2018.5.26(土)
み「説明上、必要なんじゃ!
女性はたいがい、ドレッシーな服装だよね」
み「ブラウスにスカートとか。
プリーツみたいな」
律「それがどうしたのよ」
み「そういうスカートの場合……。
パンスト、穿きませんか?」
↑夏はお勧め。実際には、ショーツはストッキングの上に穿きます。
律「わたし、ほとんどパンツ(ズボンのことです)だから」
み「色気のないやつ」
律「女医に色気なんていりません」
み「AVでは、必須です」
み「そういうスカートを穿いてながら……。
ナマ足ということは考えにくいと言うておる」
律「話が見えないわね」
み「あのな。
波打ち際を裸足で走ってるわけよ。
パンスト穿いてたら、濡れるであんしょ」
律「脱いだんじゃないの」
み「いつのタイミングで?
彼の腕をすりぬけて、波打ち際を走り出したのよ。
その前に、パンストだけ脱いでたっていうわけ?」
み「どういうシチュなんじゃ?」
律「知らないわよ」
み「絶対おかしいだろ。
考えられることは、ただひとつ」
律「何よ?」
み「すでに、1発終わってるということじゃ」
律「は?」
み「車の中か岩陰か知らんけど……。
1回戦、すでに済んでるわけでんがな。
パンストはそのとき脱いだんです」
↑こーゆーところ。
律「馬鹿馬鹿しい」
み「ひょっとしたら、ノーパンかも知れんぞ」
律「ガイドさん、次、行って下さい」
婆「走らずとも良いのか?」
み「良い。
砂浜を走るのは、変態と部活だけじゃ」
婆「それでは、行きますぞ。
こっちじゃ」
み「なんじゃここは。
また、さっきの荒涼たる風景に戻っただけではないか」
婆「左様。
『地獄めぐり』と称する。
八大地獄と呼ばれておるな」
み「それはひょっとして、中村八大が落ちた地獄か?」
婆「バカを言うでない。
『上を向いて歩こう』の作曲者ではないか」
み「ほー、良く知っておるな」
婆「作詞が、永六輔。
作曲が、中村八大。
歌が、坂本九。
六八九トリオと呼ばれておった」
み「残念ながら、3人とも故人となられたな。
で、作曲家の中村八大が、ここの地獄に落ちたと」
婆「違うと言うておろうが。
『八大地獄』というのは、もともと仏教の教えじゃ。
地獄の8つの形相のことを云う」
↑『正観寺(徳島県阿南市)』。機械仕掛けの地獄が展開します。檀家は反対しなかったんですかね? 館内は撮影禁止だそうです。心が狭いんでないの?
み「地獄が8つあるわけか?」
婆「左様じゃ。
まずは、『等活(とうかつ)地獄』」
み「聞かないうちから説明を始めたな」
婆「責め苦を受けて命が絶えても、再び蘇生し責め苦を受ける。
“等しく活き返る”故に、“等活”と言い習わす」
↑犬の餌になるようです。犬の糞となって、また生き返るんでしょうか。
み「部活か学活に負けられまへんか?」
↑『学級活動』のことです。『ホームルーム』とも云います。
婆「続ける」
み「続けるな!
“命が絶えても”って、地獄に落ちたんだから、すでに死んでますがな」
婆「何度でも死ぬんじゃ」
み「蘇ったときに逃げ出せば、生き返れるかも知れんな」
婆「地獄は、そんな生やさしいものではないわ」
み「経験者は語るか?」
↑やっぱり、パンツを犠牲にすべきでしょう。
婆「良いか。
この『等活地獄』が、一番軽い地獄なんじゃぞ」
み「これで?
どんなやつが落ちるわけ?」
婆「殺生をした者じゃ。
人殺しとかではないぞ。
蚊や蟻などを殺しても、ここに落ちる」
↑落ちないのは、小林一茶くらいです。
み「人間、全員でしょうが。
殺すつもりがなくたって、歩いてるうちに必ず踏んでますって」
↑『さっき踏んだ虫をもう一度踏みに戻ってくる』だそうです。『等活地獄』決定!
み「どのくらいの期間、許されるわけ?」
婆「1兆6653億1250万年じゃな」
み「阿呆きゃ!
宇宙の年齢が、138億年じゃねーの」
婆「それより、遙かに長いということじゃ。
宇宙より前に地獄は存在し……。
宇宙が滅びても、地獄は滅びぬわ」
↑栃木県益子町『西明寺』の“笑い閻魔”。勝ち誇ってますね。
み「納得できーん」
婆「次は、『黒縄(こくじょう)地獄』」
み「もういいです」
婆「まだ、2つめじゃ。
“こくじょう”は、黒い縄と書く」
↑棕櫚(しゅろ)縄です。原料はまさしく、棕櫚の幹を包む毛です。竹垣の結束などに使われてますね。元の色は茶色です。竹垣などには、黒く染めたものが使われます。素手で扱うと真っ黒になるそうです。何で染めてあるんですかね?
婆「しかし、ただの縄ではないぞ。
なぜ黒いか。
それは、鉄で出来た縄だからじゃ」
み「あのー。
それって、ワイヤーって云うんじゃないの?」
婆「縄じゃ!
この縄で、全身をグリグリ巻かれる」
み「巻かれるだけ?」
婆「そんなわけないわ。
ギリギリと締め上げられ……。
縄は肉に食いこみ……。
ついには、肉体が切り刻まれる」
↑大根のビール漬けだそうです。ビールは、別で飲みたいものです。
み「人道上、問題ありすぎです。
どんなやつが落ちるわけ?」
婆「殺生をしたうえに、盗みを重ねたものが落ちると云われておる」
み「確か、窃盗罪って、最高でも懲役10年ですけど」
↑『万引き』は、放送禁止用語にすべきです。
婆「甘い!
だから、地上は乱れるんじゃ。
地獄を見習わねばならん」
み「地獄では、もっと長い懲役なわけね?」
婆「13兆3225億年じゃ」
み「聞くんじゃなかった」
婆「次!
『衆合(しゅうごう)地獄』。
身体を鉄の臼に投げ入れられ、鉄の杵で身を打ち砕かれる」
み「『中谷堂』ですな」
婆「なんじゃ、それは?」
み「知らんのか。
高速餅つきで有名じゃ」
み「『YouTube』で知った外人が、これを見るためにだけ日本に来るそうな。
聞きたくもないが、話の流れ上、聞かざるを得まい。
どれくらい、搗かれるわけ?」
婆「106兆5800億年じゃ」
み「完全に擦り身ですがな。
いい薩摩揚げになるでしょう」
↑実はわたし、練り物はあまり好きでないです。“つくね”とか“つみれ”とかも。歯ごたえがないでしょ。老人食ですよ。
み「どういうヤツが落ちるんじゃ?」
婆「殺生、盗みに加え、邪淫じゃな」
み「あいーん?」
↑二重顎などに効果ありだとか。
婆「“じゃいん”じゃ。
淫らな行いを繰り返した者が落ちる」
律「あんた、決定じゃない」
婆「わたしは、書いてるだけじゃで。
行いは、尼さんより清い」
↑イメージです。
み「次、行ってちょ。
ここまで来たら、ぜんぶ聞きましょう。
これまで、3つ出たわけだ。
あと、5つもあるのか」
婆「次は、『叫喚地獄』じゃな」
み「ほほー。
自動車教習所の教官が落ちる地獄じゃな」
↑大型バイクの検定だそうです。クランクで脱輪し、出ようとしてアクセルを踏んだら激突してしまったとか。パニクったんでしょうね。
律「よほど怨みがあるみたいね」
み「よく我慢したとわれながら感心する。
白手袋嵌めてるキザなヤローがいてね」
み「そいつが、ネチネチ嫌みを言う訳よ。
あの男、必ずや教官地獄に落ちるに違いない」
婆「字が間違っとる。
阿鼻叫喚の叫喚じゃ」
↑「阿鼻」は、間断がないこと。叫びっぱなしということですね。
み「ありゃ、そうなの?」
婆「沸騰する大釜の中に投げ入れられる」
婆「絶叫、絶叫、また絶叫じゃ」
み「早い話、釜ゆでの刑でしょ」
み「この世でもあったではないか。
石川五右衛門とか」
↑頭上に持ちあげてるのは、6歳の我が子。血筋を根絶やしにするため、子供も一緒に殺されたそうです。
婆「この世の刑の苦しみは、死ねば終わりじゃ。
地獄は違うぞ」
み「続くわけね?
どれくらい?
だんたん楽しみになってきたわい」
婆「852兆6400億年じゃ」
み「わはは。
どーゆーことすれば、落ちるわけ?」
婆「殺生、盗み、邪淫に加え……。
飲酒じゃな」
み「待てい。
イスラム教じゃあるまいし、なんで飲酒がいかんのよ?」
↑これは、いかんでしょ。
婆「飲酒と云っても、ただ飲んでる分にはかまわぬ。
酒に毒を入れて人を殺したり、酒を飲ませて悪事を働くよう仕向けた場合じゃ」
み「人に呑ませるのは、飲酒と云わんでしょうが」
婆「ついでに、屁理屈をこねた者も落ちる」
↑これは正当な理屈です。
み「なんでじゃ!」
婆「これで、やっと半分じゃぞ。
恐ろしかろー」
み「お主の顔の方が恐ろしいわい」
み「いいから、次、行ってちょ」
婆「投げやりじゃな」
み「投げやりは、磔地獄か?」
婆「そんな地獄はないわ。
地上の刑ではないか」
み「さっき、釜ゆでのパクリがあったではないか」
婆「地獄が大元じゃ。
次は、『大叫喚地獄』」
み「語彙まで枯渇しました?
『叫喚』の次が『大叫喚』け?」
婆「『叫喚地獄』の責め苦より、さらに大変な責め苦を受ける」
み「責めパターンも枯渇ですな。
どういうヤツが落ちるわけ?」
婆「殺生、盗み、邪淫、飲酒に加え……。
妄言を吐くヤツじゃ。
ウソやデタラメ、ホラ吹きじゃな」
律「あんた、決定」
み「そんなこと言ったら、小説家はほとんど該当するだろ。
SF作家なんか、全員じゃ」
↑『SF作家クラブ』の親睦旅行にて。宿の歓迎看板が『SFサッカークラブ』になってる伝説の写真です。
み「年数は?
これだけは、いちおう聞いておく」
婆「6821兆1200億年じゃな」
み「よし、次」
婆「『焦熱地獄』。
猛火や炎熱のために苦しむ。
火あぶりの刑じゃ」
み「これも、地上の刑にありますがな。
火付けをした者の刑だよね。
八百屋お七とか」
婆「身体中、バラバラに分解され……。
串に刺されて、鉄板で焼かれる」
み「焼き鳥屋か!
バラバラにされた時点で死んでるだろ」
婆「既に死んでる者は、永遠に死ねんのじゃ」
↑映画『バタリアン』。B級ホラーの名作です。
み「で、どういう罪を重ねると落ちるわけ?」
婆「殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言に加え……。
邪見(じゃけん)を説くヤツじゃ」
み「ジャンケン?」
↑ブラタモリ『新潟編』。ジャンケンが強かった近江ちゃん。
婆「そう来ると思った」
み「邪険にしただけで、地獄落ちけ?」
↑まる子、肘鉄。
婆「その邪険ではない。
邪(よこしま)な見方と書いて、邪見と読む」
↑広島だけで売られてたご当地ビールだそうです。
婆「仏教の教えとは相容れない考えのことじゃ」
み「また、年数が嵩むわけね。
どんだけ?」
婆「5京4568兆9600億年じゃ」
み「京!
スーパーコンピューターか!」
婆「次に進む」
み「あと2つか。
早く片づけてちょ」
婆「『大焦熱地獄』」
み「まーた、語彙の枯渇じゃ」
婆「『焦熱地獄』より、さらに過酷な猛火や炎熱の苦しみを受ける」
↑上に金網が見えます。そこからさらに落ちるわけですね。しかし、身体も衣服も焼けてないのはなぜでしょう?
み「黒焦げバーベキューってわけね」
↑とある万博で提供されてたバーベキューだとか。「食中毒を防ぐため」良く焼いてあるとのこと。
み「どういう罪が加わると落ちるわけ?
なんか、わたしの方がサービスしてるみたいだな」
婆「殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言、邪見に加え……。
犯持戒人を成したヤツじゃ」
み「“はんじかいじん”?
なんじゃそれは?
漫才コンビか?」
↑ちょっと語感が似てるような。「しっつれいしました」のギャグで有名だったとか。若手時代は、『やすしきよし』のライバルだったそうです。
婆「童女や尼僧などを強姦した者が落ちる」
み「それ以外なら、強姦してもいいの?」
婆「いいわけなかろう。
既に邪淫(じゃいん)の罪で裁かれておるわ」
↑これは“アイーン”。『生成(なまなり)』という能面らしいです(不確か)。
み「さーて、長さはどのくらいなのかな?
だんだん、楽しみになってきた」
婆「43京6551兆6800億年じゃ」
み「ありがとうございました!
それじゃ、いよいよ最後ですね。
お願いいたします。
ダラダラダラダラダラダラ」
婆「なんじゃそれは?」
み「ドラムロールでんがな」
婆「いらんことせんでよい。
最後の地獄は、前に言ったじゃろう」
み「忘れたわい」
婆「覚えておけ。
お主が行く所ではないか」
み「なんでじゃ!」
婆「『無間地獄』である。
間断のない極限の苦しみに身を苛まれる」
み「どんな罪が加わると、無間コースになるわけ?」
婆「殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言、邪見、犯持戒人に加え……。
父母や阿羅漢(あらはん)を殺害したヤツじゃ」
み「“あらはん”って、なんですのん?」
婆「聖者のことじゃ」
み「そういえば、カンフー映画の題名にあった気がする」
み「しかし、わたしは父母や聖人はもちろん、誰一人殺してなんかいないぞ。
落ちようがないではないか」
婆「これから殺すかも知れん」
み「縁起の悪いことを言うでない!」
↑“えんがちょ”には、地方によってさまざまな「印」があるそうです。
み「恒例の年数の紹介をやってちょ」
婆「349京2413兆4400億年である」
み「ありがとさんでしたー」
み「しかし世の中、ヒマな人間がいたもんですのぅ。
誰がひねり出したホラ話なんじゃ?」
婆「ホラではない。
教えじゃ」
み「年数といい、リアリティがなさ過ぎです。
身に迫る恐怖を感じませんよ」
↑トラの群れに追いかけられるニワトリさん。飛ぶのをやめた祖先を恨んだでしょうね。
み「で、この場所で、その『八大地獄』が表現されてるわけ?
荒涼としてるだけじゃないの。
そもそも、線香も禁止なんだから、猛火なんて表現できんでしょ」
婆「恐山の『八大地獄』は、仏教で説かれる地獄とは、ちと違っておる。
アレンジというやつじゃ」
み「地獄をアレンジしていいのか!」
婆「『無間地獄』は、さっき見たな」
み「あれが、最強の地獄だったっての?
卵臭かっただけですぜ。
残りの7つが、ここらにあるわけ?
期待できませんな。
ま、ざっと説明してちょ」
婆「おぬしは、ガイドのやる気を削ぐ天才じゃな」
↑やる気を削がれたハスキー犬。
み「お褒めにあずかりまして」
婆「褒めとらんわ。
まずここが、『重罪地獄』じゃ」
み「あのー。
さっきの『無間地獄』と、どう違うんすか?」
婆「立て札が建っておろうが。
それで区別するんじゃ」
み「そんな……」
婆「続いてここが、『金堀地獄』」
み「ここも立て札の違いでっか?」
婆「左様じゃ」
み「日本人しかわからんではないか。
英語とか、ほかの言語でも表記すべきだろ。
東京オリンピックも近いんじゃし。
オリンピックのついでに『恐山』に来るヤツがおらんとも限らんぞ」
婆「おらん方に、1万点じゃ」
み「ギャグが古すぎます」
婆「次、『どうや地獄』」
み「“どうや”って、何や?」
婆「“どう”は、金属の“銅”じゃろ。
精錬を生業としたものたちであろうな。
弘前には、『銅屋町(どうやまち)』という地名もある」
み「もちっと、地獄らしい地獄はおませんのか?」
婆「それなら、ここじゃろ。
『血の池地獄』」
み「は?
どこが、血の池なんすか?
透明ではないか」
婆「ほー。
これが透明に見えるなら、さほど罪科は重くないかも知れんな。
罪人には、真っ赤に見えるというで」
み「お主にも、そう見えるんじゃな」
婆「見えるかい。
時折、酸化鉄の具合で赤くなるんじゃ」
↑売ってました。手作りの化粧品や石けんなどの色付けに使うそうです。
婆「昔は、常時赤かったんじゃがな。
最近は、滅多に赤くならんわい」
み「貧弱!」
婆「何がじゃ」
み「テーマパークとしては、別府温泉の足元にも及ばんな」
↑別府温泉の『血の池地獄』。規模が段違い。面積は、1,300m2もあります(小学校のプール、4.3個分)。
婆「『恐山』は、テーマパークではないわ」
み「ま、入山料、500円ですからな。
こんなもんでげしょう。
あとは?」
婆「最後に、『延命地蔵尊』にお参りして行きなされ」
み「どこじゃい?」
婆「あの小高い丘におわしますぞ」
み「あ、見えた」
婆「足元には、石が積まれておるでな。
お側まで行くのは、ちと難しいが」
↑一瞬、ゴミの山かと思いました。
み「そんなら、ここでよかろ。
なんまいだなんまいだ」
↑カワウソです。
婆「さて、これで一廻りしましたぞ。
あとは、総門を抜けて、とっととお帰りなされ」
み「ふっふっふ」
み「そうはいかんのじゃ」
婆「何か良からぬことを成すつもりではなかろうな」
み「なんでそう疑い深いわけ?
人を信ずることが、人の道の第一歩じゃぞ」
婆「お主に説教されたくないわ。
わしにも、うっかり案内してしまった責任がある。
何もするつもりがないなら、早いこと帰りなされ。
バスは、17:30分が最終じゃぞ」
↑2018年5月時点の時刻表です。
婆「これを逃したら、タクシーしかない。
下北駅まで、10万円はかかる」
み「かかるか!
白タクじゃあるまいし」
↑新宿から逗子まで、白タクに乗ったことがあります。金曜の夜、新宿で飲んで終電を逃した後、逗子の自宅まで帰る友人に、怖いから一緒に乗ってくれと頼まれました。もちろん、わたしはお金を出してません。金額は忘却の彼方です。
律「でも、ほんとに薄暗くなってきたわよ」
婆「あまり長居すると、背負ってしまうぞよ」
み「わたしはリュックじゃで、もう背負えん」
み「先生、背負って帰らっしゃれ」
律「結構です。
今日は、ほんとにありがとうございました」
み「次に来たときは、またガイドを頼むぞ。
タダで」
婆「まっぴらゴメンじゃ。
それじゃ、わしはこれにて失敬」
み「待たれい。
もう一手間、願いたい」
婆「お帰りはあちらじゃ。
見えてるじゃろ」
↑恐山の入口『総門』です。内側から写した写真が、なかなか見つかりませんでした。
み「宿坊というのは、どこにあるんじゃ?」
婆「ひょっとして、宿坊に泊まる気か?」
み「左様じゃ」
婆「よしなされ。
山が穢れる」
み「なんでじゃ!
既に予約してあるわい。
1泊12,000円と言われたぞ。
お主の口利きで、半額にならんか?」
↑献金の見返りは口利きです。口利きしない議員に、企業は献金しません。
婆「なるかい!
定額じゃ」
み「『楽天トラベル』にも載ってなかった」
婆「当たり前じゃ。
予約は、直接電話する以外には出来ん。
予約したんなら、わかるじゃろ。
参道の右手奥にあるわ」
律「ほんとに泊まるの?」
み「せっかくここまで来て、日帰りじゃもったいなかろ」
婆「チェックインは、17時までじゃぞ。
急ぎなされ。
それじゃ、わしはここでな」
律「お世話になりました」
み「また来たときは頼むぞ」
婆「断ると言っておろうが」
婆「早く行きなされ。
さらばじゃ」
↑脱兎のごとくイベント会場を去るウルトラマンダイナ。
み「逃げるように去ったな」
律「ほんとに逃げたんだと思うわ。
こんなとこに泊まるなんて、どうして相談しないのよ」
み「ぜんぶ任せると言ったではないか」
律「宿坊に泊まるなんて、考えもしないでしょ。
まさか、本堂の板の間に寝るんじゃないでしょうね」
み「地方場所の相撲部屋じゃあるまいし」
↑名古屋場所での『式秀部屋』の宿舎(北名古屋市『観昌寺』)。
み「宿坊は、お寺とは離れてるんだって。
10年くらい前に建て替えられて、近代的な宿泊施設って書いてあった」
律「ここ、さっき来た参道よね」
み「右手とか言ってたよな。
あれかな?
なんか、デカデカと表札が出てるぞ」
律「あれ、表札って云うの?」
み「知りませんがな。
ほかに何て言うんだ?
ま、とにかく行ってみよう」
律「『恐山寺務所』だって」
律「“じむしょ”でいいのかしら?」
み「ほかに読みようがおへんがな。
中におっさんがいるな」
み「聞いてみよう。
ひょっとしたら、秘密の地下通路から入るのかも知れん。
その場合、聞かない限り、たどり着けんぞ」
律「そんなわけないでしょ。
でも、聞いた方が手っ取り早いことは確かね」
み「先生、聞いてよね」
律「何でわたしなのよ」
み「わたしは、シャイなんで」
↑めんどくせー。
律「どこが!」
み「先生の方が、人あたりがいいでしょ。
医者は、客商売なんだから」
律「ま、それはそうだけど」
み「そんなら、行きまっせ。
入ったら、腹の底から声を出して……。
“たのもう!”って、言ってくだせい」
律「何でよ!
そんなら、あんた言いなさいよ」
み「わたしは、シャイじゃで」
律「どこが。
ほら、早く入りなさい」
み「け、蹴るな!」
寺「いらっしゃいませ。
何か……」
み「ちと、ものをお尋ねし申す」
律「何でそんな口調になるのよ」
み「あがっておるのだ」
み「丁寧語が苦手なの!」
↑中国卓球の丁寧選手。美人ですよね。
律「普段、ぞんざいな言葉を使ってるからよ」
み「人のこと言えないだろ!」
寺「あの。
ご祈祷でしたら、本日の受付は終了してしまいましたが」
↑いろいろ興味深いです。先祖代々がお得なんでないの?
み「そいつは残念。
この女を地獄に落とす祈祷をお願いしたかったのじゃが」
寺「そういう祈祷は、お受けしかねます」
律「バカなこと言ってるんじゃないわよ。
ご迷惑でしょ。
すみません。
わたしたち、宿坊って言うんですか?
そういう施設に泊まることになってるみたいで」
寺「ご予約なされましたか?」
律「はい。
この人が、勝手に。
そういう所って、お坊さんじゃなくても泊まれるんですか?」
寺「はい。
どなたでも、お泊まりいただけます」
律「あの。
どういう所なんでしょう?
本堂の板の間で寝るとかは……」
↑何の画像か不明。
み「違うと言ったろ」
律「あんたの言うことは信用できないから」
寺「大丈夫でございます。
施設的には、旅館と変わりありません。
ただ、お寺の宿坊になりますから……。
いろいろと、決まり事もございます。
フロントで、ご案内文をお渡ししますので、そちらをご覧下さい。
17時までにチェックインしていただく必要がございます。
わたしから電話をしておきますので、このままフロントへおいで下さい。
そちら、この寺務所の脇から、宿坊の方に進めますので。
すぐにわかります。
大きい建物ですから。
どうぞ」
女性はたいがい、ドレッシーな服装だよね」
み「ブラウスにスカートとか。
プリーツみたいな」
律「それがどうしたのよ」
み「そういうスカートの場合……。
パンスト、穿きませんか?」
【メール便】 (コミューズ)COMUSE レースサスペンダーストッキング レディース [大きいサイズ LLまで ガーターストッキング サスペンダーストッキング 穴あきストッキング パンティ部レスストッキング] |
↑夏はお勧め。実際には、ショーツはストッキングの上に穿きます。
律「わたし、ほとんどパンツ(ズボンのことです)だから」
み「色気のないやつ」
律「女医に色気なんていりません」
み「AVでは、必須です」
み「そういうスカートを穿いてながら……。
ナマ足ということは考えにくいと言うておる」
律「話が見えないわね」
み「あのな。
波打ち際を裸足で走ってるわけよ。
パンスト穿いてたら、濡れるであんしょ」
律「脱いだんじゃないの」
み「いつのタイミングで?
彼の腕をすりぬけて、波打ち際を走り出したのよ。
その前に、パンストだけ脱いでたっていうわけ?」
み「どういうシチュなんじゃ?」
律「知らないわよ」
み「絶対おかしいだろ。
考えられることは、ただひとつ」
律「何よ?」
み「すでに、1発終わってるということじゃ」
律「は?」
み「車の中か岩陰か知らんけど……。
1回戦、すでに済んでるわけでんがな。
パンストはそのとき脱いだんです」
↑こーゆーところ。
律「馬鹿馬鹿しい」
み「ひょっとしたら、ノーパンかも知れんぞ」
律「ガイドさん、次、行って下さい」
婆「走らずとも良いのか?」
み「良い。
砂浜を走るのは、変態と部活だけじゃ」
婆「それでは、行きますぞ。
こっちじゃ」
み「なんじゃここは。
また、さっきの荒涼たる風景に戻っただけではないか」
婆「左様。
『地獄めぐり』と称する。
八大地獄と呼ばれておるな」
み「それはひょっとして、中村八大が落ちた地獄か?」
婆「バカを言うでない。
『上を向いて歩こう』の作曲者ではないか」
み「ほー、良く知っておるな」
婆「作詞が、永六輔。
作曲が、中村八大。
歌が、坂本九。
六八九トリオと呼ばれておった」
み「残念ながら、3人とも故人となられたな。
で、作曲家の中村八大が、ここの地獄に落ちたと」
婆「違うと言うておろうが。
『八大地獄』というのは、もともと仏教の教えじゃ。
地獄の8つの形相のことを云う」
↑『正観寺(徳島県阿南市)』。機械仕掛けの地獄が展開します。檀家は反対しなかったんですかね? 館内は撮影禁止だそうです。心が狭いんでないの?
み「地獄が8つあるわけか?」
婆「左様じゃ。
まずは、『等活(とうかつ)地獄』」
み「聞かないうちから説明を始めたな」
婆「責め苦を受けて命が絶えても、再び蘇生し責め苦を受ける。
“等しく活き返る”故に、“等活”と言い習わす」
↑犬の餌になるようです。犬の糞となって、また生き返るんでしょうか。
み「部活か学活に負けられまへんか?」
↑『学級活動』のことです。『ホームルーム』とも云います。
婆「続ける」
み「続けるな!
“命が絶えても”って、地獄に落ちたんだから、すでに死んでますがな」
婆「何度でも死ぬんじゃ」
み「蘇ったときに逃げ出せば、生き返れるかも知れんな」
婆「地獄は、そんな生やさしいものではないわ」
み「経験者は語るか?」
↑やっぱり、パンツを犠牲にすべきでしょう。
婆「良いか。
この『等活地獄』が、一番軽い地獄なんじゃぞ」
み「これで?
どんなやつが落ちるわけ?」
婆「殺生をした者じゃ。
人殺しとかではないぞ。
蚊や蟻などを殺しても、ここに落ちる」
↑落ちないのは、小林一茶くらいです。
み「人間、全員でしょうが。
殺すつもりがなくたって、歩いてるうちに必ず踏んでますって」
↑『さっき踏んだ虫をもう一度踏みに戻ってくる』だそうです。『等活地獄』決定!
み「どのくらいの期間、許されるわけ?」
婆「1兆6653億1250万年じゃな」
み「阿呆きゃ!
宇宙の年齢が、138億年じゃねーの」
婆「それより、遙かに長いということじゃ。
宇宙より前に地獄は存在し……。
宇宙が滅びても、地獄は滅びぬわ」
↑栃木県益子町『西明寺』の“笑い閻魔”。勝ち誇ってますね。
み「納得できーん」
婆「次は、『黒縄(こくじょう)地獄』」
み「もういいです」
婆「まだ、2つめじゃ。
“こくじょう”は、黒い縄と書く」
↑棕櫚(しゅろ)縄です。原料はまさしく、棕櫚の幹を包む毛です。竹垣の結束などに使われてますね。元の色は茶色です。竹垣などには、黒く染めたものが使われます。素手で扱うと真っ黒になるそうです。何で染めてあるんですかね?
婆「しかし、ただの縄ではないぞ。
なぜ黒いか。
それは、鉄で出来た縄だからじゃ」
み「あのー。
それって、ワイヤーって云うんじゃないの?」
婆「縄じゃ!
この縄で、全身をグリグリ巻かれる」
み「巻かれるだけ?」
婆「そんなわけないわ。
ギリギリと締め上げられ……。
縄は肉に食いこみ……。
ついには、肉体が切り刻まれる」
↑大根のビール漬けだそうです。ビールは、別で飲みたいものです。
み「人道上、問題ありすぎです。
どんなやつが落ちるわけ?」
婆「殺生をしたうえに、盗みを重ねたものが落ちると云われておる」
み「確か、窃盗罪って、最高でも懲役10年ですけど」
↑『万引き』は、放送禁止用語にすべきです。
婆「甘い!
だから、地上は乱れるんじゃ。
地獄を見習わねばならん」
み「地獄では、もっと長い懲役なわけね?」
婆「13兆3225億年じゃ」
み「聞くんじゃなかった」
婆「次!
『衆合(しゅうごう)地獄』。
身体を鉄の臼に投げ入れられ、鉄の杵で身を打ち砕かれる」
み「『中谷堂』ですな」
婆「なんじゃ、それは?」
み「知らんのか。
高速餅つきで有名じゃ」
み「『YouTube』で知った外人が、これを見るためにだけ日本に来るそうな。
聞きたくもないが、話の流れ上、聞かざるを得まい。
どれくらい、搗かれるわけ?」
婆「106兆5800億年じゃ」
み「完全に擦り身ですがな。
いい薩摩揚げになるでしょう」
↑実はわたし、練り物はあまり好きでないです。“つくね”とか“つみれ”とかも。歯ごたえがないでしょ。老人食ですよ。
み「どういうヤツが落ちるんじゃ?」
婆「殺生、盗みに加え、邪淫じゃな」
み「あいーん?」
↑二重顎などに効果ありだとか。
婆「“じゃいん”じゃ。
淫らな行いを繰り返した者が落ちる」
律「あんた、決定じゃない」
婆「わたしは、書いてるだけじゃで。
行いは、尼さんより清い」
↑イメージです。
み「次、行ってちょ。
ここまで来たら、ぜんぶ聞きましょう。
これまで、3つ出たわけだ。
あと、5つもあるのか」
婆「次は、『叫喚地獄』じゃな」
み「ほほー。
自動車教習所の教官が落ちる地獄じゃな」
↑大型バイクの検定だそうです。クランクで脱輪し、出ようとしてアクセルを踏んだら激突してしまったとか。パニクったんでしょうね。
律「よほど怨みがあるみたいね」
み「よく我慢したとわれながら感心する。
白手袋嵌めてるキザなヤローがいてね」
み「そいつが、ネチネチ嫌みを言う訳よ。
あの男、必ずや教官地獄に落ちるに違いない」
婆「字が間違っとる。
阿鼻叫喚の叫喚じゃ」
↑「阿鼻」は、間断がないこと。叫びっぱなしということですね。
み「ありゃ、そうなの?」
婆「沸騰する大釜の中に投げ入れられる」
婆「絶叫、絶叫、また絶叫じゃ」
み「早い話、釜ゆでの刑でしょ」
み「この世でもあったではないか。
石川五右衛門とか」
↑頭上に持ちあげてるのは、6歳の我が子。血筋を根絶やしにするため、子供も一緒に殺されたそうです。
婆「この世の刑の苦しみは、死ねば終わりじゃ。
地獄は違うぞ」
み「続くわけね?
どれくらい?
だんたん楽しみになってきたわい」
婆「852兆6400億年じゃ」
み「わはは。
どーゆーことすれば、落ちるわけ?」
婆「殺生、盗み、邪淫に加え……。
飲酒じゃな」
み「待てい。
イスラム教じゃあるまいし、なんで飲酒がいかんのよ?」
↑これは、いかんでしょ。
婆「飲酒と云っても、ただ飲んでる分にはかまわぬ。
酒に毒を入れて人を殺したり、酒を飲ませて悪事を働くよう仕向けた場合じゃ」
み「人に呑ませるのは、飲酒と云わんでしょうが」
婆「ついでに、屁理屈をこねた者も落ちる」
↑これは正当な理屈です。
み「なんでじゃ!」
婆「これで、やっと半分じゃぞ。
恐ろしかろー」
み「お主の顔の方が恐ろしいわい」
み「いいから、次、行ってちょ」
婆「投げやりじゃな」
み「投げやりは、磔地獄か?」
婆「そんな地獄はないわ。
地上の刑ではないか」
み「さっき、釜ゆでのパクリがあったではないか」
婆「地獄が大元じゃ。
次は、『大叫喚地獄』」
み「語彙まで枯渇しました?
『叫喚』の次が『大叫喚』け?」
婆「『叫喚地獄』の責め苦より、さらに大変な責め苦を受ける」
み「責めパターンも枯渇ですな。
どういうヤツが落ちるわけ?」
婆「殺生、盗み、邪淫、飲酒に加え……。
妄言を吐くヤツじゃ。
ウソやデタラメ、ホラ吹きじゃな」
律「あんた、決定」
み「そんなこと言ったら、小説家はほとんど該当するだろ。
SF作家なんか、全員じゃ」
↑『SF作家クラブ』の親睦旅行にて。宿の歓迎看板が『SFサッカークラブ』になってる伝説の写真です。
み「年数は?
これだけは、いちおう聞いておく」
婆「6821兆1200億年じゃな」
み「よし、次」
婆「『焦熱地獄』。
猛火や炎熱のために苦しむ。
火あぶりの刑じゃ」
み「これも、地上の刑にありますがな。
火付けをした者の刑だよね。
八百屋お七とか」
婆「身体中、バラバラに分解され……。
串に刺されて、鉄板で焼かれる」
み「焼き鳥屋か!
バラバラにされた時点で死んでるだろ」
婆「既に死んでる者は、永遠に死ねんのじゃ」
↑映画『バタリアン』。B級ホラーの名作です。
み「で、どういう罪を重ねると落ちるわけ?」
婆「殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言に加え……。
邪見(じゃけん)を説くヤツじゃ」
み「ジャンケン?」
↑ブラタモリ『新潟編』。ジャンケンが強かった近江ちゃん。
婆「そう来ると思った」
み「邪険にしただけで、地獄落ちけ?」
↑まる子、肘鉄。
婆「その邪険ではない。
邪(よこしま)な見方と書いて、邪見と読む」
↑広島だけで売られてたご当地ビールだそうです。
婆「仏教の教えとは相容れない考えのことじゃ」
み「また、年数が嵩むわけね。
どんだけ?」
婆「5京4568兆9600億年じゃ」
み「京!
スーパーコンピューターか!」
婆「次に進む」
み「あと2つか。
早く片づけてちょ」
婆「『大焦熱地獄』」
み「まーた、語彙の枯渇じゃ」
婆「『焦熱地獄』より、さらに過酷な猛火や炎熱の苦しみを受ける」
↑上に金網が見えます。そこからさらに落ちるわけですね。しかし、身体も衣服も焼けてないのはなぜでしょう?
み「黒焦げバーベキューってわけね」
↑とある万博で提供されてたバーベキューだとか。「食中毒を防ぐため」良く焼いてあるとのこと。
み「どういう罪が加わると落ちるわけ?
なんか、わたしの方がサービスしてるみたいだな」
婆「殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言、邪見に加え……。
犯持戒人を成したヤツじゃ」
み「“はんじかいじん”?
なんじゃそれは?
漫才コンビか?」
↑ちょっと語感が似てるような。「しっつれいしました」のギャグで有名だったとか。若手時代は、『やすしきよし』のライバルだったそうです。
婆「童女や尼僧などを強姦した者が落ちる」
み「それ以外なら、強姦してもいいの?」
婆「いいわけなかろう。
既に邪淫(じゃいん)の罪で裁かれておるわ」
↑これは“アイーン”。『生成(なまなり)』という能面らしいです(不確か)。
み「さーて、長さはどのくらいなのかな?
だんだん、楽しみになってきた」
婆「43京6551兆6800億年じゃ」
み「ありがとうございました!
それじゃ、いよいよ最後ですね。
お願いいたします。
ダラダラダラダラダラダラ」
婆「なんじゃそれは?」
み「ドラムロールでんがな」
婆「いらんことせんでよい。
最後の地獄は、前に言ったじゃろう」
み「忘れたわい」
婆「覚えておけ。
お主が行く所ではないか」
み「なんでじゃ!」
婆「『無間地獄』である。
間断のない極限の苦しみに身を苛まれる」
み「どんな罪が加わると、無間コースになるわけ?」
婆「殺生、盗み、邪淫、飲酒、妄言、邪見、犯持戒人に加え……。
父母や阿羅漢(あらはん)を殺害したヤツじゃ」
み「“あらはん”って、なんですのん?」
婆「聖者のことじゃ」
み「そういえば、カンフー映画の題名にあった気がする」
み「しかし、わたしは父母や聖人はもちろん、誰一人殺してなんかいないぞ。
落ちようがないではないか」
婆「これから殺すかも知れん」
み「縁起の悪いことを言うでない!」
↑“えんがちょ”には、地方によってさまざまな「印」があるそうです。
み「恒例の年数の紹介をやってちょ」
婆「349京2413兆4400億年である」
み「ありがとさんでしたー」
み「しかし世の中、ヒマな人間がいたもんですのぅ。
誰がひねり出したホラ話なんじゃ?」
婆「ホラではない。
教えじゃ」
み「年数といい、リアリティがなさ過ぎです。
身に迫る恐怖を感じませんよ」
↑トラの群れに追いかけられるニワトリさん。飛ぶのをやめた祖先を恨んだでしょうね。
み「で、この場所で、その『八大地獄』が表現されてるわけ?
荒涼としてるだけじゃないの。
そもそも、線香も禁止なんだから、猛火なんて表現できんでしょ」
婆「恐山の『八大地獄』は、仏教で説かれる地獄とは、ちと違っておる。
アレンジというやつじゃ」
み「地獄をアレンジしていいのか!」
婆「『無間地獄』は、さっき見たな」
み「あれが、最強の地獄だったっての?
卵臭かっただけですぜ。
残りの7つが、ここらにあるわけ?
期待できませんな。
ま、ざっと説明してちょ」
婆「おぬしは、ガイドのやる気を削ぐ天才じゃな」
↑やる気を削がれたハスキー犬。
み「お褒めにあずかりまして」
婆「褒めとらんわ。
まずここが、『重罪地獄』じゃ」
み「あのー。
さっきの『無間地獄』と、どう違うんすか?」
婆「立て札が建っておろうが。
それで区別するんじゃ」
み「そんな……」
婆「続いてここが、『金堀地獄』」
み「ここも立て札の違いでっか?」
婆「左様じゃ」
み「日本人しかわからんではないか。
英語とか、ほかの言語でも表記すべきだろ。
東京オリンピックも近いんじゃし。
オリンピックのついでに『恐山』に来るヤツがおらんとも限らんぞ」
婆「おらん方に、1万点じゃ」
み「ギャグが古すぎます」
婆「次、『どうや地獄』」
み「“どうや”って、何や?」
婆「“どう”は、金属の“銅”じゃろ。
精錬を生業としたものたちであろうな。
弘前には、『銅屋町(どうやまち)』という地名もある」
み「もちっと、地獄らしい地獄はおませんのか?」
婆「それなら、ここじゃろ。
『血の池地獄』」
み「は?
どこが、血の池なんすか?
透明ではないか」
婆「ほー。
これが透明に見えるなら、さほど罪科は重くないかも知れんな。
罪人には、真っ赤に見えるというで」
み「お主にも、そう見えるんじゃな」
婆「見えるかい。
時折、酸化鉄の具合で赤くなるんじゃ」
↑売ってました。手作りの化粧品や石けんなどの色付けに使うそうです。
婆「昔は、常時赤かったんじゃがな。
最近は、滅多に赤くならんわい」
み「貧弱!」
婆「何がじゃ」
み「テーマパークとしては、別府温泉の足元にも及ばんな」
↑別府温泉の『血の池地獄』。規模が段違い。面積は、1,300m2もあります(小学校のプール、4.3個分)。
婆「『恐山』は、テーマパークではないわ」
み「ま、入山料、500円ですからな。
こんなもんでげしょう。
あとは?」
婆「最後に、『延命地蔵尊』にお参りして行きなされ」
み「どこじゃい?」
婆「あの小高い丘におわしますぞ」
み「あ、見えた」
婆「足元には、石が積まれておるでな。
お側まで行くのは、ちと難しいが」
↑一瞬、ゴミの山かと思いました。
み「そんなら、ここでよかろ。
なんまいだなんまいだ」
↑カワウソです。
婆「さて、これで一廻りしましたぞ。
あとは、総門を抜けて、とっととお帰りなされ」
み「ふっふっふ」
み「そうはいかんのじゃ」
婆「何か良からぬことを成すつもりではなかろうな」
み「なんでそう疑い深いわけ?
人を信ずることが、人の道の第一歩じゃぞ」
婆「お主に説教されたくないわ。
わしにも、うっかり案内してしまった責任がある。
何もするつもりがないなら、早いこと帰りなされ。
バスは、17:30分が最終じゃぞ」
↑2018年5月時点の時刻表です。
婆「これを逃したら、タクシーしかない。
下北駅まで、10万円はかかる」
み「かかるか!
白タクじゃあるまいし」
↑新宿から逗子まで、白タクに乗ったことがあります。金曜の夜、新宿で飲んで終電を逃した後、逗子の自宅まで帰る友人に、怖いから一緒に乗ってくれと頼まれました。もちろん、わたしはお金を出してません。金額は忘却の彼方です。
律「でも、ほんとに薄暗くなってきたわよ」
婆「あまり長居すると、背負ってしまうぞよ」
み「わたしはリュックじゃで、もう背負えん」
み「先生、背負って帰らっしゃれ」
律「結構です。
今日は、ほんとにありがとうございました」
み「次に来たときは、またガイドを頼むぞ。
タダで」
婆「まっぴらゴメンじゃ。
それじゃ、わしはこれにて失敬」
み「待たれい。
もう一手間、願いたい」
婆「お帰りはあちらじゃ。
見えてるじゃろ」
↑恐山の入口『総門』です。内側から写した写真が、なかなか見つかりませんでした。
み「宿坊というのは、どこにあるんじゃ?」
婆「ひょっとして、宿坊に泊まる気か?」
み「左様じゃ」
婆「よしなされ。
山が穢れる」
み「なんでじゃ!
既に予約してあるわい。
1泊12,000円と言われたぞ。
お主の口利きで、半額にならんか?」
↑献金の見返りは口利きです。口利きしない議員に、企業は献金しません。
婆「なるかい!
定額じゃ」
み「『楽天トラベル』にも載ってなかった」
婆「当たり前じゃ。
予約は、直接電話する以外には出来ん。
予約したんなら、わかるじゃろ。
参道の右手奥にあるわ」
律「ほんとに泊まるの?」
み「せっかくここまで来て、日帰りじゃもったいなかろ」
婆「チェックインは、17時までじゃぞ。
急ぎなされ。
それじゃ、わしはここでな」
律「お世話になりました」
み「また来たときは頼むぞ」
婆「断ると言っておろうが」
婆「早く行きなされ。
さらばじゃ」
↑脱兎のごとくイベント会場を去るウルトラマンダイナ。
み「逃げるように去ったな」
律「ほんとに逃げたんだと思うわ。
こんなとこに泊まるなんて、どうして相談しないのよ」
み「ぜんぶ任せると言ったではないか」
律「宿坊に泊まるなんて、考えもしないでしょ。
まさか、本堂の板の間に寝るんじゃないでしょうね」
み「地方場所の相撲部屋じゃあるまいし」
↑名古屋場所での『式秀部屋』の宿舎(北名古屋市『観昌寺』)。
み「宿坊は、お寺とは離れてるんだって。
10年くらい前に建て替えられて、近代的な宿泊施設って書いてあった」
律「ここ、さっき来た参道よね」
み「右手とか言ってたよな。
あれかな?
なんか、デカデカと表札が出てるぞ」
律「あれ、表札って云うの?」
み「知りませんがな。
ほかに何て言うんだ?
ま、とにかく行ってみよう」
律「『恐山寺務所』だって」
律「“じむしょ”でいいのかしら?」
み「ほかに読みようがおへんがな。
中におっさんがいるな」
み「聞いてみよう。
ひょっとしたら、秘密の地下通路から入るのかも知れん。
その場合、聞かない限り、たどり着けんぞ」
律「そんなわけないでしょ。
でも、聞いた方が手っ取り早いことは確かね」
み「先生、聞いてよね」
律「何でわたしなのよ」
み「わたしは、シャイなんで」
↑めんどくせー。
律「どこが!」
み「先生の方が、人あたりがいいでしょ。
医者は、客商売なんだから」
律「ま、それはそうだけど」
み「そんなら、行きまっせ。
入ったら、腹の底から声を出して……。
“たのもう!”って、言ってくだせい」
律「何でよ!
そんなら、あんた言いなさいよ」
み「わたしは、シャイじゃで」
律「どこが。
ほら、早く入りなさい」
み「け、蹴るな!」
寺「いらっしゃいませ。
何か……」
み「ちと、ものをお尋ねし申す」
律「何でそんな口調になるのよ」
み「あがっておるのだ」
み「丁寧語が苦手なの!」
↑中国卓球の丁寧選手。美人ですよね。
律「普段、ぞんざいな言葉を使ってるからよ」
み「人のこと言えないだろ!」
寺「あの。
ご祈祷でしたら、本日の受付は終了してしまいましたが」
↑いろいろ興味深いです。先祖代々がお得なんでないの?
み「そいつは残念。
この女を地獄に落とす祈祷をお願いしたかったのじゃが」
寺「そういう祈祷は、お受けしかねます」
律「バカなこと言ってるんじゃないわよ。
ご迷惑でしょ。
すみません。
わたしたち、宿坊って言うんですか?
そういう施設に泊まることになってるみたいで」
寺「ご予約なされましたか?」
律「はい。
この人が、勝手に。
そういう所って、お坊さんじゃなくても泊まれるんですか?」
寺「はい。
どなたでも、お泊まりいただけます」
律「あの。
どういう所なんでしょう?
本堂の板の間で寝るとかは……」
↑何の画像か不明。
み「違うと言ったろ」
律「あんたの言うことは信用できないから」
寺「大丈夫でございます。
施設的には、旅館と変わりありません。
ただ、お寺の宿坊になりますから……。
いろいろと、決まり事もございます。
フロントで、ご案内文をお渡ししますので、そちらをご覧下さい。
17時までにチェックインしていただく必要がございます。
わたしから電話をしておきますので、このままフロントへおいで下さい。
そちら、この寺務所の脇から、宿坊の方に進めますので。
すぐにわかります。
大きい建物ですから。
どうぞ」