2022.8.21(日)
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夫を会社に送り出した美咲は……。
ダイニングテーブルの椅子に腰掛け、窓の外を見あげていた。
なにを見ているというわけではない。
窓の外に広がるのは、灰色の雨雲だけだった。
ときおり、カラスが横切る。
洗濯をしようかと立ちあがりかけたが……。
再び腰を沈めた。
ここのところしばらく、絵里子からの呼び出しが途絶えていた。
そろそろ電話が架かってきてもおかしくないころだ。
絵里子から呼ばれたら、何を置いても応じなければならない。
さもないと、絵里子の機嫌が悪くなる。
何をされるかわからない。
洗濯を中断して出ることになるかも知れないのだ。
やはり洗濯はやめておこう。
掃除でもしようか。
美咲は、シンク下の収納からゴミ袋を取り出した。
各部屋を回り、ゴミを集めていく。
寝室のゴミ箱の中身を袋に移すとき、ティッシュに丸められたものがぼたりと落ちた。
ティッシュには、コンドームが包まれている。
夕べ、夫との性交で使ったものだ。
これをゴミに出すときは、いつもためらわれる。
燃えるゴミとして出していいのはわかっていた。
縛ってあるので、臭いが漏れることもないはずだ。
しかし……。
精液の残ったコンドームというのは、究極にデリケートなプライベートだ。
知り合ったころの絵里子からは……。
他家の出したゴミをあさる住人がいることを教えられていた。
ゴミには、その家の日常生活が詰まっている。
ゴミを調べることで、その家の中を覗き見る歓びを感じているのだそうだ。
はっきり言って、変質者だ。
もちろん美咲は、出し主が特定できるようなゴミの出し方はしていない。
宛先が入ったダイレクトメールなどは、必ずシュレッダーにかけてから出している。
なので、コンドームの入ったゴミを出しても……。
出すところを目撃されない限り、美咲家のものだとはわからないはずだ。
しかし、わからないにしてもだ。
もしゴミ袋が開けられ、コンドームが拾いあげられるかと思うと……。
身の毛がよだつ思いがした。
コンドームの中身は、夫のものだ。
しかし、その外側の表面には、美咲の体液が付着しているはずだ。
それを、誰かが触るのだ。
考えるだけで、二の腕が鳥肌立った。
でも、ゴミに出さないわけにはいかないではないか。
あんなもの、家には貯めておけないのだから。
美咲は結局、いつもしていることをこの日も始めた。
夫を会社に送り出した美咲は……。
ダイニングテーブルの椅子に腰掛け、窓の外を見あげていた。
なにを見ているというわけではない。
窓の外に広がるのは、灰色の雨雲だけだった。
ときおり、カラスが横切る。
洗濯をしようかと立ちあがりかけたが……。
再び腰を沈めた。
ここのところしばらく、絵里子からの呼び出しが途絶えていた。
そろそろ電話が架かってきてもおかしくないころだ。
絵里子から呼ばれたら、何を置いても応じなければならない。
さもないと、絵里子の機嫌が悪くなる。
何をされるかわからない。
洗濯を中断して出ることになるかも知れないのだ。
やはり洗濯はやめておこう。
掃除でもしようか。
美咲は、シンク下の収納からゴミ袋を取り出した。
各部屋を回り、ゴミを集めていく。
寝室のゴミ箱の中身を袋に移すとき、ティッシュに丸められたものがぼたりと落ちた。
ティッシュには、コンドームが包まれている。
夕べ、夫との性交で使ったものだ。
これをゴミに出すときは、いつもためらわれる。
燃えるゴミとして出していいのはわかっていた。
縛ってあるので、臭いが漏れることもないはずだ。
しかし……。
精液の残ったコンドームというのは、究極にデリケートなプライベートだ。
知り合ったころの絵里子からは……。
他家の出したゴミをあさる住人がいることを教えられていた。
ゴミには、その家の日常生活が詰まっている。
ゴミを調べることで、その家の中を覗き見る歓びを感じているのだそうだ。
はっきり言って、変質者だ。
もちろん美咲は、出し主が特定できるようなゴミの出し方はしていない。
宛先が入ったダイレクトメールなどは、必ずシュレッダーにかけてから出している。
なので、コンドームの入ったゴミを出しても……。
出すところを目撃されない限り、美咲家のものだとはわからないはずだ。
しかし、わからないにしてもだ。
もしゴミ袋が開けられ、コンドームが拾いあげられるかと思うと……。
身の毛がよだつ思いがした。
コンドームの中身は、夫のものだ。
しかし、その外側の表面には、美咲の体液が付着しているはずだ。
それを、誰かが触るのだ。
考えるだけで、二の腕が鳥肌立った。
でも、ゴミに出さないわけにはいかないではないか。
あんなもの、家には貯めておけないのだから。
美咲は結局、いつもしていることをこの日も始めた。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2022/08/21 06:11
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今日は何の日
8月21日は、『林火忌』。
大正、昭和時代の俳人だった大野林火(おおの りんか)、1982(昭和57)年の忌日。
秋の季語となってます。
上記の記述は、こちら(https://zatsuneta.com/archives/10821a3.html)のページから転載させていただきました。
さらに同じページから、「大野林火について」を引用させていただきます。
大野林火は、1904(明治37)年3月25日、神奈川県横浜市日ノ出町に生まれました。
本名は、大野正(おおの まさし)。
1927(昭和2)年、東京帝国大学経済学部商業科を卒業。
卒業後は、『日本光機工業㈱(https://www.nipponkoki.co.jp/)』に入社。
1930(昭和5)年に会社を辞め、神奈川県立商工実習学校(現:横浜創学館高等学校)の教諭となります。
当時の教え子に、後に高弟となる宮津昭彦(みやつ あきひこ)がいました。
俳句は、中学時代から始めてました。
1921(大正10)年、俳人の臼田亞浪(うすだ あろう)に師事。
俳句雑誌『石楠(しゃくなげ)』に、俳句や評論を発表し、早くから注目を集めました。
1939(昭和14)年、第一句集『海門』を、1941(昭和16)年、『現代の秀句』を刊行し……。
本格的に俳人としての地位を築きます。
このころから、水原秋桜子(みずはら しゅうおうし)や加藤楸邨(かとう しゅうそん)らとも積極的に交流を行います。
続きは次のコメントで。
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2. Mikiko- 2022/08/21 06:12
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今日は何の日(つづき)
引用を続けます。
1946(昭和21)年、俳句雑誌『濱(はま)』を創刊、主宰します。
同年、俳句雑誌『俳句研究』『俳句の国』の編集に携わります。
1948(昭和23)年、教職を辞して俳句一筋の生活となります。
1953(昭和28)年より、角川書店の俳句総合誌『俳句』編集長を務めました。
1964(昭和39)年、第13回横浜文化賞。
1969(昭和44)年、句集『潺潺集(せんせんしゅう)』で第3回蛇笏賞(だこつしょう)。
1973(昭和48)年、第22回神奈川文化賞。
1978(昭和53)年、俳人協会会長に就任。
1980(昭和55)年、俳人協会訪中団団長を務め、日中文化交流にも尽力しました。
1982(昭和57)年8月21日、78歳で死去。
その他の句集では、『冬青集(とうせいしゅう)(1940年)』『早桃(さもも)(1946年)』『冬雁(ふゆかり)(1948年)』……。
『白幡南町(しらはたみなみちょう)(1958年)』『雪華(せっか)(1965年)』『大野林火全句集(1983年)』、『大野林火全集(全8巻、1993~94年)』など。
評論では、『高浜虚子(たかはま きょし)(1944年)』、『近代俳句の鑑賞と批評(1967年)』などがあります。
以上、引用終わり。
大野林火には大好きな句があって、たびたび引用させてもらってます。
↓です。
●ねむりても旅の花火の胸にひらく
続きはさらに次のコメントで。
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3. Mikiko- 2022/08/21 06:12
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今日は何の日(つづきのつづき)
旅情が押し寄せてくるような句です。
寂しいのですが、愛おしい感情です。
花火は、晩夏(初秋)の季語ですが……。
おそらく林火が旅先で見た花火も、晩夏だったでしょうね。
宿の下駄を履き、浴衣掛けで見物に行ったんじゃないでしょうか。
旅館に戻り、布団に入っても……。
さっきまで見てた花火が、夢うつつに浮かんできます。
わたしだったら、たぶん……。
↓こうしちゃったでしょう。
●ねむりても旅の花火の夢にひらく(Mikiko改)
これじゃ、藤圭子です。
読者には、花火見物の光景が、そのまま見えるだけになります。
でも、「胸にひらく」としたことで、違う情景が見えてきます。
電気を消した旅館の部屋です。
布団に入り、仰向いて眠ってる人。
その胸から、小さな花火が打ちあがっては開き、消えていく。
幾度も、幾度も。
そんな幻想的な光景が見えるんです。
ほんとに良い句です。
しかし、大野林火本人のことは、まるで知りませんでした。
まさか、東大の経済学部卒だとは。
市井の俳人かと思ってました。
しかも、その句は、↑のひとつしか知りませんでした。
代表句を調べましたが……。
いいなと思ったのは、↓の2句くらい。
●あをあをと空を残して蝶分れ
●本買へば表紙が匂ふ雪の暮
やっぱり、「旅の花火」は別格です。