2013.12.29(日)
み「近在のお百姓さんが、下肥を買いに来たわけ」
↑『江戸東京博物館』で、重さを体験できます。
み「江戸の下肥は、食べてるものがいいからって、人気があったそうよ。
ま、普通の民家では、野菜なんかを置いてったみたいだけど……。
長屋のトイレは、お金じゃないかな?」
律「誰の収入になるの?」
み「もちろん、大家です」
律「まぁ。
家賃も取ってるのに、がめついわね」
み「落語に出てくる大家さんってのは……。
長屋の所有者じゃないのよ。
長屋の管理を任されてる人。
家賃は集めるけど……。
それが自分の懐に入るわけじゃないのよ」
↑完全なサラリーマンだったわけです。
律「あらそうなの?」
み「今の立場で一番近いのは、マンションの管理人さんかな」
↑東京時代には、お世話になりました。
食「落語なんかだと、もっと偉そうですけどね」
み「借りに来た人を見て、貸すかどうかを決めたりする職権は持ってたからね。
落語に、『小言幸兵衛』ってのがあるでしょ」
食「あぁ。
取り越し苦労する大家さんですね」
み「入居希望者から、根掘り葉掘り聞いてね。
腰が低くて言葉も丁寧な仕立て屋さんを気に入りかけるんだけど……」
↑大正時代の仕立屋の仕事場を再現したもの(『江戸東京たてもの園』)。
み「その人に、腕の良い一人息子がいて……。
まだ独身って聞いたあたりから、妄想が暴走し始める」
律「あんたに似てるんじゃないの」
み「ま、あえて否定しません」
律「どう暴走するのよ」
み「長屋には古着屋も入ってて、そこに一人娘がいるわけ」
み「商売柄も近いし、毎日顔を合わせて話をするうち、想い合う仲になる」
↑『長浜曳山まつり』
み「で、とうとう、親の留守中に息子が上がりこみ、ねんごろになってしまう」
↑河鍋暁斎:『春画十二ヶ月』五月(部分)
み「しかし!
互いに跡取りだから、結婚は許されない。
思いつめた2人には、心中しかない」
↑『曽根崎心中』
み「長屋から心中者を出したりしたら大ごとだってんで……。
結局、仕立て屋さんを追い返してしまう」
律「確かに、スゴい妄想力」
み「小言幸兵衛さん、黄表紙かなんか書けば、売れっ子になれたかもね」
律「でも、火事で長屋が燃えちゃったら、失業じゃないの?」
み「大丈夫よ。
あっという間に再建されるから。
もともとが、『焼屋造り』って言って、ほぼ掘っ立て小屋に近い構造だから。
屋根に瓦もないし」
律「雨の日はどうするのよ?」
み「瓦じゃなくて、板で葺いてあるの!」
↑『深川江戸資料館』
律「あらそう」
食「でも、建物だけ壊されて……。
火がそこまで来なかったら、どうなんでしょうね?」
み「壊され損じゃないの?」
食「火消しに弁償しろとも言えませんよね」
み「火消しの方も、格好悪いよね。
目測が外れたらさ」
食「破壊ラインは、頭が判断するんでしょうかね?」
み「だろうね。
相当な場数を踏まなきゃ、出来ないと思うよ。
あまりにも火から遠いラインを引いたら、臆病者って言われかねないし。
かと言って、近すぎたら……。
壊してる途中で火が来ちゃうわけでしょ。
ラインの外側に移ったら、大惨事になりかねない。
纏持ちも殺しちゃうし」
↑『消防博物館(東京都新宿区四谷)』
律「殺しちゃうって、どういうこと?
纏持ちって、あれでしょ。
大きなオデンみたいなの振り回してる人でしょ?」
↑同じく、『消防博物館』。行ってみたい!
律「何してるわけ?」
み「オデンって、あんた……。
もっと別の例えが無いの?」
律「例えようもない形じゃない」
み「ま、それは言えてるけど。
纏持ちはね、破壊ラインの直ぐ外側の屋根に上がって……。
纏を振るのよ」
律「何のために?」
み「ここで火を止めるって宣言してるわけ。
組の名前が入った纏を振ってね」
↑出ました! われらが『み組』。芝増上寺付近が担当だったそうです。かっちょえ~。
み「だから、もし火が移ってきたとしても……。
逃げないわけよ。
宣言しちゃってるわけだから」
律「焼け死んじゃうってこと?」
み「だしょうな。
ちょっとやそっとの度胸じゃ出来ない仕事だったわけ。
だから、人気があったのよ。
纏持ちなんて、江戸っ子の花形じゃない?」
ここで、お断りします。
『み』さんが言ってることは、すべてわたしの想像です。
裏取りをしないで書いてます。
ぜんぜん違ってる可能性が大きいです。
誰かにウンチクを垂れると、大恥をかく恐れがありますので……。
ご注意ください。
食「さて、『陸奥森田駅』、発車しますよ」
み「何分停車だったわけ?」
食「1分ですね」
み「ずいぶん長い1分だったな」
食「例によって……」
み「融通無碍な時間が流れてる?」
↑『Jtrim』というフリーソフトで加工した画像です。
食「じゃないですか」
み「ところでさ。
鉄道の時刻表って、分単位でしょ」
食「駅の時刻表のことですか?」
み「駅もそうだし、売ってる時刻表もそうなってるでしょ。
で、さ。
たとえば、12:00発って場合だけど……。
定刻では、12:00:00に発車するわけ?」
↑架空鉄道の時刻表。詳しくはこちらを。
食「実は、列車の時刻は、秒単位まで決められてるんです。
普通は、15秒ですね。
東京の中心部などでは、10秒です。
列車の運転席を覗いてみたことはありますか?」
み「先頭車両に乗った時は、よく見てる。
指差呼称が面白いからね」
↑浜松市を走る『遠州鉄道』の運転士さん。帽子がお洒落です。
食「運転席のよく見える場所に、時刻表が掲げられてます。
その列車だけの時刻表です。
それには、ちゃーんと、秒まで書かれてるんですよ」
↑『東海道本線』愛知県内を走る快速電車の時刻表(2009年3月当時)。
み「ふーん。
15秒単位なら……。
12:00:45の発車の場合、駅の時刻表の表示は、12:01なの?」
食「秒はすべて切り捨てです。
だから、12:00ですね」
み「それでか。
通勤の帰りは新潟駅からだから、始発に乗るわけよ。
でも、必ず1分くらい発車が遅れる列車がある。
あれきっと、45秒の発車なんだね」
食「かも知れません」
み「でも何で、ちゃんと秒まで書いておかないんだ?」
食「視認性の問題でしょ。
ひと目で読めなくなっちゃいますよ。
特に、本の時刻表なんて、絶対無理です。
虫眼鏡が無いと見えなくなります」
↑山手線の時刻表。『東京時刻表』という本に載ってます。たぶん、秒まで。
み「字の大きさを変えなきゃいいだろ」
食「本が大きくなるでしょ」
↑世界で一番大きい本。詳しくはこちらを。
み「背中に背負えばいいだろ。
背負子みたいので」
↑尾瀬『山の鼻小屋』売店に荷物を運ぶ背負子さん。1日終えた後のビールが美味しいでしょうね。
律「背負ってたら読めないじゃないの」
み「読む時は下ろすの!」
食「さて、そろそろ次の駅を通過します」
み「バカに早いな」
食「駅間、2.4㎞です。
それに……」
み「融通無碍な時間が流れてる?」
↑わたしとしては上手く加工できたと、密かに満足してる作品です。
み「それそれ」
律「何ていう駅です?」
食「『中田駅(なかたえき)』です」
↑あまりにも、あたりに何もない駅。冬は、地吹雪が通り過ぎるでしょう。
み「“ナカタ”って、サッカーの中田と同じ字?」
↑プレー集。
食「そうです」
み「『中田』なんて駅、いっぱいありそうだけどね。
てことは、五能線の中田駅が、一番最初に出来たってことか」
食「でしょうね」
み「でしょうねじゃなくて、すぐさま引いてみんかい。
さっさと、中田検索」
食「そんな人、いませんって。
えーっと。
あれ?」
み「どうした?」
食「中田の上に何かが付いた駅は、ひとつも無いようです」
み「てことは、日本に『中田駅』はここだけってこと?」
食「違います。
そのまんま『中田駅』が、4つもありました」
み「なんでじゃ!」
食「じゃ、青森の『中田駅』は置いといて……。
あとの3つをご紹介しますね。
一駅目は、神奈川県の横浜市にあります」
↑人口、370万人。東京都区部を除けば、日本最大の都市。人口密度、8,470人/km2。
み「うーむ。
青森県つがる市とは、ある意味対極の場所と云ってもいいな」
↑人口、3万5千人。案外多いです(失礼)。人口密度、139人/km2。
食「つがる市に対して、微妙に失礼じゃないですか?」
み「万人が持つ、共通の感想だと思うぞ。
東急東横線の駅だったりしたら、ますますそうだな」
↑東急東横線。『渋谷駅』と『横浜駅』を結ぶ東急の路線。美人度が高いことでも有名。
食「なんでよ?」
み「五能線と東横線。
まさしく、対極の路線と云ってもいいのではないか」
食「残念ながら、東横線ではありません。
横浜市営地下鉄です。
路線名は、ブルーライン」
↑神奈川県藤沢市の『湘南台駅』から横浜市青葉区の『あざみ野駅』までを結ぶ横浜市営地下鉄。
み「でたー。
やっぱり、五能線とは対極」
律「ますます失礼じゃない」
み「でも、乗って楽しいのは……。
ぜったい五能線だけどね。
いつごろ出来た駅なの?」
食「平成11年(1999年)ですね」
↑微妙に、お洒落ですよね。
み「なんだ、10年ちょい前じゃん」
食「地下鉄自体、新しく引かれたみたいです。
ホームドアも設置されてますね」
↑実際の『中田駅』です。わたしは、“ホームドア”を見たことがありません。
食「無線LANのサービスもあるようです(これは2012年からでした)」
↑どういう仕組みなのか、さっぱりわからん。
み「やっぱり、五能線とは対極だ。
ここらは、無線LANどころか、電気も無いでしょ」
食「ありますって。
ちなみに、読み方は、“なかだ”と濁ります」
み「青森の方は、中田英寿の“なかた”なわけね」
食「そうです」
み「でも、何で同じ駅名を付けたんだ。
五能線に失礼だろ。
『相模中田』とかにすべきじゃないの。
もし、『中田駅』の隣駅からだな……」
食「あれ、両隣の駅名は、面白いですね」
み「話の腰を折りおって。
なんじゃい?」
食「両隣は、『立場駅』と『踊場駅』です」
↑不動産屋さんのページから拝借。
み「『踊場』って、階段にある踊り場?」
食「そのとおりの字です。
そのせいかな。
この駅、映画『交渉人 真下正義』のロケで使われたそうです」
み「そのせいって、どういう意味?」
食「だって、真下正義は、『“踊る”大捜査線』の登場人物じゃないですか」
↑左から、青島俊作、恩田すみれ、室井慎次、真下正義。
み「そんな理由で、ロケ地を決めるわけないだろ!
この話は、もういい。
続けるぞ。
まず、その『踊場駅』から、隣の『中田駅』までの切符を買うわな」
↑なんと、こんな由来が!
食「はぁ」
み「でもって、五能線の『中田駅』で、堂々と降りる」
↑たぶん、降りても何もありません。
み「どないだ?」
食「どないも何も……。
横浜の地下鉄の切符だけで、五能線まで辿り着けるわけないでしょ」
↑けっこう高いですね。郊外バスみたいです。
み「やっぱり無理か?
何となくそんな気はした。
やはり、名前は一緒でも、はるけくも遠い駅ってことか。
でも、先に出来てたことに敬意は評して、『中田駅』は名乗らないというのが……。
武士道なんじゃないの?」
食「横浜市営地下鉄は、武士じゃないんでしょ。
それに……。
4つの駅の中で、五能線の『中田駅』が一番古いわけじゃないですよ」
み「ありゃ、そうなの?」
食「五能線の『中田駅』の開業は、昭和31年(1956年)ですから……。
比較的新しい駅です。
4つの『中田駅』の中では、3番目の古さになります」
み「てことは、2番目に新しいじゃないか。
仁義を切ってないのは、五能線の方かよ。
なんで、『陸奥中田駅』にしなかったんだ?」
食「読み方が違うからかな?
“なかた”と濁らないのは、五能線だけですから」
↑隣の『陸奥森田駅』の開業は、大正13年。こっちはちゃんと、元祖『森田駅』に敬意を表してるのにね。
み「読み方が違うったって……。
駅名標にはローマ字で読みが書かれてるけど、切符は漢字だけだろ?」
食「ですね」
↑『中田駅』の表示がある切符は見つかりませんでしたが……。読みは書かれてないと思います。
み「残りはみんな、“なかだ”?」
食「一つは、“なかだ”ですが……。
残る一つは、別の読み方です」
み「ほかにどんな読み方があるんだ?」
食「そのまんま、音読みですよ。
“ちゅうでん”」
み「なんじゃそりゃ!
ギョーカイ人が、“電柱”のことをそう言うんじゃないか?」
律「言わないわよ」
み「さいでっか」
食「この“ちゅうでん”が、一番古いんですよ」
み「どこにあるんじゃい?」
食「徳島県です。
牟岐線(むぎせん)ですね」
み「なんとなく、とんでもない田舎な感じがする」
食「ま、駅舎はのどかですけどね。
ほら」
み「うーむ。
いい味出してる」
食「無人化されたのが、2010年10月1日です」
み「げ。
ついこないだじゃないか」
食「でも、乗車人数は、そこそこありますよ。
2010年で、434人ですね」
み「1年で?」
食「なわけないでしょ。
1日です」
み「大したもんじゃん。
五能線よりずっと多いよ」
食「高校がありますからね。
徳島県立小松島西高校」
み「純朴なんだろうな」
律「今の高校生なんて、どこでも一緒なんじゃない?」
み「そうかのぅ」
↑『商業科』『食物科』『生活文化科』『福祉科』のある実業高校です。やっぱり純朴そうですね。
食「自動車学校もありますね。
小松島自動車教習所」
み「なるほど。
自動車学校なら、マイカーで来れないわけだから……。
必ず、鉄道を使うわな」
律「使わないわよ」
み「なんで?」
律「自動車学校なら、送迎バスがあるでしょ」
み「あ、そうか。
でも、ほかの『中田駅』は、どうして徳島の『中田駅』に敬意を払わなかったんだ?」
食「牟岐線は、もともと阿南鉄道という私鉄だったんです」
↑現在の牟岐線(徳島←→阿南)を走る特急『ホームエクスプレス阿南』。“ホーム”は、通勤用ってこと?
食「で、もう一つの私鉄、小松島軽便線(“けいべんせん”と読みます)との接続駅として開業したそうです。
その後、阿南鉄道も小松島軽便線も国有化され、完全に国鉄の駅になりました。
阿南鉄道が牟岐線、小松島軽便線は小松島線。
小松島線は、残念ながら、1985年に廃止されてます」
↑小松島線『小松島港駅』に停まる『快速 よしの川』。胸が締め付けられるほど懐かしいのはなぜでしょう。
み「いつ、国有化されたの?」
食「小松島軽便線が大正6年ですから……。
開業の翌年ですね。
阿南鉄道が昭和11年です」
み「じゃ、大正6年には、国鉄の駅として、『中田駅』があったわけじゃん。
次に出来た駅って、どこよ?」
食「石川県の『中田駅(なかだえき)』です」
み「いつ出来たの?」
食「昭和6年です。
徳島の『中田駅(ちゅうでんえき)』の開業から、ちょうど15年後になります。
あ、でもここ、国鉄じゃありませんでした。
もともとは、温泉電軌という私鉄駅として開業したそうです」
み「“おんせん”って、お風呂の温泉?」
食「そうです。
山中温泉ですね」
↑1960年代の山中温泉。タイムスリップして行ってみたい!
食「その後、昭和18年に、北陸鉄道に合併され、山中線(後に加南線)となりましたが……」
↑山中線を走る『モハ1821』。これも、1960年代。
食「昭和46年、加南線の廃止により、廃駅となってます」
み「てことは、最初から最後まで私鉄ってことね。
それなら、同じ名前でも仕方ないか。
じゃ、JRの駅は、徳島と青森の2つってわけだ。
青森の『中田駅(なかたえき)』は、何でそのまま『中田駅』にしたのかね?」
食「うーん。
確かに、隣の駅は、『陸奥森田駅』ですもんね。
ちゃんと『森田駅』に敬意を払ってる」
み「わかった!
国鉄は、駅名の一覧表を作ってたんだ。
その表の並びが“あいうえお順”になってたわけ。
で、青森の『中田駅』が出来るとき……。
その表の、“な”のところを見て、ほかに『中田駅』が無いと判断した。
昔はパソコンなんて無いから、漢字で検索はかけられないでしょ。
まさか、“ち”のところに『中田駅(ちゅうでんえき)』があるとは、夢にも思わなかったわけ」
↑なんと、2007年当時の写真です。わざと残してあるんでしょうか?
み「どう?」
食「どうって言われても、真相はわかりません。
でも昔は、本州と四国が鉄道で繋がってませんでしたからね。
1枚の切符では、行きようが無かったんじゃないですか」
み「今は、繋がったんだから行けるだろ」
↑①の『瀬戸大橋』が最初で、1988年(昭和63年)4月10日の開通。現時点で、鉄道が通ってるのも①だけです。
み「『陸奥森田駅』から、隣の『中田駅(なかたえき)』までの切符を買うわな」
↑簡易委託駅です。券売機はありませんが、駅の窓口で買えるようです。
み「いくら?」
食「140円です」
み「でもって、その切符1枚だけ持って、JRを乗り継ぎ……。
徳島の『中田駅(ちゅうでんえき)』まで行くわけだ」
↑『中田駅(ちゅうでんえき)』に停車するディーゼル車。牟岐線は、全線単線非電化路線。
食「途中で、検札とかあるでしょ」
↑これは、JR九州の観光列車『あそ1962(2010年で運行終了)』。女性は車掌さんではなく、客室乗務員です。
み「鈍行を乗り継ぐの。
『中田駅(ちゅうでんえき)』は、無人駅なわけでしょ?
箱に切符を投げこむだけで、改札を出れるんじゃない?」
食「うーん、どうかな?
自動改札機があるんじゃないですか?」
↑自動改札機で寝る猫(広島県『玖村駅【くむらえき/芸備線】』)。乗客がたくさん通りますが、まったく動じません。
み「四国にそんなのがあるかい」
食「ものすごく失礼ですよ」
↑やっぱり、無いみたいですね。
み「いったい、いくら得するわけだ?
経路、検索してみ」
食「特急や急行を使わず、乗り継ぐわけですよね」
み「左様じゃ」
食「出てくるかな?
それじゃ、『陸奥森田』からの始発で検索しますよ」
↑『陸奥森田駅』。ホームは北側になります。半透明の戸は、雪よけでしょうね。
食「それ。
あ、出ました。
うひゃー。
スゴいなこれ」
み「ひとりで感心してないで、ご披露せんかい」
食「じゃ、経路当てと行きますか。
まず、『陸奥森田』からは……」
み「五能線に乗る」
↑制服の人は、車掌さんでしょうか?
食「そんなの当たり前です。
五能線しか通ってないんだから。
どっちに向かいますか?」
↑“4両停止限界”って何だ?
み「こないだ、九州行きの経路を検索したときは……。
『新青森』から新幹線を使ったからね」
↑確かに、かっちょえーですが、人間味が無くなってる気も……。
み「今回は、新幹線はもちろん、特急も急行も使えない。
となれば、闇雲に徳島方向に行くに決まっておる。
まずは五能線で、東能代まで戻るしかなかろ」
食「だって、そっちは、隣の『中田駅』とは逆方向でしょ」
み「『陸奥森田』って、無人駅だろ?
どっちの方向のに乗ろうと、わからんでないの」
食「『陸奥森田』は、簡易委託駅です。
出札業務もやってますからね」
↑窓枠は木製。いい駅ですね。公衆トイレみたいな新駅にならないことを、心から祈ります。
食「上りと下リで、時間の近い列車がなければ、難しいと思いますよ。
列車が出てもホームに残ってたら、職務質問されますよ。
初っ端で、いきなり挫折です」
み「簡易委託駅の受託者が、そこまでするかい。
見て見ぬふりに決まってる」
律「そうとは限らないわよ。
あんたと違って、真面目な方がやってらっしゃるかも」
み「隠れ場所くらい、ぜったいあるわい。
待合室の屋根の上とか」
↑難しそうですね~。対面の線路とホームは、現在、使われてません。
食「そこまでしますか」
み「140円で徳島に行けるならな」
食「でも、その必要はありません。
最初の行き先は、『中田』方向ですから」
み「なんでじゃ!」
食「ボクらはもう、五能線の大半を乗り終えてるんですよ。
五能線は、海岸に沿って、グルーッと大回りしてるでしょ。
ここから今来た経路を戻るより……。
五能線終点の『川部』まで行って、そこから奥羽本線で一直線に戻った方が早いんです」
↑青が五能線、赤が奥羽本線。
み「うーむ。
そうなのか」
食「なので最初は、『陸奥森田』6:18発……。
『川部』7:14着です」
↑昭和52年8月20日の『川部駅』。なぜか懐かしい。
み「そっから真っ直ぐ『秋田』まで戻るわけだな」
食「経路はそれしかありませんが……。
残念ながら、普通列車では、直通便がありません」
み「ま、仕方あるまい」
食「『川部』7:20発ですが……。
一駅で乗り換えですね。
7:25着です。
さて、この駅なんですが、難読駅名として有名ですよ。
有名すぎるので、知ってますかね?
“撫でる”という字に、“牛の子”と書きます」
み「“牛の子を撫でる”って意味か?」
食「でしょうね」
み「これは、あれだろ。
“小鳥が遊ぶ”と書いて、“たかなし”と読ませる手だ」
律「どうして、“小鳥が遊ぶ”と“たかなし”なのよ?」
み「わからんかね?
鷹が居ないから、小鳥が安心して遊べるわけよ」
律「単なるナゾナゾじゃない。
そんな駅、あるわけないわ」
み「確かに、駅名じゃないけどね。
苗字では、実際あるのよ」
↑これはアニメですが。
み「で、牛の子を撫でるとどうなるか?、だな」
み「親牛が怒るんじゃないの?
で、角で、尻の穴を突かれる」
↑ちょっと外れです。
み「肛門が大きくなり、太いうんこが出るようになる。
ずばり!
その読みは、“ビッグベン”でしょう」
食「そんなわけないでしょ。
もういいです。
答えをいいます」
み「待て!
キリストに関係あるか?」
食「ありません」
み「モーゼは?」
食「赤の他人です」
み「そうか……。
ヘブライ語は?」
食「答えを言います。
“ないじょうし”です」
↑絶対に読めん。でも、漢字変換はできます。
み「はぁ?
今、なに言うた?」
食「だから、“ないじょうし”ですって」
み「ぜったいに読めんだろ」
食「『撫牛子』、7:25着」
↑せっかくの駅名なのに、風情なさすぎ。
み「勝手に進めるな」
食「進めないと、終わりませんよ」
み「『陸奥森田』発が、何時だっけ?」
食「6:16発です」
み「もう1時間もかかってるのか」
食「普通列車なんだから仕方ありません。
『撫牛子』、7:38発です」
↑『撫牛子駅』のホーム。あたりに何もない! “ないじょうし”の“ない”は、この意味だったのか!
食「着いて13分で発車ですから、いい接続ですよ」
み「これで、『秋田』まで行くわけだな」
食「残念ながら、もう1回乗り換えです。
『大館』、8:35着」
↑けっこう大きい駅ですね。1日の乗車人員も、1,000人を超えてました。
み「大館って、秋田県だよね」
食「そうです」
み「『陸奥森田』から、もう2時間以上かかってる」
食「この『大館』での接続がよくありません。
『大館』発は、1時間25分後の、10時ちょうどになっちゃいます」
み「途中下車して、朝飯だな」
食「下車なんて出来ませんよ。
『中田』までの切符しか持ってないんですから」
み「あ、そうか。
てことは、駅のホームで1時間半も時間潰すわけ?
立ち食いそばくらいあるよね?」
↑資料画像。“大館駅 & 立ち食いそば”では、検索に引っかかりません。たぶん、無いと思われます。
食「あるかも知れませんが、あんなもの5分で食べちゃいますよ」
み「安心したまえ。
わたしは猫舌だから、20分くらいかかるわ」
食「伸びちゃいますって」
み「しかし……。
1時間半は厳しいな。
ホームで待つとなると……。
季節を選ばなきゃな。
真冬はたぶん……。
心が折れる」
↑『大館市』は、青森県と県境を接する内陸地域にあります。朝晩の冷え込みは厳しく、ダイヤモンドダストが見られる日もあるとか。
食「そんな思いまでして、行かなきゃいいじゃないですか」
み「いや。
徳島まで140円で行けるんだ。
こんなチャンスは逃せるか」
食「どんなチャンスですか」
律「徳島行って、何するつもり?」
み「阿波踊りを見る!」
律「行けば、いつでも見れるの?
お祭りのときだけじゃない?」
食「真夏ですよ。
ホームでも30度越してます」
み「寒いよりいいわい」
食「真夏は、列車によって、冷房の効きが一定してない可能性があります。
徳島に着く前に、体調壊すんじゃないかな」
み「じゃやっぱり、春か秋にする」
食「阿波踊り、見れないわよ」
み「徳島は、阿波踊りしかないわけ?
きっとほかにも何かある。
それを訪ねる旅なのです」
律「単なるキセルじゃない」
み「片っ方の切符しか買ってないんだから……。
キセルじゃないわい」
律「よけい悪いわ」
み「はい、続けて」
食「『大館』、10:00発。
『秋田』、11:48着」
↑新幹線が、在来線のホームにいるってのが新鮮ですよね。
み「『大館』から『秋田』って、そんなにかかるの?」
食「普通列車ですから仕方ありませんよ。
急ぐんなら、特急に乗ってください」
み「『秋田』までで、5時間半か。
すでに心が折れそうじゃ」
食「止めますか?」
み「続ける!」
食「『秋田』、12:10発」
み「おー、今度は接続がいいな。
22分か。
『秋田駅』なら、時間潰せそうなのに」
食「立ち食いそば、食べますか?」
↑かつて『秋田駅』にあった立ち食いそば店。残念ながら、2006~2007年ころに消滅したようです。秋田県は、全国でも有数の“駅そばが寂れている”県だとか。
み「『大館』で食べただろ」
食「あれは朝食です。
あれから3時間も経ってるんですよ」
み「なんか、わびしい旅だな」
食「仕方ありませんよ。
駅の外に出られないんですから。
じゃ、立ち食いそばは省略して、先を急ぎましょう。
『秋田』からは、羽越本線に入ります。
『酒田』、13:56着」
↑酒田東急インから見下ろす『酒田駅』。遠くに見えるのは鳥海山。
み「やっと山形に入った。
しかし……。
『秋田』から『酒田』って、1時間46分もかかるのか!」
食「普通列車ですから」
み「鈍行とはよう言うた」
食「『酒田』発は、14:29。
34分の待ち合わせになります」
み「また待つの~」
食「34分なら、マシな方ですよ。
立ち食いそば、食べますか?」
↑『江戸東京博物館』で、重さを体験できます。
み「江戸の下肥は、食べてるものがいいからって、人気があったそうよ。
ま、普通の民家では、野菜なんかを置いてったみたいだけど……。
長屋のトイレは、お金じゃないかな?」
律「誰の収入になるの?」
み「もちろん、大家です」
律「まぁ。
家賃も取ってるのに、がめついわね」
み「落語に出てくる大家さんってのは……。
長屋の所有者じゃないのよ。
長屋の管理を任されてる人。
家賃は集めるけど……。
それが自分の懐に入るわけじゃないのよ」
↑完全なサラリーマンだったわけです。
律「あらそうなの?」
み「今の立場で一番近いのは、マンションの管理人さんかな」
↑東京時代には、お世話になりました。
食「落語なんかだと、もっと偉そうですけどね」
み「借りに来た人を見て、貸すかどうかを決めたりする職権は持ってたからね。
落語に、『小言幸兵衛』ってのがあるでしょ」
食「あぁ。
取り越し苦労する大家さんですね」
み「入居希望者から、根掘り葉掘り聞いてね。
腰が低くて言葉も丁寧な仕立て屋さんを気に入りかけるんだけど……」
↑大正時代の仕立屋の仕事場を再現したもの(『江戸東京たてもの園』)。
み「その人に、腕の良い一人息子がいて……。
まだ独身って聞いたあたりから、妄想が暴走し始める」
律「あんたに似てるんじゃないの」
み「ま、あえて否定しません」
律「どう暴走するのよ」
み「長屋には古着屋も入ってて、そこに一人娘がいるわけ」
み「商売柄も近いし、毎日顔を合わせて話をするうち、想い合う仲になる」
↑『長浜曳山まつり』
み「で、とうとう、親の留守中に息子が上がりこみ、ねんごろになってしまう」
↑河鍋暁斎:『春画十二ヶ月』五月(部分)
み「しかし!
互いに跡取りだから、結婚は許されない。
思いつめた2人には、心中しかない」
↑『曽根崎心中』
み「長屋から心中者を出したりしたら大ごとだってんで……。
結局、仕立て屋さんを追い返してしまう」
律「確かに、スゴい妄想力」
み「小言幸兵衛さん、黄表紙かなんか書けば、売れっ子になれたかもね」
律「でも、火事で長屋が燃えちゃったら、失業じゃないの?」
み「大丈夫よ。
あっという間に再建されるから。
もともとが、『焼屋造り』って言って、ほぼ掘っ立て小屋に近い構造だから。
屋根に瓦もないし」
律「雨の日はどうするのよ?」
み「瓦じゃなくて、板で葺いてあるの!」
↑『深川江戸資料館』
律「あらそう」
食「でも、建物だけ壊されて……。
火がそこまで来なかったら、どうなんでしょうね?」
み「壊され損じゃないの?」
食「火消しに弁償しろとも言えませんよね」
み「火消しの方も、格好悪いよね。
目測が外れたらさ」
食「破壊ラインは、頭が判断するんでしょうかね?」
み「だろうね。
相当な場数を踏まなきゃ、出来ないと思うよ。
あまりにも火から遠いラインを引いたら、臆病者って言われかねないし。
かと言って、近すぎたら……。
壊してる途中で火が来ちゃうわけでしょ。
ラインの外側に移ったら、大惨事になりかねない。
纏持ちも殺しちゃうし」
↑『消防博物館(東京都新宿区四谷)』
律「殺しちゃうって、どういうこと?
纏持ちって、あれでしょ。
大きなオデンみたいなの振り回してる人でしょ?」
↑同じく、『消防博物館』。行ってみたい!
律「何してるわけ?」
み「オデンって、あんた……。
もっと別の例えが無いの?」
律「例えようもない形じゃない」
み「ま、それは言えてるけど。
纏持ちはね、破壊ラインの直ぐ外側の屋根に上がって……。
纏を振るのよ」
律「何のために?」
み「ここで火を止めるって宣言してるわけ。
組の名前が入った纏を振ってね」
↑出ました! われらが『み組』。芝増上寺付近が担当だったそうです。かっちょえ~。
み「だから、もし火が移ってきたとしても……。
逃げないわけよ。
宣言しちゃってるわけだから」
律「焼け死んじゃうってこと?」
み「だしょうな。
ちょっとやそっとの度胸じゃ出来ない仕事だったわけ。
だから、人気があったのよ。
纏持ちなんて、江戸っ子の花形じゃない?」
ここで、お断りします。
『み』さんが言ってることは、すべてわたしの想像です。
裏取りをしないで書いてます。
ぜんぜん違ってる可能性が大きいです。
誰かにウンチクを垂れると、大恥をかく恐れがありますので……。
ご注意ください。
食「さて、『陸奥森田駅』、発車しますよ」
み「何分停車だったわけ?」
食「1分ですね」
み「ずいぶん長い1分だったな」
食「例によって……」
み「融通無碍な時間が流れてる?」
↑『Jtrim』というフリーソフトで加工した画像です。
食「じゃないですか」
み「ところでさ。
鉄道の時刻表って、分単位でしょ」
食「駅の時刻表のことですか?」
み「駅もそうだし、売ってる時刻表もそうなってるでしょ。
で、さ。
たとえば、12:00発って場合だけど……。
定刻では、12:00:00に発車するわけ?」
↑架空鉄道の時刻表。詳しくはこちらを。
食「実は、列車の時刻は、秒単位まで決められてるんです。
普通は、15秒ですね。
東京の中心部などでは、10秒です。
列車の運転席を覗いてみたことはありますか?」
み「先頭車両に乗った時は、よく見てる。
指差呼称が面白いからね」
↑浜松市を走る『遠州鉄道』の運転士さん。帽子がお洒落です。
食「運転席のよく見える場所に、時刻表が掲げられてます。
その列車だけの時刻表です。
それには、ちゃーんと、秒まで書かれてるんですよ」
↑『東海道本線』愛知県内を走る快速電車の時刻表(2009年3月当時)。
み「ふーん。
15秒単位なら……。
12:00:45の発車の場合、駅の時刻表の表示は、12:01なの?」
食「秒はすべて切り捨てです。
だから、12:00ですね」
み「それでか。
通勤の帰りは新潟駅からだから、始発に乗るわけよ。
でも、必ず1分くらい発車が遅れる列車がある。
あれきっと、45秒の発車なんだね」
食「かも知れません」
み「でも何で、ちゃんと秒まで書いておかないんだ?」
食「視認性の問題でしょ。
ひと目で読めなくなっちゃいますよ。
特に、本の時刻表なんて、絶対無理です。
虫眼鏡が無いと見えなくなります」
↑山手線の時刻表。『東京時刻表』という本に載ってます。たぶん、秒まで。
み「字の大きさを変えなきゃいいだろ」
食「本が大きくなるでしょ」
↑世界で一番大きい本。詳しくはこちらを。
み「背中に背負えばいいだろ。
背負子みたいので」
↑尾瀬『山の鼻小屋』売店に荷物を運ぶ背負子さん。1日終えた後のビールが美味しいでしょうね。
律「背負ってたら読めないじゃないの」
み「読む時は下ろすの!」
食「さて、そろそろ次の駅を通過します」
み「バカに早いな」
食「駅間、2.4㎞です。
それに……」
み「融通無碍な時間が流れてる?」
↑わたしとしては上手く加工できたと、密かに満足してる作品です。
み「それそれ」
律「何ていう駅です?」
食「『中田駅(なかたえき)』です」
↑あまりにも、あたりに何もない駅。冬は、地吹雪が通り過ぎるでしょう。
み「“ナカタ”って、サッカーの中田と同じ字?」
↑プレー集。
食「そうです」
み「『中田』なんて駅、いっぱいありそうだけどね。
てことは、五能線の中田駅が、一番最初に出来たってことか」
食「でしょうね」
み「でしょうねじゃなくて、すぐさま引いてみんかい。
さっさと、中田検索」
食「そんな人、いませんって。
えーっと。
あれ?」
み「どうした?」
食「中田の上に何かが付いた駅は、ひとつも無いようです」
み「てことは、日本に『中田駅』はここだけってこと?」
食「違います。
そのまんま『中田駅』が、4つもありました」
み「なんでじゃ!」
食「じゃ、青森の『中田駅』は置いといて……。
あとの3つをご紹介しますね。
一駅目は、神奈川県の横浜市にあります」
↑人口、370万人。東京都区部を除けば、日本最大の都市。人口密度、8,470人/km2。
み「うーむ。
青森県つがる市とは、ある意味対極の場所と云ってもいいな」
↑人口、3万5千人。案外多いです(失礼)。人口密度、139人/km2。
食「つがる市に対して、微妙に失礼じゃないですか?」
み「万人が持つ、共通の感想だと思うぞ。
東急東横線の駅だったりしたら、ますますそうだな」
↑東急東横線。『渋谷駅』と『横浜駅』を結ぶ東急の路線。美人度が高いことでも有名。
食「なんでよ?」
み「五能線と東横線。
まさしく、対極の路線と云ってもいいのではないか」
食「残念ながら、東横線ではありません。
横浜市営地下鉄です。
路線名は、ブルーライン」
↑神奈川県藤沢市の『湘南台駅』から横浜市青葉区の『あざみ野駅』までを結ぶ横浜市営地下鉄。
み「でたー。
やっぱり、五能線とは対極」
律「ますます失礼じゃない」
み「でも、乗って楽しいのは……。
ぜったい五能線だけどね。
いつごろ出来た駅なの?」
食「平成11年(1999年)ですね」
↑微妙に、お洒落ですよね。
み「なんだ、10年ちょい前じゃん」
食「地下鉄自体、新しく引かれたみたいです。
ホームドアも設置されてますね」
↑実際の『中田駅』です。わたしは、“ホームドア”を見たことがありません。
食「無線LANのサービスもあるようです(これは2012年からでした)」
↑どういう仕組みなのか、さっぱりわからん。
み「やっぱり、五能線とは対極だ。
ここらは、無線LANどころか、電気も無いでしょ」
食「ありますって。
ちなみに、読み方は、“なかだ”と濁ります」
み「青森の方は、中田英寿の“なかた”なわけね」
食「そうです」
み「でも、何で同じ駅名を付けたんだ。
五能線に失礼だろ。
『相模中田』とかにすべきじゃないの。
もし、『中田駅』の隣駅からだな……」
食「あれ、両隣の駅名は、面白いですね」
み「話の腰を折りおって。
なんじゃい?」
食「両隣は、『立場駅』と『踊場駅』です」
↑不動産屋さんのページから拝借。
み「『踊場』って、階段にある踊り場?」
食「そのとおりの字です。
そのせいかな。
この駅、映画『交渉人 真下正義』のロケで使われたそうです」
み「そのせいって、どういう意味?」
食「だって、真下正義は、『“踊る”大捜査線』の登場人物じゃないですか」
↑左から、青島俊作、恩田すみれ、室井慎次、真下正義。
み「そんな理由で、ロケ地を決めるわけないだろ!
この話は、もういい。
続けるぞ。
まず、その『踊場駅』から、隣の『中田駅』までの切符を買うわな」
↑なんと、こんな由来が!
食「はぁ」
み「でもって、五能線の『中田駅』で、堂々と降りる」
↑たぶん、降りても何もありません。
み「どないだ?」
食「どないも何も……。
横浜の地下鉄の切符だけで、五能線まで辿り着けるわけないでしょ」
↑けっこう高いですね。郊外バスみたいです。
み「やっぱり無理か?
何となくそんな気はした。
やはり、名前は一緒でも、はるけくも遠い駅ってことか。
でも、先に出来てたことに敬意は評して、『中田駅』は名乗らないというのが……。
武士道なんじゃないの?」
食「横浜市営地下鉄は、武士じゃないんでしょ。
それに……。
4つの駅の中で、五能線の『中田駅』が一番古いわけじゃないですよ」
み「ありゃ、そうなの?」
食「五能線の『中田駅』の開業は、昭和31年(1956年)ですから……。
比較的新しい駅です。
4つの『中田駅』の中では、3番目の古さになります」
み「てことは、2番目に新しいじゃないか。
仁義を切ってないのは、五能線の方かよ。
なんで、『陸奥中田駅』にしなかったんだ?」
食「読み方が違うからかな?
“なかた”と濁らないのは、五能線だけですから」
↑隣の『陸奥森田駅』の開業は、大正13年。こっちはちゃんと、元祖『森田駅』に敬意を表してるのにね。
み「読み方が違うったって……。
駅名標にはローマ字で読みが書かれてるけど、切符は漢字だけだろ?」
食「ですね」
↑『中田駅』の表示がある切符は見つかりませんでしたが……。読みは書かれてないと思います。
み「残りはみんな、“なかだ”?」
食「一つは、“なかだ”ですが……。
残る一つは、別の読み方です」
み「ほかにどんな読み方があるんだ?」
食「そのまんま、音読みですよ。
“ちゅうでん”」
み「なんじゃそりゃ!
ギョーカイ人が、“電柱”のことをそう言うんじゃないか?」
律「言わないわよ」
み「さいでっか」
食「この“ちゅうでん”が、一番古いんですよ」
み「どこにあるんじゃい?」
食「徳島県です。
牟岐線(むぎせん)ですね」
み「なんとなく、とんでもない田舎な感じがする」
食「ま、駅舎はのどかですけどね。
ほら」
み「うーむ。
いい味出してる」
食「無人化されたのが、2010年10月1日です」
み「げ。
ついこないだじゃないか」
食「でも、乗車人数は、そこそこありますよ。
2010年で、434人ですね」
み「1年で?」
食「なわけないでしょ。
1日です」
み「大したもんじゃん。
五能線よりずっと多いよ」
食「高校がありますからね。
徳島県立小松島西高校」
み「純朴なんだろうな」
律「今の高校生なんて、どこでも一緒なんじゃない?」
み「そうかのぅ」
↑『商業科』『食物科』『生活文化科』『福祉科』のある実業高校です。やっぱり純朴そうですね。
食「自動車学校もありますね。
小松島自動車教習所」
み「なるほど。
自動車学校なら、マイカーで来れないわけだから……。
必ず、鉄道を使うわな」
律「使わないわよ」
み「なんで?」
律「自動車学校なら、送迎バスがあるでしょ」
み「あ、そうか。
でも、ほかの『中田駅』は、どうして徳島の『中田駅』に敬意を払わなかったんだ?」
食「牟岐線は、もともと阿南鉄道という私鉄だったんです」
↑現在の牟岐線(徳島←→阿南)を走る特急『ホームエクスプレス阿南』。“ホーム”は、通勤用ってこと?
食「で、もう一つの私鉄、小松島軽便線(“けいべんせん”と読みます)との接続駅として開業したそうです。
その後、阿南鉄道も小松島軽便線も国有化され、完全に国鉄の駅になりました。
阿南鉄道が牟岐線、小松島軽便線は小松島線。
小松島線は、残念ながら、1985年に廃止されてます」
↑小松島線『小松島港駅』に停まる『快速 よしの川』。胸が締め付けられるほど懐かしいのはなぜでしょう。
み「いつ、国有化されたの?」
食「小松島軽便線が大正6年ですから……。
開業の翌年ですね。
阿南鉄道が昭和11年です」
み「じゃ、大正6年には、国鉄の駅として、『中田駅』があったわけじゃん。
次に出来た駅って、どこよ?」
食「石川県の『中田駅(なかだえき)』です」
み「いつ出来たの?」
食「昭和6年です。
徳島の『中田駅(ちゅうでんえき)』の開業から、ちょうど15年後になります。
あ、でもここ、国鉄じゃありませんでした。
もともとは、温泉電軌という私鉄駅として開業したそうです」
み「“おんせん”って、お風呂の温泉?」
食「そうです。
山中温泉ですね」
↑1960年代の山中温泉。タイムスリップして行ってみたい!
食「その後、昭和18年に、北陸鉄道に合併され、山中線(後に加南線)となりましたが……」
↑山中線を走る『モハ1821』。これも、1960年代。
食「昭和46年、加南線の廃止により、廃駅となってます」
み「てことは、最初から最後まで私鉄ってことね。
それなら、同じ名前でも仕方ないか。
じゃ、JRの駅は、徳島と青森の2つってわけだ。
青森の『中田駅(なかたえき)』は、何でそのまま『中田駅』にしたのかね?」
食「うーん。
確かに、隣の駅は、『陸奥森田駅』ですもんね。
ちゃんと『森田駅』に敬意を払ってる」
み「わかった!
国鉄は、駅名の一覧表を作ってたんだ。
その表の並びが“あいうえお順”になってたわけ。
で、青森の『中田駅』が出来るとき……。
その表の、“な”のところを見て、ほかに『中田駅』が無いと判断した。
昔はパソコンなんて無いから、漢字で検索はかけられないでしょ。
まさか、“ち”のところに『中田駅(ちゅうでんえき)』があるとは、夢にも思わなかったわけ」
↑なんと、2007年当時の写真です。わざと残してあるんでしょうか?
み「どう?」
食「どうって言われても、真相はわかりません。
でも昔は、本州と四国が鉄道で繋がってませんでしたからね。
1枚の切符では、行きようが無かったんじゃないですか」
み「今は、繋がったんだから行けるだろ」
↑①の『瀬戸大橋』が最初で、1988年(昭和63年)4月10日の開通。現時点で、鉄道が通ってるのも①だけです。
み「『陸奥森田駅』から、隣の『中田駅(なかたえき)』までの切符を買うわな」
↑簡易委託駅です。券売機はありませんが、駅の窓口で買えるようです。
み「いくら?」
食「140円です」
み「でもって、その切符1枚だけ持って、JRを乗り継ぎ……。
徳島の『中田駅(ちゅうでんえき)』まで行くわけだ」
↑『中田駅(ちゅうでんえき)』に停車するディーゼル車。牟岐線は、全線単線非電化路線。
食「途中で、検札とかあるでしょ」
↑これは、JR九州の観光列車『あそ1962(2010年で運行終了)』。女性は車掌さんではなく、客室乗務員です。
み「鈍行を乗り継ぐの。
『中田駅(ちゅうでんえき)』は、無人駅なわけでしょ?
箱に切符を投げこむだけで、改札を出れるんじゃない?」
食「うーん、どうかな?
自動改札機があるんじゃないですか?」
↑自動改札機で寝る猫(広島県『玖村駅【くむらえき/芸備線】』)。乗客がたくさん通りますが、まったく動じません。
み「四国にそんなのがあるかい」
食「ものすごく失礼ですよ」
↑やっぱり、無いみたいですね。
み「いったい、いくら得するわけだ?
経路、検索してみ」
食「特急や急行を使わず、乗り継ぐわけですよね」
み「左様じゃ」
食「出てくるかな?
それじゃ、『陸奥森田』からの始発で検索しますよ」
↑『陸奥森田駅』。ホームは北側になります。半透明の戸は、雪よけでしょうね。
食「それ。
あ、出ました。
うひゃー。
スゴいなこれ」
み「ひとりで感心してないで、ご披露せんかい」
食「じゃ、経路当てと行きますか。
まず、『陸奥森田』からは……」
み「五能線に乗る」
↑制服の人は、車掌さんでしょうか?
食「そんなの当たり前です。
五能線しか通ってないんだから。
どっちに向かいますか?」
↑“4両停止限界”って何だ?
み「こないだ、九州行きの経路を検索したときは……。
『新青森』から新幹線を使ったからね」
↑確かに、かっちょえーですが、人間味が無くなってる気も……。
み「今回は、新幹線はもちろん、特急も急行も使えない。
となれば、闇雲に徳島方向に行くに決まっておる。
まずは五能線で、東能代まで戻るしかなかろ」
食「だって、そっちは、隣の『中田駅』とは逆方向でしょ」
み「『陸奥森田』って、無人駅だろ?
どっちの方向のに乗ろうと、わからんでないの」
食「『陸奥森田』は、簡易委託駅です。
出札業務もやってますからね」
↑窓枠は木製。いい駅ですね。公衆トイレみたいな新駅にならないことを、心から祈ります。
食「上りと下リで、時間の近い列車がなければ、難しいと思いますよ。
列車が出てもホームに残ってたら、職務質問されますよ。
初っ端で、いきなり挫折です」
み「簡易委託駅の受託者が、そこまでするかい。
見て見ぬふりに決まってる」
律「そうとは限らないわよ。
あんたと違って、真面目な方がやってらっしゃるかも」
み「隠れ場所くらい、ぜったいあるわい。
待合室の屋根の上とか」
↑難しそうですね~。対面の線路とホームは、現在、使われてません。
食「そこまでしますか」
み「140円で徳島に行けるならな」
食「でも、その必要はありません。
最初の行き先は、『中田』方向ですから」
み「なんでじゃ!」
食「ボクらはもう、五能線の大半を乗り終えてるんですよ。
五能線は、海岸に沿って、グルーッと大回りしてるでしょ。
ここから今来た経路を戻るより……。
五能線終点の『川部』まで行って、そこから奥羽本線で一直線に戻った方が早いんです」
↑青が五能線、赤が奥羽本線。
み「うーむ。
そうなのか」
食「なので最初は、『陸奥森田』6:18発……。
『川部』7:14着です」
↑昭和52年8月20日の『川部駅』。なぜか懐かしい。
み「そっから真っ直ぐ『秋田』まで戻るわけだな」
食「経路はそれしかありませんが……。
残念ながら、普通列車では、直通便がありません」
み「ま、仕方あるまい」
食「『川部』7:20発ですが……。
一駅で乗り換えですね。
7:25着です。
さて、この駅なんですが、難読駅名として有名ですよ。
有名すぎるので、知ってますかね?
“撫でる”という字に、“牛の子”と書きます」
み「“牛の子を撫でる”って意味か?」
食「でしょうね」
み「これは、あれだろ。
“小鳥が遊ぶ”と書いて、“たかなし”と読ませる手だ」
律「どうして、“小鳥が遊ぶ”と“たかなし”なのよ?」
み「わからんかね?
鷹が居ないから、小鳥が安心して遊べるわけよ」
律「単なるナゾナゾじゃない。
そんな駅、あるわけないわ」
み「確かに、駅名じゃないけどね。
苗字では、実際あるのよ」
↑これはアニメですが。
み「で、牛の子を撫でるとどうなるか?、だな」
み「親牛が怒るんじゃないの?
で、角で、尻の穴を突かれる」
↑ちょっと外れです。
み「肛門が大きくなり、太いうんこが出るようになる。
ずばり!
その読みは、“ビッグベン”でしょう」
食「そんなわけないでしょ。
もういいです。
答えをいいます」
み「待て!
キリストに関係あるか?」
食「ありません」
み「モーゼは?」
食「赤の他人です」
み「そうか……。
ヘブライ語は?」
食「答えを言います。
“ないじょうし”です」
↑絶対に読めん。でも、漢字変換はできます。
み「はぁ?
今、なに言うた?」
食「だから、“ないじょうし”ですって」
み「ぜったいに読めんだろ」
食「『撫牛子』、7:25着」
↑せっかくの駅名なのに、風情なさすぎ。
み「勝手に進めるな」
食「進めないと、終わりませんよ」
み「『陸奥森田』発が、何時だっけ?」
食「6:16発です」
み「もう1時間もかかってるのか」
食「普通列車なんだから仕方ありません。
『撫牛子』、7:38発です」
↑『撫牛子駅』のホーム。あたりに何もない! “ないじょうし”の“ない”は、この意味だったのか!
食「着いて13分で発車ですから、いい接続ですよ」
み「これで、『秋田』まで行くわけだな」
食「残念ながら、もう1回乗り換えです。
『大館』、8:35着」
↑けっこう大きい駅ですね。1日の乗車人員も、1,000人を超えてました。
み「大館って、秋田県だよね」
食「そうです」
み「『陸奥森田』から、もう2時間以上かかってる」
食「この『大館』での接続がよくありません。
『大館』発は、1時間25分後の、10時ちょうどになっちゃいます」
み「途中下車して、朝飯だな」
食「下車なんて出来ませんよ。
『中田』までの切符しか持ってないんですから」
み「あ、そうか。
てことは、駅のホームで1時間半も時間潰すわけ?
立ち食いそばくらいあるよね?」
↑資料画像。“大館駅 & 立ち食いそば”では、検索に引っかかりません。たぶん、無いと思われます。
食「あるかも知れませんが、あんなもの5分で食べちゃいますよ」
み「安心したまえ。
わたしは猫舌だから、20分くらいかかるわ」
食「伸びちゃいますって」
み「しかし……。
1時間半は厳しいな。
ホームで待つとなると……。
季節を選ばなきゃな。
真冬はたぶん……。
心が折れる」
↑『大館市』は、青森県と県境を接する内陸地域にあります。朝晩の冷え込みは厳しく、ダイヤモンドダストが見られる日もあるとか。
食「そんな思いまでして、行かなきゃいいじゃないですか」
み「いや。
徳島まで140円で行けるんだ。
こんなチャンスは逃せるか」
食「どんなチャンスですか」
律「徳島行って、何するつもり?」
み「阿波踊りを見る!」
律「行けば、いつでも見れるの?
お祭りのときだけじゃない?」
食「真夏ですよ。
ホームでも30度越してます」
み「寒いよりいいわい」
食「真夏は、列車によって、冷房の効きが一定してない可能性があります。
徳島に着く前に、体調壊すんじゃないかな」
み「じゃやっぱり、春か秋にする」
食「阿波踊り、見れないわよ」
み「徳島は、阿波踊りしかないわけ?
きっとほかにも何かある。
それを訪ねる旅なのです」
律「単なるキセルじゃない」
み「片っ方の切符しか買ってないんだから……。
キセルじゃないわい」
律「よけい悪いわ」
み「はい、続けて」
食「『大館』、10:00発。
『秋田』、11:48着」
↑新幹線が、在来線のホームにいるってのが新鮮ですよね。
み「『大館』から『秋田』って、そんなにかかるの?」
食「普通列車ですから仕方ありませんよ。
急ぐんなら、特急に乗ってください」
み「『秋田』までで、5時間半か。
すでに心が折れそうじゃ」
食「止めますか?」
み「続ける!」
食「『秋田』、12:10発」
み「おー、今度は接続がいいな。
22分か。
『秋田駅』なら、時間潰せそうなのに」
食「立ち食いそば、食べますか?」
↑かつて『秋田駅』にあった立ち食いそば店。残念ながら、2006~2007年ころに消滅したようです。秋田県は、全国でも有数の“駅そばが寂れている”県だとか。
み「『大館』で食べただろ」
食「あれは朝食です。
あれから3時間も経ってるんですよ」
み「なんか、わびしい旅だな」
食「仕方ありませんよ。
駅の外に出られないんですから。
じゃ、立ち食いそばは省略して、先を急ぎましょう。
『秋田』からは、羽越本線に入ります。
『酒田』、13:56着」
↑酒田東急インから見下ろす『酒田駅』。遠くに見えるのは鳥海山。
み「やっと山形に入った。
しかし……。
『秋田』から『酒田』って、1時間46分もかかるのか!」
食「普通列車ですから」
み「鈍行とはよう言うた」
食「『酒田』発は、14:29。
34分の待ち合わせになります」
み「また待つの~」
食「34分なら、マシな方ですよ。
立ち食いそば、食べますか?」