2022.4.28(木)
JR亀戸駅から出た中山希美は、吹き付けるビル風に襟元を掻き合わせた。
平日の勤務時間中ではあったが、足早に年末の街を自宅マンションへと向かう。
年内にまとめる文書の資料が入ったUSBを、希美は自宅に置き忘れていたのだ。
幸い穂茂田部長は早めに年末休暇に入って、自分の仕事以外に雑用を申し付けられることも無かった。
“ふふ………”
息を切らしながら、つい希美は思い出し笑いを漏らした。
昨夜の忘年会で披露した夫のかくし芸の様子を思い出したからである。
お椀に入った“ところてん”を食べるという、夫が穂茂田部長と組んだ二人羽織は思いのほか素晴らしかった。
背中の穂茂田部長から一、二度鼻の頭にところてんを乗せられて観客の爆笑を誘ったが、その後は胸元にこぼす失態もなく、盛大な拍手の中、夫はきれいにお椀の“ところてん”を平らげたのである。
「あははは……真面目そうに見えるけど、中山さんのご主人って案外芸達者なのねえ」
「あはは、いえ、私も知りませんでした」
同僚の言葉に苦笑いで答えながら、希美も夫の意外な一面を発見した思いだった。
その夫も今日から年末休暇に入り、外出していなければ自宅にいるはずである。
玄関ドアを開けた希美は、上がり框の手前に置かれた黒い革靴を見つめた。
“お客様かしら”
静かにリビングへと向かう。
少し髪を整えてドアを開けたが中には誰もいなかった。
その時希美の耳に低いうなり声のようなものが聞こえた。
どうやらその声は奥の寝室から聞こえて来るようである。
“具合が悪いのかしら……? それとも何か………”
多少の不安を覚えながら、希美は寝室のドアを開けた。
中を見た希美の手から、ハンドバッグがフロアの上に滑り落ちた。
「はああ………!!」
オーガズム直前に動きを止められて、思わず怜子は両手で自分の枕を掴んだ。
反らせた上半身の上で形の良い乳房が細かく震える
グレタに両足首を掴まれて、交差した両足の間を揉み合わされていた。
全身を愛撫された後、体位を変えたグレタにクリトリス同士を競り合わされて、怜子は快楽の頂点に追い上げられつつあったのだ。
「ふふ……いきそうだった?」
グレタは両足首を離して怜子の顔を見降ろした。
クリトリス同士を揉み合わされて、怜子は不快感を越えて赤い快感のきらめきが爆発する直前だった。
目を閉じたままグレタから顔を横に逸らす。
グレタは粘り付いたお互いのものを少し離して、おもむろに上体を重ねていく。
「あなた自尊心が強そうだから悔しかったんでしょ? 気持ちよくなってしまって……」
グレタは耳元でそう囁くと、枕を掴んで手を上げたままの怜子の脇に鼻先を突っ込む。
「う~ん……いい臭い………」
「や、やめて!」
怜子は肘を下げて邪険にグレタの頭を押しのけた。
グレタは薄笑いを浮かべて怜子に顔を向き合わせる。
「ふふ、そう恥ずかしがらなくていいのよ。あたしだっていきそうだったんだから」
怜子は目を開けてグレタの顔を睨んだ。
「好きにしていいから、もう早く終わって」
「うふふ………、たまらないわね、その強気な顔。でも女同士はそう簡単に終わらないって、あなたもよく知ってるでしょ?」
グレタは少し上体を起こすと、赤ん坊のおむつを替えるように両手で怜子の両足を抱え込む。
両足が押し広げられるにつれ、濡れたものがひんやりと空気に晒されるのが分かった。
「あたしはね、気に入った相手とは口と身体の両方でキスしながらいきたいの。たぶんあなたとなら、身体が柔らかいから出来るわ」
怜子の怯えた目を見つめながら、グレタはゆっくりと腰を押し付けていく。
「ん………」
怜子は眉を寄せて目を閉じた。
グレタのものがねっとりと自分のものに吸い付くのが分かった。
それはまさに、女同士の最高に官能的な口づけに違いなかった。
「ふふ………これかな?」
グレタのひと廻り大きなクリトリスが怜子のクリトリスを見つけ出すと、ぷりぷりと二、三度左右になぶる。
「う………く……!」
詰まった声を漏らして、怜子はグレタの両肩を掴んだ。
「ああ………あたしもすごく気持ちいいわ………」
怜子の敏感なこわばりの皮をずり上げるようにして、グレタは筋肉質なお尻の肉を蠢かせ始めた。
「大河内本部長、何か御用でしょうか」
大河内は手元の文書から目を上げた。
「ああ岸辺さん、ご苦労様。まあどうぞ」
現地本部担当医の岸辺美波春子は、大河内の指し示した椅子に腰を下ろす。
上品な立ち居振る舞いに呼応するように、艶のあるミディアムヘアーが揺れ動いた。
小柄な体に白衣を纏って、丸眼鏡の奥の瞳が大河内を見つめる。
まだ孫に近いくらいの魅力的な女性に、大河内もつい相好を崩した。
「岸辺さん、聞いてますよ、あなたまだ若いのに随分優秀なんだそうですね」
「い、いえ、私などまだまだ勉強不足で……」
美波は恥ずかしそうな笑みを浮べると、可愛くツンと上を向いた鼻先の縁無し眼鏡を人差し指でずり上げた。
「しかし失礼ながら不思議に思ってたんですが、何故あなたは日本人なのにミドルネームがあるんですか?」
「あ、美波ですか? ふふ……」
「はは……」
含み笑いで細身の体を揺らした美波につられて、大河内も笑い声を上げる。
「その理由には二つの説があるんです」
「ふたつ……?」
「うふふ……ええ」
悪戯っぽく小首をかしげた美波の前で、大河内も鏡を見るように首をかしげる。
「ひとつは母方のおばあさまがヨーロッパに留学した経験があって、その影響で私の名前にミドルが入ったという説……」
「ふんふん………なるほど。で、もうひとつは?」
大河内はデスクの上に身を乗り出す。
「もう一つは、美波はミドルネームではなくラストネームだという説」
「へえ、それはどうして?」
「父方の祖父が三波春夫の大ファンで、父が美波という名前をつけたら、強引にその後ろに春子ってくっつけてしまったという……」
「あ……あっはははは……」
大河内は肘掛椅子に反り返って笑い声を上げた。
「そ、そりゃいい。私はその説に賛成ですな」
岸辺美波春子は膨れっ面を大河内に向けた。
「それで本部長、ご用は何でしょうか?」
「あはは……いや失礼。用と言うのは他でもない。日本から配属された公安の女性の件なんです」
「ああ、あの体格が良くて強そうな……?」
大河内本部長は岸辺美波春子医師にゆっくりと頷いた。
何故か大河内本部長の顔から一切の表情が消えた。
「ウルトラウーマンやゼットンの動きに関してはまだ何も連絡が入っていないが、メトロン総統から指示が入っている」
「メトロン総統から……」
その名前をつぶやいた途端、美波の顔も能面の様に変化する。
「同じ組織内である特捜隊の小林は反逆罪等でどうにでも処理できる。だが国家公安の目加田の方は、身柄に何かあれば査察が入る可能性が大きい」
「で、どうすれば……」
「目加田には我々の身内になってもらう。これからの地球支配においても、彼女の存在は役に立つという考えだ」
「はい」
美波は無表情のまま頷いた。
「彼女にはオーガズムの快感の中で組織の一員となってもらう。幸い外付けのインストール機器も開発されたばかりだ」
大河内本部長は、デスクの上に瑠璃色に輝く腕輪を置いた。
「まあ………」
焦点を失った美波の目がその輝きをじっと見つめる。
「目加田恵子の嗜好は、彼女が見た映像で明白だ。性的対象は女性で、それも最後に快感を極める時は、自分より年下、自分とは正反対の小柄で可愛いタイプ、それも上品で教養のありそうな女性を選んでいる」
「小柄で可愛く上品な女性………」
美波のつぶやきに大河内は頷いた。
「彼女がオーガズムに達した時、このボタンを押すんだ。やってくれるね」
瑠璃色の輝きを両手の平に受け取った美波は、大河内の顔に上品な笑みを浮べたのである。
さすがのスワンもクローゼットの中で固唾を飲んだ。
絶え間ない粘着質な音に女性の喘ぎ声が入り混じっている。
そしてそんな獣の戯れの様子が徐々に性急さを増しているのだ。
スワンは内部からクローゼットのドアをわずかに押し開ける。
細い隙間からベッドの上で絡み合う二つの女の姿が見えた。
正常位で上になった筋肉質の女が細身の女を抱いていた。
そしてその二人の女の下半身は、まるで本当につながっているように見えるのだった。
「はあ! あ………ああ~……!」
濁ったうめき声を絞り出して、胸を反らせた怜子が両手で自分の乳房を掴んだ。
湿った粘着音の中に空気のせめぎ出る下品な音が混じった。
「はあ、はあ、気持ちいいのね………はあつ……いいんでしょ?」
上から両足を抱き込んだグレタは、興奮に呆けた表情で怜子の顔を見降ろす。
吸い付き合った部分から、二人の白濁した愛液が怜子の肛門の上を伝ってベッドの上に滴り落ちている。
グレタは上半身を曲げて怜子と顔を向き合せる。
「はあ………もうだめでしょ? ……さあ、キスしようか………」
腰を揉み合わせながらグレタが唇を寄せると、夢うつつに怜子の唇も緩んでいく。
「これからあなたは……私の女になるのよ………」
途端に怜子の顔が横を向いた。
グレタの唇が虚しく怜子の頬をさ迷う。
「ふふ……益々あなたのことが気に入ったわ。でもどこまでその意地を張れるかしら? ほら………」
グレタがゆるゆると互いのクリトリスを競り合わせると、互いのこわばりが徐々に硬さを増していく。
優しくそして時にはいじめるように強張りを弄る度に、怜子の裸身に悔しい痙攣が走った。
弾き立った乳首同士が触れ合う。
逃げ惑う怜子の唇をとうとうグレタの唇が覆った。
グレタは激しく腰を使って二人の下半身を一つにする。
「んぐうう!!」
怜子の呻きと共に二人の唇が深く交わった。
否応もなく二人の唾液が混じり合い舌が絡み合う。
互いの鼻息が頬にぶつかる。
まるで蛇のように絡まりながら、二つの女体が快楽の階段を上っていく。
“助けて希美ちゃん”
怜子は胸の内でそう叫んだ。
“でも、でもあなたにはご主人が………”
そう思ったとたん、怜子の身体の中で熱い快感が充満した。
全身を紅潮させて怜子はグレタにしがみつく。
「ぐうう!!」
とうとう怜子は絶頂の熱いしぶきをグレタのものに浴びせた。
「んぐうう…………」
怜子の身体を強く抱きしめて、グレタも極みのうなりを怜子の口に押し込む。
グレタの望み通りに、二人は全身でキスしながらオーガズムを交わしたのである。
望まない愛の抱擁を許しながら、怜子の目じりから一筋の涙が流れ落ちた。
ハンナはスープの皿をテーブルに置いてウルトラウーマンの肩に手を置いた。
「少しは食べないと力も出ないわよ」
ウルトラウーマンはハンナに力なく頷く。
「荷物も置いたままだし、怜子さんは誰かに拉致されたのかもしれない。私も何か知らないかあちこちの友人に聞いてみるわ」
「お願いします、ハンナさん!」
そう叫んでウルトラウーマンはハンナの手を握った。
「わかったわ。でもあなたは怜子さんの望みを叶えることに全力を尽くすのよ。地球の運命はあなたにかかってるの」
「はい。怜子さんのためにも」
眉をつり上げたウルトラウーマンにハンナは頷く。
「そろそろ明日以降は発作の兆候が出るかもしれないわ」
ウルトラウーマンは椅子から立ち上がった。
「宇宙の平和を乱すやつは許さない。やっつけてから、きっと怜子さんを助け出します」
こぶしを握ったウルトラウーマンをハンナは頼もし気に見上げた。
篠原怜子が拉致された翌日。
「誰?」
目加田恵子はベッドわきのマイクでインターホンに答えた。
「医師の岸辺美波春子です。体調チェックに参りました」
「あ、本部長から聞いてるわ。どうぞ……」
ドアが開いて白衣の女医が姿を現わした。
部屋に入ってくる美波を、ベッドに腰かけたままの恵子が呆然と見つめる。
「目加田恵子さんですね?……あ……えと……目加田さん………?」
「あ………は、はい勿論………オフコース目加田恵子、OK」
「あ、私は日本人ですから日本語で大丈夫です。あの……どうかしましたか?」
「あ、いえ、あなたのような人が来るとは思ってなかったので、ちょっと……」
「……どういう風に違ってたんでしょう。私ではご期待に沿えないと?」
「いえ……そ、そんなことは……」
不安そうな美波に恵子は目を瞬かせた。
“すげえドストライクじゃん。あ、乳首立ってきちゃった、いかんいかん……”
「では体調チェックを始めさせていただいてよろしいですか?」
「あ、全然よろしゅうございます。これ、脱いじゃいます?」
恵子は着ているジャージのジッパーを下げ始める。
「あ、いえ最初は問診からですから、そのままで」
「はは……そうなんですね。私はいつでもOKですよ~」
“はあ~可愛い。裸にして抱っこしちゃいたい”
「では必要書類を用意しますので……」
美波は恵子に背を向けて、カバンの中の書類を探す。
恵子はその小さな背中を抱きしめたい欲求を辛うじてこらえた。
だがそんな華奢な容貌に反して、美波の目はらんらんと歪な輝きを宿していたのである。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2022/04/28 05:38
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かくし芸ほか
かくし芸のネタとして……。
二人羽織というのは、素晴らしいアイデアだと思いました。
まず、そんなに上がらなくてすむでしょう。
食べさせられてる方は、なされるがままですし。
食べさせてる方は、観客が見えないから、さほど緊張しないはず。
もうひとつの利点は、あまり練習がいらないこと。
いっそ、ぶっつけ本番でも出来るんじゃなうですか。
下手くそであればあるほどウケるという、美味しい芸です。
これに対して、手品とかは大変ですよ。
まず、そうとうな練習がいります。
その上、本番では、目一杯、緊張するはず。
失敗したら、見てる方もいたたまれません。
どう考えても、二人羽織の勝ちですね。
美波春子。
最初、これが出て来たときは、ミスタイプだと思ってしまいました。
まさか、日本人にミドルネームを付けるとは。
八十郎さん、頭がお若いです。
でも今回は、さまざまなシーンが、次々に出て来て、ちょっと混乱しました。
最初は、希美が見たのが、怜子とグレタの絡みだと思ってしまいました。
でも、怜子たちが亀戸にいるわけありません。
すると後半には……。
スワンが、怜子とグレタを、クローゼットから覗くシーンになってます。
わたしは一瞬、時空が歪んで……。
亀戸のマンションと、砂漠の尋問室が繋がったのかと思ってしまいました。
昔、SFを読んでたころは……。
こういう設定というか展開は、ごく当たり前のものでした。
でも最近は、SF的な小説はまったく読んでないので、少し混乱したみたいです。
続きは次のコメントで。
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2. Mikiko- 2022/04/28 05:39
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かくし芸ほか(つづき)
今、突然、SF小説勃興期のころの、1枚の写真を思い出しました。
「SFマガジン」で見たんだったかな?
そうそう、「奇想天外」という雑誌もありました。
わたしが読んだのは、廃刊後の古本でしたが。
ああ、写真のことでしたね。
「SF作家クラブ」の旅行で、旅館前で撮られた集合写真。
今思い出しても、噴き出してしまいます。
写真の脇に、宿が用意した歓迎看板が写ってます。
看板には、「歓迎 SFサッカークラブ様」と書いてあったんです。
旅行の幹事は、「SF作家」というのが、まだ世間的にはポピュラーじゃないことを……。
すっかり忘れてしまってたんでしょうね。
仲間内では、当たり前な呼称ですから。
で、「SF作家クラブ」とだけ言って、漢字の説明はしなかったわけです。
ところが、宿で電話を受けた人は……。
何のギモンも抱かず、「サッカークラブ」だと思ったんでしょう。
ニヤニヤしてしまう、愉快なエピソードです。
しかし、その後、全盛期を迎えたSFが……。
あっという間に、時代の前面から消えてしまいました。
やっぱり、輝かしい未来がやって来るというのが幻想だったことに、みんなが気づいたからでしょうか。
鉄腕アトムの生年月日の設定は、2003年4月7日だったんですから。
21世紀は、それほどかように輝かしい未来だったんですよ。
まさか、旧態依然たる戦争が起きようとはね。