Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
東北に行こう!(82)
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食「果肉まで赤いリンゴ、『御所川原』のジュースもお勧めです」
果肉まで赤いリンゴ、『御所川原』のジュースもお勧めです
↑ジュースも真っ赤です。

み「それはぜひ、ウォッカで割って飲みたいものじゃ。
 擦りリンゴも入れると絶品に違いない」
果肉まで赤いリンゴ、『御所川原』のジャムです。皮を剥いてざく切りにし、砂糖を加えて煮ただけで、こんな色合いに仕上がるそうです。
↑こちらは、ジャムです。皮を剥いてざく切りにし、砂糖を加えて煮ただけで、こんな色合いに仕上がるそうです。

食「ウォッカは、置いてないと思います」
み「あらそう」
ポーランドでは、ウォッカのチェイサーとして、りんごジュースを飲むとか。割って飲めばいいのに。
↑ポーランドでは、ウォッカのチェイサーとして、りんごジュースを飲むとか。割って飲めばいいのに。

律「あ、駅に着いたみたいね」
食「はい、『五所川原駅』到着です」
『五所川原駅』到着です

み「確かに、久しぶりに大きい駅だな」
食「五能線で唯一の、終日駅員配置駅ですから」
『五所川原駅』は、五能線で唯一の、終日駅員配置駅ですから
↑線路もいっぱいあります。

み「その唯一ってのがスゴい。
 何分停車?」
食「えーっと、1分ですね」
み「短か」
食「さすがにこれでは、駅弁も買いに降りれません」
み「あのさ。
 『五所川原駅』からって、津軽三味線の奏者が乗ってきて……。
 生演奏が楽しめるんじゃなかった」
スコップ三味線。こんな人たちは乗ってきません。
↑こちらは、スコップ三味線。こんな人たちは乗ってきません。

食「よくご存知ですね。
 3号車のイベントスペースで披露されるはずです」
3号車のイベントスペースで披露されます。これだけ間近で聞くと、迫力あるでしょうね。
↑これだけ間近で聞くと、迫力あるでしょうね。

食「でも、あれは、上りの便だけだったんじゃないかな。
 下りでもやるのかな?」
み「ちょっと、見てきてくれる?
 その人たち、乗って来てるか」
食「あ、いいっすよ」

 食くんは、デブには似合わぬ身軽さで席を立ち、ドアを抜けて行きました。
デブには似合わぬ身軽さで席を立ち、ドアを抜けて行きました

み「先生、早く荷物持って」
律「え?
 どうしたのよ」
み「降りるに決まってるでしょ。
 切符見てないの?
 『五所川原』までになってるでしょ」
『五所川原』までになってるでしょ

律「ちょっと、どうしてもっと早く言わないのよ。
 あの人は、この先も乗って行くんでしょ?」
み「だろうね」
律「挨拶も出来ないじゃない。
 なんで、行かせちゃったのよ」
み「そのスキに降りるために決まっておる」
律「信じられない。
 こんなに仲良くなったのに」
み「情が移った?」
律「当たり前でしょ。
 せめて、お礼くらい言わなきゃ」
み「別れの愁嘆場は、昨日のバスで懲り懲り。
 旅に別れはつきものでしょ。
 縁があれば、またどこかで会えるって。
 それに、ここで降りるなんて言ったら……。
 あいつも一緒に着いて来かねないよ」
律「それは……。
 そうね」
み「この先、ずーっとあいつと旅する?
 鬱陶しいぞぉ」
律「それも……。
 そうね」
み「案外、冷たいじゃない」
律「あんたが言わせたんでしょ」
み「ほら、バッグ持って。
 1分停車なんだから、もう発車しちゃうよ」

 まだ隣の車両のドアを振り返る先生を引きずり、ホームに降ります。
 わたしたちが降りたのを確認し、駅員さんがホイッスルを吹きました。
わたしたちが降りたのを確認し、駅員さんがホイッスルを吹きました

 ドアが締まります。
ドアが締まります

律「なんだか、中島みゆきの歌、思い出しちゃった」
この歌ばかりが、あまりにも有名になりましたが
↑この歌ばかりが、あまりにも有名になりましたが。

み「先生、中島みゆきなんて聞いてたの?」
律「ひとりだと、いろいろね」
み「当ててみようか。
 “振り向けばドアが閉まる”でしょ?」

 長らく旅を共にしてくれた食くんとのお別れです。
 みなさんも一緒にお聞きください。
 中島みゆき『ホームにて』。


 リゾートしらかみ『くまげら』、発車します。

律「あ、ほら」

 先生の指差す先に、食くんが見えました。
 ホームにいるわたしたちを見つけ、窓に張り付きました。
 驚愕に見開いた目。
 ほっぺたを窓に押し付けて、顔がひしゃげてます。

み「最後まで醜いヤツ」
律「そんなこと言わないの。
 やっぱり可哀想」
み「やり直しの効かないお芝居を、死ぬまで続けていくのが人生です」
律「なら、せめて手を振りましょう」
み「さらばじゃー」

 頬をガラスに貼りつけたまま、食くんが遠ざかっていきます。

↑側面展望『五所川原⇒陸奥鶴田』。「み」さん一行は見れない風景です。

み「縁があれば、また逢えるって」
律「無ければ?」
み「これが今生のお別れです」
これが今生のお別れです

律「ヒドい人」
み「さて、行くぞ」
律「これから、どこ行くの?」
み「津軽鉄道で北に向かう」
律「信じられない。
 さっきまで、その話してたのに、一言も言わないんだから。
 ひょっとして、あさりを食べに行くんじゃ無いでしょうね?」
出た! 久々のキャラ弁。あさりちゃん弁当です。
↑出た! 久々のキャラ弁。あさりちゃん弁当です。

み「あさりじゃなくて、しじみでしょ」
札幌にあります
↑札幌にあります。

律「ま、お昼どきだしね。
 でも、十三湖へは、津軽鉄道より、『五所川原』からバスの方がいいって言ってなかった?」
『五所川原』駅前にある弘南バス案内所。ここで聞きましょう。しかし……。駅前でもプロパンってのがスゴい。
↑『五所川原』駅前にある弘南バス案内所。ここで聞きましょう。しかし……。駅前でもプロパンってのがスゴい。

み「十三湖へは行かぬわ」
律「じゃ、どこに行くのよ?
 ま、いいわ。
 そんならとりあえず、『立佞武多の館』でお昼にする?」
カレーにグラタンセット。洋風メニューもあります。これなら、軽いお昼にぴったりです。
↑カレーにグラタンセット。洋風メニューもあります。これなら、軽いお昼にぴったりです。

み「奢ってくれる?」
律「なんでよ!」
み「じゃ、やめ。
 高いから」
律「ケチ」
み「どっちが!」
ケチ

み「それじゃ、行った先で食べよう。
 発車まで、もう30分も無いし」
律「津軽鉄道って、ここから繋がってるの?」
み「たぶん、そうだと思う」
こちら側のホームが五能線。跨線橋を渡った向こうが津軽鉄道のようです。
↑こちら側のホームが五能線。跨線橋を渡った向こうが津軽鉄道のようです。

み「でも、一旦駅の外に出てみない?
 時間あるから。
 『立佞武多の館』までは足を伸ばせないけど……。
 電線の無くなった町並みは、見れるよ」
律「そんなの見たって、しょうがないけど……。
 ま、時間があるんならいいか」
み「つべこべ言わない。
 おー。
 地方の駅って、やっぱり雰囲気あるよね」
地方の駅って、やっぱり雰囲気あるよね

律「雰囲気ありすぎの駅もあるけど」
み「冬に来たら、心が凍りそうな駅ばっかりだったからね」
雪の『驫木駅』
↑雪の『驫木駅』。

み「このくらい大きいと、ホッとするわ」
律「ここが駅前通りね。
 確かに、電線が無いわ」
み「うーむ。
 やっぱり、寂れてる感は否めないのぅ」
やっぱり、寂れてる感は否めないのぅ

律「地方の駅前商店街って、みんなこんななの?」
み「新潟もそうだよ。
 わたしの住んでる町の近くに、『新津』って駅があるんだけどね」
『新津駅』。駅舎は立派です。
↑『新津駅』。駅舎は立派です。

律「あ、何とか資料館の時に出てきた駅じゃない?」
み「そうそう。
 『新津鉄道資料館』」
『新津鉄道資料館』

み「まさに、鉄道の要衝として栄えた町」
現在の『新津駅』。鉄道の要衝ではあり続けてます。
↑現在の『新津駅』。鉄道の要衝ではあり続けてます。

み「昔は、『新津市』って、独立した市だったわけ」
律「今は?」
み「今は、新潟市になってる。
 秋葉区(あきはく)」
『新津市』と『小須戸町』で、秋葉区になりました。
↑『新津市』と『小須戸町』で、秋葉区になりました。

み「で、新津駅前ってのが、昔の『新津市』のメインストリートだったわけ。
 それが、今や哀れなほどだよ。
 寂れて」
律「へー」
み「新潟の商店街にはよくあるんだけど……。
 歩道に、ずーっと屋根が掛かってるの」
アーケードは、昭和44年、『新津駅前商店街協同組合』により設置されました。
↑アーケードは、昭和44年、『新津駅前商店街協同組合』により設置されました。

み「“雁木通り”とも言うけど」
“雁木通り”とも言うけど
↑『新潟県立歴史博物館』。高田(現上越市)の“雁木通り”を再現した展示(こちら)。

み「冬の間、雪の心配をしないで買い物が出来るように……。
 商店街が共同で、アーケードを設置してるわけ。
 新津駅前にも、かつてはこのアーケードが掛かってたんだけど……。
 今は無い。
 何でだと思う?」
律「わからないわよ」
み「老朽化して危険になったのよ。
 大雪が積もったら、潰れかねない」
律「じゃ、建て替えればいいじゃない?」
み「危険だから、何とか撤去までは行ったんだけどね」

↑なんと、撤去直前のアーケードを撮影した動画がありました。

み「建て替える余力が、もう商店主たちには残ってなかったの」
律「まぁ、お気の毒」
み「町が老いるってこういうことなんだと、つくずく思うよ。
 中には、アーケードを剥がした部分の補修さえ出来ず……。
 骨組みが剥き出しになったままのお店もある。
 典型的なシャッター通りだね」
典型的なシャッター通りだね
↑アーケード撤去前ですが。

律「でも、お店が無くなったら、住んでる人は不便でしょうに」
み「みんな、車で郊外に出るんだよ。
 滑走路みたいな駐車場のある大型店が、いくつも出来てるから」
『ウオロク』新津店
↑『ウオロク』新津店。

律「車が無い人は困るじゃないの」
み「困るでしょうな。
 どうしてんだろね。
 わたしの住んでる町では、江戸時代から続く市が立つから……。
 ま、食料品とかは、そこで買えるんだけどさ。
 10日に2回ってのが不便だけど」
起源は、300年前だとか
↑起源は、300年前だとか。

律「あなた、老後はどうするつもりよ?」
み「それでんがな。
 とりあえず、母親が生きてる間は、今の家にいるだろうね」
律「一人になったら?」
み「どうするかにゃー。
 固定資産税が高いし。
 土地が100坪もあるから」
律「100坪もあるんなら、売っちゃいなさいよ」
100坪もあるんなら、売っちゃいなさいよ

律「老後は安泰じゃないの」
み「ぱかもん。
 新潟は、土地が安いの。
 わたしの住んでるあたりで、せいぜい坪10万だね」
律「さんざん五能線沿線をバカにしたくせに。
 土地が安そうだとか」
土地が安そうなことは確かです
↑安そうなことは確かです。

み「少なくとも五能線よりは高いわい。
 こっちは信越本線じゃ」

↑こーゆーツギハギ色の列車が走ってますが。

律「でも、坪10万だと、たった1千万にしかならないのね」
み「たったて言うな!」
律「だって、わたしの年収より安いもの」
み「腹ん立つ。
 ま、確かに1千万じゃなぁ。
 年金の足しと考えるしかないか」
年金の足しと考えるしかないか

律「でも、土地を売っちゃって、どこに住むのよ?」
み「市営団地って、入れないのかな?」
わたしの住んでる区にある市営団地です
↑わたしの住んでる区にある市営団地です。

律「土地を売って、市営団地に入るの?
 それは許されないんじゃない?」
土地を売って、市営団地に入るの? それは許されないんじゃない?

み「土地を売った情報なんて、市にわからないでしょ?」
律「だって、固定資産税の納付書が来るんでしょ?
 資産は把握してるんじゃないの?」
み「市営団地の窓口は、税務課とは違うでしょ。
 市役所が、そんな情報、連携してないって」
律「そんなもの?」
み「そんなものです。
 個人情報の保護って建前を立てれば、なーんもしなくても済むもの。
 老後はやっぱり、一戸建てより、集合住宅が楽だしさ」
律「何が楽なの?
 昇り降りとかあるじゃない」
昇り降りとかあるじゃない

み「今どきの市営団地には、エレベーターがあるわい」

↑エレベーターのドッキリ動画。かなりオモロいです。

み「老後、新潟で一戸建てが辛いのは……。
 冬の雪かきだよ」
冬の雪かきだよ

み「新潟の雪は重いからね。
 身体が利かなくなってからあれをやることを考えると、気が滅入る」
律「なるほど」
み「あとやっぱり、津波とかを考えれば、ある程度高いところに住みたいじゃない」

↑ビルの屋上から見た津波。こんなのに巻きこまれたら、泳げるとか泳げないとかは関係ないですね。

律「で、市営団地?」
み「そうです。
 津波を考えなきゃ、アパートでもいいんだけどね」
律「なんか、切なくなってくる話ね」
み「ま、わたしは一人が苦にならないから……。
 結構、楽しくやっていけると思うよ」
手酌は気兼ねがなくていいです
↑手酌は気兼ねがなくていいです。

律「ぶつぶつ、独り言いいながら?」
み「あるある。
 わたしは、子供のころから、頭の中でずーっと会話してたから……。
 一人でいて寂しいことは無かったし。
 一人暮らしはちっとも苦じゃない」
律「介護が必要になったら、そうもいかないでしょ」
飼い主と2人でオムツってのは、洒落にならん
↑猫も飼いたいんだけど……。こういうのを見るとね。飼い主と2人でオムツってのは、洒落にならん。

み「ま、な。
 それは、それで仕方ない。
 ヘルパーさんに来てもらいながら、なんとかやっていきましょう。
 あ、それで思い出した。
 湯沢のリゾートマンション。
 前に話したっけ?」
律「聞いた気もするわね。
 バブルの塔でしょ」
バブルの塔でしょ

み「それそれ。
 で、空き部屋が売りに出てるんだけど……。
 いくらくらいだと思う?」
律「だって、バブル期に作られた建物なんでしょ?
 まだ、1千万円以上するんじゃないの?」
み「とーんでもない。
 せいぜい100万。
 たいがい、何十万だよ」
冗談ではなく、左上の35万円が販売価格です
↑冗談ではなく、左上の35万円が販売価格です。

律「うそ。
 わたしも買おうかな」

 実際に、物件を御覧ください→こちら

み「それが、素人の赤坂見附」
律「どうしてよ?」
み「ああいう施設には、温泉大浴場とか温水プールが付いてるわけ」
アーバンヒルズ湯沢リゾート
↑『アーバンヒルズ湯沢リゾート』。

律「ますますいいじゃない」
み「問題は、そういう附属設備の維持費です」
『アーバンヒルズ湯沢リゾート』の屋内プール
↑同じく、『アーバンヒルズ湯沢リゾート』の屋内プール。

み「これは当然、居住者が毎月収める管理費から出るわけ。
 早い話、管理費が高額なの。
 賃貸マンションの家賃と大して変わらない。
 このへんは、スマホとかの契約と似てるかもね。
 本体価格が安くても、毎月かかる料金が高いわけよ」
律「詳しいじゃないの」
み「老後を考え、少し調べ申した。
 あと、安いところは、レストランの無い建物がほとんどだけど……。
 でも、これは考えもの。
 歳とってから、真冬の湯沢で買い物に出るのは、結構大変。
 駅までの送迎バスはあるみたいだけど、時間も限られるし。
 少なくとも、スキーシーズンだけはレストランが開いてるところにした方がいいでしょう」
ヴィクトリアタワー湯沢
↑『ヴィクトリアタワー湯沢』。

律「ほー」
み「さらに!」
律「まだあるの?」
み「今、問題化してるんだよ。
 まさしく、高齢化が。
 バブルのころ、このリゾートマンションが建ったときは……。
 利用目的は、まさしくレジャーであり、または投資だったわけ。
 つまり、マンションを買った人は、ほかに本宅を持ってたの」
律「当然でしょうね。
 今は違うっての?」
み「マンション価格が暴落して、普通のサラリーマンにも手が届くようになった。
 で、定年退職後……。
 本宅を売り払って、移住してしまった人が増えたわけよ。
 子供たちは独立してるから、夫婦2人とかさ。
 中には、離婚しちゃって……。
 本宅を奥さんに譲って、男ヤモメ1人で入居するとか」
律「なるほど。
 でもそれの何が問題なの?
 定住者が増えれば、管理費とかも安定的に入ってくるんじゃないの?」
み「ま、それはそうなんだけど……。
 問題は、定住者の高齢化よ。
 つまり、このマンションで人生のフィナーレを迎える人が増えたわけ。
 そうなると、介護が必要になるでしょ。
 で、ヘルパーさんがリゾートマンションに出入りし始めて、いろいろ問題が出てきた」
律「どんな?」
み「まず、エントランスのオートロックで、ヘルパーさんが入れない」
エントランスのオートロックで、ヘルパーさんが入れない

律「ヘルパーを頼んだ人に連絡取って、開けてもらえばいいわけでしょ」
み「だから、その要介助者がもう、認知症とか耳が聞こえないとかで、操作が出来ないわけよ」
律「管理人さんとかいるでしょう?」
み「管理人がいれば、オートロックにする必要ないでしょ」
律「じゃ、入れないの?」
み「だしょうな」
律「それは深刻ね」
み「まさに、閉ざされた塔よ。
 あと、問題が、入浴介助」
律「大浴場なんでしょ?」
大浴場なんでしょ?
↑『ナスパガーデンタワー』。ホテルと一体になった施設です。

み「ぱかもん。
 大浴場で入浴介助ができるか。
 各個室のお風呂に決まっておる」
律「それのどこが問題なのよ?」
み「基本的に入居者は、大浴場を使うわけよ。
 なので、部屋に付いてるお風呂は……。
 せいぜい、シャワーで汗を流すくらいでしか使わない。
 当然、狭いのです」
専有面積、72.18m2。この広さで、販売価格は164万円です。
↑専有面積、72.18m2。この広さで、販売価格は164万円です。お風呂はやっぱり狭そうですが。

み「要介助者がシャワーチェアに座ると、ヘルパーの身の置き場が無いくらいなの」
こんな余裕は無いと思います
↑こんな余裕は無いと思います。↑の間取りを見ると、2人入ったら、ドアの開け閉めだけでもタイヘンでしょう。

み「もっと絶望的なのが、ユニットバスよ。
 トイレと一緒になってるやつね。
 狭い湯船に、要介助者とヘルパーが2人して入らなきゃならない」
専有面積、33.28m2。販売価格は40万円です。
↑専有面積、33.28m2。販売価格は40万円です。

律「それは……。
 想像しただけで過酷な作業ね」
み「だから、いくら安くても……。
 老後を過ごすつもりなら、ぜったいにユニットバスは止めた方がいい」
律「へー。
 勉強になった」
み「さてと。
 高説を垂れてたら、そこそこ時間経っちゃったね。
 そろそろ、津軽鉄道の駅に行こうか」
律「駅って、どこなの?」
み「わたしに聞くな。
 わたしだって、初めて降りたんじゃないか」
律「頼りないわね。
 やっぱり、あの人に一緒に降りてもらえば良かったんだわ」
怒ってるでしょうね
↑怒ってるでしょうね。

み「後の祭りです」
後の祭りです

み「駅のホームから繋がってたんだから……。
 とりあえず、五能線の駅まで戻ればわかるでしょ」
律「先が思いやられるわ」
み「えーっと。
 駅まで戻ったけど……。
 どこかいな?」
律「あ、あれじゃない?
 看板に矢印が書いてある」
看板に矢印が書いてある

み「ほれやっぱり、すぐ近くではないか。
 こっちだな。
 ここを曲がって、と。
 でたー」
でたー

律「風情あるわね」
み「2人で見るから、そんな感想も出るけど……。
 一人旅でこれを見たら、切なくなるんじゃない?」
律「言えてるかも」
なんともはや……。確かに、心に響きます。
↑なんともはや……。確かに、心に響きます。

み「おー。
 駅舎の中もまた、風情ありますな」
駅舎の中もまた、風情ありますな

律「プラスチックの椅子に、座布団ってのがいいわよね」
プラスチックの椅子に、座布団ってのがいいわよね

み「座布団が無いと、きっとお尻が張り付くんだよ。
 凍って」
冬場は、座り心地がぜんぜん違うでしょうね
↑冬場は、座り心地がぜんぜん違うでしょうね。

律「10月なら、まだ大丈夫でしょう」
み「夏場は外すんだろうな。
 汗吸って、大変だぜ」
律「10月の衣替えに合わせて敷かれるんじゃない?」
み「かもね。
 とにかく、切符を買いましょう」
律「どこまで行くの?」
み「まだ、内緒。
 えーっと。
 券売機は、どこだ?」
律「無いみたいよ。
 あそこで買うんじゃない?」
あそこで買うんじゃない?

み「げ。
 ここは昭和か。
 あんなとこで買ったことないぞ」
律「行き先が内緒なら、あんた買ってきてよね」
み「お金貸して」
律「何でよ」
み「ちょっと、小銭を切らしておってな」
律「窓口なんだから、大きいお札でも大丈夫でしょ」
み「お釣りを、潤沢には用意してないかも知れないではないか。
 日に3人くらいしか、買う人がいなさそうだから」
律「お札なら、わたしが両替してあげる」
み「小銭が無いのに、札があるかい」
律「古典的なギャグね。
 親しい仲でも、お金の貸し借りはしない。
 これが、わたしのモットーです」
み「貸してくれなくていいよ。
 奢ってくれれば」
律「誰が。
 自分の切符は、自分で買いなさい」
み「ケチ。
 ちょっと、人の財布、覗かないで」
律「あるじゃないの、1,000円札」
み「わたしの大事な1,000円札よ。
 新潟から共に旅してきた、1,000円札。
 これで今生のお別れだ」
律「一緒に旅してきたあの人は、あっさり置いてっちゃったのに……。
 お金には未練たらたらね」
み「お名残惜しや、英世どの」
律「早く買え!」
早く買え!

 先生に聞こえないように、ヒソヒソ声で切符を買います。
 なんだか、ポルノ映画館に入るみたいです。
窓口の上には、こんな飾りものが
↑窓口の上には、こんな飾りものが。

 どひゃー。
 なんと、硬い切符、“硬券”です。
 オモチャの切符みたい。
 こんなの触るの、何年ぶりだろう。
読者の皆さんには、行き先を教えちゃいましょう
↑読者の皆さんには、行き先を教えちゃいましょう。

み「530円か。
 けっこうするな」
律「見せて」
み「ダメ。
 行き先が、書いてあるから」
律「ほんとに530円なのか、見なきゃわからないでしょ?」
み「わたしが、そんなズルする女に見える?」
律「見える」
み「断言すな!」
律「じゃ精算は、着いてからね」
み「悪党」
律「見せればいいだけじゃない。
 請求書出せとまでは言ってないわ」
請求書出せとまでは言ってないわ

み「当たり前じゃ。
 こんなとこで請求書、書いてられるか。
 まぁ、いい。
 降りるとき、きっちり回収させてもらいます」
律「どのくらい乗るの?」
み「えーっと、12:35発で……。
 着が、12:56」
律「たった20分じゃない。
 それで530円?
 ウソくさ」
み「ほんとじゃ!
 530円くらい、何でもないでしょ。
 2人分買ってくれたって。
 年収1千万なんだから」
律「それとこれとは別です」
み「畳の上では死ねんぞ」
畳の上では死ねんぞ

律「大きなお世話」

 さて、改札を抜けます。
 しかし、ホームはありません。
 跨線橋を渡るようです。
 ↓以前に掲げた写真を、もう一度御覧ください。
『津軽五所川原駅』ホーム

 わたしはあのとき、こちら側がJR、跨線橋の向こうが津軽鉄道と書きました。
 それに、間違いはなかったんですが……。
 勘違いしてたのが、『津軽五所川原駅』の位置。
 わたしはてっきり、駅も跨線橋の向こうにあると思ってました。
 でも、JRと津軽鉄道の駅って、並んでましたよね。
JRと津軽鉄道の駅って、並んでましたよね

 つまり、津軽鉄道では、跨線橋のこちら側に駅舎があり……。
 ホームだけが、跨線橋の向こうにあるということだったのです。

 さて、その長い跨線橋を渡って、津軽鉄道のホームに向かいましょう。
長い跨線橋を渡って、津軽鉄道のホームに向かいましょう

律「これに乗るの?」
これに乗るの?

み「たぶん」
律「あんたがもたもたしてるから、もう来ちゃってるじゃない。
 座れなかったらどうするのよ」
み「座れないわけないわよ」
律「だって、1両しか無いじゃないのよ。
 こんな短い列車に乗るのは、初めてだわ。
 おサルの電車みたい。
 席も少ないでしょ」
み「つべこべ言わずに、乗った乗った」

 タラップを登ります。
よく見ると、『走れメロス』のエンブレムが!
↑よく見ると、『走れメロス』のエンブレムが!

律「ほら、混んでる」
思いのほか、モダン!(失礼)
↑思いのほか、モダン!(失礼)

み「空いてるボックスは無いみたいだね。
 しゃーない。
 相席をお願いしましょう」
律「指定席じゃないの?」
み「見るからに違うだろ」
律「どこにする?」
み「えーっと。
 みんな、何気に目を逸しますな」
律「あんたが怪しいからよ」
み「なんでよ!
 あ、あそこがいい。
 ほれ、子供が一人で乗ってる」
青森放送出身の中田有紀さん
↑子供ではありませんが(青森放送出身の中田有紀さん)。

律「あの子も、目を逸らしたわ」
み「なんとなーく……。
 全身で“来るな”と言っておるな。
 そういうのを見ると、ますます行きたくなるではないか。
 こんにちわー。
 ここ、空いてる?
 空いてるわよね?
 まさか、“とっとっとー”とか言わないわよね」
律「何よそれ?」
み「知らんの?
 九州人が、座席の専有を高らかに宣言するときに使うセリフよ」
九州人が、座席の専有を高らかに宣言するときに使うセリフ

律「バカバカしい。
 ボク、お姉さんたち、ご一緒していいかな?」
み「お姉さんじゃないだろ」
律「あんたは黙ってなさい。
 いい?」
小「はい」
律「まー、いい子。
 お姉さんの子供にしたいくらい」
み「だから、おばさんだろ」
律「うるさい」
み「いってー」
いってー

み「ぶつことないじゃないでしょ。
 暴力女!
 ボク。
 こんな女の子供になったらタイヘンよ。
 炊事洗濯、みんなやらされるから」
炊事洗濯、みんなやらされるから

律「よしなさいよ。
 怯えてるじゃないの」
み「チミ、その小ざっぱりした身なりからして、“地元民”じゃないな?
 どっから来たの?」
小「東京です」
み「やっぱり。
 蝦夷の血が感じられなかったもの」
蝦夷の血が感じられなかったもの

律「蝦夷は止めなさいって。
 聞こえるわよ」
み「学校はどうしたんだ?
 東京の子供が、何で真っ昼間から津軽鉄道に乗ってるわけ?」
小「今日は日曜です」
み「あれ?
 そうだっけ?」
律「日曜だから、あんたも来れてるんでしょ」
み「そりゃそうか。
 でも、日曜のお昼に五所川原にいたら、明日、学校に行けないだろ?」
小「明日は祝日です」
祝日に旗を出す家、ほぼ見なくなりましたよね
↑祝日に旗を出す家、ほぼ見なくなりましたよね。

み「そうだっけ?
 何の日だ?
 敬老の日?」
小「体育の日です」
み「体育の日は今日だろ。
 10月10日は体育の日に決まっておる。
 東京オリンピックの開会日が、体育の日に制定されたわけ」
東京オリンピックの開会日が、体育の日に制定されたわけ

み「わかる?」
小「体育の日は、10月の第2月曜日に変更になってます」
み「そうなの?」
律「歳がバレるわよ」
み「自分だけ、若ぶるんじゃないの。
 このおばさんなんてね、東京オリンピックの聖火ランナーしてたのよ」
静岡市内を走る聖火ランナー。煙が出すぎだろ。
↑静岡市内を走る聖火ランナー。煙が出すぎだろ。

律「してません!」
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