2018.9.22(土)
ありさはもう23歳、落ちつきが欲しいと自分でも思い始めていた。
そんな時、作法教室の看板を見つけた。
さっそく電話した。
立派な門構えの扉横にあるチャイムを鳴らすと中年の男性が出てきた。
物静かだが少し神経質そうな紳士。
さすがに和服がよく似合ってる。
落ち着いた物腰。
この人が師匠になるらしい。
ありさが入門の旨を言うと奥に通された。
別室には誰か来ているらしい。
ありさは和服を渡された。
もちろん和服なんて着たことがない。
そう言うと、
「襦袢になってください。今日は手伝いますから」
下着はどうしたものかと師匠に聞いたら脱ぐものらしい。
奧の控え室を借りた。
ありさは脱いだ衣類をきちんと畳むと棚に置いた。
こういうことも大事なのだろう。
ありさが白い襦袢姿で控え室から出てくると、師匠が慣れた手つきで襦袢の形を直す。
和服を着せられ、きゅっ、きゅっと帯を縛られる。
和服姿も意外と悪くない。
「今日は座り方を教えます」
狭い部屋に通されると正座の練習をすることになった。
「背筋が曲がっていますよ」
軽く師匠が手を触れる。
どこに触ったのか痛さが走った。
さんざん足の開きや腰の位置を直される。
軽い力なのにどこを触られても痛い。
ようやくできた。
そのまま15分間壁に向かって座っているように言われた。
「自然体で、きれいな心で座るんですよ」
師匠がつけ加えた。
部屋を出て行く。
ありさの足はすぐに痺れてきた。
足の裏をもじもじさせながら我慢する。
突然、パシンと言う音が、目の前の壁を隔てた隣室から響いた。
若い女の悲鳴。
師匠が何か言っている。
パシン、パシンとまた乾いた音。
(ひっぱたいている)肌を叩く音だ。
それが分かるとありさの身体に戦慄が走った。
少し静かになった。
師匠が何か言っている。
ありさの前の壁が軽く揺れた。
またパシン、パシン、パシンと音が響き始めた。
さっきよりずっと鈍い音。
それに合わせるように壁が揺れ、女の低い叫び。
嗚咽。
痛さを我慢しているのだ。
ありさは音と振動から状況を推測せずに入られない。
手を壁につかせて和服のお尻をめくって師匠が叩いている。
ありさはそう思った。
それがわかると急に怖くなった。
耳をふさいだ。
でも聞こえてしまう。
女が恥ずかしげもなく泣き叫んでいる。
師匠の叩き方は相当に痛いのだ。
さっき軽く触られただけであれだけ痛いのだ。
きっと本気だったら並みの痛さでない。
ありさは姿勢を正した。
叱られないようにしなくちゃ……と緊張した。
ありさの横の襖が静かにす~っと開いた。
それだけで身体がピクンとした。
「しっかり座っていましたか?」
物腰がやはり柔らかい。
この豹変はかえって怖い。
さっきひっぱたいていた同一人物とはとても思えない。
背筋をもう少し伸ばすように軽く触れられた瞬間、身体に電流が走る。
若い女を叩いて泣かせた様子を聞いているので身体が守りに入っている。
「礼儀は形だけではありません。心と身体の美しさです」
礼儀の心得を師匠は解く。
「こういうのは駄目ですよ」
何かが目の前に突き出された。
ありさはハッとする。
身体に戦慄が走る。
叩かれると身体が構えた。
「見えないところに清潔なものを身につけるのが女の心構えです」
ありさの目に汚れを見せつけるように開いた。
控え室から持ってきたのだ。
ありさは恐怖と羞恥で頭が真っ白になった。
いつしか壁に向かって立っていた。
壁に手をつくよう命じられていた。
うしろから着物をめくられていた。
そして……
23歳の白い尻が師匠の前に突き出されていた。
コメント一覧
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1. Mikiko- 2018/09/22 08:17
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お作法
作法教室と云えば、まず思い浮かぶのが……。
『小笠原流』。
ちょっと調べてみました。
驚いたのがまず、礼儀作法だけの流派ではなかったことです。
本来は、弓術や馬術など、武家で行われる稽古全般の流派だそうです。
礼儀作法の分野は、『小笠原流礼法』と云うようです。
ただ現在、本部直営の教室は東京にしかなく……。
各地にあるのは、師範主宰の教室だとか。
お金を払ってそういうところに通うという精神は、残念ながら持ち合わせませんでしたので……。
これまで1度も、礼法というものを学んだことはありません。
そもそも、正座もできませんし。
今は、お寺も葬儀場も必ず椅子式ですから、正座を強いられる場面はまったくありません。
考えてみれば、わたしは「作法」とはまったく無縁に生きてきたなということです。
西洋料理でも、コース料理は1度も食べたことがありません。
ま、食べたいとも思いませんが。
わたしは、早食いなうえ、イラチなので……。
お皿が次々と出てこないと厨房の方を睨んだりして、ぜったいに楽しめないと思うのです。
その点、日本旅館などの料理はいいですよね。
いきなり、ほぼ全品並んでますから。
あれは、安心して食べられます。
そうか。
明日はお彼岸でしたね。
わたしの住む地域では、特にお彼岸にお墓参りをしたりする習慣はありません。
わが家でも、何もする予定がないです。
新潟市の中心部では、墓参りの風習があるようです。
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2. Shyrock- 2018/09/22 11:46
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更新おつかれさまです。
「小笠原流」の解説ありがとうございます。
大変勉強になりました。
本編はありさちゃんが実際に某作法教室に通い始めたと聞いた時に、
僕が勝手に妄想を膨らませ執筆した作品なんです。
このようなSっぽい先生だったかどうかは、実際のところ知りません。
確かに現代人は正座をする機会って減りましたね。
Mikikoさんが仰るとおり、冠婚葬祭もほとんど椅子ですからね。
僕は柔道をやっているので正座はふつうですが、
それ以外だとたまに京都の庭園に行ってお茶を戴く時ぐらいでしょうか。
Mikikoさんのコース料理苦手は意外な気がしました。
理由をお聞きして思わず笑ってしまいました。
得意そうなイメージがあったもので。
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3. Mikiko- 2018/09/22 12:07
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わたしのコース料理苦手案件より……
Shyrockさんが柔道をやってるという方が、圧倒的に意外だと思います。
柔道の世界選手権で、阿部兄妹が揃って優勝しましたね。
妹の阿部詩ちゃん(18歳!)は可愛いです。
ところでわたしは、『由美美弥』でたまーに格闘シーンも書いてます。
けっこう、興味があるのです。
ストリートファイトをさせたら、柔道はそうとう強いんじゃないでしょうか。
スポーツの柔道を見てると、そんなに怖い格闘技には見えません。
でもあれは、畳の上で、しかも、相手を背中から落とせばポイントというルールだからです。
ストリートファイトの場合、まず下がアスファルトです。
これが恐るべき凶器になります。
柔道家は、やろうと思えば、相手を頭から落とせるのです。
相手の着衣を掴むという形式も、ストリートでの実戦にマッチしてます。
路上で、柔道家に服を掴まれたら……。
命に関わると思います。
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4. 手羽崎 鶏造- 2018/09/23 05:51
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柔道といえば、素人のワタシにしてみれば
寝技に興味があります。
女子選手が、投げ技の練習に男子選手を
相手にすることって、練習風景を見たことが
ありますけど、寝技の練習に男子相手って
有るものなのでしょうか?
男子はきっと勃起しちゃうと思うのですが。
(女子選手に寝技で失神・落とされたいワタシ)
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5. Mikiko- 2018/09/23 07:45
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男子選手が寝技の相手をすることは……
あり得ると思います。
女子選手が有利なところは、男子と練習できることだと思います。
格闘技はもちろんですが、テニスなどの対戦型スポーツでも……。
世界トップクラスの女子は、自国内では同性の練習相手が見つからない場合があります。
その点、男子なら、世界トップの女子より強い選手はいくらでもいるでしょう。
逆に云えば、男子と練習しない女子選手は、強くなれないんじゃないでしょうか。
男子の場合、柔道着の下には何も着けないそうです。
先走りで道着が透けちゃうんじゃないですかね?
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6. 手羽崎 鶏造- 2018/09/23 09:56
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女子柔道って、道着の下は丸首の
白いTシャツと決まっているそうです。
スポーツブラも付けているでしょうし、暑苦しそう。
男子のように素肌に道着とすると、
ポロリ見たさに、女子柔道ファン(ただのスケベ)
が増える気がしますが。
ラグビーも昔はノーパンが伝統という慶應大の
ようなところもあったそうです。
フルチンはフルチンで、大事なところは
防御する必要があると思いますけど。
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7. Mikiko- 2018/09/23 12:02
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女子柔道
確かに、夏は大変だろうなと思います。
下も、ショーツだけだとラインが透けるので、上からスパッツを穿くそうです。
でも、女子だけの練習では、スパッツは着けないこともあるとか。
さすがに、ノーパンは無いようですが。