2019.6.29(土)
(景勝……無事に生き延びておくれ……私はまもなく露と消えてしまうけれど、あなたは生きながらえて野々宮家を再興するのよ。それが私の最期の望み……景勝……どうかご無事で……)
磔台に緊縛されても凛とした態度を崩さなかったありさ姫であったが、弟景勝の無事を祈っているうちに、目頭から熱いものが零れるのを禁じえなかった。
刑場はいつのまにかぎっしりと人垣で埋まっている。
敵国の姫とはいっても一般庶民にはさほど利害関係などない。
彼らにとっては高貴なお姫様の処刑場面が目前で拝めるなどまるで夢のような話なのだ。
人々はこぞって磔刑場に詰め掛け、少しでも良い場所に陣取ろうと血眼になっていた。
その大半が興味本位で集まってきた烏合の衆であったが、中には磔台に縛られた可憐なありさ姫の痛ましい姿に涙する者もいた。
まもなく槍を持った二人の処刑執行役人が現れた。
ざわついていた見物人たちが一瞬にして静まり返り沈黙が訪れた。
執行役人の一人がありさ姫に告げた。
「姫、残す言葉があらば述べられよ」
ありさ姫は毅然とした態度で答えた。
「ない」
「さようか。ではお覚悟を」
二人の執行役人が磔台の左右に分かれて位置を固めた。
そして槍を構えた。
「えいえいや~!!」
二人の執行役人は掛け声をあげて、ありさ姫の目前で槍を一度交叉させた。
これは“見せ槍”である。
「今からこの槍で突くので覚悟しろ」という合図なのである。
ありさ姫は静かに目を閉じた。
執行役人が見せ槍をしたあと、槍先をありさ姫に向けたその時であった。
「待て!!」
処刑の執行に待ったを掛ける声が轟いた。
槍を構えた執行役人の腕がぴたりと止まった。
それもそのはず、待ったを掛けたのは城主の黒岡源内であった。
「待て。まだ殺すでないぞ」
執行役人は槍を引いた。
「本日は我らが盟友下川信孝殿がお見えになっておる」
黒岡の真横で下川信孝が薄笑いを浮かべて座っている。
「下川信孝殿はうつけ者の野々宮新八郎に見切りをつけ、我が軍にお味方くださった。その下川信孝殿からこの度はありがたき戦勝祝いを賜わった。皆の者に披露せんと思っておるが、その前に……」
黒岡は正面の磔台に拘束されているありさ姫を指差した。
「今まで散々われらに煮え湯を飲ましおった野々宮新八郎・・あやつは死ぬれど我らの恨みはまだ晴れてはおらぬ。あやつの愛娘ありさ姫にはたっぷりとお返しをしてもらわねばならぬのぅ」
「で、いかなる策をお考えか……?」
下川が底意地の悪そうな表情で黒岡を覗き込む。
すぐさま黒岡は役人たちに大声で命令をくだした。
「ありさ姫の着衣をすべて取り去るのじゃ!」
「おお、何と! 磔刑には白装束が決まりなるが、野々宮の愛娘には衣など無用とな!? それは面白い!」
下川は手を打って喜んだ。
直ぐに小者が梯子を磔台に架け機敏に駆け上がった。
手には小刀を携え、いとも簡単に白装束の帯が絶ち切られ、続いて胸元から袖に掛け衣が散り散りに切り裂かれてしまった。
一旦は死を覚悟していたありさ姫ではあったが、突如襲い掛かった思いもよらぬ恥辱に悲痛な声をあげた。
「ひぃ~~~!! せめて! せめて一枚の衣だけは着せてくだされ! 後生です! お願いです! 辱しめるぐらいならひと思いに槍で突き刺したまえ!!」
白装束はぼろ切れと化し、はらりはらりと地面へと舞って落ちた。
ありさ姫の身体を覆うものすべてが取り去られた瞬間、観衆から大きなどよめきが巻き起こった。
それはありさ姫が全裸にされてしまったことだけが理由ではなった。
それ以上に観衆を仰天させたのはありさ姫の秘所であった。
本来乙女の恥じらいを包み隠すように繁っているはずの若草が、すべて除去されてしまっていたのである。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2019/06/29 06:48
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白装束
2019年6月18日22時22分。
山形県沖を震源とする、マグニチュード6.7の地震が起きました。
新潟県村上市で、震度6強を記録。
山形県鶴岡市で、震度6弱。
わたしの住む新潟市では、震度4でした。
わたしは、とっくに深い眠りの中にありました。
でも、さすがに揺れで目が覚めました。
かなり大きいなとは思いましたが……。
今さらどうしようもないので、じっとしてました。
わたしは、2階の和室に、布団を敷いて寝てます。
タンスなどはないのですが……。
足元の机に、27インチのブラウン管テレビが載ってます。
とにかく巨大で、ひとりでは持てない重さです。
ぜんぜん使ってないのですが……。
リサイクルに出すのが面倒でそのままにしてあります。
あれが落ちたら、間違いなく脚を骨折するでしょう。
頭上の置き時計もヤバかったですね。
これも、まったく使ってなかったものです。
先日、時計についてもコメントを書いたときに改めて調べたところ……。
父の永年勤続表彰の記念品だったことがわかりました。
申し訳ないので、埃を拭い、新しい電池を入れました。
針が動きだしたので、このまま使おうと思いました。
しかし……。
2日で5分くらい遅れることが判明。
これじゃ、使えません。
これが落ちなくて良かったです。
かなりの重量がある時計なんですよ。
こんな記念品、持ち帰るのが大変だったろうなと思いました。
角が額にあたったら、間違いなく流血です。
続きは次のコメントで。
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2. Mikiko- 2019/06/29 06:49
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白装束(つづき)
このときの地震で、わが家の被害は、まったくありませんでした。
でも、朝起きてから書斎に行ってみると……。
化粧水の空ボトルがいくつか、棚から落ちてました。
ガラスではなく、プラボトルです。
空になったボトル、捨てられないんですよね。
使い道なんか無いんですけど。
でも、改めて揺れが小さくなかったことを確認しました。
さて。
表題の「白装束」。
今回は何ごともありませんでしたが……。
もっと大きな地震だったら、あのまま家が潰れて死んでしまったかも知れません。
実際、未明に起きた阪神淡路大震災では、多くの方が家屋の中で亡くなってます。
わたしは普通にパジャマで寝てました。
下着も、お風呂あがりに替えてます。
なので、そのまま死体で発見されても、あまり恥ずかしいことはないでしょう。
でも、今回改めて感じたのは……。
眠ってるときに地震が起きたら、何も対応できないということです。
ずっと眠らないでいるわけにはいきませんから……。
必ず、無防備に眠ってる時間はあるわけです。
助かるかどうかは、まさしく運次第だと思いました。
なので、寝間着を白装束にしようかと思いついたんです。
死んだときに備えると云うより……。
大地震が起きたら、このまま死ぬかも知れないという自覚を持つため。
そうすれば、足元にブラウン管テレビを置いたり、頭上に巨大な置き時計を置いたりしなくなるでしょう。
続きはさらに次のコメントで。
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3. Mikiko- 2019/06/29 06:50
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白装束(つづきのつづき)
ということで白装束。
ちょっと調べたら、死に装束などでは、左前に着るとありました。
ここで、ハタと迷いました。
わたしが和装をするのは、冬の綿入れ半纏と、宿の浴衣だけです。
前を合わせるのは、浴衣だけですね。
どう考えても、左の襟が上になってます。
ずっと左前で着てた?
ということで、さらに調べたところ……。
「左前」の概念が違ってました。
「前」というのは、時間的に「前」。
つまり、先に合わせる方ということらしいです。
すなわち「左前」では、まず左の襟を合わせ……。
その上に右の襟を合わせます。
確かにこれなら、普段の着方とは逆です。
なお、普段の和服はなぜ「右前」で着るかというと……。
右手が懐に入るからです。
昔は、懐に財布とか入れてたでしょうからね。
男女で違いはありません。
どちらも、「右前」で着ます。