2019.1.12(土)
黒岩の視線を追ったありさも、浴槽に目をやり唇を震わせた。
「そ、そんな……」
「言えないか? なら、しょうがないな。おい、源五郎、もう一回ありさを浴槽に戻してやれ」
唇を震わせて無実の言葉を口にしようとするありさの姿に、黒山は無表情に掴んでいた髪を離して立ち上がる。
同時に、源五郎はありさを浴槽に戻すように下男たちに命じた。
下男たちの手がありさの身体にかかった。
抱え上げられ、ひいっとありさが悲鳴を上げる。
浴槽の中でうごめく鰻たちのくねる姿を見た途端、先程までの苦しみが脳裏によみがえり、一気に抵抗の意思を失わせた。
「言いますっ! 言いますからっ! お願い! あそこに戻すのだけはやめてっ!」
顔色を真っ青にし、悲痛な叫びをありさが上げる。
その瞬間、黒山はにやりと満足そうな笑みを浮かべ、下男たちの動きを制した。
「じゃ、言ってもらおうか」
「は、はい……どのように……」
「どのようにだと? たわけ者めが。『番頭の俊吉と不義密通を重ねたのは事実でございます』とそのとおりに言えばいいのだ」
その時、横合いから小菅がひとつの提案をした。
「黒山様」
「なんじゃ?」
「なかなか吐かず我らに手を焼かせた罰として、もっと詳しく吐かせませんか?」
「ふうむ、例えば?」
「はい、『番頭の俊吉と夜毎まじわりを重ねたことは事実ですが、俊吉は床下手であるため私めは女の歓びを知らぬままです。与力様、どうか私めの“ほと”に与力様の“まら"を注入していただき、私めに真の女の歓びを教えてください。』と言わせてみてはいかがでしょうか?」
「がははははは~! それは面白い! よし、それでいこう!」
「ありさ、今言った台詞を心を込めて黒山様に語るのじゃ。もう一度言ってやるからしっかりと覚えるのじゃ」
「そ、そんなこと言えません!」
「言わなければどうなるか分かっておるのう?」
「……は、はい……分かりました。話します……」
小菅は卑猥な台詞をありさの耳元でつぶやき暗記するよう命じた。
「ふふふ、では、話すがよい」
「はい……」
ありさは語る前から、顔を真っ赤に染めている。
黒山はありさの口から言葉が発せられるのを首を長くして待っている。
「番頭の俊吉と夜毎まじわりを重ねたことは事実ですが……」
「ふむふむ」
「俊吉は床下手であるため……私めは……女の歓びを知らぬままです……」
「ほほう、それは可哀相にのう。それで?」
「与力様……どうか私めの……」
「私めの?」
「いや……恥ずかしくて言えません……」
「言わぬとどうなるかのう? さあ、早く言え」
「私めの“ほと”に……与力様の……“まら"を注入していただき……私めに真の女の歓びを教えてください……」
ありさはそこまでつぶやくと泣き伏してしまった。
「小菅」
「はい」
「今宵、この娘を緊縛のまま私の屋敷に送り届けるように」
「はい、承知いたしました」
ありさは小菅にすがるように訴えた。
「私を一体どうしようと言うのですか!?」
「心配するでない。今ここでの処刑が免れただけでもありがたく思え」
「……」
黒山がにやりと笑いながらつぶやいた。
「今後従順にしていれば、もしかしたらお前の命は助けてやれるかも知れぬ。しかし歯向かうようだと……」
黒山はそこまで語ると口をつぐんでしまった。
それから一ヶ月が経ったが、ありさが処刑されたと言う噂は聞こえてこなかった。
しかしありさが伊勢屋に帰されたと言う事実もまたなかった。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2019/01/12 06:40
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鰻と云えば
2018年10月20日に「第一話」を掲載して以来……。
隔週でお楽しみいただいた『ありさ 鰻責め地獄(SM小説)』も、今回が最終回となりました。
ひとつの場面だけで、これだけ引っ張るという手法もあるんですね。
でも、こういう形式の小説は、本来一気に読むべきものなのかも知れません。
隔週連載にしたのは、まったくわたしの都合で……。
Shyrockさんには、申し訳ない気持ちがあります。
「第一話」から、今一度通読されると、本来の味を楽しめると思います。
さて。
全編、鰻まみれでしたね。
この鰻、公費で購入したのでしょうか?
江戸時代も早いころまでは……。
鰻は下魚で、屋台などで串焼きとして売られてたそうです。
そのころなら、生きた鰻も、安く手に入ったのでしょうね。
そもそも鰻自体は、石器時代から食べられていたようです。
当時の遺跡から、鰻の骨が出るそうです。
今と違って、いっぱいいたんでしょうね。
それに、おそらくは漁と云うより……。
罠のような仕掛けで獲ってたんじゃないでしょうか。
これなら、罠の仕掛けと回収は、子供や女性でも出来ます。
さて、その身近な魚であった鰻ですが……。
天保年間(1781~1789)になると専門の料理茶屋ができ始め……。
値段も、今の価値で5,000円くらいになっていったとか。
今と同じくらいになったわけですね。
続きは次のコメントで。
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2. Mikiko- 2019/01/12 06:40
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鰻と云えば(つづき)
実はわたし、鰻屋で鰻を食べたことがありません。
でもひょっとしたら、わたしが生きてる間に、鰻は食べられなくなる可能性もあります。
やっぱり、スーパーのパックではなく……。
石器時代から日本人が食べてきた鰻、わたしも一度、しっかり味わっておくべきかも。
スーパーの鰻って、イマイチ手を出す気になりませんよね。
値段が中途半端です。
1パック、千円台ですね。
正直、味はその値段ほどではないと思います。
同じ程度の量で、しめ鯖なら300円くらいでしょう。
中途半端なものを食べるくらいなら……。
一生に一度と思って、本物を食べてみるべきなのじゃないでしょうか。
わたしは、白焼きというのに興味があるんです。
蒲焼きの甘いタレは、あんまり好きじゃないのです。
わたしの行くスーパーでは、白焼きは売ってません。
タレを茶色く纏った鰻だけです。
やっぱり、専門店でいただくしかないですかね。
白焼きにビールなんて、通っぽいじゃないですか。
しかし……。
1人で入って注文する勇気は、ちと必要のようです。
さて。
鰻と云えば、浜松ですよね。
実は、わたしと浜松は、縁がちょっとだけあります。
東京で、コンピューターのプログラマーをしてたころ……。
月一くらいで浜松に通ってたことがあるんです。
浜松と云えば、鰻と、もうひとつ、ヤマハです。
ヤマハの工場で、研修を受けてました。
でも、そのおり、鰻を食べた記憶はないんです。
実は、町の記憶さえありません。
浜松駅と工場を、往復してただけなんでしょうね。
浜名湖さえ見てません。
ただ、やたらと光溢れるまぶしい町だったというのだけ覚えてます。
続きはさらに次のコメントで。
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3. Mikiko- 2019/01/12 06:41
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鰻と云えば(つづきのつづき)
この浜松、わたしだけではなく、新潟市とも縁があります。
同じ日に、政令指定都市になってるのです。
2007年4月1日。
もう、12年になるんですね。
干支が一回りしたわけです。
Wikiで見ると……。
現在、新潟市の人口は、800,582人(2018年10月1日推計)。
浜松市の人口は、793,846人(2018年12月1日推計)。
まさか、勝ってるとは思いませんでした。
ほんのわずかですが。
でも、面積はぜんぜん違うんですよ。
新潟市が、726.45km2。
浜松市が、1,558.06km2。
人口密度は……。
新潟市が、1,102人/km2。
浜松市が、510人/km2。
ちょっと以外ですが、大勝です。
おそらく浜松市は、面積は広いけど、可住地は少ないんじゃないでしょうか。
たとえば、浜名湖もその面積に含まれるわけですから。
市街地は、かなり密集した都会のイメージがあります。
それに対し新潟市は、真っ平らな広い土地に、点々と散らばってる感じですね。
都会感は、まるでありません。
一番大きい違いは、気候でしょう。
特にこの冬の時期は、羨ましいです。
毎日晴れて、富士山が綺麗なんでしょうね。
でも……。
移住候補地としては、ちょっと二の足を踏みます。
もちろん、東海地震の恐怖からです。
死ぬのが怖くなくなったら、移住しますかね。
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4. Shy- 2019/01/12 09:04
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Mikiko様
「ありさ 鰻責め地獄」の連載ありがとうございました。そしてお疲れさまでした。
2週に一度掲載によるご配慮に関しましてもありがとうございました。
さて、鰻の件ですが、僕が住む大阪には、1876年(明治9年)創業の「いづもや」という鰻屋さんがあります。
(東京日本橋にあるいづもやは昭和21年創業で分家のようです)
明治時代は出雲の天然鰻を大阪へ直送していたので、屋号を「いづもや」としたと聞きます。
万葉の昔から、栄養価が高く、貴重なものとして扱われていた鰻を「十銭まむし(うなぎ料理の別称)」として
大衆に広めたのは「いづもや」の功績と言われています。
作家織田作之助の『夫婦善哉』にも「いづもや」が登場します。
そんな「いづもや」も当時の千日前から現在は船場に移転し営業を行っています。
Mikiko様の文章から、鰻は高価なものと言う印象がおありのようですが、
この「いづもや」では、お昼980円、夜:並1,000円、上1,400円、特上1,800円でがんばってくれてます。
一般的に大阪の飲食店が他府県より廉いのは確かですが。
そんなわけで、Mikiko様が大阪にお立ち寄りの際は、ぜひ高価な鰻屋ではなく(高い店ももちろんありますが)、
この大衆的な鰻屋さんをご愛用くださるようお願いいたします。
決して「いづもや」の回し者ではございませんので、お間違いなきように(笑)
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5. 手羽崎 鶏造- 2019/01/12 09:25
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そういえばワタシもここ10年ばかり鰻屋さんには
入っていません。
関東の人は、三島(富士の伏流水)、川越で
食するという話をよく聞きます。
名店が多いそうです。
浜松はかの「大合併」で広くなったと思います。
食では餃子で有名になっています。
養鰻業者の数が、激減したという話を聞いた
ことがあります。
新幹線が開業した頃は浜名湖近くの沿線は
鰻養殖の池が広がっていましたが、今はほとんど
無くなっていることに気がつきます。
美味しい国産鰻を安価で提供して欲しいですね。
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6. Mikiko- 2019/01/12 18:19
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Shyさん&手羽崎鶏造さん
> Shyさん
本来であれば、一挙掲載すべき内容のものを……。
完結まで3ヶ月近くもかけてしまい、すみませんでした。
また、次作の寄稿もいただき、ありがとうございました。
読むのを楽しみにしております。
しかし、そんなに安い鰻屋があるとは知りませんでした。
お昼980円って……。
スーパーのパックに入った身を、半分に切って載せてるわけじゃないですよね。
てことは……。
鰻の仕入れ値は、それでペイする金額なんですかね?
となれば、ほかの鰻屋はぼったくりということです。
> 手羽崎鶏造さん
浜松の餃子は知りませんでした。
宇都宮は有名ですが。
わたしは、餃子も食べないんですよね。
味は嫌いじゃ無いです。
でも、やっぱり食後に残る臭いがね。
他人に迷惑とかいうことではなく……。
自分が嫌なんです。
餃子は、外人さんにも評判いいみたいです。
外がカリカリで、中がジューシーという食感(外人さんは、テクスチャーと言います)が好まれるようです。
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7. Shy- 2019/01/12 19:05
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大阪で廉価な鰻屋さんはほかにもあります。
大阪の京橋『紫煙(しえん)』だとお昼は800円代で鰻のランチが食べられます。
この値段ですが結構美味しいですよ^^
URLを載せておいますね。(タグを入れてもここはリンクできないようなので、タグ無しで載せておきますね)
http://www.kobelcosteelers.com/pc_halftime/shien.html
もちろん3,000円~5,000円の店も多いですが、探せば安い店はありますよ。
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8. Mikiko- 2019/01/13 06:54
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『紫煙』さん
禁煙店だったら笑えます。
持ち帰り用のうな丼は600円だとか。
これを買って、ホテルの部屋で食べるという選択肢もありますね。
大阪には、鰻を食べる文化が根付いてるんでしょうね。
高級店もあれば、大衆店もあると。
鰻好きの人には羨ましいでしょう。
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9. Shy- 2019/01/13 09:01
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確か客がくゆらす方は禁止だったように思います(笑)
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10. Mikiko- 2019/01/13 12:33
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マジで?
洒落になりませんがな。