Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
単独旅行記Ⅶ・総集編(2)
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 この『単独旅行記Ⅶ・総集編(2)』は、『単独旅行記Ⅶ(011)』から『単独旅行記Ⅶ(020)』までの連載を、1本にまとめたものです。


み「わかった。
 まだ、団体旅行が復活してないからだ」
ハ「そう云えば、団体客らしい集団はおらんかったな」
み「団体旅行に組み入れられるようになったら……。
 旅行会社が、ごっそりと席を押さえてしまうんじゃろ」
ハ「とすると、コロナのこの時期こそが……。
 イベント列車に乗車する絶好のチャンスということやな」
み「だな。
 あ、まだ時間あるから、あそこの窓のところで、1枚写真を撮ってやる」

1枚写真を撮ってやる
み「パチリ。
 うーむ。
 これじゃ、死体だな。
 あ、ここなら起きて撮れる」

ここなら起きて撮れる
み「パチリ。
 さてと。
 そろそろ乗るかな」
ハ「こら!
 わしを忘れるな」
み「冗談じゃ」
ハ「お主の場合、冗談に聞こえんわ」

駅弁屋、繁盛してる
み「駅弁屋、繁盛してるでないの」
ハ「やっぱり子供が多いな。
 買わんのか?」
み「駅弁は、あんまり好みではない」
ハ「なんでや?」
み「おかずの味付けが、ことごとく甘いではないか」
ハ「知らんのか?
 砂糖には、抗菌効果があるんや」
み「聞いたことないぞ」
ハ「昔の民間療法では……。
 傷の治療や回復に効果がある“薬”としても使われとったんや」
み「マジ?」
ハ「駅弁は、買ってすぐに食べるとは限らんやろ。
 実際、今買ってる人も、食べるのはお昼やろ。
 これから3時間も、車中に置いておくわけや。
 今は冷房があるから、まだマシやろうが……。
 昔やったら、夏場とか、食べるまでに悪くなってしまいかねん。
 なので、砂糖、酢、醤油なんかを使って、濃いぃ味をつけてるわけや」
み「なるほど。
 勉強になり申した」
ハ「えへん」
み「しかし、何でそんな知識があるんじゃ?」
ハ「さっき気がついたが……。
 どうやらわしは、ネットに繋がるらしい。
 記事を検索してたら出てきおった」
み「おまえは、Wifiか!」
ハ「我が輩や」
み「ご都合主義の極致だな」
ハ「おまえがな」

 ようやく、乗りこみました。

み「取りあえず、最後尾の展望車両を見てみよう」

“鉄”らしき2人に乗っ取られてる
み「あ……。
 やっぱり。
 すでに“鉄”らしき2人に乗っ取られてる。
 しかも、真ん中の椅子に荷物まで置いてる」
ハ「どかしてもらえばいいやろ」
み「発車前から座ってもしょうがないわ」
ハ「あいつらは座ってるではないか」
み「席取りしてるんだろ。
 発車してからも、ずっと座り続けるつもりだと思うぞ。
 後方展望の動画でも撮るんじゃないの。
 そういう輩とは、関わりたくない。
 後で、動いてるときにちょっとだけ覗けばいいや。
 席に行くぞ」

 1列シートは、進行方向右側です。

み「発車前に1枚撮ってやる」

発車前に1枚撮ってやる
み「パチリ」

ハ「挟まっとるぞ!」
み「そうしないと立たせておけないんだから仕方なかろう」

あの照明、レトロでいい味
み「おー、あの照明、レトロでいい味出してるじゃないの」
ハ「なんか、動物がおるな」

なんか、動物がいるな
み「猫か?」
ハ「猫やないやろ」
み「調べてみい。
 ネットに繋がるんじゃろ?」
ハ「えーっと。
 どこにも載っとらんぞ」
み「乗車レポート、いっぱいあるだろ」
ハ「どれも、レトロな装飾としか書いてないな」
み「観察が甘い!」
ハ「わしに言うな」

動き出した
み「あ、動き出した」

み「10:03分。
 定刻だな」
ハ「最初から遅れてどうする」

♪さぁら~ば、にぃい~つよ
み「♪さぁら~ば、にぃい~つよ」
ハ「古る!
 『ラバウル小唄』やないか。
 大正生まれか」


み「こういうのを、教養と云うんじゃ」
ハ「しかし、線路だらけやな」
み「かつての鉄道の要衝を彷彿とさせるではないか。
 兵(つわもの)どもが夢の後じゃな」
ハ「言い過ぎや。
 まだ現役の駅やろ」

さっそく、沿道から見送り
み「さっそく、沿道から見送りじゃ。
子供が、抱っこされて手を振ってくれてる」
ハ「振り替えしてやれ」
み「お~い。
 歯磨けよ!
 宿題やったか!」
ハ「ドリフか!」

急に増えた
み「うわっ。
 急に増えた」
ハ「三脚据えた“鉄”もおるな」
み「今日は天気が良いから、絶好の撮影日和りじゃな」

鉄橋だ~、鉄橋だ~、楽しい~な
み「鉄橋だ~、鉄橋だ~、楽しい~な」
ハ「しかし、エラい濁った川やな。
 公害か」
み「いつの時代の話じゃ。
 田んぼからの排水が流れこんでるんだろ」

単に泥で濁ってるってこと
み「単に泥で濁ってるってこと」
ハ「さすがに橋から手を振ってるヤツはおらんな。
 何川や?」
み「知らん。
 調べてみ。
 ネットに繋がるんじゃろ」
ハ「お~、そうやった。
 ふむふむ。
 どうやら、能代川らしい。
 “のしろがわ”やのうて、“のうだいがわ”と読むみたいや。
 わしらが渡ってるのは、能代川橋梁やな。
 ほー。
 新津の草水町(くそうづちょう)で採掘された石油を……。
 この川で、新潟まで運んでたそうや」
み「新津には確か、『石油の里』っていう施設があったな」
ハ「おー、あったあった。
 ななんと!
 そこでは、平成8年まで石油を採取しとったようや」
 しかし……。
 反則的設定やな、ネットに繋がるというのは」
み「便利、便利。
 確か石油は、朝廷にも献上してたんじゃなかったかな?」
ハ「『日本書紀』に記述があるようやな。
 天智天皇の御代、668年に、“越国から燃土、燃水が献上された”とあるそうや」
み「そうそう。
 草水(くそうづ)という地名は、臭い水が転じたって聞いたぞ」

田んぼが開けてきた
み「おー。
 もう田んぼが開けてきた」
ハ「とても、政令指定都市の風景とは思えんな」
み「新潟市は、食料自給率が60%を超えておる。
 政令指定都市の中では、1位なんじゃ」
ハ「2位は?」
み「知らん。
 調べてみ」
ハ「うーむ。
 2位は、浜松市やな」
み「なん%」
ハ「12%や」
み「ぶっちぎりじゃないか」
ハ「ぶっちぎりのド田舎ってことやないか」
み「喝!
 豊かな市ということじゃ。
 いざとなったら鎖国できる」
ハ「アホか」

最初の停車駅
ハ「お、最初の停車駅やな」
み「10:20分。
 定刻じゃ」
ハ「五泉(ごせん)とは、曰くありげな地名やな」
み「五つの泉があるんでないの。
 調べてみ」
ハ「えーっと……。
 どうやら、諸説あるようやな。
 五つの泉説もあるぞ」
み「えへん」
ハ「五つの川説もある。
 いずれにしても、水が豊富な地域なんやろ」
み「そうそう。
 五泉は、織物のニットで有名だった」
ハ「豊富な水資源を利用し、250年前から絹織物の生産が始まったとある。
 おー、確かに。
 ニットの生産枚数および生産額の国内シェア、日本一やそうや」
み「えへん」
ハ「お主が威張ってどうする」

また川じゃ
み「また川じゃ」
ハ「さっきより大きいな。
 なに川や?」
み「知らん。
 調べて」
ハ「またかいな。
 ふーむ、どうやら早出川(はやでがわ)のようやな。
 一級河川や。
 ほう。
 阿賀野川の左支流とある。
 その名のとおり、水害を頻繁に起こす川やったようや。
 しかし近年は、蛇行部分を短縮する水路が作られるなどの河川改修が進み……。
 だいぶ大人しくなったようやな。
 今では、魚つりや夏場の水遊びなど……。
 レクリエーションの場として親しまれておるとな」
み「めでたしめでたし」

山が近くなってきた
み「山が近くなってきたな」
ハ「山あり川ありで、いいところやないか」
み「確かにな。
 でも、冬は大変だぞ。
 特に田んぼ道。
 遮るものが何ひとつない。
 そこを地吹雪が渡るんじゃ。
 わたしも1度、そんな地吹雪の中で……。
 ホワイトアウトに見舞われたことがある。
 上下左右、真っ白になるのよ。
 窓の外、ぜんぶ白。
 もちろん、頭も真っ白。
 道路の路肩には、除雪された雪が積まれてるから……。
 脇に寄せて車を停めることも出来ない。
 かといって、道路上で止めるわけにはいかない。
 ハザードなんか出したって、見えるわけないんだから。
 後ろから大型トラックに追突されたら、それこそ一巻の終わり」
ハ「よく生きておったな」
み「日ごろの行いのおかげよ」
ハ「そんなら死んでたはずやが」
み「なにを!
 でも翌日、その道路を通ったら……。
 田んぼに車が1台、突っこんでた。
 ちょうど、道路がカーブしてるところ。
 カーブが見えないで、真っ直ぐ田んぼに突っこんだんだね。
 でも、ま、命までは取られないでしょ、雪なら」
ハ「道路上で停めるより、安全かもしらんな」

耕作放棄地かな
み「これは、耕作放棄地かな」
ハ「これからどんどん増えていくんやろな、こういうところが」
み「野生動物の、山からの侵入経路になってしまうな」

間が、また自然に飲みこまれていく
ハ「ここもそうやな」
み「人間が、また自然に飲みこまれていくのかもしれん」
ハ「諸行無常や」
み「あ、2つめの駅だ」
ハ「咲花駅やな」
み「ホームが左側だな。
 ちょっくら失礼つかまつって、左の座席に移ろう」
ハ「空いてて良かったやないか」

あの山、地滑りかな
み「あの山、地滑りかな。
 右に旅館みたいのが見える。
 何旅館だ?
 調べてちょ」
ハ「使い倒すな」
み「WiFi無料!」
ハ「どうやら、咲花温泉の『望川閣(ぼうせんかく)』やな。
 川を望む御殿ということや」
み「早出川?」
ハ「知らんのか。
 地元民やろ」
み「咲花温泉なら、五泉市じゃ。
 地元じゃないわい」
ハ「阿賀野川や」
み「見えんぞ」
ハ「あの旅館の向こうが、川や」
み「あ、それなら、正面の山が崩れても大丈夫か」
ハ「わからんぞ。
 土砂が、大量に川に落ちこめば……。
 津波が起きるかも知れん。
 山は、宝珠山のようやな。
 標高、559メートル。
 スカイツリーより、75メートル低い」
み「いらんこと言わんでいい」

トンネルじゃ
み「トンネルじゃ」
ハ「見ればわかるわ」
み「グリーン車の窓は開かないけど……。
 普通車は、窓が開いたよな。
 閉め忘れたやつがいるんじゃないか。
 煙が入って大変だぞ」
ハ「聞いとらんのか。
 さっきから、トンネルが続くから窓を閉めて下さいと、さんざん放送してたやないか」
み「おばさんの集団とかだと、ぜったいに聞いてないと思うぞ」
ハ「お主は、ひとりでも聞いてないではないか」
み「わたしの耳は、風通しがいいのじゃ」
ハ「開き直るな」

何川だ?
み「何川だ?」
ハ「少しは考えんかい。
 阿賀野川に決まっとるやないか。
 これから上流の阿賀野川は、くねくねと蛇行しとる。
 川に沿って線路を引いてたんでは、回り道の連続や。
 なので、蛇行部をショートカットするために……。
 これから幾度も川を渡ることになる」

何駅だ?
み「何駅だ?」
ハ「三川や」
み「おー、もう三川なのか。
 10:56分、定刻だな。
 えー、新津駅を出てから、もう53分も経ってるんだ。
 旅の時間は、あっという間に経っていくな。
 通勤で53分も乗ったら、うんざりするんだろうけどね」
ハ「市町村はどこになる?」
み「東蒲原郡阿賀町じゃ。
 現在、東蒲原郡には、阿賀町しかない。
 東蒲原郡の津川町、鹿瀬町、三川村、上川村の4町村が合併して出来た町。
 何年だったかな。
 調べて」
ハ「2005(平成17)年やな」
み「4市町村も合併したのに……。
 人口が少なくて、市になれなかった。
 なので、たったひとつの町しかないのに……。
 東蒲原郡が残ってる。
 今の人口、どれくらいなのかな。
 調べてちょ」
ハ「9千人ちょっとみたいやな。
 げげ。
 面積が、952.89km2もあるやないか。
 東京23区は……。
 622km2やな。
 1.5倍はあるぞ」
み「そこに、9千人しか住んでないわけよ。
 人口密度、どのくらい?」
ハ「9.9人やな。
 1平方キロで」
み「1辺1キロメートルの四角の中に、人が10人しかいないってことか。
 猿の方が多いかも」
ハ「東京23区の人口密度は、1平方キロで1万5千人を超えとる。
 1500分の1やな」

さっそく、阿賀野川を渡ったな
み「さっそく、阿賀野川を渡ったな」
ハ「こういう景色も……。
 冬は一変するんやろうな」
み「然り。
 この景色を見たら、移住したくなるかも知れないけど……。
 必ず、冬を体験してから決断してほしい。
 除雪に、どれほどの時間と体力を奪われるものか……。
 ぜったいに身体で実感すべき。
 雪下ろししなけりゃ、家の戸が開かなくなるんだからね。
 ヘタすりゃ、潰れるよ。
 どんなに体調が悪くても、除雪に出なきゃなんない。
 今は出来ても、10年後、20年後はどうか。
 そういうことも勘案すべき」
ハ「エラい脅すやないか」
み「新潟の雪は、湿って重いからね。
 除雪は、ほとんど土木作業と思ってもらいたい。
 体力に自信のない人は、除雪機を買うべきです」
ハ「いくらくらいするんや?」
み「検索!」
ハ「結局、わしか。
 えーっと。
 『Honda除雪機』というページがあったぞ。
 けっこうするもんやな。
 30万から170万か」
み「中古市場もあると思う」

おー、川が広くなった
ハ「おー、川が広くなった」
み「しかし、対岸の家……。
 阿賀野川の水かさが増えたら、怖いだろうね。
 ヘタすりゃ、背後の山も崩れかねないし。
 わたしなら、とても住めんわ。
 そのリスクを呑めるほどのパラダイスならまだしも……。
 冬は、大雪でしょ」
ハ「それが日本人の営みと云うものよ。
 日本の75%は山地やからな」
み「その点、新潟市は、オランダ並みに真っ平らだからね。
 景色は平板そのものだけど……。
 土砂災害のリスクだけは、ゼロってこと」

谷やな
ハ「谷やな。
 こんな地形が続くわけか」
み「山が崩れたら、道路が押し流されて……。
 集落は孤立してしまう」
ハ「さっきから、後ろ向きな発言ばっかしやな。
 もっと、景色を愛でるという姿勢が取れんもんか」
み「わたしは、悪いことが真っ先に頭に浮かぶの」

あ、津川駅だ
み「あ、津川駅だ。
 よし、降りるぞ」
ハ「降りる?」
み「ここは、15分停車なの。
 機関車に給水したり、石炭の山の上で、なんか作業するみたい。
 絶好の写真スポットよ。
 あ、スリッパのまんまだった」
ハ「なんでスリッパなんや?」
み「靴脱ぐと楽でしょ。
 ホテルの客室は今、どこも使い捨てのスリッパになってる。
 シングルルームでも、2足備えてくれてるとこもある。
 そういうとこのを1足、もらって帰って……。
 次の旅行の車内履きにするのよ」
ハ「床に新聞敷けばいいやないか」
み「それじゃ、昭和のジサマだろ。
 そういえば、うちの祖父ちゃんは……。
 ズボンも脱いで、ステテコ姿になっとった」
ハ「仕方あるまい。
 昔は、冷房なんか入ってなかったんやから」
み「昔って、埴輪時代は、電車さえなかったじゃないの」
ハ「埴輪時代なんてのがあるか。
 古墳時代やろうが。
 そのころは馬やから、涼しいもんやった。
 オープンカーやな」
み「しょうもない。
 さ、降りるぞ」

見よ、我が愛車の勇姿を
み「見よ、我が愛車の勇姿を」
ハ「何が愛車や」
み「みんな、ぞろぞろ階段を上がっていくな。
 どうやら、駅の外に出てもいいみたいじゃないの。
 座りっぱなしでお尻が痛いから、ちょっくら運動しよう」

阿賀町のポスターがあった
み「阿賀町のポスターがあった。
 狐の嫁入り行列のだな」
ハ「確か、花嫁と花婿が、舟で川を渡るんやなかったか?」
み「然り!
 滔々と雪解け水を湛えた阿賀野川を、狐火の燃える麒麟山に向けて渡って行くんじゃ。
 このシーンは夜だから、いっそう幻想的なのよ。
 舟に篝火を焚いてね」
ハ「ほんとの夫婦なのか?」
み「当たり前じゃ。
 公募で選ばれるの。
 しかしわたしは、頼まれてもご辞退したい。
 白無垢で舟から落ちたら、まず助からないからね」
ハ「誰が頼むんや。
 そもそも花婿がいないやないけ」
み「やかまし!
 しかし、この狐の嫁入り行列……。
 コロナのせいで、2020年から、3年連続で中止になっとる」
ハ「来年はやれるやろ。
 いや、やらなきゃならんの」
み「そのとおり。
 このままじゃ、日本の地方は、ずぶずぶと沈んでいってしまう」

狐もどことなく寂しげじゃ
み「ほら、狐もどことなく寂しげじゃ」
ハ「誰の作品や?」
み「駅員さんじゃないの」
ハ「そんなアホな」

いい駅やないか
ハ「いい駅やないか」
み「冬には来たくないけどね」
ハ「またそういう後ろ向きな……」
み「わたしは常に、悪いときの光景が目に浮かぶの。
 よし戻るぞ」
ハ「もうか!
 駐車場に出ただけやないか」
み「15分しかないの。
 もう、だいぶ経ったわ。
 乗り遅れたら、全計画がパーだからな」

蒸気機関車って、ほんとに生き物っぽい
み「よーし。
 ここまで来れば、もはや安心。
 しかし蒸気機関車って、ほんとに生き物っぽいよね」
ハ「石炭を食べて、ぜいぜい言いながら走るからの」
み「よし、階段登って、上からも撮ろう」
ハ「今、下りてきたばっかりやないか」
み「運動、運動」

空力を無視した無骨な形状
み「かっちょえー。
 空力を無視した無骨な形状。
 最高じゃ」
ハ「褒めとんのか?」
み「当たり前じゃ。
 よし、もうそろそろ時間だ。
 乗るぞ」
ハ「忙しいやっちゃ」
み「あ、後ろの展望室が空いてる」
ハ「さっきの“鉄”は、どうしたんやろ?」
み「ひょっとしたら、津川までの切符しか買ってなかったりして。
 行ってみよう」

線路しか見えん
み「うーむ。
 線路しか見えん。
 こりゃ、飽きるわな。
 よし堪能した。
 席に戻るぞ」
ハ「忙しない!
 もう少し落ち着けんのか」
み「旅先の日本人の習性じゃ。
 よーし、座った。
 さあ、出発進行!」
ハ「おまえが言うな」

いきなり廃屋
み「出たー。
 いきなり廃屋!」
ハ「強烈やな」
み「こりゃ、今年の冬、雪で潰れるな」
ハ「今の地方の現状を、眼前に突きつけられたようや」

変わらないのは、水の流れだけじゃ
み「変わらないのは、水の流れだけじゃ」
ハ「人間の営みは、結局、自然には勝てないってことやな」
み「それでいいんじゃないの。
 負けて滅びて行けば。
 壊してしまうより、なんぼかマシじゃろ」

どひゃー
み「どひゃー」
ハ「喘いでるの」
み「トンネルじゃないから、窓開けてた人、結構いるんじゃないのか。
 さてここで問題です」
ハ「いきなりなんや?」
み「SLの客車で、向かい合わせに座ってた2人。
 トンネルで窓を閉め忘れてて……。
 慌てて閉めたものの、煙がけっこう入ってしまった。
 周りに謝りながら、ようやくトンネルを抜けた。
 すると……。
 ひとりが突然、顔を擦りだした。
 擦った手の平を見てる。
 でも、手の平も顔も、真っ白。
 ところがそれを不思議そうに見てるだけの向かい側の座席の男は……。
 顔が、煤で真っ黒。
 何で、顔の白い人が顔を擦り、顔の黒い人は涼しい顔をしてたのでしょう?」
ハ「知るかい」
み「ちょっとは考えんか!
 いいか。
 顔の黒い人は、進行方向を向いて座ってて、煙をまともに浴びたの。
 トンネルを出て、その人の顔を見た反対座席の男は……。
 自分の顔もそうなってると思って、顔を擦ったの。
 黒い顔の人は、向かい側の白い顔の人を見てるから……。
 自分の顔が真っ黒けだとは思わなかったってわけ」
ハ「ナゾナゾの答えが長すぎやろ!」

車内が靄っておる
み「車内が靄っておる。
 やっぱり、窓、閉めてなかったヤツがいるな」
ハ「仕方なかろ。
 トンネルでもないのに、予期できんわ」
み「子供には、いい思い出になるかもね。
 でも、普通車に乗るときは……。
 白い服は止めた方がいいかも」
ハ「あと、白塗りの化粧な」
み「そんなヤツがいるか!」

また川を渡った
み「また川を渡った」
ハ「桃源郷のようやな」
み「夏はな」
ハ「またそれか」

日出谷駅だ
み「日出谷駅だ。
 11:42分。
 ここってもう、福島県?」
ハ「まだ阿賀町や。
 しかしここが、新潟県最後の駅やな」
み「ここでは確か、ホームで駅弁が買えたんじゃなかったかな?
 『とりめし』って駅弁」
ハ「誰もおらんぞ」
み「調べて」
ハ「ふむふむ。
 どうやら、10年ほどまえに消滅しとるようや」
み「なして?」
ハ「店主の高齢化のようやの」
み「後継者がいなかったのかね?」
ハ「20個限定やったらしい。
 列車のドアが開くと、売場まで競争だったようや。
 それでも、700円やったらしいから、1万4千円にしかならん」
み「原価を引いたら、小遣い銭しか残らんな。
 それじゃ、後継の現れようがないわ。
 そんなに競争になるほどなら、単価を上げればいいのに。
 1,500円くらいにしても、十分に売れたんじゃないの?」
ハ「そういうことが出来ないお人やったんやろうな。
 あんたと違ごて」
み「やかまし。
 弁当の話が出たら、急にお腹が空いてきた。
 売店に行ってみよう」
ハ「昼は食べないんやなかったんか?」
み「がっつり食べる気はないよ。
 アテだけ」
ハ「ん?
 アテということは……。
 酒を飲もうっちゅうんかい?」
み「さいなー」
ハ「何語や」

熊が出そうなところだな
み「熊が出そうなところだな」
ハ「車やないと、怖くて通れんな」
み「だから田舎は、免許返納できんのよ」
ハ「返納したら、熊に食われるか」
み「さいなー」
ハ「やめんか、それ」

 わたしが撮った売店の写真はありませんので……。
 ↓JRグループの『トレたび』さんのサイトから拝借しました(こちらのページです)。
『ばんえつ物語』売店

今日一番の、いい眺めかもしれん
み「うーむ。
 今日一番の、いい眺めかもしれん」
ハ「変わった銘柄のビールやな。
 初めて見た」
み「さもありなん。
 これは、新潟限定ビールなの。
 『風味爽快ニシテ』。
 一度、飲んでみたいと思ってたのよ。
 念願が叶った」

缶の裏に、いろいろ書いてあるぞ
み「おや。
 缶の裏に、いろいろと書いてあるぞ。
 なんと!
 サッポロビールの生みの親は、新潟県人じゃと。
 知らなんだ。
 与板の人だったのか」
ハ「“よいた”ってどこや?
 酒飲みばっかりの土地で、“酔うた”か?」
み「アホたれ。
 昔の、三島郡(さんとうぐん)与板町。
 今は、長岡市に合併されてる。
 ふむふむ。
 その与板出身の中川清兵衛という人が、ドイツでビールの修行をして……。
 そんでもって日本に帰って作ったのが、『札幌ビール』だって」
ハ「なんで札幌なんや?」
み「知らん。
 もう、飲むぞ。
 温くなってしまうわ」
ハ「その茶色いのはなんや?
 パンか?」
み「何で、ビールのアテにパンを食うんじゃ。
 胸焼けするではないか。
 パッケージを開ければ、匂いでわかるじゃろ。
 どうじゃ?」
ハ「思いっきり、魚やな」
み「あたぼうよ」
ハ「何を威張っとるんや」
み「じゃ、まずこれを容器に移してと。
 さっき、車内で食べますかって聞かれたときは、いったい何ごとかと思ったわい。
 ひょっとして、煙突から出る煙でスモークして食べれって言われるのかと思った」
ハ「そんなわけあるかい」
み「そしたら、このスチロールの容器と割り箸とお手拭きをくれたわけ。
 親切じゃないの、JR東日本。
 あ、食べる前に記念撮影しよう」

じっとしとれよ
み「撮るぞ。
 じっとしとれよ」
ハ「ビールに挟まれて冷たい!
 早よ撮れ」
み「パチリ。
 さて、食うぞ。
 パクリ」
ハ「美味いやないけ。
 鮭やな」
み「味が伝わったか」
ハ「おう。
 もう飲みこむのか。
 もったいない」
み「わたしは早食いなの」
ハ「これは、ただ焼いただけやないな」
み「レシートに、商品名が書いてあるんじゃないのかな。
 あったあった」

レシートが残ってました
↑レシートが残ってました。

み「『鮭の焼き漬け』とある」
ハ「焼き漬けって、どうするんや?」
み「即、検索!」
ハ「またわしか。
 お、なんと、農林水産省のページに出ておった(こちら)。
 村上市の郷土料理やな。
 『煮切った酒とみりんに醤油を加えた醤油だれに、白焼きにしたサケを熱いうちに漬け込む』とある。
 これは、美味くないわけないな」
み「さて、ビールをいくぞ。
 グビリ」
ハ「ほぉ~」
み「何か、変わった味だな。
 爽快なのか?」
ハ「わしに聞くな。
 けっこう美味いやないか」
み「確かに、旅先で1本飲んでみるにはいいかもね。
 でも、毎日飲むビールとしては、ちょっと違うかも」
ハ「どう違うんや」
み「値段が」
ハ「そっちか」
み「わたしが普段飲んでるのは、第3のビールだしね。
 アサヒ オフ
 アルコール度数、3%~4%」
ハ「薄っ!」
み「爽快どころか、ほぼ無味」
ハ「味気な」
み「テレワークの昼飲みにはピッタリなんじゃ」
ハ「仕事中に飲んどるのか」
み「さいなー」
ハ「開き直るな」

のどかな良い風景じゃ
み「おー。
 のどかな良い風景じゃ。
 山も近いし。
 山が緑色に見えるとこは、やっぱりいいな」
ハ「山は普通、緑色やないのか?」
み「わたしの住んでるあたりでは、薄い水色だね。
 遠いから」
ハ「遠山さんか」
み「なんだそれ。
 でもここら、稲はまだ植えたばっかりみたいだね。
 コシヒカリじゃないのかな?」
ハ「それより、何も植えられてない田んぼが多いんやないか。
 水も入ってへんから、これから植えるわけやないやろ」
み「耕作放棄地か。
 やがて、すべての田んぼがそうなって……。
 向こうの山と繋がる原野に戻るんだろうな」
ハ「諸行無常や」

今が、こんな風景を見られる最後の時代かもね
み「今が、こんな風景を見られる最後の時代かもね。
 なんまんだぶ」
ハ「唱えるな!」

あ、野沢駅だって
み「あ、野沢駅だって。
 するとここはもう、福島県ってことか」
ハ「標識からすると、西会津町のようやな」

野沢駅、とうちゃ~く
み「とうちゃ~く。
 12:16分。
 2分停車ですので、お降りにならないで下さい」
ハ「誰に言うとんのや」

あの禿げ山、なんだろ
み「あの禿げ山、なんだろ?」
ハ「道みたいなのが付いとるな」
み「親近感が湧くだろ」
ハ「何でや?」
み「禿げ同士で」
ハ「やかましい!
 わしの頭に毛があったら、返ってヘンやないか」
み「ははは。
 想像したら、笑っちまった」
ハ「つくずく失敬なやっちゃ」

上流なのに、スゴい水量だね
み「上流なのに、スゴい水量だね」
ハ「雪解け水やろ」
み「これを見ると、河口付近の川幅も納得出来る。
 対岸が、霞んで見えるからね」
ハ「信濃川と違うて、阿賀野川には分水路がないからの」
み「水が全部、河口まで来るわけだからね。
 中国からの留学生なんか、阿賀野川河口あたりの風景を見ると……。
 故郷を思い出すんだって。
 大陸的な景色なんだろうな。
 昔、『Mikiko's Room』をまだやってなかったころ……。
 ゴールデンウィークには、自転車で阿賀野川の橋を渡ったりしてた。
 柵に囲まれてても、下を見ると怖かったよ。
 もの凄い水量で」
ハ「さもありなん」

なにしてんだ、あれ?
み「なにしてんだ、あれ?」
ハ「ボートに、人が2人ずつ乗ってるようやな」

釣りか?
み「釣りか?」
ハ「違うやろ。
 揃いの制服っぽいぞ」

何か看板が出てる
み「あ、何か看板が出てる。
 読めん……。
 ズームして」
ハ「そんなこと……。
 できたりして」

福島県営荻野漕艇場
み「『福島県営荻野漕艇場』か。
 実際、ボートもいるではないか」
ハ「さっきの並んだボートは……。
 スタートラインやないかな」

 ↓喜多方市のページにあった『通常練習時のコース図』です(出典)。
福島県営荻野漕艇場・通常練習時のコース図

み「どうせなら、競艇場の方が儲かったのに」
ハ「またそういうことを」

山都駅じゃー
み「山都駅じゃー。
 12:40分。
ハ「ここは蕎麦が有名やな」
み「10分停車だな。
 駅そばがあれば、食べれるかも。
 検索!」
ハ「事前に調べてこいや。
 ……(調べ中)。
 残念ながら、構内にはないようやな。
 近くに、『そば伝承館』というのがあるが……。
 往復だけでも、10分はかかりそうや」
み「無念!
 じゃ、もう1時だし、昼食にしようかな」
ハ「さっき、鮭、食べたやないけ」
み「この昼食には、別の目的があるのじゃ」

昼食にしようかな
み「ジャジャーン」
ハ「これが昼食かい?
 なんとも味気ない」
み「これから、ロキソニンを飲むの。
 歩き始めてから、腰痛が出たら嫌だから。
 といって、単独で飲んだら、胃が痛くなるかも知れん。
 なので、ゼリー飲料と一緒に飲むってわけ。
 しかし、鎮痛剤なのに……。
 なんで胃が痛くなるのかわからん。
 よし、これで準備はオッケー」

撮り鉄がいっぱいいる
み「おー、撮り鉄がいっぱいいる」
ハ「最高の撮影日よりやな」
み「高いところに向けて撮るから……。
 人の頭が邪魔になったりもしないね」
ハ「場所取りがいらんちゅうわけやな。
 最高の撮影ポジションでもあるってことや」
み「それにしては、人が少ない気がするけど」
ハ「今年の運行が始まって、2ヶ月くらい経つからやろ。
 運行開始のころは、もっと盛況やったんちゃうんか」
み「ひょっとしたら、桜も一緒に撮れたかも知れないしね」

緑が目に染みるわい
み「緑が目に染みるわい」
ハ「まさに万緑やな」
み「歯が生えそうじゃ(『万緑の中や吾子の歯生え初むる(中村草田男)』)」
ハ「アホか」

青い屋根と赤い屋根の民家は……
み「真ん中に見える、青い屋根と赤い屋根の民家は……。
 昔、茅葺きだったんじゃないのかな」
ハ「そんな形やな」
み「でも、人は住んでるのかね?」
ハ「なんでや?」
み「手前の田んぼに生えてるのは、雑草だろ?」
ハ「耕作放棄地か」
み「なんまんだぶ」
ハ「唱えるな!」

ここは見事な水田じゃ
み「おー、ここは見事な水田じゃ」
ハ「植えたばっかりみたいやな」

ここはこれから田植えだ
み「こっちは、これから田植えだ。
 新潟より、1ヶ月近く遅いね」
ハ「本来、今ごろが普通なんやないか?」
 唱歌の『夏は来ぬ』に、早乙女が“玉苗植うる”という歌詞があるやないか」
み「新潟の田植えは、ゴールデンウィーク中で……。
 まだ水が冷たいからね。
 でも、ゴールデンウィークに田植えをするのには、切実な理由があるわけよ」
ハ「わかった。
 兼業農家が多いから、田植えで会社を休みにくいんやろ」
み「それなら、土日に植えればいいだけじゃん。
 ゴールデンウィークなら、手伝いが来てくれるから。
 東京の子供たちが、孫を連れて帰省してくるわけ」
ハ「なるほど。
 孫にはいい体験になるの」
み「今は、田植え自体は機械になってるけど……。
 実は、田植えで一番大変な作業は、苗箱を田植機に載せるまでの行程。
 苗代から苗箱を軽トラに積みこみ、田んぼまで運び……。
 そして、田植機にセットする。
 この重労働は、お年寄りにはそうとうキツいはず。
 若い人の手を借りたいわけよ」
ハ「もし、苗の運び手がいてくれたら……。
 おとっつぁんは、田植え機に乗ってるだけでいいってことやな」
み「毎日でも田植え出来るよ」
ハ「ははは」

あ、もう喜多方だ
み「あ、もう喜多方だ。
 13:06分。
 2分停車なので、降りてラーメンは食べられません」
ハ「誰に言うとんのや」
み「喜多方ラーメン、食べたことある?
 あ、埴輪時代にはないか」
ハ「古墳時代やと言うとるやろ!」
み「そもそも、喜多方ラーメンって、どういうラーメン?
 はい、検索」
ハ「わしは、埴輪検索か」
み「それ、森田健作のしゃれのつもり?」
ハ「喜多方ラーメンはな……」
み「スルーしたな」
ハ「Wikiを丸読みするぞ(出典)。

 『スープは醤油味の透明な豚骨スープが基本で、あっさりした味わいである。
 豚骨のベースと煮干しのベースを別々に作り、それらをブレンドしたものを提供する店もある。
 醤油味がベースだが、店によっては塩味や味噌仕立てなど千差万別である。
 麺は「平打ち熟成多加水麺」と呼ばれ、幅は約4mmの太麺で、切刃番手は12番および14番が使われる。
 独特の縮れがあり、食感は柔らかい。
 具はチャーシューを主として、ねぎ、メンマ、なるとなどが一般的な構成である。』

 ってことや」
み「なんか、普通の醤油ラーメンじゃないの?」
ハ「不満か?」
み「わたしは、塩ラーメンが好きなの。
 頼むのは、たいていタンメン」
ハ「もうちょっと、グルメな人間に憑依したかったわい」
み「なんか言った?」
ハ「スルーしなはれ」

あれ、何の花だろ?
み「あれ、何の花だろ?」
ハ「サクラやないわな」
み「当たり前じゃ。
 ハナミズキに似てるけど……。
 季節が1ヶ月くらい違うし。
 あ、そうか。
 ヤマボウシか。
 ベニバナヤマボウシ。
 それなら、今ごろ咲いててもおかしくないわ。
 でも、あんなとこに単木で植えて、夏、大丈夫なのかね」
ハ「元気そうやないか。
 夏に弱い木なのか?」
み「ヤマボウシは、ハナミズキの仲間なの。
 ていうか、ほとんど同じ木なんじゃないかな。
 花期がちょっとズレるくらいで。
 で、新潟でも一時期、ハナミズキを街路樹に使うのが流行ったのよ。
 でも、結果は思わしくなかった」
ハ「なんでや?」
み「街路っていう環境は、かなり過酷なのよ。
 夏は、カンカン照りで根元まで陽があたる。
 冬は、寒風の通り道。
 ハナミズキってのは、木の性質で云うと、モミジなんかと近いのよ。
 山で、ほかの木と一緒に生えてるから……。
 根元に陽があたることも、風が裾を吹きすぎることもない。
 街路樹にイロハモミジを植えて、育つと思う?」
ハ「よーわからんが、そぐわん感じはするわな」
み「今はもう、ハナミズキが新しい街路に植えられてるとこは見なくなったね」

何かの工場みたいだね
み「何かの工場みたいだね。
 製粉工場かな?
 ラーメンの」
ハ「これは、生コンやないのか?」
み「検索……。
 やっぱしなくていい。
 あんまり興味が湧かない」
ハ「なんやそれ」
み「架線があるね。
 磐越西線で電化されてるのは……。
 喜多方から郡山までだからね。
 でも、喜多方から会津若松までは……。
 電車を使用した定期列車は設定されてないんだって」
ハ「詳しいやないか」
み「磐越西線は、新津が終点だけど……。
 実際は、わたしの乗る信越本線に乗り入れて、新潟駅まで行ってる。
 なので通勤では、磐越西線のディーゼル車に乗ることもあるわけ。
 でも去年だったかかな、新しい車両が走るようになったんだけど……。
 発車するときのエンジン音が、旧型車より遙かに大きいのよ。
 最初に聞いたときは、ぶったまげた。
 あれは、なんでなのかね?」
ハ「知らんわ」

塩川(しおかわ)駅着
み「塩川(しおかわ)駅着。
 13時18分。
 ここが最後の停車駅になります。
 2分停車ですから、列車の外に出ないで下さい」
ハ「わかっとるわ」

上流っぽい景観になってきたね
み「おー。
 上流っぽい景観になってきたね。
 ていうかこれ、阿賀野川?
 今度は、即、検索」
ハ「どうやら、日橋川(にっぱしがわ)のようやな。
 日本の“日”に、ブリッジの“橋”や。
 猪苗代湖から流れ出る、唯一の川だそうや。
 阿賀野川に合流しとる」

ついに会津若松に、到着しました~
み「ついに会津若松に、到着しました~。
 13時35分。
 新津を出てから、3時間32分。
 こんなに長く汽車に乗ったのは、学生時代以来じゃ」
ハ「どこに行ったんや」
み「帰省しただけ。
 鈍行を乗り継いで」
ハ「ご苦労なこっちゃ」
み「お金は無かったけど、時間はあったからね。
 山の上で1時間くらい停車したり……。
 なんとも、のどかな旅だった。
 2度としなかったけど」
ハ「1度すれば十分や」
み「さ、降りるぞ」
ハ「こら!
 わしを忘れるな!」
み「わざとだったりして」
ハ「腹ん立つ!」

わが『ばんえつ物語』号の勇姿
み「見よ、わが『ばんえつ物語』号の勇姿」
ハ「何が“わが”や」

これで見納めじゃ
み「これで見納めじゃ。
 なんまんだぶ」
ハ「拝むな!」
み「架線がなければ、もっとすっきり撮れるのになぁ」
ハ「撮り鉄みたいなこと言うやないか」
み「いっぱい撮ってるじゃないか」
ハ「車内から撮るのも、“撮り鉄”言うんか?」
み「いいの!」
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