2018.3.17(土)
婆「途中で冷水を飲んだであろう。
何杯飲んだ?」
み「大盛り2杯」
婆「20年若返りますぞ。
800円など安いものじゃ」
み「強弁ですな」
↑これは早弁。
婆「早く払いなされ」
み「へいへい。
しかし、小中学生、200円だって。
子供連れで来るやつがいるのかね?」
婆「亡くなった子の兄弟を連れて、お参りする人もおられるのじゃ」
み「兄さんは水子でしたとか?」
婆「そういうケースもあるじゃろな」
律「連れて来られた子は、記憶に残るでしょうね」
婆「よい経験です」
み「ところで、あなた、イタコですか?」
婆「そう見えるか?」
み「イタコの実物を見たことはないですが……。
うちにあるフィギュアにそっくりです」
婆「なんのことじゃ?
わたしはスケートなどせんぞ」
み「わたしだって、想像したくないわい!」
↑ペアスケートで大技炸裂。
律「あんた、お弟子にしてもらったら。
口調が似てるんだから」
婆「失格じゃ」
み「即答すな!」
婆「煩悩のカタマリではないか」
み「修業すれば、解脱できるだろ」
↑これは、幽体離脱。
婆「おぬしから煩悩を引いたら、何も残らんわ」
み「し、失敬な!」
婆「大昔の漫才に、そういうツッコミがあったの。
誰だったかいな?
エンタツアチャコか?」
↑右が横山エンタツ。左が花菱アチャコ。2人が並んで掛け合いをする『しゃべくり漫才』は、この人たちが発明した形式です。
み「呼び出して、ここで漫才させてみればいいではないか」
婆「失敬なのは、おまえじゃ。
それに、わたしはイタコではないわ」
み「それは意外な。
それなら、何者ですか?
宗教勧誘なら、お断りです」
↑最近、うちにも来るようになったので、ドアホンを付けました。
婆「わたしは、境内ガイドじゃ」
み「げ。
そんなのがいるんですか。
ひょっとして、ボランティア?」
婆「料金はいただく」
み「取るんかい」
婆「正当な報酬じゃ。
最近は、暇な老人が増えて、ボランディアばやりのようじゃが……」
↑『江戸東京たてもの園』。もちろん、聞くのが好きな人たちもいるわけです。
み「ボランティアに批判的な姿勢は、共感でき申す」
婆「おぬしに共感されると、自説が揺らぐようじゃ」
↑イマイチ、加工が上手くいきませんでした。
み「なんでじゃ!」
婆「とにかく、人様がお金をいただいてやってる仕事は……。
ぜったいに、タダでやってはいかん。
その人の仕事を奪うことになるからじゃ」
律「おいくらなんです?」
婆「3,000円じゃな」
↑回転寿司屋ではありません。
み「所用時間は?」
婆「ほぼ1時間」
み「時給3,000円かよ。
ボロい商売ではないか。
で、観光客に声かけて、ガイドをするわけですか?
キャッチセールスでんがな」
婆「馬鹿もん。
そんな営業はしとらんわ。
バスを降りたところに、ガイド事務所がある」
↑想像図。なぜか、ガイド事務所の画像が見当たりません。怪しい……。
婆「そこに申し込むのじゃ。
事前予約が必要じゃ」
み「それじゃ、なぜに善良なわたしらに声を掛けたんじゃ?」
婆「こちらのオナゴさんは、立派な真人間じゃ」
律「わかる人にはわかるものね」
み「わたしは、真人間じゃないと云うのけ?」
婆「邪悪なオーラが、硫黄臭のように立ちのぼっておるわ」
律「そう言えば、さっきから臭いわね。
卵が腐ったみたいな……」
婆「それは、このオナゴのハラワタが腐ってる臭いじゃ」
み「なんでじゃ!」
婆「おぬしのような輩が、わけもわからず歩き回ったら……。
お山の運気が乱れる。
よって、わしが案内してやろうというのじゃ」
み「3,000円でか?
積極的にお断りじゃ」
婆「有料ガイドは、事前予約制だと言ったろうが。
今日は秋の例大祭で、みなさん早くから来られておる」
↑これぞ商魂。
婆「本日の予約客は、もう案内が終わっておるわ。
で、早じまいして帰ろうと思ってたところに……。
タダで総門をくぐろうとする、邪悪な輩が目に入った。
で、声をかけたわけじゃ」
み「で、キャッチセールスを?」
婆「違うと言うておる。
わからんオナゴじゃ。
今日は特別、タダで案内してやろうと言うのじゃ」
み「怪しさ、100万馬力」
婆「なんじゃそれは?」
み「今、思いつき申した」
婆「その口調、なんとかならんか」
↑鹿児島の芋焼酎です。
み「おぬしも一緒だろ!」
律「お願いしましょうよ。
あんたと歩いてて、ヘンなところに迷いこんだらイヤだわ」
婆「このオナゴは、必ずや地獄に迷いこむ」
↑もちろん合成ですが、わたしが作ったものではありません。
み「やかましわ!」
婆「ほれ、行くぞ」
み「ほんまにタダなんだろうな。
後で請求したりしたら、『アディーレ法律事務所』に相談するぞ」
婆「なんじゃ、それは?」
み「過払い金請求のCMで見た」
婆「それは、サラ金の利息の話ではないか。
ほれ、いくぞ」
↑『総門』です。関係ありませんが、高橋克彦の『総門谷 (そうもんだに) 』は面白いです。
み「おー、立派な門を潜ったと思ったら……。
先にまた門があるな」
み「しかし、妙に新しいんでないの。
色が派手だし」
婆「あれが、『山門』じゃ。
1989年に建立されておる」
み「さっき潜ったのは?」
婆「『総門』じゃ」
み「どうでもいいけど……。
あんた、おならしました?」
↑スカッドミサイルではありません。
婆「山門前でそんなことをしたら、尻が腐るぞ」
↑カルシウムが不足するとなるそうです。石灰で補いましょう。
み「怪しい臭いが立ちこめておる」
↑岩崎宏美『二重唱(デュエット)』
婆「これは、硫黄の臭いじゃ」
↑北海道『硫黄山(アトサヌプリ)』
み「異様な臭い?」
婆「それは、おぬしの脳が腐った臭いじゃろ」
み「好戦的ですな。
北朝鮮ですか」
↑北朝鮮の国営メディアが放送した映像。
婆「まず、基本的なことから教えねばならんようじゃ。
よいか。
恐山というのは、火山なんじゃ。
この臭いは、火山ガスの臭いじゃ」
み「おぉ、火山は大好物ですじゃ」
↑『火山のしくみ (しかけえほん)』
み「しかし、恐山が火山だったとは知らなんだ」
婆「周りを見てみなされ。
山に囲まれておるじゃろ。
大好物なら、こういう山を何というか、わかるか?」
み「もちのろん。
豊山じゃ」
↑初代『豊山(大関)』。長身で美男、大卒。女性に圧倒的人気だったそうです。
婆「アホか」
み「冗談じゃ。
いちおう、ボケておかんとな」
婆「なんで、そんな必要があるんじゃ?」
み「行稼ぎでんがな」
婆「言ってることがさっぱりわからん。
こういう山のことを……」
み「待てい」
み「これからわたしが答えるんではないか」
婆「まさか、“山”のつく相撲取りを全部あげるつもりじゃなかろうな?」
↑新潟県出身。最高位は関脇。輪島に7勝、北の湖に8勝、三重ノ海に13勝、貴ノ花に16勝。三賞受賞8回。金星6個。
み「そんなもん調べてたら、行稼ぎより時間がかかってしまうわ」
婆「言うてることが、さっぱりわからん。
このオナゴ、大丈夫かの?」
律「いちおう人語は解しますし、凶暴性もありません」
↑猿と思われます。
み「いらんこと言わんでもいい。
このように、中央部の窪地を取り巻いて並ぶ山は、まさしく外輪山ではないか」
↑『恐山菩提寺』とあるのが、今、3人がいる場所です。
婆「ほー。
これは、意外千万じゃ。
猿がしゃべったより驚いた」
↑犬もしゃべった。
み「やかましい。
ついでに言えば、この外輪山に囲まれた窪地は……。
まさしく、カルデラ」
み「霊場恐山は、陥没カルデラのほとりにあるわけじゃな」
婆「ふむ。
ただの猿ではないな」
↑映画『2001年宇宙の旅』。
み「人じゃ!
見ればわかるじゃろ。
おぬしの方が、よっぽど猿に近いわ。
鏡を見たことが無いのか!」
↑イタコフィギュアのアップです。
婆「戦闘的じゃな」
↑もちろん、マイクタイソンです。相手の人、ほっぺたが凹んでますよ。
み「だれのせいじゃ!
本来は、平和をこよなく愛する一市民である」
↑麻雀の役名のようです。さっぱりわかりません。
律「恐山って、どの山のことなんです?」
婆「恐山という名の山はない」
律「どうして?」
婆「この地は、もともと、アイヌの言葉で、“うしょろ”と呼ばれた。
“窪んだところ”を意味する言葉じゃ。
まさしく、この陥没カルデラを、そう呼んだわけじゃ。
それがやがて“うそり”に転じ、漢字で『宇曾利』と表記された。
その『宇曾利山(うそりやま)』が、下北訛りで変化し、“おそれやま”となり……。
いつしか、漢字の表記も『恐山』となったわけじゃ」
み「異様に詳しいですな」
婆「ガイドだと言ったであろう。
3,000円もいただいて、いい加減な案内は出来んわ。
『ブラタモリ』が来るときは、案内人に立候補するつもりじゃ」
↑『熱海編』に登場した松田法子さん(京都府立大学講師)は美人でした。
み「おー。
そりは面白い。
ぜったいにコルトレーンのネタが出るぞ」
↑ジョン・コルトレーン(1926~1967)。サックスプレーヤー。モダンジャズの巨人。
婆「なんじゃそりゃ?」
み「知らんのか?
昔、ジャズミュージシャンが、恐山に遊びに来て……。
イタコの口寄せを頼んだ。
コルトレーンを呼び出してくれとな。
イタコは承知し、やがてコルトレーンの霊が降りた。
しかし……。
なぜか、コルトレーンは青森弁をしゃべったのじゃ」
み「ミュージシャンが、『なぜ青森弁をしゃべるのか』と聞くと……。
コルトレーンの霊は、その場に泣き伏し、『聞くな!』と叫んだという」
婆「バチあたりめ」
み「ジャズミュージシャンなんてのは、そういうものです」
婆「何の話をしていたか忘れたではないか」
律「この人としゃべってると、いつもそうなんですよ」
婆「恐るべきやつ」
み「恐れ入ったか」
婆「褒めておらんわ!
とにかく、総門を入ったところで、こんなに長々としゃべったのは初めてじゃ。
この調子で言ったら、周り終わるころには、明日の朝になってしまう。
ほれ、行きますぞ」
み「お!
さっそく、怪しい人だかり……。
もしかして。
やっぱり、そうじゃ!」
律「すごい、わかりやすい看板ね」
↑まさか、これほどとは……。
み「午後なのに、まだこんなに並んでるぞ。
夕方までに終わるのか?」
婆「終わらん場合もあるじゃろな。
それもまた、縁(えにし)じゃ」
↑何度も書きましたが、このフィギュア、持ってます。わたしの寝てる頭上の鴨居におられます。
律「どんな人が並んでるのかしらね?」
婆「まさしく、様々じゃな」
み「1回、いくらなんです?」
婆「おぬしは、常に金の話じゃな。
1人下ろすのに、5,000円じゃ」
↑イタコではありません。
み「1人って……。
何人も下ろす輩がいるのきゃ?」
婆「めったに来れない人は、そういうこともあるじゃろ」
律「みんながみんな、納得して帰るのかしら?」
婆「そういうわけにはいかん。
インチキだと騒ぎ出す客もおる。
特に、欲が絡むとな」
律「どんなケースなんです?」
婆「相続問題じゃよ。
遺言を残さずに、ぽっくり逝ってしまう人があるじゃろ。
その子供が相続でもめて、兄弟姉妹揃ってやってくる」
律「ひょっとして、故人を呼び出して?」
婆「左様じゃ。
故人に決めてもらおうと言うわけじゃ」
↑背後霊だそうです。多過ぎます。
み「馬鹿馬鹿しい」
婆「本人たちは、いたって大真面目じゃ。
話し合っても、ぜったいに解決しないからの」
み「裁判にすればいいのに」
↑トイレに行きたくなりそうです。
婆「金がかかるじゃろ。
イタコなら5,000円じゃ」
み「納得しない方が、裁判にするんだな。
てことは、5,000円は、納得した方が払うのか?」
婆「ま、そうするしかあるまい」
↑何かに包むべきでしょうか? でも、金額がわからなくちゃいけませんよね。
み「領収書、出るのか?」
↑北海道では、香典に領収書が出るそうです。受付で香典袋がバリバリと開けられ、金額を確認の上、その場で発行されるようです。
婆「出るわけなかろ」
み「イタコは、収入を申告してるのか?」
婆「お主は、税務署か?」
み「1日見張ってれば、何人、客が出入りしてるかわかる」
み「概算で収入ははじけるぞ」
律「1人で何人も下ろす人がいるんでしょ?」
み「下ろすって、中絶みたいではないか」
↑遺伝性疾患やハンセン病、精神障害などを理由に不妊手術や中絶を認めた法律。約16,500人が、同意なく不妊手術を施されました。1996(平成8年)年、『母体保護法』に改正され、優生手術の規定は廃止されました。
み「ま、そのあたりは、頭数の計算でいいんじゃないの。
2人組なら、2人下ろすとかで」
婆「そんな計算して何になるんじゃ?」
み「適正な申告をしてるか、チェックするに決まっておる。
税務署は、検分に来ないのか?」
↑これは、太閤検地。ぜんぜん違いますね。
み「怠慢ではないか」
婆「そんな検分をしようと思ったら、納税者1人に税務署員1人が張りつかねばならんじゃろ」
み「かくして、納税を逃れる輩が後を絶たん。
サラリーマンが、一番バカを見るのだ」
↑ぜってー無理。
婆「お主も、誰か呼び出すのか?
そうとう、待たにゃならんぞ」
み「肉親で、呼んでほしい者はおらんな。
今更会っても、仕方なかろ。
あ、小説の登場人物なら、いる。
架空の人物でも、呼び出せるのかな?」
律「出せたらヘンでしょ」
み「ていうか、あんたも架空の人物でんがな」
律「誰を呼び出すのよ?」
み「女教師」
↑やや近いイメージ。
み「前半の主役と云ってもいい役割じゃったが……。
とうとう、名前も付けなかった。
で、あっさり交通事故死」
↑たぶん、こんな車。
律「恨んでるんじゃないの?」
↑ポルトガルのファチマ聖母像の写真から、大量の血の涙が流れたとか。
み「逆恨みだろ!」
律「じゃ、なんで呼び出すのよ?」
み「ま、いちおう、礼をいいたいのがひとつじゃ。
こやつのおかげで、小説が書けるようになったと云っても過言じゃないからな」
律「架空の人物なんか、断られるに決まってるわよ」
み「言わなきゃいいだろ。
知り合いで、交通事故死した女教師を下ろしてくれって言えば」
婆「名前と命日を聞かれますぞ」
↑遺骨を肌身に(ペットのです)。
み「あ、そうなの?」
律「当たり前でしょ。
星占いでも聞かれるわよ」
↑あなたも占い師に!
み「星占いで命日を聞いてどうする!
生きた人間が行けんではないか!
星占いは、生年月日だろ」
婆「下らんこと言っとらんで、いったいどうするんじゃ?
列に並ぶんなら、わしはここでお役御免じゃ。
付き合ってたら、何時になるかわからんでな。
早上がりして、一杯やるわ」
み「マムシ酒か?」
↑一番怖い生き物は、やっぱり人間だと思います。
婆「なんでじゃ?」
み「三途の川で取れるのであろう?
看板で見たぞ」
婆「何でわしが、三途の川で蛇取りをしなきゃならんのだ」
み「明らかに、マムシより強そうですが」
婆「やかましいわ。
早く決めなされ。
並ぶのか?」
み「ま、止めときましょう。
列に並ぶのは、何よりも苦手じゃからな」
↑ランチの行列。信じられません。昼休みが短くなってしまいます。
み「どうせ、当たり障りのない曖昧なことしか言わんのだろ?」
婆「そうとは限らんぞ。
まったくの出まかせばっかりじゃったら……。
そのうち誰も来なくなるはずじゃ。
これだけの人が並び続けるということは……。
それなりの口コミがあるからじゃろ」
↑川越市『喜多院(川越大師)』の五百羅漢。
み「ほー。
何か、事例を知ってそうじゃな?」
婆「そういう事例を喧伝する気はさらさらないが……。
お主のような罰当たりを前にすると、少しばかり披瀝したい気にもなる」
み「聞き賃は払わんぞ」
↑実際、売ってます(こちら)。こんなの着て、お店に入れんでしょう。
婆「お主は、すぐ金の話になるな。
もちろん、金など取らん。
その代わり、そこら中で喋ったりするなよ」
律「大丈夫ですよ。
この人、聞いた話なんか、右から左で忘れますから」
婆「それはそれで、喋り甲斐がないのぅ」
み「もったいぶってないで、早く喋れ!」
婆「以前、カナダ人の金持ちが、観光でここに立ち寄った」
み「いきなりうさんくさいな。
なんで、いきなりカナダ人なんじゃ?
ヘンじゃろ」
婆「ヘンも何も、事実じゃから仕方あるまい。
これが、リアリズムというものじゃ」
↑『鯵ヶ沢(青森県)』の商人宿を舞台にした、つげ義春の名作。
婆「黙って聞きなされ。
女性通訳を引き連れた大名旅で、恐山までやって来た」
↑なぜか徒歩の大名。
婆「硫黄の臭いに鼻を摘まみながら……。
通訳に向かって、『おまえ、何を食った?』などとからかいながら上機嫌じゃった」
み「とんでもないセクハラ親父ではないか」
婆「で、イタコの小屋を見つけたわけじゃ。
いったい何の行列か通訳に尋ね、『死者の霊を呼び出す』と聞いた彼は……。
自分もやってもらうと言い出し、列に並んだ」
↑めげる風景です。黒服の人たちは何なんでしょう? 法事から直行ですかね?
婆「もちろん、『霊を呼び出す』などということを信じたわけではなく……。
バカ話のネタになると思ってのことじゃ。
3時間も待って、ようやくカナダ人の番になった。
しかし、女性通訳はカナダ人で、日本語の標準語はできるが、下北弁はまったくわからん」
婆「急遽、並んでた1人の日本人女性に、『下北弁⇔標準語』の通訳をしてもらい、降霊が始まった。
カナダ人はニヤニヤ笑いながら、自分の母親を下ろしてくれと告げた。
しばらくして、降霊が終わった。
小屋から出て来たカナダ人は……。
号泣しておったそうじゃ」
婆「『あのおばあさん(イタコ)は、ボクのママに違いない。
ボクの生まれた家の間取りを知っていたんだ』」
婆「『しかも、ボクとママが、家に2人だけでいたときに起きた出来事も知っていた』」
↑オードリー・ヘップバーンと息子のショーン。
婆「『ママ、ママ』。
カナダ人は小屋の外の地面に座りこみ、しばらく泣き止まなかったと云う」
婆「どうなされた?
しーんとしてしまったの」
↑ホラー映画を鑑賞する猫だそうです。
律「……。
ほんとの話なんですか?」
婆「聞いた話じゃ」
み「お主のネタではなかろうな?」
婆「聞いた話を、聞いたままに伝えておる。
ほかにも、こんな話があるぞ」
み「今度は、アメリカ人か?」
婆「日本人じゃ。
長年、姑さんの介護をして、前年にようやく看取った人がやって来た」
↑懐かしや、『Mikiko's Room』の仮設テント。
婆「懸命に尽くしたつもりだったが……。
ほんとうは、自分の介護をどう思っていたのか……。
不満はなかったのか、知りたかったそうじゃ。
というのも、姑さんの晩年は認知症が進んで……。
介護するお嫁さんの顔も認識できなくなっておったからじゃ。
最後のころは、朝から晩まで……。
同じ歌の同じフレーズを、繰り返し口ずさみ続けておったと云う。
壊れたレコードみたいにな」
婆「しかも、その歌というのが、民謡でも懐メロでもない。
そのとき流行ってた、アイドルの曲だったそうじゃ」
↑イメージです。この曲という意味ではありません(以下の画像も同じ)。
婆「お嫁さんは……。
姑さんが亡くなった後も、そのフレーズが耳から離れなかったと云う」
婆「もちろんイタコには、そんな話はしなかった。
で、降霊が始まった。
イタコは、ゆっくりと身を揺らしながら、深いところへ潜っていった。
『お母さん?』
お嫁さんが呼びかける。
『お母さんですか?』
イタコの口がほころぶと……」
婆「ゆっくりと、耳に馴染んだフレーズが、零れ出た。
それはまさしく、姑が晩年、毎日口ずさんでいた、あのアイドルの曲じゃった。
婆「どうなされた?
また、しーんとなってもうて」
律「ほんとうの話なんですか?」
婆「これも聞いた話じゃ。
しかし、脚色はしておらんぞ。
歌を一節歌い終わると、イタコは嫁さんを見てにっこりと笑い……。
『ありがとう』と言ったそうじゃ。
嫁さんは、身を揉みながら、その場に泣き伏したと云う」
み「ネ、ネタじゃろ?」
婆「脚色はしておらんと言っておる」
ここで注釈。
カナダ人とアイドル曲の話。
実は、パクりです。
原典は、↓こちら。
著者の南直哉(じきさい)さんは……。
早稲田大学第一文学部卒業後、大手百貨店勤務を経て、1984(昭和59)年に曹洞宗で出家得度。
永平寺で20年の修業の後、『恐山菩提寺』の院代(住職代理)となられた方です。
上記の『恐山 死者のいる場所』は、とても読みやすい文章で、大いに啓蒙されました。
なお、わたしのパクリ文には、ちょっとばかり脚色があることをお断りしておきます。
婆「どうするんじゃ?
並ぶのか、並ばんのか?」
み「やめ申す」
婆「即答じゃな」
み「死者と向き合う覚悟がない人間が……。
興味本位でやるべきことではない」
婆「突然、まともなことを言うではないか」
律「早い話、怖くなったのよね」
み「いらん道草を食ってしまった。
ほれ、行くぞ」
律「そんな早歩きしなくてもいいでしょ」
婆「一刻も早く、この場を立ち去りたいようじゃな」
み「おー、また立派な門があるぞ。
バカに新しいな」
婆「1989(平成元)年に建立された山門じゃ」
み「バブルの真っ盛りではないか。
土地転がしで儲けたか?」
↑『歌う不動産王』と呼ばれましたが……。バブル崩壊で、3,000億円の借金を背負ったそうです。
婆「バカなことを言うではない。
罰が当たりますぞ」
み「さっき、金取られたのが総門で……。
これが、山門か。
どう違うんじゃ?」
婆「山門と云うのは、まさしく仏教寺院の正門じゃよ」
み「ここでも、金取るんじゃなかろうな?」
婆「取らんわい。
仁王さまに叱られますぞ」
律「あ、左右の両端に立ってるのが仁王さまですね?」
婆「左様じゃ。
故に、仁王門とも呼ばれておる」
み「なるほど。
そういう洒落か」
↑1本どころか、何千本も取られてますよ。つるっぱげでんがな。
婆「何が洒落なんじゃ?」
み「さっきから、異様な臭いがしてるではないか」
婆「異様ではなく、硫黄の臭いじゃ」
み「おなら、し放題じゃな。
何発、スカしてもバレんよな」
↑こんなのをすれば、バレます。
婆「罰あたりめ。
さっきのカナダ人と同レベルではないか」
み「すなわち、臭うから仁王門……」
み「じゃろ?」
婆「そんなわけがあるか」
律「2階も立派ですね」
婆「あそこには、五百羅漢像が納められておる」
↑石見銀山(島根県大田市)の『羅漢寺』にある五百羅漢。
み「登れるのか?」
婆「ダメじゃ」
み「なんじゃつまらん。
ま、見てもしょうがないけどな。
おー、一応、車椅子用のスロープもあるではないか」
み「デイサービスで、レクに来れるな」
律「洒落にならないんじゃないの」
み「ははは。
それじゃ、潜らせてもらいまひょか。
はいよ。
ごめんなすって。
ちょっくらごめんなすって」
↑誰だか不明。カーリング選手に美人が多いのはなぜなんですかね?
婆「一緒に歩いてると、恥ずかしくなってくるわ」
律「そうなんですよ、ほんとに」
婆「これじゃな?」
何杯飲んだ?」
み「大盛り2杯」
婆「20年若返りますぞ。
800円など安いものじゃ」
み「強弁ですな」
↑これは早弁。
婆「早く払いなされ」
み「へいへい。
しかし、小中学生、200円だって。
子供連れで来るやつがいるのかね?」
婆「亡くなった子の兄弟を連れて、お参りする人もおられるのじゃ」
み「兄さんは水子でしたとか?」
婆「そういうケースもあるじゃろな」
律「連れて来られた子は、記憶に残るでしょうね」
婆「よい経験です」
み「ところで、あなた、イタコですか?」
婆「そう見えるか?」
み「イタコの実物を見たことはないですが……。
うちにあるフィギュアにそっくりです」
婆「なんのことじゃ?
わたしはスケートなどせんぞ」
み「わたしだって、想像したくないわい!」
↑ペアスケートで大技炸裂。
律「あんた、お弟子にしてもらったら。
口調が似てるんだから」
婆「失格じゃ」
み「即答すな!」
婆「煩悩のカタマリではないか」
み「修業すれば、解脱できるだろ」
↑これは、幽体離脱。
婆「おぬしから煩悩を引いたら、何も残らんわ」
み「し、失敬な!」
婆「大昔の漫才に、そういうツッコミがあったの。
誰だったかいな?
エンタツアチャコか?」
↑右が横山エンタツ。左が花菱アチャコ。2人が並んで掛け合いをする『しゃべくり漫才』は、この人たちが発明した形式です。
み「呼び出して、ここで漫才させてみればいいではないか」
婆「失敬なのは、おまえじゃ。
それに、わたしはイタコではないわ」
み「それは意外な。
それなら、何者ですか?
宗教勧誘なら、お断りです」
↑最近、うちにも来るようになったので、ドアホンを付けました。
婆「わたしは、境内ガイドじゃ」
み「げ。
そんなのがいるんですか。
ひょっとして、ボランティア?」
婆「料金はいただく」
み「取るんかい」
婆「正当な報酬じゃ。
最近は、暇な老人が増えて、ボランディアばやりのようじゃが……」
↑『江戸東京たてもの園』。もちろん、聞くのが好きな人たちもいるわけです。
み「ボランティアに批判的な姿勢は、共感でき申す」
婆「おぬしに共感されると、自説が揺らぐようじゃ」
↑イマイチ、加工が上手くいきませんでした。
み「なんでじゃ!」
婆「とにかく、人様がお金をいただいてやってる仕事は……。
ぜったいに、タダでやってはいかん。
その人の仕事を奪うことになるからじゃ」
律「おいくらなんです?」
婆「3,000円じゃな」
↑回転寿司屋ではありません。
み「所用時間は?」
婆「ほぼ1時間」
み「時給3,000円かよ。
ボロい商売ではないか。
で、観光客に声かけて、ガイドをするわけですか?
キャッチセールスでんがな」
婆「馬鹿もん。
そんな営業はしとらんわ。
バスを降りたところに、ガイド事務所がある」
↑想像図。なぜか、ガイド事務所の画像が見当たりません。怪しい……。
婆「そこに申し込むのじゃ。
事前予約が必要じゃ」
み「それじゃ、なぜに善良なわたしらに声を掛けたんじゃ?」
婆「こちらのオナゴさんは、立派な真人間じゃ」
律「わかる人にはわかるものね」
み「わたしは、真人間じゃないと云うのけ?」
婆「邪悪なオーラが、硫黄臭のように立ちのぼっておるわ」
律「そう言えば、さっきから臭いわね。
卵が腐ったみたいな……」
婆「それは、このオナゴのハラワタが腐ってる臭いじゃ」
み「なんでじゃ!」
婆「おぬしのような輩が、わけもわからず歩き回ったら……。
お山の運気が乱れる。
よって、わしが案内してやろうというのじゃ」
み「3,000円でか?
積極的にお断りじゃ」
婆「有料ガイドは、事前予約制だと言ったろうが。
今日は秋の例大祭で、みなさん早くから来られておる」
↑これぞ商魂。
婆「本日の予約客は、もう案内が終わっておるわ。
で、早じまいして帰ろうと思ってたところに……。
タダで総門をくぐろうとする、邪悪な輩が目に入った。
で、声をかけたわけじゃ」
み「で、キャッチセールスを?」
婆「違うと言うておる。
わからんオナゴじゃ。
今日は特別、タダで案内してやろうと言うのじゃ」
み「怪しさ、100万馬力」
婆「なんじゃそれは?」
み「今、思いつき申した」
婆「その口調、なんとかならんか」
↑鹿児島の芋焼酎です。
み「おぬしも一緒だろ!」
律「お願いしましょうよ。
あんたと歩いてて、ヘンなところに迷いこんだらイヤだわ」
婆「このオナゴは、必ずや地獄に迷いこむ」
↑もちろん合成ですが、わたしが作ったものではありません。
み「やかましわ!」
婆「ほれ、行くぞ」
み「ほんまにタダなんだろうな。
後で請求したりしたら、『アディーレ法律事務所』に相談するぞ」
婆「なんじゃ、それは?」
み「過払い金請求のCMで見た」
婆「それは、サラ金の利息の話ではないか。
ほれ、いくぞ」
↑『総門』です。関係ありませんが、高橋克彦の『総門谷 (そうもんだに) 』は面白いです。
み「おー、立派な門を潜ったと思ったら……。
先にまた門があるな」
み「しかし、妙に新しいんでないの。
色が派手だし」
婆「あれが、『山門』じゃ。
1989年に建立されておる」
み「さっき潜ったのは?」
婆「『総門』じゃ」
み「どうでもいいけど……。
あんた、おならしました?」
↑スカッドミサイルではありません。
婆「山門前でそんなことをしたら、尻が腐るぞ」
↑カルシウムが不足するとなるそうです。石灰で補いましょう。
み「怪しい臭いが立ちこめておる」
↑岩崎宏美『二重唱(デュエット)』
婆「これは、硫黄の臭いじゃ」
↑北海道『硫黄山(アトサヌプリ)』
み「異様な臭い?」
婆「それは、おぬしの脳が腐った臭いじゃろ」
み「好戦的ですな。
北朝鮮ですか」
↑北朝鮮の国営メディアが放送した映像。
婆「まず、基本的なことから教えねばならんようじゃ。
よいか。
恐山というのは、火山なんじゃ。
この臭いは、火山ガスの臭いじゃ」
み「おぉ、火山は大好物ですじゃ」
↑『火山のしくみ (しかけえほん)』
み「しかし、恐山が火山だったとは知らなんだ」
婆「周りを見てみなされ。
山に囲まれておるじゃろ。
大好物なら、こういう山を何というか、わかるか?」
み「もちのろん。
豊山じゃ」
↑初代『豊山(大関)』。長身で美男、大卒。女性に圧倒的人気だったそうです。
婆「アホか」
み「冗談じゃ。
いちおう、ボケておかんとな」
婆「なんで、そんな必要があるんじゃ?」
み「行稼ぎでんがな」
婆「言ってることがさっぱりわからん。
こういう山のことを……」
み「待てい」
み「これからわたしが答えるんではないか」
婆「まさか、“山”のつく相撲取りを全部あげるつもりじゃなかろうな?」
↑新潟県出身。最高位は関脇。輪島に7勝、北の湖に8勝、三重ノ海に13勝、貴ノ花に16勝。三賞受賞8回。金星6個。
み「そんなもん調べてたら、行稼ぎより時間がかかってしまうわ」
婆「言うてることが、さっぱりわからん。
このオナゴ、大丈夫かの?」
律「いちおう人語は解しますし、凶暴性もありません」
↑猿と思われます。
み「いらんこと言わんでもいい。
このように、中央部の窪地を取り巻いて並ぶ山は、まさしく外輪山ではないか」
↑『恐山菩提寺』とあるのが、今、3人がいる場所です。
婆「ほー。
これは、意外千万じゃ。
猿がしゃべったより驚いた」
↑犬もしゃべった。
み「やかましい。
ついでに言えば、この外輪山に囲まれた窪地は……。
まさしく、カルデラ」
み「霊場恐山は、陥没カルデラのほとりにあるわけじゃな」
婆「ふむ。
ただの猿ではないな」
↑映画『2001年宇宙の旅』。
み「人じゃ!
見ればわかるじゃろ。
おぬしの方が、よっぽど猿に近いわ。
鏡を見たことが無いのか!」
↑イタコフィギュアのアップです。
婆「戦闘的じゃな」
↑もちろん、マイクタイソンです。相手の人、ほっぺたが凹んでますよ。
み「だれのせいじゃ!
本来は、平和をこよなく愛する一市民である」
↑麻雀の役名のようです。さっぱりわかりません。
律「恐山って、どの山のことなんです?」
婆「恐山という名の山はない」
律「どうして?」
婆「この地は、もともと、アイヌの言葉で、“うしょろ”と呼ばれた。
“窪んだところ”を意味する言葉じゃ。
まさしく、この陥没カルデラを、そう呼んだわけじゃ。
それがやがて“うそり”に転じ、漢字で『宇曾利』と表記された。
その『宇曾利山(うそりやま)』が、下北訛りで変化し、“おそれやま”となり……。
いつしか、漢字の表記も『恐山』となったわけじゃ」
み「異様に詳しいですな」
婆「ガイドだと言ったであろう。
3,000円もいただいて、いい加減な案内は出来んわ。
『ブラタモリ』が来るときは、案内人に立候補するつもりじゃ」
↑『熱海編』に登場した松田法子さん(京都府立大学講師)は美人でした。
み「おー。
そりは面白い。
ぜったいにコルトレーンのネタが出るぞ」
↑ジョン・コルトレーン(1926~1967)。サックスプレーヤー。モダンジャズの巨人。
婆「なんじゃそりゃ?」
み「知らんのか?
昔、ジャズミュージシャンが、恐山に遊びに来て……。
イタコの口寄せを頼んだ。
コルトレーンを呼び出してくれとな。
イタコは承知し、やがてコルトレーンの霊が降りた。
しかし……。
なぜか、コルトレーンは青森弁をしゃべったのじゃ」
み「ミュージシャンが、『なぜ青森弁をしゃべるのか』と聞くと……。
コルトレーンの霊は、その場に泣き伏し、『聞くな!』と叫んだという」
婆「バチあたりめ」
み「ジャズミュージシャンなんてのは、そういうものです」
婆「何の話をしていたか忘れたではないか」
律「この人としゃべってると、いつもそうなんですよ」
婆「恐るべきやつ」
み「恐れ入ったか」
婆「褒めておらんわ!
とにかく、総門を入ったところで、こんなに長々としゃべったのは初めてじゃ。
この調子で言ったら、周り終わるころには、明日の朝になってしまう。
ほれ、行きますぞ」
み「お!
さっそく、怪しい人だかり……。
もしかして。
やっぱり、そうじゃ!」
律「すごい、わかりやすい看板ね」
↑まさか、これほどとは……。
み「午後なのに、まだこんなに並んでるぞ。
夕方までに終わるのか?」
婆「終わらん場合もあるじゃろな。
それもまた、縁(えにし)じゃ」
↑何度も書きましたが、このフィギュア、持ってます。わたしの寝てる頭上の鴨居におられます。
律「どんな人が並んでるのかしらね?」
婆「まさしく、様々じゃな」
み「1回、いくらなんです?」
婆「おぬしは、常に金の話じゃな。
1人下ろすのに、5,000円じゃ」
↑イタコではありません。
み「1人って……。
何人も下ろす輩がいるのきゃ?」
婆「めったに来れない人は、そういうこともあるじゃろ」
律「みんながみんな、納得して帰るのかしら?」
婆「そういうわけにはいかん。
インチキだと騒ぎ出す客もおる。
特に、欲が絡むとな」
律「どんなケースなんです?」
婆「相続問題じゃよ。
遺言を残さずに、ぽっくり逝ってしまう人があるじゃろ。
その子供が相続でもめて、兄弟姉妹揃ってやってくる」
律「ひょっとして、故人を呼び出して?」
婆「左様じゃ。
故人に決めてもらおうと言うわけじゃ」
↑背後霊だそうです。多過ぎます。
み「馬鹿馬鹿しい」
婆「本人たちは、いたって大真面目じゃ。
話し合っても、ぜったいに解決しないからの」
み「裁判にすればいいのに」
↑トイレに行きたくなりそうです。
婆「金がかかるじゃろ。
イタコなら5,000円じゃ」
み「納得しない方が、裁判にするんだな。
てことは、5,000円は、納得した方が払うのか?」
婆「ま、そうするしかあるまい」
↑何かに包むべきでしょうか? でも、金額がわからなくちゃいけませんよね。
み「領収書、出るのか?」
↑北海道では、香典に領収書が出るそうです。受付で香典袋がバリバリと開けられ、金額を確認の上、その場で発行されるようです。
婆「出るわけなかろ」
み「イタコは、収入を申告してるのか?」
婆「お主は、税務署か?」
み「1日見張ってれば、何人、客が出入りしてるかわかる」
み「概算で収入ははじけるぞ」
律「1人で何人も下ろす人がいるんでしょ?」
み「下ろすって、中絶みたいではないか」
↑遺伝性疾患やハンセン病、精神障害などを理由に不妊手術や中絶を認めた法律。約16,500人が、同意なく不妊手術を施されました。1996(平成8年)年、『母体保護法』に改正され、優生手術の規定は廃止されました。
み「ま、そのあたりは、頭数の計算でいいんじゃないの。
2人組なら、2人下ろすとかで」
婆「そんな計算して何になるんじゃ?」
み「適正な申告をしてるか、チェックするに決まっておる。
税務署は、検分に来ないのか?」
↑これは、太閤検地。ぜんぜん違いますね。
み「怠慢ではないか」
婆「そんな検分をしようと思ったら、納税者1人に税務署員1人が張りつかねばならんじゃろ」
み「かくして、納税を逃れる輩が後を絶たん。
サラリーマンが、一番バカを見るのだ」
↑ぜってー無理。
婆「お主も、誰か呼び出すのか?
そうとう、待たにゃならんぞ」
み「肉親で、呼んでほしい者はおらんな。
今更会っても、仕方なかろ。
あ、小説の登場人物なら、いる。
架空の人物でも、呼び出せるのかな?」
律「出せたらヘンでしょ」
み「ていうか、あんたも架空の人物でんがな」
律「誰を呼び出すのよ?」
み「女教師」
↑やや近いイメージ。
み「前半の主役と云ってもいい役割じゃったが……。
とうとう、名前も付けなかった。
で、あっさり交通事故死」
↑たぶん、こんな車。
律「恨んでるんじゃないの?」
↑ポルトガルのファチマ聖母像の写真から、大量の血の涙が流れたとか。
み「逆恨みだろ!」
律「じゃ、なんで呼び出すのよ?」
み「ま、いちおう、礼をいいたいのがひとつじゃ。
こやつのおかげで、小説が書けるようになったと云っても過言じゃないからな」
律「架空の人物なんか、断られるに決まってるわよ」
み「言わなきゃいいだろ。
知り合いで、交通事故死した女教師を下ろしてくれって言えば」
婆「名前と命日を聞かれますぞ」
↑遺骨を肌身に(ペットのです)。
み「あ、そうなの?」
律「当たり前でしょ。
星占いでも聞かれるわよ」
↑あなたも占い師に!
み「星占いで命日を聞いてどうする!
生きた人間が行けんではないか!
星占いは、生年月日だろ」
婆「下らんこと言っとらんで、いったいどうするんじゃ?
列に並ぶんなら、わしはここでお役御免じゃ。
付き合ってたら、何時になるかわからんでな。
早上がりして、一杯やるわ」
み「マムシ酒か?」
↑一番怖い生き物は、やっぱり人間だと思います。
婆「なんでじゃ?」
み「三途の川で取れるのであろう?
看板で見たぞ」
婆「何でわしが、三途の川で蛇取りをしなきゃならんのだ」
み「明らかに、マムシより強そうですが」
婆「やかましいわ。
早く決めなされ。
並ぶのか?」
み「ま、止めときましょう。
列に並ぶのは、何よりも苦手じゃからな」
↑ランチの行列。信じられません。昼休みが短くなってしまいます。
み「どうせ、当たり障りのない曖昧なことしか言わんのだろ?」
婆「そうとは限らんぞ。
まったくの出まかせばっかりじゃったら……。
そのうち誰も来なくなるはずじゃ。
これだけの人が並び続けるということは……。
それなりの口コミがあるからじゃろ」
↑川越市『喜多院(川越大師)』の五百羅漢。
み「ほー。
何か、事例を知ってそうじゃな?」
婆「そういう事例を喧伝する気はさらさらないが……。
お主のような罰当たりを前にすると、少しばかり披瀝したい気にもなる」
み「聞き賃は払わんぞ」
↑実際、売ってます(こちら)。こんなの着て、お店に入れんでしょう。
婆「お主は、すぐ金の話になるな。
もちろん、金など取らん。
その代わり、そこら中で喋ったりするなよ」
律「大丈夫ですよ。
この人、聞いた話なんか、右から左で忘れますから」
手ぬぐい 本染め(注染)【遊美】 馬耳東風 |
婆「それはそれで、喋り甲斐がないのぅ」
み「もったいぶってないで、早く喋れ!」
婆「以前、カナダ人の金持ちが、観光でここに立ち寄った」
み「いきなりうさんくさいな。
なんで、いきなりカナダ人なんじゃ?
ヘンじゃろ」
婆「ヘンも何も、事実じゃから仕方あるまい。
これが、リアリズムというものじゃ」
↑『鯵ヶ沢(青森県)』の商人宿を舞台にした、つげ義春の名作。
婆「黙って聞きなされ。
女性通訳を引き連れた大名旅で、恐山までやって来た」
↑なぜか徒歩の大名。
婆「硫黄の臭いに鼻を摘まみながら……。
通訳に向かって、『おまえ、何を食った?』などとからかいながら上機嫌じゃった」
み「とんでもないセクハラ親父ではないか」
婆「で、イタコの小屋を見つけたわけじゃ。
いったい何の行列か通訳に尋ね、『死者の霊を呼び出す』と聞いた彼は……。
自分もやってもらうと言い出し、列に並んだ」
↑めげる風景です。黒服の人たちは何なんでしょう? 法事から直行ですかね?
婆「もちろん、『霊を呼び出す』などということを信じたわけではなく……。
バカ話のネタになると思ってのことじゃ。
3時間も待って、ようやくカナダ人の番になった。
しかし、女性通訳はカナダ人で、日本語の標準語はできるが、下北弁はまったくわからん」
婆「急遽、並んでた1人の日本人女性に、『下北弁⇔標準語』の通訳をしてもらい、降霊が始まった。
カナダ人はニヤニヤ笑いながら、自分の母親を下ろしてくれと告げた。
しばらくして、降霊が終わった。
小屋から出て来たカナダ人は……。
号泣しておったそうじゃ」
婆「『あのおばあさん(イタコ)は、ボクのママに違いない。
ボクの生まれた家の間取りを知っていたんだ』」
婆「『しかも、ボクとママが、家に2人だけでいたときに起きた出来事も知っていた』」
↑オードリー・ヘップバーンと息子のショーン。
婆「『ママ、ママ』。
カナダ人は小屋の外の地面に座りこみ、しばらく泣き止まなかったと云う」
婆「どうなされた?
しーんとしてしまったの」
↑ホラー映画を鑑賞する猫だそうです。
律「……。
ほんとの話なんですか?」
婆「聞いた話じゃ」
み「お主のネタではなかろうな?」
婆「聞いた話を、聞いたままに伝えておる。
ほかにも、こんな話があるぞ」
み「今度は、アメリカ人か?」
婆「日本人じゃ。
長年、姑さんの介護をして、前年にようやく看取った人がやって来た」
↑懐かしや、『Mikiko's Room』の仮設テント。
婆「懸命に尽くしたつもりだったが……。
ほんとうは、自分の介護をどう思っていたのか……。
不満はなかったのか、知りたかったそうじゃ。
というのも、姑さんの晩年は認知症が進んで……。
介護するお嫁さんの顔も認識できなくなっておったからじゃ。
最後のころは、朝から晩まで……。
同じ歌の同じフレーズを、繰り返し口ずさみ続けておったと云う。
壊れたレコードみたいにな」
婆「しかも、その歌というのが、民謡でも懐メロでもない。
そのとき流行ってた、アイドルの曲だったそうじゃ」
↑イメージです。この曲という意味ではありません(以下の画像も同じ)。
婆「お嫁さんは……。
姑さんが亡くなった後も、そのフレーズが耳から離れなかったと云う」
婆「もちろんイタコには、そんな話はしなかった。
で、降霊が始まった。
イタコは、ゆっくりと身を揺らしながら、深いところへ潜っていった。
『お母さん?』
お嫁さんが呼びかける。
『お母さんですか?』
イタコの口がほころぶと……」
婆「ゆっくりと、耳に馴染んだフレーズが、零れ出た。
それはまさしく、姑が晩年、毎日口ずさんでいた、あのアイドルの曲じゃった。
婆「どうなされた?
また、しーんとなってもうて」
律「ほんとうの話なんですか?」
婆「これも聞いた話じゃ。
しかし、脚色はしておらんぞ。
歌を一節歌い終わると、イタコは嫁さんを見てにっこりと笑い……。
『ありがとう』と言ったそうじゃ。
嫁さんは、身を揉みながら、その場に泣き伏したと云う」
み「ネ、ネタじゃろ?」
婆「脚色はしておらんと言っておる」
ここで注釈。
カナダ人とアイドル曲の話。
実は、パクりです。
原典は、↓こちら。
『恐山 死者のいる場所(新潮新書)』南直哉 |
著者の南直哉(じきさい)さんは……。
早稲田大学第一文学部卒業後、大手百貨店勤務を経て、1984(昭和59)年に曹洞宗で出家得度。
永平寺で20年の修業の後、『恐山菩提寺』の院代(住職代理)となられた方です。
上記の『恐山 死者のいる場所』は、とても読みやすい文章で、大いに啓蒙されました。
なお、わたしのパクリ文には、ちょっとばかり脚色があることをお断りしておきます。
婆「どうするんじゃ?
並ぶのか、並ばんのか?」
み「やめ申す」
婆「即答じゃな」
み「死者と向き合う覚悟がない人間が……。
興味本位でやるべきことではない」
婆「突然、まともなことを言うではないか」
律「早い話、怖くなったのよね」
み「いらん道草を食ってしまった。
ほれ、行くぞ」
律「そんな早歩きしなくてもいいでしょ」
婆「一刻も早く、この場を立ち去りたいようじゃな」
み「おー、また立派な門があるぞ。
バカに新しいな」
婆「1989(平成元)年に建立された山門じゃ」
み「バブルの真っ盛りではないか。
土地転がしで儲けたか?」
↑『歌う不動産王』と呼ばれましたが……。バブル崩壊で、3,000億円の借金を背負ったそうです。
婆「バカなことを言うではない。
罰が当たりますぞ」
み「さっき、金取られたのが総門で……。
これが、山門か。
どう違うんじゃ?」
婆「山門と云うのは、まさしく仏教寺院の正門じゃよ」
み「ここでも、金取るんじゃなかろうな?」
婆「取らんわい。
仁王さまに叱られますぞ」
律「あ、左右の両端に立ってるのが仁王さまですね?」
婆「左様じゃ。
故に、仁王門とも呼ばれておる」
み「なるほど。
そういう洒落か」
↑1本どころか、何千本も取られてますよ。つるっぱげでんがな。
婆「何が洒落なんじゃ?」
み「さっきから、異様な臭いがしてるではないか」
婆「異様ではなく、硫黄の臭いじゃ」
み「おなら、し放題じゃな。
何発、スカしてもバレんよな」
↑こんなのをすれば、バレます。
婆「罰あたりめ。
さっきのカナダ人と同レベルではないか」
み「すなわち、臭うから仁王門……」
み「じゃろ?」
婆「そんなわけがあるか」
律「2階も立派ですね」
婆「あそこには、五百羅漢像が納められておる」
↑石見銀山(島根県大田市)の『羅漢寺』にある五百羅漢。
み「登れるのか?」
婆「ダメじゃ」
み「なんじゃつまらん。
ま、見てもしょうがないけどな。
おー、一応、車椅子用のスロープもあるではないか」
み「デイサービスで、レクに来れるな」
律「洒落にならないんじゃないの」
み「ははは。
それじゃ、潜らせてもらいまひょか。
はいよ。
ごめんなすって。
ちょっくらごめんなすって」
↑誰だか不明。カーリング選手に美人が多いのはなぜなんですかね?
婆「一緒に歩いてると、恥ずかしくなってくるわ」
律「そうなんですよ、ほんとに」
婆「これじゃな?」