2021.4.15(木)
ウルトラウーマンはそれから一昼夜、荒涼たる砂漠をさまよい続けた。
彼女の頭の中は混乱していた。
憎きゼットンに背を向けたばかりか、体内に沸騰する欲情に任せて蓬莱を抱いたのである。
自分に同性に対する強い性的思考があることは認識していた。
しかし自分を抑えきれずに初めて会った女性に性行為を強要したなんて……。
“あなたは、神様………?”
蓬莱の言葉を思い出して、ウルトラウーマンの胸は締め付けられるように痛んだ。
ふらつく足で上り詰めた砂丘の向こうに比較的大きな町が広がっていた。
ウルトラウーマンは吸い寄せられるようにその町に向かって足を進めた。
ふと見ると町外れの民家の庭先に洗濯物が干されている。
ウルトラウーマンはボディスーツ姿のままでは目立って歩けないことに気が付いた。
こっそり洗濯物を下ろして着ようとしたが、その女物は肉感的な彼女の身体を包むことは出来なかった。
仕方なく彼女は、一家の主人の物と思しき男物のシャツとズボンを下ろして身に着けた。
近くにあった麦藁帽で銀色の髪の毛を包み込む。
物置の窓ガラスに自分を映してみると、この上もなく二枚目の農家の若者が出来上がっていた。
美しく官能的な女性同士の交わりと違うのが不本意だが、そちらのおじさま方なら垂涎の的たる若者である。
普段お疲れの年配紳士も、横向きにピラミッドを見たように、ズボンの前が三角テントを張ること間違いない。(ほんとは上が短い不等辺三角形になるのが好ましいのですが、おじ様は水平を保つのが精一杯なので正三角形になったりします)
しかし中にはお腹の出たおじさんがいいなんて言う青年もいるので、世の中うまく出来たものである。
兎にも角にも身づくろいを終えたウルトラウーマンは、ふらつく足で再び歩き始めた。
ウルトラウーマンは薄れゆく意識を必死に保ちながら街中へと彷徨い込んでいく。
もう何か飲み物や食べ物を手に入れなければ、そのうち路上に倒れ込んでしまうかもしれない。
彼女は路上の石ころを拾い上げると両手の平に包み込んだ。
わずかに残ったエネルギーを振り絞って握りしめた両手の中にスペシウム光線を放つ。
ゆっくり手を開くと、中の石ころは紫色のきれいな結晶と化していた。
何かその結晶で食べ物を手に入れるつもりだったのである。
しかし農家の作業服をまとったとはいえ、彼女の姿は現地人の目からすれば十分奇異なものに違いなかった。
帽子で銀色の髪は隠したものの、褐色の肌に少し派手な目鼻立ち、強いて言えばムーア人かヒスパニック系の人間に似てなくもない。
周りの村人は通りかかった彼女を遠くから恐々窺うか、家の中に姿を隠してしまった。
普通はこの地でそんな人種を目にすることは無かったのだ。
ウルトラウーマンはふらつく足取りで、ある狭い路地に足を踏み入れた。
両側にはレースのカーテンがかかった窓が並び、中から人が外の様子を窺っているようである。
とうとう彼女は一つのドアの前の路上に倒れ込んだ。
脇の窓から覗いていた人影は急いで中に姿を隠す。
うつろな眼差しでやっと周囲を見回すと、向かい側の小窓の中から白い顔の少女がじっとウルトラウーマンを見つめていた。
必死で手を伸ばすと、その少女はすっと窓の奥に消えた。
肩を落とした彼女の耳にドアの開く音が聞こえた。
ようやく顔を上げると、先ほどのドアが開いて白い肌の少女が立っている。
「お、お願い………」
ウルトラウーマンは少女に向かって必死に片手を差し出す。
「まあきれい、これ宝石……?」
その声を聞いたとたん、彼女は吸い込まれるように意識を失った。
「う………ううん……」
ウルトラウーマンは深い眠りから薄っすらと意識を取り戻した。
ぼんやりした視界の中に青い目をした少女の顔が見える。
“ここは天国なのかしら………?”
一瞬そう思った。
「おねえちゃん、気が付いたのね!」
嬉しそうな少女の声が聞こえた。
ようやくウルトラウーマンは目を見開き周囲を見回した。
いつの間にか、ピンクにコーディネートされた部屋の中でベッドに身を横たえている。
そしてベッドの脇に透き通るような白い肌の少女が立っていた。
15,6歳くらいだろうか、ライトブルーの瞳がじっとウルトラウーマンを見つめている。
気が付くと毛布の下は全裸になっており、逞しく褐色の裸体を温かく包んでいた。
気恥ずかしさを覚えながらウルトラウーマンは少女に向かって口を開く。
「あなたが助けてくれたのね」
少女は真珠のように白い歯を見せてほほ笑んだ。
「こ、これ食べて」
サイドテーブルの上にはコップ1杯の水とひとかけらのパン、そして豆と野菜を煮込んだようなスープが湯気を立てていた。
「まあ! ありがとう」
ウルトラウーマンは胸元まで毛布を引き上げて身を起こした。
水でのどを潤すと夢中でスープを口に運ぶ。
「あはは、お姉ちゃんお腹空いてたの?」
ちぎったパンを頬張りながら、ウルトラウーマンは目を見開いて頷いた。
そして食べ物を体に取り込むにつれ、徐々に体に力がみなぎってくるのを覚えたのだった。
人心地ついたウルトラウーマンは、ベッドの傍らに腰かけている少女に改めて笑いかけた。
ウクライナ系だと思われるその少女は、雪のような白い肌に水色の瞳をしていた。
血統的に大柄である成人女性よりはまだ小柄だったが、高い腰の位置に長い足、胸もこれからの成熟を予感させるように膨らんでいる。
何よりその西洋人形のように愛らしい顔立ちは、化粧などしていないにも関わらずため息が出るように美しかった。
「助けてくれてほんとにありがとう。あたしウル・トラコっていうの。あなたお名前は?」
「あたしスワンっていうの。自分でつけたのよ」
「自分で……?」
ウルトラウーマンは訝し気に少女の顔を見た。
「あたしお父さんもお母さんもいないから自分でつけたの。でもみんなはあたしのこと、ミュール、ミュールって呼ぶわ。あたしが頭が弱くてのろまだからだって。あははは……」
「まあ………」
ウルトラウーマンはあどけなく笑う少女の顔をじっと見つめた。
「ミュール! ミュール!?」
その時、部屋の外から少女を呼ぶ声が聞こえた。
「は~い」
少女は大きな返事をして部屋を出ていく。
ウルトラウーマンが続いて外の廊下を覗くと、でっぷりと太ったこの家の女主人が少女を待ち構えていた。
「あの女はもう気が付いたのかい? 落ち着いたらさっさと追い出しちまいな。何だか知らないが、昨日から警察がやたらとここいらを調べ廻ってるんだ。高価そうな物を持ってたから入れてやったけど、あの女は何かそれに関係があるに違いないんだ。もう厄介ごとは沢山だよ。いいか、わかったかいミュール」
今までウオッカでもあおっていたのか、女主人は赤い顔でそう言った。
少女は悲し気な顔でうつ向く。
「で、でも………」
「わかったね! さもないとお前の晩飯も抜きだし、客を取っても小遣いは無しだからね!」
女主人は何か言おうとする少女に押し被せるように言った。
力なく踵を返す少女を見ると、ウルトラウーマンは急いで元のベッドに戻る。
部屋に入ってきた少女は、ベッドの前で満面の笑みを浮かべた。
「マダムがいつまでもここに居ていいって。あたし沢山家の手伝いをするから大丈夫だよ」
「スワンちゃん………」
ウルトラウーマンは胸がいっぱいになり、裸のまま少女を胸に抱きしめた。
「ね、スワンちゃん。外からいくつか石を拾って来て。お姉ちゃんもまだここに居られるようマダムに頼んであげる」
「うん、わかった!」
少女は顔を輝かせると部屋の外へ飛び出していった。
夜も更けた砂漠の街は静まり返っていた。
時折獣の遠吠えが聞こえる他は、外の酔客と女の嬌声も途絶えたようである。
ベッドに横たわったウルトラウーマンは、まだ寝付かれぬままであった。
いくつかの石の結晶を見ると、女主人は喜んで数日の逗留を承諾した。
そしてそれは、その間スワンに世話をさせるという条件付きだった。
「おねえちゃん、眠れないの……?」
ウルトラウーマンは傍らのスワンの声で我に返った。
「ええ……。でも大丈夫よ」
スワンはウルトラウーマンの方へ横向きに姿勢を変える。
「あたしお姉ちゃんといる間は家のお手伝いしなくていいんだって」
「スワンちゃん……」
「おじちゃんたちはスワンとお遊びするととっても喜ぶのよ。可愛い可愛いって……」
たまりかねてウルトラウーマンは少女の顔を胸に抱いた。
「でも本当はあたし、お姉ちゃんと一緒にいる方がずうっと好き。だってお姉ちゃん、とってもきれいだもの」
「ありがとう、スワンちゃん……」
「お姉ちゃんもうすぐここを出て行っても、また遊びに来てくれる?」
ウルトラウーマンは少女を抱き起してその顔をじっと見た。
「スワンちゃん、あたしと一緒にここを出ましょう。あたしがマダムに頼んであげるから」
また石の結晶で交渉すれば、それは出来ない相談ではなさそうな気がした。
しかしスワンの返事は意外なものだった。
「でもあたしここでしか暮らしたことないから、知らない所に行くのは何だか怖いわ」
ウルトラウーマンは月明かりにさえ青く輝く瞳を見つめた。
「大丈夫、お姉ちゃんが守ってあげるから。あなたにふさわしい場所がきっとあるはずよ。だから、ね、お姉ちゃんと一緒に行きましょう」
少女の顔が徐々に輝き始める。
「うれしい、お姉ちゃん!」
そう叫んでスワンはウルトラウーマンの胸に抱きすがった。
「スワンちゃん!」
ウルトラウーマンは瞼が熱くなるのを覚えながら、スワンの身体をしっかりと抱きしめたのである。
しかし二人の体温が次第に溶け合い始めた時、ウルトラウーマンは地球での大事な使命を思い出していた。
まだ宿敵ゼットンとの決着はつかないままなのである。
いや決着がつかないどころか、明らかに劣勢のままその勝負を持ち越していたのだ。
「スワンちゃん、あたし大事な用を先に済ませてからあなたを迎えに来ようと思うの。
早速明日の朝出発するわ。だから少しだけここで待ってて。いい、スワンちゃん」
スワンは顔を上げて長いまつげを瞬かせた。
「うん、あたし待ってる。じゃあお姉ちゃん、今夜あたしとお遊びする?」
ウルトラウーマンはその目を見開いた。
「ええ! お遊びって……それはだめよ、スワンちゃん……」
「お姉ちゃんあたしのこと嫌いなの?」
「嫌いじゃないわ。嫌いじゃないけどそれは………」
「あたしはお姉ちゃんのことが好きよ。ねえお願い………」
そう言うと、スワンはウルトラウーマンの豊かな胸に顔をうずめた。
「ちょ、ちょっとスワンちゃん、う……だめよ。…………え……?!」
その時ウルトラウーマンは、身体の奥で何かエネルギーが沸き起こるのを感じた。
そうなのだ、もう前回のエネルギー発散から48時間が過ぎようとしていたのである。
「こうするとみんなとっても喜ぶのよ」
スワンはウルトラウーマンのローブの胸元を引き開けると、その乳首を吸い含んだ。
「あ! だめだめ! スワンちゃんだめよ…………あ~、やめて………」
ウルトラウーマンはがくがくと身体をわななかせた。
もう情欲の炎が熱くその背筋を伝い上がり始めていたのである。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2021/04/15 05:52
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ウルトラQ
「ウルトラマン」の前に放送されてたのが……。
「ウルトラQ」という番組。
毎回、怪獣や怪人が登場しますが、それを倒すヒーローはいません。
放送は、1966(昭和41)年1月2日から7月3日まで。
全27話。
「ウルトラマン」は……。
「ウルトラQ」が終了した2週間後、7月17日に初回が放送されてます。
現在(2021年4月時点)、この「ウルトラQ」の“4Kリマスター版”というのが、「NHK-BSプレミアム」で放送されてます。
4Kテレビじゃなくても見れますよ。
わたしのテレビも4Kじゃありませんから。
とにかく、画像が綺麗です。
フィルムの傷やゴミがすべて取り払われてます。
気味が悪いほどの綺麗さです。
放送時間が遅いので(毎週月曜の23:15)……。
わたしは毎回、録画して見てます。
今のところ、第1回「ゴメスを倒せ!」と、第2回「五郎とゴロー」を見ました。
しかし、この2回を見た限り……。
画像が綺麗になり過ぎた弊害もあると感じてしまいました。
あまりにもはっきりと映ってしまうため……。
着ぐるみ怪獣の稚拙さ、特撮技術の薄っぺらさが、ありのままに出てしまってます。
「五郎とゴロー」の大猿は、悲しいほどお粗末でした。
続きは次のコメントで。
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2. Mikiko- 2021/04/15 05:53
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ウルトラQ(つづき)
最初は、全回DVDに撮って保存しようと思ってたんです。
でも、ぜんぶ残す必要はないなと感じました。
ということで、第1回と第2回は消去。
今後は、気に入った回だけ残すことにします。
期待は、夜のシーンですね。
昼間のシーンは、あまりにもはっきり映りすぎますから。
ちょっと先になりますが……。
ケムール人が出る第19話「2020年の挑戦」なんかが良さそうです。
そうそう。
この「ウルトラQ」には、桜井浩子さんが出演してます。
ご存じ「ウルトラマン」のフジ・アキコ隊員。
「ウルトラQ」では、毎日新報カメラマンの江戸川由利子役。
科学特捜隊員よりリアリティがあって、わたしは好きです。
撮影時は、まだ18歳だったようです。
大人っぽくて驚きました。
現在、75歳。
今も、円谷プロにプロデューサーとして所属し……。
同社の作品や関連イベントにも多く出演してるとか。
なお、次回の4Kリマスター版の放送は、4月19日(月)23:15(NHK・BS-プレミアム)。
第4回「マンモスフラワー」です。