Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
東北に行こう!(69)
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み「若い人は知らないって」
律「そうかしら?
 一度だけだけど、前の病院の急患であったのよ。
 戸板で運ばれてきた人」
昔は、戸板を担架として使ったそうです
↑昔は、戸板を担架として使ったそうです。

み「江戸時代か!
 どこの田舎病院じゃ」
律「田舎じゃないわよ。
 川越だもん」
川越だもん

み「あ、そうか。
 ああいう古い町並みが保全されてるとこでは……。
 案外、戸板は残ってるかもね。
 でも、何で救急車を呼ばなかったのよ?」
律「それが、謎だったわね。
 その場の勢いで、誰かが“戸板を外せ”って言ったみたいなんだけど」
み「酒飲んでたんじゃないのか?」
律「そうかも。
 7,8人もして運んできたっていうから、お祭りの準備かなにかだったのかも。
 急患口もびっくりしてたわ。
 戸板で運ばれてきた患者は、初めてだって」
み「だしょうね。
 でも、そんな運ばれ方したら、下手すりゃ戸板の上で死んじゃうだろ。
 何の病気よ?」
律「怪我よ。
 ただの骨折。
 でも、足の骨が突き出てたから、場が舞い上がっちゃったのかもね」
み「意識がはっきりしてたら……。
 怖かったんじゃないの」
律「運ばれてる本人は、ずーっと……。
 “下ろしてくれ~”って叫んでたみたい」
み「わはは」
食「あの。
 そろそろよろしいでしょうか?」
み「何が?」
食「駅の名前です」
み「おー。
 戸板駅か」
食「違います」
律「ごめんなさいね。
 話が飛んじゃって。
 この人、脱線してばっかりしてるから」
み「列車の中で、“脱線”は禁句だろ」
律「あら失礼」
食「駅名は……。
 大小の“大”に、戸板の“戸”」
み「あ、ここから戸板話になったのか」
ここから戸板話になったのか
↑世田谷区用賀にある名門(1902年開校)。軽井沢にセミナーハウスもあります。

律「ほら、あんたが悪いんじゃない」
み「先生の例えが悪いの!」
律「3文字目が、瀬川瑛子の“瀬”ね」
↑同じ顔になる体操を、わたしも毎朝しています
↑同じ顔になる体操を、わたしも毎朝しています。目袋の筋トレだと思うのですが……。

み「ふむ。
 大きい戸に、瀬か。
 よし、わかった!」
食「等々力警部みたいですね」
石坂浩二主演の『金田一耕助シリーズ』に出てくる名物キャラ、等々力警部(加藤武)
↑石坂浩二主演の『金田一耕助シリーズ』に出てくる名物キャラ、等々力警部(加藤武)。

み「轟木駅にちなんでの登場です」
食「とっくに通りすぎてますけど。
 わかったんなら、お答えください」
み「ずばり、“おとせ”じゃ」
食「違います」
律「“おとせ”なんて、言い難くてしょうがないわよ。
 車掌さんとかが」
『くま川鉄道(熊本県)』の女性車掌さん
↑『くま川鉄道(熊本県)』の女性車掌さん。

み「“かそせ”も一緒だろ」
律「あら、そう言えばそうね。
 なんか、力の入らない字が並んでる感じ」
み「“おとせ”じゃなきゃ、何なんだ?」
食「“おおどせ”です」
み「なんじゃそりゃ。
 そのまんまの読みじゃないか」
食「誰も3文字なんて言ってないでしょ」
み「あ、最近できた駅なんじゃないの?
 読みが普通ってことは」
食「『大戸瀬駅』の開業は、昭和8年です。
 『風合瀬駅』は昭和24年ですから、『大戸瀬駅』の方が16年も古いです。
 そもそも、昔からの集落の名称が付けられたわけですから……。
 駅の出来た年とは関係ないですよ」
み「あ、そ。
 で、ここの名物とか、ひとしきり語ろうってわけ」
食「いや。
 ここは素通りです。
 次の駅が、ちょっと語りどころですから」
み「ほー、語ったんさい」

 ここで、一息。
 『大戸瀬駅』は、2010年(平成22年)11月に、新駅に建て替えられました。
 ↓それが、こちら。
『大戸瀬駅』は、2010年(平成22年)11月に、新駅に建て替えられました

 新しい駅になると、どうしてトイレに似てしまうんでしょうね。
 それでは、お話を続けましょう。

律「あ、トンネル」
食「田野沢トンネルです。
 長さ、192メートル」
み「そんなこと覚えて楽しい?」
食「データを読みこんでると、自然に覚えてしまうんです」
律「理想的な学習法ね」
食「ま、“好きこそものの上手なれ”の典型でしょうね。
 嫌いなことは、いっこうに覚えられませんから」
律「そんなものですわ」
み「和んでないで、話を進めんかい。
 また、駅名当てか?」
食「いえ。
 もう駅名当ては無しです。
 ひと駅ごとに、あんな騒ぎになるんじゃ、終点まで持ちません」
み「何の騒ぎよ?」
食「こむら返り起こしたでしょ」
こむら返り起こしたでしょ

み「あれは、騒ぎたくて騒いだわけじゃないわい。
 不可抗力じゃ」
食「とにかく、駅名当ては無しです。
 ていうか、珍しい駅名はだいぶ先までありませんから。
 駅名は、先に言っておきます」
み「それはつまらんので無いの?」
食「いえ。
 言わせてください。
 その方が、流れ的にいいみたいですから」
『東北』も、このように流れてくれるといいのですが
↑『東北』も、このように流れてくれるといいのですが。

み「なんの流れじゃ」
食「実は、次の駅には、『リゾートしらかみ』3号は停車するんですよ。
 しかも、15分も」
み「なんでじゃ?」
食「名所ですから」
み「そんなら、この1号も停めたら良かろ」
食「ま、列車ダイヤの都合でしょうね」
み「もったいぶらないで、早よ駅名を言わんかい」
食「『千畳敷駅』です」
『千畳敷駅』です

み「なに!
 『八畳敷駅』?」
『八畳敷駅』?

食「思ったとおりの反応しますね」
み「似ているから、どうしても連想してしまうのだ」
律「992畳も違うわ」
親鸞会館(富山県射水市)。2,000畳の大講堂。
↑親鸞会館(富山県射水市)。2,000畳の大講堂。

み「そういう問題じゃないでしょ。
 そもそも、何でタヌキのアレが八畳敷なわけ?」
そもそも、何でタヌキのアレが八畳敷なわけ?

律「わたしに聞かないでよ」
み「医者だろ」
律「獣医じゃないもん」
み「獣医じゃなくたってわかるでしょ。
 あそこが膨れる病気とか」
律「ま、いろいろあるでしょうね」
み「たとえば?」
律「一番ポピュラーなのは、鼠径ヘルニアでしょ」
み「いわゆるひとつの脱腸?」
いわゆるひとつの脱腸?

律「そう」
み「ほかには?」
律「陰嚢水腫とか、睾丸腫瘍ね」
み「“いんのーすいしゅ”って何よ?」
律「睾丸の周りに、漿液が溜まる病気」
み「ふむ。
 水で膨れるわけか。
 見た目、脱腸と紛らわしいんじゃないの?」
見た目、脱腸と紛らわしいんじゃないの?

律「鼠径ヘルニアの場合……。
 腸が出たり入ったりするから、大きさが変わるのよ。
 あと、懐中電灯を当ててみればすぐわかる。
 陰嚢水腫は、入ってるのが水だから透明なの」
陰嚢水腫は、入ってるのが水だから透明なの

み「なるほど。
 脱腸は腸が詰まってるから、暗いわけね。
 どのくらい大きくなるのかな?」
律「陰嚢水腫では……。
 1リットル貯めたおじいちゃんがいたって話は聞いた」
これは、ラクダ。陰嚢水腫ではなく、通常サイズのようです。
↑これは、ラクダ。陰嚢水腫ではなく、通常サイズのようです。

み「ちょっと、待たんさい。
 1リットルって、大きいペットボトル1つじゃないの。
 そんなの、ズボンに入らんだろ。
 どうなってんのよ?」
律「知らないわよ。
 でも、ズボンのチャックが、横に開くようになってたそうよ」
なぜか、社会の窓全開の星飛雄馬
↑なぜか、社会の窓全開の星飛雄馬。

み「なんでチャックなのよ?
 チャックからは、竿だけ出せばいいんでしょ。
 玉まで出す必要ないじゃないの」
律「知らないってば」
み「竿も肥大するのかな?
 そんなら、陰嚢水腫に罹りたがる男がたくさん出るんじゃないか?」
そんなら、陰嚢水腫に罹りたがる男がたくさん出るんじゃないか?

み「チミの見解は?
 男子として、どうよ」
食「1リットルの水が貯まってるということは……。
 重さが1キロってことですよ」
重さが1キロってことですよ

み「あ、わかった!
 玉の重みに引っ張られて……。
 竿が引っ張り出せないんだ。
 普通のチャックじゃ」
竿が引っ張り出せないんだ

食「なんとなくそんな気はします」
み「ふーむ。
 玉だけ1キロもあって……。
 竿が鉛筆サイズだったら、情けなかろうな。
 先生は、実物見たの?」
律「見てないわよ」
み「いや、1リットルのヤツじゃなくてもさ。
 500ミリ級とか」
安藤美姫が携帯ストラップにしてたことでブレーク。子宝に霊験あらたか?
↑安藤美姫が携帯ストラップにしてたことでブレーク。子宝に霊験あらたか?

律「ひとつも見てません。
 産婦人科だもん」
み「学生の時に見たでしょ?
 大学病院とかで」
律「見てません。
 睾丸の病気は、男性にとって、とても恥ずかしいものなの。
 学生に見学させるなんてことありえないわよ。
 あと、これは学生時代の講義で聞いたんだけど……。
 昔は、陰嚢象皮病って病気があったんだって」
この気の毒なトカゲは、数日間にわたり、ゾウによって持ち歩かれたそうです
↑この気の毒なトカゲは、数日間にわたり、ゾウによって持ち歩かれたそうです。

み「おーっ。
 病名だけでもスゴい。
 興味がフツフツと沸き起こるわい。
 語ってちょうだい」
律「これは、寄生虫による病気なの。
 東京に、『目黒寄生虫館』って施設があるの知ってる?」
み「知らいでか。
 今度東京に行く機会があったら、ぜひ寄ってみたい場所です。
 サナダムシのランチバッグを、ぜひ買いたい」
サナダムシのランチバッグを、ぜひ買いたい

律「悪趣味ね」
み「その『目黒寄生虫館』に、何があるんだ?」
その『目黒寄生虫館』に、何があるんだ?

み「ますます、行きたい欲が増すではないか」
塩鱒。美味しいよ!
↑塩鱒。美味しいよ!

律「あるのは、写真だけよ。
 その病気に罹った人の」
み「デカいわけ?」
律「頭よりも大きいそうよ。
 地面に引きずってたって(あまりにもグロいので、画像掲載は自粛します)」
これは、写真から加工されたシルエット。マタの間にある、巨大球状物質がソレです。
↑これは、写真から加工されたシルエット。マタの間にある、巨大球状物質がソレです。

み「どしえー。
 信楽焼の狸、そのものじゃない」
信楽焼の狸、そのものじゃない

み「どうしてそんなになるわけ?」
律「バンクロフト糸状虫という寄生虫によって……。
 リンパ管の拡張、増殖が引き起こされるわけよ。
 で、足とか陰嚢が、象の皮膚みたいに硬く膨れあがる」
仮面ライダーV3に登場した『吸血マンモス』。どうやって血を吸うんだ?
↑仮面ライダーV3に登場した『吸血マンモス』。どうやって血を吸うんだ?

み「どのくらいまでなるの?」
律「数十キロになることもあるって」
み「ちょっと待たんさい。
 歩けないじゃないの」
律「農作業とか、通常の生活はできないわね。
 だから、この病気に罹った人は……。
 人里離れた村外れに住んで、ソレを見世物にして生計を立ててたそうよ」
『北斎漫画』
↑『北斎漫画』

み「うぅ。
 哀れじゃ。
 でも、働かなくていいわけだよね。
 見せるだけで。
 ちょっと羨ましいかも」
メリックの病気は、象皮病ではなく、プロテウス症候群とする見方が有力になってるそうです。
↑メリックの病気は、象皮病ではなく、プロテウス症候群とする見方が有力になってるそうです。

律「そんなの、あんただけよ」
み「今は、治療法があるんでしょ?」
律「今は、感染者そのものがいないもの」
み「いつごろまでいたの?」
律「昭和初期までは、全国各地にいたみたい」
み「そういう人たちの存在が、タヌキの八畳敷伝説になったのかな?」
『狸の夕立』歌川国芳
↑『狸の夕立』歌川国芳。(こちら)の英語のサイトがおもろいです。

律「そうなのかもね」
み「うーむ。
 『目黒寄生虫館』、今直ぐにでも飛んでいきたい」
律「今も写真が展示されてるかどうか、わからないわよ」
み「されてなかったら、館長を脅してでも見届けてやる」
館長を脅してでも見届けてやる

律「どうぞ、ご随意に」
み「先生も付き合って」
律「お断り」
み「ちぇ。
 つまらんのぅ。
 ところでさ。
 タヌキのあそこって、ほんとに大きいの?」
律「わたしに聞かないでって。
 獣医じゃないんだから」
み「じゃ、チミ」
食「何でボクなんですか?
 でも、なぜか知ってます」
み「なぜじゃ?」
食「鉄仲間に、変わった先生がいるんですよ。
 専門は動物学なんですけど……。
 動物と人間の関わりっていうか、民族学的な研究もしてるんです。
 動物が、昔話でどう扱われてるとかって。
 で、全国各地を調査で飛び回ってるついでに、“鉄”もやってるわけです」
み「公費で“鉄”やってるってことだな」
『信楽高原鉄道』の列車です
↑『信楽高原鉄道』の列車です。

食「ま、そうですね。
 とにかく、話好きな先生でしてね。
 一緒に鈍行列車に乗ってると、朝から夕方までしゃべってますよ。
 タヌキの話も、さんざん聞かされました」
タヌキの話も、さんざん聞かされました

み「八畳敷のいわれも?」
食「もちろんです。
 そもそも……。
 ほんとのタヌキの睾丸って、どのくらいの大きさだと思いますか?」
み「ま、八畳敷までは無いにしても……。
 体に比較したら大きめなんじゃないか?
 30センチとか」
30センチとか

食「そんなにデカかったら、引きずっちゃうでしょ」
み「信楽焼のタヌキは、引きずってるではないか」
食「本物のタヌキの話です。
 そもそも、タヌキって足が短いんですよ。
 少し大きいだけで、引きずっちゃいます」
少し大きいだけで、引きずっちゃいます

み「そう言えば……。
 キツネの脚はスラっと長いのに……」
北海道の観光狐。プロの腕前が無くても、普通にこういう写真が撮れるそうです。
↑北海道の観光狐。プロの腕前が無くても、普通にこういう写真が撮れるそうです。人が近づいても、逃げないんですね。

み「タヌキはどうして短足なわけ?」
食「餌の違いが影響してるそうです。
 キツネは、完全な肉食ですからね。
 ネズミなんかの小動物を捕食するわけです。
 そのため、速く走ったり、ジャンプしたりする必要がある」
そのため、速く走ったり、ジャンプしたりする必要がある

食「で、俊敏に動ける長い脚が備わったわけです」
み「皆まで言うな。
 それに対し、タヌキは雑食というわけだな」
食「よく知ってますね」
み「筒井康隆の小説に出てきた。
 宇宙飛行士が、宇宙船の中でコールドスリープに入ろうとしたところに……。
 実験動物として連れて来られたタヌキが逃げ出したって話(あらすじは不確かです)」
 実験動物として連れて来られたタヌキが逃げ出したって話(あらすじは不確かです)
↑似てますが、アライグマです。

律「食べられちゃうってこと?」
み「最後は、恐怖が膨らむところで終わってたと思うけど」
食「餌がほかに無ければ、食べられる可能性は大ですよ」
餌がほかに無ければ、食べられる可能性は大ですよ

み「普通は、何を食べてるの?」
食「ミミズやカエル、昆虫など、地べたにいる生き物とか……。
 木の実やキノコなどですね」
雑食なら、食べると思います。久しぶりに、わたしも食べたくなった。
↑雑食なら、食べると思います。久しぶりに、わたしも食べたくなった。

み「なるほど。
 鼻や口が地面に近い方が便利ってことか」
撮影されたのは明治神宮。参拝者に餌をもらい、優雅に暮らしてるそうです。
↑撮影されたのは明治神宮。参拝者に餌をもらい、優雅に暮らしてるそうです。

食「だから、30センチもあるわけないんです」
み「じゃ、どのくらいよ」
食「人の小指の先くらいだそうです」
人の小指の先くらいだそうです

食「哺乳類の中でも、小さい方らしいです」
み「おかしいだろ。
 そんなら、どうして八畳敷なんて云われるようになったんだ?」
食「ま、一説には、タヌキが座ったときに……。
 フサフサの尻尾が股の間から覗いてる様子を、見まちがったのではないかと云われてます」
フサフサの尻尾が股の間から覗いてる様子を、見まちがったのではないかと云われてます
↑これはネコですが。

み「それだけ?
 尻尾の太い動物は、タヌキだけじゃないだろ」
尻尾の太い動物は、タヌキだけじゃないだろ
↑カモノハシとか。座るかどうかは、わかりかねますが。

食「実は、もっと有力な説もあります」
み「もったいぶらないで、言ったんさい」
食「タヌキの皮って、スゴく耐久性に優れてるそうなんです。
 で、金箔を作るときに使用された」
み「金箔を作るのに、どうしてタヌキの皮がいるわけ?」
食「金箔ってのは、金を薄く伸ばしたものです」
金箔ってのは、金を薄く伸ばしたものです

み「知っとるわい。
 1万分の1ミリとかだよね」
食「よく知ってますね」
み「えへん。
 金閣寺を特集したNHK番組で知りました」
金閣寺を特集したNHK番組で知りました

食「今はもちろん、機械で伸ばすんでしょうけど……。
 昔は、職人が手作業で伸ばしてたわけです。
 どうするかというと……。
 タヌキの皮に、金の玉を包んで、槌打ちして引き延ばすんです」
『フィンラクーン』のコート。フィンランドで毛皮用に養殖されてる大狸だそうです。
↑『フィンラクーン』のコート。フィンランドで毛皮用に養殖されてる大狸だそうです。

食「1匁(もんめ)の金の玉が……。
 八畳の広さの金箔になったそうです」
八畳の広さの金箔になったそうです

み「にゃんだとー。
 金の玉が、タヌキの皮で八畳敷まで伸びるってことだったの?」
食「てことらしいです。
 それが変じて、“タヌキの金玉八畳敷”になったわけです」
涼しげですね
↑涼しげですね。

み「うーむ。
 どストライクではないか。
 でも、タヌキの八畳敷って、昔話にたくさんあるよね。
 金箔づくりにタヌキの皮が使われるようになったのは、そのまた昔ってことか」
安土城跡から出土した金箔瓦
↑安土城跡から出土した金箔瓦

食「ですね」
律「そんな昔話なんてあった?
 聞いたことないわ」
み「もちろん、学校で教えるわけないからね。
 聞きたい?」
律「別に、聞きたくはないけど」
み「旅の土産に聞かっしゃい」
律「なんで、五能線の土産がタヌキ話なのよ?」
み「むかーし、昔」
むかーし、昔

律「勝手に語り出さないで」
み「すでに語り部が憑依しておる。
 しまいまで語らせないと、100代祟るぞ」
『新八犬伝』玉梓(たまずさ)が怨霊
↑『新八犬伝』玉梓(たまずさ)が怨霊。

み「短い話だから、参考までに聞きなさい」
律「小さい声で語ってよね」
み「むかし、昔、あるところに……」
律「おじいさんとおばあさんがいました」
おじいさんとおばあさんがいました

み「黙って聞け!
 おばあさんはいないの!」
律「なんでよ」
み「離婚したのだ」
離婚したのだ

律「理由は?
 DV?」
DV?

み「話をかき回すな!
 離婚の理由まで知るか!
 とにかく、おじいさんがひとりで住んでたの」
律「はいはい」
み「おじいさんは、昔話がとても上手でした。
 ある晩、ひとりの小僧さんが……。
 『昔話を聞かせてください』と、おじいさんの家にやってきました」
『昔話を聞かせてください』と、おじいさんの家にやってきました

み「初めて見る小僧さんでしたが……。
 おじいさんは、昔話を語ってやりました。
 小僧さんは、とても喜んで、おじいさんの話に聞き入ってたそうです。
 以来、小僧さんは、毎晩やってくるようになりました。
 小僧さんがとても熱心に聞いてくれるので……。
 おじいさんも、語りがいがあります」
おじいさんも、語りがいがあります

み「囲炉裏の火が消えそうになるのも忘れるほどでした。
 で、ある夜、消えそうな火に、新しい薪を足したところでした」
ある夜、消えそうな火に、新しい薪を足したところでした

み「火が一瞬明るくなり、小僧さんの影が、ムラムラと動きました。
 おじいさんは、冷や水を浴びた気がしました。
 小僧さんの影は、人のものでは無かったのです。
 おじいさんは、小僧さんに気づかれないように、火箸を火の中に刺しました。
 で、語り疲れて、うつらうつら居眠りをする振りをしました。
 長い眉毛の下から、小僧さんの様子を伺っていると……。
 小僧さんは、短い着物の裾から、なにやら引っ張り出しました。
 毛むくじゃらの布みたいなものです。
 小僧さんがそれを、囲炉裏の火で炙り始めると……。
 毛むくじゃらの布は、みるみる広がっていきます。
 『こいつ、狸だ』。
 おじいさんは、ようやく気づきました。
 小僧さんが裾から出したのは、金玉だったのです。
 おじいさんが、眠りこんだ振りをすると……。
 狸小僧は金玉を大きく広げ、おじいさんに被せようとしました」
狸小僧は金玉を大きく広げ、おじいさんに被せようとしました
↑これまた歌川国芳。

み「おじいさんは、大きく舟を漕ぐ振りをして、囲炉裏の火箸を取り上げると……」
おじいさんは、大きく舟を漕ぐ振りをして、囲炉裏の火箸を取り上げると……
↑ほぼ凶器です。

み「頭上に被さってきた金玉に、深々と突き刺しました」
頭上に被さってきた金玉に、深々と突き刺しました
↑鶏の白子串(希少部位、だとか)。

み「『あんぎゃー』」
 狸は悲鳴をあげて逃げて行きました。
 おしまい」
律「なんなのよ、それ?」
み「なんなのって、昔話でしょうが」
律「その後、どうなったわけ?」
み「これで終わりです」
律「何が言いたかったの?」
み「別に」
律「教訓とかは?」
教訓とかは?

み「ございません」
律「ヘンなの」
み「ヘンではない。
 昔話とは、本来そういうものです。
 わたしの尊敬する内田百閒は……」
百鬼園倶楽部(内田百閒顕彰会)のハッピだそうです(百鬼園は、百閒の別号)
↑百鬼園倶楽部(内田百閒顕彰会)のハッピだそうです(百鬼園は、百閒の別号)。

み「『王様の背中』というお伽話集の序文で、こう述べております」
『王様の背中』というお伽話集

み「『この本のお話には、教訓はなんにも含まれて居りませんから、皆さんは安心して読んでください。
 どのお話も、ただ読んだ通りに受け取って下さればよろしいのです。
 それがまた文章の正しい読み方なのです』」
強烈な“鉄”でもありました
↑強烈な“鉄”でもありました。

律「でも、どうして被せようとするのよ?」
み「理由を問うでない!
 そういうものなのじゃ」
律「どういうものよ?」
み「大きくて広い金玉を持つものは……。
 それを、人の頭に被せたくなるものなの」
それを、人の頭に被せたくなるものなの

み「な?」
食「な?、って。
 知りませんよ、ボクは」
み「ははぁ。
 チミのは、本物の狸サイズだな?」
チミのは、本物の狸サイズだな?

食「話が落ちすぎです。
 そう言えば……。
 西郷隆盛は、陰嚢水腫だったそうです」
西郷隆盛は、陰嚢水腫だったそうです
↑別人です。

み「ほー」
食「で、西南戦争で負けた西郷は切腹し……。
 首は、味方の兵士が埋葬のために持ち去った。
 官軍側は、西郷の死を確認するため、死体を探した。
 そのとき、首のない胴体を判別する目印が、巨大な陰嚢だったそうです」
み「どのくらいデカかったわけ?」
食「人の頭ほどあったそうです」
人の頭ほどあったそうです

食「西郷は、馬にも乗れなかったらしいですから」
み「ふーむ。
 人に被せたくなったかな?」
律「なるわけ無いでしょ」
み「わかった!」
食「何がです?」
み「上野公園の西郷隆盛が、着物を着てるわけ」
上野公園の西郷隆盛が、着物を着てるわけ

律「どういう意味?」
み「着物なら、わからんでしょ。
 あすこがデカくても。
 西郷は、ズボン文化になったら困るので……。
 それを阻止するために、西南戦争を起こした」
それを阻止するために、西南戦争を起こした

律「バカバカしい」
み「さてそれでは、昔話をもうひとつ語って進ぜようかの」
昔話をもうひとつ語って進ぜようかの

律「どうしてそうなるのよ」
み「こーゆー下ネタな昔話、心底楽しかろ?」
下ネタな昔話、心底楽しかろ?

律「あんただけでしょ。
 そもそも、さっきの昔話じゃ……。
 なぜ大きいのかという謎が、ぜんぜん解かれてないじゃないのよ」
み「百鬼園先生の言葉を聞いてなかったのきゃ!
 昔話に教訓は要らないの」
昔話に教訓は要らないの

食「あそこが大きいことが、教訓とは思えませんが」
み「それは解決済みだろ。
 八畳敷まで伸ばす金箔の話で」
八畳敷まで伸ばす金箔の話で
↑現在は、このような箔打機を使うようです。

食「ま、そうですけどね。
 でも、タヌキって、不思議と金に縁があるんですよ」
タヌキって、不思議と金に縁があるんですよ
↑「和室はもちろん洋室・リビング・オフィスにも違和感無く飾って頂けるデザイン」だそうです(こちら)。

み「金箔のほかにも?」
食「佐渡ヶ島に、団三郎狸の話が残ってますよ」
佐渡ヶ島に、団三郎狸の話が残ってますよ
↑河鍋暁斎『狂斎百図』より。人間相手に、金貸しもしてたそうです。

律「地元じゃないの。
 知らなかった?」
み「佐渡は、海外じゃ。
 どんな話よ?」
食「まず、佐渡と狸の繋がりから話しましょう。
 さっき、金と縁があるって言いましたでしょ。
 佐渡で金と云えば?」
み「そりゃあーた、佐渡金山に決まっとろうが」
そりゃあーた、佐渡金山に決まっとろうが

み「世界遺産に登録されるべく、運動中と聞いておる」
世界遺産に登録されるべく、運動中と聞いておる

み「あ、佐渡でも金箔が作られてたってこと?」
食「それは無いでしょう。
 金箔より、ずっと前の工程です」
み「もったいぶらんで、早よ言わんかい」
食「金鉱石から、金を精錬する作業です」
金鉱石から、金を精錬する作業です
↑これは、伊豆・土肥金山の資料館にあるジオラマ。

食「金を溶かすわけですから……。
 高温の火が必要です。
 その作業に使われたのが、フイゴという道具です」
み「♪しばしも休まず 槌うつ響き」
食「♪飛び散る火花よ 走る湯玉」
み「♪フイゴの風さえ 息をもつがず」
♪フイゴの風さえ 息をもつがず
↑兵庫県三木市の『金物資料館』にあります。

 ↓わたしたちに馴染みがあるのは、この歌詞ですが……。


 ↓当初の歌詞は、こうだったそうです。


食「それです。
 フイゴを使って、炉に空気を送ったわけです」
み「タヌキがその作業をしたとでも言うのか?」
新潟市内には、こんな名前の小路もあります
↑新潟市内には、こんな名前の小路もあります。

食「そんなわけないでしょ。
 金箔を槌打ちで伸ばすのに、タヌキの皮が使われたのは……。
 タヌキの皮が丈夫だったからです。
 つまり、フイゴにも、タヌキの皮が使われてたんです」
フイゴにも、タヌキの皮が使われてたんです
↑タヌキの毛皮。リアルファーです。

 それではいったい!
 フイゴのどの部分に、タヌキの皮が使われたんでしょう?
 わたしは最初、↓のようなフイゴで、ジャバラ部分に使われるのかと思いました。
このフイゴの蛇腹は、ゴムのようです
↑このフイゴの蛇腹は、ゴムのようです。

 でも、金の精錬に、こんな小さいフイゴじゃ間に合わないだろうと不思議でした。
 ↓使われるとしたら、こういう箱型のフイゴじゃないかと。
使われるとしたら、こういう箱型のフイゴじゃないかと

 でも、タヌキの皮なんか、どこにも使われてそうに見えません。
 しかし!
 検索を深めていったところ……。
 ↓ついに、核心画像を発見しました。
ついに、核心画像を発見しました

 おそらく、空気漏れを防ぐためと、滑りを良くするためだろうと思いますが……。
 空気を押し出す板の周囲に、緩衝材のようなものが張られてます。
 なんと!
 これが、タヌキの皮だったんです。
 画像は、こちらのページから拝借しました。

 自分で調べるって、ほんと面白いね。

み「佐渡にどのくらいタヌキがいたか知らないけど……。
 捕り尽くされたんじゃないの?
 なにしろ、山の形が変わるほど、採掘されたわけだから」
なにしろ、山の形が変わるほど、採掘されたわけだから
↑国指定史跡『道遊の割戸(どうゆうのわれと)』。山が真っ二つになるまで、採掘されました。

食「佐渡には、元々タヌキはいなかったようです」
み「にゃに。
 連れて来られたってこと?」
食「佐渡奉行によって持ち込まれたそうです」
佐渡奉行によって持ち込まれたそうです
↑佐渡市相川(旧相川町)にあった佐渡奉行所(安政5年に建てられた奉行所を基に復元されたもの)。

食「佐渡には、今でもキツネがいないそうですが……。
 昔は、タヌキもいなかったわけです」
み「タヌキの島流しか。
 罪もないのに、気の毒に」
食「佐渡にタヌキがいて、キツネがいない理由が、昔話になって残ってます。
 それが団三郎狸のお話です」
金貸しのほかに、選挙の応援もしたそうです
↑金貸しのほかに、選挙の応援もしたそうです。

み「語ったんさい」
食「いいんですか?
 語り部を差し置いて」
語り部を差し置いて
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