2020.8.8(土)
僧「一番上の横書き、読めますかな?」
み「喝(かつ)の観五」
僧「当たっていると思いますか」
み「3割ほどは」
↑会社では絶対必要でしたが、テレワークしたら、ぜんぜん必要じゃありませんでした。
僧「そもそも、読む方向が違います。
右から左です」
み「なんで右から読むのじゃ。
アラビア語じゃあるまいし」
↑これを見ただけで挫折。
僧「それは、これをトラックの右側面に貼るためです」
み「はぁ?」
僧「トラックの右側って、社名を右から書いてありますでしょ」
↑「所業エロ山」ではありません。「山口工業所」です。
み「何でトラックに貼るのじゃ!」
僧「思いついただけです」
み「僧が思いつきで喋るな」
僧「あなたの耳と一緒です」
み「何で」
僧「右から左でしょ」
み「なんだか、酔っ払いと喋ってる気がしてきた」
僧「それは、わたしのセリフです」
律「どうか、これにかまわないで下さい」
僧「修業が足りてませんな」
み「千年修業せい」
僧「関わりませんぞ。
この横書きは、『五観の偈(ごかんのげ)』と読みます。
あなたはさっき、“喝(かつ)”とおっしゃいましたが……。
僧「あれは口偏です。
“偈(げ)”は、人偏。
“偈”とは、元はサンスクリット語で……。
仏の教えや徳をたたえるために、韻文の形式で述べたものです」
↑お経の一種なわけですかね?
み「早い話、詩であるわけだな」
僧「左様です。
耳に心地よいリズムを持っております。
内容がわからなくても、覚えやすい。
古くから、教えを広めるために用いられてきた形式ですな。
それではまず、わたしに続いてご唱和ください。
まずは、意味がわからなくてもけっこうです。
リズムある文章の流れで、沐浴するようなお気持ちで。
それでは、始めます。
一(ひとつ)には功の多少を計り彼(か)の来所を量る」
皆「一には功の多少を計り彼の来所を量る」
僧「二(ふたつ)には己れが徳行の全缺(ぜんけつ)を忖(はか)って供(く)に應ず」
皆「二には己れが徳行の全缺を忖って供に應ず」
僧「三(みっつ)には心(しん)を防(ふせ)ぎ過(とが)を離るることは貧等(とんとう)を宗(しゅう)とす」
皆「三には心を防ぎ過を離るることは貧等を宗とす」
僧「四(よっつ)には正に良薬を事とするは形枯(ぎょうこ)を療(りょう)ぜんが為めなり」
皆「四には正に良薬を事とするは形枯を療ぜんが為めなり」
僧「五(いつつ)には成道(じょうどう)の為めの故に今此(こ)の食(じき)を受く」
皆「五には成道の為めの故に今此の食を受く」
僧「みなさん、暗記できましたかな?」
↑現在、鎌倉幕府の成立年は、1192(いいくに)ではなく、1185(いいはこ)になってます。
み「でけるか!」
僧「暗記できないと、地獄に落ちます」
み「脅してどうする!」
僧「もちろん冗談です。
この中で地獄に落ちるのは、この方だけです」
み「なんでじゃ!」
僧「それでは、一文ずつ解説して参ります」
み「まだ食えんのか!」
僧「食事すなわち、修業そのものです」
み「自分がウンチクを垂れたいだけだろ」
僧「わたしが垂れるのはウンチクですが……。
あなたのは“ク”を抜いたものじゃないですか」
み「ウンチを垂れる……」
み「食事時にそんな下品なこと言っていいのか!」
僧「おっしゃったのはあなたです」
み「僧が罠を仕掛けてどうする」
僧「それでは、解説を始めます。
まずは……。
『一(ひとつ)には功の多少を計り彼(か)の来所を量る』。
この食事は、いきなりここに現れ出たものではありません」
み「出来たら、ドラえもんじゃ」
僧「続けます。
まず直近は、うちの厨房の者が料理したわけですが……」
↑『吉祥閣』ではありません。
僧「その前に、材料はお店から買い求めます。
お店では、棚に商品を並べる人がいます」
僧「さらにお店には、納入業者がトラックで運んできます」
僧「その前には、市場などで競りにかけられるのでしょう」
僧「そこに持ちこむのは、農協さんでしょうかね」
↑トウガン(冬瓜)だそうです。食べたこと無いかも。
僧「さらにもちろん、その前には、農家の方の苦労がある」
↑生まれ変われたら、こんなところで農家がやりたいです。
僧「さらに遡れば、種苗を生産する工場がある」
僧「この一膳の料理が、こうして調うのは……。
数限りない人々の働きがあってこそなのです。
まずは、その来歴に思いをはせ……。
人々に感謝をするところから、食事は始まるわけです」
み「ぐぅ~」
僧「何ですか?」
み「感謝しすぎて、お腹が鳴った」
僧「健康な証拠です。
ありがたいことです。
続けます」
み「やっぱり」
僧「『二(ふたつ)には己れが徳行の全缺(ぜんけつ)を忖(はか)って供(く)に應ず』。
そうして調えられた食事を、はたして自分はいただくに値するのか。
それを心に問い、反省するのです」
↑月曜の朝は、わたしもこんな感じです。
み「胸を張って値する」
僧「大した自信ですな」
み「1万2千円も払っておる。
いただくに値するに決まっておる」
僧「続けます。
『三(みっつ)には心(しん)を防(ふせ)ぎ過(とが)を離るることは貧等(とんとう)を宗(しゅう)とす』」
み「よく覚えられますな」
僧「意味を知れば自然と胸に入ってきます。
しかし、これは少しく難しいですな」
み「トントンを投げたら、シュート回転したというところはわかった」
僧「トントンとは何です?」
み「パンダではないか」
↑トントン(年1986~2000年)の剥製【国立科学博物館】。死因は癌だったそうです。
み「大陸伝来の教えに、パンダが出て来ても不思議ではない」
僧「パンダのことなど、どこにも書いてませんがな。
確かに、『貧等(とんとう)』はわかりにくいですな。
これは、三種の煩悩である『貪(とん)・瞋(じん)・癡(ち)』のいわゆる三毒を指します。
『貧(とん)』は、むさぼりですな。
美味しいものを前にすると、貪り食べてしまいます」
僧「『瞋(じん)』は、怒りや憎しみ。
粗末な食膳に怒ったり不平を言ったりする心です」
僧「『癡(ち)』は、愚かさ。
食することの意義や作法をわきまえないことです」
僧「すなわち、心を正しく保ち、あやまった行いから身を遠ざけるためには……。
毎日の食においても、『貪瞋癡(とんじんち)』を常に意識していなければならないということです。
続けます」
み「なかなか粘り強いではないか」
↑毎朝食べてます。ウマいぜ!
僧「こういうお客様のお相手をするのも、修業の一環です」
み「なんだか、クレーマーみたいではないか」
僧「『四(よっつ)には正に良薬を事とするは形枯(ぎょうこ)を療(りょう)ぜんが為めなり』」。
『形枯(ぎょうこ)』は、痩せ衰えること。
すなわち食とは、この命を支えるためにいただく良き薬なのです」
↑江戸時代では、「薬食い」と称して獣肉を食べたそうです。
僧「よろしいですか?」
み「続けてよし」
僧「今日は、ひたすら修業です。
それでは、ようやく最後になります。
『五(いつつ)には成道(じょうどう)の為めの故に今(いま)此(こ)の食(じき)を受く』。
『成道(じょうどう)』とは、悟りを開くことです」
僧「その究極の目的を果たすために、今、この食事をいただきます。
それでは、みなさん、たいへん長らくお待たせいたしました。
いただきます」
皆「いただきます」
僧「あ、みなさん」
み「まだあるのか!」
僧「お食事後、箸は箸袋に収め、お部屋にお持ち帰り下さい。
明朝の食事にも使いますので、忘れずにご持参下さい。
なお、その後は、お持ち帰りになってけっこうです。
それではわたしは、これで失礼します」
み「風のように去っていったな」
↑ふなっしー、驚異の逃げ足。
律「あなたがあんまり絡むからよ。
恥ずかしいんだから」
み「げ、この箸……」
律「ちょっとスゴいわね」
み「家で使う気になりまっか?」
律「これはやっぱり、お仏壇とかに供えるんじゃないの」
み「で、死んだとき、枕元のご飯に刺すんだな」
↑枕飯(まくらめし)と云うようです。
律「もう、準備万端じゃないの。
いつでも死ねるわよ」
↑ご存じ、秩父市の奇祭「ジャランポン祭り」。
み「よし、善は急げだな。
って、何が善じゃ。
この箸を使うのは、まだ当分先だわい。
それよりこれ、オークションで売れませんかね?」
律「罰があたるわよ」
み「それではいただきますか。
まずは手を合わせましょう。
なんまいだ」
律「ちょっと!」
み「あ。
うっかりと箸を刺してしまった」
律「おまえはもう死んでいる」
み「えんがちょ」
↑「縁がチョン(切れる)」が語源だとか。
み「なかったことにします」
み「しかしなんだすな。
この料理、死んだ父に食べさせたかったな」
律「急に殊勝なこと言うじゃない」
み「父は若いころ、胃潰瘍で胃を3分の2くらい切っててね」
↑どういう手術だったかまでは聞いてませんが。
み「ほんと、食が細かった。
背が高かったから、まさしく鶴が歩いてるみたいだった」
↑やっぱり、サギの方が近かったかも。
み「その父なら、この料理でもお腹一杯になったろうね」
律「何が言いたいわけ」
み「どう考えても、少なくね?」
律「さっきの『五観の偈(ごかんのげ)』、ぜんぜん頭に入ってないじゃないの」
み「あれは、料理が少ないことへの布石ですか?」
律「あなたは早食いだから、足りなく感じるのよ」
律「噛みしめてゆっくり食べれば……。
その間に血糖値があがって、満腹感を得られるものよ」
↑か、過酷。
み「そういう先生も、早食いですがな」
律「職業柄、仕方ないわ。
ゆっくりとなんか食事を摂れないことがほとんどなんだから」
み「一番豪勢なのは、この天ぷらですかね」
み「でもこんなの、箸で浚えば一口だわ」
律「そうできないように、塗り箸なんじゃないの。
ひとつずつ食べなさい」
み「しかし、酒なしで夕食を摂るのは、年2回と決めておるのじゃが……」
↑内視鏡検査と職場健診の前日です。
み「今年は、3回になってしまった」
律「だからゆっくり食べなさいって。
公園の鳩じゃないんだから」
↑これはもちろん鳩ではなく……。イグアナです。
み「おっと、あやうくオカズを食べきってしまうところだった。
もう1杯、お代わりせねば。
のりたまでも持ってくれば良かったな」
↑久しぶりに食べたくなりました。
み「先生は?、おかわり」
律「いただこうかしら。
誰かのせいで待たされた分、お腹へっちゃった」
み「当然ここは、あのジャーからのセルフサービスじゃな」
み「お茶碗、寄こしなせい。
わたしがよそってきてくれる」
律「お椀、間違わないでよ。
区別つかないんだから」
み「間違ったって実害なかろう。
毒など持っておらんわ」
↑スポーツカーみたいですね。こういう派手な見た目を、警告色と云います。「毒持ってんぞー」と警告してるわけです。
律「怪しいもんだわ」
み「医者とは思えない発言。
そんなら、茶碗の縁に、鼻くそでも付けておきんさい」
律「食べてるときに!」
み「そんなら、その豆腐の味噌を付ければいいではないか」
律「ほんとに、なんでこんなことをしなきゃならないのかしら。
ほら、ここに付けたからね。
舐めたりしないでちょうだい」
み「妖怪じゃあるまいし」
↑妖怪「垢舐め」。ただの変態だと思います。
み「盛りはどうする?」
律「もりって?」
み「大盛りか、てんこ盛りか?」
律「普通でいいわよ」
み「こんなとこで気取ってもしょうがないぞ」
律「気取ってません」
み「確かに、このオカズの量じゃな。
白米ばっかり食ってたら、脚気になるわ」
↑脚気は“江戸患い”とも称されました。
律「一食くらいじゃ、関係ないわよ」
み「そんじゃ、ちょっくら行ってまいります」
律「見張ってるからね、お椀。
あ、すみませんね。
わたしたちだけ、うるさくて。
あれも、決して悪い人間じゃないんですよ。
頭が悪いだけで」
み「盛ってきたぞ。
ほれ、先生のが、これじゃ。
ちゃんと、味噌が縁に付いとる」
律「あんた……。
少しは、恥というのを知りなさい。
それじゃ、枕飯でしょ」
み「箸を刺すか」
律「やめなさいって」
み「オカズが足りん」
律「わかりきってたことじゃないの」
み「お味噌汁は飲んじゃってるから……。
ぶっかけるわけにいかんしな。
あ、これでいいか」
律「ちょっと、それ天つゆでしょ」
み「何も味がないよりはマシじゃ。
ほれ、これをちょろっと。
うわ。
ドバッといってもうた」
律「そんなの残して立てないわよ。
みっともないから。
全部食べなさい」
み「きびしー。
あ、けっこうイケます」
↑うちの犬も好きでした。
み「かすかに、天ぷらの味も残ってて。
なんか、わびしいけど」
律「こんなに綺麗な料理なのに……。
どうしてそう汚くしてしまうのかしら。
みなさんもう、お湯を召しあがってるわよ。
早く食べなさい」
み「かっこんでもいいか?」
律「そんなにビショビショにしたら……。
お箸で拾ってられないでしょ」
み「それじゃ、失礼して。
シャカシャカシャカ」
↑豪快です。スパゲッティをスプーンで食べるのは高等技術です。
律「静かに食べなさい」
み「仏教らしい音ではないか」
律「何でよ?」
み「お釈迦シャカシャカ」
律「バカらしい」
僧「みなさん、そろそろお済みですかな」
み「ぶ」
律「鼻から出さないでちょうだい」
↑この方は、鼻から食べてるんですかね?
僧「約1名、お済みでない方がおられますな」
律「この人は数に入れないでください。
どうぞ、お続けください」
僧「それでは、みなさん。
『食後の偈(げ)』を唱えましょう」
み「まさか、また五つもあるんじゃなかろうな!」
僧「ご飯粒が飛んでますぞ」
僧「ご安心下さい。
食後は1行です。
箸袋を今一度、お取り下さい。
下の方に書いてあります」
僧「それでは……。
『願わくはこの功徳を以って、普(あまね)く一切に及ぼし、我等と衆生と、皆共に仏道を成ぜんことを』」
客「願わくはこの功徳を以って、普く一切に及ぼし、我等と衆生と、皆共に仏道を成ぜんことを」
僧「ごちそうさま」
客「ごちそうさま」
僧「この後は、自由時間になります。
大浴場に入られるのもよし、宿坊の外の温泉に入られるもよし……」
↑入る度胸、あります?
僧「今日はお天気も良いので、夜の恐山を散策されるのもよし」
↑散策する度胸、あります?
僧「しかし、お気を付け下され。
もし、迷子になられても、携帯は圏外です。
助けを呼ぶことは出来ません。
あたりは真っ暗闇です。
朝まで彷徨ったお客様もおられました。
朝、宿に戻られたときは、髪の毛が真っ白になってましてな」
僧「人相もまるで別人でした」
↑NHK時代。髪の分け方が逆でしたね。
僧「よほど怖い思いをしたのでしょうな」
↑東京に住んでたとき、つのだじろうさんの自宅を偶然発見したことがあります。ちゃんと表札に「つのだじろう」と出てました。
み「貴僧は、よほど人を怖がらせるのが好きなようじゃな」
僧「ご忠告をしたまでです。
なお、当館の消灯は22時です。
廊下やロビーなどの照明が消されます。
もちろん、室内の明かりは点けていてもかまいません。
明日の朝は、6時に館内放送で起床の呼びかけがあります。
この放送がありましたら、身支度を調えられて下さい。
宿坊の1階から繋がる長い廊下がございますので……」
↑この先は、撮影も禁止です。
僧「6時半までに、地蔵殿においで下さい。
朝のお勤めをご一緒していただきます。
それではみなさん。
食器はそのままで結構です。
お箸だけは忘れずにお持ち下さい。
朝食でも使いますので。
それでは」
み「またもや、風のように去っていったな」
↑北九州市に実在するそうです。
律「あんたとかかわりたくないからだわ」
み「修業の足りんやつ。
しかし、なんで一緒に食べないのかな?」
律「これは、お客さん用の御膳だからでしょ。
お坊さんは、賄いみたいなのをいただくんじゃないの」
み「ビフテキとか、食ってないだろうな」
↑野菜も食え!
律「そんなわけないでしょ」
み「あの、みなさま。
先ほどは、この女の遅延行為のせいで……。
食事開始が遅れ、誠に申し訳ありませんでした」
律「何でわたしなのよ!
100%、あんたじゃないの」
み「ところで、みなさんにお尋ねしたいのですが……。
これから、ビールを飲まれるつもりの方はおられますかな?
おや。
どなたもおられませんか。
あなた、お好きでしょうに。
酒焼けしてますよ」
↑浜松市天竜区春野町「春野文化センター」にある日本一の大天狗面。縦8m、横6m、鼻の長さ4m。
客「かつては大いに飲みました。
しかし、肝臓を壊しましてな。
今はまったく嗜みません」
↑人ごとに非ず。
み「それで、幸せですか?」
律「大きなお世話でしょ!
ほんとにすみません。
失礼なことばっかりで」
客「いえいえ。
お酒の好きな方からすれば、当然の感想でしょう」
↑この人は、ほんとに美味しそうに飲みます。見ていて、こちらまで幸せになります。
客「わたしなら、十分、幸せです。
でも、これで健康な身体でお酒を飲めたら……。
もっと幸せでしょうね」
み「ほれみんさい」
客「十分、飲みましたから。
この先は、命と引き換えになってしまいます」
↑広島県のお酒のようです。
律「ご立派ですわ。
ちゃんと、ご自分で節制できて。
あんたも、よく聞いておきなさい」
み「ほかの方も、ビールは飲まれませんか?」
律「聞いちゃいないわ」
客「夜、ビールを飲みたい人は、ここには泊まらないんじゃないですか」
み「なるほど。
ということは……。
この宿の自販機のビールは、われらで独占ということでよろしいですかな?」
律「われらって、誰よ?」
み「わたしと先生に決まってるでしょ」
律「人聞きの悪い」
み「飲まないの?」
律「飲むけど」
み「ところで、ビールの自販機がどこにあるか、ご存じかな?」
客「それなら、内湯の入口にありましたよ」
み「ロビーじゃなかったか。
聞いて良かった。
あなたは恩人です」
↑魂の土下座。
客「大げさな。
でも、あまり飲み過ぎないようにしませんとな。
霊が寄ってきます」
み「そんなわけあるかい。
蚊じゃあるまいし」
↑こういうO型、いますね。
客「それじゃ、わたしはこれで」
み「これから、長い夜、どうするのじゃ?」
↑毛のあるころ。諸行無常。
客「本を持ってきておりますので。
こちらの副住職さんのご本です」
↑わたしはこの本、買って読みました。もちろん、ネタ本として買ったのですが、面白かったです。
み「まさか、さっきの生臭坊主じゃあるまいな」
↑魚が化けた坊主。まさに生臭さです。どうやら、鵜が怖いようです。
客「いえ、あの方じゃありません」
み「そうじゃろう。
あいつは、一から修業のやり直しじゃ。
しかし、ご飯食べて本を読んでたら、眠たくならない?」
↑こんな本もありました。ひょっとして、面白くないからなのでは?
客「眠くなったら、眠るまでです」
↑野生を失いすぎ。
み「お酒も飲まないで寝たら……。
夜中にぜったい、お腹が空くぞよ。
こんな粗食だったんだから」
↑粗食どころではありません。でも、食べ盛りの人には足りないかも(そういう年代の方は、恐山には行かないのでしょうが)。
客「五観の偈(ごかんのげ)を唱えて耐えます。
というのはウソで……。
鞄には、カップ焼きそばが常に入ってますから」
み「なぜに?」
客「旅行中は、何が起こるかわかりませんからな。
財布を落とすかも知れませんし」
み「野宿することもあり得ると?」
↑もちろんわたしは、一度も経験がありません。
客「ま、そんなところです」
み「お湯はどうするのじゃ?」
客「コンビニで分けてもらいます」
み「コンビニがなかったら?」
客「囓るまでです。
食べられないはずありません」
み「壮絶。
交番に相談したら、お金、貸してくれるんでないの?」
↑ほんとですかね? だって、身分証も一緒になくしてる場合が多いと思いますよ。
客「交番がなかったら?」
み「泥棒する」
客「いけません。
焼きそばを囓るべきです。
それもまた人生」
↑鶏肉って「焼肉」じゃなくて、「焼き鳥」なんじゃないですか?
み「なぜに、焼きそばなんです?
ラーメンじゃなくて」
客「四角いからです。
鞄に入れやすい」
み「それはひょっとして……。
『ペヤングソース焼きそば』ではないか?」
客「あたりです。
美味しいですよね」
み「いかにも。
学生時代を思いだす。
徹夜で本を読んだ翌朝、よく食べたものです」
↑焼いてない焼きそばだけど、スゴく美味しいです。
客「あなたにも、本を読んだ学生時代があったんですね」
↑わたしではありません。
み「何が言いたい?」
客「いや別に。
それじゃ、わたしはこれで」
み「カップ焼きそば、部屋のポットのお湯で食べる気?」
客「それしか方法はないでしょう」
み「冷めちゃってると思うぞ」
客「生よりはいいでしょう」
み「あ、お風呂があるじゃん。
お湯が出るでしょ」
↑頭のミカンは、人が載せるんですよね。自分ではできないよな。
客「内湯は、22:00までですな。
腹が空くのは、おそらくそれ以降」
み「外の温泉は?」
客「あなた……。
あんなところまで、カップ焼きそばにお湯を入れに行けますか?」
み「わたしはいかんよ。
アホの所業じゃ」
客「そんなら人に勧めないで下さい」
律「お湯なら、お部屋の洗面台で出るんじゃないですか?
冬なんか、お水じゃ冷たいでしょ」
客「恐山は、冬期間は閉鎖されます」
客「なので、11月から4月いっぱいまでは、こちらの宿もお休みです。
お湯は……。
出ない方に、3000点」
み「あんたも古いですな」
↑コックは、1つしかないみたいですね。でも、レバーの方向で温度を調節するのかも。
客「それでは、ほんとにこれで」
み「真に飢えたら……。
境内に出て、お供え物を探せばよろし。
饅頭くらい、あるじゃろ」
客「餓鬼ですか」
み「おー、懐かしい。
『がきデカ』」
客「あなたと喋ってると際限がありません。
これにて失敬」
み「年齢がわかる去り方じゃ」
律「さ、いい加減、戻るわよ。
もうすぐ、お片付けのお坊さんが来るんじゃないの?
一緒に片付けてもらう?」
み「何でわたしが片付かにゃならんのだ」
律「食器棚とかに住み着いたら?」
み「座敷童か」
客室に戻りました。
み「しかし……。
娯楽性のない部屋じゃの。
だだっ広いだけで」
み「喝(かつ)の観五」
僧「当たっていると思いますか」
み「3割ほどは」
↑会社では絶対必要でしたが、テレワークしたら、ぜんぜん必要じゃありませんでした。
僧「そもそも、読む方向が違います。
右から左です」
み「なんで右から読むのじゃ。
アラビア語じゃあるまいし」
↑これを見ただけで挫折。
僧「それは、これをトラックの右側面に貼るためです」
み「はぁ?」
僧「トラックの右側って、社名を右から書いてありますでしょ」
↑「所業エロ山」ではありません。「山口工業所」です。
み「何でトラックに貼るのじゃ!」
僧「思いついただけです」
み「僧が思いつきで喋るな」
僧「あなたの耳と一緒です」
み「何で」
僧「右から左でしょ」
み「なんだか、酔っ払いと喋ってる気がしてきた」
僧「それは、わたしのセリフです」
律「どうか、これにかまわないで下さい」
僧「修業が足りてませんな」
み「千年修業せい」
僧「関わりませんぞ。
この横書きは、『五観の偈(ごかんのげ)』と読みます。
あなたはさっき、“喝(かつ)”とおっしゃいましたが……。
僧「あれは口偏です。
“偈(げ)”は、人偏。
“偈”とは、元はサンスクリット語で……。
仏の教えや徳をたたえるために、韻文の形式で述べたものです」
↑お経の一種なわけですかね?
み「早い話、詩であるわけだな」
僧「左様です。
耳に心地よいリズムを持っております。
内容がわからなくても、覚えやすい。
古くから、教えを広めるために用いられてきた形式ですな。
それではまず、わたしに続いてご唱和ください。
まずは、意味がわからなくてもけっこうです。
リズムある文章の流れで、沐浴するようなお気持ちで。
それでは、始めます。
一(ひとつ)には功の多少を計り彼(か)の来所を量る」
皆「一には功の多少を計り彼の来所を量る」
僧「二(ふたつ)には己れが徳行の全缺(ぜんけつ)を忖(はか)って供(く)に應ず」
皆「二には己れが徳行の全缺を忖って供に應ず」
僧「三(みっつ)には心(しん)を防(ふせ)ぎ過(とが)を離るることは貧等(とんとう)を宗(しゅう)とす」
皆「三には心を防ぎ過を離るることは貧等を宗とす」
僧「四(よっつ)には正に良薬を事とするは形枯(ぎょうこ)を療(りょう)ぜんが為めなり」
皆「四には正に良薬を事とするは形枯を療ぜんが為めなり」
僧「五(いつつ)には成道(じょうどう)の為めの故に今此(こ)の食(じき)を受く」
皆「五には成道の為めの故に今此の食を受く」
僧「みなさん、暗記できましたかな?」
↑現在、鎌倉幕府の成立年は、1192(いいくに)ではなく、1185(いいはこ)になってます。
み「でけるか!」
僧「暗記できないと、地獄に落ちます」
み「脅してどうする!」
僧「もちろん冗談です。
この中で地獄に落ちるのは、この方だけです」
み「なんでじゃ!」
僧「それでは、一文ずつ解説して参ります」
み「まだ食えんのか!」
僧「食事すなわち、修業そのものです」
み「自分がウンチクを垂れたいだけだろ」
僧「わたしが垂れるのはウンチクですが……。
あなたのは“ク”を抜いたものじゃないですか」
み「ウンチを垂れる……」
み「食事時にそんな下品なこと言っていいのか!」
僧「おっしゃったのはあなたです」
み「僧が罠を仕掛けてどうする」
僧「それでは、解説を始めます。
まずは……。
『一(ひとつ)には功の多少を計り彼(か)の来所を量る』。
この食事は、いきなりここに現れ出たものではありません」
み「出来たら、ドラえもんじゃ」
僧「続けます。
まず直近は、うちの厨房の者が料理したわけですが……」
↑『吉祥閣』ではありません。
僧「その前に、材料はお店から買い求めます。
お店では、棚に商品を並べる人がいます」
僧「さらにお店には、納入業者がトラックで運んできます」
僧「その前には、市場などで競りにかけられるのでしょう」
僧「そこに持ちこむのは、農協さんでしょうかね」
↑トウガン(冬瓜)だそうです。食べたこと無いかも。
僧「さらにもちろん、その前には、農家の方の苦労がある」
↑生まれ変われたら、こんなところで農家がやりたいです。
僧「さらに遡れば、種苗を生産する工場がある」
僧「この一膳の料理が、こうして調うのは……。
数限りない人々の働きがあってこそなのです。
まずは、その来歴に思いをはせ……。
人々に感謝をするところから、食事は始まるわけです」
み「ぐぅ~」
僧「何ですか?」
み「感謝しすぎて、お腹が鳴った」
僧「健康な証拠です。
ありがたいことです。
続けます」
み「やっぱり」
僧「『二(ふたつ)には己れが徳行の全缺(ぜんけつ)を忖(はか)って供(く)に應ず』。
そうして調えられた食事を、はたして自分はいただくに値するのか。
それを心に問い、反省するのです」
↑月曜の朝は、わたしもこんな感じです。
み「胸を張って値する」
僧「大した自信ですな」
み「1万2千円も払っておる。
いただくに値するに決まっておる」
僧「続けます。
『三(みっつ)には心(しん)を防(ふせ)ぎ過(とが)を離るることは貧等(とんとう)を宗(しゅう)とす』」
み「よく覚えられますな」
僧「意味を知れば自然と胸に入ってきます。
しかし、これは少しく難しいですな」
み「トントンを投げたら、シュート回転したというところはわかった」
僧「トントンとは何です?」
み「パンダではないか」
↑トントン(年1986~2000年)の剥製【国立科学博物館】。死因は癌だったそうです。
み「大陸伝来の教えに、パンダが出て来ても不思議ではない」
僧「パンダのことなど、どこにも書いてませんがな。
確かに、『貧等(とんとう)』はわかりにくいですな。
これは、三種の煩悩である『貪(とん)・瞋(じん)・癡(ち)』のいわゆる三毒を指します。
『貧(とん)』は、むさぼりですな。
美味しいものを前にすると、貪り食べてしまいます」
僧「『瞋(じん)』は、怒りや憎しみ。
粗末な食膳に怒ったり不平を言ったりする心です」
僧「『癡(ち)』は、愚かさ。
食することの意義や作法をわきまえないことです」
僧「すなわち、心を正しく保ち、あやまった行いから身を遠ざけるためには……。
毎日の食においても、『貪瞋癡(とんじんち)』を常に意識していなければならないということです。
続けます」
み「なかなか粘り強いではないか」
↑毎朝食べてます。ウマいぜ!
僧「こういうお客様のお相手をするのも、修業の一環です」
み「なんだか、クレーマーみたいではないか」
僧「『四(よっつ)には正に良薬を事とするは形枯(ぎょうこ)を療(りょう)ぜんが為めなり』」。
『形枯(ぎょうこ)』は、痩せ衰えること。
すなわち食とは、この命を支えるためにいただく良き薬なのです」
↑江戸時代では、「薬食い」と称して獣肉を食べたそうです。
僧「よろしいですか?」
み「続けてよし」
僧「今日は、ひたすら修業です。
それでは、ようやく最後になります。
『五(いつつ)には成道(じょうどう)の為めの故に今(いま)此(こ)の食(じき)を受く』。
『成道(じょうどう)』とは、悟りを開くことです」
僧「その究極の目的を果たすために、今、この食事をいただきます。
それでは、みなさん、たいへん長らくお待たせいたしました。
いただきます」
皆「いただきます」
僧「あ、みなさん」
み「まだあるのか!」
僧「お食事後、箸は箸袋に収め、お部屋にお持ち帰り下さい。
明朝の食事にも使いますので、忘れずにご持参下さい。
なお、その後は、お持ち帰りになってけっこうです。
それではわたしは、これで失礼します」
み「風のように去っていったな」
↑ふなっしー、驚異の逃げ足。
律「あなたがあんまり絡むからよ。
恥ずかしいんだから」
み「げ、この箸……」
律「ちょっとスゴいわね」
み「家で使う気になりまっか?」
律「これはやっぱり、お仏壇とかに供えるんじゃないの」
み「で、死んだとき、枕元のご飯に刺すんだな」
↑枕飯(まくらめし)と云うようです。
律「もう、準備万端じゃないの。
いつでも死ねるわよ」
↑ご存じ、秩父市の奇祭「ジャランポン祭り」。
み「よし、善は急げだな。
って、何が善じゃ。
この箸を使うのは、まだ当分先だわい。
それよりこれ、オークションで売れませんかね?」
律「罰があたるわよ」
み「それではいただきますか。
まずは手を合わせましょう。
なんまいだ」
律「ちょっと!」
み「あ。
うっかりと箸を刺してしまった」
律「おまえはもう死んでいる」
み「えんがちょ」
↑「縁がチョン(切れる)」が語源だとか。
み「なかったことにします」
み「しかしなんだすな。
この料理、死んだ父に食べさせたかったな」
律「急に殊勝なこと言うじゃない」
み「父は若いころ、胃潰瘍で胃を3分の2くらい切っててね」
↑どういう手術だったかまでは聞いてませんが。
み「ほんと、食が細かった。
背が高かったから、まさしく鶴が歩いてるみたいだった」
↑やっぱり、サギの方が近かったかも。
み「その父なら、この料理でもお腹一杯になったろうね」
律「何が言いたいわけ」
み「どう考えても、少なくね?」
律「さっきの『五観の偈(ごかんのげ)』、ぜんぜん頭に入ってないじゃないの」
み「あれは、料理が少ないことへの布石ですか?」
律「あなたは早食いだから、足りなく感じるのよ」
律「噛みしめてゆっくり食べれば……。
その間に血糖値があがって、満腹感を得られるものよ」
↑か、過酷。
み「そういう先生も、早食いですがな」
律「職業柄、仕方ないわ。
ゆっくりとなんか食事を摂れないことがほとんどなんだから」
み「一番豪勢なのは、この天ぷらですかね」
み「でもこんなの、箸で浚えば一口だわ」
律「そうできないように、塗り箸なんじゃないの。
ひとつずつ食べなさい」
み「しかし、酒なしで夕食を摂るのは、年2回と決めておるのじゃが……」
↑内視鏡検査と職場健診の前日です。
み「今年は、3回になってしまった」
律「だからゆっくり食べなさいって。
公園の鳩じゃないんだから」
↑これはもちろん鳩ではなく……。イグアナです。
み「おっと、あやうくオカズを食べきってしまうところだった。
もう1杯、お代わりせねば。
のりたまでも持ってくれば良かったな」
↑久しぶりに食べたくなりました。
み「先生は?、おかわり」
律「いただこうかしら。
誰かのせいで待たされた分、お腹へっちゃった」
み「当然ここは、あのジャーからのセルフサービスじゃな」
み「お茶碗、寄こしなせい。
わたしがよそってきてくれる」
律「お椀、間違わないでよ。
区別つかないんだから」
み「間違ったって実害なかろう。
毒など持っておらんわ」
↑スポーツカーみたいですね。こういう派手な見た目を、警告色と云います。「毒持ってんぞー」と警告してるわけです。
律「怪しいもんだわ」
み「医者とは思えない発言。
そんなら、茶碗の縁に、鼻くそでも付けておきんさい」
律「食べてるときに!」
み「そんなら、その豆腐の味噌を付ければいいではないか」
律「ほんとに、なんでこんなことをしなきゃならないのかしら。
ほら、ここに付けたからね。
舐めたりしないでちょうだい」
み「妖怪じゃあるまいし」
↑妖怪「垢舐め」。ただの変態だと思います。
み「盛りはどうする?」
律「もりって?」
み「大盛りか、てんこ盛りか?」
律「普通でいいわよ」
み「こんなとこで気取ってもしょうがないぞ」
律「気取ってません」
み「確かに、このオカズの量じゃな。
白米ばっかり食ってたら、脚気になるわ」
↑脚気は“江戸患い”とも称されました。
律「一食くらいじゃ、関係ないわよ」
み「そんじゃ、ちょっくら行ってまいります」
律「見張ってるからね、お椀。
あ、すみませんね。
わたしたちだけ、うるさくて。
あれも、決して悪い人間じゃないんですよ。
頭が悪いだけで」
み「盛ってきたぞ。
ほれ、先生のが、これじゃ。
ちゃんと、味噌が縁に付いとる」
律「あんた……。
少しは、恥というのを知りなさい。
それじゃ、枕飯でしょ」
み「箸を刺すか」
律「やめなさいって」
み「オカズが足りん」
律「わかりきってたことじゃないの」
み「お味噌汁は飲んじゃってるから……。
ぶっかけるわけにいかんしな。
あ、これでいいか」
律「ちょっと、それ天つゆでしょ」
み「何も味がないよりはマシじゃ。
ほれ、これをちょろっと。
うわ。
ドバッといってもうた」
律「そんなの残して立てないわよ。
みっともないから。
全部食べなさい」
み「きびしー。
あ、けっこうイケます」
↑うちの犬も好きでした。
み「かすかに、天ぷらの味も残ってて。
なんか、わびしいけど」
律「こんなに綺麗な料理なのに……。
どうしてそう汚くしてしまうのかしら。
みなさんもう、お湯を召しあがってるわよ。
早く食べなさい」
み「かっこんでもいいか?」
律「そんなにビショビショにしたら……。
お箸で拾ってられないでしょ」
み「それじゃ、失礼して。
シャカシャカシャカ」
↑豪快です。スパゲッティをスプーンで食べるのは高等技術です。
律「静かに食べなさい」
み「仏教らしい音ではないか」
律「何でよ?」
み「お釈迦シャカシャカ」
律「バカらしい」
僧「みなさん、そろそろお済みですかな」
み「ぶ」
律「鼻から出さないでちょうだい」
↑この方は、鼻から食べてるんですかね?
僧「約1名、お済みでない方がおられますな」
律「この人は数に入れないでください。
どうぞ、お続けください」
僧「それでは、みなさん。
『食後の偈(げ)』を唱えましょう」
み「まさか、また五つもあるんじゃなかろうな!」
僧「ご飯粒が飛んでますぞ」
僧「ご安心下さい。
食後は1行です。
箸袋を今一度、お取り下さい。
下の方に書いてあります」
僧「それでは……。
『願わくはこの功徳を以って、普(あまね)く一切に及ぼし、我等と衆生と、皆共に仏道を成ぜんことを』」
客「願わくはこの功徳を以って、普く一切に及ぼし、我等と衆生と、皆共に仏道を成ぜんことを」
僧「ごちそうさま」
客「ごちそうさま」
僧「この後は、自由時間になります。
大浴場に入られるのもよし、宿坊の外の温泉に入られるもよし……」
↑入る度胸、あります?
僧「今日はお天気も良いので、夜の恐山を散策されるのもよし」
↑散策する度胸、あります?
僧「しかし、お気を付け下され。
もし、迷子になられても、携帯は圏外です。
助けを呼ぶことは出来ません。
あたりは真っ暗闇です。
朝まで彷徨ったお客様もおられました。
朝、宿に戻られたときは、髪の毛が真っ白になってましてな」
僧「人相もまるで別人でした」
↑NHK時代。髪の分け方が逆でしたね。
僧「よほど怖い思いをしたのでしょうな」
↑東京に住んでたとき、つのだじろうさんの自宅を偶然発見したことがあります。ちゃんと表札に「つのだじろう」と出てました。
み「貴僧は、よほど人を怖がらせるのが好きなようじゃな」
僧「ご忠告をしたまでです。
なお、当館の消灯は22時です。
廊下やロビーなどの照明が消されます。
もちろん、室内の明かりは点けていてもかまいません。
明日の朝は、6時に館内放送で起床の呼びかけがあります。
この放送がありましたら、身支度を調えられて下さい。
宿坊の1階から繋がる長い廊下がございますので……」
↑この先は、撮影も禁止です。
僧「6時半までに、地蔵殿においで下さい。
朝のお勤めをご一緒していただきます。
それではみなさん。
食器はそのままで結構です。
お箸だけは忘れずにお持ち下さい。
朝食でも使いますので。
それでは」
み「またもや、風のように去っていったな」
↑北九州市に実在するそうです。
律「あんたとかかわりたくないからだわ」
み「修業の足りんやつ。
しかし、なんで一緒に食べないのかな?」
律「これは、お客さん用の御膳だからでしょ。
お坊さんは、賄いみたいなのをいただくんじゃないの」
み「ビフテキとか、食ってないだろうな」
↑野菜も食え!
律「そんなわけないでしょ」
み「あの、みなさま。
先ほどは、この女の遅延行為のせいで……。
食事開始が遅れ、誠に申し訳ありませんでした」
律「何でわたしなのよ!
100%、あんたじゃないの」
み「ところで、みなさんにお尋ねしたいのですが……。
これから、ビールを飲まれるつもりの方はおられますかな?
おや。
どなたもおられませんか。
あなた、お好きでしょうに。
酒焼けしてますよ」
↑浜松市天竜区春野町「春野文化センター」にある日本一の大天狗面。縦8m、横6m、鼻の長さ4m。
客「かつては大いに飲みました。
しかし、肝臓を壊しましてな。
今はまったく嗜みません」
↑人ごとに非ず。
み「それで、幸せですか?」
律「大きなお世話でしょ!
ほんとにすみません。
失礼なことばっかりで」
客「いえいえ。
お酒の好きな方からすれば、当然の感想でしょう」
↑この人は、ほんとに美味しそうに飲みます。見ていて、こちらまで幸せになります。
客「わたしなら、十分、幸せです。
でも、これで健康な身体でお酒を飲めたら……。
もっと幸せでしょうね」
み「ほれみんさい」
客「十分、飲みましたから。
この先は、命と引き換えになってしまいます」
↑広島県のお酒のようです。
律「ご立派ですわ。
ちゃんと、ご自分で節制できて。
あんたも、よく聞いておきなさい」
み「ほかの方も、ビールは飲まれませんか?」
律「聞いちゃいないわ」
客「夜、ビールを飲みたい人は、ここには泊まらないんじゃないですか」
み「なるほど。
ということは……。
この宿の自販機のビールは、われらで独占ということでよろしいですかな?」
律「われらって、誰よ?」
み「わたしと先生に決まってるでしょ」
律「人聞きの悪い」
み「飲まないの?」
律「飲むけど」
み「ところで、ビールの自販機がどこにあるか、ご存じかな?」
客「それなら、内湯の入口にありましたよ」
み「ロビーじゃなかったか。
聞いて良かった。
あなたは恩人です」
↑魂の土下座。
客「大げさな。
でも、あまり飲み過ぎないようにしませんとな。
霊が寄ってきます」
み「そんなわけあるかい。
蚊じゃあるまいし」
↑こういうO型、いますね。
客「それじゃ、わたしはこれで」
み「これから、長い夜、どうするのじゃ?」
↑毛のあるころ。諸行無常。
客「本を持ってきておりますので。
こちらの副住職さんのご本です」
↑わたしはこの本、買って読みました。もちろん、ネタ本として買ったのですが、面白かったです。
み「まさか、さっきの生臭坊主じゃあるまいな」
↑魚が化けた坊主。まさに生臭さです。どうやら、鵜が怖いようです。
客「いえ、あの方じゃありません」
み「そうじゃろう。
あいつは、一から修業のやり直しじゃ。
しかし、ご飯食べて本を読んでたら、眠たくならない?」
↑こんな本もありました。ひょっとして、面白くないからなのでは?
客「眠くなったら、眠るまでです」
↑野生を失いすぎ。
み「お酒も飲まないで寝たら……。
夜中にぜったい、お腹が空くぞよ。
こんな粗食だったんだから」
↑粗食どころではありません。でも、食べ盛りの人には足りないかも(そういう年代の方は、恐山には行かないのでしょうが)。
客「五観の偈(ごかんのげ)を唱えて耐えます。
というのはウソで……。
鞄には、カップ焼きそばが常に入ってますから」
み「なぜに?」
客「旅行中は、何が起こるかわかりませんからな。
財布を落とすかも知れませんし」
み「野宿することもあり得ると?」
↑もちろんわたしは、一度も経験がありません。
客「ま、そんなところです」
み「お湯はどうするのじゃ?」
客「コンビニで分けてもらいます」
み「コンビニがなかったら?」
客「囓るまでです。
食べられないはずありません」
み「壮絶。
交番に相談したら、お金、貸してくれるんでないの?」
↑ほんとですかね? だって、身分証も一緒になくしてる場合が多いと思いますよ。
客「交番がなかったら?」
み「泥棒する」
客「いけません。
焼きそばを囓るべきです。
それもまた人生」
↑鶏肉って「焼肉」じゃなくて、「焼き鳥」なんじゃないですか?
み「なぜに、焼きそばなんです?
ラーメンじゃなくて」
客「四角いからです。
鞄に入れやすい」
み「それはひょっとして……。
『ペヤングソース焼きそば』ではないか?」
客「あたりです。
美味しいですよね」
み「いかにも。
学生時代を思いだす。
徹夜で本を読んだ翌朝、よく食べたものです」
↑焼いてない焼きそばだけど、スゴく美味しいです。
客「あなたにも、本を読んだ学生時代があったんですね」
↑わたしではありません。
み「何が言いたい?」
客「いや別に。
それじゃ、わたしはこれで」
み「カップ焼きそば、部屋のポットのお湯で食べる気?」
客「それしか方法はないでしょう」
み「冷めちゃってると思うぞ」
客「生よりはいいでしょう」
み「あ、お風呂があるじゃん。
お湯が出るでしょ」
↑頭のミカンは、人が載せるんですよね。自分ではできないよな。
客「内湯は、22:00までですな。
腹が空くのは、おそらくそれ以降」
み「外の温泉は?」
客「あなた……。
あんなところまで、カップ焼きそばにお湯を入れに行けますか?」
み「わたしはいかんよ。
アホの所業じゃ」
客「そんなら人に勧めないで下さい」
律「お湯なら、お部屋の洗面台で出るんじゃないですか?
冬なんか、お水じゃ冷たいでしょ」
客「恐山は、冬期間は閉鎖されます」
客「なので、11月から4月いっぱいまでは、こちらの宿もお休みです。
お湯は……。
出ない方に、3000点」
み「あんたも古いですな」
↑コックは、1つしかないみたいですね。でも、レバーの方向で温度を調節するのかも。
客「それでは、ほんとにこれで」
み「真に飢えたら……。
境内に出て、お供え物を探せばよろし。
饅頭くらい、あるじゃろ」
客「餓鬼ですか」
み「おー、懐かしい。
『がきデカ』」
客「あなたと喋ってると際限がありません。
これにて失敬」
み「年齢がわかる去り方じゃ」
律「さ、いい加減、戻るわよ。
もうすぐ、お片付けのお坊さんが来るんじゃないの?
一緒に片付けてもらう?」
み「何でわたしが片付かにゃならんのだ」
律「食器棚とかに住み着いたら?」
み「座敷童か」
客室に戻りました。
み「しかし……。
娯楽性のない部屋じゃの。
だだっ広いだけで」