2013.10.5(土)
み「次、畳。
スタイロ畳っていくら?」
食「さー」
律「やっぱり、1万円くらいはするんじゃないの?」
み「高い!
4,000円」
律「無茶苦茶だわ」
み「建築資材なんて、そんなもんよ」
↑別名、赤本。役所が、工事価格の積算に使う本です。実際の流通価格は、この本の価格より安い場合が多いです。
み「1,000枚ってことになれば、すぐに手が上がるよ。
中止になっても返品しないって条件さえ付ければ」
↑すみません。震災関係の画像でした(2011年5月・多賀城市内)。でも、震災後2ヶ月で、これだけ分別してあるのは大したものです。日本人でなければ出来ないことでしょう。この国はやっぱり、オリンピックを開催する資格があります。ちなみに、中まで藁の畳は、雨ざらしにして積んでおくと、そのまま良い堆肥になります。
律「返品なんかされたら、潰れちゃうでしょ。
1,000枚も発注しといて」
み「だから、返品しませんって。
サラのままの畳なら、町中の施設で畳替えが出来ちゃうよ」
↑『佐賀城本丸歴史館』の畳替え。
律「20年くらいは畳買わなくても済むんじゃないの?」
食「どこに置いとくんですか?」
み「今の畳の下に、5枚くらい重ねておく」
律「襖開けたら、いきなりつまずくじゃないの」
み「じゃ、一番隅に積んでおけばいいじゃない。
で、一番偉い人がそこに座る」
食「牢名主じゃないんですから」
↑日光江戸村らしいです。
み「だから、4,000円ね」
律「何が、だからなの?」
み「タカラだから」
律「もういいわ」
み「スタイロ畳で、400万。
決定!
よし、次!
1,000銘柄の日本酒」
↑これだけ銘柄のそろったスーパーも珍しい。どこのスーパーかと云うと……。なんと、アメリカのワシントン州でした(宇和島屋ベルビュー店)。
み「これは簡単だね。
1本、1,000円」
食「安すぎませんか?」
み「一升瓶じゃないわよ。
4号瓶」
律「けち臭いんじゃないの?」
み「1,000本あるんだよ。
一人当て4合で十分でしょ。
それだけしか飲まさないわけじゃないし。
当然、ビールやウーロン茶も出さにゃならん。
それに、岩場で一升瓶の運搬なんて大変だよ。
いいね?
1,000円の4号瓶で、100万円」
律「じゃ、ビールは?」
み「ビールはやっぱり、缶だろうね」
律「ビールに燗付けてどうすんのよ」
み「ばきゃもん!
瓶ビールじゃなくて、缶ビールってこと」
律「あらそう。
でも、あんたなら、やりかねないから。
泡盛に燗付けて飲んだことあるんでしょ?」
↑やかんに直接泡盛を入れ、火にかけました。強烈な匂いが発生。
み「あれは、くれたやつに騙されたんだ。
よく考えれば、沖縄で、わざわざ燗して飲むわけないんだよ」
↑やっぱり、ロックが一番。
律「普通、気づかない?」
み「こんなの、よく飲めるなと思ったけど……。
騙されたとは思わなかった。
そのうち慣れてくると……。
あの匂いが癖になってね。
間違いなく、鼻息まで臭かろうって匂いだった」
↑マンゴーが臭くて、怒る猫。
律「呆れた。
ところで、どうして缶ビールなの?」
み「大量に冷やさなきゃならないでしょ。
瓶ビールじゃ大変だよ。
缶なら、氷を入れたクーラーボックスでいいでしょ」
み「トラックにクーラーボックスたくさん積んで、海岸に横付けさせとくわけ」
↑『クーラーボックス、積んでるぜ!』
律「それじゃ、クーラーボックス代金も加算しなきゃね」
み「なんでクーラーボックスまで買わにゃならんの。
借りればいいでしょ」
律「そんなにたくさんのクーラーボックス、どっから借りるのよ?」
み「あのへんの住民は、みんなクーラーボックス持ってるの」
律「どうして?」
み「漁師や釣り好きがいっぱいいるからよ」
律「獲った魚を入れるクーラー?」
律「臭いじゃないの」
み「海岸で飲むんだから気づかないって。
磯の香りがするとか言って、逆にご満悦よ。
どうせ酔っぱらいなんだから」
↑胡散臭さ満点。餌にスプレーするそうです。
み「さて、何本、頼むかな。
一人頭、何本にする?」
律「500の缶?」
み「あれじゃ、すぐ温くなっちゃうよ。
350」
律「1本でいいんじゃないの。
お酒もあるんだし」
み「ビールが足りないと、けち臭い感じになるでしょ」
律「今までで、十分けち臭いと思いますけど」
み「ま、2本あてがっとけば、何とかなるでしょ。
飲まない人もいるだろうし。
350の缶って、いくらくらい?」
律「発泡酒なら、100円くらいじゃないの?」
み「けち臭い!
そもそも、平成4年に発泡酒なんかあった?(平成6年からのようです)
あのころは、スーパードライの全盛期でしょ。
やたらとコマーシャルやってたよ。
“スーパードゥラァ~イ”って」
み「ビールだと、150円くらいか?
よし。
150円×2本×1,000人分で、30万。
なんだ、安いじゃん。
あとは、ウーロン茶とジュースだね。
1人頭、1本ずつ。
100円×2本×1,000人分で、20万。
おー、安い!
あと、何かあるか?」
食「郷土芸能が披露されたそうです」
み「それは、タダ」
↑これは、ダダ。
み「ボランティア」
食「強引だなぁ」
み「じゃ、いくらになる?
お膳が350万。
スタイロ畳、400万。
日本酒、100万。
ビールが30万。
ウーロン茶とジュースで、20万。
ほら、電卓電卓!」
食「目が血走ってますよ」
み「金の話になったら興奮してきた。
ほら、計算して」
食「ピッタリ、900万です」
み「一人頭、9,000円!
高い!
会費が9,000円だったら、先生は来る?」
食「交通費はどうなるのよ」
み「この上、足代まで出せるか!
五能線で勝手に来い!」
律「ぜったい、1,000人も集まらないと思う。
典型的な企画倒れってやつじゃない?」
み「くそー。
畳が高いんだよな。
なんとかならんか?」
食「1,000枚の畳を借りれるとは思えませんよ」
み「いや、借りれるぞ!
富山の親鸞会館」
み「あそこには2,000畳の大講堂がある(残念ながら、平成16年の建設でした)」
律「あったって、貸すわけないでしょ」
み「引き換えに、深浦町民全員が、浄土真宗に入信する」
食「有り得ません」
み「くっそー。
やっぱり、畳代を客から取るのは無理か?
あ、そうだ。
お土産に付ければどう?
どうぞお持ち帰りくださいって」
食「どうやって持ち帰るんですか?」
↑秘技『畳回し』(“和菓子屋のじいちゃん”だそうです)
み「1,000人が畳を背負って、五能線に乗る」
↑これは、『横手ゴザ』と云う、日除け用のゴザだそうです。紐を通して背負います(参照)。
律「バカばっかり」
み「少しは考えろ!
あ、そうだ。
JRから、協賛金を取ろう。
1,000人の大半が、五能線で来るんだからさ」
↑鰺ケ沢駅(2010年8月1日)。“わさお”という焼きイカ店のブサ犬が人気で、見学ツアーまであるそうです(参照)。
み「400万くらい出させるか」
食「無理だと思います」
み「うーむ。
じゃ、やっぱり、畳代は別予算からだな」
律「どんな予算よ?」
み「営繕費。
町の施設の畳替えをすることにして、400万計上」
↑これは畳替えではなく、『怪傑ズバット』の畳返し(こちら)。
み「その前に、ちょっとだけイベントで使うってことで」
律「そんな予算、議会が通すの?」
↑2003年7月25日、参議院外交防衛委員会にて。フトモモ議員は、新潟県選出の森ゆうこ(『自由党』→『民主党』→『生活の党』/残念ながら7月の参院選で落選)。探せば、パンチラ画像も見れます(当時47歳)。
み「いいの。
町議会には、畳屋のオヤジもいるでしょ」
↑1890年頃。
食「利益誘導じゃないですか」
み「あの時代は、利益誘導も談合も、なんでもありだったの。
とにかく!
これで、記念祭の経費は500万。
1人、5,000円になったじゃん。
あ、そうだ。
いっそのこと、三セクに丸投げするか。
ほら、『ウェスパ椿山』を運営してる……」
食「ふかうら開発」
み「それそれ。
そこに、300万で発注」
食「200万も赤字になるじゃないですか!」
み「それをやるのが企業努力です。
そのくらいのこと出来なきゃ、企業としてやっていけんだろ」
律「ヒドすぎるわ。
でも、これで、1人、3,000円ってことね」
み「うんにゃ。
客からは、5,000円取る」
食「200万も儲ける気ですか!」
律「どうしてこう、発想が悪どいのかしら」
み「ぱかもん。
町は畳代で、400万出してるんだ。
まだ、200万の赤字でしょ。
町と三セクで、赤字を折半。
ニ方200万損。
これぞ、見事な大岡裁き」
律「どこが。
でも、実際に1,000人来なかったら……。
その分の赤字は、町が被るわけでしょ。
三セクには、1,000人分発注してるんだから」
み「命がけで集めろ!」
↑坂口安吾『あちらこちら命がけ』JR新津駅近く。
み「役場の職員に、集客ノルマを課す」
み「そうだ。
チケットを職員に買わせればいいんだ。
1人、10枚」
食「5万円じゃないですか!」
み「売りさばけば問題ないだろ。
深浦町の職員って、何人いる?」
食「知りませんよ」
み「ま、学校の先生も入れれば、100人くらいいるでしょ。
これで、収入は確保したと」
食「1人10枚なんて、無理ですよ」
律「拒否する職員もいるわよ」
み「許しません。
冬のボーナスから天引きします」
食「ヒドいな。
ブラック企業じゃないですか」
み「どこがじゃ。
10枚全部売りさばけば……。
冬のボーナスから、5万円前払いしてもらったことになるだろ。
お得じゃないの」
食「売りさばく苦労のほうが、ずっと大きいと思います」
み「気合で売れ」
食「職員の知り合いなんて、みんな被っちゃうでしょ」
み「町内じゃなくてもいいじゃん。
休日に、遠征して売れ」
食「交通費は出るんですか?」
み「出るわけ無いだろ。
自転車で行け」
食「もういいです」
律「あきれた人。
バカ話聞いてたら、とっくに千畳敷、見えなくなっちゃってるわ。
次の駅は?」
食「『北金ヶ沢(きたかねがさわ)』です」
み「小金沢?」
食「ぜんぜん違うでしょ」
み「そう言えば、小金沢くんって、どうしてるのかね?」
食「ボクに聞かないでください」
み「まあいい。
それじゃ、小金沢の名物は?」
食「『北金ヶ沢』です。
ここには、樹木の名物が多いんですよ」
み「ほー。
それは、興味あるな。
椿か?」
食「北限を過ぎちゃったでしょ。
まずは、イチョウです」
み「ほー。
大きいイチョウか?」
食「日本一です。
2001年の環境省の調査で、日本一のイチョウと認定され……。
2004年、国の天然記念物に指定されました」
み「そりゃスゴいわ。
これがほんとの大銀杏」
↑白露山。ナチュラルに武士化。その後の推移が楽しみでしたが……。残念ながら、2008年解雇処分となりました。
食「言うと思った。
実は、青森県には、イチョウの巨木が異様に多いんです。
全国ベストテンのうち、1、2、4、6位が青森県にあります」
み「なぜじゃ?」
食「なじかは知らねど……。
でも、ほんとに見事なイチョウですよ。
『北金ヶ沢駅』から、歩いて10分くらいのところにあります。
樹齢は、およそ1,000年」
み「1,000年前って云うと……。
平安時代か?
小野小町、手植えのイチョウだったり」
食「イチョウが日本に入ってきたのが、ちょうどそのころと言われてます」
み「もともと日本にはなかったの?」
食「中国原産ですね」
み「日本最古のイチョウだったりして」
食「一番古いイチョウは、対馬にある『琴(きん)のイチョウ』と云われてます」
み「男らしい名前だな」
食「“きん”は、琴ですよ。
地区の地名です。
むしろイチョウは、女性にご利益のある木なんですよ」
み「ほー。
どんな?」
食「『北金ヶ沢』のイチョウは、『垂乳根(たらちね)のイチョウ』と呼ばれてます」
み「あ、わかった。
枝から、気根みたいなのが下がってるんだな」
食「当たりです。
あの気根は、『乳根(ちちね)』とも呼ばれるそうです」
食「とにかく、一見して神々しさを感じる巨木です」
み「どのくらいデカいの?」
食「幹周り22メートル。
樹高は31メートルあります」
み「幹回りもスゴいけど……。
樹高31メートルは、大したもんだね。
枝が枯れ下がってこないってことは……。
まだ、樹勢が衰えてないってことだよね」
み「大きさの日本一ってのは、高さのこと?」
食「いえ。
樹木は、胸高の幹周りで図ります。
日本一の巨樹は、『蒲生の大楠(がもうのおおくす)』と呼ばれる、鹿児島のクスノキで……」
食「幹回りは、24メートルです」
み「ひょえー」
食「でも、『蒲生の大楠』は、当然、上に行くに従って細くなってきます」
み「当たり前だろ」
食「『垂乳根のイチョウ』は違います。
ほとんど同じ太さのまま、幹が真っ直ぐ起ちあがってるんです」
食「見た目の迫力から言ったら……。
『蒲生の大楠』を凌ぐかも知れません。
まさに神木の威厳満点です」
み「女性にご利益って、当然、お乳だよね」
食「そうです。
昔は粉ミルクなんてありませんから……。
お乳が出なければ、大変なんです。
近くに貰い乳のできる人でもいなければ……。
赤ちゃんは死んでしまいます。
戦前までは、秋田や北海道からお参りに来る人もたくさんいたそうです」
み「なるほど。
せっかく子供を授かっても……。
お乳が出なかったら、お嫁さんは辛いよな」
食「イチョウの傍らには、祠があります」
食「お神酒と米を供えてお参りし……」
食「米だけ持ち帰って食べると、お乳が出ると伝えられてます」
み「お乳は出なくていいけど……。
乳だけデカくしてもらえないか?」
食「もらえません」
律「妊娠すれば、大きくなるわよ」
↑妊婦体験ジャケット
み「それは、望み薄です」
律「それもそうね」
み「あっさり、納得すな!
でも、そんな大イチョウから降るギンナンって、スゴいだろうね」
↑東京『北の丸公園』
み「臭くてたまらんぞ」
食「残念ながら……。
『垂乳根のイチョウ』は、雄木ですから……」
↑著作200冊、生徒へ発行した学級通信は4000号だそうです。
食「ギンナンは成りません」
み「にゃにー。
オカマイチョウか。
そんなら、女性の乳房より、男性のあそこに見立てる方が自然なんじゃない?」
食「そんな人、いないってことですよ」
み「そうかのぅ。
短小の男が、祈願しないものかのぅ」
↑割礼を描いた絵だそうです(サッカラ遺跡/エジプト)
み「供えた米を持ち帰って食べたら、大量の精液が……」
律「やめなさい!」
み「いてー。
叩かなくてもいいじゃない」
律「叩かれて当然です。
すみません。
お話を続けてください」
食「このイチョウから、少し山側に向かうと……。
『関の甕杉』があります」
み「わかった。
杉の木だな」
律「誰でもわかるわ」
食「こちらも、樹齢1,000年」
み「なんか、いい加減な数字なんじゃないの?」
食「ま、そう伝えられてるわけで」
み「切り倒して、年輪を調べてみるか」
↑佐賀県武雄市『ララフィール』の逸品『黒髪バウム』。
食「罰が当たりますよ」
↑映画『オーメン』の1シーン。避雷針に貫かれる神父。
食「神が宿ると云われてるんですから」
↑額に宿るのは、カブトムシ
み「大きさは?」
食「幹周り8.2メートル、樹高30メートルです」
み「さっきのイチョウより、ぜんぜん細いじゃん」
食「イチョウがデカすぎなんです。
幹周り8.2メートルと云うことは……」
み「割る、3.14でいくら?
ほれ、電卓」
食「8.2割る3.14で……。
直径2.6メートルになります」
み「うーん。
曙が横になったよりまだ太いわけだな」
み「じゃ、『垂乳根イチョウ』の幹周り22メートルってのは……」
食「22割る3.14で、直径7.0メートルです」
↑新潟交通の中型バス。全長7メートル。『垂乳根イチョウ』の後ろに置けば、このバスはすっぽり隠れるということです。
み「そりゃ、デカすぎだわ」
食「で、この『関の甕杉』ですが……。
江戸時代の紀行作家、菅江真澄もわざわざ見に来てるほどなんです」
み「おー、マスミン、ここにも来てたのか」
食「何です?、マスミンって」
み「菅江真澄くんのキュートなニックネームよ」
食「友だちみたいですね」
み「まぁな」
いつ来たの?」
食「寛政9年、1797年です」
み「今から200年以上前か。
そのころから、名高い巨木だったわけね」
食「ですね」
み「“かめ杉”の“かめ”って、“もしもし亀よ”の亀?」
↑女優、奈美悦子。さすが着こなしてます。
食「いえ。
台所にある甕です」
ちなみに、甕と壺の違いは……。
「頸部の径が口径あるいは腹径の2/3以上のものを甕と呼び、2/3未満のものを壺とする」だそうです(東大理学部人類学教室の長谷部言人(ことんど)による定義)。
↑ご存知、違いのわかる男
食「海から見た形が、似てるんだとか」
↑あんまりそうは見えません。
み「なるほど。
海上からの目印にもなってたわけか」
食「そうかもしれません。
あ、そうそう。
この杉のかたわらに、板碑(いたび)が並べてあって……」
食「『関の古碑群』と呼ばれてます」
み「“こひぐん”ってのはなんじゃい?」
食「古い碑(いしぶみ)の群と書きます」
み「古いっていつごろ?」
食「14世紀前半です」
み「室町時代?」
食「鎌倉時代の末期ですね」
↑鎌倉の大仏さま。高さは、11.39メートル。鎌倉市の津波想定は14.5メートル。大仏さまは、完全に水没します。
み「そりゃ古いわ」
食「菅江真澄も、この碑を見ていったようです」
み「何の碑なわけ?」
食「『津軽大乱』と呼ばれる安藤氏の内紛があって……。
そこで討ち死にした武者の霊を慰めるために作られたようです」
↑なぜか楽しそうに討ち死にする松永弾正(山梨県笛吹市『川中島合戦戦国絵巻』より)
み「群っていうからには、たくさんあるわけ?」
食「42基ですね」
み「縁起悪る。
何でそんな数にしたんだ?」
食「田畑の開墾などのとき、土の中から発掘されたものなんです。
それを、1箇所に集めたんですよ」
み「なるほど。
焚付にはしなかったわけね」
↑『箱根関所資料館』
食「出来るわけないじゃないですか。
石ですよ」
み「さっき、板の碑って言っただろ」
食「石を板状に加工してるから、板碑です。
第一、木の板で作った碑なんか、何百年も残ってるわけないですよ」
↑まれには残ります。長岡市『八幡林遺跡』で出土した「沼垂城」と書かれた木簡(720年頃のもの)。
み「石なら、何千年残ってても、不思議なかろ。
わたしはやっぱり、千年生きてる木の方に、興味があるな」
食「実は、もう1本、見ておきたい木があるんです」
み「まだあるのか。
それも巨木?」
食「ま、そこそこ大きいですが……。
樹齢は100年程度です」
み「何だ大したことないじゃん。
何の木?」
食「タブノキです」
↑芽吹きは美しく、花が咲いたようです。
み「おー。
日本海側の海っぱたで見かける木だ。
新潟にもあるよ」
↑新潟市内の民家に聳えるタブノキ。
み「でも、樹齢100年くらいのは、別に珍しくないでしょ?」
食「北限のタブと云われてます」
み「あ、そうか。
青森だったな。
タブは暖地系の常緑樹だもんね」
↑野槌神社の大タブ(高知県香南市)。幹囲9.2m。樹齢300年。
み「自生?」
食「いえ。
さすがにそれは無理でしょう。
民家の庭にあります」
食「植栽樹ですよ」
み「新潟の農家の庭にも、タブの巨木が植わってるな」
食「ま、広い庭じゃなきゃ植えられませんよね。
クスノキ科で、巨木になりますから」
↑『浜崎の大タブ(茨城県神栖市)』。幹周8.2m。樹齢1,000余年。ほとんど化け物。
み「何で、タブノキなんか庭に植えるんだろ?」
食「さー。
でも多分、常盤木ということで、縁起がいいからじゃないですか」
み「あ、そうか。
北方では、植えられる常緑樹は限られてるってことだね。
新潟でも、クスノキは路地で育たないし」
食「東京じゃ、街路樹としても使われてますね。
デカくなってますよ」
↑千代田区霞ヶ関桜田通り
み「こっちは、古町のアーケードの下に植えられて、細々と生きてる」
↑道の両側にひょろっと立ってるのがクスノキ
み「ぜんぜん大きくならない。
新潟では、観葉植物の扱いだね。
あとダメなのが、キンモクセイね」
↑この香りを嗅ぐと、近づく冬を感じてメランコリックになります。初夏に咲くクチナシとは好対照。
食「育ちませんか?」
み「個人の庭で、冬場風除けをしてやれば育つけど……」
↑巻いてあるのは『寒冷紗』という布。
み「公園でほったらかしにしておくと、年々小さくなる。
冬の季節風にやられるんだよ」
↑地吹雪の渡る道路(2013年2月24日/新潟市内)。左側の赤黄の棒は、路肩を示すスノーポール。これが無いと、どこまでが道路か、わからなくなるのです。
み「東京のキンモクセイで、一番驚いたのは……。
小金井の『江戸東京たてもの園』の入り口に立ってる木」
み「クスノキかと思った」
食「新潟でさえそうなら……。
青森で庭木に出来る常緑樹は、タブくらいなのかな?」
み「新潟では、タブノキよりむしろ……。
スダジイの方が強いけどね」
↑新潟市総合福祉会館(新潟市中央区)
食「あ、『北金ヶ沢駅』、通過します」
み「ふむ。
そこそこ大きい駅だったね」
↑表側から見たところ
食「ここらは、昔の大戸瀬村の中心地で……。
駅前に村役場がありましたから。
今も、大戸瀬支所として使われてます。
駅の構内は複線化されてて、上下線のすれ違いが出来ます」
み「おー。
何かを交換するんだよね。
何だっけ?
エール?」
↑再び登場。怪しい釣り師。
食「応援団じゃないんですから。
列車同士が、そんなもの交換してどうするんです。
タブレットです」
律「えー。
そんなの交換してどうするんです?」
み「あなたは、明らかに誤解してます」
律「だって、タブレット端末のことでしょ?」
み「ぜんぜん違うわ。
輪っかだよね」
↑『津軽鉄道(駅名不明)』
食「ですね。
今の『北金ヶ沢駅』のホームが、千鳥状になってたのに気づきましたか?」
み「なんじゃそれ?」
食「駅の手前で線路が2本に分かれて……。
上り下りのホームが、その線路を挟むように向かい合ってたでしょ」
み「左右いっぺんに見れるかい!
魚じゃないんだから」
↑『マリンピア松島(魚名不明)』
食「わかりました。
でも、説明を続けます。
そういうホームを、『相対式ホーム』と呼びます」
↑JR飯田線『小坂井駅(愛知県豊川市)』
み「さっき、千鳥足とか言ったじゃないの」
食「千鳥状です。
『相対式ホーム』の中に、『千鳥式ホーム』というのがあるんです」
み「さっぱりわからん」
食「早い話、ホームは向かい合ってないんです」
み「なんじゃそりゃ!
線路を挟むように向かい合うのが、『相対式ホーム』だって、言ったばっかりじゃない」
食「どう言ったらいいのかな。
ズレてるんですよ」
↑京福電鉄『有栖川駅(京都市右京区)』
み「ズラが?」
食「違います。
上りのホームが終わったところから……。
反対側の下りのホームが始まるんです」
↑こちらが、『北金ヶ沢駅』
スタイロ畳っていくら?」
食「さー」
律「やっぱり、1万円くらいはするんじゃないの?」
み「高い!
4,000円」
律「無茶苦茶だわ」
み「建築資材なんて、そんなもんよ」
↑別名、赤本。役所が、工事価格の積算に使う本です。実際の流通価格は、この本の価格より安い場合が多いです。
み「1,000枚ってことになれば、すぐに手が上がるよ。
中止になっても返品しないって条件さえ付ければ」
↑すみません。震災関係の画像でした(2011年5月・多賀城市内)。でも、震災後2ヶ月で、これだけ分別してあるのは大したものです。日本人でなければ出来ないことでしょう。この国はやっぱり、オリンピックを開催する資格があります。ちなみに、中まで藁の畳は、雨ざらしにして積んでおくと、そのまま良い堆肥になります。
律「返品なんかされたら、潰れちゃうでしょ。
1,000枚も発注しといて」
み「だから、返品しませんって。
サラのままの畳なら、町中の施設で畳替えが出来ちゃうよ」
↑『佐賀城本丸歴史館』の畳替え。
律「20年くらいは畳買わなくても済むんじゃないの?」
食「どこに置いとくんですか?」
み「今の畳の下に、5枚くらい重ねておく」
律「襖開けたら、いきなりつまずくじゃないの」
み「じゃ、一番隅に積んでおけばいいじゃない。
で、一番偉い人がそこに座る」
食「牢名主じゃないんですから」
↑日光江戸村らしいです。
み「だから、4,000円ね」
律「何が、だからなの?」
み「タカラだから」
律「もういいわ」
み「スタイロ畳で、400万。
決定!
よし、次!
1,000銘柄の日本酒」
↑これだけ銘柄のそろったスーパーも珍しい。どこのスーパーかと云うと……。なんと、アメリカのワシントン州でした(宇和島屋ベルビュー店)。
み「これは簡単だね。
1本、1,000円」
食「安すぎませんか?」
み「一升瓶じゃないわよ。
4号瓶」
律「けち臭いんじゃないの?」
み「1,000本あるんだよ。
一人当て4合で十分でしょ。
それだけしか飲まさないわけじゃないし。
当然、ビールやウーロン茶も出さにゃならん。
それに、岩場で一升瓶の運搬なんて大変だよ。
いいね?
1,000円の4号瓶で、100万円」
律「じゃ、ビールは?」
み「ビールはやっぱり、缶だろうね」
律「ビールに燗付けてどうすんのよ」
み「ばきゃもん!
瓶ビールじゃなくて、缶ビールってこと」
律「あらそう。
でも、あんたなら、やりかねないから。
泡盛に燗付けて飲んだことあるんでしょ?」
↑やかんに直接泡盛を入れ、火にかけました。強烈な匂いが発生。
み「あれは、くれたやつに騙されたんだ。
よく考えれば、沖縄で、わざわざ燗して飲むわけないんだよ」
↑やっぱり、ロックが一番。
律「普通、気づかない?」
み「こんなの、よく飲めるなと思ったけど……。
騙されたとは思わなかった。
そのうち慣れてくると……。
あの匂いが癖になってね。
間違いなく、鼻息まで臭かろうって匂いだった」
↑マンゴーが臭くて、怒る猫。
律「呆れた。
ところで、どうして缶ビールなの?」
み「大量に冷やさなきゃならないでしょ。
瓶ビールじゃ大変だよ。
缶なら、氷を入れたクーラーボックスでいいでしょ」
み「トラックにクーラーボックスたくさん積んで、海岸に横付けさせとくわけ」
↑『クーラーボックス、積んでるぜ!』
律「それじゃ、クーラーボックス代金も加算しなきゃね」
み「なんでクーラーボックスまで買わにゃならんの。
借りればいいでしょ」
律「そんなにたくさんのクーラーボックス、どっから借りるのよ?」
み「あのへんの住民は、みんなクーラーボックス持ってるの」
律「どうして?」
み「漁師や釣り好きがいっぱいいるからよ」
律「獲った魚を入れるクーラー?」
律「臭いじゃないの」
み「海岸で飲むんだから気づかないって。
磯の香りがするとか言って、逆にご満悦よ。
どうせ酔っぱらいなんだから」
↑胡散臭さ満点。餌にスプレーするそうです。
み「さて、何本、頼むかな。
一人頭、何本にする?」
律「500の缶?」
み「あれじゃ、すぐ温くなっちゃうよ。
350」
律「1本でいいんじゃないの。
お酒もあるんだし」
み「ビールが足りないと、けち臭い感じになるでしょ」
律「今までで、十分けち臭いと思いますけど」
み「ま、2本あてがっとけば、何とかなるでしょ。
飲まない人もいるだろうし。
350の缶って、いくらくらい?」
律「発泡酒なら、100円くらいじゃないの?」
み「けち臭い!
そもそも、平成4年に発泡酒なんかあった?(平成6年からのようです)
あのころは、スーパードライの全盛期でしょ。
やたらとコマーシャルやってたよ。
“スーパードゥラァ~イ”って」
み「ビールだと、150円くらいか?
よし。
150円×2本×1,000人分で、30万。
なんだ、安いじゃん。
あとは、ウーロン茶とジュースだね。
1人頭、1本ずつ。
100円×2本×1,000人分で、20万。
おー、安い!
あと、何かあるか?」
食「郷土芸能が披露されたそうです」
み「それは、タダ」
↑これは、ダダ。
み「ボランティア」
食「強引だなぁ」
み「じゃ、いくらになる?
お膳が350万。
スタイロ畳、400万。
日本酒、100万。
ビールが30万。
ウーロン茶とジュースで、20万。
ほら、電卓電卓!」
食「目が血走ってますよ」
み「金の話になったら興奮してきた。
ほら、計算して」
食「ピッタリ、900万です」
み「一人頭、9,000円!
高い!
会費が9,000円だったら、先生は来る?」
食「交通費はどうなるのよ」
み「この上、足代まで出せるか!
五能線で勝手に来い!」
律「ぜったい、1,000人も集まらないと思う。
典型的な企画倒れってやつじゃない?」
み「くそー。
畳が高いんだよな。
なんとかならんか?」
食「1,000枚の畳を借りれるとは思えませんよ」
み「いや、借りれるぞ!
富山の親鸞会館」
み「あそこには2,000畳の大講堂がある(残念ながら、平成16年の建設でした)」
律「あったって、貸すわけないでしょ」
み「引き換えに、深浦町民全員が、浄土真宗に入信する」
食「有り得ません」
み「くっそー。
やっぱり、畳代を客から取るのは無理か?
あ、そうだ。
お土産に付ければどう?
どうぞお持ち帰りくださいって」
食「どうやって持ち帰るんですか?」
↑秘技『畳回し』(“和菓子屋のじいちゃん”だそうです)
み「1,000人が畳を背負って、五能線に乗る」
↑これは、『横手ゴザ』と云う、日除け用のゴザだそうです。紐を通して背負います(参照)。
律「バカばっかり」
み「少しは考えろ!
あ、そうだ。
JRから、協賛金を取ろう。
1,000人の大半が、五能線で来るんだからさ」
↑鰺ケ沢駅(2010年8月1日)。“わさお”という焼きイカ店のブサ犬が人気で、見学ツアーまであるそうです(参照)。
み「400万くらい出させるか」
食「無理だと思います」
み「うーむ。
じゃ、やっぱり、畳代は別予算からだな」
律「どんな予算よ?」
み「営繕費。
町の施設の畳替えをすることにして、400万計上」
↑これは畳替えではなく、『怪傑ズバット』の畳返し(こちら)。
み「その前に、ちょっとだけイベントで使うってことで」
律「そんな予算、議会が通すの?」
↑2003年7月25日、参議院外交防衛委員会にて。フトモモ議員は、新潟県選出の森ゆうこ(『自由党』→『民主党』→『生活の党』/残念ながら7月の参院選で落選)。探せば、パンチラ画像も見れます(当時47歳)。
み「いいの。
町議会には、畳屋のオヤジもいるでしょ」
↑1890年頃。
食「利益誘導じゃないですか」
み「あの時代は、利益誘導も談合も、なんでもありだったの。
とにかく!
これで、記念祭の経費は500万。
1人、5,000円になったじゃん。
あ、そうだ。
いっそのこと、三セクに丸投げするか。
ほら、『ウェスパ椿山』を運営してる……」
食「ふかうら開発」
み「それそれ。
そこに、300万で発注」
食「200万も赤字になるじゃないですか!」
み「それをやるのが企業努力です。
そのくらいのこと出来なきゃ、企業としてやっていけんだろ」
律「ヒドすぎるわ。
でも、これで、1人、3,000円ってことね」
み「うんにゃ。
客からは、5,000円取る」
食「200万も儲ける気ですか!」
律「どうしてこう、発想が悪どいのかしら」
み「ぱかもん。
町は畳代で、400万出してるんだ。
まだ、200万の赤字でしょ。
町と三セクで、赤字を折半。
ニ方200万損。
これぞ、見事な大岡裁き」
律「どこが。
でも、実際に1,000人来なかったら……。
その分の赤字は、町が被るわけでしょ。
三セクには、1,000人分発注してるんだから」
み「命がけで集めろ!」
↑坂口安吾『あちらこちら命がけ』JR新津駅近く。
み「役場の職員に、集客ノルマを課す」
み「そうだ。
チケットを職員に買わせればいいんだ。
1人、10枚」
食「5万円じゃないですか!」
み「売りさばけば問題ないだろ。
深浦町の職員って、何人いる?」
食「知りませんよ」
み「ま、学校の先生も入れれば、100人くらいいるでしょ。
これで、収入は確保したと」
食「1人10枚なんて、無理ですよ」
律「拒否する職員もいるわよ」
み「許しません。
冬のボーナスから天引きします」
食「ヒドいな。
ブラック企業じゃないですか」
み「どこがじゃ。
10枚全部売りさばけば……。
冬のボーナスから、5万円前払いしてもらったことになるだろ。
お得じゃないの」
食「売りさばく苦労のほうが、ずっと大きいと思います」
み「気合で売れ」
食「職員の知り合いなんて、みんな被っちゃうでしょ」
み「町内じゃなくてもいいじゃん。
休日に、遠征して売れ」
食「交通費は出るんですか?」
み「出るわけ無いだろ。
自転車で行け」
食「もういいです」
律「あきれた人。
バカ話聞いてたら、とっくに千畳敷、見えなくなっちゃってるわ。
次の駅は?」
食「『北金ヶ沢(きたかねがさわ)』です」
み「小金沢?」
食「ぜんぜん違うでしょ」
み「そう言えば、小金沢くんって、どうしてるのかね?」
食「ボクに聞かないでください」
み「まあいい。
それじゃ、小金沢の名物は?」
食「『北金ヶ沢』です。
ここには、樹木の名物が多いんですよ」
み「ほー。
それは、興味あるな。
椿か?」
食「北限を過ぎちゃったでしょ。
まずは、イチョウです」
み「ほー。
大きいイチョウか?」
食「日本一です。
2001年の環境省の調査で、日本一のイチョウと認定され……。
2004年、国の天然記念物に指定されました」
み「そりゃスゴいわ。
これがほんとの大銀杏」
↑白露山。ナチュラルに武士化。その後の推移が楽しみでしたが……。残念ながら、2008年解雇処分となりました。
食「言うと思った。
実は、青森県には、イチョウの巨木が異様に多いんです。
全国ベストテンのうち、1、2、4、6位が青森県にあります」
み「なぜじゃ?」
食「なじかは知らねど……。
でも、ほんとに見事なイチョウですよ。
『北金ヶ沢駅』から、歩いて10分くらいのところにあります。
樹齢は、およそ1,000年」
み「1,000年前って云うと……。
平安時代か?
小野小町、手植えのイチョウだったり」
食「イチョウが日本に入ってきたのが、ちょうどそのころと言われてます」
み「もともと日本にはなかったの?」
食「中国原産ですね」
み「日本最古のイチョウだったりして」
食「一番古いイチョウは、対馬にある『琴(きん)のイチョウ』と云われてます」
み「男らしい名前だな」
食「“きん”は、琴ですよ。
地区の地名です。
むしろイチョウは、女性にご利益のある木なんですよ」
み「ほー。
どんな?」
食「『北金ヶ沢』のイチョウは、『垂乳根(たらちね)のイチョウ』と呼ばれてます」
み「あ、わかった。
枝から、気根みたいなのが下がってるんだな」
食「当たりです。
あの気根は、『乳根(ちちね)』とも呼ばれるそうです」
食「とにかく、一見して神々しさを感じる巨木です」
み「どのくらいデカいの?」
食「幹周り22メートル。
樹高は31メートルあります」
み「幹回りもスゴいけど……。
樹高31メートルは、大したもんだね。
枝が枯れ下がってこないってことは……。
まだ、樹勢が衰えてないってことだよね」
み「大きさの日本一ってのは、高さのこと?」
食「いえ。
樹木は、胸高の幹周りで図ります。
日本一の巨樹は、『蒲生の大楠(がもうのおおくす)』と呼ばれる、鹿児島のクスノキで……」
食「幹回りは、24メートルです」
み「ひょえー」
食「でも、『蒲生の大楠』は、当然、上に行くに従って細くなってきます」
み「当たり前だろ」
食「『垂乳根のイチョウ』は違います。
ほとんど同じ太さのまま、幹が真っ直ぐ起ちあがってるんです」
食「見た目の迫力から言ったら……。
『蒲生の大楠』を凌ぐかも知れません。
まさに神木の威厳満点です」
み「女性にご利益って、当然、お乳だよね」
食「そうです。
昔は粉ミルクなんてありませんから……。
お乳が出なければ、大変なんです。
近くに貰い乳のできる人でもいなければ……。
赤ちゃんは死んでしまいます。
戦前までは、秋田や北海道からお参りに来る人もたくさんいたそうです」
み「なるほど。
せっかく子供を授かっても……。
お乳が出なかったら、お嫁さんは辛いよな」
食「イチョウの傍らには、祠があります」
食「お神酒と米を供えてお参りし……」
食「米だけ持ち帰って食べると、お乳が出ると伝えられてます」
み「お乳は出なくていいけど……。
乳だけデカくしてもらえないか?」
食「もらえません」
律「妊娠すれば、大きくなるわよ」
↑妊婦体験ジャケット
み「それは、望み薄です」
律「それもそうね」
み「あっさり、納得すな!
でも、そんな大イチョウから降るギンナンって、スゴいだろうね」
↑東京『北の丸公園』
み「臭くてたまらんぞ」
食「残念ながら……。
『垂乳根のイチョウ』は、雄木ですから……」
↑著作200冊、生徒へ発行した学級通信は4000号だそうです。
食「ギンナンは成りません」
み「にゃにー。
オカマイチョウか。
そんなら、女性の乳房より、男性のあそこに見立てる方が自然なんじゃない?」
食「そんな人、いないってことですよ」
み「そうかのぅ。
短小の男が、祈願しないものかのぅ」
↑割礼を描いた絵だそうです(サッカラ遺跡/エジプト)
み「供えた米を持ち帰って食べたら、大量の精液が……」
律「やめなさい!」
み「いてー。
叩かなくてもいいじゃない」
律「叩かれて当然です。
すみません。
お話を続けてください」
食「このイチョウから、少し山側に向かうと……。
『関の甕杉』があります」
み「わかった。
杉の木だな」
律「誰でもわかるわ」
食「こちらも、樹齢1,000年」
み「なんか、いい加減な数字なんじゃないの?」
食「ま、そう伝えられてるわけで」
み「切り倒して、年輪を調べてみるか」
↑佐賀県武雄市『ララフィール』の逸品『黒髪バウム』。
食「罰が当たりますよ」
↑映画『オーメン』の1シーン。避雷針に貫かれる神父。
食「神が宿ると云われてるんですから」
↑額に宿るのは、カブトムシ
み「大きさは?」
食「幹周り8.2メートル、樹高30メートルです」
み「さっきのイチョウより、ぜんぜん細いじゃん」
食「イチョウがデカすぎなんです。
幹周り8.2メートルと云うことは……」
み「割る、3.14でいくら?
ほれ、電卓」
食「8.2割る3.14で……。
直径2.6メートルになります」
み「うーん。
曙が横になったよりまだ太いわけだな」
み「じゃ、『垂乳根イチョウ』の幹周り22メートルってのは……」
食「22割る3.14で、直径7.0メートルです」
↑新潟交通の中型バス。全長7メートル。『垂乳根イチョウ』の後ろに置けば、このバスはすっぽり隠れるということです。
み「そりゃ、デカすぎだわ」
食「で、この『関の甕杉』ですが……。
江戸時代の紀行作家、菅江真澄もわざわざ見に来てるほどなんです」
み「おー、マスミン、ここにも来てたのか」
食「何です?、マスミンって」
み「菅江真澄くんのキュートなニックネームよ」
食「友だちみたいですね」
み「まぁな」
いつ来たの?」
食「寛政9年、1797年です」
み「今から200年以上前か。
そのころから、名高い巨木だったわけね」
食「ですね」
み「“かめ杉”の“かめ”って、“もしもし亀よ”の亀?」
↑女優、奈美悦子。さすが着こなしてます。
食「いえ。
台所にある甕です」
ちなみに、甕と壺の違いは……。
「頸部の径が口径あるいは腹径の2/3以上のものを甕と呼び、2/3未満のものを壺とする」だそうです(東大理学部人類学教室の長谷部言人(ことんど)による定義)。
↑ご存知、違いのわかる男
食「海から見た形が、似てるんだとか」
↑あんまりそうは見えません。
み「なるほど。
海上からの目印にもなってたわけか」
食「そうかもしれません。
あ、そうそう。
この杉のかたわらに、板碑(いたび)が並べてあって……」
食「『関の古碑群』と呼ばれてます」
み「“こひぐん”ってのはなんじゃい?」
食「古い碑(いしぶみ)の群と書きます」
み「古いっていつごろ?」
食「14世紀前半です」
み「室町時代?」
食「鎌倉時代の末期ですね」
↑鎌倉の大仏さま。高さは、11.39メートル。鎌倉市の津波想定は14.5メートル。大仏さまは、完全に水没します。
み「そりゃ古いわ」
食「菅江真澄も、この碑を見ていったようです」
み「何の碑なわけ?」
食「『津軽大乱』と呼ばれる安藤氏の内紛があって……。
そこで討ち死にした武者の霊を慰めるために作られたようです」
↑なぜか楽しそうに討ち死にする松永弾正(山梨県笛吹市『川中島合戦戦国絵巻』より)
み「群っていうからには、たくさんあるわけ?」
食「42基ですね」
み「縁起悪る。
何でそんな数にしたんだ?」
食「田畑の開墾などのとき、土の中から発掘されたものなんです。
それを、1箇所に集めたんですよ」
み「なるほど。
焚付にはしなかったわけね」
↑『箱根関所資料館』
食「出来るわけないじゃないですか。
石ですよ」
み「さっき、板の碑って言っただろ」
食「石を板状に加工してるから、板碑です。
第一、木の板で作った碑なんか、何百年も残ってるわけないですよ」
↑まれには残ります。長岡市『八幡林遺跡』で出土した「沼垂城」と書かれた木簡(720年頃のもの)。
み「石なら、何千年残ってても、不思議なかろ。
わたしはやっぱり、千年生きてる木の方に、興味があるな」
食「実は、もう1本、見ておきたい木があるんです」
み「まだあるのか。
それも巨木?」
食「ま、そこそこ大きいですが……。
樹齢は100年程度です」
み「何だ大したことないじゃん。
何の木?」
食「タブノキです」
↑芽吹きは美しく、花が咲いたようです。
み「おー。
日本海側の海っぱたで見かける木だ。
新潟にもあるよ」
↑新潟市内の民家に聳えるタブノキ。
み「でも、樹齢100年くらいのは、別に珍しくないでしょ?」
食「北限のタブと云われてます」
み「あ、そうか。
青森だったな。
タブは暖地系の常緑樹だもんね」
↑野槌神社の大タブ(高知県香南市)。幹囲9.2m。樹齢300年。
み「自生?」
食「いえ。
さすがにそれは無理でしょう。
民家の庭にあります」
食「植栽樹ですよ」
み「新潟の農家の庭にも、タブの巨木が植わってるな」
食「ま、広い庭じゃなきゃ植えられませんよね。
クスノキ科で、巨木になりますから」
↑『浜崎の大タブ(茨城県神栖市)』。幹周8.2m。樹齢1,000余年。ほとんど化け物。
み「何で、タブノキなんか庭に植えるんだろ?」
食「さー。
でも多分、常盤木ということで、縁起がいいからじゃないですか」
み「あ、そうか。
北方では、植えられる常緑樹は限られてるってことだね。
新潟でも、クスノキは路地で育たないし」
食「東京じゃ、街路樹としても使われてますね。
デカくなってますよ」
↑千代田区霞ヶ関桜田通り
み「こっちは、古町のアーケードの下に植えられて、細々と生きてる」
↑道の両側にひょろっと立ってるのがクスノキ
み「ぜんぜん大きくならない。
新潟では、観葉植物の扱いだね。
あとダメなのが、キンモクセイね」
↑この香りを嗅ぐと、近づく冬を感じてメランコリックになります。初夏に咲くクチナシとは好対照。
食「育ちませんか?」
み「個人の庭で、冬場風除けをしてやれば育つけど……」
↑巻いてあるのは『寒冷紗』という布。
み「公園でほったらかしにしておくと、年々小さくなる。
冬の季節風にやられるんだよ」
↑地吹雪の渡る道路(2013年2月24日/新潟市内)。左側の赤黄の棒は、路肩を示すスノーポール。これが無いと、どこまでが道路か、わからなくなるのです。
み「東京のキンモクセイで、一番驚いたのは……。
小金井の『江戸東京たてもの園』の入り口に立ってる木」
み「クスノキかと思った」
食「新潟でさえそうなら……。
青森で庭木に出来る常緑樹は、タブくらいなのかな?」
み「新潟では、タブノキよりむしろ……。
スダジイの方が強いけどね」
↑新潟市総合福祉会館(新潟市中央区)
食「あ、『北金ヶ沢駅』、通過します」
み「ふむ。
そこそこ大きい駅だったね」
↑表側から見たところ
食「ここらは、昔の大戸瀬村の中心地で……。
駅前に村役場がありましたから。
今も、大戸瀬支所として使われてます。
駅の構内は複線化されてて、上下線のすれ違いが出来ます」
み「おー。
何かを交換するんだよね。
何だっけ?
エール?」
↑再び登場。怪しい釣り師。
食「応援団じゃないんですから。
列車同士が、そんなもの交換してどうするんです。
タブレットです」
律「えー。
そんなの交換してどうするんです?」
み「あなたは、明らかに誤解してます」
律「だって、タブレット端末のことでしょ?」
み「ぜんぜん違うわ。
輪っかだよね」
↑『津軽鉄道(駅名不明)』
食「ですね。
今の『北金ヶ沢駅』のホームが、千鳥状になってたのに気づきましたか?」
み「なんじゃそれ?」
食「駅の手前で線路が2本に分かれて……。
上り下りのホームが、その線路を挟むように向かい合ってたでしょ」
み「左右いっぺんに見れるかい!
魚じゃないんだから」
↑『マリンピア松島(魚名不明)』
食「わかりました。
でも、説明を続けます。
そういうホームを、『相対式ホーム』と呼びます」
↑JR飯田線『小坂井駅(愛知県豊川市)』
み「さっき、千鳥足とか言ったじゃないの」
食「千鳥状です。
『相対式ホーム』の中に、『千鳥式ホーム』というのがあるんです」
み「さっぱりわからん」
食「早い話、ホームは向かい合ってないんです」
み「なんじゃそりゃ!
線路を挟むように向かい合うのが、『相対式ホーム』だって、言ったばっかりじゃない」
食「どう言ったらいいのかな。
ズレてるんですよ」
↑京福電鉄『有栖川駅(京都市右京区)』
み「ズラが?」
食「違います。
上りのホームが終わったところから……。
反対側の下りのホームが始まるんです」
↑こちらが、『北金ヶ沢駅』