2016.1.24(日)
み「わたしも、家の庭で、何度か見ました。
可愛いですよね。
特に、目が」
↑黒目の周りが金色なのが、カナヘビの特徴。ニホントカゲは、黒一色です。
客「それは、わかります。
クリっとしてますね」
み「こんな顔でしょ?」
客「わははは」
律「やめなさいってば。
恥ずかしい女ね。
何、その顔?
カナヘビって、なんなの?」
み「爬虫類でんがな」
↑香港の爬虫類関係のイベントに出現したトカゲ星人のようです。
律「それで、ヘビなのね。
どうして、大湊線の車中で、ヘビの話なんかしてるのかしら。
ヘビが可愛いわけないでしょ」
み「あなた、カナヘビを知りませんか?」
律「だから、ヘビなんでしょ?」
み「ヘビと名がつきますが、実は、トカゲなんです」
律「じゃ、なんでヘビなんて付けるのよ?」
み「知りまへんがな」
客「語源は、はっきりしないらしいですね。
可愛いらしいヘビという意味で、“愛蛇(かなへび)”と呼んだという説があるそうです」
↑好き好きですが。
律「トカゲが可愛いわけないじゃないですか」
み「可愛いんだって。
一度、近くで見たんさい」
律「イヤなこった」
み「ゴキブリ退治用に、室内で飼えませんかね?」
客「放し飼いにするんですか」
み「もちろんです」
客「妙なところに入りこんでしまう気がしますな」
み「確かに。
タンスの下着の中に入ってたりしたら、ちょっとイヤです。
穿こうとしたら、ニョロッと出てきたり」
律「想像したくもないわ」
客「ゴキブリを食べつくしたら、餓死しちゃうんじゃないですか?」
み「米とか、食べませんかね?」
↑餌に見えんか?
客「完全な肉食でしょう」
↑『全や連総本店 東京(大手町)』の“メガやきとりⅡ”。串長1メートル。1日2串限定。
み「蜘蛛も食べませんよね。
米」
客「そりゃ、食べないでしょう。
食べさせたんですか?」
み「うちの2階のトイレの庇に、毎秋、女郎蜘蛛が巣食うんです」
上の方にいる小さい蜘蛛は、子供ではなくオスです。
交尾のチャンスを狙ってます。
チャンスは、メスが食事してるときだけ。
それ以外のときに近づくと、獲物と思われて、食べられてしまうからです。
み「トイレの壁は、ヘデラ・ヘリックスというウコギ科の蔦が、這いあがってきてるんです」
客「ヘデラ・ヘリックスって、観葉植物じゃなかったですか?
こないだ、ホームセンターで売ってましたよ。
小さなポットで、葉っぱが数枚の可愛い苗でしょ?」
↑こちらはかなり大苗です。蔓を切ってコップに挿しておくと、たちまち根を出します。一時期、面白くてどんどん増やしてましたが、あまりにも簡単で際限がないので止めました。
み「そうですけど……。
それで騙されたらいけません。
あれは草じゃなくて、立派な樹木なんです。
わたしも、日の当たらない家の裏が寂しいので、手の平に載るくらいのポットを買って……。
一株、植えたんです。
ぜんぜん、肥料もやってないのに、壁を這いあがってきて……」
↑実は、登攀力はあまり強くありません。この画像では、登攀しやすいよう、壁面にマットを施工しています。うちの外壁は、縦に目地が入っていて、そこに吸着しながら登って来ました。
み「ついに、日の当たるところまで蔓が届いたら、それからは一気でした。
トイレの窓を覆うほどになって、毎年、切らなきゃなりません。
地際の幹なんて、人の手首くらいになってるんですよ」
↑うちのは、もっと太くなってます。
客「そんなに太るんですか?」
み「実は、太った理由が、最近、判明したんです」
客「ほー」
み「トイレの下の地面には、下水のマンホールが埋まってるんです」
み「2階のトイレの水が、そこに流れこむわけですね。
こないだ、トイレが詰まって、水道屋を呼んだんですよ。
ところが、詰まった原因がわからない。
ほら、ゴムの、パッコンパッコンする道具があるでしょ?」
↑アイデアはいいと思いますが……。降りるとき、すぐに外れるんでしょうか? 正式名称は、『ラバーカップ』だそうです。
客「ありますな。
小学校のころ、友達の頭にくっつけて遊びました」
↑真似してはいけません。
み「汚すぎです」
客「確かに」
み「水道屋さんが、その道具で、何度パッコンパッコンしても治らない。
これは、トイレの便器を外さないと、原因がわからないということになって……。
大掛かりな道具を持ってくるために、いったん、水道屋さんが帰ろうとしたんです。
で、1階に下りて、ふと窓の外を見ると……。
雨でもないのに、地面に水が溢れてる」
↑水たまりには、カピバラが浸かってました。
み「さすがプロですね。
水道屋さんは、それでピンときたわけす。
原因は、トイレではなく、外の排水にあると。
外に出ると、マンホールを中心にして、水溜まりが広がってます」
↑“マンホール”という語で、勘ぐってはいけません。純粋に、マンホールの蓋のデザインに興味を持つ女性です。
み「さっそく、蓋を取ってみたら、あーら、びっくら仰天です。
例の、ヘデラ・ヘリックスの根が、マンホールの継ぎ目から侵入し……。
マンホールの中で、びっしり根を張ってたんです」
↑わが家のではありませんが。
み「つまり、うちのヘデラくんが、異様に元気よく太ったのは……。
わたしのウンコを栄養にしてたからなんです!」
客「なるほど。
植物の力ってスゴいですね。
アンコールワットの遺跡を思い出しました」
み「樹木に覆われてしまってるんですよね」
↑スゴいですよね。見てみたい。
客「そうです。
でも、どうしてトイレが詰まった話になったんでしょう?」
律「すみません。
この人と話してると、いつもこうなんですよ。
脱線ばっかりで」
客「はは。
列車に乗ってて、脱線はウマくありませんな」
律「失礼」
客「あ、思い出した。
トイレの窓です。
蜘蛛が巣食ってるって話」
み「そうでした。
2階の窓まで、例のヘデラ・ヘリックスが這いあがってるんです。
で、そのヘデラなんですけどね。
驚いたことに、たくさん花を咲かせるんです」
客「蔦に花ですか」
み「花と言っても、ぜんぜん目立たないんですよ。
薄緑色で」
み「遠くからだと、葉っぱに紛れて気づかないんじゃないかな。
花と云っても、花びらがあるわけじゃなくて……。
綿棒の先みたいなまん丸の花なんです。
ネムノキの花を小ぶりにして、球状に丸めた感じ」
律「さっぱりわからないわ」
み「とにかく、貧相な花なの。
ところが!
この花、虫たちに大人気だったんです」
客「どんな虫が来るんです?」
み「大きいのは、ミツバチですね。
あとは、アブとかコバエみたいなの。
こいつらが、わんわんと飛び回るんですよ」
↑仮面ライダーに出てきたハエ男。チープです。
み「女郎蜘蛛は、そこに巣食ってるんです。
多い時で、3匹くらいいたかな」
↑蜘蛛のピアス。付ける気はしないけど、欲しいです。
み「それがみんな、ムクムク大きくなるんですから……。
けっこう、巣に掛かるんじゃないかな?
あ、そう言えば、一度、大きなミツバチが掛かったのを見たことがありました」
客「ご馳走ですな」
み「とんでもない。
女郎蜘蛛の何倍もあるんですから。
とても手が出せませんよ」
↑哀れ、スズメバチにとっつかまった女郎蜘蛛
み「女郎蜘蛛は、完全にバックレて凝固してました。
『こんなとこに網を張ったのは、いったい誰?』って顔」
律「蜘蛛の顔色がわかるの?」
み「全身で知らんぷりしてたからね」
み「ミツバチはすぐに巣を破って、飛んでった。
とてもかなわないことがわかってるんだからスゴいよ。
あ、ここで突然、話の道筋を思い出した!」
客「ほー、大したものですな」
み「カナヘビが、米を食べないという話からです」
客「肉食でしょうからね」
↑ネコは、米もパンも食べますよね。
み「で、女郎蜘蛛も食べないという事実を、わたしは目撃しているのです」
客「やってみたんですか?」
み「御意。
でも、ほんとに偶然なんですよ。
夕食を食べ終わって、2階に上がる途中で、服の袖に、ごはん粒が一粒付いてるのに気がついた」
↑ごはん粒イヤリング。いろいろ考えますね。
律「あんたなら、それも食べちゃいそうだけど」
み「わたしは、デザートが終わってから、ごはん粒は食べません」
律「デザートが出るような夕食なわけ?」
み「リンゴとかナシの切ったのだけどね」
↑塩水に漬けると、耳が立つそうです。
客「バラ科ですな」
み「左様左様。
学習能力、高いですね」
客「光栄です」
み「リンゴを食べてさっぱりした後で、ごはん粒は食べたくない。
かと言って、おまんまをゴミ箱に捨てたりしたら、餓鬼地獄に落ちます」
↑救いのない話のようです。
律「古臭いこと言うわね」
み「ばあちゃんに教育されたからね。
で、衆生に振る舞おうと思い立ったのです」
↑新潟県内の上棟式での餅撒き。撒き方が間違ってるんでないの?
律「ごはん一粒を?」
み「左様。
だって、一粒で、アリの何倍もあるんだよ。
想像してみなはれ。
自分の体より大きい、ごはん粒」
↑『おいでまい』は、香川県オリジナルのお米。
み「何日食べられるんだろ」
律「冷蔵庫に入らないわ」
↑重さ、200㎏を超えるそうです。
み「話をずらしていくのは、先生だと思うのですが」
律「心外です」
み「で、ごはん粒は、廊下の窓から外に捨てることにしたんです」
律「やっぱり、捨てるんじゃないの」
み「ゴミ箱に捨てるのとは、わけが違います。
外に捨てれば、生き物の餌になるかも知れないでしょ」
↑『立春の米こぼれをり葛西橋(石田波郷)』行船公園(東京と江戸川区)にある句碑。
客「なるほど」
み「廊下の窓とトイレの窓は、隣り合って並んでるんです。
廊下の窓から顔を出したら、トイレの前の蜘蛛の巣が目に入った。
巣の真ん中で、女郎蜘蛛が手持ち無沙汰に逆さになってる」
↑ジグザグの糸は、横糸を張る時の足場糸だそうです。うーむ、見たことない。
み「蜘蛛は手足が8本もあるから、手持ち無沙汰も一塩だろうね」
律「アホくさ」
み「で、ほんのいたずら心で、ごはん粒を爪に乗せて……。
蜘蛛の巣に向かって、ピンと弾いたの」
み「もちろん、狙いなんて満足に付けてない。
当たりっこないからね」
客「それが、当たったわけですな」
み「大当たりでした。
巣のど真ん中」
み「女郎蜘蛛の脇の下あたりを直撃」
律「蜘蛛の脇の下って、何本目の下よ?」
み「やっぱり、先生が話を脱線させる犯人に決まりです」
律「ふん」
み「ごはん粒の衝撃で、巣がブンブン揺れました」
み「もう、女郎蜘蛛が喜んだのなんのって。
虫が飛び込んできたと思ったんでしょうね。
そのとき、蜘蛛が言ったセリフまで聞こえるようでした」
客「何て言いましたかな?」
み「『飛んで火に入る夏の虫』です」
↑『侍戦隊シンケンジャー』だそうです。
客「火じゃないじゃない」
み「蜘蛛の教養は、悲しいかな、その程度なのです」
客「で、ごはん粒を食べたんですか?」
み「最初は、躍り上がりながら糸を掛けてましたね。
ごはん粒をグルグル巻き。
でも、そのうち……。
飛び込んできたのが食べ物じゃないことに気づいたみたいなんです」
↑なんとー。そのものズバリの動画がありました。人の考えることは一緒ですね。
客「気づくでしょうな」
み「その後の態度が、気に入らんのです」
客「どうしたんです」
み「ごはん粒を足蹴にしたんですよ。
ケリを入れてるんです」
律「ほんとかしら」
み「ほんとでんがな。
プロレスみたいに、巣の糸で反動を付けて、蹴ってました。
いくら嫌いなものでも、食べ物を足蹴にするとは、言語道断です」
客「彼女にとってみれば、食べ物じゃないんでしょうね」
み「ほー。
女郎蜘蛛がメスだと、良くおわかりですね」
客「はは。
名前からして、メスとしか思えませんよ」
み「でも、オスがいなければ、繁殖できないでしょ」
客「もっともです。
どうやって見分けるんですかな?」
み「実に簡単です。
体格がぜんぜん違うんですよ。
大きさは、メスの3分の1以下です」
↑見た感じでは、もっと差があるように思えます。
客「それじゃ、女郎蜘蛛に見えないんじゃないですか?
女郎蜘蛛のオスだって、どうやってわかるんです?」
み「あなたは、実に質問がウマい。
まるで、作者に操られてるようです」
↑糸操り人形(あさ鼓)
客「その通りでしょうな」
み「女郎蜘蛛のオスは、メスの巣に居候してるんです。
つまり、一つの巣に、オスメス、2匹いるわけです」
客「仲がいいんですな」
み「とんでもない。
わたしは、最初……。
2匹目の小さいのは、巣の後継者なのかと思ってました」
↑『台与(とよ)』という読み方が一般的です。
み「大きなメスが出産したあと、巣を受け継ぐわけです」
客「蜘蛛の巣なんて、受け継がなくたって、一晩あれば作れるでしょ」
み「受け継ぐのは、場所です。
言い換えると、“ショバ”ですな」
客「つまり、餌が豊富に取れる場所ってことですね」
み「そのとおり。
例えば、うちのトイレの庇です。
ヘデラの花に群がる虫がたくさん飛んで来るうえに……。
庇が雨よけになって、巣も濡れない」
↑わが家ではありませんが。この窓の真下までヘデラが登ってきて、花盛りになってるのです。
み「まさに一等地ですよ。
そんなところは、滅多にありません」
客「で、次のメスが、虎視眈々と空くのを待ってると」
↑映画『アリス・イン・ワンダーランド』より。赤の女王の玉座。
み「そう思ったわけです。
でも、そうじゃなかった。
小さなもう1匹は、オスだったんです」
客「だから、仲がいいんじゃないですか?」
↑蚤の夫婦と俗に云いますが。
み「違います。
メスは、オスに気づかないだけなんです」
客「なんでです?
巣なんか、空中に張ってるんだから、見えないわけないでしょ?」
み「実は、女郎蜘蛛はド近眼なんです」
↑犬も近眼で、人間の視力で表すと、0.2~0.3程度だそうです。
律「ウソばっかり」
み「近眼かどうかは定かでないけど……。
目が悪いんですよ。
獲物が掛かったかどうかは、網の振動で判断するわけです」
↑縄アスレチックに挑戦するネコ。爪を立てることも、綱を握ることも出来ないので、はなはだ難渋したそうです。
み「だから、ごはん粒に跳びかかったりする」
客「なるほど。
オスがじっとしてれば、存在に気づかないということですか。
でも、気づかなかったら、アピールできないでしょ。
オスはたいがい、メスの前で、求婚行動をするんじゃありませんか?」
↑コウロコフウチョウの求愛ダンス。ものの見事に無視されます。
み「女郎蜘蛛のオスは、間違ってもそんなことしません」
客「どうしてです?」
み「食われちゃうからですよ。
メスに気づかれたら」
↑実在するスナックのようです。男性が入っても、食べられることはないでしょう(たぶん)。
客「あちゃー。
でも、それじゃ、どうやって子孫を残す行動が出来るんです」
み「チャンスは、ただひとつ。
メスが、巣に掛かった獲物を食べてるときだけです」
客「なるほど。
ほかの獲物を食べてるときなら、自分が食べられることがないと」
み「左様です。
一心に食事をしているメスに背後から忍び寄り……。
思いを遂げるわけですな」
↑食事中のメスの背後から近づくオス。このときのオスは、20分間に3回チャレンジしたそうですが、思いは遂げられなかったとか。
客「なんか、切ないですね」
み「これを知ってから、女郎蜘蛛の巣に、オスメス2匹いるのを見ると……。
心中で、オスにエールを送るようになりました」
↑立命館大学の本物の応援団長です。62代目にして初の女性団長だとか。
客「生き物の生態も、いろいろあって面白いものですね。
今度、家の庭でも探してみます。
もし、オスが一緒にいたら、スゴく親近感が湧くと思います」
み「ご苦労なさってるんですか?」
客「東京の家は狭いですからね。
男は、居場所が、だんだん無くなるものです」
み「でも、お子さんが独立したら、空くんじゃないですか?」
客「それを、虎視眈々と狙ってるんですがね。
就職したのに、出て行かないんですよ」
み「娘さんですか?」
客「いえ。
男です」
↑20代後半、独身貴族の実家部屋。居心地良過ぎでしょうね。
み「転勤とか、ないんでしょうか?」
客「区役所なんです」
↑そびえ立つ文京区役所。考えてみれば、大企業ですよね。しかも、転勤なし。
み「そりゃ、ありませんな」
客「そうなんですよ。
せめて、都の職員なら……。
小笠原勤務とかもあると思うのですが」
↑小笠原丸。東京まで、25時間。ほぼ、海外勤務です。
み「追い出したいわけですか?」
客「だってあっちは、小学校に入学した時から、個室があるんですよ。
勉強部屋」
↑1969年。ごく初期の学習デスク。お母さん、美人です。
客「わたしは、そのとき息子に部屋を譲って以来……。
居室が無いんです!」
み「悲痛な叫びですな。
奥さんと同部屋ですか?」
客「左様です」
↑やっぱり、隣に誰かいるのは気鬱ですよね。
み「それで、女郎蜘蛛のオスに共感するわけですね」
客「はいな。
同部屋と言っても、わたしの居場所は、ベッドの上くらいしかありません。
向こうは、スツールの付いた鏡台もあるくせに……」
客「さらに、サイドテーブルまで付けたんですよ」
客「家計簿の整理とか、しなきゃならないって」
み「確かに、書きものをするのなら、テーブルは要りますね」
客「家計簿つけてるとこなんて、見たことありません」
み「譲ってもらえないんですか、そのテーブル?」
客「あなたは、会社にデスクがあるんでしょうって」
↑昭和の会社。いいですよね。会社を出れば、携帯もないし、喫茶店で寝ててもバレません。
み「ま、そりゃそうですけど……。
ちょっと、無茶ですね」
客「でしょ。
今度、うちに来て、意見してやってください」
↑説教されるショッカー。
み「お断りします」
客「そう言わずに。
助けると思って」
み「何の義理もありませんので。
そんなことに口出したら、ろくな事になりません。
増築とか、出来ないんですか?」
客「マンションです」
み「ベランダがあるでしょう」
客「奥行き、1メートルですよ」
み「狭いながらも、楽しいわが家といいます。
幅1メートルでも、自分一人の居場所となれば、嬉しいんじゃないですか?」
客「だって、戸外ですよ。
冬は寒すぎるし……」
↑カナダのベランダ。氷点下20度だそうです。
客「夏はカンカン照りです。
西側なんですから」
み「もちろん、吹きさらしのままじゃ、ムリでしょ。
サンルームみたいにするんですよ。
ガラス張りの」
客「なるほど。
でも、マンションに、そんなの付けられるのかな?
規約を読んでみないと」
律「構築物はダメなんじゃないの?」
↑お城のような部分は、違法増築のようです。さすが、中国。
み「賃貸じゃないんでしょ?」
客「ローンで買いました。
まだ、支払いが残ってます」
み「ご苦労さまです」
律「管理組合とかに聞いたほうがいいと思いますよ」
↑大変そうです。
客「ですよね」
み「あ、恒久的な構造物じゃなけりゃいいんでしょ。
じゃ、テントでいいじゃないですか」
客「ベランダにテントを張るわけですか。
奥行き、1メートルですが」
↑ほんとにやってる人がいました。
み「一人寝用のテントって、無いですかね」
客「幅、1メートル以内の細長いテントですね」
み「そうです」
客「あったらあったで、すごく物悲しい気がしますが」
↑ありました。寝るだけになっちゃいますが。
み「我が城じゃないですか」
客「おそらく、冬はものすごく寒くて……。
夏は、耐え難いほど暑いかと」
↑こちらは、一戸建てのようです。余裕ですね。北アルプスへ行く前の、試し張りだとか。こんなにいい場所があるのに、なんで山になんか張りに行くんですかね。
み「テントじゃ、冷暖房は難しいか。
冬は、七輪とか置いたらどうでしょう?」
客「一酸化炭素中毒になると思います」
↑ひとつ間違えば、大惨事。
み「締め切らなきゃいいんじゃないですか」
客「それじゃ、寒いですよ。
第一、どうしてそこまでして、ベランダのテントに居なきゃならんのです?」
み「だって、ベランダしか場所が無いんでしょ?」
客「何だか、本気で物悲しくなってきました。
窓の外の景色は、こんなに広々としてるのに」
↑これは、下北に近い場所かも知れません。人工物がほとんど見えない景色が続くようです。
律「息子さん、結婚のご予定は無いんですか?」
客「彼女を連れてきたこともありません」
律「でも役所には、若い女性もいるんじゃないですか?」
↑文京区役所。“さすまた”を使っての防犯訓練。とっつかまってるのは警察官のようです。“さすまた”って、普段はどこに置いてあるんでしょうね。壁掛け?
客「いることはいるでしょうが……。
区役所に勤めるような女性は、自宅から通う一人娘みたいなのが多いんじゃないでしょうか?」
み「婿養子希望?」
客「そうそう」
み「今どき、それも難しいんじゃないですか?
男だって、一人っ子が多いでしょうから」
律「でも、適齢期過ぎそうになったら、妥協してくるんじゃないですか?」
客「それは無いみたいですよ」
客「友人の話を聞くと。
30過ぎて、嫁に行かない娘を持ってるんですが……。
本人は、一向に焦ってないそうです。
良い相手がいないんなら、一人のままでいいって」
↑昔、タモリが、こういう女性に対し『そーゆー男は、おめーを選ばねえよ』と突っこんでました。
み「それじゃ、少子化が進むわけだわ。
確かに、実家で独り身ってのは……。
これ以上ない、気楽な身分だからね」
↑コタツに半纏。実家でこれを始めたら、もう抜けられません。
律「あんた、そうだったわね」
み「お互いさまでしょ」
律「わたしは、実家ぐらしじゃありません」
客「なんだ。
お2人とも、独身だったんですか」
み「そうでなきゃ、こうして気ままな旅行なんか、出れませんよ」
↑冬の金沢、女ふたり旅。いいですねー。
客「言われてみれば。
でも、ひとごとみたいな口調でしたから……。
とてもそうだとは思えませんでした。
だけど、ほんとに意外です。
こんなにお綺麗なのに」
み「何でわたしの方を見ないんですか?」
客「あ、いえ。
今、見ようとしたところです」
み「あなた、とことん調子がいいですね」
↑映画『サラリーマンどんと節 気楽な稼業と来たもんだ』(1962年)。いい時代だったんじゃないでしょうか。
み「外見は、紳士なのに」
客「会社でも自宅でも気を使いますから。
身についちゃったみたいです。
息抜きは、こうして、たまに出る旅行だけです。
特急や新幹線なんか、乗る気になりません。
会社の出張みたいで。
とにかく、各駅停車の、できれば単線の非電化路線を……。
のんびり走る列車に乗るのが、無上の喜びです」
↑どこでしょう? 車両は新しそうですけど、非電化ですよね。
み「そういう歌、ありましたね」
客「どんな歌です?」
み「♪知らない街を~」
客「ありました、ありました。
♪歩いてみたぁい」
↑こういう旅も楽しいでしょうね。わたしは、商店街が大好きです。
み「♪どこか遠くにぃ」
客「♪行きたぁい」
み「♪遠い街~」
律「やかましい!
歌いあげるな!
近所迷惑でしょ」
み「こりゃまた失礼。
なんて題名でしたっけ?」
客「確か、『遠くへ行きたい』です」
↑倍賞千恵子さんバージョンでどうぞ。バックの動画がとても良いです。
客「永六輔、中村八大のコンビですね」
↑『上を向いて歩こう』が、このトリオ。
み「歌ったのは誰です?」
客「ジェリー藤尾ですよ」
↑『インディアン・ツイスト』を、ぜひ聞いてみたいです。
↓『インディアン・ツイスト』、ありました(動画は埋め込み禁止でした)。
http://www.youtube.com/watch?v=WATNUsgPGZU
A面とB面で、これほど曲調が違うというのも面白いです。
み「知ってる?」
律「知らない」
客「今の人は、知りませんかな。
『夢であいましょう』という番組で歌って、大ヒットしました」
↑番組初代ホステスの中嶋弘子さん。斜め45度のお辞儀が評判だったそうです。
み「暗い歌って、妙に懐かしいよね」
律「どんな歌?」
み「『時には母のない子のように』とか」
客「よくそんな歌、ご存知ですね。
カルメン・マキですな」
客「あぁ、その名前は聞いたことあります。
歌手だったんですね。
なんとなくお笑い芸人みたいですけど」
律「どうしてお笑い芸人なのよ?」
み「昔、いたんだって。
左マキって芸人が。
サンマが言ってたんだっけかな?」
↑この格好でスタジオの廊下を歩いてたら、イギリスのロックバンド『カルチャー・クラブ』とすれ違ったそうです。ボーイ・ジョージに、『Crazy!』と叫ばれたとか。
律「ほんと、つまらなことばっかり詳しいんだから」
み「そう言えば、この歌詞にも旅が出てきますね。
♪時には母のない子のように~。
♪ひとりで旅に出てみたい」
↑日米ハーフ。『時には母のない子のように』を歌ったときは、17歳だったそうです。
客「はは。
ぴったりですね」
み「ひょっとしてこれも永六輔?」
客「違います。
寺山修司ですよ」
み「おー。
青森県民ではないか。
若死にしちゃったんですよね」
↑昭和45年、力石徹の葬儀。葬儀委員長を寺山修司が務めました。寺山修司は、『あしたのジョー』主題歌の作詞者です。
客「確か、47歳でした」
み「病気だったんですか?」
客「肝硬変ですから……。
飲み過ぎでしょう」
可愛いですよね。
特に、目が」
↑黒目の周りが金色なのが、カナヘビの特徴。ニホントカゲは、黒一色です。
客「それは、わかります。
クリっとしてますね」
み「こんな顔でしょ?」
客「わははは」
律「やめなさいってば。
恥ずかしい女ね。
何、その顔?
カナヘビって、なんなの?」
み「爬虫類でんがな」
↑香港の爬虫類関係のイベントに出現したトカゲ星人のようです。
律「それで、ヘビなのね。
どうして、大湊線の車中で、ヘビの話なんかしてるのかしら。
ヘビが可愛いわけないでしょ」
み「あなた、カナヘビを知りませんか?」
律「だから、ヘビなんでしょ?」
み「ヘビと名がつきますが、実は、トカゲなんです」
律「じゃ、なんでヘビなんて付けるのよ?」
み「知りまへんがな」
客「語源は、はっきりしないらしいですね。
可愛いらしいヘビという意味で、“愛蛇(かなへび)”と呼んだという説があるそうです」
↑好き好きですが。
律「トカゲが可愛いわけないじゃないですか」
み「可愛いんだって。
一度、近くで見たんさい」
律「イヤなこった」
み「ゴキブリ退治用に、室内で飼えませんかね?」
客「放し飼いにするんですか」
み「もちろんです」
客「妙なところに入りこんでしまう気がしますな」
み「確かに。
タンスの下着の中に入ってたりしたら、ちょっとイヤです。
穿こうとしたら、ニョロッと出てきたり」
律「想像したくもないわ」
客「ゴキブリを食べつくしたら、餓死しちゃうんじゃないですか?」
み「米とか、食べませんかね?」
↑餌に見えんか?
客「完全な肉食でしょう」
↑『全や連総本店 東京(大手町)』の“メガやきとりⅡ”。串長1メートル。1日2串限定。
み「蜘蛛も食べませんよね。
米」
客「そりゃ、食べないでしょう。
食べさせたんですか?」
み「うちの2階のトイレの庇に、毎秋、女郎蜘蛛が巣食うんです」
上の方にいる小さい蜘蛛は、子供ではなくオスです。
交尾のチャンスを狙ってます。
チャンスは、メスが食事してるときだけ。
それ以外のときに近づくと、獲物と思われて、食べられてしまうからです。
み「トイレの壁は、ヘデラ・ヘリックスというウコギ科の蔦が、這いあがってきてるんです」
客「ヘデラ・ヘリックスって、観葉植物じゃなかったですか?
こないだ、ホームセンターで売ってましたよ。
小さなポットで、葉っぱが数枚の可愛い苗でしょ?」
↑こちらはかなり大苗です。蔓を切ってコップに挿しておくと、たちまち根を出します。一時期、面白くてどんどん増やしてましたが、あまりにも簡単で際限がないので止めました。
み「そうですけど……。
それで騙されたらいけません。
あれは草じゃなくて、立派な樹木なんです。
わたしも、日の当たらない家の裏が寂しいので、手の平に載るくらいのポットを買って……。
一株、植えたんです。
ぜんぜん、肥料もやってないのに、壁を這いあがってきて……」
↑実は、登攀力はあまり強くありません。この画像では、登攀しやすいよう、壁面にマットを施工しています。うちの外壁は、縦に目地が入っていて、そこに吸着しながら登って来ました。
み「ついに、日の当たるところまで蔓が届いたら、それからは一気でした。
トイレの窓を覆うほどになって、毎年、切らなきゃなりません。
地際の幹なんて、人の手首くらいになってるんですよ」
↑うちのは、もっと太くなってます。
客「そんなに太るんですか?」
み「実は、太った理由が、最近、判明したんです」
客「ほー」
み「トイレの下の地面には、下水のマンホールが埋まってるんです」
み「2階のトイレの水が、そこに流れこむわけですね。
こないだ、トイレが詰まって、水道屋を呼んだんですよ。
ところが、詰まった原因がわからない。
ほら、ゴムの、パッコンパッコンする道具があるでしょ?」
↑アイデアはいいと思いますが……。降りるとき、すぐに外れるんでしょうか? 正式名称は、『ラバーカップ』だそうです。
客「ありますな。
小学校のころ、友達の頭にくっつけて遊びました」
↑真似してはいけません。
み「汚すぎです」
客「確かに」
み「水道屋さんが、その道具で、何度パッコンパッコンしても治らない。
これは、トイレの便器を外さないと、原因がわからないということになって……。
大掛かりな道具を持ってくるために、いったん、水道屋さんが帰ろうとしたんです。
で、1階に下りて、ふと窓の外を見ると……。
雨でもないのに、地面に水が溢れてる」
↑水たまりには、カピバラが浸かってました。
み「さすがプロですね。
水道屋さんは、それでピンときたわけす。
原因は、トイレではなく、外の排水にあると。
外に出ると、マンホールを中心にして、水溜まりが広がってます」
↑“マンホール”という語で、勘ぐってはいけません。純粋に、マンホールの蓋のデザインに興味を持つ女性です。
み「さっそく、蓋を取ってみたら、あーら、びっくら仰天です。
例の、ヘデラ・ヘリックスの根が、マンホールの継ぎ目から侵入し……。
マンホールの中で、びっしり根を張ってたんです」
↑わが家のではありませんが。
み「つまり、うちのヘデラくんが、異様に元気よく太ったのは……。
わたしのウンコを栄養にしてたからなんです!」
客「なるほど。
植物の力ってスゴいですね。
アンコールワットの遺跡を思い出しました」
み「樹木に覆われてしまってるんですよね」
↑スゴいですよね。見てみたい。
客「そうです。
でも、どうしてトイレが詰まった話になったんでしょう?」
律「すみません。
この人と話してると、いつもこうなんですよ。
脱線ばっかりで」
客「はは。
列車に乗ってて、脱線はウマくありませんな」
律「失礼」
客「あ、思い出した。
トイレの窓です。
蜘蛛が巣食ってるって話」
み「そうでした。
2階の窓まで、例のヘデラ・ヘリックスが這いあがってるんです。
で、そのヘデラなんですけどね。
驚いたことに、たくさん花を咲かせるんです」
客「蔦に花ですか」
み「花と言っても、ぜんぜん目立たないんですよ。
薄緑色で」
み「遠くからだと、葉っぱに紛れて気づかないんじゃないかな。
花と云っても、花びらがあるわけじゃなくて……。
綿棒の先みたいなまん丸の花なんです。
ネムノキの花を小ぶりにして、球状に丸めた感じ」
律「さっぱりわからないわ」
み「とにかく、貧相な花なの。
ところが!
この花、虫たちに大人気だったんです」
客「どんな虫が来るんです?」
み「大きいのは、ミツバチですね。
あとは、アブとかコバエみたいなの。
こいつらが、わんわんと飛び回るんですよ」
↑仮面ライダーに出てきたハエ男。チープです。
み「女郎蜘蛛は、そこに巣食ってるんです。
多い時で、3匹くらいいたかな」
↑蜘蛛のピアス。付ける気はしないけど、欲しいです。
み「それがみんな、ムクムク大きくなるんですから……。
けっこう、巣に掛かるんじゃないかな?
あ、そう言えば、一度、大きなミツバチが掛かったのを見たことがありました」
客「ご馳走ですな」
み「とんでもない。
女郎蜘蛛の何倍もあるんですから。
とても手が出せませんよ」
↑哀れ、スズメバチにとっつかまった女郎蜘蛛
み「女郎蜘蛛は、完全にバックレて凝固してました。
『こんなとこに網を張ったのは、いったい誰?』って顔」
律「蜘蛛の顔色がわかるの?」
み「全身で知らんぷりしてたからね」
み「ミツバチはすぐに巣を破って、飛んでった。
とてもかなわないことがわかってるんだからスゴいよ。
あ、ここで突然、話の道筋を思い出した!」
客「ほー、大したものですな」
み「カナヘビが、米を食べないという話からです」
客「肉食でしょうからね」
↑ネコは、米もパンも食べますよね。
み「で、女郎蜘蛛も食べないという事実を、わたしは目撃しているのです」
客「やってみたんですか?」
み「御意。
でも、ほんとに偶然なんですよ。
夕食を食べ終わって、2階に上がる途中で、服の袖に、ごはん粒が一粒付いてるのに気がついた」
↑ごはん粒イヤリング。いろいろ考えますね。
律「あんたなら、それも食べちゃいそうだけど」
み「わたしは、デザートが終わってから、ごはん粒は食べません」
律「デザートが出るような夕食なわけ?」
み「リンゴとかナシの切ったのだけどね」
↑塩水に漬けると、耳が立つそうです。
客「バラ科ですな」
み「左様左様。
学習能力、高いですね」
客「光栄です」
み「リンゴを食べてさっぱりした後で、ごはん粒は食べたくない。
かと言って、おまんまをゴミ箱に捨てたりしたら、餓鬼地獄に落ちます」
↑救いのない話のようです。
律「古臭いこと言うわね」
み「ばあちゃんに教育されたからね。
で、衆生に振る舞おうと思い立ったのです」
↑新潟県内の上棟式での餅撒き。撒き方が間違ってるんでないの?
律「ごはん一粒を?」
み「左様。
だって、一粒で、アリの何倍もあるんだよ。
想像してみなはれ。
自分の体より大きい、ごはん粒」
↑『おいでまい』は、香川県オリジナルのお米。
み「何日食べられるんだろ」
律「冷蔵庫に入らないわ」
↑重さ、200㎏を超えるそうです。
み「話をずらしていくのは、先生だと思うのですが」
律「心外です」
み「で、ごはん粒は、廊下の窓から外に捨てることにしたんです」
律「やっぱり、捨てるんじゃないの」
み「ゴミ箱に捨てるのとは、わけが違います。
外に捨てれば、生き物の餌になるかも知れないでしょ」
↑『立春の米こぼれをり葛西橋(石田波郷)』行船公園(東京と江戸川区)にある句碑。
客「なるほど」
み「廊下の窓とトイレの窓は、隣り合って並んでるんです。
廊下の窓から顔を出したら、トイレの前の蜘蛛の巣が目に入った。
巣の真ん中で、女郎蜘蛛が手持ち無沙汰に逆さになってる」
↑ジグザグの糸は、横糸を張る時の足場糸だそうです。うーむ、見たことない。
み「蜘蛛は手足が8本もあるから、手持ち無沙汰も一塩だろうね」
律「アホくさ」
み「で、ほんのいたずら心で、ごはん粒を爪に乗せて……。
蜘蛛の巣に向かって、ピンと弾いたの」
み「もちろん、狙いなんて満足に付けてない。
当たりっこないからね」
客「それが、当たったわけですな」
み「大当たりでした。
巣のど真ん中」
み「女郎蜘蛛の脇の下あたりを直撃」
律「蜘蛛の脇の下って、何本目の下よ?」
み「やっぱり、先生が話を脱線させる犯人に決まりです」
律「ふん」
み「ごはん粒の衝撃で、巣がブンブン揺れました」
み「もう、女郎蜘蛛が喜んだのなんのって。
虫が飛び込んできたと思ったんでしょうね。
そのとき、蜘蛛が言ったセリフまで聞こえるようでした」
客「何て言いましたかな?」
み「『飛んで火に入る夏の虫』です」
↑『侍戦隊シンケンジャー』だそうです。
客「火じゃないじゃない」
み「蜘蛛の教養は、悲しいかな、その程度なのです」
客「で、ごはん粒を食べたんですか?」
み「最初は、躍り上がりながら糸を掛けてましたね。
ごはん粒をグルグル巻き。
でも、そのうち……。
飛び込んできたのが食べ物じゃないことに気づいたみたいなんです」
↑なんとー。そのものズバリの動画がありました。人の考えることは一緒ですね。
客「気づくでしょうな」
み「その後の態度が、気に入らんのです」
客「どうしたんです」
み「ごはん粒を足蹴にしたんですよ。
ケリを入れてるんです」
律「ほんとかしら」
み「ほんとでんがな。
プロレスみたいに、巣の糸で反動を付けて、蹴ってました。
いくら嫌いなものでも、食べ物を足蹴にするとは、言語道断です」
客「彼女にとってみれば、食べ物じゃないんでしょうね」
み「ほー。
女郎蜘蛛がメスだと、良くおわかりですね」
客「はは。
名前からして、メスとしか思えませんよ」
み「でも、オスがいなければ、繁殖できないでしょ」
客「もっともです。
どうやって見分けるんですかな?」
み「実に簡単です。
体格がぜんぜん違うんですよ。
大きさは、メスの3分の1以下です」
↑見た感じでは、もっと差があるように思えます。
客「それじゃ、女郎蜘蛛に見えないんじゃないですか?
女郎蜘蛛のオスだって、どうやってわかるんです?」
み「あなたは、実に質問がウマい。
まるで、作者に操られてるようです」
↑糸操り人形(あさ鼓)
客「その通りでしょうな」
み「女郎蜘蛛のオスは、メスの巣に居候してるんです。
つまり、一つの巣に、オスメス、2匹いるわけです」
客「仲がいいんですな」
み「とんでもない。
わたしは、最初……。
2匹目の小さいのは、巣の後継者なのかと思ってました」
↑『台与(とよ)』という読み方が一般的です。
み「大きなメスが出産したあと、巣を受け継ぐわけです」
客「蜘蛛の巣なんて、受け継がなくたって、一晩あれば作れるでしょ」
み「受け継ぐのは、場所です。
言い換えると、“ショバ”ですな」
客「つまり、餌が豊富に取れる場所ってことですね」
み「そのとおり。
例えば、うちのトイレの庇です。
ヘデラの花に群がる虫がたくさん飛んで来るうえに……。
庇が雨よけになって、巣も濡れない」
↑わが家ではありませんが。この窓の真下までヘデラが登ってきて、花盛りになってるのです。
み「まさに一等地ですよ。
そんなところは、滅多にありません」
客「で、次のメスが、虎視眈々と空くのを待ってると」
↑映画『アリス・イン・ワンダーランド』より。赤の女王の玉座。
み「そう思ったわけです。
でも、そうじゃなかった。
小さなもう1匹は、オスだったんです」
客「だから、仲がいいんじゃないですか?」
↑蚤の夫婦と俗に云いますが。
み「違います。
メスは、オスに気づかないだけなんです」
客「なんでです?
巣なんか、空中に張ってるんだから、見えないわけないでしょ?」
み「実は、女郎蜘蛛はド近眼なんです」
↑犬も近眼で、人間の視力で表すと、0.2~0.3程度だそうです。
律「ウソばっかり」
み「近眼かどうかは定かでないけど……。
目が悪いんですよ。
獲物が掛かったかどうかは、網の振動で判断するわけです」
↑縄アスレチックに挑戦するネコ。爪を立てることも、綱を握ることも出来ないので、はなはだ難渋したそうです。
み「だから、ごはん粒に跳びかかったりする」
客「なるほど。
オスがじっとしてれば、存在に気づかないということですか。
でも、気づかなかったら、アピールできないでしょ。
オスはたいがい、メスの前で、求婚行動をするんじゃありませんか?」
↑コウロコフウチョウの求愛ダンス。ものの見事に無視されます。
み「女郎蜘蛛のオスは、間違ってもそんなことしません」
客「どうしてです?」
み「食われちゃうからですよ。
メスに気づかれたら」
↑実在するスナックのようです。男性が入っても、食べられることはないでしょう(たぶん)。
客「あちゃー。
でも、それじゃ、どうやって子孫を残す行動が出来るんです」
み「チャンスは、ただひとつ。
メスが、巣に掛かった獲物を食べてるときだけです」
客「なるほど。
ほかの獲物を食べてるときなら、自分が食べられることがないと」
み「左様です。
一心に食事をしているメスに背後から忍び寄り……。
思いを遂げるわけですな」
↑食事中のメスの背後から近づくオス。このときのオスは、20分間に3回チャレンジしたそうですが、思いは遂げられなかったとか。
客「なんか、切ないですね」
み「これを知ってから、女郎蜘蛛の巣に、オスメス2匹いるのを見ると……。
心中で、オスにエールを送るようになりました」
↑立命館大学の本物の応援団長です。62代目にして初の女性団長だとか。
客「生き物の生態も、いろいろあって面白いものですね。
今度、家の庭でも探してみます。
もし、オスが一緒にいたら、スゴく親近感が湧くと思います」
み「ご苦労なさってるんですか?」
客「東京の家は狭いですからね。
男は、居場所が、だんだん無くなるものです」
み「でも、お子さんが独立したら、空くんじゃないですか?」
客「それを、虎視眈々と狙ってるんですがね。
就職したのに、出て行かないんですよ」
み「娘さんですか?」
客「いえ。
男です」
↑20代後半、独身貴族の実家部屋。居心地良過ぎでしょうね。
み「転勤とか、ないんでしょうか?」
客「区役所なんです」
↑そびえ立つ文京区役所。考えてみれば、大企業ですよね。しかも、転勤なし。
み「そりゃ、ありませんな」
客「そうなんですよ。
せめて、都の職員なら……。
小笠原勤務とかもあると思うのですが」
↑小笠原丸。東京まで、25時間。ほぼ、海外勤務です。
み「追い出したいわけですか?」
客「だってあっちは、小学校に入学した時から、個室があるんですよ。
勉強部屋」
↑1969年。ごく初期の学習デスク。お母さん、美人です。
客「わたしは、そのとき息子に部屋を譲って以来……。
居室が無いんです!」
み「悲痛な叫びですな。
奥さんと同部屋ですか?」
客「左様です」
↑やっぱり、隣に誰かいるのは気鬱ですよね。
み「それで、女郎蜘蛛のオスに共感するわけですね」
客「はいな。
同部屋と言っても、わたしの居場所は、ベッドの上くらいしかありません。
向こうは、スツールの付いた鏡台もあるくせに……」
客「さらに、サイドテーブルまで付けたんですよ」
客「家計簿の整理とか、しなきゃならないって」
み「確かに、書きものをするのなら、テーブルは要りますね」
客「家計簿つけてるとこなんて、見たことありません」
み「譲ってもらえないんですか、そのテーブル?」
客「あなたは、会社にデスクがあるんでしょうって」
↑昭和の会社。いいですよね。会社を出れば、携帯もないし、喫茶店で寝ててもバレません。
み「ま、そりゃそうですけど……。
ちょっと、無茶ですね」
客「でしょ。
今度、うちに来て、意見してやってください」
↑説教されるショッカー。
み「お断りします」
客「そう言わずに。
助けると思って」
み「何の義理もありませんので。
そんなことに口出したら、ろくな事になりません。
増築とか、出来ないんですか?」
客「マンションです」
み「ベランダがあるでしょう」
客「奥行き、1メートルですよ」
み「狭いながらも、楽しいわが家といいます。
幅1メートルでも、自分一人の居場所となれば、嬉しいんじゃないですか?」
客「だって、戸外ですよ。
冬は寒すぎるし……」
↑カナダのベランダ。氷点下20度だそうです。
客「夏はカンカン照りです。
西側なんですから」
み「もちろん、吹きさらしのままじゃ、ムリでしょ。
サンルームみたいにするんですよ。
ガラス張りの」
客「なるほど。
でも、マンションに、そんなの付けられるのかな?
規約を読んでみないと」
律「構築物はダメなんじゃないの?」
↑お城のような部分は、違法増築のようです。さすが、中国。
み「賃貸じゃないんでしょ?」
客「ローンで買いました。
まだ、支払いが残ってます」
み「ご苦労さまです」
律「管理組合とかに聞いたほうがいいと思いますよ」
↑大変そうです。
客「ですよね」
み「あ、恒久的な構造物じゃなけりゃいいんでしょ。
じゃ、テントでいいじゃないですか」
客「ベランダにテントを張るわけですか。
奥行き、1メートルですが」
↑ほんとにやってる人がいました。
み「一人寝用のテントって、無いですかね」
客「幅、1メートル以内の細長いテントですね」
み「そうです」
客「あったらあったで、すごく物悲しい気がしますが」
↑ありました。寝るだけになっちゃいますが。
み「我が城じゃないですか」
客「おそらく、冬はものすごく寒くて……。
夏は、耐え難いほど暑いかと」
↑こちらは、一戸建てのようです。余裕ですね。北アルプスへ行く前の、試し張りだとか。こんなにいい場所があるのに、なんで山になんか張りに行くんですかね。
み「テントじゃ、冷暖房は難しいか。
冬は、七輪とか置いたらどうでしょう?」
客「一酸化炭素中毒になると思います」
↑ひとつ間違えば、大惨事。
み「締め切らなきゃいいんじゃないですか」
客「それじゃ、寒いですよ。
第一、どうしてそこまでして、ベランダのテントに居なきゃならんのです?」
み「だって、ベランダしか場所が無いんでしょ?」
客「何だか、本気で物悲しくなってきました。
窓の外の景色は、こんなに広々としてるのに」
↑これは、下北に近い場所かも知れません。人工物がほとんど見えない景色が続くようです。
律「息子さん、結婚のご予定は無いんですか?」
客「彼女を連れてきたこともありません」
律「でも役所には、若い女性もいるんじゃないですか?」
↑文京区役所。“さすまた”を使っての防犯訓練。とっつかまってるのは警察官のようです。“さすまた”って、普段はどこに置いてあるんでしょうね。壁掛け?
客「いることはいるでしょうが……。
区役所に勤めるような女性は、自宅から通う一人娘みたいなのが多いんじゃないでしょうか?」
み「婿養子希望?」
客「そうそう」
み「今どき、それも難しいんじゃないですか?
男だって、一人っ子が多いでしょうから」
律「でも、適齢期過ぎそうになったら、妥協してくるんじゃないですか?」
客「それは無いみたいですよ」
客「友人の話を聞くと。
30過ぎて、嫁に行かない娘を持ってるんですが……。
本人は、一向に焦ってないそうです。
良い相手がいないんなら、一人のままでいいって」
↑昔、タモリが、こういう女性に対し『そーゆー男は、おめーを選ばねえよ』と突っこんでました。
み「それじゃ、少子化が進むわけだわ。
確かに、実家で独り身ってのは……。
これ以上ない、気楽な身分だからね」
↑コタツに半纏。実家でこれを始めたら、もう抜けられません。
律「あんた、そうだったわね」
み「お互いさまでしょ」
律「わたしは、実家ぐらしじゃありません」
客「なんだ。
お2人とも、独身だったんですか」
み「そうでなきゃ、こうして気ままな旅行なんか、出れませんよ」
↑冬の金沢、女ふたり旅。いいですねー。
客「言われてみれば。
でも、ひとごとみたいな口調でしたから……。
とてもそうだとは思えませんでした。
だけど、ほんとに意外です。
こんなにお綺麗なのに」
み「何でわたしの方を見ないんですか?」
客「あ、いえ。
今、見ようとしたところです」
み「あなた、とことん調子がいいですね」
↑映画『サラリーマンどんと節 気楽な稼業と来たもんだ』(1962年)。いい時代だったんじゃないでしょうか。
み「外見は、紳士なのに」
客「会社でも自宅でも気を使いますから。
身についちゃったみたいです。
息抜きは、こうして、たまに出る旅行だけです。
特急や新幹線なんか、乗る気になりません。
会社の出張みたいで。
とにかく、各駅停車の、できれば単線の非電化路線を……。
のんびり走る列車に乗るのが、無上の喜びです」
↑どこでしょう? 車両は新しそうですけど、非電化ですよね。
み「そういう歌、ありましたね」
客「どんな歌です?」
み「♪知らない街を~」
客「ありました、ありました。
♪歩いてみたぁい」
↑こういう旅も楽しいでしょうね。わたしは、商店街が大好きです。
み「♪どこか遠くにぃ」
客「♪行きたぁい」
み「♪遠い街~」
律「やかましい!
歌いあげるな!
近所迷惑でしょ」
み「こりゃまた失礼。
なんて題名でしたっけ?」
客「確か、『遠くへ行きたい』です」
↑倍賞千恵子さんバージョンでどうぞ。バックの動画がとても良いです。
客「永六輔、中村八大のコンビですね」
↑『上を向いて歩こう』が、このトリオ。
み「歌ったのは誰です?」
客「ジェリー藤尾ですよ」
↑『インディアン・ツイスト』を、ぜひ聞いてみたいです。
↓『インディアン・ツイスト』、ありました(動画は埋め込み禁止でした)。
http://www.youtube.com/watch?v=WATNUsgPGZU
A面とB面で、これほど曲調が違うというのも面白いです。
み「知ってる?」
律「知らない」
客「今の人は、知りませんかな。
『夢であいましょう』という番組で歌って、大ヒットしました」
↑番組初代ホステスの中嶋弘子さん。斜め45度のお辞儀が評判だったそうです。
み「暗い歌って、妙に懐かしいよね」
律「どんな歌?」
み「『時には母のない子のように』とか」
客「よくそんな歌、ご存知ですね。
カルメン・マキですな」
客「あぁ、その名前は聞いたことあります。
歌手だったんですね。
なんとなくお笑い芸人みたいですけど」
律「どうしてお笑い芸人なのよ?」
み「昔、いたんだって。
左マキって芸人が。
サンマが言ってたんだっけかな?」
↑この格好でスタジオの廊下を歩いてたら、イギリスのロックバンド『カルチャー・クラブ』とすれ違ったそうです。ボーイ・ジョージに、『Crazy!』と叫ばれたとか。
律「ほんと、つまらなことばっかり詳しいんだから」
み「そう言えば、この歌詞にも旅が出てきますね。
♪時には母のない子のように~。
♪ひとりで旅に出てみたい」
↑日米ハーフ。『時には母のない子のように』を歌ったときは、17歳だったそうです。
客「はは。
ぴったりですね」
み「ひょっとしてこれも永六輔?」
客「違います。
寺山修司ですよ」
み「おー。
青森県民ではないか。
若死にしちゃったんですよね」
↑昭和45年、力石徹の葬儀。葬儀委員長を寺山修司が務めました。寺山修司は、『あしたのジョー』主題歌の作詞者です。
客「確か、47歳でした」
み「病気だったんですか?」
客「肝硬変ですから……。
飲み過ぎでしょう」