……。
 樹形が台無しになるからね。
 でも実際に、電線が切断されたりしたら……。
 損害賠償を請求されるかも」
ハ「払わんやろ」
み「電線を地下に埋設しない方が悪いとか言ってね。
 ケヤキは、街路樹としては優秀なんだけど……。
 枝が横に広がるのがやっかい。
 なので近年は、ファステギアータ系のケヤキがよく使われてる」
ハ「なんやそれ?」
み「樹形が、竹箒を逆さに立てたみたいに……。
 細長く伸びる園芸品種のこと。
 ユリノキなんかにもあるよ。
 でも、枝を大きく広げさせて、夏の日差しを遮るというのが……。
 街路樹の一番の目的だからね。
 ファステギアータでは、日陰が小さくなっちゃう」
ハ「兼ね合いやな。
 広げすぎて、電線にかかったり信号を隠してしまえば……。
 伐らざるを得んということや」
み「左様。
 あと、街路樹に落葉樹が使われる理由はわかる?」
ハ「確かに、秋は落ち葉で側溝が詰まったりする弊害があるわな。
 常緑樹なら、それがないわけや」
み「簡単だよ。
 冬場は日差しを通したいから。
 夏は日差しを遮り、冬は日差しを通す。
 これが、街路樹の役目」
ハ「そんなら新潟は、常緑樹でいいんやないか?
 冬に陽なんかあたらんやろ」
み「新潟では、別の理由があるの」
ハ「なんや?」
み「雪が積もるでしょ。
 湿った雪だから、葉っぱが残ってると、そこに着雪するわけ。
 どんどん積み重なって、最後には枝をへし折ってしまう」
ハ「雪吊りは……。
 でけんわな」
み「出来るわけないよ。
 街路樹、1本1本に雪吊りなんて。
 いくらかかると思うの。
 今、公共予算で雪吊りやってる施設は……。
 シンボル的な公園とか、役場庁舎くらいじゃないの」
ハ「兼六園とかやな」
み「そういうとこには、雪吊りを“見せる”という役目もあるわけよ」
ハ「しかし、妙に物知りやな、こういうことには」
み「はは。
 ほとんど叔父からの受け売りだけどね。
 酒飲むと、語る語る。
 しかも、同じ話を何回もするから……。
 同じ話が出来るくらい覚えちゃうわけ」
ハ「酒飲みあるあるやな」

おー、小洒落たコーヒーショップではないか
み「おー、小洒落たコーヒーショップではないか。
 会津若松にも、こんなお店があるんだね」
ハ「失礼やないか」
み「しかし、こんな広い車椅子駐車エリアを描いて……。
 一般のお客さんは、ほんとにここに停めないんだろうか」
ハ「停まってへんやないか」
み「今は、ガラ空きだからだろ。
 ていうか、ランチタイムが終わって、中休みなんじゃないの?
 でも、お昼時とかはわからんぞ。
 ランチに来て、このスペースしか空いてなかったら……。
 停めるよね」
ハ「お主は、停めるんやな?」
み「いや、わたしは度胸がないから停めない。
 その代わり、別の店に行く。
 お店にとって、この駐車エリアを設けておくことに……。
 メリットがあるんだろうか?」
ハ「メリットとかの話やないやろ。
 車椅子を利用する人に配慮してるということや」
み「まあね。
 確かに、入口もスロープになってる。
 きっと中も、車椅子でテーブルに付けるようになってるんじゃないの?」
ハ「そらそやろ。
 高いカウンター席ばっかりやったら、どもならんやないか」
み「つまり、車椅子で利用する人の固定客が付くってことじゃないの?
 あと、デイサービスとかのレクリエーションで、団体利用ってことも考えられる。
 この駐車幅なら、デッカい送迎車も停められる」
ハ「ようそんなこと、いろいろと思いつくな」
み「わたしが行くスーパーでも……。
 入口の真ん前が、車椅子マークの駐車スペースになってる。
 けっこう車が停まってるんだけど……。
 車椅子が乗るような車じゃないのがけっこうあるよ」
ハ「マナーがなっとらんやないけ」
み「わたしはあれね、区画数が多すぎるからだと思う。
 相当なスペースを取ってる。
 あれだけあったら……。
 1台くらいいいだろって気になっちゃうよ。
 わたしは停めないけどね。
 もう少し、区画数を減らすべきだと思う。
 そうすれば、そこに停めちゃう人も減るんじゃないかな。
 停めれば目立っちゃうし。
 お店の中では、車椅子を使わない人は停めないでとか放送してるけど……。
 ほんとに停めてほしくないんだったら、見張りを立てるべきじゃないの。
 あの放送は、お客のモラルに責任転嫁してるんじゃないかって……。
 聞いてて、ちょっとイラッと来るね。
 言っとくけど、わたしは停めてないからね」
ハ「モラルがあるからやないけどな。
 度胸がないからやろ」
み「ふん」

おー、松の街路樹だ
み「おー、松の街路樹だ」
ハ「さっき、街路樹には落葉樹が使われるって言っとったやないか」
み「何ごとにも、例外はあるってこと」
ハ「雪吊りせんで大丈夫なのか?
 兼六園の松とか、みんな吊ったあるやないか」
み「ああいう松は、仕立てものだからだよ」
ハ「なんや、それ?」
み「左右のバランスとかを考えて……。
 枝が仕立ててあるってこと。
 1枝でも折れたら、バランスが崩れて台なしになっちゃう。
 だから、枝を大事に吊ってるわけよ」
ハ「この松は違うんか?」
み「これは、野木(のぎ)」
ハ「は?
 乃木将軍か?」
み「さすが埴輪時代。
 言うことが古い」
ハ「古墳時代やと言うとるやろ!」
み「野木って云うのはね……。
 枝を一切仕立てず、苗からそのまんま大きくした木のこと。
 早い話、野生の木と一緒。
 防風林に使われる松がそうだろ」
ハ「はは。
 確かに、防風林に仕立てた松はないわな」
み「自然のまんま、こんなボーボーになってるんだから……。
 1本、2本、枝が折れたって、大したことないのよ。
 防風林に使われるんだから……。
 冬の季節風も防いでくれるし。
 ま、こんな間隔で植えてたら、そういう効果はあてにしてないだろうけどね。
 ここはあくまで、武家の街と云うことで……。
 松が選ばれたんじゃないの」

おー、由緒ありげな地名じゃ
み「おー、由緒ありげな地名じゃ。
 きっと、蚕を飼ってたところだな。
 即、検索!」
ハ「人使いの荒いやっちゃ。
 ふむふむ。
 この近くに、『蚕養國神社(こがいくにじんじゃ)』というのがあるようや」
み「訓読みなのか。
 じゃ、“さんようちょう”じゃなくて……。
 “こがいまち”ってこと?」
ハ「らしいな。
 写真を見ると、風情ありげな神社やぞ。
 寄ってくか?」
み「いや、いい」
ハ「なんでや?」
み「予定にないから」
ハ「予定にない出会いがあるのが、旅の楽しみやろ」
み「予定どおりに行動する主義なの。
 さあ、行くぞ。
 脇目もふらず」
ハ「脇見ばっかりしてるやないか」

ら、このすぐ近くやぞ
ハ「ほら、このすぐ近くやぞ」
み「迷わず前進!」

レンガ塀に松並木
み「レンガ塀に松並木か。
 風情があるね。
 でも、このレンガ塀……。
 大丈夫か?」
ハ「何がや?」
み「なんか、歪んでる気がしない?
 手前の門が、道路側に傾いてる感じなのに……。
 向こうの方は、反対側に反ってるんじゃないの?
 鉄筋なんか通ってないんだろうから……。
 地震が来たら、バラバラッといきそうだよ」
ハ「松の木のねき(近く)を歩いた方がよさそうやな」
み「しかし、歩道が広いよね。
 東京あたりだと……。
 人がすれ違えないくらいの歩道もあるよ」
ハ「人に優しい街づくりってやつやな」
み「ていうか、冬の雪に備えてるんじゃないの?
 道路を除雪した雪が、歩道に積まれるんだと思う。
 細い歩道じゃ、歩道がまるごと埋まっちゃうよ」
ハ「この幅なら、街路樹側に積まれても……。
 人の通る幅は確保できるということやな」
み「左様」
ハ「でもそしたら、冬はレンガ塀の際を歩かにゃならんやないけ」
み「地震が来ないことを祈りつつね」

お、標識があった
ハ「お、標識があった。
 飯盛山、鶴ヶ城、東山温泉、御薬園か。
 これから行くのは、このどこかやな?」
み「さて、どこでしょう?」
ハ「東山温泉を希望する。
 温泉旅館で、豪華料理の部屋飲み。
 最高やで」
み「アホか。
 さっき、ホテルにチェックインしたでしょうが」
ハ「無念……」

こいつを渡らなきゃならんのか
み「こいつを渡らなきゃならんのか」
ハ「てことは、直進やな」
み「まだこの歩道橋は、バリバリの現役みたいだね。
 新潟市街では、だいぶ撤去が進んだけど」
ハ「なんでや?」
み「昔からの歩道橋が、耐用年数を迎えつつあるんじゃないかな。
 新しい歩道橋に架け替えるとしたら、いくらかかると思う?
 そんなら撤去しちゃって、横断歩道にすれば、どんだけ安あがりか。
 道路に白線を引けばいいだけだよ」
ハ「信号を付けんならんやろ。
 それに、信号で停められたら、渋滞が起きるんやないか」
み「信濃川に架かる橋が新設されたりして……。
 交通量が分散してきたのよ。
 なので今は、横断歩道でも十分って判断なんだと思う」
ハ「懐事情の方が先なんやないんか」
み「かもね」


み「おー、綺麗にしてるね。
 みんな、買って来たばっかりみたいだ」
ハ「これだけ、花どきを揃えるのは……。
 けっこう大変なんやないのか?」
み「だね。
 まさに、グリーンサムの持ち主なんだ」
ハ「なんや、それ?」
み「直訳すれば、“緑の親指”。
 園芸上手な人のこと。
 わたしは残念ながら、真逆だね。
 わたしの手にかかる植物は気の毒。
 でも、好きだからやめられない」
ハ「“好きこそものの上手なれ”やないってことやな」
み「ぜったい、才能の有無があると思う」
ハ「才能より、性格やないのか?」
み「どういう意味!」

まだ、こういうお店が残ってるんだ
み「まだ、こういうお店が残ってるんだ」
ハ「商品が小綺麗やから、売れとるんやろな」
み「確かに。
 古いお店じゃ、民族博物館じゃないのかってほど……。
 飴色になった商品が並んでる店もあるもんな」
ハ「土産にどや?」
み「嵩張りすぎ」

箱形じゃなくて、こうして屋根を付けてる
み「箱形にしないで、こうして屋根を付けてるのは……。
 やっぱ、景観を考えてるんだろうね」
ハ「最前入った『リオン・ドール』やな。
 やっぱ地元資本の会社は……。
 そういう配慮もしとるんやないんか」

アメリカハナミズキ
み「出た!
 アメリカハナミズキ。
 ほら。
 街路樹にすると、こんな有様」
ハ「さっき、汽車の中で言うてたな」
み「そう。
 街路樹ってのは……。
 夏は、根元までカンカン照り。
 冬は、寒風の通り道。
 樹木にとっては、過酷な環境なの。
 それにハナミズキには、アメシロもたかるからね。
 街路樹で連なってたら、どんどん広がっていく。
 ここも、なんで松にしなかったんだろ?」

おー、これもスゴい
み「おー、ここもスゴい」
ハ「洋花やな」
み「ルピナスの群植だ。
 民家だよね。
 花好きが多い街なんだな。
 やっぱり、雪に埋もれる期間が長いからだろうね。
 しかし、それにしても……。
 これだけ花時を揃えるのは大した腕前。
 グリーンサムどころか、全身緑色なんじゃないの」
ハ「気持ち悪いやないけ」

植わってるところが斜面ってのがいいよね
み「それに、植わってるところが斜面ってのがいいよね。
 平面じゃ、こんなに見事には見えない。
 斜面だから、まるで雛壇を眺めてるみたい」
ハ「確かに、なんとなく人っぽい花やな。
 しかし、花の後ろの2本の木は、なんであないな姿にされとるんや?」
み「方角だよ。
 家のこちら側が影になってるでしょ。
 ということは、家の向こうが南ってこと。
 後ろの高木が、あんなに強い剪定をされてるのは……。
 葉が茂ってると、花壇を日陰にしちゃうからじゃないの」

特に左のは、プラタナスっぽいからね
み「特に左のは、プラタナスっぽいからね。
 あんな大きな葉が繁ったら……。
 陽あたりのいい花と、日陰になる花で、花時がズレてしまうと思う」
ハ「しかし、よく盗まれんもんやな」
み「確かに。
 塀も何にもないから……。
 タチの悪いやつは、引っこ抜いていきかねない。
 やっぱり武家の街だから、民度が高いんだろうね。
 さて、ずっと見ていたいけど……。
 先を急ぎましょう。
 しかし、いいものを見させてもらった」

おー、これまた、けなげ
み「おー、これまた、けなげ。
 種が零れたんだね。
 葉っぱがギザギザしてるから、シャスターデイジーだな」
ハ「可哀想に、震えとるぞ。
 ブラウンサムが覗きこんどるから」
み「やかましい!」

おっ、ふもとの駐車場まで来た
み「おっ、ふもとの駐車場まで来た」
ハ「なるほど。
 目的地は、飯盛山やったんやな」
み「修学旅行生らいいのもいるね。
 でも、わたしが修学旅行で来たときは……。
 この駐車場じゃなかった気がする」

こんな砂利敷きじゃなくて、舗装されてた
み「こんな砂利敷きじゃなくて、舗装されてた」
ハ「よう、そんなことまで覚えとんな」
み「飯盛山の駐車場には、腹立たしい思い出があるのじゃ」
ハ「なんや?」
み「飯盛山の土産物屋には、白鞘の模擬刀が売ってるんだよ。
 男子どもが、喜んで買ってた。
 で、わたしが駐車場でバスに乗ろうとしたとき……。
 その男子どもに囲まれて、滅多斬りにされたのじゃ」
ハ「そりゃ、災難やったな」
み「ま、向こうも、せっかくのお土産が折れたら大変って思ってたんだろうね。
 スローモーションみたいな斬り方だったけど。
 でも中には、わたしの頭に刃をあてて、ギコギコ挽くヤツまでいた」
ハ「ははは」
み「バス酔いが酷くて、またバスに乗るのかと暗澹としてたとき……。
 そんな災難に遭ったから、ほんとに頭に来た」
ハ「それで、恨み骨髄、記憶が残っとるわけやな」
み「左様。
 ぜったい、ここじゃないわ」
ハ「ここは、個人客の駐車場みたいやな。
 バスの駐車場、探すか?」
み「結構です!」

案外、立派な山じゃん
み「げ。
 案外、立派な山じゃん。
 何メートルあるんだろ?
 調べて」
ハ「そのくらい、調べてから来いや。
 えーっと……。
 1,643メートルやな」
み「そんなにあるわけないじゃん!」
ハ「あ……。
 これは、長野の飯盛山(めしもりやま)やった。
 山の形が名前の由来やろうから……。
 同じ名前の山もあるってことやな。
 お、あったあった。
 314メートルやて」
み「東京タワーより低いのか。
 新潟の弥彦山が、634メートルだから……。
 その半分だ」
ハ「そっちの標高は、よー覚えとったな」
み「簡単、簡単。
 東京スカイツリーと一緒なんだよ。
 634(ムサシ⇒武蔵)メートル」
ハ「なるほどな」

何度聞いても、このエピソードは辛すぎる
み「何度聞いても、このエピソードは辛すぎる」
ハ「16,7って……。
 今やったら、高校に入ったばかりのころやぞ」
み「合掌」
ハ「まだ早いがな。
 墓でしたれや」

まさしく山盛りご飯みたいな山じゃ
み「おー、まさにテンコ盛りご飯みたいな山じゃ。
 しかし……。
 恐ろしいものが見えてる」
ハ「何や?」

石段だよ
み「石段だよ。
 あれを登るのか?」
ハ「あたり前やろ。
 麓まで来て、引き返す気か?」
み「あんたは歩かなくていいじゃん。
 登るのはわたしなんだぞ」
ハ「応援したる」
み「いらんわ」

やっぱり、こういうの売ってる
み「やっぱり、こういうの売ってる」
ハ「白鞘の模擬刀は、店内やろか?
 入ってみ」
み「結構です」
ハ「何でや?」
み「入ったら、手ぶらで出にくくなるだろ」
ハ「買うたれや」
み「まだ荷物を作りたくないの」

そうとうな急坂じゃない
み「そうとうな急坂じゃない。
 これじゃ、曲垣平九郎も騎馬では登れまい」
ハ「愛宕神社の出世の石段やな。
 これを登ったら、もっと出世できるんやないか?」
み「出世なんかいらんわ。
 初っぱなにこれを登ったら、脚に来ること必定じゃ」
ハ「フレー、フレー、Mikiko」
み「昭和の応援すな!」

エスカレーターがあった
み「おっ。
 これは!
 なんと、エスカレーターがあった。
 天の助け」
ハ「でも有料やぞ。
 大人は250円て書いたある」
み「安いもんじゃ」
ハ「路線バスより高いやないけ」
み「高いところに登るんだから高いの!」
ハ「乗る気満々やな」

 乗り口の手前に、神社みたいな造りの料金所があり、窓口が2つ並んでました。
 窓の向こうにはお姉さんが座ってるので、写真は撮ってません。

おー、素晴らしい
み「おー、素晴らしい。
 快適、快適」
ハ「250円やからな」

窓の外は新緑
み「窓の外は新緑。
 景色も楽しめる」
ハ「立ち見やけどな」
み「いちいち、腐すな!」

これは『八重の桜』だね
み「これは『八重の桜』だね。
 会津が舞台だから、わからないことはないけど……。
 こういうのは、ない方がいいかも」
ハ「あんたも腐しとるやないか」

あ、もう着いた
み「あ、もう着いた」
ハ「あっという間や。
 250円、終了~」

ここでまた乗り換えだ
み「と思ったら違ってた。
 ここでまた乗り換えだ。
 まさかこの先、別料金じゃないよね?」
ハ「別料金やったら、詐欺やがな」

『そのまま上までどうぞ』て書いたあるがな
ハ「ほれ、『そのまま上までどうぞ』て書いたある」
み「さらにスロープは続く」

タイムトンネルみたいだね
み「なんか、タイムトンネルみたいだね」
ハ「これを下りたら、戊辰戦争真っ只中の飯盛山に出たりしてな」
み「それは断る」

ほんとに近未来感があるよ
み「ほんとに近未来感があるよ」
ハ「両側一面が緑っちゅうのが、いっそう効果的やな」
み「お、着いたな」
ハ「お忘れ物のなきようお降りください」
み「あんたを忘れたりして」
ハ「やめんか!」

なんで、いきなり『参拝順路2』なんだ?
み「なんで、いきなり『参拝順路2』なんだ?」
ハ「『1』は、長い石段なんやないけ?」
み「なら、『1』は飛ばしてよし」

あ、『1』があった
み「あ、『1』があった」
ハ「ちゃうがな。
 よう見たれや」

『徒歩1分』やないけ
ハ「『徒歩1分』やないけ」
み「てことは、『さざえ堂』は、順路外ってこと?」
ハ「先に見るか?
 面白そうやぞ」
み「いや、楽しみは後にする」

さっき見あげた場所が、たちまち眼下にある
み「さっき見あげた場所が、たちまち眼下にある。
 250円の価値あり!」
ハ「自分を納得させようとしとるな」

でもまだ、ちょっと登るけど
み「でもまだ、ちょっと登るけど」
ハ「このくらい何や」
み「自分で登らんやつが言うな!」

お、出たな、『参拝順路3』
み「お、出たな、『参拝順路3』。
 あれ?
 『2』って、何だったっけ?」
ハ「何にもなかったわな」
み「曲がり角ごとに番号振ってるのかな?」
ハ「ま、順番は間違っとらんちゅうこっちゃ」
み「こんな初っぱなから間違ってどうする」

線香、売っとるぞ
ハ「線香、売っとるぞ。
 持ってないやろ?」
み「あたり前だ。
 線香持って旅行するやつがいるか」
ハ「買うたれや」
み「ライターがないわ。
 今は、タバコを吸わない人が多くなったから……。
 線香も売れなくなったんじゃない?」
ハ「火ぃ点けえでも……。
 供えるだけでええんやないか。
 こら!
 聞こえんふりすな」

性と子供だけで、こんなに亡くなってたの
み「女性と子供だけで、こんなに亡くなってたの。
 言葉がないわ」
ハ「時代の波に飲みこまれてしまったんやな」
み「時代という津波か……」
ハ「まさしく」

14歳で戦死って……
み「14歳で戦死って……。
 まだ子供じゃない」
ハ「元服したら大人やろ」
み「元服って何歳?
 調べて」
ハ「ふむふむ。
 どうやら、決まった年齢はなかったようやな。
 時代や一族によって、まちまちやったみたいや。
 奈良時代とかでは、12歳から16歳くらい。
 でも、江戸時代になると年齢が高くなって……。
 18歳から20歳くらいやったみたいや」
み「じゃ、14歳は元服前じゃないの」
ハ「おそらく……。
 取り急ぎ元服させて、戦場に向かわせたんやろ」
み「悲惨じゃ」

合掌
み「合掌」
ハ「線香、買うたれや」
み「あいにく、小銭の持ち合わせがない」
ハ「うそこけ。
 さっきのスーパーで、釣り銭もろてたやないか。
 こら!
 聞こえんふりすな」

麗しの松平容保さま
み「おー、麗しの松平容保さま」
ハ「何やそれ?」
み「知らんの?
 超イケメン。
 画像、探してみ」
ハ「Wikiに載っとった」
Matudaira Katamori.jpg

ハ「確かに、東北顔とちゃうな。
 なになに。
 やっぱり、江戸生まれや。
 高須藩の藩邸で、藩主の六男として生まれたとあるな。
 9歳で、会津藩主の養子になっとる。
 江戸の会津松平家上屋敷に迎えられたときは……。
 その美貌に、会津家が大騒ぎになったようや」
み「ほんとに貴族的な顔なのよ。
 まさに、貴種って感じ。
 でも明らかに、勃興期や繁栄期の顔じゃない。
 一族が滅びようとするときの、末裔の顔ね。
 それがまたいいんだけど」
ハ「よーわからんわ」

この墓標の数だけ、亡骸があったんだね
み「この墓標の数だけ、亡骸があったんだね」
ハ「線香、あがっとらんな」
み「線香ばっかり気にすな!」

白虎観音?
み「白虎観音?
 何それ?」
ハ「ネットには……。
 由来は載ってないようや。
 ま、亡くなった白虎隊士は、まだ母が恋しい年代やったからな。
 母代わりの観音さんやないんか。
 その母も、自刃したやも知れんし」
み「悲惨すぎる……」

これは、白虎隊の歌か?
み「これは、白虎隊の歌か?」
ハ「脇に、『嗚呼 忠烈白虎隊』とあるな。
 一番の歌詞は……。

戦雲暗く 陽は落ちて
弧城に月の 影悲し
誰が吹く笛か 識らねども
今宵名残の 白虎隊

 やな」
み「メロディは?」
ハ「知らんがな」
み「YouTubeにあるだろ」
ハ「また検索かいな。
 ……。
 お、剣舞の動画があったぞ」
み「わたしは見れんだろうが」
ハ「脳に直接送ってやる」
み「そんなことまで出来んのか!
 ほとんど脳支配ではないか」
ハ「気にすな。
 単なる方便や。
 再生、開始!」


み「ピンボケじゃ」
ハ「素人が撮ったようやな。
 お、島津亜矢の歌があった。
 再生、開始!」


み「うーむ。
 どうしても、“紅顔可憐の少年”が素直に聞けん。
 可憐なコーガンが目に浮かんでしまう」
ハ「バカ者や」

なんじゃ、この鳥は?
み「なんじゃ、この鳥は?
 昔、こいつがこの地を支配してたとか?」
ハ「そんなわけあるかい。
 『ローマ市寄贈の碑』とあるな。
 ほっほ。
 こりゃ、おもろい。
 なんと、イタリアの首相ムッソリーニが……。
 “白虎隊とファシスタ党とは相通じるものがある”と讃えて、昭和3年にローマ市から贈った碑やて」
み「げ。
 日独伊三国同盟のハシリじゃない。
 しかしやはり……。
 滅びを讃える者は、滅びるということだね」
ハ「ムッソリーニは……。
 1945年4月28日に銃殺されとるな」

今度は、ドイツから寄贈の碑だって
み「どひゃー。
 今度は、ドイツから寄贈の碑だって。
 日独伊三国同盟、完成じゃん」
ハ「日独伊三国同盟の調印は……。
 この碑が贈られた1935年の5年後やな」

若葉は、毎年こうして萌え出るけど
み「若葉は、毎年こうして萌え出るけど……。
 一度失われた人の命は、けっして帰っては来ない」
ハ「日本の武士道は……。
 “命惜しむな名をこそ惜しめ”やからな」
み「聞いたことあるフレーズじゃな」
ハ「三波春夫『俵星玄蕃』の一節や。
 いざ聞かん、渾身のフルコーラス」


み「素晴らしい。
 しかし……。
 長い」
ハ「8分31秒や」
み「でもやはり、命は惜しむべき。
 惜命(しゃくみょう)だよ」
ハ「そんな言葉、あるんか?」
み「辞書には載ってないね。
 石田波郷の句集の名前。
 波郷の造語じゃないの」

お、出たな『参拝順路4』
み「お、出たな『参拝順路4』」
ハ「どうやらこの標識は……。
 参拝する場所やなくて、その途中に立てられとるようやな」
み「しかし、図らずしてこうなったんだろうけど……。
 見事に、おどろおどろしい標識だね。
 これじゃ、心霊スポットだよ」
ハ「まだ迷うてる隊士がおるんやないか」
み「止めんか!」

白虎隊士で、ただひとり生き残った人
み「これは……。
 白虎隊士で、ただひとり生き残った人だね」
ハ「この人が生きてたからこそ……。
 白虎隊の最後が、後生に伝えられることになったわけや。
 Wikiで見ると、生まれたのは1854(嘉永7)年3月25日。
 白虎隊の自刃は、1868(慶応4)年8月23日やから……。
 まだ14歳やったわけや。
 しかし、家を出るとき母親は、こう言ったそうや。
 “今日この家の門を出たならば……。
 おめおめと生きて再び帰るような卑怯な振る舞いをしてはなりません”」
み「14歳の息子を送り出したあと……。
 そのお母さんは、ひとりで泣いただろうね」

生き残った飯沼貞雄の墓やな
ハ「生き残った飯沼貞雄の墓やな」
み「幾つまで生きたの?」

こっちに書いたあるがな
ハ「こっちに書いたあるがな。
 亡くなったのは、昭和6(1931)年2月12日。
 78歳とあるのは、数え年やな。
 満で計算すれば、76や」
み「当時としては、長生きだよね」
ハ「せやな。
 飯盛山で助けられてから……。
 62年後になる」
み「当時としては、まさに生まれ変わって、もう1回人生を生きた感じだよね」
ハ「明治大正のころの平均寿命は、44歳くらいやったようや」
み「そんなに短いの?
 織田信長は、人生50年って言ってたんでしょ」
ハ「『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり』やな」
み「よく考えたら……。
 戦国時代の平均寿命が、50年もあるわけないよね」
ハ「よく考えんでもそうやな。
 そもそも平均寿命なんて、計算しようがなかったやないか」
み「たぶん、畳の上で最後を迎える人の平均が、50歳ぐらいだったんじゃないの」
ハ「信長は、畳の上で死ぬつもりやったということか」
み「天下を統一すれば、当然そうなるでしょ」
ハ「まさしく、『夢幻の如く』やな」


み「生死を決める決断に……。
 全員一致ってのはちょっと考えられないけど」
ハ「異様な精神状態になってたんやろうな」
み「集団催眠みたいな?」
ハ「近いものはあったんやないか」
み「わたしなら、ぜったいひとりで逃げるけど」
ハ「後ろから斬り殺されるわ。
 あ、わかった。
 生き残った飯沼のほかに、ひとり逃げた者がおるんやないか?」
み「飯沼は、なんでそのことを言わなかったわけ?」
ハ「もちろん、白虎隊の恥になるからや。
 で、逃げたひとりの生まれ変わりがあんたや」
み「なんでじゃ!」
ハ「小学校の修学旅行で……。
 男子に囲まれて、模擬刀で斬られたんやろ。
 自刃した白虎隊士の怨念が、裏切り者を斬ったんやな」
み「うーむ、確かに。
 わたしは旅行で、同じところを訪ねたことがないのに……。
 ここだけは、3回目だからね。
 何かに引かれて来るのかも」
ハ「今度は、帰れなくなるやも知れんぞ」
み「言うな!
 そんときは、お主を身代わりに置いていく」
ハ「やめんか!」

ここから鶴ヶ城を見たのか?
み「ここから鶴ヶ城を見たのか?
 どこだ?
 ぜんぜん見えんぞ」
ハ「今日は、ちょっと霞んどるようやな」
み「どこじゃ!」

あそこや
ハ「あそこや」
み「見えんて!」
ハ「視力、6.0くらい必要やな」
み「サンコンか!
 しかし、当時の白虎隊士が……。
 そんなに視力が良かったとは思えないんだけど。
 藩校の日新館に通ってたんだろ。
 薄暗い部屋で素読とかしてたはずだよ」
ハ「だから、見誤ったんやないか。
 城が燃えとると」
み「確かに、集団催眠みたいになってると……。
 ひとりが言い出せば、みんながそう見えるかもね」

鶴ヶ城を臨んでる像やな
ハ「鶴ヶ城を臨んでる像やな」
み「子供じゃないの。
 こんな子供たちが、自刃したんだ……。
 スゴすぎる」
ハ「せやから、お主ひとり逃げたんやろ」
み「脈々とその血を感じるわ」
ハ「また斬られなならんな」
み「明日から、ヘルメット被って生きる」

なんじゃ、このおっさんは
み「なんじゃ、このおっさんは。
 白虎隊士には見えんけど」

仙台育英の創設者のプレート
ハ「ほー。
 仙台育英の創設者のプレートやな。
 会津の出身やったのか」

 このときは、特に何も感じませんでした。
 でも、この年(2022年)の夏の甲子園では、ドラマがあったんです。
 決勝に進んだのは、仙台育英高校と下関国際高校でした。
 下関市は山口県にあります。
 すなわち、新政府側の長州です。
 この決勝戦は一部で、「令和の戊辰戦争」と呼ばれたそうです。
 結果は、仙台育英高校が勝ち、東北勢初の全国制覇を成し遂げました。
 何か、運命的なものを感じましたね。
 会津若松……。
 やはり、深い縁を感じる町です。
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