2013.12.14(土)
み「バキバキと折り畳むんじゃないの?」
律「遺族は見てられないわよ」
み「専門の畳み屋がいるんだよ」
食「昔の必殺シリーズで、そんな技持った仕掛人がいましたね」
↑演じたのは山崎努。
み「あ、見たことあるかも」
↑これは、歴ドルの“小日向えり”ちゃん(失礼。存じませんでした)が、『念仏の鉄』を見てるところ。再放送ではなく、DVDだと思います。
み「ボキボキって、音がするやつでしょ?」
食「骨のレントゲン写真が、画面に映るんですよね」
「あれは、斬新だったでしょうね」
律「どっから、こんな話になったの?」
食「“棺桶みたいなお風呂”ってとこからです」
み「あ、そうか。
だから、昔の木製のお風呂は、桶に似てたのよ。
風呂桶って言うでしょ」
↑『平塚市博物館』所蔵。右下にあるのが焚き口だそうです。なんか、危険な感じですよね。風呂桶ごと燃えないんでしょうか? 水が入ってるから大丈夫なのか?
律「今どき、そんなお風呂無いわ」
み「だから!
ボットン便所の長屋なの。
お風呂だって、古いのよ」
律「江戸時代の長屋?」
み「そんなのが残ってたら、重要文化財だわ」
律「何で残ってないのよ?」
み「長屋なんて、作りがちゃちなの。
火事に遭えば、あっという間に燃え落ちるだろうし……。
地震が起きれば、平行四辺形みたいに歪んで、あっという間にぺちゃんこ。
大風が吹けば飛んでいくし……。
相撲取りが通れば、壊れる」
律「ウソ言いなさい」
み「今、Wikiで『長屋』を引いてみたんですが……。
火事になることを前提に作られてたみたいですね」
↑オランダの宣教師モンタヌスが描いた『明暦江戸大火之図』。モンタヌスは日本に来たことがなく、この絵は伝聞で描いたものだそうです。『明暦の大火(1657年)』は、海外まで知れ渡っていたということです。
み「ほらみれ」
食「柱の太さは、2寸だったそうです」
み「2寸って、6センチだよね。
細っ!」
↑下段蹴りで一撃。この材木が6センチ角だそうです。
食「あと、壁も土壁じゃなくて……。
板張りのようです」
み「隣の声なんて、筒抜けだぜ」
律「『三匹の子ブタ』の家みたいじゃない」
律「いくら火事になるからって、チャチ過ぎない?」
み「わざと、チャチに作ってあるの」
律「なんでよ?」
み「簡単に壊れるようによ」
律「建て替えしやすいから?」
み「でなくて、火事になることを前提にしてるわけ」
↑ご存じ『八百屋お七』。
律「どういうこと?」
み「江戸時代の消火活動ってのは、破壊消防が主だったの」
み「竜吐水(りゅうどすい)なんていうポンプもあったみたいだけど……」
み「水の補給が手間だったりして、ほとんど役に立たない」
律「じゃ、どうやって消したのよ?」
み「消火ラインを決めて……。
その線上の家を叩き壊して、そこから外への類焼を防いだわけ。
だから、密集した長屋は、すぐ壊せるように作られてたのよ。
たぶん、手鉤を引っ掛けて引っ張れば……」
み「すぐにペチャンコになったんじゃない?」
律「ふーん。
でも、壊される方はたまらないわよ」
み「住んでる人は、大して痛くないでしょ。
借りてるだけなんだから」
律「家財道具とかがあるじゃない」
み「あのね。
長屋の広さって知ってる?」
律「知らないわよ」
み「ほれ、チミ。
森田検索」
食「なんですか、それ?」
み「とっとと検索して」
律「あんたも、わからないんじゃないのよ」
み「正確を期したいからです」
食「えーっと。
棟割長屋は、九尺二間だったそうです」
み「まずその、棟割長屋を説明したまえ」
食「えーっとですね。
まず、長屋の中に、区画が無いものとして考えてみてください。
で、まず、建物の長い方向に、縦に2つに割るわけです。
ものすごく細長い区画が2つできます。
これが『棟割』です。
あとは、その細長い区画を、細かく割っていくわけです」
み「九尺二間は?」
食「間口が9尺ってことです。
2.7メートルですね。
奥行きが、2間。
つまり、3.6メートルです」
み「何畳になるんだ?」
食「2.7×3.6は、9.72平米です。
畳は、1.8×0.9だから……。
1.62平米。
9.72÷1.62は……。
ちょうど6畳ですね」
み「なんだ、そこそこ広いではないか」
食「でも、入口を入ったところが、土間兼台所なわけです」
食「これが、2.7×0.9で、2.43平米。
2.43÷1.62は、ちょうど1.5。
つまり、土間兼台所が、1.5畳。
ですから、部屋の部分は、4.5畳になりますね」
み「狭い!
しかも、押し入れも無いわけよ」
律「収納スペース、ゼロ?」
み「左様です。
布団なんか、部屋の隅に積んでおいたわけ」
↑風呂敷は、掛けるかもしれないけど……。ぜったいにこんな包み方はしないと思います(江戸っ子じゃなくたって、面倒くせー)。
み「すなわち、季節ものなんかを仕舞っておく場所はないってこと」
律「どうするのよ?
人の居場所が無くなっちゃうわ」
み「で、そこで登場するのが、『損料屋』という商売」
律「何それ?」
み「今のレンタル屋」
↑京都市下京区にある『さんきゅう・レンタル』さん。
み「しかも、レンタル品目は、今よりはるかに多かった。
生活必需品は、ほとんどレンタル出来たわけ。
当然、季節用品なんかは……。
その季節に必要なものだけ借りて使ってるのよ。
夏の蚊帳とか、冬の火鉢とか」
↑は、『深川江戸資料館』の展示。
これは、かなりな高級長屋だと思います。
↓畳さえ無く、板の間にゴザという長屋も多かったようです。
律「へー。
でも、レンタル屋さんの方は大変なんじゃない?
季節外れの物を、大量に仕舞っておかなきゃならないんだから」
み「ま、そうだよね。
損料屋は、たいがい質屋を兼ねてたから……」
↑太秦映画村に再現された『岩田屋質店』。
み「蔵はあったろうけどね。
質流れ品が次々発生するから、貸す物にも困らなかったろうし」
↑『江戸見世屋図聚』の質屋
律「ふーん。
儲かったのかな?」
み「一件一件は薄利でも、数で稼いだんじゃないの?
なにしろ、フンドシまでレンタルだったそうよ」
律「うそ」
み「これはホントの話。
吉原に繰り出すときなんか……。
新品のフンドシに借り直したらしいわ」
↑明治時代の彩色写真。
フンドシは、洗わずに返せたそうです。
そのほか、借りる期間もさまざまに設定でき……。
数時間のレンタルも出来ました。
日の出ている間だけ貸す『烏貸(からすがし)』や……。
日が落ちてから日が昇るまで貸す『蝙蝠貸(こうもりがし)』などです。
なお、借りるときは、借賃の三倍を払わなければなりません。
二倍分は、保証金ですね。
レンタル品を返すときに、保証金は返還されますが……。
品物が壊れていれば、保証金から修繕費が差し引かれたわけです。
律「なんか、今より合理的な暮らしかもね」
み「そうだよ。
今の暮らしなんて……。
夏なら、ストーブを仕舞っとかなきゃならない」
↑わたしは、夏中出しっぱなしですが。
み「冬は、扇風機。
これがレンタルで済めば、ずっと楽でしょ」
律「気楽な暮らしかもね。
でも、火事で燃えちゃったら、弁償しなくていいわけ?」
み「いいに決まってるでしょ。
類焼を止めるために壊されるんだから」
律「あぁ。
その話からだったわね。
建物を壊して、類焼を防ぐって」
み「そう、消火ラインだね。
そのライン上になるのは、その家の責任じゃないんだから……。
借りてる家財を弁償する必要は無いでしょ」
律「そのラインって、誰が決めるの?」
み「それは当然、組の頭(かしら)よ。
『め組の喧嘩』とか、聞いたことない?」
↑1805年に起きた町火消し『め組』と江戸相撲の力士たちの乱闘事件を題材してます。
み「町火消には、『いろは組』って言って、48組あったわけ」
食「さて、ここで問題です」
み「なんじゃい?」
食「今、Wikiで『火消』を引いてたら、面白いデータが載ってました。
『いろは48組』の中には、使われない文字が4つあったそうです。
その字の代わりに、『百』『千』『万』『本』が使われたそうです。
では、その4文字とは、何でしょう?(↑の画像を、よーく見るとわかります)」
み「1つは、確実にわかるぞ」
律「何よ?」
み「『へ組』に決まっておる」
律「やっぱり、音感?」
み「当然です。
体裁悪すぎ」
↑三重県名張市『赤目四十八滝』の名物、その名も『へこきまんじゅう』。生地にさつま芋を使ってるそうです。
食「正解です」
↑久しぶりに、『パフパフラッパを鳴らす柴犬』をどうぞ。
み「どんなもんだい」
食「あと3つも当ててください」
み「えーっと……。
『い』は、あるだろ。
『ろ』『は』『に』『ほ』もあって……。
『へ』が無いわけだ。
『と』『ち』『り』『ぬ』『る』『を』。
この続きって、何?」
食「わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす」
み「すらすら言いおったな」
食「今、『いろは歌』を画面に出してますから」
み「なんだ。
カンニングか。
もう一度、一行目から」
食「『わ』『か』『よ』『た』『れ』『そ』『つ』『ね』『な』『ら』『む』」
み「うーむ。
ここには無さそうだな」
律「これって、行稼ぎじゃないの?」
み「言うで無い!」
食「小説では、兵隊を出して、号令をかけるって言いますよね」
み「『番号!』って、やつだな。
2,000人出せば、原稿100枚になる」
↑『兵馬俑』。中国ではありません。兵庫県姫路市にある『太陽公園』。面白そうな施設です。
み「一度やってみるか」
食「またの機会にしてください。
それに、この行に1音、欠音がありますよ」
み「うそ。
みんな普通の音じゃん。
なんで?」
食「どれでもひとつ、言ってみてください」
み「当たったら、何かくれるか?
言っておくが、にぎりっ屁はお断りだぞ」
食「『白神鶏わっぱ』の空き箱はどうです?」
み「いらんわ!」
食「じゃ、賞品は無しということで」
み「けち」
食「外したら、何かくれます?」
み「にぎりっ屁。
実も少し入れてやる」
律「もう!
下品な会話は止めてちょうだい」
食「答えを言いましょう」
み「待て!
『む』だ!」
食「何で、『む』なんです?」
み「言いにくかろ。
『む組』なんて」
律「そんなに言いにくくも無いけど」
み「昔、『ガンバ大阪』に、エムボマって選手がいたの知ってる?」
律「何で急に、サッカーの話題になるのよ」
み「ほー。
『ガンバ大阪』でサッカーの話題だとわかるとは、大したものじゃの」
律「バカにしないでちょうだい。
病院の看護師に、『川崎フロンターレ』の熱狂的ファンがいるのよ。
その子の口から、『ガンバ大阪』ってよく聞くもの。
強いんでしょ?」
み「2年後に、J2に落ちるがな」
↑再昇格、おめでとうございます。
律「なんで、そんなことわかるのよ?」
み「小説家というのは、登場人物にとっては神なのじゃ。
この話は、置いとく。
エムボマの話。
チミ、『エムボマ』引いて。
綴り」
食「『Mboma』ですね」
み「で、これを発音する場合……。
最初の“M”を、そのまま“エム”と読むなんてあり得ると思う?」
律「あるから、そう呼ばれてるんじゃないの?」
み「違います。
最初の音が表記できない発音だから、英語にするとき、とりあえず“M”にしたわけ」
律「どういう発音なの?」
み「たぶん、最も近い発音は、“んぼま”だと思う」
律「ウソばっかり」
み「ほんとなの!」
食「でもそれと、『む組』がどう繋がるんですか?」
み「発音しにくい同士で繋がるだろ。
言ってみ?
『む組』の“んぼま”」
食「なんで、エムボマが『む組』に入るんですか?」
み「入ったとして!」
律「入るわけないじゃない」
食「入っても入らなくても、『む』は外れです」
み「くっそー。
そしたら、何だよ?
『わ』『か』『よ』『た』『れ』『そ』『つ』『ね』『な』『ら』『む』。
体裁悪そうな字なんて、無いだろ」
食「『ら』ですよ」
み「へ?
ひょっとして、裸の『ら』?
あ、わかった。
『ら組』のくせに、着物きるんじゃねえとかからかわれるから?」
食「『ら』は、裸じゃなくてですね……。
えーっと、言いにくいな」
み「はっきりせい!」
食「『摩羅』に通じるからだそうです」
↑上海にあります。
み「何?
聞こえなかったぞ」
↑兵庫県西宮市『鷲林寺』の“聞き耳地蔵”さん。
律「聞こえたくせに」
み「もう少し大きな声で言ってくれるか。
車中に鳴り響くくらいに」
食「十分聞こえてたようなので、言いません」
律「あら可愛い。
赤くなってる」
み「恥ずかしがるキャラか。
こっちの方が、恥ずかしいわい」
食「大きなお世話です」
み「しかし……。
『ら』から『摩羅』を連想するかね?」
み「今の感覚とは、少しズレてるよね」
↑その名もズバリ『ヅラずれライター』。心から欲しくないです。
食「ですね。
次の行に移ります」
み「まだ良いではないか。
しばし留まらむ」
食「先を急ぎます。
『う』『ゐ』『の』『お』『く』『や』『ま』『け』『ふ』『こ』『え』『て』。
この行には、欠番はありませんので、飛ばします」
み「てことは、最終行に2文字か……」
食「『あ』『さ』『き』『ゆ』『め』『み』『し』『ゑ』『ひ』『も』『せ』『す』。
これは、わかるでしょ」
み「体裁の悪そうな文字は、見当たらんではないか」
食「体裁が悪いのは、『へ』と『ら』だけです」
↑へら鹿(ムース)。デカいです。肩高230㎝、体重800キロになるそうです。
食「あとの2文字は、別の理由ですね。
あれ?
『いろは歌』って、『ん』が無かったんですね」
↑“ん”の筆順。これを間違える人はいないと思います。
み「そんなわけ無いだろ。
7音と5音が繋がってるんだから……。
1行12音。
4行で48音じゃん」
食「あ、1箇所字足らずがあります。
『我が世たれぞ』が6文字ですね。
それで、47音しかないのか」
律「結局、答えのひとつは、『ん』なんですね?」
食「バレちゃいました」
み「なんで、『ん』がダメなわけ?」
食「“終わり”に通じるからだそうです」
み「通じてもいいだろ」
食「命の終わりを連想するからじゃないですか?」
み「そんなもんか?
あ、これこそ、わたしが『む組』で言ったこと、そのものじゃないの?」
律「『んぼま』?」
↑『ガンバ大阪』時代のエムボマ。驚異のリフティングボレーシュート。
み「それそれ。
言い難いだろ。
そうか。
エムボマは、『ん組』に入ったのか」
食「入りませんって。
『ん組』は無いんですから」
み「でも、なんで“いろは歌”には“ん”が無いんだ?」
↑『いろは歌』を7文字ずつ区切ると、末尾が意味を成す言葉になります。
食「“ん”は発音じゃないからってことみたいです」
み「ほら、やっぱり『んぼま』は発音できないんだ」
食「じゃ、最終行で、最後の1音を見つけてください。
これは、納得の1字だと思いますよ」
み「体裁でも、言いにくさでも無いわけね?」
食「無いです」
み「『あ』『さ』『き』『ゆ』『め』『み』『し』『ゑ』『ひ』『も』『せ』『す』」
み「おかしそうなの、無いけどね」
食「火事に関係があります」
み「火事?」
律「わかった!
わかりました!」
律「それは……。
んぐんぐ」
み「先に言うでない」
律「口塞がなくてもいいでしょ!」
み「わたしが考え中なの!」
律「考えるまでも無いわよ」
み「ま、先生が答えを見つけたんなら、そうだろうけど」
律「どういう意味?」
食「降参ですか?」
み「死んでも降参するかい!」
律「往生際が悪いわね」
み「『あ』?」
食「違います」
み「『さ』?」
食「一文字ずつ聞いてたら、いつか当たっちゃうじゃないですか」
み「これでいいのだ」
↑『これでいいのだ!! 映画★赤塚不二夫』
食「よくありません」
律「やっぱり、わたしが言いますね」
み「待て」
律「ほほ。
二度と同じ手を食うものですか。
逆に、腕を捻ってあげるわ」
み「いたたたたたた」
律「降参?」
み「何でこういう形で降参しなきゃならんの!」
律「死んでも降参しないんだったわね。
じゃ、このくらい捻ったらどう?」
み「ぎひぃ。
ギブアップ!
ギブアップ!」
律「だらしないわね。
まだ死んでないわよ」
み「痛みには弱いのじゃ。
う、腕が折れた」
↑この場合、“もげた”ですが。
律「折れるもんですか。
棺桶に入る、いい準備よ」
み「入る用事は無い!」
律「じゃ、答えを言います」
み「言うなー。
『き』だ」
食「往生際が悪いですね。
最後まで外れです。
それでは、先生、どうぞ」
律「それは……」
み「わーわーわー」
律「うるさい!」
み「痛い痛い痛い!」
食「大丈夫ですか?
今、ゴキっていいましたよ」
律「このくらいじゃ折れません」
食「泡、噴いてますけど」
律「静かになりましたでしょ。
それでは、答えを言います。
『ひ』です」
食「大当たりー。
ドンドン、パフパフ」
律「ほら、いつまで泡噴いてんのよ。
カニじゃないんだから」
↑カニ怪獣『ザバミ』。『仮面の忍者赤影 魔風編』には、たくさん怪獣が出てくるそうです。うーむ。面白そうだ。
律「起きなさいって。
逆に捻ってやろうかしら。
えい!」
み「ひぎゃー!」
律「聞いてた?
わたしの正解」
み「今度こそ折れた」
律「折れてませんって。
折るには、ここまで捻らなきゃダメなのよ」
み「あんぎゃー」
食「あの。
かなり近所迷惑です」
律「ですわね。
失礼しました。
ほら、あんたも謝りなさい」
み「なんでわたしが謝るのよ!」
律「素直じゃない女は、嫁の貰い手が無いわよ」
み「その言葉、そっくりお返しするわい」
↑上手い!
律「なんですって!
ほら、頭を下げなさい」
↑『チンチラ(ネズミの仲間)』。1メートルもジャンプする能力があり、20年生きるそうです。飼育には覚悟が必要。
み「イヤじゃぁー」
食「なんか、小学生レベルなんですけど」
律「ほんとにそういう頭なんですのよ。
ほら、ごめんなさいは!
えい!」
み「ゴキ」
食「今、肘掛けに、額が激突しましたよ」
食「大丈夫ですか?」
律「コブが出来る程度ですわ」
食「目が渦になってますけど」
律「起きてうるさいか、目を回すか、まともな状態って無いのかしらね。
ほら、わたしの正解を聞きなさいって。
今度は、くすぐってやるわ。
コチョコチョコチョコチョ」
み「あひゃひゃひゃ」
律「ほら、蘇った」
食「ゾンビですか」
律「静かに座って、わたしの正解を聞きなさい」
み「すっかり疲弊して、聞ける状態じゃないわい」
↑旅行帰りの空港で。
律「勝手に疲弊しないでちょうだい」
み「おのれのせいだろ!」
律「なんだ、元気じゃないの。
じゃ、改めて言うわね。
答えは……」
み「……」
律「邪魔しないの?」
み「もういい」
律「なに?、その投げやりな態度」
み「この程度のことで、あんな目に合わされたら、まったく割りに合わんわい」
律「じゃ、おとなしく聞きなさい。
答えは、『ひ』なのよ」
み「『ひ』?
何で、ダメなわけ?
普通の字じゃない」
律「まだ、わからない?」
み「あ」
食「ようやく気づきましたね」
み「そうか。
『火組』じゃ具合わるいわけか」
食「ですね。
ということで、48文字の中で、欠番は……。
『へ』『ら』『ん』『ひ』の4組になります」
み「賞品、くれ」
食「ひとつも当ててないでしょ」
み「もういい。
話を戻すぞ」
食「どこまで戻すんですか?」
律「そもそも、どっから火消しの話になったの?」
み「長屋だろ」
食「そうそう。
江戸時代の長屋は、火事に遭うことを前提に造られてたって話でしたよ」
み「それよ。
だから、江戸時代の長屋なが残ってるわけないの。
耐用年数なんて、20年も無かったんじゃないか?」
食「火事は、そうとう多かったらしいですね。
あ、ここに江戸時代の火事の回数が載ってますよ。
スゴいな。
1601年から、江戸の終わる1867年までの267年間に、1,798回も火事が起きてます。
267で割ると、6.7回ですよ」
↑『明暦の大火』。世界3大火の一つだそうです。
律「今の東京は、どれくらいなのかしら?」
食「ま、市街地の大きさが全然違いますけどね」
み「昔は、あるもの全部が可燃物だったんだから……。
火事による被害は、今と比べ物にならなかったろうね」
食「紙と木ばっかりですもんね」
み「吉原なんて、江戸時代だけで23回も丸焼けになってるのよ。
だから、映画で描かれてる、黒光りした廊下なんてのは、嘘っぱちなの。
黒光りするまでなんか、保たないんだから。
いつ行っても、新築同然だったはずよ」
み「だから、ひょっとしたら長屋も同じで……。
時代劇にあるみたいなオンボロ長屋なんて、ほんとは無かったんじゃないかね?」
↑『東映太秦映画村』のオープンセット。ここまで古びる長屋はあったんでしょうか?
律「でも、1軒くらいは残ってるんじゃないの?」
み「長屋の1軒だけ残せるわけないだろ!
みんな繋がってるんだから」
律「壁はあるでしょうに」
み「あれは、単なる仕切りよ。
建物を支えられるような壁じゃないの」
律「住んでたの?」
み「江戸時代の長屋に、住んでたわけないだろ!」
律「近所にあるって言ってなかった?」
み「新潟で言う長屋は、戸建てなの。
おんなじ作りのマッチ箱みたいな家だけど……。
それぞれ独立してて、隣との間は、人が通れるくらい空いてる」
律「それって、普通の貸家なんじゃないの?」
み「袋小路の両側に平屋建てが並んでる」
律「お風呂もトイレもあるんでしょ」
み「カラカラが付いてる汲み取りだけどね。
お風呂はさすがに、ガスだろうけど」
律「立派な貸家じゃないの」
み「ま、新潟で風呂が無いと、冬が大変だからね。
洗い髪に氷柱が下がるわ」
律「江戸時代の長屋の人は、銭湯よね?」
み「長屋どころか、どんな裕福な商人でも、家にお風呂を作ることは許されなかったの。
越後屋でさえ、内風呂は無かったのよ」
律「そうなの?
でも、そこまで平等だと、気持ちいいじゃない」
み「主人も手代も、同じ湯屋に通うわけだよね」
↑湯屋の二階。左下の男性が覗いてるのは、なんと女湯だそうです。呆れた設備があったものです。
律「おトイレはどうだったの?」
み「トイレは、便屋という、今で言う有料トイレに通ってた」
律「ウソおっしゃい」
み「わかりまっか?」
律「有料トイレなんて、下痢してたら大変よ」
み「確かに、そりゃ大変だ。
トイレは、長屋に共同のがあったわけ」
↑江戸では、しゃがんでる顔が見えたわけです。体裁悪りー。
律「外に建ってるの?
冬は寒かったでしょうね」
↑『深川江戸資料館』
み「確かにね。
面倒くさくて、徳利とかにしてたかもね」
↑徳利におしっこと云えば、落語『禁酒番屋』。
律「女性はどうするのよ?
尿瓶とか?」
↑逆流! 考えただけで切ないです。
み「トイレに行けばいいだけだろ!」
律「無料よね?」
み「当たり前です。
ていうか、江戸時代のトイレってのは、むしろ収入源だったのよ」
律「どういうこと?」
律「遺族は見てられないわよ」
み「専門の畳み屋がいるんだよ」
食「昔の必殺シリーズで、そんな技持った仕掛人がいましたね」
↑演じたのは山崎努。
み「あ、見たことあるかも」
↑これは、歴ドルの“小日向えり”ちゃん(失礼。存じませんでした)が、『念仏の鉄』を見てるところ。再放送ではなく、DVDだと思います。
み「ボキボキって、音がするやつでしょ?」
食「骨のレントゲン写真が、画面に映るんですよね」
「あれは、斬新だったでしょうね」
律「どっから、こんな話になったの?」
食「“棺桶みたいなお風呂”ってとこからです」
み「あ、そうか。
だから、昔の木製のお風呂は、桶に似てたのよ。
風呂桶って言うでしょ」
↑『平塚市博物館』所蔵。右下にあるのが焚き口だそうです。なんか、危険な感じですよね。風呂桶ごと燃えないんでしょうか? 水が入ってるから大丈夫なのか?
律「今どき、そんなお風呂無いわ」
み「だから!
ボットン便所の長屋なの。
お風呂だって、古いのよ」
律「江戸時代の長屋?」
み「そんなのが残ってたら、重要文化財だわ」
律「何で残ってないのよ?」
み「長屋なんて、作りがちゃちなの。
火事に遭えば、あっという間に燃え落ちるだろうし……。
地震が起きれば、平行四辺形みたいに歪んで、あっという間にぺちゃんこ。
大風が吹けば飛んでいくし……。
相撲取りが通れば、壊れる」
律「ウソ言いなさい」
み「今、Wikiで『長屋』を引いてみたんですが……。
火事になることを前提に作られてたみたいですね」
↑オランダの宣教師モンタヌスが描いた『明暦江戸大火之図』。モンタヌスは日本に来たことがなく、この絵は伝聞で描いたものだそうです。『明暦の大火(1657年)』は、海外まで知れ渡っていたということです。
み「ほらみれ」
食「柱の太さは、2寸だったそうです」
み「2寸って、6センチだよね。
細っ!」
↑下段蹴りで一撃。この材木が6センチ角だそうです。
食「あと、壁も土壁じゃなくて……。
板張りのようです」
み「隣の声なんて、筒抜けだぜ」
律「『三匹の子ブタ』の家みたいじゃない」
律「いくら火事になるからって、チャチ過ぎない?」
み「わざと、チャチに作ってあるの」
律「なんでよ?」
み「簡単に壊れるようによ」
律「建て替えしやすいから?」
み「でなくて、火事になることを前提にしてるわけ」
↑ご存じ『八百屋お七』。
律「どういうこと?」
み「江戸時代の消火活動ってのは、破壊消防が主だったの」
み「竜吐水(りゅうどすい)なんていうポンプもあったみたいだけど……」
み「水の補給が手間だったりして、ほとんど役に立たない」
律「じゃ、どうやって消したのよ?」
み「消火ラインを決めて……。
その線上の家を叩き壊して、そこから外への類焼を防いだわけ。
だから、密集した長屋は、すぐ壊せるように作られてたのよ。
たぶん、手鉤を引っ掛けて引っ張れば……」
み「すぐにペチャンコになったんじゃない?」
律「ふーん。
でも、壊される方はたまらないわよ」
み「住んでる人は、大して痛くないでしょ。
借りてるだけなんだから」
律「家財道具とかがあるじゃない」
み「あのね。
長屋の広さって知ってる?」
律「知らないわよ」
み「ほれ、チミ。
森田検索」
食「なんですか、それ?」
み「とっとと検索して」
律「あんたも、わからないんじゃないのよ」
み「正確を期したいからです」
食「えーっと。
棟割長屋は、九尺二間だったそうです」
み「まずその、棟割長屋を説明したまえ」
食「えーっとですね。
まず、長屋の中に、区画が無いものとして考えてみてください。
で、まず、建物の長い方向に、縦に2つに割るわけです。
ものすごく細長い区画が2つできます。
これが『棟割』です。
あとは、その細長い区画を、細かく割っていくわけです」
み「九尺二間は?」
食「間口が9尺ってことです。
2.7メートルですね。
奥行きが、2間。
つまり、3.6メートルです」
み「何畳になるんだ?」
食「2.7×3.6は、9.72平米です。
畳は、1.8×0.9だから……。
1.62平米。
9.72÷1.62は……。
ちょうど6畳ですね」
み「なんだ、そこそこ広いではないか」
食「でも、入口を入ったところが、土間兼台所なわけです」
食「これが、2.7×0.9で、2.43平米。
2.43÷1.62は、ちょうど1.5。
つまり、土間兼台所が、1.5畳。
ですから、部屋の部分は、4.5畳になりますね」
み「狭い!
しかも、押し入れも無いわけよ」
律「収納スペース、ゼロ?」
み「左様です。
布団なんか、部屋の隅に積んでおいたわけ」
↑風呂敷は、掛けるかもしれないけど……。ぜったいにこんな包み方はしないと思います(江戸っ子じゃなくたって、面倒くせー)。
み「すなわち、季節ものなんかを仕舞っておく場所はないってこと」
律「どうするのよ?
人の居場所が無くなっちゃうわ」
み「で、そこで登場するのが、『損料屋』という商売」
律「何それ?」
み「今のレンタル屋」
↑京都市下京区にある『さんきゅう・レンタル』さん。
み「しかも、レンタル品目は、今よりはるかに多かった。
生活必需品は、ほとんどレンタル出来たわけ。
当然、季節用品なんかは……。
その季節に必要なものだけ借りて使ってるのよ。
夏の蚊帳とか、冬の火鉢とか」
↑は、『深川江戸資料館』の展示。
これは、かなりな高級長屋だと思います。
↓畳さえ無く、板の間にゴザという長屋も多かったようです。
律「へー。
でも、レンタル屋さんの方は大変なんじゃない?
季節外れの物を、大量に仕舞っておかなきゃならないんだから」
み「ま、そうだよね。
損料屋は、たいがい質屋を兼ねてたから……」
↑太秦映画村に再現された『岩田屋質店』。
み「蔵はあったろうけどね。
質流れ品が次々発生するから、貸す物にも困らなかったろうし」
↑『江戸見世屋図聚』の質屋
律「ふーん。
儲かったのかな?」
み「一件一件は薄利でも、数で稼いだんじゃないの?
なにしろ、フンドシまでレンタルだったそうよ」
律「うそ」
み「これはホントの話。
吉原に繰り出すときなんか……。
新品のフンドシに借り直したらしいわ」
↑明治時代の彩色写真。
フンドシは、洗わずに返せたそうです。
そのほか、借りる期間もさまざまに設定でき……。
数時間のレンタルも出来ました。
日の出ている間だけ貸す『烏貸(からすがし)』や……。
日が落ちてから日が昇るまで貸す『蝙蝠貸(こうもりがし)』などです。
なお、借りるときは、借賃の三倍を払わなければなりません。
二倍分は、保証金ですね。
レンタル品を返すときに、保証金は返還されますが……。
品物が壊れていれば、保証金から修繕費が差し引かれたわけです。
律「なんか、今より合理的な暮らしかもね」
み「そうだよ。
今の暮らしなんて……。
夏なら、ストーブを仕舞っとかなきゃならない」
↑わたしは、夏中出しっぱなしですが。
み「冬は、扇風機。
これがレンタルで済めば、ずっと楽でしょ」
律「気楽な暮らしかもね。
でも、火事で燃えちゃったら、弁償しなくていいわけ?」
み「いいに決まってるでしょ。
類焼を止めるために壊されるんだから」
律「あぁ。
その話からだったわね。
建物を壊して、類焼を防ぐって」
み「そう、消火ラインだね。
そのライン上になるのは、その家の責任じゃないんだから……。
借りてる家財を弁償する必要は無いでしょ」
律「そのラインって、誰が決めるの?」
み「それは当然、組の頭(かしら)よ。
『め組の喧嘩』とか、聞いたことない?」
↑1805年に起きた町火消し『め組』と江戸相撲の力士たちの乱闘事件を題材してます。
み「町火消には、『いろは組』って言って、48組あったわけ」
食「さて、ここで問題です」
み「なんじゃい?」
食「今、Wikiで『火消』を引いてたら、面白いデータが載ってました。
『いろは48組』の中には、使われない文字が4つあったそうです。
その字の代わりに、『百』『千』『万』『本』が使われたそうです。
では、その4文字とは、何でしょう?(↑の画像を、よーく見るとわかります)」
み「1つは、確実にわかるぞ」
律「何よ?」
み「『へ組』に決まっておる」
律「やっぱり、音感?」
み「当然です。
体裁悪すぎ」
↑三重県名張市『赤目四十八滝』の名物、その名も『へこきまんじゅう』。生地にさつま芋を使ってるそうです。
食「正解です」
↑久しぶりに、『パフパフラッパを鳴らす柴犬』をどうぞ。
み「どんなもんだい」
食「あと3つも当ててください」
み「えーっと……。
『い』は、あるだろ。
『ろ』『は』『に』『ほ』もあって……。
『へ』が無いわけだ。
『と』『ち』『り』『ぬ』『る』『を』。
この続きって、何?」
食「わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす」
み「すらすら言いおったな」
食「今、『いろは歌』を画面に出してますから」
み「なんだ。
カンニングか。
もう一度、一行目から」
食「『わ』『か』『よ』『た』『れ』『そ』『つ』『ね』『な』『ら』『む』」
み「うーむ。
ここには無さそうだな」
律「これって、行稼ぎじゃないの?」
み「言うで無い!」
食「小説では、兵隊を出して、号令をかけるって言いますよね」
み「『番号!』って、やつだな。
2,000人出せば、原稿100枚になる」
↑『兵馬俑』。中国ではありません。兵庫県姫路市にある『太陽公園』。面白そうな施設です。
み「一度やってみるか」
食「またの機会にしてください。
それに、この行に1音、欠音がありますよ」
み「うそ。
みんな普通の音じゃん。
なんで?」
食「どれでもひとつ、言ってみてください」
み「当たったら、何かくれるか?
言っておくが、にぎりっ屁はお断りだぞ」
食「『白神鶏わっぱ』の空き箱はどうです?」
み「いらんわ!」
食「じゃ、賞品は無しということで」
み「けち」
食「外したら、何かくれます?」
み「にぎりっ屁。
実も少し入れてやる」
律「もう!
下品な会話は止めてちょうだい」
食「答えを言いましょう」
み「待て!
『む』だ!」
食「何で、『む』なんです?」
み「言いにくかろ。
『む組』なんて」
律「そんなに言いにくくも無いけど」
み「昔、『ガンバ大阪』に、エムボマって選手がいたの知ってる?」
律「何で急に、サッカーの話題になるのよ」
み「ほー。
『ガンバ大阪』でサッカーの話題だとわかるとは、大したものじゃの」
律「バカにしないでちょうだい。
病院の看護師に、『川崎フロンターレ』の熱狂的ファンがいるのよ。
その子の口から、『ガンバ大阪』ってよく聞くもの。
強いんでしょ?」
み「2年後に、J2に落ちるがな」
↑再昇格、おめでとうございます。
律「なんで、そんなことわかるのよ?」
み「小説家というのは、登場人物にとっては神なのじゃ。
この話は、置いとく。
エムボマの話。
チミ、『エムボマ』引いて。
綴り」
食「『Mboma』ですね」
み「で、これを発音する場合……。
最初の“M”を、そのまま“エム”と読むなんてあり得ると思う?」
律「あるから、そう呼ばれてるんじゃないの?」
み「違います。
最初の音が表記できない発音だから、英語にするとき、とりあえず“M”にしたわけ」
律「どういう発音なの?」
み「たぶん、最も近い発音は、“んぼま”だと思う」
律「ウソばっかり」
み「ほんとなの!」
食「でもそれと、『む組』がどう繋がるんですか?」
み「発音しにくい同士で繋がるだろ。
言ってみ?
『む組』の“んぼま”」
食「なんで、エムボマが『む組』に入るんですか?」
み「入ったとして!」
律「入るわけないじゃない」
食「入っても入らなくても、『む』は外れです」
み「くっそー。
そしたら、何だよ?
『わ』『か』『よ』『た』『れ』『そ』『つ』『ね』『な』『ら』『む』。
体裁悪そうな字なんて、無いだろ」
食「『ら』ですよ」
み「へ?
ひょっとして、裸の『ら』?
あ、わかった。
『ら組』のくせに、着物きるんじゃねえとかからかわれるから?」
食「『ら』は、裸じゃなくてですね……。
えーっと、言いにくいな」
み「はっきりせい!」
食「『摩羅』に通じるからだそうです」
↑上海にあります。
み「何?
聞こえなかったぞ」
↑兵庫県西宮市『鷲林寺』の“聞き耳地蔵”さん。
律「聞こえたくせに」
み「もう少し大きな声で言ってくれるか。
車中に鳴り響くくらいに」
食「十分聞こえてたようなので、言いません」
律「あら可愛い。
赤くなってる」
み「恥ずかしがるキャラか。
こっちの方が、恥ずかしいわい」
食「大きなお世話です」
み「しかし……。
『ら』から『摩羅』を連想するかね?」
み「今の感覚とは、少しズレてるよね」
↑その名もズバリ『ヅラずれライター』。心から欲しくないです。
食「ですね。
次の行に移ります」
み「まだ良いではないか。
しばし留まらむ」
食「先を急ぎます。
『う』『ゐ』『の』『お』『く』『や』『ま』『け』『ふ』『こ』『え』『て』。
この行には、欠番はありませんので、飛ばします」
み「てことは、最終行に2文字か……」
食「『あ』『さ』『き』『ゆ』『め』『み』『し』『ゑ』『ひ』『も』『せ』『す』。
これは、わかるでしょ」
み「体裁の悪そうな文字は、見当たらんではないか」
食「体裁が悪いのは、『へ』と『ら』だけです」
↑へら鹿(ムース)。デカいです。肩高230㎝、体重800キロになるそうです。
食「あとの2文字は、別の理由ですね。
あれ?
『いろは歌』って、『ん』が無かったんですね」
↑“ん”の筆順。これを間違える人はいないと思います。
み「そんなわけ無いだろ。
7音と5音が繋がってるんだから……。
1行12音。
4行で48音じゃん」
食「あ、1箇所字足らずがあります。
『我が世たれぞ』が6文字ですね。
それで、47音しかないのか」
律「結局、答えのひとつは、『ん』なんですね?」
食「バレちゃいました」
み「なんで、『ん』がダメなわけ?」
食「“終わり”に通じるからだそうです」
み「通じてもいいだろ」
食「命の終わりを連想するからじゃないですか?」
み「そんなもんか?
あ、これこそ、わたしが『む組』で言ったこと、そのものじゃないの?」
律「『んぼま』?」
↑『ガンバ大阪』時代のエムボマ。驚異のリフティングボレーシュート。
み「それそれ。
言い難いだろ。
そうか。
エムボマは、『ん組』に入ったのか」
食「入りませんって。
『ん組』は無いんですから」
み「でも、なんで“いろは歌”には“ん”が無いんだ?」
↑『いろは歌』を7文字ずつ区切ると、末尾が意味を成す言葉になります。
食「“ん”は発音じゃないからってことみたいです」
み「ほら、やっぱり『んぼま』は発音できないんだ」
食「じゃ、最終行で、最後の1音を見つけてください。
これは、納得の1字だと思いますよ」
み「体裁でも、言いにくさでも無いわけね?」
食「無いです」
み「『あ』『さ』『き』『ゆ』『め』『み』『し』『ゑ』『ひ』『も』『せ』『す』」
み「おかしそうなの、無いけどね」
食「火事に関係があります」
み「火事?」
律「わかった!
わかりました!」
律「それは……。
んぐんぐ」
み「先に言うでない」
律「口塞がなくてもいいでしょ!」
み「わたしが考え中なの!」
律「考えるまでも無いわよ」
み「ま、先生が答えを見つけたんなら、そうだろうけど」
律「どういう意味?」
食「降参ですか?」
み「死んでも降参するかい!」
律「往生際が悪いわね」
み「『あ』?」
食「違います」
み「『さ』?」
食「一文字ずつ聞いてたら、いつか当たっちゃうじゃないですか」
み「これでいいのだ」
↑『これでいいのだ!! 映画★赤塚不二夫』
食「よくありません」
律「やっぱり、わたしが言いますね」
み「待て」
律「ほほ。
二度と同じ手を食うものですか。
逆に、腕を捻ってあげるわ」
み「いたたたたたた」
律「降参?」
み「何でこういう形で降参しなきゃならんの!」
律「死んでも降参しないんだったわね。
じゃ、このくらい捻ったらどう?」
み「ぎひぃ。
ギブアップ!
ギブアップ!」
律「だらしないわね。
まだ死んでないわよ」
み「痛みには弱いのじゃ。
う、腕が折れた」
↑この場合、“もげた”ですが。
律「折れるもんですか。
棺桶に入る、いい準備よ」
み「入る用事は無い!」
律「じゃ、答えを言います」
み「言うなー。
『き』だ」
食「往生際が悪いですね。
最後まで外れです。
それでは、先生、どうぞ」
律「それは……」
み「わーわーわー」
律「うるさい!」
み「痛い痛い痛い!」
食「大丈夫ですか?
今、ゴキっていいましたよ」
律「このくらいじゃ折れません」
食「泡、噴いてますけど」
律「静かになりましたでしょ。
それでは、答えを言います。
『ひ』です」
食「大当たりー。
ドンドン、パフパフ」
律「ほら、いつまで泡噴いてんのよ。
カニじゃないんだから」
↑カニ怪獣『ザバミ』。『仮面の忍者赤影 魔風編』には、たくさん怪獣が出てくるそうです。うーむ。面白そうだ。
律「起きなさいって。
逆に捻ってやろうかしら。
えい!」
み「ひぎゃー!」
律「聞いてた?
わたしの正解」
み「今度こそ折れた」
律「折れてませんって。
折るには、ここまで捻らなきゃダメなのよ」
み「あんぎゃー」
食「あの。
かなり近所迷惑です」
律「ですわね。
失礼しました。
ほら、あんたも謝りなさい」
み「なんでわたしが謝るのよ!」
律「素直じゃない女は、嫁の貰い手が無いわよ」
み「その言葉、そっくりお返しするわい」
↑上手い!
律「なんですって!
ほら、頭を下げなさい」
↑『チンチラ(ネズミの仲間)』。1メートルもジャンプする能力があり、20年生きるそうです。飼育には覚悟が必要。
み「イヤじゃぁー」
食「なんか、小学生レベルなんですけど」
律「ほんとにそういう頭なんですのよ。
ほら、ごめんなさいは!
えい!」
み「ゴキ」
食「今、肘掛けに、額が激突しましたよ」
食「大丈夫ですか?」
律「コブが出来る程度ですわ」
食「目が渦になってますけど」
律「起きてうるさいか、目を回すか、まともな状態って無いのかしらね。
ほら、わたしの正解を聞きなさいって。
今度は、くすぐってやるわ。
コチョコチョコチョコチョ」
み「あひゃひゃひゃ」
律「ほら、蘇った」
食「ゾンビですか」
律「静かに座って、わたしの正解を聞きなさい」
み「すっかり疲弊して、聞ける状態じゃないわい」
↑旅行帰りの空港で。
律「勝手に疲弊しないでちょうだい」
み「おのれのせいだろ!」
律「なんだ、元気じゃないの。
じゃ、改めて言うわね。
答えは……」
み「……」
律「邪魔しないの?」
み「もういい」
律「なに?、その投げやりな態度」
み「この程度のことで、あんな目に合わされたら、まったく割りに合わんわい」
律「じゃ、おとなしく聞きなさい。
答えは、『ひ』なのよ」
み「『ひ』?
何で、ダメなわけ?
普通の字じゃない」
律「まだ、わからない?」
み「あ」
食「ようやく気づきましたね」
み「そうか。
『火組』じゃ具合わるいわけか」
食「ですね。
ということで、48文字の中で、欠番は……。
『へ』『ら』『ん』『ひ』の4組になります」
み「賞品、くれ」
食「ひとつも当ててないでしょ」
み「もういい。
話を戻すぞ」
食「どこまで戻すんですか?」
律「そもそも、どっから火消しの話になったの?」
み「長屋だろ」
食「そうそう。
江戸時代の長屋は、火事に遭うことを前提に造られてたって話でしたよ」
み「それよ。
だから、江戸時代の長屋なが残ってるわけないの。
耐用年数なんて、20年も無かったんじゃないか?」
食「火事は、そうとう多かったらしいですね。
あ、ここに江戸時代の火事の回数が載ってますよ。
スゴいな。
1601年から、江戸の終わる1867年までの267年間に、1,798回も火事が起きてます。
267で割ると、6.7回ですよ」
↑『明暦の大火』。世界3大火の一つだそうです。
律「今の東京は、どれくらいなのかしら?」
食「ま、市街地の大きさが全然違いますけどね」
み「昔は、あるもの全部が可燃物だったんだから……。
火事による被害は、今と比べ物にならなかったろうね」
食「紙と木ばっかりですもんね」
み「吉原なんて、江戸時代だけで23回も丸焼けになってるのよ。
だから、映画で描かれてる、黒光りした廊下なんてのは、嘘っぱちなの。
黒光りするまでなんか、保たないんだから。
いつ行っても、新築同然だったはずよ」
み「だから、ひょっとしたら長屋も同じで……。
時代劇にあるみたいなオンボロ長屋なんて、ほんとは無かったんじゃないかね?」
↑『東映太秦映画村』のオープンセット。ここまで古びる長屋はあったんでしょうか?
律「でも、1軒くらいは残ってるんじゃないの?」
み「長屋の1軒だけ残せるわけないだろ!
みんな繋がってるんだから」
律「壁はあるでしょうに」
み「あれは、単なる仕切りよ。
建物を支えられるような壁じゃないの」
律「住んでたの?」
み「江戸時代の長屋に、住んでたわけないだろ!」
律「近所にあるって言ってなかった?」
み「新潟で言う長屋は、戸建てなの。
おんなじ作りのマッチ箱みたいな家だけど……。
それぞれ独立してて、隣との間は、人が通れるくらい空いてる」
律「それって、普通の貸家なんじゃないの?」
み「袋小路の両側に平屋建てが並んでる」
律「お風呂もトイレもあるんでしょ」
み「カラカラが付いてる汲み取りだけどね。
お風呂はさすがに、ガスだろうけど」
律「立派な貸家じゃないの」
み「ま、新潟で風呂が無いと、冬が大変だからね。
洗い髪に氷柱が下がるわ」
律「江戸時代の長屋の人は、銭湯よね?」
み「長屋どころか、どんな裕福な商人でも、家にお風呂を作ることは許されなかったの。
越後屋でさえ、内風呂は無かったのよ」
律「そうなの?
でも、そこまで平等だと、気持ちいいじゃない」
み「主人も手代も、同じ湯屋に通うわけだよね」
↑湯屋の二階。左下の男性が覗いてるのは、なんと女湯だそうです。呆れた設備があったものです。
律「おトイレはどうだったの?」
み「トイレは、便屋という、今で言う有料トイレに通ってた」
律「ウソおっしゃい」
み「わかりまっか?」
律「有料トイレなんて、下痢してたら大変よ」
み「確かに、そりゃ大変だ。
トイレは、長屋に共同のがあったわけ」
↑江戸では、しゃがんでる顔が見えたわけです。体裁悪りー。
律「外に建ってるの?
冬は寒かったでしょうね」
↑『深川江戸資料館』
み「確かにね。
面倒くさくて、徳利とかにしてたかもね」
↑徳利におしっこと云えば、落語『禁酒番屋』。
律「女性はどうするのよ?
尿瓶とか?」
↑逆流! 考えただけで切ないです。
み「トイレに行けばいいだけだろ!」
律「無料よね?」
み「当たり前です。
ていうか、江戸時代のトイレってのは、むしろ収入源だったのよ」
律「どういうこと?」