2022.1.20(木)
午前10時、タクラマカン砂漠上空。
「何かしら、あの光のつぶは……?」
「何でしょう、かなりのスピードで飛んでいます」
前方を凝視しながらヘリの操縦士は篠原怜子に答えた。
「もしこれが天の恵みなら、あの光はウルトラウーマンよ。追いかけましょう」
「はい」
光に向かってヘリはみるみるその速度を上げた。
「あの部落じゃよ。変な宇宙人が目撃されたのは」
ウルトラウーマンが地上を見下ろすと、オアシスを取り巻く小さな村が目に入った。
無機質な砂漠の景色の中で、太陽を照り返す輝きが淡い緑色に縁どられている。
「わかりました。じゃあ着陸しましょう」
ウルトラウーマンは滑り台を滑るように着陸態勢に入る。
「ああ! まだいやじゃいやじゃ」
「おじさん、どうしたっていうの?」
「こうしてるのが天国なんじゃ」
抱っこされたまま、ナントモおじさんはウルトラウーマンの胸に頬ずりする。
「もう、おじさん駄々をこねないで…………ん?」
ウルトラウーマンは後方からの機械音に振り返った。
一台のヘリコプターが近づいてくる。
「おじさん、しっかりつかまって!」
「待ってました!」
ナントモおじさんは胸の弾力に顔を埋めてしがみ付く。
おじさんをしっかり抱き直すと、ウルトラウーマンは近づいてくるヘリコプターに向かって身構えた。
「ああ神様! 褐色の肌に銀色のヘア、あれはウルトラウーマンよ」
篠原怜子は天空に手を合わせた。
「彼女に接触しましょう。拡声器は使えるの?」
篠原怜子はヘリの操縦士に尋ねる。
「はい」
「じゃあ小音量にして、彼女が聞こえるくらいまでゆっくり近づいて」
「わかりました」
涼子はマイクを手に取って前方を見つめる。
ヘリコプターはウルトラウーマンと徐々にその距離を詰め、中空で対峙した。
「ウルトラウーマン、私は科学特捜隊の篠原です。私の言うことが分かる?」
激しい風切り音の中で、涼子の声が途切れ途切れに聞こえる。
「科学特捜隊………?」
ウルトラウーマンはつぶやいた。
「聞こえる? 私の言うことが分かる?」
ナントモおじさんは、抱っこされながら右手の指で輪を作ってOKサインを出す。
「このままゼットンと戦いに入ったら、あなたは大変危険なことになる。それは近くの住民も同じよ。その前に、私の話を聞いて」
怜子は地上まで会話が聞こえないように落ち着いた声で語りかける。
「危険なこと………?」
ウルトラウーマンはそうつぶやいてヘリの中の女性を見つめた。
「おじさん、あの人に分かったって合図して」
「よし」
おじさんは右手でウルトラウーマンの左のおっぱいを揉んだ。
「おじさん何してるの!」
「いや、わかったって合図を……」
「そんな合図がありますか! さっきみたいにOKサインを出して。それから、ついて来いって手招きしてください」
「なんじゃ、冗談が通じんのう」
ぶつぶつ言いながら、ナントモおじさんはヘリに向かってOKサインを出した。
手招きをするおじさんを抱えながら、ウルトラウーマンは滑るように移動し始める。
「付いて行きましょう」
「了解」
そして怜子を乗せたヘリコプターも、徐々にプロペラの回転を上げながらウルトラウーマンに続いた。
午後3時半、砂漠の熱気がオアシスの空気さえも揺らめかせている。
2階の窓から外の様子を窺うと、飛鳥ゆり子はレースのカーテンを引いた。
部屋の中では何故か、クマモンがベッドに腰かけている。
「ドン・キホーテのおもちゃコーナーにこの着ぐるみが売ってあってね。忘年会の余興にどうぞって、サンタの扮装の女の子が……。今日本で人気らしいよ、これ」
「何言ってんのよ」
ゆり子は腕組みをしてゼットンを見下ろす。
「友達なんかいないあんたには、忘年会なんて縁がないじゃないの。それに変な頭の形で、クマモンがいびつになってるわよ」
「そ、それを言っちゃあ………傷つくなあ」
ゼットンは着ぐるみのジッパーを下ろすと、蝉のような頭を出した。
ゆり子はその隣に腰を下ろしてゼットンの肩に手を置く。
「うふふ、さあ元気出して。もう女の子の紹介でM.G.S.F.とも連絡が取れて、地球支配の手足になってくれる段取りもついたわ」
「ふ~ん」
「そんな気のない返事して……」
ゆり子はゼットンの身体を揺さぶった。
「ウルトラウーマンを人質に取ってウルトラ一族を押えれば、地球は私とあなたとメトロンの思うがままよ」
「そ、そうか」
「そうなったら悦び組だろうが寝取られ組だろうが、世界の美女があなたの周りに侍って、最高峰のオーケストラがあなたのためにシンフォニーを奏でるわ」
「ふぉふぉふぉふぉ!」
ゼットンは両手のVサインを高く掲げた。(ゼットンは最初からVサインなのだが)
「最初の支配者宣言は、勿論あなたにやってもらうわ。地球の共通語は英語だから、練習しとかないとね」
「そ、そうか。え~と………ク、クイントリックス」
「古(ふる)~!」
ゆり子は肩をすくめて立ち上がる。
「巨大化してあなたが姿を現わせば、ウルトラウーマンはすぐやって来るに違いない。そうしたらあたしも巨大化してもらって、二人で彼女を捕まえるのよ。目立たないように小さくしてM.G.S.F.に監禁すればもう見つかることは無いわ」
「なるほど、冴えてるな。クイントリックス」
「ふふふ………、クイントリックス」
「ちょっと違うよ、クイントリックス」
「もういいから。一休みして体力が回復したら、巨大化して実行よ」
「よし、わかった」
ゼットンもベッドから立ち上がる。
「決戦の体力回復にはまだ2,3日かかるけど、今度は遠慮なくあの小娘をとっ捕まえてやる」
「そして監禁したウルトラウーマンのスーツを引き剥いで…………うふふ、この一番手は譲らないわよ」
「ああいやあ~! そんなことやめて! 許して!!」
「ふふふ、お嬢ちゃん、いくら泣いても誰も助けに来ないんだよ」
「ぐふふふ………」
二人は顔を突き合わせて不敵で卑猥な笑みを交わした。
「あ~もう辛抱たまらん! あたし酒場のマダムに聞いて、ちょっと息抜きしてくるわ」
「どうぞどうぞ。僕は長距離移動でちょっと疲れたから、ここでしばらくお休みするよ」
ゼットンは再びクマモンの着ぐるみを頭からかぶると、ごろりとベッドに横になった。
ハンナの家。
午後1時を回って、ウルトラウーマンと篠原怜子はリビングテーブルに向かい合って座っていた。
「こんな土地で何もなくてごめんなさい。食事はお口に合ったかしら?」
ハンナは二人の前に紅茶カップを置くと、自分も空いている椅子に腰を下ろした。
「私までご馳走になって………。とても美味しかったです」
「ありがとう、ハンナさん」
怜子とウルトラウーマンはハンナに笑顔を向けた。
「今まで一人で淋しかったのが嘘みたい。お客様まで来ていただいて、あたし嬉しいわ」
ハンナは手作りのクッキーをテーブルの真ん中に置いた。
ウルトラウーマンは砂漠の目立たない場所にヘリを待たせて、ナントモ爺さんを送り届けた後、怜子をハンナの家に連れて来たのである。
「せっかく楽しい雰囲気なのに………申し訳ないけど、でもこれを伝えないと大変なことになるんです」
怜子の顔から笑みが消えて、冷たくさえ見えるその眼差しが二人に向けられた。
「今あなたがゼットンと戦うと、おそらく巨大化した飛鳥ゆり子も敵として現れる。そして地球防衛軍は3人もろとも核兵器で消滅しようとするわ」
「なんですって!?」
ハンナが驚きの声を上げる。
「そ、そんな………」
ウルトラウーマンは小さくつぶやいた。
“あの明るく魅力的な飛鳥隊員が………”
娘心を切なく締め付け、身体の火照りをかき立てた憧れの対象が、何故敵として現れるのか。そして今まで地球の平和を守るために協力して来た地球防衛軍が、何故自分まで消滅させようとするのか。
「おそらく……」
怜子は呆然としたウルトラウーマンに語り掛ける。
「飛鳥ゆり子も地球防衛軍の幹部も、メトロン星人に操られているの」
「メトロン星人!」
ウルトラウーマンは目を見開いた。
「地球防衛軍からの攻撃は、すでに現地本部に潜入している仲間が何とか食い止めてくれるかもしれない。でも、ゼットンの攻撃を退け巨大化した飛鳥隊員をメトロンの呪縛から解放出来るのは、ウルトラウーマンあなただけよ」
ウルトラウーマンは篠原涼子の顔をじっと見つめた。
そしてその目には、再び愛と正義の炎が燃え上り始めたのである。
オアシスの娼館。
夜の7時過ぎて、もう表では数人の酔っぱらいが騒ぎ始めている。
「ああもうだめ! ねえ、こっちに来て」
飛鳥ゆり子は下腹部に顔を埋めている女性の頭を両手で押さえた。
輝くばかりの金髪を揺らして、その女性は飛鳥の身体にキスしながら体をずり上げる。
首の下に手を回して肩を抱くと、まだあどけない顔の若い女は飛鳥の耳元に囁いた。
「おねえちゃん、キスしながら気持ちよくなりたいのね。ゆっくり、それとも早く?」
「ああもう、早くいかせて」
「うふふ、分かったわ」
少女の白い指が黒々とした陰毛に分け入って、少しほほ笑んだピンクの唇が飛鳥のぷっくりと艶のある唇に近づいていく。
「あは…………むん……」
漏れ出た飛鳥の熱い吐息が少女の唇に飲み込まれる。
「うんむう………」
吸い重なった唇の端から、激しく絡み合う二人の舌が垣間見えた。
同時に少女の右手が微妙に震え始めて、徐々にその動きが激しさを増していく。
「んぐううう……!」
スレンダーな少女に抱かれて、一回り大きいゆり子の裸身がうねった。
そのまま背を反り上げた飛鳥は、絶頂を求めて狂おしく腰を振る。
しかし少女はおもむろにその右手を引いた。
「んむ………はあ、いやあ! やめないで!」
飛鳥は唇を振りほどいて泣き声を上げた。
「うふふ、分かってる。すぐ、とっても気持ちよくしてあげるわ」
少女は右手の小指を差し出して飛鳥の口に含ませる。
たっぷりと唾液を絡めた指を、今度は自分の口の中に含み込む。
二人の唾で艶やかに輝く指が、ゆっくりと飛鳥の股間に伸びて行った。
「あう……!」
飛鳥の身体が反り返った。
少女の細く長い小指がぬるぬるとアヌスに滑り込んで来たのである。
続いて中指と人差し指が濡れた襞をめくり、親指に敏感なしこりを転がされる。
途端に目くるめく快感がゆり子の身体を駆け巡った。
「あがああ………イクイク!! ………んぐ……」
絶頂を告げるゆり子の唇を少女は荒々しく吸いふさいだ。
その右手の忙しない動きが、否応もなくゆり子を快感の淵に引きずり込む。
「んぐうううう!!!」
まるで捌かれる生魚のように、キスで頭を押えられたまま、ゆり子の裸体にオーガズムの痙攣が走った。
少女は獲物を逃がさないように左手でしっかり抱きしめたまま、右手の動きでとどめを刺し続ける。
「むんぐううう…………」
ゆり子は幾度か狂おしくその身体をうねらせた後、音を立ててベッドにその背中を沈めた。
少女は優しく唇を重ねたまま、ゆっくりと右手でゆり子の肌を撫でる。
ゆり子は少女の甘い舌を吸わされながら、身体からゆっくりとオーガズムの興奮が静まっていくのを感じた。。
少女はお湯で温めたタオルをゆり子に渡して、そのままベッドに腰を下ろした。
透き通るような青い瞳でゆり子に笑いかける。
「うふふ、おねえちゃん気持ちよかった?」
「ふう………とってもよかったわ。酒場のマダムの一押しだったけど、経験なさそうに見えたから、あたしびっくりしちゃった」
ゆり子は少女の肩を抱き寄せてほおずりする。
「よかった。じゃあまた来てくれる?」
少女はゆり子の胸にもたれて、その脇腹に肌を撫でた。
「そうねえ……、大事な用事の前でまだ分からないけど、あなた名前は?」
「あたしスワンって言うの。お願い、また来て」
「うんそうね、また来たいわ。ウルトラーマンをつかまえたら……」
スワンはゆり子の胸から顔を起こす。
「ウルトラウーマンって……?」
「宇宙から来た若い女よ。ふふ、あんたに言っても仕方ないけど、捕まえて役に立てるの。あんたも何か知ってたら教えて? お小遣いあげるわよ」
スワンはベッドから立ち上がった。
「あたし次のお客さんあるから。行くよ」
「ええ、分かった。あとでここのマダムにも聞いてみよう。あんたも何か見つけたらマダムに言って。私に伝わるようになってるから」
「うん。じゃあね」
スワンは急いで部屋を出て行く。
“大変、おねえちゃんが危ない”
スワンは階段を下りて女主人の部屋を覗き込む。
礼金をもらった女主人はラム酒の瓶を片手に眠りこけている。
“早く、早くおねえちゃんに知らせなくっちゃ”
スワンは玄関ドアを開けて表へ出て行く。
夜の冷気が華奢なスワンの肌を刺す。
行く先も定まらないまま、スワンは小走りで夜の闇へと消えていった。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2022/01/20 06:10
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よしなしごと
止しな、仕事は……。
って意味じゃありませんよ。
漢字にすると、「由無し事」。
意味は、「たわいもないこと」になります。
↓『徒然草』の有名な序文に出て来ます。
「心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば」
今日はこの感じで、思いついたことを並べてみます。
まず、最初の空中シーン。
ウルトラウーマン(ナントモおじさんが附属)とヘリコプターの場面。
これでなぜか連想したのが、先のトンガでの海底火山の噴火。
今回の噴火による津波のニュースを聞いて、真っ先に思いついたことがあります。
この現象は、兵器に出来るんじゃないかと。
すなわち、敵国の遙か沖合の海中で、核爆発を起こすんです。
今の技術なら、火山の噴火くらいの威力は生み出せるでしょう。
すると、どうなるか。
敵国の海岸に、巨大な津波が押し寄せるわけです。
一度発生した津波を打ち消すことなど、今の科学では不可能でしょう。
これをミサイルでやったら、撃ち落とされる可能性もありますし……。
それ以前に、発射した国がバレバレです。
でも、広島に落とされた原爆みたいに……。
飛行機から投下されたらどうでしょう。
防げないんじゃないですか。
爆撃機ではなく……。
民間機に偽装した飛行機から落とすという方法もありますし。
時限式にしておけば、ゆうゆうと逃げ帰れると思います。
これまで津波と云えば、地震しか原因を考えてませんでした。
人工的に地震を起こすことは、容易じゃないでしょう。
でも、火山噴火に匹敵する大きな爆発なら起こせるわけです。
比較的簡単な気がしてしまいます。
続きは次のコメントで。
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2. Mikiko- 2022/01/20 06:11
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よしなしごと(つづき)
話はぜんぜん変わって……。
ドン・キホーテ。
この名前は、子供のころから知ってます。
でも、「ドンキ・ホーテ」とだとずっと思いこんでました。
こういう方、少なくないんじゃないですか。
「ドンキ」で切るのは、日本語の特性のような気がします。
ディスカウントショップの名称も、「ドン・キホーテ」ですが……。
ほとんどの方は、略して「ドンキ」って呼んでますよね。
続いて、本編から↓の一節。
「ふぉふぉふぉふぉ!」
ゼットンは両手のVサインを高く掲げた。(ゼットンは最初からVサインなのだが)
これはちょっと「?」が浮かびましたぞ。
「ふぉふぉふぉふぉ」は、バルタン星人じゃないですか?
Vサインなのもバルタン星人です。
ゼットンもそうなのかと思って、画像を探しました。
どうも、手をアップにした画像がなかなかありません。
でもどうやら、親指以外の4本指がくっついてる感じです。
つまり、ミトンの手袋みたいな形。
これなら、「Vサイン」と云ってもいいかも知れませんね。
ここで、大幅に余談。
最近、指なし手袋(指出し手袋)を買いました。
通勤用です。
これまでは、5本指のある手袋をしてました。
これだと、電車の中で文庫本を読んだり、スマホを操作したりするときは……。
当然のことながら、手袋を外さなければなりませんでした。
降りるときには、また付けなければなりません。
これが、何気に面倒でした。
で、「指なし手袋」を買ったわけです。
でもそのままでは、外を歩いてるとき、寒いに決まってます。
ということで、ミトン型のカバーを4本指に被せられるのを買いました。
しかしながら、親指だけは外に出たままです。
続きはさらに次のコメントで。
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3. Mikiko- 2022/01/20 06:11
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よしなしごと(つづきつづき)
大したことなかろうと思ったんですが……。
これが、大誤算。
親指が冷たいんです。
親指を折りたたんでミトンの中に突っこんでみたりもしました。
でも、ミトンの口が持ちあがって、ほかの指まで寒い。
それに、そんな形の指では、鞄も持てません。
ということで、親指だけ指先まであって……。
ほかの4本指が出てるタイプの手袋を買い直しました。
これだと、親指が寒くありません。
しかし!
これで解決ではありませんでした。
親指って、日常的にけっこう使ってたんですよ。
親指が覆われてると、やりにくいことが多々ありました。
特に、文庫本のページを繰るのに苦労してます。
なかなか上手くいきません。
でも、これで少し慣れようと思います。
なお、親指のなかった手袋ですが、このまま眠らせてしまってはもったいないので……。
室内用として使ってます。
ミトンのカバーは、甲側に折り返して、ボタンで止められます。
つまり、甲の部分に布団をかけてるようなもの。
暖かいです。
さらに、良いアイデアを思いつきました。
カバーの中に、ミニカイロを入れたらどうでしょう。
でも、ちょっと暖かすぎるかも。
カイロなしでも、今のところ十分ですから。
最後に、「クイントリックス」。
これは、テレビの銘柄名。
CMで有名になりました。
↓YouTubeにありました。
https://www.youtube.com/watch?v=oUeRdgl2LpE
今回は、雑談になってしまいました。
でも「ウルトラウーマン」、面白くなって来ましたね。
次回が楽しみです。