2020.10.21(水)
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いつものように昭夫を送り出し、ひとりになった。
こんなとき思うのは、やはり吉崎さんの気持ちだった。
ほんの数ヶ月前までは、吉崎さんも、わたしと同じような毎日を送っていたはずなのだ。
しかし、ご主人に膵臓癌が見つかり……。
それからはあっという間だったという。
未だに信じられない思いがあるのではないか。
ひょっとしたら今日もすでに、ビールの缶を開けているかも知れない。
いくらなんでも、そんな毎日では身体を壊してしまう。
わたしが話相手になれば、少しは気も紛れるだろう。
ちょっと行ってみよう。
ちょうど、昭夫が会社からもらってきた葡萄がある。
実家が葡萄農家の工員がいるらしい。
知らなかったが、このあたりは葡萄の名産地なのだそうだ。
葡萄をザルに載せ、玄関を出る。
隣の扉の前に立ち、チャイムを押そうとしたが、止めた。
ドアノブに手を掛ける。
やっぱり鍵が開いていた。
何度か訪ねるうち、彼女が玄関に鍵を掛けないことに気がついた。
わけを聞いたら……。
夫が帰って来そうだから締められないとのことだった。
改めて、愛情の深さに心を打たれた。
しかし今は、チャイムが鳴っても、飲んでいれば居留守を使うこともあるそうだ。
ということで、黙ってお邪魔することにした。
玄関を入ると、吉崎さんのシューズが出ていた。
買物に行くとき履くという、ぺたんこ靴だ。
重いビールのパックを持ち帰るのに、ヒールのある靴は怖いのだと云う。
この靴があるのなら、家にいるはずだ。
今日も、そのビールを飲んでいるのだろうか。
「吉崎さーん」
いちおう、声を掛けた。
応えはない。
奥の和室にいれば、玄関の声は聞こえないだろう。
黙って框をあがる。
やはり、キッチンにも姿は見えなかった。
また、仏壇の前で飲んでるのだろうか。
葡萄のザルをダイニングテーブルに置き、奥に向かった。
和室の引き戸に手を掛け、声を掛けようとして……。
固まってしまった。
中から、声が聞こえた。
明らかに吉崎さんの声だった。
しかし、普通の声ではない。
喘ぎ声だ。
「ひぃぃ。
あなた……。
そこ、いい。
いぃ……わぁ」
いつものように昭夫を送り出し、ひとりになった。
こんなとき思うのは、やはり吉崎さんの気持ちだった。
ほんの数ヶ月前までは、吉崎さんも、わたしと同じような毎日を送っていたはずなのだ。
しかし、ご主人に膵臓癌が見つかり……。
それからはあっという間だったという。
未だに信じられない思いがあるのではないか。
ひょっとしたら今日もすでに、ビールの缶を開けているかも知れない。
いくらなんでも、そんな毎日では身体を壊してしまう。
わたしが話相手になれば、少しは気も紛れるだろう。
ちょっと行ってみよう。
ちょうど、昭夫が会社からもらってきた葡萄がある。
実家が葡萄農家の工員がいるらしい。
知らなかったが、このあたりは葡萄の名産地なのだそうだ。
葡萄をザルに載せ、玄関を出る。
隣の扉の前に立ち、チャイムを押そうとしたが、止めた。
ドアノブに手を掛ける。
やっぱり鍵が開いていた。
何度か訪ねるうち、彼女が玄関に鍵を掛けないことに気がついた。
わけを聞いたら……。
夫が帰って来そうだから締められないとのことだった。
改めて、愛情の深さに心を打たれた。
しかし今は、チャイムが鳴っても、飲んでいれば居留守を使うこともあるそうだ。
ということで、黙ってお邪魔することにした。
玄関を入ると、吉崎さんのシューズが出ていた。
買物に行くとき履くという、ぺたんこ靴だ。
重いビールのパックを持ち帰るのに、ヒールのある靴は怖いのだと云う。
この靴があるのなら、家にいるはずだ。
今日も、そのビールを飲んでいるのだろうか。
「吉崎さーん」
いちおう、声を掛けた。
応えはない。
奥の和室にいれば、玄関の声は聞こえないだろう。
黙って框をあがる。
やはり、キッチンにも姿は見えなかった。
また、仏壇の前で飲んでるのだろうか。
葡萄のザルをダイニングテーブルに置き、奥に向かった。
和室の引き戸に手を掛け、声を掛けようとして……。
固まってしまった。
中から、声が聞こえた。
明らかに吉崎さんの声だった。
しかし、普通の声ではない。
喘ぎ声だ。
「ひぃぃ。
あなた……。
そこ、いい。
いぃ……わぁ」
コメント一覧
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1. Mikiko- 2020/10/21 05:58
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今日は何の日
10月21日は、『禅寺丸柿の日』。
神奈川県川崎市麻生区の『麻生(あさお)観光協会(http://asao-kankou.jp/)』が制定。
2012(平成24)年10月21日(今から8年前)……。
麻生区が区制30周年を迎えたことを記念して、「禅寺丸柿サミット」が行われました。
その際、麻生区の「区の木」として、「禅寺丸柿(ぜんじまるかき)」が制定されました。
約800年前の鎌倉時代前期に、麻生区の王禅寺で発見され……。
日本最古の甘柿とされる「禅寺丸柿」を、多くの人に知ってもらうことが目的。
記念日は、『(社)日本記念日協会(https://www.kinenbi.gr.jp/)』により認定、登録されてます。
上記の記述は、こちら(https://zatsuneta.com/archives/110214.html)のページから転載させていただきました。
さらに同じページから、「禅寺丸柿について」を引用させていただきます。
明治時代の神奈川県には、「禅寺丸柿」に由来して「柿が生まれた村」ということで、柿生村(かきおむら)がありました。
1939(昭和14)年、川崎市に編入されて柿生村はなくなりましたが、「柿生駅」は残ってます。
「禅寺丸柿」は、1909(明治42)年に明治天皇に献上された柿でもあります。
2007(平成19)年には、文化財保護法に基づき登録記念物として登録され、保護措置がとられることとなりました。
続きは次のコメントで。
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2. Mikiko- 2020/10/21 05:58
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今日は何の日(つづき)
引用を続けます。
↓「禅寺丸柿」のキャラクターは、「かきまるくん」です。
https://zatsuneta.com/img/110214_01.jpg
麻生観光協会を中心に、柿生禅寺丸柿保存会や川崎市が連携し、着ぐるみを作製しました。
ゆるキャラ「かきまるくん」は、幅広く「禅寺丸柿」の存在をPRし……。
地域の活性化を図るべく、各地のイベントなどに参加してます。
以上、引用終わり。
柿生(かきお)というのは……。
狐狸庵先生の庵があるという設定の土地じゃなかったですかね。
わたしは、2年前の4月、庭に柿の木を植えました。
確か甘柿だったので、「禅寺丸柿」かと思ったのですが……。
記録をさかのぼってみたら、違ってました。
「富有柿」という品種でした。
比較的温かい地域で生産される柿のようです。
でも、植えてから2年半、枯れずにいてくれます。
続きはさらに次のコメントで。
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3. Mikiko- 2020/10/21 05:59
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今日は何の日(つづきのつづき)
しかし、今年は可哀想なことをしました。
大木の中にあって、覗きこまないと見えないんです。
で、夏ごろ、たまたま覗いてみたところ……。
アメシロに、大方の葉が食べ尽くされてました。
もちろん、薬剤をかけましたが、後の祭りです。
今も、残った葉は生きてます。
でも、成長は、大いに阻害されたでしょう。
実が成るまでが、1年遅れるんじゃないでしょうか。
もともと、隣の家の陰になって、陽のあたらない場所なんです。
そこしか地面が空いてませんでした。
それでも、上空には陽が通るので……。
ある程度成長すれば、陰から抜けられると思ってました。
残念ながら、今年は届きませんでした。
来年は、気をつけて、事前に薬剤を撒きたいと思います。
でも、実が成るようになったら、薬剤散布の時期も考えなきゃなりませんね。
あと、今年はもうひとつ、心配ごとがあります。
冬です。
ラニーニャが起きていて、厳冬が予想されてます。
植える直前の冬がそうだったんですよ。
新潟市でも、1メートル近い雪が積もりました。
またあんな雪が積もったら、凍えてしまうかも知れません。
幹に、何か巻いてやった方がいいですかね。
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4. 手羽崎 鶏造- 2020/10/21 10:50
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麻生区も柿生駅も、まあ近いです。
たしかに王禅寺という名刹があります。
柿の木が多そうな感じです。
狐狸庵先生の記念館(長崎・出津)
はとてもいいところです。
海を眺めながら本を片手に
珈琲を飲むには最高のロケーション
だと思います。
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5. Mikiko- 2020/10/21 19:05
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遠藤周作氏の住まいは……
川崎市ではなく、東京都町田市でした。
地図で見る町田市は……。
神奈川県の中に、ブーツの爪先を突きこんだみたいに食い込んでます。
なんで、東京都に入ったんですかね?
海を眺めながら珈琲を飲むには最高のロケーションかも知れませんが……。
長崎まで行くのが、大事業です。