2018.6.23(土)
み「なんか、厄介払いされた気がする」
律「あんたが、ヘンなこと言うからでしょ。
でも、ほんとに大丈夫なのかしらね。
普通の旅館って言ったってさ。
どういうのが普通なのか、わからないじゃないの。
ひょっとしたら、襖で仕切っただけの民宿みたいなのが普通かも知れないわよ。
ここらでは」
↑こういう家屋での暮らしも、ちょっと惹かれますね。
み「青森をバカにするでねぇ!
新幹線も走ってるずら」
↑どーも、このカモノハシ顔は好きになれません。
律「“ずら”は、静岡弁でしょ」
律「ちょっと見て、あばら屋だったらキャンセルして帰るからね」
↑律子先生想像図。
律「今からダッシュすれば、まだ最終バスに間に合うんだから」
み「キャンセル料、100万円申し受けます」
律「ぼったくりでしょ。
ここかしらね、入口」
み「さいでやんすな」
律「なんか、すごい建物があるけど……。
まさか、あれじゃないわよね」
み「ほかに建物はないではないか。
覗くだけなら、怒られることもあるまい。
ん?
何か、貼り紙があるな」
律「『宿泊以外の入館はご遠慮願います』だって」
み「なーんだ。
宿泊じゃない人は、入っちゃいかんのじゃないか。
こりゃまった、しっつれいしました」
↑この漫才コンビのギャグだそうです。
み「さ、帰ろ」
律「ちょっと!
わたしたちは、宿泊するんでしょ?」
み「あ……。
そうか。
ほんなら、この貼り紙の意味するところを、逆の側から解釈すると……。
『宿泊する人は、勝手に入館してちょーだい』ということではないか」
↑ピアノを売る人って、そんなにいるものなんですかね?
律「勝手にとは書いてないけど」
み「てことは、これが宿坊ってことすか?」
律「そうなんじゃないの?」
み「どう見ても、高級旅館ですがな」
み「こんな豪華な旅館、泊まったことないぞ」
律「わたしだってないわよ」
み「とにかく、ここに佇んでおってもラチがあかん。
もし間違ってても、いきなり拉致されて、東南アジアに売られることもあるまい」
律「どうしてそう、発想が尋常じゃないのかしら」
み「異常に深閑としてるのが不気味じゃ。
誰も出迎えがないではないか。
普通、旅館なら、仲居さんが出てくるよね」
律「旅館じゃないからでしょ」
み「1万2千円も取るのに?」
律「それって、2人での値段?」
み「うんにゃ。
1人でおます」
律「2人で2万4千円も払うの?
もったいない!」
み「せっかく下北半島の果てまで来たのに……」
み「どこにでもあるようなビジネスホテルに泊まっても仕方ないでしょ。
恐山に来るなんて、一生に一度かも知れん。
ここでの払いは、ただの宿賃じゃないの。
一生涯の思い出への対価です」
↑入ったことありません。お店には、トイレはあるんですかね?
律「もっともらしいこと言って。
早い話、自分を納得させたいだけでしょ」
み「ほれ、入るぞ。
“たのもう”って言って」
↑略して、“たのもう”?
律「言わないわよ!」
み「傘立てがある」
↑こういう写真を撮られる方は、実に希少です。文章も行き届いており、とても参考になりました。
律「それがどうしたっていうの?」
み「同じ柄の傘があるな。
これ、宿の傘じゃないの」
律「そうかもね」
み「帰りに1本もらっていこう」
律「やめなさい」
み「ほら、スリッパがずらっとならんでるでないの」
み「間違いなく旅館だよ」
律「『脚下照顧(きゃっかしょうこ)』って読むのかしら?」
み「早い話、段差があるから気をつけなされということでないの」
↑これは、ダンサー。
律「じゃ、どうしてそう書かないのよ」
み「旅館ではなく、宿坊だからじゃ」
律「靴はどうすればいいのかしら?」
み「あそこに入れるんでないの」
律「あれが靴箱?
立派すぎるんじゃない?」
み「お骨でも入ってそうだよな」
↑こちら、納骨堂です(愛知県岡崎市『岡崎墓園』)。そっくりな気が……。
み「でも、盗られないかな」
律「鍵がかかるじゃないのよ。
そもそも、あんたの靴なんか盗ってどうするの?」
み「臭いを嗅ぐんでないの?」
律「嗅いだ途端、即死ね」
み「凶器か!
わたしは、『スーパーソックス』を履いてるから大丈夫なの」
律「何それ?」
み「足の臭いが、劇的に抑えられるソックスじゃ」
律「ネーミングが、あまりにも胡散臭いんですけど」
み「まさしくスーパーなんだから、正々堂々と名乗っておるのです」
み「『スーパーホテル』というホテルチェーンもあるぞ。
わたしも、2回利用した」
↑わたしが泊まった『スーパーホテル東京・亀戸』。
み「さほど悪くないホテルじゃ。
デリヘルも呼べる」
↑スーパーホテルの画像ではありません。
律「呼んだわけ?」
み「呼べる構造だったと言っておる。
でも、たぶんもう利用しないけど」
律「なんでよ?
スーパーなんでしょ?」
み「謳い文句が“健康朝食無料”なわけ」
律「いいじゃないの」
み「“無料”というのは、朝食代を別に支払わなくていいという意味で使われとる」
律「“無料”なんだから当然でしょ」
み「でも、朝食を提供してるのはホテルなんだから……。
当然、朝食の準備費としての原価は発生してるわけ。
早い話、朝食代は、宿泊代金に含まれてるということでしょ。
決してタダじゃないわけ」
律「宿泊代が、割高になってるってこと?」
み「うんにゃ。
決して、割高ではない。
ほかのホテルで、朝食の付かない素泊まりの値段とほぼ一緒です」
↑わたしが『スーパーホテル東京・亀戸』で泊まった部屋。6,100円(税込)でした。
律「じゃ、実質的に“朝食無料”じゃないのよ」
み「はっきり申し上げる。
その朝食が“チャチ”なんです。
“健康”と頭に付けてるのは……。
早い話、“粗食”ということです。
“粗食朝食無料”ってこと」
↑『スーパーホテル東京・亀戸』の朝食。パンはたくさんありましたが、ご飯が“おにぎり”しかありませんでした。しかも具が、高菜かなんかの1種類のみ。
み「あんな朝食なら、自腹で食べた方がいい」
律「じゃ、そうすればいいじゃないの」
み「朝食込みなのに、朝食を食べなければ、損をするではないか」
律「それなら、食べればいいでしょ」
み「旅の朝から粗食を食らう気にはならんわ。
出来れば、ビールを付けてもらいたいくらいじゃ」
↑さらに出来れば、『スーパードライ』を瓶で。
律「阿呆か」
み「建設会社に勤務してたとき……。
新年会は、必ず温泉旅館で泊まりがけじゃった。
翌朝は、広間で銘々膳の朝食だけど……」
み「男の社員は、みんなビールを飲んでたぞ」
↑こういう案配。
律「業界の特殊性だと思います」
み「建設業をパカにするのか!」
律「いったい、何が言いたいのよ!」
み「早い話……」
律「ちっとも早くないじゃない」
み「だから、朝食込みの値段で、粗食を食わされるのはゴメンなの。
“タダなんだから大したことはできません”という気配が、食堂全体に漂うておるのじゃ。
だから今は、朝食が別料金のホテルに泊まることにした。
でもって、朝食は付けない」
律「食べないの?」
み「食うわい。
わたしは、お昼を食べないから……。
朝は、しっかり摂ることにしてるのです」
律「わけがわからないわ」
み「だから、朝食は、前日にスーパーで買っておくことにしたの。
どうせ夕食も仕入れるんだから……。
翌朝のおにぎりやカップの味噌汁を一緒に買うのは、大した手間ではない」
律「ちょっと待ってよ。
朝食に、何を買うって?」
み「おにぎりに、カップの味噌汁」
み「あとは、漬物じゃな」
律「それだけ?」
み「それだけあれば十分だろ」
律「立派な“粗食”じゃないのよ」
み「朝から肉食ってどうする!」
↑アホです。
み「ケモノか!」
律「あのね。
あんたさっき、さんざんホテルの無料朝食が粗食だってけなしてたじゃないのよ」
み「自分で納得して粗食を買う分には、いっこうにかまわんのだ。
無料と称して、粗食を供されるのが気に食わんと言っておる。
ホームレスの炊き出しじゃあるまいし」
↑何だかわかりませんが、美味しそうですね。わたしなら、十分満足できると思います。
律「さっぱりわかりません。
それなら、無料朝食を食べずに、買ってきたものを食べればいいだけでしょ」
み「だから!
無料なのを食べずに、わざわざ買ってくるのでは損ではないか」
↑“孫”正義という名前ながら、損をしなかった偉い人。
み「この話の流れ、最初にあったぞ。
こういうのを、堂々巡りと言う」
律「もっともらしい解説しなくていいの。
だから、どうだってのよ」
み「だから、朝食が無料でないホテルで、朝食なしのコースを予約するのじゃ。
これなら、損じゃないだろ。
しかも!
朝食を部屋で摂ることに、大いなるメリットがあることを発見したのじゃ」
↑シャンプーの話ではありません。
み「実はこの発見、偶然だったのよ。
おととし、東京に行ったとき……。
翌日の朝、『国立科学博物館』に歩いて行けるホテルを探したわけ」
み「ところが、安いホテルがなかなかなくてね。
やっと見つけたのが、『ホテルリブマックス日暮里』」
み「で、それまで朝は、必ずホテルの朝食を食べてたから……。
当然のごとく、朝食付きを予約しようとした。
ところがあなた、このホテルには朝食を供するスペース、すなわち食堂がなかった。
おそらく、キッチンもなかったでしょう。
さらにしかし!
このホテルの宿泊プランには、朝食付きのコースがあったのよ」
律「なんでよ。
食堂もキッチンもないんでしょ」
み「ホテルで食べるんじゃないのよ。
徒歩3分のところに、『松屋』があってね」
↑『松屋千駄木店』です。
み「そこで食べる仕組みだったの」
み「なるほどと思ったね」
み「すぐ近くに朝食を食べれるお店があった場合……。
ホテルには、食堂もキッチンも要らないんだよ」
み「厨房にかける設備費は浮くし……。
朝食の支度をするスタッフもいらない。
食堂とキッチンのスペースは、客室にできるわけ」
↑ばかにならないスペースです。
み「頭いいよね。
こういう発想の転換が出来る経営者は強いね。
ビジネスホテルには食堂と厨房が必要というのは、単なる先入観だったわけ。
実は、この『リブマックス』だけど……。
新潟駅前にも出来たのよ(『ホテルリブマックス新潟駅前』)。
すぐ近くに『松屋』もある」
↑『松屋新潟駅前店』。
み「泊まってみたいんだけど……。
残念ながら、新潟に泊まる用事がない」
律「阿呆か。
で、日暮里では、『松屋』で朝食を食べたわけね」
み「食べませんがな」
律「は?
どういうことよ」
み「徒歩3分とはいえ、ホテルの外に出るわけでしょ。
もちろん、浴衣で行くわけにはいかんわな」
↑その点、温泉街はいいですよね。
律「ホテルなら、食堂だってそうでしょ」
み「ま、そうでやんすが。
さらに!
もう、明るくなって人通りもある。
『松屋』では、店員と間近に接しなくてはならん」
み「先生、すっぴんで行けますか?」
律「わたしは行けるわね」
み「誰だかわからなくなるから?」
律「違うわよ!
大して変わらないってこと」
み「威張ってるんすか?」
律「事実を言ってるだけ。
眉だって自前だし」
↑自前です。
み「確かに、いくらなんでも、眉無しじゃ外に出れませんな。
最近の高校の修学旅行じゃ……。
風呂あがり、誰が誰やらわからないってよ。
みんな眉がないから」
↑歌手の上木彩矢(かみきあや)さん。眉はなくても、美人は美人。
律「あんたは、別の意味で、大して変わらないでしょ」
み「どういう意味よ?」
律「してもしなくても同じ」
み「違わい!
多少は」
律「化粧しないと出れないわけ?
誰も気にしませんって」
み「そんなことは、わかりまんがな。
知り合いに合うわけじゃなし。
要は、自分の心持ち具合でしょ。
すっぴんは見せたくないっていう。
かといって、帽子にサングラスじゃ……。
指名手配みたいだしね」
律「宿で朝食摂ってたときはどうしてたのよ?
わざわざ、化粧して食べに行ったの?」
み「してません」
律「じゃ、いいじゃない」
み「宿の中と外じゃ、気分的に違いまんがな。
結界というか」
律「だから、何の話してるのよ?」
み「すなわち!
この『松屋』の一件で、朝食は部屋で摂るのが一番気楽ということに気づいたの。
化粧どころか、着替える必要もない。
わたしは家では、パジャマで朝食を食べるのよ」
↑冬は、パジャマと半纏が定番です。外出する必要さえなければ、冬もいいんですけどね。
み「さらに、すなわち!
旅先でも、それと同じリラーックスした状態で食べる朝食が一番ってこと。
浴衣のまんまでね。
前がはだけてたって、誰が見るわけでもない」
律「そんなもの、見たくもないでしょう」
み「ほんまか?
パンツ、穿いてないぞ」
律「穿きなさい!」
み「何より、テレビのニュースを見ながら食べれるのが一番だね」
↑たぶん……。ダッチワイフですよね。
み「天気予報も確認できるし」
↑猫は天気予報が大好き。
律「まさか、ここも朝食予約してないんじゃないでしょうね?」
み「阿呆か。
何にも買ってきてないでしょ。
そもそも、素泊まりなんてコースはなかったはず。
宿坊では、食事を摂るのも修養のうちですよ」
↑恐山ではありません。
み「もちろん、精進料理ね。
夕食も朝食も付いてます」
律「ま、素泊まりで1万2千円はあり得ないわよね」
それにしても、いつまで靴箱の前で喋ってるのよ」
律「チェックインが、17時までじゃなかったの?」
み「おー、そうじゃったそうじゃった。
おそらくあれが、フロントだよな」
律「すごい立派よね。
瓦屋根まで載ってる」
み「なんか、祭壇みたいですが」
律「また、そういうことを」
み「たぶん、お祭りのときは、あの前にずらっとジジババが並ぶんでしょうな」
↑毎年、7月20~24日が大祭です。
律「かもね」
フ「いらっしゃいませ」
み「ちと、ものをお尋ねし申すが……」
律「それは、やめなさいって」
み「わたしたちが入館してるのは、宿泊するからで……。
決して、不法侵入じゃござんせんでありんす」
フ「寺務所から連絡を受けております。
お若い女性のお2人連れがいらっしゃると」
み「なんと!
あの寺務所坊主。
なかなか見る目があるではないか。
しかして、あなたも偉い。
一目見て、若い女性連れと見抜くとは」
フ「恐れ入ります。
ここの宿泊者に、お若い方はまずおられませんので」
み「うちらでも若いうちってこと?」
フ「いえいえ。
十分お若いですよ」
み「先生、チップ、チップ」
↑氷川きよし
律「何でわたしなのよ」
フ「いいえ。
そのようなものはいただけません。
ご予約いただいている、Mikikoさまとほか1名さまですね?」
律「ちょっと、“み"さん。
何でわたしが、ほか1名なのよ」
み「代表者の名前だけ聞かれたのだ。
あと聞かれたのは、人数だけだかんね」
フ「恐れ入りますが、前金となっておりますので」
み「それは、大いに納得でき申す」
↑『リンガーハット』のようです。気持ちのいいシステムだと思います。
み「近くには、銀行もないようですからね。
払えない客を泊めたら、回収が面倒じゃ」
フ「恐れ入ります」
み「2人で、24万円で良かったかな?」
フ「え、10泊もなされるんですか?」
↑境港市『水木しげるロード』にあるブロンズ像。『手の目』という妖怪だそうです。
フ「電話では、1泊と伺っていたはずですが」
み「冗談ですがな。
これがわたしの悪い癖♪」
フ「お2人で、ご1泊でよろしいですね」
み「左様じゃ」
フ「240万円、いただきます」
み「な、なんですとー!」
フ「冗談です」
み「あ、侮れんやつ。
お主、ただ者ではないな。
ほんとはもう、死んでるとか?」
フ「生きております。
年は30」
↑想像図。きれいなジャイアンのフィギュアだそうです。ゲイ方面にいそうですよね。
み「番茶も出がらし」
フ「手続きを進めていいですか」
み「人が並んでたら、蹴り飛ばされとるところじゃな」
↑カニ食べ放題のホテルのようです。こうまでしてカニを食べたい人の気持ちが理解できません。
フ「大丈夫でございます。
ほかのお客様は、すべてチェックインを済ませておられますので」
み「それは、重畳」
↑山梨のスパークリングワインです。センスいいですね。
み「2万4千円でいいわけね?
2食付きね?」
フ「左様でございます」
み「負からないわけね?」
フ「残念ながら」
み「カードは?」
フ「効きません」
み「現金だけってことね。
ひょっとして、脱税してない?
宗教団体でも、明らかにこれは収益事業ですよね」
フ「お客さん、まさか税務署ですか?」
み「安心なされ。
ただの経理事務員じゃ」
フ「安心しました」
み「先生、さらっと出しといて」
律「バカ言わないでよ。
割り勘でしょ」
み「ケチなんだから」
み「儲けてるのに」
律「こういうことは、ケチとか儲けてるとか、そういう話じゃないでしょ。
人としての矜持の問題よ」
み「そんなもん、最初から持ち合わせておりやせん」
み「はい、それじゃわたしの1万2千円。
税込みですよね?」
フ「ポッキリです」
み「あんた、ほんとに恐山の人?
下北で、キャバレーの呼びこみとかやってなかった?」
↑コツは、客の耳元で小声でささやくことだそうです。声がデカいと敬遠されるとか。
フ「ぎく」
み「乗りが良すぎじゃ。
やり過ぎると、ひんしゅく買うでよ」
フ「相手を見ております」
↑小錦VS舞の海。対戦成績はなんと、舞の海(手前の力士です)の7勝5敗。
み「綱渡りを楽しんでるわけ?
そのうち、火傷しまっせ」
み「はい、1万2千円。
さらばじゃ、わたしの万札」
み「まさか、おまえと恐山で別れるとは思わなかった。
元気で暮らせよ。
三橋美智也の『達者でナ』を歌ってもいいか?」
律「いい加減にしなさい。
あんまり乗せないで下さい。
際限がないんですから」
フ「恐れ入ります。
あ、こちら、『宿坊のきまりごと』というご案内になっております」
↑クリックすると、大きい画像が見られます。
フ「お部屋でお読み下さい。
夕食は18時からとなっております。
みなさんがお揃いになってから始めますので、遅れないようにお願いします。
夕食前に大浴場を使われても結構ですが……。
夕食には、浴衣ではないお召し物でおいでください」
み「どてらでも良いのか?」
フ「お持ちですか?」
み「忘れた」
フ「残念ながら、どてらの貸し出しはございません。
それでは、こちらが鍵でございます。
お部屋は、2階の『瑞雲(ずいうん)11』になります」
み「それはひょっとして、『彩雲(さいうん)11型』と関係があるのか?」
フ「は?」
み「日本海軍の艦上偵察機に、『彩雲11型』というのがあるのじゃ」
フ「自衛隊の方ですか?」
↑海上自衛隊護衛艦『やまぎり(乗員220名)』で、日本初の女性艦長となった大谷三穂二等海佐(昔の中佐)。
み「そう見えるか?」
フ「見えません」
み「それでよし」
フ「あ、お若いお客様には、先に申しあげておくことにしているのですが……」
み「デリヘルなら呼ばんぞ」
律「止めなさいって」
フ「境内で、お架けになっておられればお気づきでしょうが……。
携帯電話は、圏外になっております」
↑恐山ではありません。ほんとうにこの看板を境に圏外になるのでしょうか?
フ「もちろん、Wi-Fiもございませんので……。
早い話、ネットは繋がりません」
み「スゴいところに来たね、どうも」
フ「恐れ入ります」
み「褒めとらんわい!」
フ「それでは、ごゆっくりどうぞ。
18時の夕食にだけは、お時間厳守でお願いします」
↑沖縄の人は、特に注意が必要。
み「お風呂に入るには、ちょっと余裕がないみたいね。
テレビでも見てるか」
↑昭和の旅館のテレビは、硬貨投入式でした。
フ「恐れ入ります。
お部屋に、テレビはございません」
み「なんですとー」
フ「すみません。
ついでに言うと、冷蔵庫もありません」
み「なんですと-」
フ「時計もありません」
み「吉幾三の歌を歌いたくなってきた」
律「先に調べておきなさいよ」
み「宿坊であることに開き直ってません?」
フ「恐れ入ります。
実は、特別な理由があるのです」
み「どんなよ?」
フ「電化製品は、あっという間にダメになるんです。
硫化水素の影響ですね。
使用中に故障すると、熱を発したりして危険です。
冷蔵庫は爆発したりします」
↑恐山『吉祥閣』ではありません。
み「ウソこけ!」
フ「一番弱いのはデジカメです。
勝手にレンズが出たり引っこんだりします」
↑ニコン『ライトタッチズーム140』という機種のようです。いつごろのものなんでしょう?
フ「心霊現象だと騒がれるお客さんもおられますが……。
単なる化学反応です」
み「恐るべき風土」
フ「時計も狂いやすいですので……。
腕時計などは、バッグの中に仕舞われておいた方が良いかも知れません」
み「部屋には、時計もテレビもないんだろ?
携帯も圏外で……。
どうやって時間を知るのよ?」
フ「ときどき、バッグの中を覗いてください」
み「不便じゃ!」
律「あ、電化製品がないってことは……。
大浴場にドライヤーもないってことでしょうか?」
↑恐山『吉祥閣』ではありません。
フ「さすがにそれは備え付けてあります」
み「安いものならあるわけね」
フ「恐れ入ります。
ただ、先ほども申しましたとおり、非常に故障しやすい環境にあります。
使用中に、本体が熱くなりましたら、すぐに使用をお止めください」
律「続けて使用してると?」
フ「髪の毛がパンチパーマになります」
↑加工ではありません。『東大寺・五劫思惟阿弥陀如来坐像』です。
み「ウソこけ!」
フ「あと、お風呂には、ぜったいに金属製のアクセサリーは持ちこまないでくうださい。
真っ黒に変色してしまいます」
↑銀製品は、特に変色しやすいそうです。
フ「この建物には、鉄の釘は使ってないんです。
ボロボロになってしまいますから」
フ「それで、ステンレスの釘を特注しました」
↑こちら、ステンレスのズボン(用途不明)。
フ「1本、100円以上したんですよ」
み「だから、1泊12,000円なんですと言いたいわけ?」
フ「恐れ入ります」
律「照明は点くんでしょ?」
フ「もちろんでございます」
み「どうも胡散臭いな。
なんで、高い電化製品だけ使えないわけ?」
フ「内部の回路が複雑なほど、故障しやすくなります」
み「電気回路の問題ね」
フ「左様でございます」
み「そんなら、トイレのウォシュレットは、あるんでしょ?」
み「複雑な回路じゃないよね」
律「あんたが、ヘンなこと言うからでしょ。
でも、ほんとに大丈夫なのかしらね。
普通の旅館って言ったってさ。
どういうのが普通なのか、わからないじゃないの。
ひょっとしたら、襖で仕切っただけの民宿みたいなのが普通かも知れないわよ。
ここらでは」
↑こういう家屋での暮らしも、ちょっと惹かれますね。
み「青森をバカにするでねぇ!
新幹線も走ってるずら」
↑どーも、このカモノハシ顔は好きになれません。
律「“ずら”は、静岡弁でしょ」
律「ちょっと見て、あばら屋だったらキャンセルして帰るからね」
↑律子先生想像図。
律「今からダッシュすれば、まだ最終バスに間に合うんだから」
み「キャンセル料、100万円申し受けます」
律「ぼったくりでしょ。
ここかしらね、入口」
み「さいでやんすな」
律「なんか、すごい建物があるけど……。
まさか、あれじゃないわよね」
み「ほかに建物はないではないか。
覗くだけなら、怒られることもあるまい。
ん?
何か、貼り紙があるな」
律「『宿泊以外の入館はご遠慮願います』だって」
み「なーんだ。
宿泊じゃない人は、入っちゃいかんのじゃないか。
こりゃまった、しっつれいしました」
↑この漫才コンビのギャグだそうです。
み「さ、帰ろ」
律「ちょっと!
わたしたちは、宿泊するんでしょ?」
み「あ……。
そうか。
ほんなら、この貼り紙の意味するところを、逆の側から解釈すると……。
『宿泊する人は、勝手に入館してちょーだい』ということではないか」
↑ピアノを売る人って、そんなにいるものなんですかね?
律「勝手にとは書いてないけど」
み「てことは、これが宿坊ってことすか?」
律「そうなんじゃないの?」
み「どう見ても、高級旅館ですがな」
み「こんな豪華な旅館、泊まったことないぞ」
律「わたしだってないわよ」
み「とにかく、ここに佇んでおってもラチがあかん。
もし間違ってても、いきなり拉致されて、東南アジアに売られることもあるまい」
律「どうしてそう、発想が尋常じゃないのかしら」
み「異常に深閑としてるのが不気味じゃ。
誰も出迎えがないではないか。
普通、旅館なら、仲居さんが出てくるよね」
律「旅館じゃないからでしょ」
み「1万2千円も取るのに?」
律「それって、2人での値段?」
み「うんにゃ。
1人でおます」
律「2人で2万4千円も払うの?
もったいない!」
み「せっかく下北半島の果てまで来たのに……」
み「どこにでもあるようなビジネスホテルに泊まっても仕方ないでしょ。
恐山に来るなんて、一生に一度かも知れん。
ここでの払いは、ただの宿賃じゃないの。
一生涯の思い出への対価です」
↑入ったことありません。お店には、トイレはあるんですかね?
律「もっともらしいこと言って。
早い話、自分を納得させたいだけでしょ」
み「ほれ、入るぞ。
“たのもう”って言って」
↑略して、“たのもう”?
律「言わないわよ!」
み「傘立てがある」
↑こういう写真を撮られる方は、実に希少です。文章も行き届いており、とても参考になりました。
律「それがどうしたっていうの?」
み「同じ柄の傘があるな。
これ、宿の傘じゃないの」
律「そうかもね」
み「帰りに1本もらっていこう」
律「やめなさい」
み「ほら、スリッパがずらっとならんでるでないの」
み「間違いなく旅館だよ」
律「『脚下照顧(きゃっかしょうこ)』って読むのかしら?」
み「早い話、段差があるから気をつけなされということでないの」
↑これは、ダンサー。
律「じゃ、どうしてそう書かないのよ」
み「旅館ではなく、宿坊だからじゃ」
律「靴はどうすればいいのかしら?」
み「あそこに入れるんでないの」
律「あれが靴箱?
立派すぎるんじゃない?」
み「お骨でも入ってそうだよな」
↑こちら、納骨堂です(愛知県岡崎市『岡崎墓園』)。そっくりな気が……。
み「でも、盗られないかな」
律「鍵がかかるじゃないのよ。
そもそも、あんたの靴なんか盗ってどうするの?」
み「臭いを嗅ぐんでないの?」
律「嗅いだ途端、即死ね」
み「凶器か!
わたしは、『スーパーソックス』を履いてるから大丈夫なの」
律「何それ?」
み「足の臭いが、劇的に抑えられるソックスじゃ」
律「ネーミングが、あまりにも胡散臭いんですけど」
み「まさしくスーパーなんだから、正々堂々と名乗っておるのです」
み「『スーパーホテル』というホテルチェーンもあるぞ。
わたしも、2回利用した」
↑わたしが泊まった『スーパーホテル東京・亀戸』。
み「さほど悪くないホテルじゃ。
デリヘルも呼べる」
↑スーパーホテルの画像ではありません。
律「呼んだわけ?」
み「呼べる構造だったと言っておる。
でも、たぶんもう利用しないけど」
律「なんでよ?
スーパーなんでしょ?」
み「謳い文句が“健康朝食無料”なわけ」
律「いいじゃないの」
み「“無料”というのは、朝食代を別に支払わなくていいという意味で使われとる」
律「“無料”なんだから当然でしょ」
み「でも、朝食を提供してるのはホテルなんだから……。
当然、朝食の準備費としての原価は発生してるわけ。
早い話、朝食代は、宿泊代金に含まれてるということでしょ。
決してタダじゃないわけ」
律「宿泊代が、割高になってるってこと?」
み「うんにゃ。
決して、割高ではない。
ほかのホテルで、朝食の付かない素泊まりの値段とほぼ一緒です」
↑わたしが『スーパーホテル東京・亀戸』で泊まった部屋。6,100円(税込)でした。
律「じゃ、実質的に“朝食無料”じゃないのよ」
み「はっきり申し上げる。
その朝食が“チャチ”なんです。
“健康”と頭に付けてるのは……。
早い話、“粗食”ということです。
“粗食朝食無料”ってこと」
↑『スーパーホテル東京・亀戸』の朝食。パンはたくさんありましたが、ご飯が“おにぎり”しかありませんでした。しかも具が、高菜かなんかの1種類のみ。
み「あんな朝食なら、自腹で食べた方がいい」
律「じゃ、そうすればいいじゃないの」
み「朝食込みなのに、朝食を食べなければ、損をするではないか」
律「それなら、食べればいいでしょ」
み「旅の朝から粗食を食らう気にはならんわ。
出来れば、ビールを付けてもらいたいくらいじゃ」
↑さらに出来れば、『スーパードライ』を瓶で。
律「阿呆か」
み「建設会社に勤務してたとき……。
新年会は、必ず温泉旅館で泊まりがけじゃった。
翌朝は、広間で銘々膳の朝食だけど……」
み「男の社員は、みんなビールを飲んでたぞ」
↑こういう案配。
律「業界の特殊性だと思います」
み「建設業をパカにするのか!」
律「いったい、何が言いたいのよ!」
み「早い話……」
律「ちっとも早くないじゃない」
み「だから、朝食込みの値段で、粗食を食わされるのはゴメンなの。
“タダなんだから大したことはできません”という気配が、食堂全体に漂うておるのじゃ。
だから今は、朝食が別料金のホテルに泊まることにした。
でもって、朝食は付けない」
律「食べないの?」
み「食うわい。
わたしは、お昼を食べないから……。
朝は、しっかり摂ることにしてるのです」
律「わけがわからないわ」
み「だから、朝食は、前日にスーパーで買っておくことにしたの。
どうせ夕食も仕入れるんだから……。
翌朝のおにぎりやカップの味噌汁を一緒に買うのは、大した手間ではない」
律「ちょっと待ってよ。
朝食に、何を買うって?」
み「おにぎりに、カップの味噌汁」
み「あとは、漬物じゃな」
律「それだけ?」
み「それだけあれば十分だろ」
律「立派な“粗食”じゃないのよ」
み「朝から肉食ってどうする!」
↑アホです。
み「ケモノか!」
律「あのね。
あんたさっき、さんざんホテルの無料朝食が粗食だってけなしてたじゃないのよ」
み「自分で納得して粗食を買う分には、いっこうにかまわんのだ。
無料と称して、粗食を供されるのが気に食わんと言っておる。
ホームレスの炊き出しじゃあるまいし」
↑何だかわかりませんが、美味しそうですね。わたしなら、十分満足できると思います。
律「さっぱりわかりません。
それなら、無料朝食を食べずに、買ってきたものを食べればいいだけでしょ」
み「だから!
無料なのを食べずに、わざわざ買ってくるのでは損ではないか」
↑“孫”正義という名前ながら、損をしなかった偉い人。
み「この話の流れ、最初にあったぞ。
こういうのを、堂々巡りと言う」
律「もっともらしい解説しなくていいの。
だから、どうだってのよ」
み「だから、朝食が無料でないホテルで、朝食なしのコースを予約するのじゃ。
これなら、損じゃないだろ。
しかも!
朝食を部屋で摂ることに、大いなるメリットがあることを発見したのじゃ」
↑シャンプーの話ではありません。
み「実はこの発見、偶然だったのよ。
おととし、東京に行ったとき……。
翌日の朝、『国立科学博物館』に歩いて行けるホテルを探したわけ」
み「ところが、安いホテルがなかなかなくてね。
やっと見つけたのが、『ホテルリブマックス日暮里』」
み「で、それまで朝は、必ずホテルの朝食を食べてたから……。
当然のごとく、朝食付きを予約しようとした。
ところがあなた、このホテルには朝食を供するスペース、すなわち食堂がなかった。
おそらく、キッチンもなかったでしょう。
さらにしかし!
このホテルの宿泊プランには、朝食付きのコースがあったのよ」
律「なんでよ。
食堂もキッチンもないんでしょ」
み「ホテルで食べるんじゃないのよ。
徒歩3分のところに、『松屋』があってね」
↑『松屋千駄木店』です。
み「そこで食べる仕組みだったの」
み「なるほどと思ったね」
み「すぐ近くに朝食を食べれるお店があった場合……。
ホテルには、食堂もキッチンも要らないんだよ」
み「厨房にかける設備費は浮くし……。
朝食の支度をするスタッフもいらない。
食堂とキッチンのスペースは、客室にできるわけ」
↑ばかにならないスペースです。
み「頭いいよね。
こういう発想の転換が出来る経営者は強いね。
ビジネスホテルには食堂と厨房が必要というのは、単なる先入観だったわけ。
実は、この『リブマックス』だけど……。
新潟駅前にも出来たのよ(『ホテルリブマックス新潟駅前』)。
すぐ近くに『松屋』もある」
↑『松屋新潟駅前店』。
み「泊まってみたいんだけど……。
残念ながら、新潟に泊まる用事がない」
律「阿呆か。
で、日暮里では、『松屋』で朝食を食べたわけね」
み「食べませんがな」
律「は?
どういうことよ」
み「徒歩3分とはいえ、ホテルの外に出るわけでしょ。
もちろん、浴衣で行くわけにはいかんわな」
↑その点、温泉街はいいですよね。
律「ホテルなら、食堂だってそうでしょ」
み「ま、そうでやんすが。
さらに!
もう、明るくなって人通りもある。
『松屋』では、店員と間近に接しなくてはならん」
み「先生、すっぴんで行けますか?」
律「わたしは行けるわね」
み「誰だかわからなくなるから?」
律「違うわよ!
大して変わらないってこと」
み「威張ってるんすか?」
律「事実を言ってるだけ。
眉だって自前だし」
↑自前です。
み「確かに、いくらなんでも、眉無しじゃ外に出れませんな。
最近の高校の修学旅行じゃ……。
風呂あがり、誰が誰やらわからないってよ。
みんな眉がないから」
↑歌手の上木彩矢(かみきあや)さん。眉はなくても、美人は美人。
律「あんたは、別の意味で、大して変わらないでしょ」
み「どういう意味よ?」
律「してもしなくても同じ」
み「違わい!
多少は」
律「化粧しないと出れないわけ?
誰も気にしませんって」
み「そんなことは、わかりまんがな。
知り合いに合うわけじゃなし。
要は、自分の心持ち具合でしょ。
すっぴんは見せたくないっていう。
かといって、帽子にサングラスじゃ……。
指名手配みたいだしね」
律「宿で朝食摂ってたときはどうしてたのよ?
わざわざ、化粧して食べに行ったの?」
み「してません」
律「じゃ、いいじゃない」
み「宿の中と外じゃ、気分的に違いまんがな。
結界というか」
律「だから、何の話してるのよ?」
み「すなわち!
この『松屋』の一件で、朝食は部屋で摂るのが一番気楽ということに気づいたの。
化粧どころか、着替える必要もない。
わたしは家では、パジャマで朝食を食べるのよ」
↑冬は、パジャマと半纏が定番です。外出する必要さえなければ、冬もいいんですけどね。
み「さらに、すなわち!
旅先でも、それと同じリラーックスした状態で食べる朝食が一番ってこと。
浴衣のまんまでね。
前がはだけてたって、誰が見るわけでもない」
律「そんなもの、見たくもないでしょう」
み「ほんまか?
パンツ、穿いてないぞ」
律「穿きなさい!」
み「何より、テレビのニュースを見ながら食べれるのが一番だね」
↑たぶん……。ダッチワイフですよね。
み「天気予報も確認できるし」
↑猫は天気予報が大好き。
律「まさか、ここも朝食予約してないんじゃないでしょうね?」
み「阿呆か。
何にも買ってきてないでしょ。
そもそも、素泊まりなんてコースはなかったはず。
宿坊では、食事を摂るのも修養のうちですよ」
↑恐山ではありません。
み「もちろん、精進料理ね。
夕食も朝食も付いてます」
律「ま、素泊まりで1万2千円はあり得ないわよね」
それにしても、いつまで靴箱の前で喋ってるのよ」
律「チェックインが、17時までじゃなかったの?」
み「おー、そうじゃったそうじゃった。
おそらくあれが、フロントだよな」
律「すごい立派よね。
瓦屋根まで載ってる」
み「なんか、祭壇みたいですが」
律「また、そういうことを」
み「たぶん、お祭りのときは、あの前にずらっとジジババが並ぶんでしょうな」
↑毎年、7月20~24日が大祭です。
律「かもね」
フ「いらっしゃいませ」
み「ちと、ものをお尋ねし申すが……」
律「それは、やめなさいって」
み「わたしたちが入館してるのは、宿泊するからで……。
決して、不法侵入じゃござんせんでありんす」
フ「寺務所から連絡を受けております。
お若い女性のお2人連れがいらっしゃると」
み「なんと!
あの寺務所坊主。
なかなか見る目があるではないか。
しかして、あなたも偉い。
一目見て、若い女性連れと見抜くとは」
フ「恐れ入ります。
ここの宿泊者に、お若い方はまずおられませんので」
み「うちらでも若いうちってこと?」
フ「いえいえ。
十分お若いですよ」
み「先生、チップ、チップ」
↑氷川きよし
律「何でわたしなのよ」
フ「いいえ。
そのようなものはいただけません。
ご予約いただいている、Mikikoさまとほか1名さまですね?」
律「ちょっと、“み"さん。
何でわたしが、ほか1名なのよ」
み「代表者の名前だけ聞かれたのだ。
あと聞かれたのは、人数だけだかんね」
フ「恐れ入りますが、前金となっておりますので」
み「それは、大いに納得でき申す」
↑『リンガーハット』のようです。気持ちのいいシステムだと思います。
み「近くには、銀行もないようですからね。
払えない客を泊めたら、回収が面倒じゃ」
フ「恐れ入ります」
み「2人で、24万円で良かったかな?」
フ「え、10泊もなされるんですか?」
↑境港市『水木しげるロード』にあるブロンズ像。『手の目』という妖怪だそうです。
フ「電話では、1泊と伺っていたはずですが」
み「冗談ですがな。
これがわたしの悪い癖♪」
フ「お2人で、ご1泊でよろしいですね」
み「左様じゃ」
フ「240万円、いただきます」
み「な、なんですとー!」
フ「冗談です」
み「あ、侮れんやつ。
お主、ただ者ではないな。
ほんとはもう、死んでるとか?」
フ「生きております。
年は30」
↑想像図。きれいなジャイアンのフィギュアだそうです。ゲイ方面にいそうですよね。
み「番茶も出がらし」
フ「手続きを進めていいですか」
み「人が並んでたら、蹴り飛ばされとるところじゃな」
↑カニ食べ放題のホテルのようです。こうまでしてカニを食べたい人の気持ちが理解できません。
フ「大丈夫でございます。
ほかのお客様は、すべてチェックインを済ませておられますので」
み「それは、重畳」
↑山梨のスパークリングワインです。センスいいですね。
み「2万4千円でいいわけね?
2食付きね?」
フ「左様でございます」
み「負からないわけね?」
フ「残念ながら」
み「カードは?」
フ「効きません」
み「現金だけってことね。
ひょっとして、脱税してない?
宗教団体でも、明らかにこれは収益事業ですよね」
フ「お客さん、まさか税務署ですか?」
み「安心なされ。
ただの経理事務員じゃ」
フ「安心しました」
み「先生、さらっと出しといて」
律「バカ言わないでよ。
割り勘でしょ」
み「ケチなんだから」
み「儲けてるのに」
律「こういうことは、ケチとか儲けてるとか、そういう話じゃないでしょ。
人としての矜持の問題よ」
み「そんなもん、最初から持ち合わせておりやせん」
み「はい、それじゃわたしの1万2千円。
税込みですよね?」
フ「ポッキリです」
み「あんた、ほんとに恐山の人?
下北で、キャバレーの呼びこみとかやってなかった?」
↑コツは、客の耳元で小声でささやくことだそうです。声がデカいと敬遠されるとか。
フ「ぎく」
み「乗りが良すぎじゃ。
やり過ぎると、ひんしゅく買うでよ」
フ「相手を見ております」
↑小錦VS舞の海。対戦成績はなんと、舞の海(手前の力士です)の7勝5敗。
み「綱渡りを楽しんでるわけ?
そのうち、火傷しまっせ」
み「はい、1万2千円。
さらばじゃ、わたしの万札」
み「まさか、おまえと恐山で別れるとは思わなかった。
元気で暮らせよ。
三橋美智也の『達者でナ』を歌ってもいいか?」
律「いい加減にしなさい。
あんまり乗せないで下さい。
際限がないんですから」
フ「恐れ入ります。
あ、こちら、『宿坊のきまりごと』というご案内になっております」
↑クリックすると、大きい画像が見られます。
フ「お部屋でお読み下さい。
夕食は18時からとなっております。
みなさんがお揃いになってから始めますので、遅れないようにお願いします。
夕食前に大浴場を使われても結構ですが……。
夕食には、浴衣ではないお召し物でおいでください」
み「どてらでも良いのか?」
フ「お持ちですか?」
み「忘れた」
フ「残念ながら、どてらの貸し出しはございません。
それでは、こちらが鍵でございます。
お部屋は、2階の『瑞雲(ずいうん)11』になります」
み「それはひょっとして、『彩雲(さいうん)11型』と関係があるのか?」
フ「は?」
み「日本海軍の艦上偵察機に、『彩雲11型』というのがあるのじゃ」
フ「自衛隊の方ですか?」
↑海上自衛隊護衛艦『やまぎり(乗員220名)』で、日本初の女性艦長となった大谷三穂二等海佐(昔の中佐)。
み「そう見えるか?」
フ「見えません」
み「それでよし」
フ「あ、お若いお客様には、先に申しあげておくことにしているのですが……」
み「デリヘルなら呼ばんぞ」
律「止めなさいって」
フ「境内で、お架けになっておられればお気づきでしょうが……。
携帯電話は、圏外になっております」
↑恐山ではありません。ほんとうにこの看板を境に圏外になるのでしょうか?
フ「もちろん、Wi-Fiもございませんので……。
早い話、ネットは繋がりません」
み「スゴいところに来たね、どうも」
フ「恐れ入ります」
み「褒めとらんわい!」
フ「それでは、ごゆっくりどうぞ。
18時の夕食にだけは、お時間厳守でお願いします」
↑沖縄の人は、特に注意が必要。
み「お風呂に入るには、ちょっと余裕がないみたいね。
テレビでも見てるか」
↑昭和の旅館のテレビは、硬貨投入式でした。
フ「恐れ入ります。
お部屋に、テレビはございません」
み「なんですとー」
フ「すみません。
ついでに言うと、冷蔵庫もありません」
み「なんですと-」
フ「時計もありません」
み「吉幾三の歌を歌いたくなってきた」
律「先に調べておきなさいよ」
み「宿坊であることに開き直ってません?」
フ「恐れ入ります。
実は、特別な理由があるのです」
み「どんなよ?」
フ「電化製品は、あっという間にダメになるんです。
硫化水素の影響ですね。
使用中に故障すると、熱を発したりして危険です。
冷蔵庫は爆発したりします」
↑恐山『吉祥閣』ではありません。
み「ウソこけ!」
フ「一番弱いのはデジカメです。
勝手にレンズが出たり引っこんだりします」
↑ニコン『ライトタッチズーム140』という機種のようです。いつごろのものなんでしょう?
フ「心霊現象だと騒がれるお客さんもおられますが……。
単なる化学反応です」
み「恐るべき風土」
フ「時計も狂いやすいですので……。
腕時計などは、バッグの中に仕舞われておいた方が良いかも知れません」
み「部屋には、時計もテレビもないんだろ?
携帯も圏外で……。
どうやって時間を知るのよ?」
フ「ときどき、バッグの中を覗いてください」
み「不便じゃ!」
律「あ、電化製品がないってことは……。
大浴場にドライヤーもないってことでしょうか?」
↑恐山『吉祥閣』ではありません。
フ「さすがにそれは備え付けてあります」
み「安いものならあるわけね」
フ「恐れ入ります。
ただ、先ほども申しましたとおり、非常に故障しやすい環境にあります。
使用中に、本体が熱くなりましたら、すぐに使用をお止めください」
律「続けて使用してると?」
フ「髪の毛がパンチパーマになります」
↑加工ではありません。『東大寺・五劫思惟阿弥陀如来坐像』です。
み「ウソこけ!」
フ「あと、お風呂には、ぜったいに金属製のアクセサリーは持ちこまないでくうださい。
真っ黒に変色してしまいます」
↑銀製品は、特に変色しやすいそうです。
フ「この建物には、鉄の釘は使ってないんです。
ボロボロになってしまいますから」
フ「それで、ステンレスの釘を特注しました」
↑こちら、ステンレスのズボン(用途不明)。
フ「1本、100円以上したんですよ」
み「だから、1泊12,000円なんですと言いたいわけ?」
フ「恐れ入ります」
律「照明は点くんでしょ?」
フ「もちろんでございます」
み「どうも胡散臭いな。
なんで、高い電化製品だけ使えないわけ?」
フ「内部の回路が複雑なほど、故障しやすくなります」
み「電気回路の問題ね」
フ「左様でございます」
み「そんなら、トイレのウォシュレットは、あるんでしょ?」
み「複雑な回路じゃないよね」