Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
東北に行こう!(133)
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 あ、もうひとつ、脱衣所ではないという根拠を見つけました。
 自販機は、補充が必要です。
 業者が、定期的に補充に来てるんじゃないですか。
重労働だと思います
↑これ、何気に見てますけど、重労働だと思いますよ。腰に来るんじゃないかな。

 それとも、宿坊の人が補充してるんですかね?
 いずれにしろ、その作業をするのは男性だと思います。
 女湯の脱衣所内に自販機があったら……。
 補充できるのは、営業時間外に限られます。
 大浴場は、朝の5時から夜の10時まで営業してます。
宿坊のきまりごと
↑クリックすると、大きい画像が見られます。

 この間以外ということになります。
 でも、夜10時には消灯ですからね。
 事実上、営業時間外の補充は考えられないでしょう。
 ということは、自販機があるのは脱衣所の外です。
 「内湯の入り口」というのは……。
 男湯女湯の暖簾があったところでしょう。
男湯女湯の暖簾

 でも、正面からの写真には、自販機らしきものは写ってません。
 ということでわたしは、入り口のヒンプンみたいな壁の裏側と読んだわけです。
入り口のヒンプンみたいな壁の裏側

 しかしこの、ビールを売ってるという情報だけを信じて、お酒を持っていかないのは……。
 リスキーですね。

 「み」さん。
 取りあえず、4本の缶ビールをゲットし、部屋に戻って来ました。

み「あ!
 鍵がにゃい。
 先生が持ってるんだった。
 不覚!
 このまま、部屋の前で待ってるしかないのか。
 刻一刻と、缶ビールが温くなってしまうではないか。
 何をしておるのだ。
 む。
 温くなったからと云って、もはや返却することは叶わぬ。
 となれば……。
 ここで飲んでしまうしかないではないか!
 ということで、1本、いただかせていただきます」

 プッシュー!


み「これこれ。
 この音よ。
 本物のビールは、実に久しぶりじゃ。
 ぐびぐびぐび。
 おや?
 なんということでしょう。
 もう、1本空いてしまった。
 やっぱり、風呂上がりは、一気にいってしまいますわな」
風呂上がりは、一気に

み「うーむ。
 五臓六腑に染み渡る」
五臓六腑に染み渡る
↑解説はいらん!

み「しかし、立ち飲みというのも野暮なものじゃ。
 あ、そうだ。
 休憩所があったではないか。
 しばし、反転じゃ」

休憩スペース

み「ここここ。
 ここなら、アメニティグッズも脇に置いて……。
 のんびり飲めるではないか。
 ぐびぐび。
 しかし、これでテレビがあったら最高なんですけどね。
 いかにも無聊じゃ。
 ひたすら飲むしかないわい。
 ぐびぐび」
ぐびぐび

 しばし省略。

律「ちょっと、あんた。
 何でこんなところで飲んでるのよ」
ここに椅子があった

み「やっと来たな。
 先生が、部屋の鍵、持ってるでしょうに」
律「そんなら、引き返して取りに来ればいいのに」
み「ビールを買ってから気がついたんでやんす。
 ただ待ってたら、ビールが温くなってしまうと思って……。
 取りあえず、1本開けて、飲み申した。
 しかし、立ち飲みってのもなぁ。
 そう考えたら、ここに椅子があったことを思いだしたわけ」
律「それでビール、3本も飲んじゃったわけ?」
み「あり?」
律「あり?、じゃないわよ。
 わたしの分が1本しかないじゃない。
 いいわ。
 それもあんたが飲みなさい。
 自分のは買い直してくる。
 はい、部屋の鍵。
 なくさないでよ」
み「部屋は目と鼻の先でやんしょ。
 なくしようがありませんがな」
律「それをなくしかねないのがあんたでしょ」
なくさないでよ
↑わかる気がします。

 しばし省略。

 部屋で、最後の1本を飲む「み」さん。
 律子先生が、缶ビールを買い直して帰って来ました。
 ここで、「み」さんが寝てしまい……。
 オートロックで、律子先生が閉め出されるというネタも考えました。
オートロックで閉め出される

 でもたぶん、オートロックじゃない気がします。
 恐山に泊まる人たちの客種をおもんぱかるに……。
恐山大祭
↑恐山大祭。

 オートロックにしたら、トラブルが頻発する気がするからです。

み「ビール、まだ残ってそうだった?」
律「わからないわよ。
 あと何本あるかなんて」
み「やっぱり、温くなることを覚悟で……。
 すべて買い占めて来ますか」
買い占め
↑下の商品は、からし明太子のパスタソースのようです。これを買い占めるんですかね?

律「こういうところに泊まるのは……。
 そういう卑しさを捨てるための修業です」
懐かしや「脳内メーカー」
↑懐かしや「脳内メーカー」。

み「リスキー過ぎる。
 飲み足りずに酒が切れた夜は……。
 思い切り暴れそうじゃ」
群馬のご当地怪獣「ダルーマ」
↑群馬のご当地怪獣「ダルーマ」だそうです。

み「この気温じゃ、窓の外に出してても、温くなっちゃうしな。
 やっぱ、外界から持ってくればよかったな」
律「ビールを?
 どうやって持ってくるのよ。
 温くなるのは一緒でしょ。
 まさか、クーラーボックス引っ張ってくるわけにもいかないでしょ」


↑吉祥閣に泊まられる際には、ぜひ。

み「今度来るときは……。
 保険として、焼酎を持って来るべきじゃ。
 強いお酒は割って飲めるので、携帯に便利なり」


↑リュックのポケットに、すぽすぽ入ります。

律「氷はどうするのよ?」
み「確かに、水は洗面所で確保できるが……。
 氷だけは無理じゃな。
 水割りで氷なしじゃ、あまりにも無念」
あまりにも無念
↑そういう気分のとき、こういう解説をされたら……。殺しかねませんね。

律「だから、どうするのよ?」
み「簡単な話。
 お湯割りにすればいいんです。
 お湯なら、ポットでいくらでも湧かせる」
律「なくなったら終わりじゃないの?」
み「ぱかもん。
 ちゃんと、電源コードが出ておったわ。
 しかも、通電ランプが点いてた」
通電ランプが点いてた

律「よく見てたわね」
み「抜かりなし!
 あれは、明らかに電気ポットです。
 つまり、水を足せば、お湯には不自由しないわけです。
 お湯割りなら、お代わり自由じゃ。
 そうそう。
 梅干しも持ってこよう。
 あれなら、大して嵩張らん。
 腐らんし」
梅干しも持ってこよう
↑これこれ。

律「でも、電気製品はすぐダメになるんじゃなかったの?
 なんで、電気ポットは大丈夫なのよ?」
み「確かに……。
 電気ポットはオッケーで、テレビや冷蔵庫がダメな理由ってなんじゃろ?」
律「電子回路が壊れるとか?」
なんだか都市みたい
↑なんだか都市みたいですね。

み「それならむしろ、電気ポットはダメで、冷蔵庫はオッケーじゃないの。
 冷蔵庫に、電子回路なんてないでしょ。
律「そう云えば、大浴場にはドライヤーもあったわ」
大浴場にはドライヤーもあった

律「問題なく動いたわよ」
問題なく動いた

み「密かに、爆発することを願っておったのだが」
爆発することを願っておった

律「おあいにくさま。
 日ごろの精進がいいですからね」
み「あ!
 ピカーン」
律「何よそれ?」
み「閃いた音。
 ひょっとして、熱くなるのはオッケーで……。
 冷たくなるのがダメなんじゃないの?
 なので、熱くなる電気ポットとドライヤーは備え付けてある。
 逆に、冷たくなるエアコンと冷蔵庫は置いてない」
冷凍人間・岡崎
↑冷凍人間・岡崎(『怪奇大作戦』)。

律「テレビは熱くなるけど」
み「問題を複雑にすな!
 そもそも、エアコンと冷蔵庫は、どうやって冷たくなるんじゃ?」
律「あ、それ知ってる。
 こないだ、ナースステーションのエアコンが調子悪くなって……。
 事務長が業者を呼んだのよ。
 そしたら業者の人が、“れいばい”が漏れてるって」
み「“れいばい”ってなんじゃ?
 まさか、あれじゃあるまいな」
律「何よ?」
み「イタコの類いですがな」
潮来
↑もちろん、この「潮来」ではありません。

律「やっぱりそう思う?
 聞いてた看護師も、そう思った子が多かったみたい」
み「違うのか?」
律「違うに決まってるでしょ」
違うに決まってる

み「そしたら、何のこっちゃねん?」
律「冷気を媒介するガスのことよ。
 冷媒」
み「エクトプラズムみたいなものか?」
鼻から脳が出てるとしか
↑鼻から脳が出てるとしか思えません。

律「わたしもちょっと気になったから……。
 そのとき、スマホで調べてみたの。
 そしたら、エアコンの中では……。
 室内機と室外機の間を、冷媒と呼ばれるガスがぐるぐる回ってるんだって」
冷媒と呼ばれるガス

み「回ってどうする?」
律「冷媒の役割は、空気の中にある“熱”を運ぶことなの。
 それ以上は、よくわからなかったけど……。
 つまり、そのガスが熱を移動させることによって、冷たい空気が出るらしいわけ。
 詳しい仕組みまでは、読む気にならなかったけど」
エアコンの仕組み
↑クリックすると、大きい画像が見られます。さっぱりわかりませんが。

み「まぁ、いいわい。
 説明されても、わからんだろうから。
 てことはひょっとして……。
 冷蔵庫にも、その冷媒が住んでるんじゃないのか?」
律「そうかもね。
 電気を使って冷やすというのは同じなんだから」

 ↓調べたら、実際、冷蔵庫にも「冷媒」が使われてました!
冷蔵庫にも「冷媒」

 思いつきで書きましたが、大正解でしたね。
 エアコンや冷蔵庫の冷媒には、昔は「フロン」が使われてたそうです。
 でも、人工的に化学合成された物質であるフロンは……。
 オゾン層を破壊することがわかってきました。
フロンはオゾン層を破壊する

 そのため今は、生産が全廃されてます。
 現在は、フロンを使わない冷媒が使われてます。
ノンフロン
↑このマークのある製品を買いましょ-。

み「わかった!」
よし、わかった
↑石坂浩二主演の金田一耕助氏シリーズでの、加藤武(等々力警部)の名セリフ。

律「冷房の仕組みが?
 大したものじゃない」
み「違いまんがな。
 ここ恐山で……。
 冷たくなる電気製品に限って、調子が悪くなるわけ」
律「ぜったい違ってると思う」
み「まだ、何も言ってないだろ!
 いいか。
 冷蔵庫やエアコンの中に封じられた冷媒の気体」
冷蔵庫やエアコンの中に封じられた冷媒

み「これと、恐山に満ち満ちる霊媒の気」
恐山に満ち満ちる霊媒の気

み「この2つが、早い話、障る訳よ。
 お触りの“触る”じゃないぞ。
 差し障るの“障る”じゃ」
さわる

律「馬鹿馬鹿しい。
 じゃ、テレビはどうしてダメになるの?
 携帯は?
 冷たくならないでしょ。
 むしろ、点けておけば熱くなるわよ」
点けておけば熱くなる
↑いくらなんでも、こうはなりません。

み「それは……。
 テレビや携帯の中には、最初から霊媒が入ってるからでやんす」
律「冷たくならないじゃないの」
み「その冷媒ではない。
 文字どおり、霊界通訳の方の霊媒じゃ」
律「それが、テレビや携帯に入ってるって言うわけ?」
み「左様じゃ」
律「アホくさ」
み「良いか。
 テレビは、中から貞子が出て来たりするでしょ」
テレビは、中から貞子が出て来たり

み「異界とを繋いでるわけよ」
律「それは映画の話でしょ」
み「携帯も、テレビが映るから同じじゃ」
小さい貞子
↑小さい貞子です。

み「すなわち、人の姿を映すものには……。
 必ず霊が宿っておる。
 その霊と、恐山の霊気が障るわけよ。
 お分かり?」
律「わかるわけありません。
 もうビールが空いちゃったわね。
 それじゃ、じゃんけん」
み「さっきから、わたしばっかり行ってるじゃんか」
律「負けるんだから仕方ないわよ」
ジャンケンだけは弱い
↑ジャンケンだけは弱い。

み「今度から、勝った人が行くことにしない?」
律「いいわよ」
み「それでは!
 最初はグー。
 あ、ちょっとタンマ。
 この“最初はグー”って、誰が始めたか知ってる?」
最初はグー

律「知らないわよ。
 でも、子供のころは、そんなことしてなかったと思うけど」
み「だしょー。
 起源は、案外最近なんだよ。
 さぁ、誰が発案したのでしょう?」
律「知るわけないでしょ」
み「はい、負け。
 ビール買ってきて」
律「何でよ!」
み「ウンチク代ですがな。
 飲み屋での話題に使えまっせ」
ウンチク代

律「飲み屋なんか行ってる暇ないから、知らなくていい」
み「語らせろ」
律「勝手にしゃべりなさいよ。
 タダで聞いてやるから」
み「ほんまにケチじゃな。
 まぁ、いい。
 発案者は、志村けんなのです」
発案者は、志村けん

律「またヨタを」
み「ほんまじゃ。
 古き良き時代、ドリフ大爆笑のころと云う。
 聞いとるけ?」
律「それは、サンマでしょ」
み「サンマは、しっとるけじゃ」


み「いいか。
 番組の打ち上げで、飲み屋に行ったわけよ。
 で、支払いの段。
 当時は、割り勘のアプリもない」
割り勘のアプリ

み「芸能人が、財布取り出して金集めてるなんて、みっともない。
 ということで、じゃんけんで負けたヤツが、全額支払うことになったのじゃ」
律「すごい金額なんじゃない?」
すごい金額
↑一番下の「税抜特別料理」の数量のところに、金額を入れてしまったんですね。合計して消費税8%(当時)を載せるとぴったり合います。

み「おそらくな。
 酔いも醒めるほど真剣になったんじゃないかな。
 ところが!
 酔っ払ってる上に、気合いまで入ってる。
 というわけで、じゃんけんのタイミングが、まったく合わなかったわけ。
 そこで、志村けんが提案したのよ。
 タイミングを合わせる方法を。
 “最初はグー”で、拳を揃えて出す」
最初はグー

み「拳を引っこめると同時に、“じゃんけんぽん”。
 これで、タイミングがぴったり合ったわけよ」
志村けんが提案

律「ほんとなの?」
み「ヨタではない。
 はい、うんちく代」
律「だから、払わないって言ったでしょ」
み「ケチ」
ケチ

み「それじゃ、志村けん方式でやるぞ。
 勝った方が買いに行く。
 いいな?」
律「お金も、勝った方が出すのね」
み「う。
 急に真剣になってきた」
急に真剣

み「それじゃ、いくぞ」
律・み「最初はグー」
律・み「じゃんけんぽん」
じゃんけんぽん

み「……」
律「おめでとうございます。
 やっと勝てたわね」
み「な、なぜじゃ……」
な、なぜじゃ

律「そういう星の下に生まれてきたということよ」
み「くそ。
 まだ次がある」
律「早く買ってきて」

 入り口の扉を出た「み」さんですが……。
 すぐに戻って来ました。

律「ちょっと、もう買ってきたの?
 そんなわけないわよね」
み「廊下が、真っ暗でやんす」
廊下が、真っ暗

律「あら、いつの間にか、10時を過ぎてるわ。
 消灯ってこと?」
消灯

み「残念なり」
律「何言ってんのよ。
 自販機は動いてるでしょ。
 あんなのまで、いちいち電源切るわけないわ」
み「真っ暗な中、わたしにあそこまで買いに行けと?」
律「道順は覚えたでしょう。
 なんべんも行ったり来たりしたんだから。
 壁を伝っていけばいいんだから、簡単よ」
この方は、トイレを目指してる
↑この方は、トイレを目指してると思われます。

み「せめて、懐中電灯を……」
律「そんなものはありません。
 あ、スマホのライトを使えばいいじゃない」
み「そんなの付いてないぞ」
律「みんな付いてるわよ。
 貸してご覧なさい。
 こうやって、スワイプして……」
スワイプして

律「ライトをタップすればいいの」
ライトをタップ

律「ほーら、点いた」
み「淋しい明かりでやんす」
淋しい明かり

律「大丈夫。
 きっと一緒に行ってくれる人がいるわよ」
み「先生、優しい!」
律「わたしは行かないわよ」
み「ほかにいないではないか?」
律「いっぱいいるでしょ。
 霊の方々」
霊の方々

み「また、そんなことを言う!」
律「悪いことしてなければ、怖がることなんかないでしょ」
み「そういうものじゃないだろ。
 悪いことしてなくても、災いは降りかかるものじゃ」
災いは降りかかる
↑これって、ジョークですよね?

律「そんなら、諦めもつくじゃない」
コロナの今、立ち止まって考えるべき
↑コロナの今、立ち止まって考えるべき言葉だと思います。

み「つきませんって!」
律「あ、あなた。
 立派な悪いことしてるじゃない。
 恨まれてるわよ。
 なにしろ、殺しちゃったんだから」
み「誰を!
 わたしが殺したのは、蚊とゴキブリくらいのものじゃ」
イラストにすると可愛い
↑イラストにすると可愛いですが、本物はホンマに憎たらしい。

律「人間。
 立派な殺人」
み「してませんって」
律「女教師さんよ。
 車の事故で殺したでしょ」
車の事故で殺した

み「小説だろ!
 そんなこと言ったら、推理作家なんか、何人殺してるんだ!」
「D坂」は、千駄木にある団子坂
↑「D坂」は、千駄木にある団子坂だそうです。

み「しかも、きゃつらは、それで金もらってるんだぞ。
 自慢じゃないがわたしは、1文ももらっとらん」
お恵みを乞う
↑お恵みを乞う、人と犬と猫。

律「もらってる人は、たぶんそのお金で供養してるのよ」
たぶんそのお金で供養してる

み「そんなわけあるか!」
律「いいから、行って来なさいって。
 同行2人」
背後霊写真サービス
↑『妖怪食品研究所』さんの「背後霊写真サービス」だそうです。

み「いやじゃー」
律「そんなにイヤ?」
み「泣くほどイヤでやんす」
泣くほどイヤでやんす

律「仕方ないわね。
 それじゃ、一緒に行ってあげるから」
み「かたじけない」
かたじけない

み「恩に着るでやんす」
律「ほら、先に出て。
 ライトで前の方、照らしてちょうだい」
み「がってん」
ライトで前の方、照らして

 ガチャ!


み「なんじゃ!
 総身の血が引く音がしたぞ。
 うおー。
 なんてこったー。
 扉が閉まっとる」
タオルがあって良かったですね
↑タオルがあって良かったですね。

み「ちょっと、先生!」

 ドンドン!
ドンドン!

 ガチャガチャ!

み「お、おのれ。
 鍵まで掛けおって。
 何のつもりじゃ」
律「うるさいわね。
 近所迷惑でしょ。
 早く買ってきて。
 買ってこない限り、扉、開けないから」
み「そ、そんな……。
 忘れとった。
 先生の酒癖。
 飲むほどに、根性が曲がっていく……。
 邪悪上戸」
邪悪

み「いいですよ。
 わかりましたよ。
 買ってくればいいんでしょ。
 自販機までの道のりは……。
 この身に染みつき申した。
 渡り鳥みたいなものじゃ」
渡り鳥みたいなもの

み「飛べないけど」

 「み」さん、足元をスマホで照らしながら階段を下り……。
 ようやく、大浴場の入口前までたどり着きました。
大浴場の入り口前

み「着いたぞ。
 はるばる来たぜ、函館」

↑名曲です。

み「じゃなくて、自販機。
 この壁を回りこめば……。
 酒が待っておる。
 久々に、若山牧水の名歌を思いだしてしまった」

●足音を 忍ばせて行けば 台所に わが酒の壜は 立ちて待ちをる

み「痛いほど、その気持ち、わかり申す。
 時空を越えた我が友と言いたい」
時空を越えた我が友
↑一緒には飲みたくありませんが。

み「うひゃひゃー。
 びっくりしたー。
 スマホのライトが消えてしもうた。
 おのれ、バッテリー切れか。
 しかも……。
 驚きすぎて、財布を落としてしまいましたぞ。
 大変じゃ。
 せっかく風呂に入ったのに……。
 こんなとこで四つん這いじゃ。
 往年の“やすしきよし”漫才の鉄板ネタを思いだすわい」
「やすしきよし」漫才の鉄板ネタ
↑メガネを探してます。

み「ないない。
 どこに転げたのじゃ。
 こういうとき、むやみに動くと、最初の場所を忘れてしまう。
 よし。
 まず、スリッパを脱いでと。
 目印じゃ」
このスリッパだと、暗闇では見づらい
↑このスリッパだと、暗闇では見づらいでしょうね。

み「とにかく、この周りを探せばいいのだ。
 しかし……。
 淋しいもんですな。
 独り言って」
この子は多分、頭が割れて痛い
↑この子は多分、頭が割れて痛いのでしょう。

み「ぅひゃー。
 ぅひゃひゃひゃ」
びっくり仰天
↑びっくり仰天の様子。

み「せ、先生ですか?
 今、わたしの背中を触ったの?
 先生ですよね?
 お願いですから、そう言ってください」
お願いですから

声「確かに、先生と呼ばれていた」
先生と呼ばれていた

み「違うんですけど。
 声が違うんですけど」
首を振っております
↑首を振っております。

声「ここ恐山で迷っていたら……。
 ひとすじ、脳天気な女の気が漂うておった」
脳天気な女の気

声「わたしには、この世に係累などないはずなのだが……。
 その気だけは、あまたのほかの気とは違っておった」
み「恐山で迷うって……。
 ここで道に迷ったんですよね」
ここで道に迷った

み「まさか、あの世への……」
自転車の青年は、戻ってきた
↑自転車の青年は、こちらへ戻ってきたんですかね?

み「否!
 断じて、否!
 そんなものおるわけがない。
 あなた、ここの泊まり客ですか?
 こんな声の人は記憶にないのですが」
声「よくしゃべる女だ」
み「怖いからに決まってるでしょ。
 悪い冗談は、止めて下さい。
 お坊さん、呼んできますよ。
 叱られますからね」
叱られますからね

み「か、関係のない善良な市民を脅かしたりして」
声「関係ないだと?
 おまえは、この世で、たった一人……。
 わたしと関係のある人間だ」
み「なんでですかー。
 心当たりありませんけど」
わたしと関係のある人間

み「えー、そうですとも。
 これっぽっちも」
声「まだ、そんなことを言うか。
 おまえは、わたしを殺したではないか」
み「そんなー。
 わたしはそんな重罪は、犯しておりません。
 いえ、決して清廉潔白とは申しません。
 確かに、500円玉を拾って自分のものにしたことはあります」
500円玉を拾った

み「でも、その程度です。
 間違っても、人を殺したことなど……」
声「それでは、わたしの顔を見てみろ」
み「断ります」
断ります

み「断じて断ります。
 結構毛だらけ……」
猫灰だらけ
↑猫灰だらけ。

声「それなら、わたしが前に回ってやろう」
み「……」
声「目をつぶるな!」
目をつぶるな!

み「見え申さん。
 ええ、何も」
声「おまえは、目の前の困難から、常にそうして逃げてきた」

↑この困難からは逃げてもいい。

み「そ、それでここまで、無事に世を渡って来れたでやんす」

●あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり
赤道は、黄色い線でした
↑赤道は、黄色い線でした。

声「斎藤茂吉がどうした?」
茂吉と、次男の北杜夫
↑茂吉と、次男の北杜夫。北さん、美男です。

み「さすが、茂吉の歌をご存じで」
声「教師だと言っただろう。
 突然、なんで茂吉が出てくるのだ」
み「ですから……。
 首尾一貫した、わたしの生き様に通ずるかと」
これぞ、首尾一貫焼き?
↑これぞ、首尾一貫焼き?

声「首尾一貫して、目の前の困難から逃げてきたと?」
み「左様でやんす」
声「ぜんぜん歌の趣旨と違うではないか。
 愚か者が」
愚か者が

声「目をつぶっても、意味がないのがわからんか」
み「わ、わかり申さん」
声「そもそもここは、何の明かりもない真っ暗闇だろうが。
 目を開けても何も見えんわ」
み「開けません。
 えー、開けませんとも。
 見える気がするんでやんす」
見える気がする

声「そうだな。
 それでは、おまえの頭の中に入って……。
 視神経に、直接、わたしの姿を映してやろう。
 ほーれ」
み「あんぎゃー」
あんぎゃー

 ブクブク。
ブクブク

律「ちょっと、いきなり大声あげて、どうしたのよ。
 呆れた。
 泡まで噴いて。
 マムシに噛まれた夢でも見たのかしら」

↑マジで面白いです。

律「起きなさい。
 起きなさいって」
起きなさい

み「……。
 ひえー。
 せ、先生!
 やっぱり、助けに来てくれたんだね。
 助かったでやんす。
 ところで、女教師は消えたんだよね?」
女教師は消えたんだよね?

律「何言ってるの、あなた。
 飲み過ぎじゃないの?」
み「あれしきのビール、何ともおへんがな」
微妙に邪魔かも
↑考えましたね。でも、微妙に邪魔かも……。

律「焼酎も飲んだじゃないの。
 半身揚げと焼き鳥で」
み「や、焼き鳥?
 恐山で焼き鳥なんか食べれませんよ。
 そんなことしたら、地獄行きです」
地獄行き

み「しかし……。
 なんじゃ、この匂いは?」
なんじゃ、この匂いは?

み「明らかに焼き鳥ではないか!
 しかも、明るい。
 消灯したはずなのに」
律「さっきから、何、言ってるの?」
み「ここは……。
 どこ?」
律「あんたが連れてきてくれたんでしょ。
 鳥料理の『せきとり』」
鳥料理の『せきとり』

み「ウソ……。
 ですよね?
 でも、ウソだとしたら……。
 この大がかりなセットは何?
 しかも、エキストラまで、こんなに一杯!」
エキストラまで、こんなに一杯!
↑前列中央が『せきとり』のご主人。両脇はアナウンサー。

み「しかも全員、本人にそっくり!」
律「まだ寝言言ってるの!
 しっかりしてよ。
 これから、東北の旅に出るんでしょ」
融通無碍な時間
↑東北の旅には、“融通無碍な時間が流れてる”と言うときのお決まり画像(Mikiko作成)。

み「こ、これから?
 これから……。
 これからまた、あの長い旅を、もう一度始めようって言うの?
 う、うそじゃー。
 うそでござるぅぅぅぅぅ。
 ブクブク」
ブクブク

律「また、沈没しちゃった。
 ほら、起きなさいって。
 もう、看板だってよ。
 9時半で看板なんて、東京じゃあり得ないわ。
 さ、次、行くわよ。
 ぜんぜん、飲み足らないんだから」

(「完」もしくは「永遠につづく」)



あとがき

 突然ですが……。
 『紙上旅行倶楽部/東北に行こう!』、本日で終了とさせていただきます。
 一時は、体力的に書けなくなるまで続けようと思ったんですけどね。
 その前に、気力の方が、少々へたってしまいました。

 この連載が始まったのは、奇しくも……。
 2010年10月8日の『由美と美弥子 0556』のコメントでした。
 当初『紙上旅行倶楽部』は、『由美と美弥子』のコメントとして連載してたんですよ。
 ところが、FC2を追い出され、ライブドアに移転したところ……。
 コメントに、画像を表示できなくなりました。
 ということで、本編記事として独立したわけです。
 しかし、奇しくも本日は、2020年10月9日。
 きっちり、丸10年でした。
 もっとも後半は、ずいぶんお休みがありましたけどね。
 2014年からは、リアルの旅行記である『単独旅行記』が始まったからです。
 『東北に行こう!』は、その合間を埋めるかたちの連載となってました。

 この度の最終回を書くにあたり、冒頭のシーンと繋げるため……。
 連載当初の文章を読み直しました(『東北に行こう!・総集編(1)』)。
 しっかり調べて書いてたことに、少なからずショックを受けました。
 筆力が落ちたとは思いたくありませんが……。
 モチベーションが、今とは段違いだったことは認めないわけにはいきません。
 やっぱり、いいやめどきだったんですよ。
 しかし、なんであんなにしっかり書けてたんだろう。
 と、やや消沈したのですが……。
 わかりました!
 ↑に書いたように、当初は、『由美と美弥子』のコメントとして連載してたんですよ。
 だから、ほかのコメントはまったく書かなくてよかったんです。
 ところが今はどうでしょう。
 『由美と美弥子』『東北に行こう!』の両方にコメントを付けてます。
 書いてる量、ぜんぜん違いますよね。
 ちょっと安心しました。

 ところで、本日2020年10月9日は、もうひとつ、感慨深い日となったんです。
 『東北に行こう!』の冒頭シーンは……。
 新潟駅の万代口からタクシーに乗るところから始まります。
 その万代口が、きのうをもって閉鎖されたんです。
 新潟駅の高架化に伴う「万代広場整備事業」により……。
 現駅舎が撤去されることになってたからです。
 それにともない、現在の万代口は閉鎖され……。
 仮設の改札口が設置されることになりました。
 新駅舎が完成したら、万代口は、2階になるんですかね?
 いずれにしろ、現在の万代口の閉鎖が、今日なんです。
 きのうの帰りは、少し感慨を持って万代口を眺めて来ました。

 で、仮設の万代口。
 いったいどうなってるのか、今日これから、初めて見ることになります。
 楽しみな反面……。
 ものすごく不便になってたらどうしようというという不安もあります。
 ま、行ってみなければわかりません。
 しかし、この日が奇しくも『東北に行こう!』の最終日となったこと……。
 ほんとうに不思議です。
 まったく意図してなかったんですよ。
 なにかの意思が働いてるようにさえ思えてしまいます。

 さて、「完」と銘打ちましたが……。
 同時に、「永遠に続く」とも書きました。
 もう1度、冒頭のシーンに戻って読み直していただけたら……。
 望外の喜びです(『東北に行こう!・総集編(1)』)。
 わたしも、老後の楽しみとして読み返したいと思います。
 また、もしも気が変わったら……。
 恐山のシーンからの続きを書くかも知れません。
 これはまだ、だいぶ先の話になりそうですが。

 なお、『鳥専門店 せきとり』は……。
 コロナも乗り越え、今も健在です。
 こちらの「半身揚げ」がどう言うものかは、YouTubeでご覧になって下さい(「新潟 せきとり」で検索)。
 ただ、本店を訪ねる場合は、要注意。
 ほんとに不便な場所にあるんです。
 お酒を飲んでしまったら、帰りはタクシーしかありません。
 なお、上記リンクのホームページには、「お取り寄せ販売」のページも掲載されてます。
 冷凍されており、レンジでチンするだけで食べられます。
 わたしも、今度のクリスマスには、注文してみようかな。

 ともあれ!
 10年間。
 ほんとに……。
 ほんとうに、ありがとうございました。m(_ _)m
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