2013.11.2(土)
食「『くろくまの滝』です」
み「有名なわけ?」
食「『日本の滝百選』に入ってます」
み「奥地っぽいじゃないか」
食「大丈夫。
近くに駐車場がありますから。
そこから、徒歩15分くらいです」
み「もうちょっと歩いたほうがいいんじゃないか?」
食「往復で30分です」
み「登山道か?」
食「遊歩道です」
み「10往復しろ」
食「意味ないでしょ。
とにかく、徒歩15分で『くろくまの滝』なんです。
青森県で『日本の滝百選』に入ってるのは……。
あとひとつ、十和田市の『松見の滝』だけです」
↑『松見の滝』。落差90メートル。残念ながら、国道から徒歩で3時間かかるようです。
み「ま、百選なんだから……。
ひとつの都道府県あたり、2つくらいだわな」
ちなみに新潟県には3つありました。
一番多いのは、やはり北海道で、6つでした。
わたしが見たことのある『オシンコシンの滝』も入ってました。
なんと、『日本の滝百選』を全制覇した方がいらっしゃいました(こちら)。
食「『くろくまの滝』は……。
高さ85メートル、幅15メートルの大滝です」
み「85メートルってのは高そうだな。
『オシンコシンの滝』は、何メートル?」
食「あれで確か、50メートルくらいですよ」
み「なに!
あの倍近くあるのか」
食「ビルにすると、25階建てくらいになります」
↑新潟県庁。高さ87.3メートル。
食「その高さから水が落ちる様も壮観ですが……。
滝の姿が、観音様が合掌しているようにも見えることから、古くから信仰の対象となってます」
↑不信心のせいか、さっぱりそのようには見えませぬ。
み「ほー。
でも、そんな滝じゃ、魚は上れんわな」
食「当然です。
実は、この滝の上流が、赤石川渓流なんです」
↑こんな澱みもあります。水量豊富ですね。
み「『金アユ』の?」
食「そうです」
み「滝の下で待ってれば、金アユが落ちて来ないか?」
食「落ちてくるとしても……。
『待ちぼうけ』級の確率だと思います」
み「さて。
トレッキングも堪能したし……」
食「いつ堪能したんです?」
み「耳だけで十分」
食「歩くの、好きじゃないんでしょ。
人のこと言えないじゃないですか」
み「鰺ヶ沢話、終了?」
食「とんでもない。
まだありますよ」
み「続けてよし」
食「鰺ヶ沢と言えば……。
ある相撲取りの出身地です」
み「また、相撲取りの話か!
岩木山が出たばっかりだろ」
食「もうちょっと古いですよ」
み「双葉山?」
食「古すぎです」
み「誰じゃい?」
食「舞の海ですよ」
み「おー、微妙に懐かしいね。
解説では、いつも出てるけど」
食「『鰺ケ沢駅』から、徒歩15分のところに……。
『海の駅わんど』があります」
み「『道の駅』じゃなくて?」
食「ま、基本的におんなじようなものですけど。
魚介類や農産物が買えます」
食「その2階に、『鰺ヶ沢相撲館』が併設されてるんです」
み「そこに、舞の海がいるわけね」
↑写真が、曙と並んでるようです。なんで台に載ってるんだ?
食「本人はいませんって。
舞の海ゆかりの品が並んでます」
み「ゆかりの品って……。
新弟子検査を通過するために、たん瘤作ったシリコンとか?」
↑新弟子検査の写真は展示されてます。バレバレだったようですね。
食「そんなの、あるわけないでしょ。
引退したとき落とした髷とか……」
食「現役時代の化粧まわし。
あと、高校時代の写真とかです」
↑入門には、こんな秘話が。
み「あまり大した品ではないではないか」
↑2/3サイズの土俵もあります。
食「入場無料ですからね。
でも、一番の見ものは……。
20分の映像です」
み「エロいやつ?」
食「違います。
舞の海の絶頂時の取組です。
貴乃花、小錦、曙などを相手にした一番は……。
見てる人から歓声が上がるほどだそうです」
↑大関時代の貴乃花との一番。舞の海の完勝です。
み「ま、確かにあの体格差の対戦は、ほかのスポーツじゃ有り得ないからね」
食「舞の海は、『Mighty Mouse(マイティマウス)』と呼ばれ……」
食「外人さんにも大人気でした」
み「確かに、今の相撲より、数段面白いだろうな。
今は、デブだけだもんね」
↑左の力士は、北の湖部屋の大露羅(おおろら)。ロシア出身。体重273㎏。三段目に10年以上いるようです。右も相当なデブですが……。残念ながら詳細不明です。
食「映像に夢中になるあまり、団体バスを遅らせた人が、何人もいるそうです」
み「うーむ。
侮れぬ、鰺ヶ沢。
1泊しても、いろいろ楽しめそうだな」
食「もちろんですよ。
鰺ヶ沢温泉もありますから」
み「おー、どんな温泉じゃい?」
食「60年くらい前、石油を掘ろうとしてボーリングしたら……。
温泉が湧いたそうです」
み「またそのパターンか」
食「これが、『山海荘』というホテルなんですが……」
食「別館の『水軍の宿』もお勧めです」
食「30万年前の海水が、温泉となって湧き出してるそうです」
↑客室露天風呂です。
み「料理はやっぱり、海鮮系だろうね」
食「それは当然ですよ。
鰺ヶ沢港で水揚げされた、新鮮な魚介です。
でも、事前に予約すれば……。
イトウも食べられます(10人前からのようです)」
↑デカいので、1匹仕入れると、10人前くらいになっちゃうんでしょうね。
み「ここにもいたのか、イトウさん!」
食「近くに、養殖場がありますから」
み「魚好きにはたまらんだろうね」
食「『海の駅わんど』の鮮魚コーナーには……。
弘前からも、業者が仕入れに来るそうです」
食「水揚げされた魚がすぐに並びますから、鮮度抜群。
しかも、安い」
み「ネタは?」
「ブリ、タイ、アンコウ、カレイ、ヤリイカ、ヒラメ」
食「旬の魚はなんでも揃いますよ」
み「観光客は、そんなの買って帰れないではないか」
食「鮮魚だけじゃありませんから。
イカの塩辛、生干し、サケの寒干し、ホッケ寿し、沖漬け、岩のり」
↑ホッケ寿し。個人的には、パス。
食「さらに、山の恵みも満載です。
ワラビ、フキ、タケノコ、キノコ」
み「覗いて見る分には、面白そうだ。
臭そうだけど。
さて、鰺ヶ沢話も、このあたりで出尽くしかな?」
食「いえいえ。
もうひとつ語らせてください。
新しい鰺ヶ沢名物です」
み「なんじゃい?」
食「秋田犬の“わさお”です」
み「秋田犬と云うからには……。
犬だな」
食「当たり前です」
み「何で、青森犬じゃないわけ?」
↑『あおもり犬』ならいました(青森県立美術館)。
食「そんな犬、いないでしょ」
み「訛って吠えそうだけど」
食「怒られますよ」
み「どうして有名なわけ」
食「いわゆる、ぶさ犬です。
捨て犬だったそうです」
↑自らの足を食う“わさお”。
み「あまりに不細工で捨てたのかな?」
食「もしそうなら……。
捨てた人は、後悔してるでしょうね」
み「そのココロは?」
食「拾ったのは、海沿いにある『七里ヶ浜きくや商店』というお店なんですが……」
↑商魂は逞しそうです。
食「わさおのお陰で、大繁盛だそうです。
なにしろ、わさお詣でのツアーが組まれるほどだそうですから」
み「何のお店よ?」
食「生干しのイカを炭火で焼いて食べさせる店です」
↑いか焼き(300円)
食「鰺ヶ沢の海岸通りの名物なんですよ。
別名『焼きイカ通り』って言いまして……」
食「生干しイカが潮風になびく“イカのカーテン”は見ものです」
み「うーん。
生臭そうな通りだ。
猫なら堪えられんな」
↑『ネコとスルメ』作:長谷祐史(ポストカード作家)
食「ひょっとしたら、猫除けの番犬として拾われたのかも知れませんね」
↑番犬にはならないかも。
み「タダで拾った犬が、客を招いてくれたってことか」
↑わさおの小屋前に群がる人々。前の道路は、交通整理の誘導員が出るほどだそうです。
食「2008年に、旅行記ブロガー、メレ山メレ子さんのブログで紹介されたのがきっかけのようです(こちら)」
律「同じブロガーでも、ブームまで作る人がいるのね」
↑しかも美人。しかも東大出。
み「何が言いたい?」
律「別に」
食「実は、“わさお”の名付け親も、メレ子さんなんです。
それまでは、ライオンみたいな毛並みから、“レオ”と呼ばれてました」
↑これも、“わさお”に改名すれば?
み「それは、ぶさ犬には似合わんな」
食「以降は、トントン拍子の出世です。
同じ年の7月、日本テレビ『99プラス』で取り上げられ、注目を浴びました。
さっそく12月には、鯵ヶ沢町観光協会が“わさおTシャツ”を売り出します」
↑公式Tシャツ販売サイトはこちら。
み「けっこう、抜け目ないでねぇの」
食「確かに。
それをきっかけに、テレビ、新聞、雑誌が一斉に取り上げ……。
存在が広く知られるようになりました」
み「わたしは知らんかった」
食「犬嫌いですか?」
み「小学校のころ、神社でノラ犬に追いかけられた」
↑これは、ハイエナさんですが……。確か、こんな顔をしてました。
律「何かしたんでしょ。
石、投げるとか」
み「するかい!
いきなり、言いがかり付けられたのだ。
おぅおぅおぅ、って」
律「犬が、そんな口、利くわけないでしょ」
み「翻訳してるの!
人語に」
律「原語だと、どうだったのよ?」
み「わぅわぅわぅ」
律「ウソこきなさい」
み「こいてないわい!」
律「で、どうなったのよ?
頭から食べられた?」
み「食べられたら、ここにいないだろ!
でも、給食のパンの残りを食われた」
律「そんなの持って歩いてたの?」
み「ランドセルに入れてたの」
律「パンなんて、残していいの?」
み「残すのはダメだったけど……。
持って帰るんならいいって。
ま、わたしだけの特例だったかもね」
律「何で、あんただけ特別扱いされるのよ?」
み「入学して最初の給食で、ゲロ吐いたから。
無理に食べさせたら、またゲロ吐くって思われたんでしょ」
律「汚い子供」
み「男子は悲惨だったね。
トマトが食えないヤツなんか……。
昼休み中、トマトの皿を前にして、脂汗流してた」
律「今なら、ぜったい問題になるわ」
み「昔は、アレルギーとかって、ぜんぜん意識に無かったよね。
今の子に無理に食べさせたりしたら……。
アレルギーショックで死にかねないからね」
律「潔癖なお母さんだと……。
子供が、無菌状態みたいな環境で育っちゃうのよ」
み「もうちょっと、小汚い環境で育てなさいってことか。
先生の部屋みたいに」
↑なぜか落ち着けそうな部屋です。
律「うるさい」
み「これは聞いた話だけど……。
酢豚が食べれない子がいたんだって。
でも、皿を空にするまで、席を立つことを許されない。
その子ね……。
先生の目を盗んで、酢豚を自分の靴下に詰めたそうよ」
↑靴下の臭いに驚愕する猫。
律「悲惨。
トラウマだわ」
み「そんな目に合わされたら……。
ゲロ吐けばいいんだよ」
み「居残りさせられる度にゲロ吐けば、先生も諦めてくれるって」
律「そんなの、矜持のない人間にだけ出来ることだわ」
み「悪うござんしたね」
律「だからバチが当たったのよ。
でも、ランドセルに入れてたパンを、どうして食べられたの?
犬が、ランドセル開けたの?」
み「そんな器用な犬がいるかい。
追いかけられて、すっ転んだ拍子に……。
中身が散らばったわけ」
律「フタ閉めて無かったの?」
み「ときどき忘れて、バタバタいってた」
律「ほんとに、ダメな小学生ね。
教育的指導が必要だわ」
み「大きなお世話じゃ。
ほれ、チミ。
さっさと話を続けんかい。
妙なとばっちりが、わたしの方に来てしまったではないか」
「じゃ、“わさお”の話に戻ります。
もうすぐ、映画になるんですよ。
来年公開です(2011年2月11日青森で先行公開)」
み「おー。
そこまで行くか」
食「今や、鰺ケ沢駅観光駅長であり……。
しかも、ユネスコ協会の『世界遺産活動 特別大使 “犬”(ワンバサダー)』です」
み「大出世でねえの」
食「ほんとに」
み「でも本人は、もっとのんびり暮らしたいだろうね」
↑人気者はツライ
食「報酬は、干しイカか?」
↑まさか、陸で天日干しされて生涯を終えるとは、思ってなかったでしょうね。
律「犬にイカはダメなんじゃないの?」
食「そうなの?」
律「腰を抜かすとか聞いたことがあるわ」
↑これは、“腰を使う”でした。
み「なんで腰を抜かすわけ?」
律「知らないけど」
食「消化が悪いからじゃないですか?
犬の歯じゃ、イカに穴を空けるくらいで飲み込んじゃうでしょうから」
み「消化が悪いくらいなら、腰は抜かさんだろ」
食「下痢のしすぎで、ふらふらになるんじゃないですか?」
↑こんなにゲッソリ痩せたことも。飼い主さんが入院したためだそうです。
み「あ、発車か?」
食「この『鰺ヶ沢』を出ると、海ともお別れです」
み「おー。
お名残り惜しや、日本海。
でも、この『鰺ケ沢駅』、今までの駅と雰囲気が違うよね」
↑表から見ると、いっそう立派です。
律「どう違うの?」
み「『能代駅』を過ぎたあたりからって……。
イカニモな感じだったじゃん。
最果て路線って云うか」
↑『驫木駅』。見てみたい気はしますが、ここを生活の場とするのは、ちょっと……。
律「確かに、それは言えてるわね。
賑やいだ感じがする。
駅員さんもいるし」
↑駅長は、これですが。
食「同じ五能線でも……。
『鯵ヶ沢』から『弘前』までは、乗客数がぜんぜん違うんです。
『深浦駅』を覚えてますか?」
み「おぅ。
『鯵ヶ沢』と並ぶ、津軽四浦のひとつではないか」
食「『深浦駅』の1日の乗車人数は、100人弱です。
でも、『鰺ケ沢駅』は、300人を超えるんですよ」
み「うーむ。
道理で、人の臭いがプンプンするわい」
律「鬼ババみたい」
食「『鯵ヶ沢』発着の列車も、けっこうありますので……」
↑『驫木駅』あたりとは、本数がぜんぜん違います。
食「構内に車庫があって、翌朝の始発列車が留置されてます」
み「それじゃ、駅員もいるわな」
食「でも、あの駅員さん、JR東日本の社員じゃないんですよ」
み「なに!
また観光駅長か?」
食「観光駅長は、“わさお”ですって。
ここは、業務委託駅なんです。
女性の観光駅長がいた『あきた白神駅』は、簡易委託駅です」
み「どう違うんだ?」
食「業務委託駅ってのは……。
JRの関連会社なんかに、すべての業務が委託されてる駅のことです。
ここらは、『ジェイアールアトリス』という、秋田市にある子会社に委託されてます。
JR東日本秋田支社管内の業務を受託してる会社です」
↑正式名称は『東日本旅客鉄道秋田支社』。秋田駅の隣にあります。
み「なんで秋田支社なんじゃ?
ここは青森ではないか」
食「実は……。
JR東日本に、青森支社ってのは無いんです。
盛岡支社の青森支店になります」
↑青森駅の2階にあります。
み「1県にひとつずつあるのかと思ってた」
食「JR東日本の支社があるのは……。
東京、横浜、八王子、大宮、高崎、水戸、千葉、仙台、盛岡、秋田、新潟、長野ですね」
み「てことは……。
青森のほかに、山形や福島にも無いってことか」
食「山形と福島は、共に仙台支社の支店があります。
あと、栃木、山梨も無いですね。
栃木は大宮支社、山梨は八王子支社の管轄で、支店はありません」
み「静岡も無いぞ」
食「静岡は、JR東海ですよ」
み「あ、そうか」
律「でも、子会社から来てる駅員さんかどうかなんて……。
見分けが付きませんよね」
食「業務委託駅の駅員は、JRの制服を着てますからね。
JRの正規社員がいる駅を、直営駅と云うんですが……。
外見で見分けることは出来ません」
↑この方は車掌さんで、駅員ではありません。
み「観光駅長は、一発でわかったのにね」
食「会社じゃなく、市町村や農協、駅前の商店などに委託された駅を……」
食「簡易委託駅と云います」
み「『あきた白神駅』とか『ウェスパ椿山駅』がそうだったね」
食「『あきた白神駅』は簡易委託駅ですが……。
『ウェスパ椿山駅』は、無人駅の扱いです」
み「いたじゃん。
制服着た、観光駅長」
食「彼女は、ウェスパ椿山を運営する『ふかうら開発』の社員です。
『リゾートしらかみ』が到着するときだけ、下車客を迎えるんですね」
み「ややこしいのぅ。
どう違うんだ?」
食「簡易委託駅では、受託者が切符を売ってるわけです。
『ウェスパ椿山駅』の観光駅長さんは、切符は売りません」
↑これは、夏服でしょうか?
み「切符を売るかどうかの違いなの?」
食「基本的にはそうです。
切符を売ると言っても、駅構内で売ってるとは限りません。
駅前商店が受託者の場合……。
その商店の店先で売ってたりします」
食「つまり、駅は無人駅と変わりません」
み「ふーん」
食「簡易委託駅の委託費って、どういう形で支払われてると思います?」
み「どういうって、月々、契約額が振り込まれるんじゃないの?」
食「実は、切符なんですよ」
み「どういうこと?」
食「受託者は、JRから、綴りになってる切符を仕入れるんです。
ちなみに、JR東日本では、額面金額の5%引きです。
これを客に売って、5%の利益を得るという仕組みです。
JR西日本とかだと、11枚綴りの切符を10枚分の値段で仕入れるというシステムです。
利益は10%ですが、1枚多く売らないと利益が出ません」
↑切り離すためのミシン目が入ってますね。
み「なんか原始的だね」
食「定額契約じゃ、お店を頻繁に閉めてたりされれば……。
JRは、損しますからね。
売った分だけが利益になる仕組みにしておけば……。
業務がちゃんと行われてるか、管理する手間も軽減できる」
み「しかし、5%って、どのくらいの利益になるわけ?
『あきた白神駅』の乗車人数って、どれくらい?」
↑手前のプレハブ小屋みたいなのが、『あきた白神駅』。その後ろの建物が、駅の業務を受託している『八峰町緑地等管理中央センター』。“官(八峰町)”が“民(JR東日本)”の仕事を受託してるわけです。
食「1日、30人くらいじゃないでしょうか」
み「そのうち何人が、駅で切符を買うかだよね。
すでに持ってる人もいるだろ?」
食「観光駅なら、そうでしょうね」
み「ま、3分の2が買うとして、20人。
どこまでの切符だろ?
駅で買う人って、そんなに長距離じゃないんじゃないか?
たとえば、『弘前駅』までだといくら?」
食「待ってくださいよ。
今、時刻表調べますから。
『あきた白神駅』から『弘前駅』は、127.4kmだから……。
2,210円です」
み「そんなに高いの!
それなら儲かるか。
2,210円の5%って、いくら?
電卓電卓」
律「お金の話になると、目の色が変わるんだから」
み「純粋な探求欲だ。
出た?」
食「111円です」
み「×20人」
食「2,220円」
み「うーむ。
これだけで食べていくのは、難しいのぅ」
↑働けど働けど我が暮らし楽にならざりじっと手を見る
律「でもさ、乗る人みんなが、『弘前駅』までの切符を買うわけじゃないんでしょ?」
み「当たり前でんがな」
律「さっき、切符はJRから仕入れるっておっしゃいましたよね?」
食「はい」
律「乗る人ごとに行き先が違うんだから、金額もまちまちでしょ?」
み「あ、そうか。
そうだよね。
どうやって仕入れるんだ?」
食「額面金額ごとに、10枚綴りになってるんです」
み「それ、全部仕入れるの?」
食「ある程度、揃えなきゃならないでしょうね。
乗客が乗る区間の切符が無ければ、売れないわけですから」
み「じゃ、さ。
たとえば、『枕崎駅』までだと、乗車料金はいくらよ」
食「鹿児島のですか?
そんなとこまでの切符、五能線の駅で買わないでしょ」
み「買うとして!
ほれ、時刻表」
食「そんな遠くの区間、時刻表で距離計算するの大変ですよ」
み「スマホとか持ってないの?」
食「あいにく……。
ガラケーなんで。
あ、タブレットがあるんだった!」
み「そんなの出してどうする!
駅で盗んできたな?」
↑久留里線『横田駅(千葉県袖ケ浦市)』(2009年12月19日)
食「そのタブレットじゃありませんって。
タブレット端末です」
み「何で、今まで出さなかったんだ?」
食「話の都合じゃないですか?
作者に聞いてください」
み「この件は不問に付す。
検索してみれ」
律「ご都合主義なんだから」
み「いいの!」
食「出ました。
乗車距離、2,426.4km。
乗車券は、23,000円になります」
み「おー、すげー。
でも、儲けが5%だと……。
1,150円か。
食えん……。
1日10人くらい、買ってくれんもんか」
食「一生に1枚も売れないと思います。
第一、23,000円の切符なんて、仕入れておかないでしょ」
み「そんな遠くまでの切符、当日買うわけなかろ。
注文されてから、仕入れに行けばいいじゃん」
食「10枚綴りですよ。
あとの9枚はどうするんです?」
み「それも、10枚なの!」
食「そういう規則だと思います」
↑高岡市と新湊市を結ぶ路面電車『万葉線』の回数券。11枚綴りで10枚分のお値段。
み「うぬぬ。
23万円分仕入れて……。
全部回収するのに、何年かかるんだ?」
食「1,000年はみておかないとダメでしょうね」
み「『垂乳根イチョウ』しか、商売出来ん!」
食「経路図が出てますけど、見ます?」
み「待て。
それを当ててみようではないか。
まず、『あきた白神』で『リゾートしらかみ』に乗って……。
『秋田』まで行くわな」
食「いきなりハズレです」
み「なんで!
五能線しかあり得ないだろ」
食「『リゾートしらかみ』は当たりですが……。
方向が逆です。
『新青森』に行きます」
食「『あきた白神』から、『リゾートしらかみ1号』9:58発」
食「『新青森』、13:16着」
み「なんだ。
あとは、新幹線を乗り継ぐだけだろ」
食「当たりです。
『新青森』から、『はやて36号』13:42発」
↑なんか可愛くないです。緑は似合わないんじゃないか?
食「『東京』、17:08着」
食「『東京』から、『のぞみ245号』17:20発」
↑緑よりマシですね。
食「『新大阪』、19:53着」
↑イマイチ、面白味のないデザインです。大阪らしく、たこ焼き形とかにすればいいのに。
食「『新大阪』から、『みずほ609号』19:59発」
↑右が“みずほ609号”。左は何でしょう?(博多駅のようです)
食「『鹿児島中央』、23:44着」
↑後ろに見えるのは、観覧車『アミュラン』。これなら、駅の場所が遠くからでもわかりますね。
み「ここまでで、1日がかりではないか」
食「鹿児島まで来てるんですから、あと一息です。
『鹿児島中央』から、指宿枕崎線に乗り換えますが……」
食「接続は、ちと悪いですね」
み「何時じゃ」
食「4時51分発です」
み「悪すぎだろ!
5時間待ちじゃないか。
逆に、泊まるにはもったいない」
食「『鹿児島中央駅』のベンチで、ウトウトするしかありませんね」
↑新幹線ホーム。ベンチは、ちょっと硬そうですね。
み「で、その先は?」
食「ここから先は順調です。
『鹿児島中央』、4:51発」
↑この色は、新潟では見られません。
食「『指宿』、5:56着」
↑南国ですね~。
食「ここで、乗り換えになります。
『指宿』、6:09発」
↑これは、指宿枕崎線を走る観光特急『指宿のたまて箱』。JR九州の車両って、魅力的ですよね。
食「『枕崎』、7:20着」
み「有名なわけ?」
食「『日本の滝百選』に入ってます」
み「奥地っぽいじゃないか」
食「大丈夫。
近くに駐車場がありますから。
そこから、徒歩15分くらいです」
み「もうちょっと歩いたほうがいいんじゃないか?」
食「往復で30分です」
み「登山道か?」
食「遊歩道です」
み「10往復しろ」
食「意味ないでしょ。
とにかく、徒歩15分で『くろくまの滝』なんです。
青森県で『日本の滝百選』に入ってるのは……。
あとひとつ、十和田市の『松見の滝』だけです」
↑『松見の滝』。落差90メートル。残念ながら、国道から徒歩で3時間かかるようです。
み「ま、百選なんだから……。
ひとつの都道府県あたり、2つくらいだわな」
ちなみに新潟県には3つありました。
一番多いのは、やはり北海道で、6つでした。
わたしが見たことのある『オシンコシンの滝』も入ってました。
なんと、『日本の滝百選』を全制覇した方がいらっしゃいました(こちら)。
食「『くろくまの滝』は……。
高さ85メートル、幅15メートルの大滝です」
み「85メートルってのは高そうだな。
『オシンコシンの滝』は、何メートル?」
食「あれで確か、50メートルくらいですよ」
み「なに!
あの倍近くあるのか」
食「ビルにすると、25階建てくらいになります」
↑新潟県庁。高さ87.3メートル。
食「その高さから水が落ちる様も壮観ですが……。
滝の姿が、観音様が合掌しているようにも見えることから、古くから信仰の対象となってます」
↑不信心のせいか、さっぱりそのようには見えませぬ。
み「ほー。
でも、そんな滝じゃ、魚は上れんわな」
食「当然です。
実は、この滝の上流が、赤石川渓流なんです」
↑こんな澱みもあります。水量豊富ですね。
み「『金アユ』の?」
食「そうです」
み「滝の下で待ってれば、金アユが落ちて来ないか?」
食「落ちてくるとしても……。
『待ちぼうけ』級の確率だと思います」
み「さて。
トレッキングも堪能したし……」
食「いつ堪能したんです?」
み「耳だけで十分」
食「歩くの、好きじゃないんでしょ。
人のこと言えないじゃないですか」
み「鰺ヶ沢話、終了?」
食「とんでもない。
まだありますよ」
み「続けてよし」
食「鰺ヶ沢と言えば……。
ある相撲取りの出身地です」
み「また、相撲取りの話か!
岩木山が出たばっかりだろ」
食「もうちょっと古いですよ」
み「双葉山?」
食「古すぎです」
み「誰じゃい?」
食「舞の海ですよ」
み「おー、微妙に懐かしいね。
解説では、いつも出てるけど」
食「『鰺ケ沢駅』から、徒歩15分のところに……。
『海の駅わんど』があります」
み「『道の駅』じゃなくて?」
食「ま、基本的におんなじようなものですけど。
魚介類や農産物が買えます」
食「その2階に、『鰺ヶ沢相撲館』が併設されてるんです」
み「そこに、舞の海がいるわけね」
↑写真が、曙と並んでるようです。なんで台に載ってるんだ?
食「本人はいませんって。
舞の海ゆかりの品が並んでます」
み「ゆかりの品って……。
新弟子検査を通過するために、たん瘤作ったシリコンとか?」
↑新弟子検査の写真は展示されてます。バレバレだったようですね。
食「そんなの、あるわけないでしょ。
引退したとき落とした髷とか……」
食「現役時代の化粧まわし。
あと、高校時代の写真とかです」
↑入門には、こんな秘話が。
み「あまり大した品ではないではないか」
↑2/3サイズの土俵もあります。
食「入場無料ですからね。
でも、一番の見ものは……。
20分の映像です」
み「エロいやつ?」
食「違います。
舞の海の絶頂時の取組です。
貴乃花、小錦、曙などを相手にした一番は……。
見てる人から歓声が上がるほどだそうです」
↑大関時代の貴乃花との一番。舞の海の完勝です。
み「ま、確かにあの体格差の対戦は、ほかのスポーツじゃ有り得ないからね」
食「舞の海は、『Mighty Mouse(マイティマウス)』と呼ばれ……」
食「外人さんにも大人気でした」
み「確かに、今の相撲より、数段面白いだろうな。
今は、デブだけだもんね」
↑左の力士は、北の湖部屋の大露羅(おおろら)。ロシア出身。体重273㎏。三段目に10年以上いるようです。右も相当なデブですが……。残念ながら詳細不明です。
食「映像に夢中になるあまり、団体バスを遅らせた人が、何人もいるそうです」
み「うーむ。
侮れぬ、鰺ヶ沢。
1泊しても、いろいろ楽しめそうだな」
食「もちろんですよ。
鰺ヶ沢温泉もありますから」
み「おー、どんな温泉じゃい?」
食「60年くらい前、石油を掘ろうとしてボーリングしたら……。
温泉が湧いたそうです」
み「またそのパターンか」
食「これが、『山海荘』というホテルなんですが……」
食「別館の『水軍の宿』もお勧めです」
食「30万年前の海水が、温泉となって湧き出してるそうです」
↑客室露天風呂です。
み「料理はやっぱり、海鮮系だろうね」
食「それは当然ですよ。
鰺ヶ沢港で水揚げされた、新鮮な魚介です。
でも、事前に予約すれば……。
イトウも食べられます(10人前からのようです)」
↑デカいので、1匹仕入れると、10人前くらいになっちゃうんでしょうね。
み「ここにもいたのか、イトウさん!」
食「近くに、養殖場がありますから」
み「魚好きにはたまらんだろうね」
食「『海の駅わんど』の鮮魚コーナーには……。
弘前からも、業者が仕入れに来るそうです」
食「水揚げされた魚がすぐに並びますから、鮮度抜群。
しかも、安い」
み「ネタは?」
「ブリ、タイ、アンコウ、カレイ、ヤリイカ、ヒラメ」
食「旬の魚はなんでも揃いますよ」
み「観光客は、そんなの買って帰れないではないか」
食「鮮魚だけじゃありませんから。
イカの塩辛、生干し、サケの寒干し、ホッケ寿し、沖漬け、岩のり」
↑ホッケ寿し。個人的には、パス。
食「さらに、山の恵みも満載です。
ワラビ、フキ、タケノコ、キノコ」
み「覗いて見る分には、面白そうだ。
臭そうだけど。
さて、鰺ヶ沢話も、このあたりで出尽くしかな?」
食「いえいえ。
もうひとつ語らせてください。
新しい鰺ヶ沢名物です」
み「なんじゃい?」
食「秋田犬の“わさお”です」
み「秋田犬と云うからには……。
犬だな」
食「当たり前です」
み「何で、青森犬じゃないわけ?」
↑『あおもり犬』ならいました(青森県立美術館)。
食「そんな犬、いないでしょ」
み「訛って吠えそうだけど」
食「怒られますよ」
み「どうして有名なわけ」
食「いわゆる、ぶさ犬です。
捨て犬だったそうです」
↑自らの足を食う“わさお”。
み「あまりに不細工で捨てたのかな?」
食「もしそうなら……。
捨てた人は、後悔してるでしょうね」
み「そのココロは?」
食「拾ったのは、海沿いにある『七里ヶ浜きくや商店』というお店なんですが……」
↑商魂は逞しそうです。
食「わさおのお陰で、大繁盛だそうです。
なにしろ、わさお詣でのツアーが組まれるほどだそうですから」
み「何のお店よ?」
食「生干しのイカを炭火で焼いて食べさせる店です」
↑いか焼き(300円)
食「鰺ヶ沢の海岸通りの名物なんですよ。
別名『焼きイカ通り』って言いまして……」
食「生干しイカが潮風になびく“イカのカーテン”は見ものです」
み「うーん。
生臭そうな通りだ。
猫なら堪えられんな」
↑『ネコとスルメ』作:長谷祐史(ポストカード作家)
食「ひょっとしたら、猫除けの番犬として拾われたのかも知れませんね」
↑番犬にはならないかも。
み「タダで拾った犬が、客を招いてくれたってことか」
↑わさおの小屋前に群がる人々。前の道路は、交通整理の誘導員が出るほどだそうです。
食「2008年に、旅行記ブロガー、メレ山メレ子さんのブログで紹介されたのがきっかけのようです(こちら)」
律「同じブロガーでも、ブームまで作る人がいるのね」
↑しかも美人。しかも東大出。
み「何が言いたい?」
律「別に」
食「実は、“わさお”の名付け親も、メレ子さんなんです。
それまでは、ライオンみたいな毛並みから、“レオ”と呼ばれてました」
↑これも、“わさお”に改名すれば?
み「それは、ぶさ犬には似合わんな」
食「以降は、トントン拍子の出世です。
同じ年の7月、日本テレビ『99プラス』で取り上げられ、注目を浴びました。
さっそく12月には、鯵ヶ沢町観光協会が“わさおTシャツ”を売り出します」
↑公式Tシャツ販売サイトはこちら。
み「けっこう、抜け目ないでねぇの」
食「確かに。
それをきっかけに、テレビ、新聞、雑誌が一斉に取り上げ……。
存在が広く知られるようになりました」
み「わたしは知らんかった」
食「犬嫌いですか?」
み「小学校のころ、神社でノラ犬に追いかけられた」
↑これは、ハイエナさんですが……。確か、こんな顔をしてました。
律「何かしたんでしょ。
石、投げるとか」
み「するかい!
いきなり、言いがかり付けられたのだ。
おぅおぅおぅ、って」
律「犬が、そんな口、利くわけないでしょ」
み「翻訳してるの!
人語に」
律「原語だと、どうだったのよ?」
み「わぅわぅわぅ」
律「ウソこきなさい」
み「こいてないわい!」
律「で、どうなったのよ?
頭から食べられた?」
み「食べられたら、ここにいないだろ!
でも、給食のパンの残りを食われた」
律「そんなの持って歩いてたの?」
み「ランドセルに入れてたの」
律「パンなんて、残していいの?」
み「残すのはダメだったけど……。
持って帰るんならいいって。
ま、わたしだけの特例だったかもね」
律「何で、あんただけ特別扱いされるのよ?」
み「入学して最初の給食で、ゲロ吐いたから。
無理に食べさせたら、またゲロ吐くって思われたんでしょ」
律「汚い子供」
み「男子は悲惨だったね。
トマトが食えないヤツなんか……。
昼休み中、トマトの皿を前にして、脂汗流してた」
律「今なら、ぜったい問題になるわ」
み「昔は、アレルギーとかって、ぜんぜん意識に無かったよね。
今の子に無理に食べさせたりしたら……。
アレルギーショックで死にかねないからね」
律「潔癖なお母さんだと……。
子供が、無菌状態みたいな環境で育っちゃうのよ」
み「もうちょっと、小汚い環境で育てなさいってことか。
先生の部屋みたいに」
↑なぜか落ち着けそうな部屋です。
律「うるさい」
み「これは聞いた話だけど……。
酢豚が食べれない子がいたんだって。
でも、皿を空にするまで、席を立つことを許されない。
その子ね……。
先生の目を盗んで、酢豚を自分の靴下に詰めたそうよ」
↑靴下の臭いに驚愕する猫。
律「悲惨。
トラウマだわ」
み「そんな目に合わされたら……。
ゲロ吐けばいいんだよ」
み「居残りさせられる度にゲロ吐けば、先生も諦めてくれるって」
律「そんなの、矜持のない人間にだけ出来ることだわ」
み「悪うござんしたね」
律「だからバチが当たったのよ。
でも、ランドセルに入れてたパンを、どうして食べられたの?
犬が、ランドセル開けたの?」
み「そんな器用な犬がいるかい。
追いかけられて、すっ転んだ拍子に……。
中身が散らばったわけ」
律「フタ閉めて無かったの?」
み「ときどき忘れて、バタバタいってた」
律「ほんとに、ダメな小学生ね。
教育的指導が必要だわ」
み「大きなお世話じゃ。
ほれ、チミ。
さっさと話を続けんかい。
妙なとばっちりが、わたしの方に来てしまったではないか」
「じゃ、“わさお”の話に戻ります。
もうすぐ、映画になるんですよ。
来年公開です(2011年2月11日青森で先行公開)」
み「おー。
そこまで行くか」
食「今や、鰺ケ沢駅観光駅長であり……。
しかも、ユネスコ協会の『世界遺産活動 特別大使 “犬”(ワンバサダー)』です」
み「大出世でねえの」
食「ほんとに」
み「でも本人は、もっとのんびり暮らしたいだろうね」
↑人気者はツライ
食「報酬は、干しイカか?」
↑まさか、陸で天日干しされて生涯を終えるとは、思ってなかったでしょうね。
律「犬にイカはダメなんじゃないの?」
食「そうなの?」
律「腰を抜かすとか聞いたことがあるわ」
↑これは、“腰を使う”でした。
み「なんで腰を抜かすわけ?」
律「知らないけど」
食「消化が悪いからじゃないですか?
犬の歯じゃ、イカに穴を空けるくらいで飲み込んじゃうでしょうから」
み「消化が悪いくらいなら、腰は抜かさんだろ」
食「下痢のしすぎで、ふらふらになるんじゃないですか?」
↑こんなにゲッソリ痩せたことも。飼い主さんが入院したためだそうです。
み「あ、発車か?」
食「この『鰺ヶ沢』を出ると、海ともお別れです」
み「おー。
お名残り惜しや、日本海。
でも、この『鰺ケ沢駅』、今までの駅と雰囲気が違うよね」
↑表から見ると、いっそう立派です。
律「どう違うの?」
み「『能代駅』を過ぎたあたりからって……。
イカニモな感じだったじゃん。
最果て路線って云うか」
↑『驫木駅』。見てみたい気はしますが、ここを生活の場とするのは、ちょっと……。
律「確かに、それは言えてるわね。
賑やいだ感じがする。
駅員さんもいるし」
↑駅長は、これですが。
食「同じ五能線でも……。
『鯵ヶ沢』から『弘前』までは、乗客数がぜんぜん違うんです。
『深浦駅』を覚えてますか?」
み「おぅ。
『鯵ヶ沢』と並ぶ、津軽四浦のひとつではないか」
食「『深浦駅』の1日の乗車人数は、100人弱です。
でも、『鰺ケ沢駅』は、300人を超えるんですよ」
み「うーむ。
道理で、人の臭いがプンプンするわい」
律「鬼ババみたい」
食「『鯵ヶ沢』発着の列車も、けっこうありますので……」
↑『驫木駅』あたりとは、本数がぜんぜん違います。
食「構内に車庫があって、翌朝の始発列車が留置されてます」
み「それじゃ、駅員もいるわな」
食「でも、あの駅員さん、JR東日本の社員じゃないんですよ」
み「なに!
また観光駅長か?」
食「観光駅長は、“わさお”ですって。
ここは、業務委託駅なんです。
女性の観光駅長がいた『あきた白神駅』は、簡易委託駅です」
み「どう違うんだ?」
食「業務委託駅ってのは……。
JRの関連会社なんかに、すべての業務が委託されてる駅のことです。
ここらは、『ジェイアールアトリス』という、秋田市にある子会社に委託されてます。
JR東日本秋田支社管内の業務を受託してる会社です」
↑正式名称は『東日本旅客鉄道秋田支社』。秋田駅の隣にあります。
み「なんで秋田支社なんじゃ?
ここは青森ではないか」
食「実は……。
JR東日本に、青森支社ってのは無いんです。
盛岡支社の青森支店になります」
↑青森駅の2階にあります。
み「1県にひとつずつあるのかと思ってた」
食「JR東日本の支社があるのは……。
東京、横浜、八王子、大宮、高崎、水戸、千葉、仙台、盛岡、秋田、新潟、長野ですね」
み「てことは……。
青森のほかに、山形や福島にも無いってことか」
食「山形と福島は、共に仙台支社の支店があります。
あと、栃木、山梨も無いですね。
栃木は大宮支社、山梨は八王子支社の管轄で、支店はありません」
み「静岡も無いぞ」
食「静岡は、JR東海ですよ」
み「あ、そうか」
律「でも、子会社から来てる駅員さんかどうかなんて……。
見分けが付きませんよね」
食「業務委託駅の駅員は、JRの制服を着てますからね。
JRの正規社員がいる駅を、直営駅と云うんですが……。
外見で見分けることは出来ません」
↑この方は車掌さんで、駅員ではありません。
み「観光駅長は、一発でわかったのにね」
食「会社じゃなく、市町村や農協、駅前の商店などに委託された駅を……」
食「簡易委託駅と云います」
み「『あきた白神駅』とか『ウェスパ椿山駅』がそうだったね」
食「『あきた白神駅』は簡易委託駅ですが……。
『ウェスパ椿山駅』は、無人駅の扱いです」
み「いたじゃん。
制服着た、観光駅長」
食「彼女は、ウェスパ椿山を運営する『ふかうら開発』の社員です。
『リゾートしらかみ』が到着するときだけ、下車客を迎えるんですね」
み「ややこしいのぅ。
どう違うんだ?」
食「簡易委託駅では、受託者が切符を売ってるわけです。
『ウェスパ椿山駅』の観光駅長さんは、切符は売りません」
↑これは、夏服でしょうか?
み「切符を売るかどうかの違いなの?」
食「基本的にはそうです。
切符を売ると言っても、駅構内で売ってるとは限りません。
駅前商店が受託者の場合……。
その商店の店先で売ってたりします」
食「つまり、駅は無人駅と変わりません」
み「ふーん」
食「簡易委託駅の委託費って、どういう形で支払われてると思います?」
み「どういうって、月々、契約額が振り込まれるんじゃないの?」
食「実は、切符なんですよ」
み「どういうこと?」
食「受託者は、JRから、綴りになってる切符を仕入れるんです。
ちなみに、JR東日本では、額面金額の5%引きです。
これを客に売って、5%の利益を得るという仕組みです。
JR西日本とかだと、11枚綴りの切符を10枚分の値段で仕入れるというシステムです。
利益は10%ですが、1枚多く売らないと利益が出ません」
↑切り離すためのミシン目が入ってますね。
み「なんか原始的だね」
食「定額契約じゃ、お店を頻繁に閉めてたりされれば……。
JRは、損しますからね。
売った分だけが利益になる仕組みにしておけば……。
業務がちゃんと行われてるか、管理する手間も軽減できる」
み「しかし、5%って、どのくらいの利益になるわけ?
『あきた白神駅』の乗車人数って、どれくらい?」
↑手前のプレハブ小屋みたいなのが、『あきた白神駅』。その後ろの建物が、駅の業務を受託している『八峰町緑地等管理中央センター』。“官(八峰町)”が“民(JR東日本)”の仕事を受託してるわけです。
食「1日、30人くらいじゃないでしょうか」
み「そのうち何人が、駅で切符を買うかだよね。
すでに持ってる人もいるだろ?」
食「観光駅なら、そうでしょうね」
み「ま、3分の2が買うとして、20人。
どこまでの切符だろ?
駅で買う人って、そんなに長距離じゃないんじゃないか?
たとえば、『弘前駅』までだといくら?」
食「待ってくださいよ。
今、時刻表調べますから。
『あきた白神駅』から『弘前駅』は、127.4kmだから……。
2,210円です」
み「そんなに高いの!
それなら儲かるか。
2,210円の5%って、いくら?
電卓電卓」
律「お金の話になると、目の色が変わるんだから」
み「純粋な探求欲だ。
出た?」
食「111円です」
み「×20人」
食「2,220円」
み「うーむ。
これだけで食べていくのは、難しいのぅ」
↑働けど働けど我が暮らし楽にならざりじっと手を見る
律「でもさ、乗る人みんなが、『弘前駅』までの切符を買うわけじゃないんでしょ?」
み「当たり前でんがな」
律「さっき、切符はJRから仕入れるっておっしゃいましたよね?」
食「はい」
律「乗る人ごとに行き先が違うんだから、金額もまちまちでしょ?」
み「あ、そうか。
そうだよね。
どうやって仕入れるんだ?」
食「額面金額ごとに、10枚綴りになってるんです」
み「それ、全部仕入れるの?」
食「ある程度、揃えなきゃならないでしょうね。
乗客が乗る区間の切符が無ければ、売れないわけですから」
み「じゃ、さ。
たとえば、『枕崎駅』までだと、乗車料金はいくらよ」
食「鹿児島のですか?
そんなとこまでの切符、五能線の駅で買わないでしょ」
み「買うとして!
ほれ、時刻表」
食「そんな遠くの区間、時刻表で距離計算するの大変ですよ」
み「スマホとか持ってないの?」
食「あいにく……。
ガラケーなんで。
あ、タブレットがあるんだった!」
み「そんなの出してどうする!
駅で盗んできたな?」
↑久留里線『横田駅(千葉県袖ケ浦市)』(2009年12月19日)
食「そのタブレットじゃありませんって。
タブレット端末です」
み「何で、今まで出さなかったんだ?」
食「話の都合じゃないですか?
作者に聞いてください」
み「この件は不問に付す。
検索してみれ」
律「ご都合主義なんだから」
み「いいの!」
食「出ました。
乗車距離、2,426.4km。
乗車券は、23,000円になります」
み「おー、すげー。
でも、儲けが5%だと……。
1,150円か。
食えん……。
1日10人くらい、買ってくれんもんか」
食「一生に1枚も売れないと思います。
第一、23,000円の切符なんて、仕入れておかないでしょ」
み「そんな遠くまでの切符、当日買うわけなかろ。
注文されてから、仕入れに行けばいいじゃん」
食「10枚綴りですよ。
あとの9枚はどうするんです?」
み「それも、10枚なの!」
食「そういう規則だと思います」
↑高岡市と新湊市を結ぶ路面電車『万葉線』の回数券。11枚綴りで10枚分のお値段。
み「うぬぬ。
23万円分仕入れて……。
全部回収するのに、何年かかるんだ?」
食「1,000年はみておかないとダメでしょうね」
み「『垂乳根イチョウ』しか、商売出来ん!」
食「経路図が出てますけど、見ます?」
み「待て。
それを当ててみようではないか。
まず、『あきた白神』で『リゾートしらかみ』に乗って……。
『秋田』まで行くわな」
食「いきなりハズレです」
み「なんで!
五能線しかあり得ないだろ」
食「『リゾートしらかみ』は当たりですが……。
方向が逆です。
『新青森』に行きます」
食「『あきた白神』から、『リゾートしらかみ1号』9:58発」
食「『新青森』、13:16着」
み「なんだ。
あとは、新幹線を乗り継ぐだけだろ」
食「当たりです。
『新青森』から、『はやて36号』13:42発」
↑なんか可愛くないです。緑は似合わないんじゃないか?
食「『東京』、17:08着」
食「『東京』から、『のぞみ245号』17:20発」
↑緑よりマシですね。
食「『新大阪』、19:53着」
↑イマイチ、面白味のないデザインです。大阪らしく、たこ焼き形とかにすればいいのに。
食「『新大阪』から、『みずほ609号』19:59発」
↑右が“みずほ609号”。左は何でしょう?(博多駅のようです)
食「『鹿児島中央』、23:44着」
↑後ろに見えるのは、観覧車『アミュラン』。これなら、駅の場所が遠くからでもわかりますね。
み「ここまでで、1日がかりではないか」
食「鹿児島まで来てるんですから、あと一息です。
『鹿児島中央』から、指宿枕崎線に乗り換えますが……」
食「接続は、ちと悪いですね」
み「何時じゃ」
食「4時51分発です」
み「悪すぎだろ!
5時間待ちじゃないか。
逆に、泊まるにはもったいない」
食「『鹿児島中央駅』のベンチで、ウトウトするしかありませんね」
↑新幹線ホーム。ベンチは、ちょっと硬そうですね。
み「で、その先は?」
食「ここから先は順調です。
『鹿児島中央』、4:51発」
↑この色は、新潟では見られません。
食「『指宿』、5:56着」
↑南国ですね~。
食「ここで、乗り換えになります。
『指宿』、6:09発」
↑これは、指宿枕崎線を走る観光特急『指宿のたまて箱』。JR九州の車両って、魅力的ですよね。
食「『枕崎』、7:20着」