2016.2.6(土)
み「あ、止まりますね」
客「『有戸』です。
でも、言われませんか?」
み「は?
何をです?」
客「何で結婚しないのかって」
み「さすがに今は、言われませんね。
ほぼセクハラですから」

↑議員って、ほんとにバカがいますよね。
み「昔はよく言われましたけど」
律「言われなくなったのは、セクハラに敏感になったからじゃないわよ」

み「じゃ、何ですか?」
律「気軽に聞くには、差し障りのある年齢になったからでしょ」

↑文京区大塚にあった女性専用の同潤会アパート。2003年に取り壊されました。戸川昌子の第8回江戸川乱歩賞受賞作『大いなる幻影』の舞台は、このアパートがモデル。戸川さんは、実際に住んでらしたそうです。
み「お互いさまです」
律「ふん」
み「この話題は、取りやめにしましょう」
客「じゃ、しばらく景色でも見ますか。
この先で、国道と鉄道が交差し……。
鉄道が海側に出るんです」

客「その後、4キロくらいですが……。
まるで、砂浜に線路が敷かれたみたいな景色になります。
窓から手を出せば、渚に届きそうなくらいですよ」

み「それは、オーバーでしょう。
手長足長じゃあるまいし」
客「なんです、それ?」
み「妖怪です。
手足がむやみに長い」

↑キモいですねー。
客「それって、外人だったんじゃないですか?」
み「あぁ、そうかも知れませんね。
天狗もそうですよね」
客「そうそう。
背が高く、赤ら顔で、異様に鼻が高い。
まさしく、西洋人そのものですよ」

↑天狗の元祖と云われる猿田彦命。身長7尺(2メートル10センチ)。
ここで、ひとこと。
妖怪漫画の第一人者、水木しげるさんが、2015年11月30日に亡くなられました。
93歳だったそうです。
また、昭和の一時代が去って行きますね。

↑こちら、結婚写真。奥さん、綺麗ですね。
さて、先を続けましょう。
列車は、『有戸駅』を過ぎ……。
国道と入れ替わり、鉄道が海側に出ます。
↑怖いような景色です。
み「おー、スゴい。
ほんとに海の際ですね。
でも、これじゃ、冬は止まるわな」

↑これは車窓からの写真なので、運行されてたということです。切ないけど、懐かしさを感じる景色です。
客「実際、窓ガラスが潮で真っ白になったこともあります。
風が強いときは、波をかぶるかも知れません」
み「そういうときは、事前に止めるんでしょ」

↑朝、駅に行ってこれを見たら、萎えますよね。わたしなら、そのまま帰っちゃうかも。
客「風速20メートル以上で、時速25キロの徐行になります」
↑時速26キロで走る四足歩行ロボット。けっこう速いではないか。後ろ向きに走ってるように見えますが。
客「その速度で運転すると、『野辺地駅』と『大湊駅』間は、40分延着することになります」
み「あ、鉄道だと1時間で、バスで1時間半でしたよね」

↑代行バス。こっちの方が、断然乗り心地良さそうです。
客「そうです」
み「徐行運転になったら、バスの方が早いんだ」
客「そういうことですね。
だから、風速20メートル以上になりそうなときは……。
代行バスに切り替わるんです」
み「冬は、風速20メートルの風なんて、珍しくないでしょ」

↑これは、風速46メートル。飛ばされてる生徒は、高跳びで跳びあがったところを飛ばされたんでしょうか? 間違いなく、世界新記録だったと思います。
客「ないでしょうな」
み「高校生なら、ほかに手段がなければ、遅れるのも仕方ないかも知れませんが……。
会社員は、そうはいきませんよね」
客「連日遅れたら、顰蹙でしょうね」

↑わたしは高校のとき、電車を乗り過ごして遅刻したことがあります。寝てたわけではありません。ただ、ボーッと乗り過ごしてしまったのです。
み「バス代行を見越して、もっと早く出ろってことになるよな。
そりゃムリだわな。
毎朝、30分も早く出るなんて」

↑カツラにすれば簡単なのに。
み「猫も杓子も自動車通勤になるでしょ」

客「そうかもしれませんね。
でも、横風がヒドいとき、走れるのかな?」
み「道路は、封鎖されないんでしょ。
それに、風は海からなんだから、海に落っこちることはないんじゃない?」
客「ま、そりゃそうでしょうけど……。
でも、波しぶきが吹き付けたら、前が見えないかも知れませんよ」

↑これは雨のようです。わたしも、2度ほど、高速で豪雨にあい、肝を冷やしました。雨だと、ライトを点けても前が見えないんですよね。
み「それはあり得るか」
客「それに……。
車はそうとうダメージを受けるんじゃないですか?
潮で」
み「あ、それはあるかもね。
錆びちゃいますよね」

↑これは、沖縄のようです。
客「でしょうな。
あ、右手に広がるのが、牧場です」

↑見る地図ごとに、牧場の名称が違います。あんまり上手くいってないんですかね。
客「そのさらに向うに、六ケ所村の原燃施設があります」

↑こんなのが、下北半島の何にもないところに、いきなりあるんですからね。まさに、SFでしょう。
客「見えませんけど」
み「片側が海……。
反対側が、牧場。
この上もなくのどかで平和な風景だけど……。
その向うには、原子燃料のリサイクル施設があるわけだね」
客「そういうことです」
み「あー、また道路が海側になっちゃった」
客「もうすぐ、『吹越(ふっこし)』です」

↑俳優の吹越(ふきこし)満。“吹越”は、本名のようですが……。なんと、青森県立野辺地高等学校卒業でした。
み「もう?
確か、駅間が長かったんじゃないですか?」
客「13.4キロです」
み「ふむ。
歩くと、3時間かかるね。
東京だと、3時間くらい歩いても平気だけど……」

み「ここらは、辛いわな」
律「なんで、東京だと平気なのよ?
疲れるのは一緒でしょ」

み「東京は、退屈しないんです。
ずーっと、街が続くからね」

↑四谷付近の新宿通り。ずっとこんな町並みが続きます。
み「二日酔いの朝なんか、歩いて会社に行ったものです。
西新宿のマンションから虎ノ門まで」

↑『中野坂上』が最寄り駅でした。
み「3時間かかりましたね」
客「二日酔いなのに、よくそんなに早起き出来ますね」

↑朝まで無事だったんですかね。
み「早起きなんかしませんよ。
フレックスタイム制でしたから」
客「あぁ、そうか。
二日酔いの朝に歩くのは、酔い醒ましですか?」
み「それもありますけど……。
それ以前に、満員電車に乗る気になれないからです」

↑毎日これは、辛すぎます。
客「なるほど。
気持ち悪くなっちゃいますね」
み「それ以前に、自分から酒の臭いがするでしょ。
間違いなく、『こいつ、酒臭さっ』って思われますから」

↑くっさー。
客「なるほど。
満員電車では、どうしようもありませんな」
み「しかし、どうしてあんなに混むんですかね?」
客「人が多いからでしょうな」

↑人身事故のあった品川駅。流れてるうちはいいのですが、一旦滞ると、たちまちこんなありさまです。怖いですよね。
み「東京の冬なんか、天気がいいんだから、自転車で行けばいいんですよ」

↑いいですね。ちょっと怪しいけど。
客「なるほど。
でも、あなたはそうしなかったわけでしょ?」
み「そう言えばそうですね。
1度も、自転車を買おうと思ったことがないです。
駅もコンビニもスーパーも、すべて徒歩圏にありましたからね」

↑わたしが、毎日のように通ってたスーパー『都立家政丸正』ですが……。なんと、閉店してました(参照)。わたしは、いい時代の東京に住んでたようです。
み「とにかく、徒歩天国でしたよ」

↑『都立家政』の駅前から続く商店街。わたしが住んでたころは、もっと賑やかだった気がする。
律「歩行者天国じゃないの?」

↑秋葉原の歩行者天国。わたしは、1度も行ったことがないと思います。
み「それは、意味が違うでしょ。
金曜の夜は、マンションまで歩いて帰ったりしたものです」
律「二日酔いで?」
み「金曜の夜に二日酔いって、どんな生活だよ」

み「きっちり素面です。
でも、夜の東京を3時間も歩いていると……。
なんだか、酔っ払ってくるみたいだった。
マンションが近くなって、西新宿の高層ビルが間近に見えてくると……」

み「ウォークマンで、『What a wonderful world』を聞きながら歩いたものです」
客「サッチモですね」
み「まるで、ドラマの場面みたいでしたよ。
今、思い返すと……。
あのときが、わたしの人生で、最良の瞬間だったのかも」
客「『大湊線』の車窓も、負けてないと思いますが」

み「この風景でサッチモは、ムリがあるでしょ。
やっぱ、高橋竹山ですよ。
初代の方の」

み「あー、やっぱり、きのう、聞けば良かったな。
津軽三味線」
↑実際に門付けで生活してた人の演奏です。
客「てことは……。
昨日は、金木の斜陽館に行かれましたな」

↑こういう玄関灯、いいですよね。
み「げ。
なんで分かるんです!
やっぱり、公儀隠密」

↑もちろん、現代劇ではありません。
み「恐るべし、徳川」

客「簡単な推理ですよ。
金木に、『津軽三味線会館』がありますから」

↑なぜに、ここまで股を開く?
客「これまでの話で、文学に造形が深いご様子でしたから。
それで、青森となれば、太宰治でしょ」

客「きっと、斜陽館で時間を使いすぎて、三味線会館のライブを聞く時間が無くなったと思ったんです」
み「ほー。
シャーロック・ホームズみたいですな」

↑中学生のころ、ハマりました。
客「それほどでも」
み「でも、ハズレです」
客「ありゃ。
そうなんですか」
み「三味線を聞きそびれたのは……。
『リゾートしらかみ』です」
客「あ、そうか。
車中で、津軽三味線のライブをやるんですよね」

客「確か、五所川原を過ぎてからだ。
だからか。
金木に行くために、五所川原で降りたから、津軽三味線が聞けなかった。
これは、読みが一歩甘かったな。
不覚です」
み「隠密にしくじりは許されません。
切腹を命じます」

客「そんなぁ」
み「安心しなせい。
介錯は引き受けます」

客「あなたに剣の心得があるとは、思えませんが」
み「隠密同心、心得の条」
客「おぉ。
懐かしい。
『大江戸捜査網』ですな」

↑題字がヘタすぎないか?
客「昔の時代劇は、面白かったですよね。
わたしは、井坂十蔵のファンでした」

客「心得の条も暗唱しております」
み「冥土の土産に聞きましょう」

↑メイド違いですが。ホワイトチョコ入りのクッキーのようです。
客「隠密同心、心得の条。
我が命、我が物と思わず……。
武門の儀、あくまで陰にて……。
己の器量伏し、ご下命いかにても果すべし」

客「なお、死して屍拾う者なし。
死して屍、拾う者なーし」

み「歌いあげましたな。
これでもう、心残りは無いでしょう」

客「あります。
桃太郎侍の口上もやらせてください」

み「贅沢な」
客「ひと~つ」

↑パチンコのようです(以下同じ)。
み「始めるな!」
客「人の世の生き血をすすり」

み「顔マネはしなくていいです」
客「ふたつ、不埒な悪行三昧」

み「正解は?」
客「越後製菓!」

み「あなた、高橋英樹マニアですか?」
客「み~つ」
み「出たホイの良さホイのホイ」

客「茶化さんでください。
もとい。
み~つ。
醜い浮世の鬼を……」

客「退治てくれよう、桃太郎」

み「あなた、思いのほか、バカでしたね」
客「失礼つかまつった。
それでは、成敗いたす」

み「なんであんたが成敗するんです。
切腹でしょ。
介錯してやりますから、とっとと腹を切りなはれ」

↑江戸時代末期の切腹の様子
客「あなたの腕じゃ、死に切れません」
み「それは切ってからのお楽しみ」
客「実際の切腹では、腹は切らなかったそうです」

み「なんでです?」
客「戦国時代までは、自ら十文字に腹を切り裂き……。
内臓を掴み出したりしたそうですが」

↑いらっしゃ~い。
み「ひぇ~」
客「江戸時代に入って平和が続くと、そんなことが出来る強者はいなくなります」
み「当然です」
客「実際には、三方に置いた短刀に手を伸ばして、頭が下がった瞬間……」

客「介錯人が、首を切り落としてたとか」
み「で、首が空を飛んで行く」
客「将門じゃあるまいし」

客「首を完全に切り離してしまうのは、介錯人の恥になります」

↑映画『切腹』より。介錯人役は丹波哲郎。
み「なんでじゃ?」
客「上手い介錯人は、首の皮一枚を残すんです。
で、首は、だらんと胸の前に下がる。
これを、“抱き首”と云います」

客「で、首の重みで、上体が前のめりに倒れる。
前のめりに死ぬのが武士道ですからね」

↑相撲取り最強説が消えた瞬間。
客「首が切り離されたら、後ろにひっくり返ってしまいます」

み「ほんとにそんなに上手くいったんですか?」
客「名人がいたそうですね」
み「日本刀って、ほんとにそんなに切れるんでしょうか?」
客「切れ味には、恐ろしいものがあります」
↑生卵も一刀両断。
客「幕末、日本に来た外国人で、朋輩が斬り殺されたところを見た人なんか……。
本国に向けて、日本刀の切れ味の恐ろしさを、縷縷綴ってます」

客「でも、腕がなければ切れない道具でもあります」
↑腕があれば、この通り。小学生女子による試し切り。
み「素人が介錯しようとしたら?」
客「まず、まともに切れません。
実際、三島由紀夫が切腹したとき、『楯の会』のメンバーの森田必勝が介錯したんですが……」

↑三島由紀夫(右)と森田必勝(左)
客「3度失敗し、刀身がSの字に曲がってしまったそうです」

↑もちろん、こういう曲がり方ではありません。この刀は、コスプレアイテムのようです(ヨシトミ製作所)。
み「なまくら刀だったんでしょうか?」
客「介錯にそんな刀を使うはずありませんよ。
日本刀は、刃の向きと、振り下ろす角度が少しでもズレると、まったく切れないんです」

↑王貞治選手が、日本刀で素振りをしてたことは有名。写真の軌道のとおり、ダウンスイングだったそうです。
客「棒で叩くみたいになっちゃう。
首の皮一枚残して切り落とすなんていうのは、尋常な技術じゃありません」
↑こちらは、リアクションが可愛い居合い斬り。海外でも人気だそうです。
み「三島は、実際に刀を腹に突き立てたんですか?」
客「同日、牛込署内で検死が行われました」

↑『牛込署』想像図。
客「見事だったそうです。
へソ下4㎝ぐらいのところを、左から右へ真一文字に、13㎝も引き切ってた。
深さは約5㎝あり、腸が飛び出てたそうです」

み「ひょえー。
でも、5㎝って、浅くありません?」

客「それ以上深く突き立てたら、横には引けませんよ。
その後、森田必勝も続いて切腹したのですが……。
腹の傷は、ほとんど出血も見られないほど浅かったそうです」

↑どうしても、こういう図を連想してしまいます。
み「じゃ、生き残ったわけですか?」
客「いえ。
介錯で、首を落とされてます」

↑首を切り離してしまうのは、下手くそな介錯。
客「古賀浩靖という有段者が、切り落としたんです。
三島の首も、森田に代わって古賀が落としてます。
どちらも見事に、首の皮一枚残してたそうです」

↑古賀浩靖は切腹せず、投降してます。結果的に、2人を殺したわけですが……。判決は、懲役4年だったそうです。なぜじゃ?
み「ほんまかいな。
そんなこと、そうとう練習してなきゃ出来ないでしょ?」

↑真剣白刃取り失敗。たぶん、ネタですね。
み「どうやって練習したんですか?」
客「そこまでは知りません。
でも、出来るんじゃないですか。
達人の域に達してれば」

↑柳生新陰流の始祖・柳生石舟斎が斬り割ったと云われる『一刀石』。実際には、石ではなく、巨岩です。
み「その古賀という人は、いくつだったんです?」
客「たしか、23くらいだったと思います」
み「その歳で、ほんとにそこまで熟達した人だったら……。
どうしてあんな暴挙に加わったんですかね?」

客「確かに」
み「森田必勝という人は、いくつだったんです?」
客「25だったと思います」
み「三島は?」
客「45でした」

律「25歳の人を道連れってのは許せないわね」
客「三島は腹を切る前、介錯のため背後に立った森田に『君はやめろ』と言ったそうです」
み「森田は、三島が腹を切った後、続いたわけね」
客「そうです」
み「でも、一緒に行動したら、そういう結果になることは……。
当然、予想できたはず」
律「そうよね」
み「とにかく、何かを訴えるために、命を引き換えにするってのはね。
とうてい、共感を得られませんよ。
一種の自爆テロじゃないの」
客「他人を傷つけなかったというのが、唯一、評価できるところですかな。
戦前の二・二六事件では……。
政治家4名と、警備の警官5名、計9名の命が失われました」

み「暗鬱な事件です。
救いがない。
あー、嫌になった」
客「それじゃ、景色の方を眺めますか」
み「あれ、いつの間にか、また道路が海側になった」
客「もうすぐ、『吹越』に到着です。
この先、『有畑』を過ぎると、線路の方が再び海側になります。
以後、ずーっとそのままです」
み「おー。
じゃ、さっきみたいな景色が、ずーっと続くわけだ」

客「でも、あんなに海際を走るのは、あそこだけですよ」
み「なーんだ」
律「あれがずーっと続いたら、怖いわよ。
海が荒れてるときなんか」
↑イギリスのダウリッシュ。台風の中、波を被りながら走行する列車。なんで止めないんでしょう?
み「でも、湾だから、そんなに荒れないんじゃない?」

↑穏やかに凪いだ陸奥湾。湖のようです。
客「ま、外洋のようなうねりは無いでしょうが……。
風がスゴいですからね。
波はかなり立つでしょうな」
み「そんなときは、代行バスね」

↑『陸奥横浜駅』付近のようです。
客「ですな」
み「いっそ、バスも定期運行にしたらいいのに」
客「それをやったら、鉄道を存続させるタテマエが無くなってしまいます」
み「存続させる必要があるのか?」
客「声が高いですぞ。
地元の方も乗っておられます」

↑怪しすぎる2人組は、『リゾートあすなろ』に乗車する“ほっかむり行商隊”。
み「おー、危ない。
死して屍拾う者なし」

↑けっこーなお値段(こちら)。
み「隠密同心心得の条を忘れるところだった」
律「あんたみたいなオッチョコチョイが、隠密なんかになれますか」

↑大瀬康一主演『隠密剣士』。中央の牧冬吉さんは、子供向け時代劇になくてはならぬ人だったようです。
み「オッチョコチョイくらいがいいんですよ。
逆に怪しまれなくて」

↑広島の飲み屋のようです。
律「それじゃ、任務も務まらないでしょ」
み「あにょな。
根本的に誤解しとるな。
隠密とか忍者の、もっとも重大な仕事はなんじゃ?」
律「暗殺とか、破壊活動じゃないの?」

み「ISじゃあるまいし。
そんなことばっかりしてたら、命がいくつあっても足りんわい」
律「じゃ、何するのよ?」
み「情報収集ですよ。
その土地の情報は、その土地の人からしか聞き出せません」

み「テレビの忍者みたいに、暗鬱な顔して歩きまわってたら……。
気味悪がられて、誰からも話なんか聞けませんよ」

↑怪しすぎ。左端はもちろん、牧冬吉。
み「だから、忍者や隠密は、物売りや芸人に扮したりするわけ」

↑七味唐辛子売り。売り声は、“とんとんとん、とうがらし、ひりりとからいはさんしょのこ”。
み「初めて見る顔でも、そういう職業なら、怪しまれないでしょ。
時間をかけて馴染んでいくヒマなんてないのよ。
出会った途端、情報を引き出さなきゃならない。
つまり、人の懐に一瞬で飛びこめるようなキャラじゃなきゃ出来ないわけ」
↑猫だましから懐に飛びこむ『舞の海』(対『水戸泉』戦)。
み「人に警戒されないキャラね。
で、何より聞き上手でなきゃ」

み「つまり、コミュニケーション能力が、一番大事なんですよ」
客「なるほどね。
諸藩の内情を探索する公儀隠密は……。
身分がバレたら、殺されたそうですからね」

律「公儀隠密って、徳川幕府の人なんでしょ?」

↑NPO法人『江戸城天守を再建する会』より。
み「さよでんな」
律「そんな人を殺したら、幕府が黙ってないんじゃないの?」
み「黙ってるんですな」

律「どうしてよ?」
み「表立って諸藩の内情を探るわけにはいかんでしょ。
だからこその隠密なんです。
つまり幕府は、たとえ隠密が殺されても……。
『そんな人間は知らん』という立場なわけです」

↑虚無僧姿の隠密もありがちです。こちら、天知茂さん。
律「まぁ、ヒドい。
2階級特進とかにならないわけね」
み「“死して屍拾う者なし”です。
そもそも、隠密なんて、正式な役職じゃなかったでしょ」
客「ですね。
8代将軍の吉宗が紀州から連れてきた、御庭番が有名です」

客「表向きは、江戸城の奥庭を管理する役職です」

み「おー、時代劇でありますな。
将軍が、庭を散歩しながら……。
手入れをしてる庭師を呼び止める」

↑兼六園です。
み「で、将軍の『行ってまいれ』の一言で……。
その場から、直ちに諸藩に向けて旅立って行ったわけだ」

↑“大富豪同心”ってなんですかね? ひょっとして筒井康隆『富豪刑事』のパロ?
律「ほんとかしら」
客「ま、役目はそんなものでしょうが……。
いくらなんでも、命令を受けて、その場から出立はムリでしょう。
お金も無いでしょうし」

み「将軍が、その場でくれるんでないの?」

↑このパソ、欲しいですね。
客「将軍はお金なんか持ってませんよ。
必要ありませんから」
み「じゃ、どうしたのよ?
自腹で行ったわけじゃないでしょ」

客「当然、支度金は下されますが……。
事前に、見積書を提出したそうです」

み「隠密が見積書、書くのか!」
客「そうだったらしいです」
み「いくらくらい貰えるのけ?」
客「大体、2人1組で行動したそうです」

み「漫才師に売ってつけだな」

客「1人だと、殺されたらそれでお終いですからね。
それまで調べたことも、伝わらなくなってしまいます」
み「どのくらいの期間、行ってたの?」
客「まず、隠密には、2職種ありましてね。
ひとつは、幕府の諸役人が不正を働いていないかを内偵・調査する『江戸向き地廻り御用』」

↑2015年1月に、特番として作成され、放映されたようです。
客「この隠密はたぶん、江戸城のお庭になんかいないで、常時江戸市中を回ってたんでしょうね。
そしてもうひとつの職種が、諸大名家の動向や評判などを調査する『遠国御用』です」

↑テレビ東京系列で、1988年10月~1989年3月に放映されたテレビ時代劇だそうです。新潟では、放映されなかったんだろうな。
客「これが、将軍などの命によって、地方に旅立って行ったわけですね」
み「それそれ」
客「任務期間は、数ヶ月に及ぶこともあったそうで……。
だいたい、2人で1日あたり、1両の経費が見積もられてたそうです」

↑江戸時代の貨幣制度は、複雑怪奇。バカでは暮らせません。
み「2人で1両!
それって、けっこうな値段なんでないの?」
み「10両盗めば首が飛んだわけでしょ」

み「日当の10日分じゃん。
3ヶ月の見積もり出したら、90両だよ。
わたしなら、そのまま持ち逃げするけど」

律「そういう人が、隠密になれるわけないでしょ」
み「はは。
それで思い出した。
前に、会社の同僚たちと、『相棒』の話をしてたときのこと」

↑当時は、薫ちゃんの時代でした。やっぱ、一番良かったよね。
み「ほら、『公安』ってのが、ときどき出てくるじゃない」

↑『相棒 season3』新春2時間スペシャル『潜入捜査~私の彼を捜して!(2005年1月5日)』より。中央の2人が公安役。
律「あ、出るわね。
陰の組織っぽい集団よね」

律「実在の組織なの?」
み「もちろん、いるわよ。
法務省の組織じゃなかった?」
客「それは、公安調査庁ですね」

↑採用パンフレットの表紙だそうです。時代は変わりました。
客「ときどき混同されますが……。
彼らは当然、警察ではありません」
客「『有戸』です。
でも、言われませんか?」
み「は?
何をです?」
客「何で結婚しないのかって」
み「さすがに今は、言われませんね。
ほぼセクハラですから」

↑議員って、ほんとにバカがいますよね。
み「昔はよく言われましたけど」
律「言われなくなったのは、セクハラに敏感になったからじゃないわよ」

み「じゃ、何ですか?」
律「気軽に聞くには、差し障りのある年齢になったからでしょ」

↑文京区大塚にあった女性専用の同潤会アパート。2003年に取り壊されました。戸川昌子の第8回江戸川乱歩賞受賞作『大いなる幻影』の舞台は、このアパートがモデル。戸川さんは、実際に住んでらしたそうです。
み「お互いさまです」
律「ふん」
み「この話題は、取りやめにしましょう」
客「じゃ、しばらく景色でも見ますか。
この先で、国道と鉄道が交差し……。
鉄道が海側に出るんです」

客「その後、4キロくらいですが……。
まるで、砂浜に線路が敷かれたみたいな景色になります。
窓から手を出せば、渚に届きそうなくらいですよ」

み「それは、オーバーでしょう。
手長足長じゃあるまいし」
客「なんです、それ?」
み「妖怪です。
手足がむやみに長い」

↑キモいですねー。
客「それって、外人だったんじゃないですか?」
み「あぁ、そうかも知れませんね。
天狗もそうですよね」
客「そうそう。
背が高く、赤ら顔で、異様に鼻が高い。
まさしく、西洋人そのものですよ」

↑天狗の元祖と云われる猿田彦命。身長7尺(2メートル10センチ)。
ここで、ひとこと。
妖怪漫画の第一人者、水木しげるさんが、2015年11月30日に亡くなられました。
93歳だったそうです。
また、昭和の一時代が去って行きますね。

↑こちら、結婚写真。奥さん、綺麗ですね。
さて、先を続けましょう。
列車は、『有戸駅』を過ぎ……。
国道と入れ替わり、鉄道が海側に出ます。
↑怖いような景色です。
み「おー、スゴい。
ほんとに海の際ですね。
でも、これじゃ、冬は止まるわな」

↑これは車窓からの写真なので、運行されてたということです。切ないけど、懐かしさを感じる景色です。
客「実際、窓ガラスが潮で真っ白になったこともあります。
風が強いときは、波をかぶるかも知れません」
み「そういうときは、事前に止めるんでしょ」

↑朝、駅に行ってこれを見たら、萎えますよね。わたしなら、そのまま帰っちゃうかも。
客「風速20メートル以上で、時速25キロの徐行になります」
↑時速26キロで走る四足歩行ロボット。けっこう速いではないか。後ろ向きに走ってるように見えますが。
客「その速度で運転すると、『野辺地駅』と『大湊駅』間は、40分延着することになります」
み「あ、鉄道だと1時間で、バスで1時間半でしたよね」

↑代行バス。こっちの方が、断然乗り心地良さそうです。
客「そうです」
み「徐行運転になったら、バスの方が早いんだ」
客「そういうことですね。
だから、風速20メートル以上になりそうなときは……。
代行バスに切り替わるんです」
み「冬は、風速20メートルの風なんて、珍しくないでしょ」

↑これは、風速46メートル。飛ばされてる生徒は、高跳びで跳びあがったところを飛ばされたんでしょうか? 間違いなく、世界新記録だったと思います。
客「ないでしょうな」
み「高校生なら、ほかに手段がなければ、遅れるのも仕方ないかも知れませんが……。
会社員は、そうはいきませんよね」
客「連日遅れたら、顰蹙でしょうね」

↑わたしは高校のとき、電車を乗り過ごして遅刻したことがあります。寝てたわけではありません。ただ、ボーッと乗り過ごしてしまったのです。
み「バス代行を見越して、もっと早く出ろってことになるよな。
そりゃムリだわな。
毎朝、30分も早く出るなんて」

↑カツラにすれば簡単なのに。
み「猫も杓子も自動車通勤になるでしょ」

客「そうかもしれませんね。
でも、横風がヒドいとき、走れるのかな?」
み「道路は、封鎖されないんでしょ。
それに、風は海からなんだから、海に落っこちることはないんじゃない?」
客「ま、そりゃそうでしょうけど……。
でも、波しぶきが吹き付けたら、前が見えないかも知れませんよ」

↑これは雨のようです。わたしも、2度ほど、高速で豪雨にあい、肝を冷やしました。雨だと、ライトを点けても前が見えないんですよね。
み「それはあり得るか」
客「それに……。
車はそうとうダメージを受けるんじゃないですか?
潮で」
み「あ、それはあるかもね。
錆びちゃいますよね」

↑これは、沖縄のようです。
客「でしょうな。
あ、右手に広がるのが、牧場です」

↑見る地図ごとに、牧場の名称が違います。あんまり上手くいってないんですかね。
客「そのさらに向うに、六ケ所村の原燃施設があります」

↑こんなのが、下北半島の何にもないところに、いきなりあるんですからね。まさに、SFでしょう。
客「見えませんけど」
み「片側が海……。
反対側が、牧場。
この上もなくのどかで平和な風景だけど……。
その向うには、原子燃料のリサイクル施設があるわけだね」
客「そういうことです」
み「あー、また道路が海側になっちゃった」
客「もうすぐ、『吹越(ふっこし)』です」

↑俳優の吹越(ふきこし)満。“吹越”は、本名のようですが……。なんと、青森県立野辺地高等学校卒業でした。
み「もう?
確か、駅間が長かったんじゃないですか?」
客「13.4キロです」
み「ふむ。
歩くと、3時間かかるね。
東京だと、3時間くらい歩いても平気だけど……」

み「ここらは、辛いわな」
律「なんで、東京だと平気なのよ?
疲れるのは一緒でしょ」

み「東京は、退屈しないんです。
ずーっと、街が続くからね」

↑四谷付近の新宿通り。ずっとこんな町並みが続きます。
み「二日酔いの朝なんか、歩いて会社に行ったものです。
西新宿のマンションから虎ノ門まで」

↑『中野坂上』が最寄り駅でした。
み「3時間かかりましたね」
客「二日酔いなのに、よくそんなに早起き出来ますね」

↑朝まで無事だったんですかね。
み「早起きなんかしませんよ。
フレックスタイム制でしたから」
客「あぁ、そうか。
二日酔いの朝に歩くのは、酔い醒ましですか?」
み「それもありますけど……。
それ以前に、満員電車に乗る気になれないからです」

↑毎日これは、辛すぎます。
客「なるほど。
気持ち悪くなっちゃいますね」
み「それ以前に、自分から酒の臭いがするでしょ。
間違いなく、『こいつ、酒臭さっ』って思われますから」

↑くっさー。
客「なるほど。
満員電車では、どうしようもありませんな」
み「しかし、どうしてあんなに混むんですかね?」
客「人が多いからでしょうな」

↑人身事故のあった品川駅。流れてるうちはいいのですが、一旦滞ると、たちまちこんなありさまです。怖いですよね。
み「東京の冬なんか、天気がいいんだから、自転車で行けばいいんですよ」

↑いいですね。ちょっと怪しいけど。
客「なるほど。
でも、あなたはそうしなかったわけでしょ?」
み「そう言えばそうですね。
1度も、自転車を買おうと思ったことがないです。
駅もコンビニもスーパーも、すべて徒歩圏にありましたからね」

↑わたしが、毎日のように通ってたスーパー『都立家政丸正』ですが……。なんと、閉店してました(参照)。わたしは、いい時代の東京に住んでたようです。
み「とにかく、徒歩天国でしたよ」

↑『都立家政』の駅前から続く商店街。わたしが住んでたころは、もっと賑やかだった気がする。
律「歩行者天国じゃないの?」

↑秋葉原の歩行者天国。わたしは、1度も行ったことがないと思います。
み「それは、意味が違うでしょ。
金曜の夜は、マンションまで歩いて帰ったりしたものです」
律「二日酔いで?」
み「金曜の夜に二日酔いって、どんな生活だよ」

み「きっちり素面です。
でも、夜の東京を3時間も歩いていると……。
なんだか、酔っ払ってくるみたいだった。
マンションが近くなって、西新宿の高層ビルが間近に見えてくると……」

み「ウォークマンで、『What a wonderful world』を聞きながら歩いたものです」
客「サッチモですね」
み「まるで、ドラマの場面みたいでしたよ。
今、思い返すと……。
あのときが、わたしの人生で、最良の瞬間だったのかも」
客「『大湊線』の車窓も、負けてないと思いますが」

み「この風景でサッチモは、ムリがあるでしょ。
やっぱ、高橋竹山ですよ。
初代の方の」

み「あー、やっぱり、きのう、聞けば良かったな。
津軽三味線」
↑実際に門付けで生活してた人の演奏です。
客「てことは……。
昨日は、金木の斜陽館に行かれましたな」

↑こういう玄関灯、いいですよね。
み「げ。
なんで分かるんです!
やっぱり、公儀隠密」

↑もちろん、現代劇ではありません。
み「恐るべし、徳川」

客「簡単な推理ですよ。
金木に、『津軽三味線会館』がありますから」

↑なぜに、ここまで股を開く?
客「これまでの話で、文学に造形が深いご様子でしたから。
それで、青森となれば、太宰治でしょ」

客「きっと、斜陽館で時間を使いすぎて、三味線会館のライブを聞く時間が無くなったと思ったんです」
み「ほー。
シャーロック・ホームズみたいですな」

↑中学生のころ、ハマりました。
客「それほどでも」
み「でも、ハズレです」
客「ありゃ。
そうなんですか」
み「三味線を聞きそびれたのは……。
『リゾートしらかみ』です」
客「あ、そうか。
車中で、津軽三味線のライブをやるんですよね」

客「確か、五所川原を過ぎてからだ。
だからか。
金木に行くために、五所川原で降りたから、津軽三味線が聞けなかった。
これは、読みが一歩甘かったな。
不覚です」
み「隠密にしくじりは許されません。
切腹を命じます」

客「そんなぁ」
み「安心しなせい。
介錯は引き受けます」

客「あなたに剣の心得があるとは、思えませんが」
み「隠密同心、心得の条」
客「おぉ。
懐かしい。
『大江戸捜査網』ですな」

↑題字がヘタすぎないか?
客「昔の時代劇は、面白かったですよね。
わたしは、井坂十蔵のファンでした」

客「心得の条も暗唱しております」
み「冥土の土産に聞きましょう」

↑メイド違いですが。ホワイトチョコ入りのクッキーのようです。
客「隠密同心、心得の条。
我が命、我が物と思わず……。
武門の儀、あくまで陰にて……。
己の器量伏し、ご下命いかにても果すべし」

客「なお、死して屍拾う者なし。
死して屍、拾う者なーし」

み「歌いあげましたな。
これでもう、心残りは無いでしょう」

客「あります。
桃太郎侍の口上もやらせてください」

み「贅沢な」
客「ひと~つ」

↑パチンコのようです(以下同じ)。
み「始めるな!」
客「人の世の生き血をすすり」

み「顔マネはしなくていいです」
客「ふたつ、不埒な悪行三昧」

み「正解は?」
客「越後製菓!」

み「あなた、高橋英樹マニアですか?」
客「み~つ」
み「出たホイの良さホイのホイ」

客「茶化さんでください。
もとい。
み~つ。
醜い浮世の鬼を……」

客「退治てくれよう、桃太郎」

み「あなた、思いのほか、バカでしたね」
客「失礼つかまつった。
それでは、成敗いたす」

み「なんであんたが成敗するんです。
切腹でしょ。
介錯してやりますから、とっとと腹を切りなはれ」

↑江戸時代末期の切腹の様子
客「あなたの腕じゃ、死に切れません」
み「それは切ってからのお楽しみ」
客「実際の切腹では、腹は切らなかったそうです」

み「なんでです?」
客「戦国時代までは、自ら十文字に腹を切り裂き……。
内臓を掴み出したりしたそうですが」

↑いらっしゃ~い。
み「ひぇ~」
客「江戸時代に入って平和が続くと、そんなことが出来る強者はいなくなります」
み「当然です」
客「実際には、三方に置いた短刀に手を伸ばして、頭が下がった瞬間……」

客「介錯人が、首を切り落としてたとか」
み「で、首が空を飛んで行く」
客「将門じゃあるまいし」

客「首を完全に切り離してしまうのは、介錯人の恥になります」

↑映画『切腹』より。介錯人役は丹波哲郎。
み「なんでじゃ?」
客「上手い介錯人は、首の皮一枚を残すんです。
で、首は、だらんと胸の前に下がる。
これを、“抱き首”と云います」

客「で、首の重みで、上体が前のめりに倒れる。
前のめりに死ぬのが武士道ですからね」

↑相撲取り最強説が消えた瞬間。
客「首が切り離されたら、後ろにひっくり返ってしまいます」

み「ほんとにそんなに上手くいったんですか?」
客「名人がいたそうですね」
み「日本刀って、ほんとにそんなに切れるんでしょうか?」
客「切れ味には、恐ろしいものがあります」
↑生卵も一刀両断。
客「幕末、日本に来た外国人で、朋輩が斬り殺されたところを見た人なんか……。
本国に向けて、日本刀の切れ味の恐ろしさを、縷縷綴ってます」

客「でも、腕がなければ切れない道具でもあります」
↑腕があれば、この通り。小学生女子による試し切り。
み「素人が介錯しようとしたら?」
客「まず、まともに切れません。
実際、三島由紀夫が切腹したとき、『楯の会』のメンバーの森田必勝が介錯したんですが……」

↑三島由紀夫(右)と森田必勝(左)
客「3度失敗し、刀身がSの字に曲がってしまったそうです」

↑もちろん、こういう曲がり方ではありません。この刀は、コスプレアイテムのようです(ヨシトミ製作所)。
み「なまくら刀だったんでしょうか?」
客「介錯にそんな刀を使うはずありませんよ。
日本刀は、刃の向きと、振り下ろす角度が少しでもズレると、まったく切れないんです」

↑王貞治選手が、日本刀で素振りをしてたことは有名。写真の軌道のとおり、ダウンスイングだったそうです。
客「棒で叩くみたいになっちゃう。
首の皮一枚残して切り落とすなんていうのは、尋常な技術じゃありません」
↑こちらは、リアクションが可愛い居合い斬り。海外でも人気だそうです。
み「三島は、実際に刀を腹に突き立てたんですか?」
客「同日、牛込署内で検死が行われました」

↑『牛込署』想像図。
客「見事だったそうです。
へソ下4㎝ぐらいのところを、左から右へ真一文字に、13㎝も引き切ってた。
深さは約5㎝あり、腸が飛び出てたそうです」

み「ひょえー。
でも、5㎝って、浅くありません?」

客「それ以上深く突き立てたら、横には引けませんよ。
その後、森田必勝も続いて切腹したのですが……。
腹の傷は、ほとんど出血も見られないほど浅かったそうです」

↑どうしても、こういう図を連想してしまいます。
み「じゃ、生き残ったわけですか?」
客「いえ。
介錯で、首を落とされてます」

↑首を切り離してしまうのは、下手くそな介錯。
客「古賀浩靖という有段者が、切り落としたんです。
三島の首も、森田に代わって古賀が落としてます。
どちらも見事に、首の皮一枚残してたそうです」

↑古賀浩靖は切腹せず、投降してます。結果的に、2人を殺したわけですが……。判決は、懲役4年だったそうです。なぜじゃ?
み「ほんまかいな。
そんなこと、そうとう練習してなきゃ出来ないでしょ?」

↑真剣白刃取り失敗。たぶん、ネタですね。
み「どうやって練習したんですか?」
客「そこまでは知りません。
でも、出来るんじゃないですか。
達人の域に達してれば」

↑柳生新陰流の始祖・柳生石舟斎が斬り割ったと云われる『一刀石』。実際には、石ではなく、巨岩です。
み「その古賀という人は、いくつだったんです?」
客「たしか、23くらいだったと思います」
み「その歳で、ほんとにそこまで熟達した人だったら……。
どうしてあんな暴挙に加わったんですかね?」

客「確かに」
み「森田必勝という人は、いくつだったんです?」
客「25だったと思います」
み「三島は?」
客「45でした」

律「25歳の人を道連れってのは許せないわね」
客「三島は腹を切る前、介錯のため背後に立った森田に『君はやめろ』と言ったそうです」
み「森田は、三島が腹を切った後、続いたわけね」
客「そうです」
み「でも、一緒に行動したら、そういう結果になることは……。
当然、予想できたはず」
律「そうよね」
み「とにかく、何かを訴えるために、命を引き換えにするってのはね。
とうてい、共感を得られませんよ。
一種の自爆テロじゃないの」
客「他人を傷つけなかったというのが、唯一、評価できるところですかな。
戦前の二・二六事件では……。
政治家4名と、警備の警官5名、計9名の命が失われました」

み「暗鬱な事件です。
救いがない。
あー、嫌になった」
客「それじゃ、景色の方を眺めますか」
み「あれ、いつの間にか、また道路が海側になった」
客「もうすぐ、『吹越』に到着です。
この先、『有畑』を過ぎると、線路の方が再び海側になります。
以後、ずーっとそのままです」
み「おー。
じゃ、さっきみたいな景色が、ずーっと続くわけだ」

客「でも、あんなに海際を走るのは、あそこだけですよ」
み「なーんだ」
律「あれがずーっと続いたら、怖いわよ。
海が荒れてるときなんか」
↑イギリスのダウリッシュ。台風の中、波を被りながら走行する列車。なんで止めないんでしょう?
み「でも、湾だから、そんなに荒れないんじゃない?」

↑穏やかに凪いだ陸奥湾。湖のようです。
客「ま、外洋のようなうねりは無いでしょうが……。
風がスゴいですからね。
波はかなり立つでしょうな」
み「そんなときは、代行バスね」

↑『陸奥横浜駅』付近のようです。
客「ですな」
み「いっそ、バスも定期運行にしたらいいのに」
客「それをやったら、鉄道を存続させるタテマエが無くなってしまいます」
み「存続させる必要があるのか?」
客「声が高いですぞ。
地元の方も乗っておられます」

↑怪しすぎる2人組は、『リゾートあすなろ』に乗車する“ほっかむり行商隊”。
み「おー、危ない。
死して屍拾う者なし」

↑けっこーなお値段(こちら)。
み「隠密同心心得の条を忘れるところだった」
律「あんたみたいなオッチョコチョイが、隠密なんかになれますか」

↑大瀬康一主演『隠密剣士』。中央の牧冬吉さんは、子供向け時代劇になくてはならぬ人だったようです。
み「オッチョコチョイくらいがいいんですよ。
逆に怪しまれなくて」

↑広島の飲み屋のようです。
律「それじゃ、任務も務まらないでしょ」
み「あにょな。
根本的に誤解しとるな。
隠密とか忍者の、もっとも重大な仕事はなんじゃ?」
律「暗殺とか、破壊活動じゃないの?」

み「ISじゃあるまいし。
そんなことばっかりしてたら、命がいくつあっても足りんわい」
律「じゃ、何するのよ?」
み「情報収集ですよ。
その土地の情報は、その土地の人からしか聞き出せません」

み「テレビの忍者みたいに、暗鬱な顔して歩きまわってたら……。
気味悪がられて、誰からも話なんか聞けませんよ」

↑怪しすぎ。左端はもちろん、牧冬吉。
み「だから、忍者や隠密は、物売りや芸人に扮したりするわけ」

↑七味唐辛子売り。売り声は、“とんとんとん、とうがらし、ひりりとからいはさんしょのこ”。
み「初めて見る顔でも、そういう職業なら、怪しまれないでしょ。
時間をかけて馴染んでいくヒマなんてないのよ。
出会った途端、情報を引き出さなきゃならない。
つまり、人の懐に一瞬で飛びこめるようなキャラじゃなきゃ出来ないわけ」
↑猫だましから懐に飛びこむ『舞の海』(対『水戸泉』戦)。
み「人に警戒されないキャラね。
で、何より聞き上手でなきゃ」

み「つまり、コミュニケーション能力が、一番大事なんですよ」
客「なるほどね。
諸藩の内情を探索する公儀隠密は……。
身分がバレたら、殺されたそうですからね」

律「公儀隠密って、徳川幕府の人なんでしょ?」

↑NPO法人『江戸城天守を再建する会』より。
み「さよでんな」
律「そんな人を殺したら、幕府が黙ってないんじゃないの?」
み「黙ってるんですな」

律「どうしてよ?」
み「表立って諸藩の内情を探るわけにはいかんでしょ。
だからこその隠密なんです。
つまり幕府は、たとえ隠密が殺されても……。
『そんな人間は知らん』という立場なわけです」

↑虚無僧姿の隠密もありがちです。こちら、天知茂さん。
律「まぁ、ヒドい。
2階級特進とかにならないわけね」
み「“死して屍拾う者なし”です。
そもそも、隠密なんて、正式な役職じゃなかったでしょ」
客「ですね。
8代将軍の吉宗が紀州から連れてきた、御庭番が有名です」

客「表向きは、江戸城の奥庭を管理する役職です」

み「おー、時代劇でありますな。
将軍が、庭を散歩しながら……。
手入れをしてる庭師を呼び止める」

↑兼六園です。
み「で、将軍の『行ってまいれ』の一言で……。
その場から、直ちに諸藩に向けて旅立って行ったわけだ」

↑“大富豪同心”ってなんですかね? ひょっとして筒井康隆『富豪刑事』のパロ?
律「ほんとかしら」
客「ま、役目はそんなものでしょうが……。
いくらなんでも、命令を受けて、その場から出立はムリでしょう。
お金も無いでしょうし」

み「将軍が、その場でくれるんでないの?」

↑このパソ、欲しいですね。
客「将軍はお金なんか持ってませんよ。
必要ありませんから」
み「じゃ、どうしたのよ?
自腹で行ったわけじゃないでしょ」

客「当然、支度金は下されますが……。
事前に、見積書を提出したそうです」

み「隠密が見積書、書くのか!」
客「そうだったらしいです」
み「いくらくらい貰えるのけ?」
客「大体、2人1組で行動したそうです」

み「漫才師に売ってつけだな」

客「1人だと、殺されたらそれでお終いですからね。
それまで調べたことも、伝わらなくなってしまいます」
み「どのくらいの期間、行ってたの?」
客「まず、隠密には、2職種ありましてね。
ひとつは、幕府の諸役人が不正を働いていないかを内偵・調査する『江戸向き地廻り御用』」

↑2015年1月に、特番として作成され、放映されたようです。
客「この隠密はたぶん、江戸城のお庭になんかいないで、常時江戸市中を回ってたんでしょうね。
そしてもうひとつの職種が、諸大名家の動向や評判などを調査する『遠国御用』です」

↑テレビ東京系列で、1988年10月~1989年3月に放映されたテレビ時代劇だそうです。新潟では、放映されなかったんだろうな。
客「これが、将軍などの命によって、地方に旅立って行ったわけですね」
み「それそれ」
客「任務期間は、数ヶ月に及ぶこともあったそうで……。
だいたい、2人で1日あたり、1両の経費が見積もられてたそうです」

↑江戸時代の貨幣制度は、複雑怪奇。バカでは暮らせません。
み「2人で1両!
それって、けっこうな値段なんでないの?」
み「10両盗めば首が飛んだわけでしょ」

み「日当の10日分じゃん。
3ヶ月の見積もり出したら、90両だよ。
わたしなら、そのまま持ち逃げするけど」

律「そういう人が、隠密になれるわけないでしょ」
み「はは。
それで思い出した。
前に、会社の同僚たちと、『相棒』の話をしてたときのこと」

↑当時は、薫ちゃんの時代でした。やっぱ、一番良かったよね。
み「ほら、『公安』ってのが、ときどき出てくるじゃない」

↑『相棒 season3』新春2時間スペシャル『潜入捜査~私の彼を捜して!(2005年1月5日)』より。中央の2人が公安役。
律「あ、出るわね。
陰の組織っぽい集団よね」

律「実在の組織なの?」
み「もちろん、いるわよ。
法務省の組織じゃなかった?」
客「それは、公安調査庁ですね」

↑採用パンフレットの表紙だそうです。時代は変わりました。
客「ときどき混同されますが……。
彼らは当然、警察ではありません」