2013.4.27(土)
食「ウェスパには、ガラス工房がありましてね」
食「このゲストハウスは……。
作家や研修生が、長期滞在して作品を製作するために造られたんです」
食「こちらには、2名用の和室もあります」
み「いくら?」
食「8,400円です」
み「ちょっと詳しすぎじゃないの」
食「ボクもそう思います」
↑洋室は、ツイン1、シングル2の4人用で、14,700円。
み「ま、話の都合だから、仕方あるまい。
でも、コテージが満室じゃないと使えないってのは……。
何でじゃ?」
食「わかりません」
み「わかった!」
食「ホントですか?」
み「ガラス作りの作家ってのは、職人気質の芸術家だろ」
食「これ、岡本太郎じゃありませんか」
み「なんでわかるんだ?
まぁ、いい。
で、そういう芸術家は……。
突然思い立って、アポ無しで来たりするんだよ。
そんなとき、ゲストハウスが空いてないとマズいじゃん」
食「コテージに泊まってもらえばいいじゃないですか」
み「う。
コテージに、和室はあるのか?」
食「無いと思います」
み「ほれ見ろ」
食「何がです?」
み「ガラス作家は、和室に泊まりたいの」
食「何でですか?」
み「和室が好きだからよ」
↑やはり、和犬には和室が似合います。
食「訳わかりません」
み「だから、ゲストハウスが空いてないと……。
工房に泊まるとか言い出すわけ」
み「酔っ払って機材を壊したりして、大変だぞ」
↑『川崎市岡本太郎美術館』女の子が可愛かったので載せてみました。
食「いつの時代の作家ですか。
今どき、そんな人いませんって」
み「保証人になるか?」
食「何でです」
み「ところで、どうしてガラス工房なんかあるんだ?」
食「宿泊客が、ガラス作りを体験できる工房なんです」
食「そうそう。
ここの電気溶解炉も、風力発電で動いてるんです」
み「風がないと使えないじゃない」
食「そんなわけないでしょ。
風力発電が出来ないときは、東北電力から給電されます(たぶん)。
吹きガラスの体験も出来るんですよ」
み「ガラスの管を回しながら、息を吹き入れるやつ?」
食「そうです」
律「あれは、難しそうよね」
み「先生なんか、うっかり吸っちゃうんじゃないの?」
律「なんで吸うのよ?」
み「細くて長いの咥えると、吸いたくなるんじゃないの?
うっかり、出し入れしたりして。
痛い!
叩くことないじゃないの!」
律「呆れた女。
素面でよくそういうことが言えるわね」
み「おー、痛て。
頭が凹んだかも」
律「中身が詰まってないからよ」
み「失敬な」
律「すみませんね。
ほんの冗談ですのよ」
食「いいえ。
何も聞いてませんから」
律「でも、ほんとに難しそう。
ちゃんとした形になるかしら?」
食「吹きガラスで作るのは、グラスとかだと思います」
食「少し難しいかも知れませんね。
でも、ペンダントなんかも作れますよ」
↑実際に体験された方の作品です(参照)。
律「へー。
それなら、夏休みの子供連れに持って来いじゃないかしら。
夏休みの工作が、ついでに出来ちゃいますもの」
食「あ、それはいいですね。
昆虫館もあるから、子供は楽しめるでしょうね」
食「夏場は、観察園もオープンして、実際の虫にも触れます」
み「ほー。
虫採りも出来る?」
食「それは、ダメでしょう」
み「なんだー。
それは徹底しとらんな。
いっそのこと、採った虫を料理して食べるまでしてほしいもんじゃ」
律「止めてちょうだい」
み「ネコに人気になるかも」
律「いい加減にしなさい」
み「ノリが悪いのぅ。
そうそう。
“スパ”というくらいだから、温泉はあるわけね?」
食「もちろん、源泉掛け流しの天然温泉が引かれてます」
み「コテージの中まで?」
食「いや。
コテージは、ユニットバスですから……。
ただの水道だと思います。
温泉施設は、別の棟になってるんです。
展望露天風呂からの眺めが、見事ですよ」
み「入浴料は?」
食「500円です」
み「高いではないか」
食「コテージの宿泊客なら、タダです」
み「おー、そりゃええ」
食「窓一面が、ドーム型の開閉窓になってて……。
天気のいい日は、開放されます。
日本海の眺めが、一望ですよ」
み「ひょっとして、わたしの裸も一望される?」
食「されませんって。
窓の外は、眼下に広がる日本海です」
↓展望露天風呂の動画がありました。
み「残念じゃのぅ。
でも、海なら、船が通るんでないの?
北朝鮮の工作船が、望遠鏡で覗くかも?」
↑『船の科学館(東京都品川区)』に展示されてるそうです。
律「あんたの裸を見たら……。
望遠鏡が破裂して、船は沈むわね」
み「なんじゃそりゃ!
わたしの裸は、最終兵器か。
腹の立つ女じゃ。
ふん。
で、温泉のほかには、何かあるの?」
食「これだけあれば、十分でしょう」
み「もう一声」
食「モヤイ像があります」
み「にゃんだそれは?」
食「伊豆七島の新島から寄贈された石像です」
み「なんで伊豆でモヤイなわけ?
ていうか、モアイだろ?」
食「“モアイ”は、イースター島でしょう」
食「新島のは、“モヤイ”です」
み「“ア”と“ヤ”の違いはなに?」
食「船を繋ぐ意味で、“もやう(舫う)”って言葉があるでしょ」
食「これは元々、力を合わせて作業することを表す言葉だったんです。
昔は日本各地で、共同作業の意味で、“もやう”を使ってたそうですね」
み「今は、使われてないわな」
食「新島では使われてるそうですよ。
で、“モヤイ像”ですが……。
大後友市という新島のアーティストが考案した像なんです」
↑大後友市さん(2010年、79歳で死去)。画像は、こちらのページから転載させていただきました。
食「新島には、抗火石(こうかせき)という珍しい石が産出するんです」
食「柔らかくて、彫刻刀で加工できます」
食「この石を使って造られたオブジェが、“モヤイ像”と云うわけです」
↑本家新島にあるモヤイ像。この哀愁はなんだ?
食「昭和50年代ころでしょうか、新島は盛んに日本各地に、このモヤイ像を寄贈してます」
み「ウェスパ椿山のモヤイ像も、その寄贈品?」
食「実は、これにはドラマがあるんです」
み「またドラマか」
食「ウェスパのモヤイ像は、元々、蒲田にありました」
み「蒲田って、東京の?」
食「そうです。
蒲田駅東口の駅前広場に、一体ありますが……」
↑こちらも、哀愁系です。
食「元々は、二体が寄贈されたものなんです。
でも、駅前広場のリニューアルのとき、『上昇気流』という巨大なモニュメントが設置されることになり……」
↑こんなものに税金を投入するのは、狂気の沙汰としか思えません。
食「片割れの一体は、居場所を失ってしまったんです。
で、長いこと倉庫に眠ってたんですが……。
時に!」
み「♪元禄15年~」
食「それはもういいですって」
み「そんなら振るなよ」
食「1998年、平成10年のことです。
所ジョージが司会の、『所的蛇足講座』という番組(福岡放送製作)で……。
食「この倉庫に眠るモヤイ像が取り上げられました。
で、番組を通じて、全国に貰い手を募集したんです」
み「あ、それでウェスパが手を上げたわけね」
食「手を上げたのは、深浦町です」
み「あらそう」
食「でも、手を上げたところは、ひとつやふたつじゃありませんよ」
み「みっつ?」
食「3,000通の応募があったそうです」
み「どしえー」
食「抽選の結果、深浦町が当選したんです」
み「すげー確率。
ひょっとして、ウェスパのモヤイ像には、当て物のご利益があるかも?」
食「さー。
縁結びのご利益はあるようですが」
ここで疑問。
蒲田駅に残るのが、↑の男性像ということなら……。
ウェスパ椿山に贈られたのは、女性像ということになります。
↓確かに、女性像はあります。
でも、前に掲載した、男性像もあるわけなんです。
さらに、謎がひとつ。
蒲田駅のモヤイ像の画像に、女性像もあったんです。
この2つ女性像を比べると、頭の形など、明らかに別の像です。
さらに、蒲田駅の男性像と、ウェスパ椿山の男性像も……。
髪型などから、明らかに別物。
どういうこっちゃねんと思って、さらに検索を深めたところ……。
ようやく、その謎が解けました。
モヤイ像は、表と裏に、男性と女性の顔が掘ってあるんです。
つまり、両面宿儺ね。
というわけで、“縁結び”の由来も判明。
み「何で縁結びなんじゃ?」
食「男女の像が、表裏一体に掘られてるからだそうです」
み「全国に寄贈されたって云うけど、あとはどこにあるわけ?」
食「竹芝桟橋にありますね」
↑涼しげですね。
この像、やっぱり裏側が女性像でした。
食「あとは、茨城県の石岡市」
食「でも、一番有名なのは、渋谷駅でしょう」
律「あ、知ってます。
待ち合わせスポットですよね」
食「ですね。
忠犬ハチ公の、ちょうど反対側にありますから」
み「そんなの、あったか?」
律「あるわよ。
覚えてないの?
東京に住んでたんでしょ」
み「渋谷は、ホームタウンではなかったからな。
とにかく、いつ行っても大変な人混みで……。
歩くのさえ、ままならんかった」
食「駅前のスクランブル交差点は、世界的に有名ですからね」
み「初めて渋谷駅に降り立った田舎者は……。
てっきり祭りの日だと思ったそうな」
↑新潟まつり
律「あんたのことじゃないの?」
み「違わい!」
律「渋谷駅のモヤイ像を知らないってのが、田舎者の証よ」
み「おぼろげには覚えてるの。
でも、そんなのじっくり眺めてみたことも無いしね」
律「待ち合わせしなかった?」
み「いったいどういう人間が、そんなとこで待ち合わせるんだ?」
食「ハチ公前は混みすぎますから……」
食「モヤイ像の方が、相手を見つけやすいと思います」
み「どんな顔だったっけ?」
律「人の顔よ」
み「そんなことはわかっとるわい」
律「ちょっとレゲエっぽいかな。
髪の毛がウェーブしてて」
↓ちなみに、裏側はこう。
文字通り、“裏の顔”ですね。
食「このモヤイが……。
去年(2009年)、盗まれたの、ご存知ですか?」
律「うそ」
み「どこのアホが、そんなのを盗むんだ?」
食「ルパンです」
み「舐めとんのか」
食「ほんとなんですよ。
ちゃんと犯行予告があって……。
モヤイ像は消えました。
像のあった場所には、『モヤイはいただいた』という犯行声明が残されてました」
み「ええかげんにさらせ」
食「警視庁は、ルパン三世と、十三代目石川五エ門、次元大介の3人の犯行と断定し……」
食「国際刑事警察機構ルパン特別専任捜査官・銭形幸一警部を中心として、捜査を開始しました」
律「ほんとなんですか?」
み「ほんとのわけあるかい!」
食「そういえば、こちらの先生……。
峰不二子に、雰囲気が似てますね」
↑珍しい、ボブカットの峰不二子。
み「スケベな想像してるな?」
食「してませんって」
み「うそこけ。
脳内が、見通せるわい」
律「そんなにからかっちゃ失礼よ」
み「おだてられると甘くなるんだから。
で、その盗難劇、どういうカラクリなわけ?」
食「もちろん、イベントです」
律「なんだ。
びっくりしたわ」
み「びっくりすな!
しかし、いくら軽石だって、そう簡単に動かせるものじゃないだろ。
重機とか、必要なんじゃないの?
よく、そんな冗談みたいなイベントに金かけたね」
食「本来の目的は、像の洗浄だったようです」
み「その場で洗えばいいじゃない」
食「よくわかりませんけど、洗浄は新島で行われたそうですから……。
特殊な技術が必要なんじゃありませんか?」
み「ま、あんなとこにあったら、煤だらけにもなるわな」
↑左:洗浄前/右:洗浄後。もともとは、白い像だったんですね。
み「いつごろからある像なの?」
食「1980年(昭和55年)に、新島の東京都移管100年を記念して寄贈されたものです」
食「渋谷に来てから、30年ですね」
み「30年も渋谷駅前に立ってたら、煤まみれだわ。
でも、そんな冗談イベントやって、警察に怒られなかったのか?」
食「もちろん、渋谷警察署も協力してました」
み「あらそう。
しかし……。
風車に展望台。
昆虫館。
ガラス工房に温泉もある。
さらに、謎のモヤイ像まで。
よくまーこれだけ、関連のないものを詰め込んだもんだな」
食「あ、そろそろ発車ですよ」
み「降りてみたい気が、満々になってしまったじゃないか」
食「降りますか?」
み「ダミじゃ。
ここで誘惑に負けたら、あとの行程が滅茶滅茶になる。
もし降りて、コテージが空いて無かったら、どうする?」
食「ゲストハウスがあるじゃないですか」
み「そこも満員だったらどうする?」
食「ガラス工房で寝るんじゃないですか?」
み「それは、岡本太郎!」
食「じゃ、昆虫館とか」
み「やめんかい!
寝てる間に、大事なとこ刺されたらどうする!」
み「そもそもわたしは……。
ふかふかのお布団がなきゃ、寝れないタイプなの」
食「案外、デリケートなんですね」
み「案外は余計だろ。
とにかく!
わたしは、物事が計画通り進まないとパニックになるのです」
食「ほんとですか?」
み「返す返すも失礼なやつ。
ふんとにもう。
あ、あのホームにいる人って、観光駅長じゃないの?」
食「あぁ、そうですね」
み「あの人も、委託された地元民?」
食「違います。
『ウェスパ椿山』を運営する“ふかうら開発”の社員ですね」
み「ありゃ、そう。
どうりで若いと思った」
律「でも、かなりの人が降りたわよね。
『ウェスパ椿山』って、人気があるんですね」
食「ここで降りた人が、みんな『ウェスパ』に行くわけじゃないんです」
み「ほー。
ほかに、何があるんだ?」
食「2つの温泉への、無料送迎バスが出てるんですよ」
み「それって、有名な温泉?」
食「知る人ぞ知るって感じでしょうか」
み「わかった!
酸ヶ湯温泉」
食「ぜんぜん場所が違います。
酸ヶ湯は、八甲田山でしょ」
食「深浦町から無料送迎バスが出るわけないじゃないですか」
み「位置関係がさっぱりわからん。
じゃ、何温泉?」
食「『みちのく温泉』と『不老ふ死温泉』です」
み「『不老ふ死温泉』ってのは、聞いたことあるかも」
律「スゴい名前の温泉ね。
入ったら死ななくなるのかしら?」
↑不老不死といえば、この人。徐福さん。
み「医者にあるまじき言動ですな」
食「波打ち際の露天風呂が有名です。
よくポスターとかにもなります」
食「見たことありません?
目の前が海のひょうたん型の湯船」
食「今日のお天気なら、入れますよ」
み「お天気によっては、入れないわけ?」
食「悪天候時には閉鎖されます。
波にさらわれますから」
み「そんなに波打ち際なの?」
食「さっきから言ってるでしょ」
み「うーむ。
全裸で波にさらわれて……。
死体が打ちあげられたら悲惨じゃ」
律「見せたいんじゃなかったの?」
み「死体を見せてどうする!
ピチピチの生きた生身をお見せしたいの」
食「あ、ここは混浴ですから、存分にお見せできますよ」
み「にゃにー。
それはぜひぜひ行かねば」
み「先生、降りようか」
律「あんたひとりで行きなさい。
わたしは御免被るわ」
み「旅の恥はなんとやらと言うではないか」
律「あんたと一緒に恥をかく気はありません」
み「連れないのぅ。
先生だけ、バスタオルして入ればいいじゃん」
食「バスタオルが茶色くなっちゃいますよ」
↑これはたぶん、黄色いタオルだと思います。
み「なんで?」
食「鉄を含む塩化物泉ですから。
お湯は、地下では透明なんですが……。
地上に吹き出したとたん、鉄分が酸化して茶褐色になります」
み「にゃんだ。
それじゃ、漬かってしまったら、見えないじゃないか」
食「露天風呂までの道中で、十分見せられます」
み「ほー。
あ、いいこと思いついた。
桶を足に履いてさ……。
湯船までの道中を、外八文字で歩いたら面白かろ」
↑『分水おいらん道中』前の練習風景
み「頭にタオルだけ載せて、全裸で」
律「勝手にやってれば。
病院に収容されるわよ」
み「連れないのぅ」
律「だいたい、どうやって足に桶なんか履けるのよ?」
み「瞬間接着剤で貼ればよかろ」
律「取れなくなるじゃないの」
み「うーむ。
あ、そうだ。
足袋を履いて、足袋の裏に接着剤を塗ればいいんだ」
律「足袋持ってるの?」
み「旅行に足袋なんか、持ってきてるわけないだろ」
律「じゃ、履けないじゃないの」
み「温泉場なら、足袋くらい売ってるよ」
律「どうしてわかるの?」
み「女将や中居さんは、みんな足袋履いてるでしょ」
み「ひょっとしたら、コンビニで売ってるかも」
律「ほんとかしら」
食「あの。
話題が大きくズレてますけど」
律「あんたが悪いのよ。
ヘンなこと言い出すから」
み「乗った方も同罪だろ。
まぁ、いい。
で、塩化物泉ってことは、塩が含まれてるの?」
食「かなりの濃度ですよ。
口に含んでみると、海水よりしょっぱいです」
み「ほー。
いつごろからある温泉?
名前からして、ものすごく古そうだけど」
食「あに図らんや……」
み「弟、ハレルヤ」
食「何ですそれ?」
み「今思いついたギャグ」
食「流行らないと思います」
み「いいの。
旅のギャグは吐き捨て」
食「それも、今思いついたんですか?」
み「楽しい旅で、ハイになってるわたしです。
気にせず進めたまえ」
食「温泉が出たのは、30年前ですね」
↑イメージです。
み「にゃにー。
そんなに新しいのか」
食「海岸に、わずかに温泉が湧いてた場所を……。
200メートル、ボーリングしたら自噴したそうです」
み「一発で掘り当てたら、丸儲けじゃないか。
民間?」
食「ですね。
株式会社 黄金崎不老不死温泉。
宿の名も、同じく『不老ふ死温泉』。
一軒宿です」
↓脱衣場の写真を発見。
ここで脱ぐのは、ちょっとためらわれますね。
でもここ、着て来た服を脱ぐ場所ではないようです。
内湯から浴衣だけ羽織って来て、それをここで脱ぐんじゃないのかな?
↓露天風呂までの道中は長く、丸見えのようですから。
食「あ、そうそう。
会社名の方は、“不老不死”が、全部漢字なんですが……。
宿の名称の方では、“ふ死”の“ふ”の字だけが、ひらがななんですよ」
み「にゃんで?」
食「実は、青森県には、もう一つ『不老ふ死温泉』があるんです。
その名も、『平舘不老ふ死温泉』。
津軽半島の先端あたりになります」
み「わかった!
みなまで言うな。
2つの『不老ふ死温泉』を区別するために……。
片方だけ、“ふ死”の“ふ”の字をひらがなにした」
食「確かに、平舘の方が古いんですが……。
残念ながら、平舘も、“ふ”の字はひらがななんです」
み「なんじゃそりゃ。
そんなら、もう一つの温泉なんか持ち出すことないじゃないの」
食「2つとも同じってのが、かえって不思議でしょ」
み「なぜなのじゃ?」
食「なんでも、“不”が続くのは、中国では良くないこととされてるからだそうです」
み「なんで中国が出てくるの?
あ、徐福か」
食「ということらしいです」
み「ふーん。
それで、『不老ふ死温泉』ねぇ。
なんとなく、温泉名からは……。
つげ義春の、『リアリズムの宿』みたいな旅館を想像してたけど……」
み「違うようね」
食「施設も充実した近代的な宿です」
食「客室にも、洋室がありますし」
み「ふーん。
でも、近代的となると、料金が心配じゃ」
食「普通ですよ。
2食付いて、1人あたり12,000円くらいだと思います。
料理の高いコースでも、15,000円ですね」
み「なるほど。
一軒宿にしては、ぼってないね。
開発費が安く済んだからかね?」
↑こちらは、新館(宿泊棟)にある露天風呂。
食「そこまでは知りませんが」
み「立ち寄りでも利用できるの?」
食「もちろんです」
↑本館(立寄り入浴施設)の内風呂。
食「でも、立ち寄りの人は……。
海辺の露天風呂には、16時までしか入れません。
15:30分で受付終了です」
み「そんな早く閉め出しちゃうの?」
食「内風呂なら、21時まで利用できますよ」
み「なんで露天風呂は、そんなに早いんだ?」
食「それはもちろん、宿泊客を優遇するためです。
日本海に沈む夕日を見るためには、宿泊するしかありませんね」
み「商魂たくましいのぅ。
宿泊客は、24時間オッケー?」
食「内風呂は、朝の4時から夜の12時までですね。
ただし、露天風呂は、夜明けから日没までです」
み「何でよ?」
食「明かりが無いからです」
↑日が落ちると真っ暗闇に。
み「ありゃそう。
露天風呂が目的なら……。
冬は避けた方がいいね」
律「どうしてよ?」
み「夜明けから日没までが短いからだよ」
律「一日中入ってるわけじゃないでしょ」
み「当たり前じゃ。
ずっと入ってるわけあるかい。
せっかく温泉に来たんだから、何回も入りたいの。
日が短けりゃ、入れる時間が限られるでしょ」
↑早朝の露天風呂。これもまたいいものです。
食「確かに、冬はお勧めできません」
み「ほれみろ」
食「理由は違いますが」
み「なんじゃい?」
食「高波で閉鎖されるかも知れませんし……」
↑宿泊棟の露天風呂からの眺め。海辺の露天風呂は、当然のごとく閉鎖。
食「お天気が悪い確率が高いですから、夕日は滅多に見れないでしょうね」
み「あ、そうか。
冬の日本海側じゃ……。
夕日なんて見れるの、10日に1回も無いもん」
律「混浴露天風呂の話はもういいわ」
↑左が混浴。右が女性専用。同じ夕日が眺められますから、女性が混浴に入って来る可能性は、ほぼゼロです。
律「さっきおっしゃってた、もうひとつの温泉の方は、どんなところなんですか?」
食「『みちのく温泉』と云います」
食「日本一の水車が名物です」
み「水力発電?」
食「違います。
そば粉を挽いてます」
食「このゲストハウスは……。
作家や研修生が、長期滞在して作品を製作するために造られたんです」
食「こちらには、2名用の和室もあります」
み「いくら?」
食「8,400円です」
み「ちょっと詳しすぎじゃないの」
食「ボクもそう思います」
↑洋室は、ツイン1、シングル2の4人用で、14,700円。
み「ま、話の都合だから、仕方あるまい。
でも、コテージが満室じゃないと使えないってのは……。
何でじゃ?」
食「わかりません」
み「わかった!」
食「ホントですか?」
み「ガラス作りの作家ってのは、職人気質の芸術家だろ」
食「これ、岡本太郎じゃありませんか」
み「なんでわかるんだ?
まぁ、いい。
で、そういう芸術家は……。
突然思い立って、アポ無しで来たりするんだよ。
そんなとき、ゲストハウスが空いてないとマズいじゃん」
食「コテージに泊まってもらえばいいじゃないですか」
み「う。
コテージに、和室はあるのか?」
食「無いと思います」
み「ほれ見ろ」
食「何がです?」
み「ガラス作家は、和室に泊まりたいの」
食「何でですか?」
み「和室が好きだからよ」
↑やはり、和犬には和室が似合います。
食「訳わかりません」
み「だから、ゲストハウスが空いてないと……。
工房に泊まるとか言い出すわけ」
み「酔っ払って機材を壊したりして、大変だぞ」
↑『川崎市岡本太郎美術館』女の子が可愛かったので載せてみました。
食「いつの時代の作家ですか。
今どき、そんな人いませんって」
み「保証人になるか?」
食「何でです」
み「ところで、どうしてガラス工房なんかあるんだ?」
食「宿泊客が、ガラス作りを体験できる工房なんです」
食「そうそう。
ここの電気溶解炉も、風力発電で動いてるんです」
み「風がないと使えないじゃない」
食「そんなわけないでしょ。
風力発電が出来ないときは、東北電力から給電されます(たぶん)。
吹きガラスの体験も出来るんですよ」
み「ガラスの管を回しながら、息を吹き入れるやつ?」
食「そうです」
律「あれは、難しそうよね」
み「先生なんか、うっかり吸っちゃうんじゃないの?」
律「なんで吸うのよ?」
み「細くて長いの咥えると、吸いたくなるんじゃないの?
うっかり、出し入れしたりして。
痛い!
叩くことないじゃないの!」
律「呆れた女。
素面でよくそういうことが言えるわね」
み「おー、痛て。
頭が凹んだかも」
律「中身が詰まってないからよ」
み「失敬な」
律「すみませんね。
ほんの冗談ですのよ」
食「いいえ。
何も聞いてませんから」
律「でも、ほんとに難しそう。
ちゃんとした形になるかしら?」
食「吹きガラスで作るのは、グラスとかだと思います」
食「少し難しいかも知れませんね。
でも、ペンダントなんかも作れますよ」
↑実際に体験された方の作品です(参照)。
律「へー。
それなら、夏休みの子供連れに持って来いじゃないかしら。
夏休みの工作が、ついでに出来ちゃいますもの」
食「あ、それはいいですね。
昆虫館もあるから、子供は楽しめるでしょうね」
食「夏場は、観察園もオープンして、実際の虫にも触れます」
み「ほー。
虫採りも出来る?」
食「それは、ダメでしょう」
み「なんだー。
それは徹底しとらんな。
いっそのこと、採った虫を料理して食べるまでしてほしいもんじゃ」
律「止めてちょうだい」
み「ネコに人気になるかも」
律「いい加減にしなさい」
み「ノリが悪いのぅ。
そうそう。
“スパ”というくらいだから、温泉はあるわけね?」
食「もちろん、源泉掛け流しの天然温泉が引かれてます」
み「コテージの中まで?」
食「いや。
コテージは、ユニットバスですから……。
ただの水道だと思います。
温泉施設は、別の棟になってるんです。
展望露天風呂からの眺めが、見事ですよ」
み「入浴料は?」
食「500円です」
み「高いではないか」
食「コテージの宿泊客なら、タダです」
み「おー、そりゃええ」
食「窓一面が、ドーム型の開閉窓になってて……。
天気のいい日は、開放されます。
日本海の眺めが、一望ですよ」
み「ひょっとして、わたしの裸も一望される?」
食「されませんって。
窓の外は、眼下に広がる日本海です」
↓展望露天風呂の動画がありました。
み「残念じゃのぅ。
でも、海なら、船が通るんでないの?
北朝鮮の工作船が、望遠鏡で覗くかも?」
↑『船の科学館(東京都品川区)』に展示されてるそうです。
律「あんたの裸を見たら……。
望遠鏡が破裂して、船は沈むわね」
み「なんじゃそりゃ!
わたしの裸は、最終兵器か。
腹の立つ女じゃ。
ふん。
で、温泉のほかには、何かあるの?」
食「これだけあれば、十分でしょう」
み「もう一声」
食「モヤイ像があります」
み「にゃんだそれは?」
食「伊豆七島の新島から寄贈された石像です」
み「なんで伊豆でモヤイなわけ?
ていうか、モアイだろ?」
食「“モアイ”は、イースター島でしょう」
食「新島のは、“モヤイ”です」
み「“ア”と“ヤ”の違いはなに?」
食「船を繋ぐ意味で、“もやう(舫う)”って言葉があるでしょ」
食「これは元々、力を合わせて作業することを表す言葉だったんです。
昔は日本各地で、共同作業の意味で、“もやう”を使ってたそうですね」
み「今は、使われてないわな」
食「新島では使われてるそうですよ。
で、“モヤイ像”ですが……。
大後友市という新島のアーティストが考案した像なんです」
↑大後友市さん(2010年、79歳で死去)。画像は、こちらのページから転載させていただきました。
食「新島には、抗火石(こうかせき)という珍しい石が産出するんです」
食「柔らかくて、彫刻刀で加工できます」
食「この石を使って造られたオブジェが、“モヤイ像”と云うわけです」
↑本家新島にあるモヤイ像。この哀愁はなんだ?
食「昭和50年代ころでしょうか、新島は盛んに日本各地に、このモヤイ像を寄贈してます」
み「ウェスパ椿山のモヤイ像も、その寄贈品?」
食「実は、これにはドラマがあるんです」
み「またドラマか」
食「ウェスパのモヤイ像は、元々、蒲田にありました」
み「蒲田って、東京の?」
食「そうです。
蒲田駅東口の駅前広場に、一体ありますが……」
↑こちらも、哀愁系です。
食「元々は、二体が寄贈されたものなんです。
でも、駅前広場のリニューアルのとき、『上昇気流』という巨大なモニュメントが設置されることになり……」
↑こんなものに税金を投入するのは、狂気の沙汰としか思えません。
食「片割れの一体は、居場所を失ってしまったんです。
で、長いこと倉庫に眠ってたんですが……。
時に!」
み「♪元禄15年~」
食「それはもういいですって」
み「そんなら振るなよ」
食「1998年、平成10年のことです。
所ジョージが司会の、『所的蛇足講座』という番組(福岡放送製作)で……。
食「この倉庫に眠るモヤイ像が取り上げられました。
で、番組を通じて、全国に貰い手を募集したんです」
み「あ、それでウェスパが手を上げたわけね」
食「手を上げたのは、深浦町です」
み「あらそう」
食「でも、手を上げたところは、ひとつやふたつじゃありませんよ」
み「みっつ?」
食「3,000通の応募があったそうです」
み「どしえー」
食「抽選の結果、深浦町が当選したんです」
み「すげー確率。
ひょっとして、ウェスパのモヤイ像には、当て物のご利益があるかも?」
食「さー。
縁結びのご利益はあるようですが」
ここで疑問。
蒲田駅に残るのが、↑の男性像ということなら……。
ウェスパ椿山に贈られたのは、女性像ということになります。
↓確かに、女性像はあります。
でも、前に掲載した、男性像もあるわけなんです。
さらに、謎がひとつ。
蒲田駅のモヤイ像の画像に、女性像もあったんです。
この2つ女性像を比べると、頭の形など、明らかに別の像です。
さらに、蒲田駅の男性像と、ウェスパ椿山の男性像も……。
髪型などから、明らかに別物。
どういうこっちゃねんと思って、さらに検索を深めたところ……。
ようやく、その謎が解けました。
モヤイ像は、表と裏に、男性と女性の顔が掘ってあるんです。
つまり、両面宿儺ね。
というわけで、“縁結び”の由来も判明。
み「何で縁結びなんじゃ?」
食「男女の像が、表裏一体に掘られてるからだそうです」
み「全国に寄贈されたって云うけど、あとはどこにあるわけ?」
食「竹芝桟橋にありますね」
↑涼しげですね。
この像、やっぱり裏側が女性像でした。
食「あとは、茨城県の石岡市」
食「でも、一番有名なのは、渋谷駅でしょう」
律「あ、知ってます。
待ち合わせスポットですよね」
食「ですね。
忠犬ハチ公の、ちょうど反対側にありますから」
み「そんなの、あったか?」
律「あるわよ。
覚えてないの?
東京に住んでたんでしょ」
み「渋谷は、ホームタウンではなかったからな。
とにかく、いつ行っても大変な人混みで……。
歩くのさえ、ままならんかった」
食「駅前のスクランブル交差点は、世界的に有名ですからね」
み「初めて渋谷駅に降り立った田舎者は……。
てっきり祭りの日だと思ったそうな」
↑新潟まつり
律「あんたのことじゃないの?」
み「違わい!」
律「渋谷駅のモヤイ像を知らないってのが、田舎者の証よ」
み「おぼろげには覚えてるの。
でも、そんなのじっくり眺めてみたことも無いしね」
律「待ち合わせしなかった?」
み「いったいどういう人間が、そんなとこで待ち合わせるんだ?」
食「ハチ公前は混みすぎますから……」
食「モヤイ像の方が、相手を見つけやすいと思います」
み「どんな顔だったっけ?」
律「人の顔よ」
み「そんなことはわかっとるわい」
律「ちょっとレゲエっぽいかな。
髪の毛がウェーブしてて」
↓ちなみに、裏側はこう。
文字通り、“裏の顔”ですね。
食「このモヤイが……。
去年(2009年)、盗まれたの、ご存知ですか?」
律「うそ」
み「どこのアホが、そんなのを盗むんだ?」
食「ルパンです」
み「舐めとんのか」
食「ほんとなんですよ。
ちゃんと犯行予告があって……。
モヤイ像は消えました。
像のあった場所には、『モヤイはいただいた』という犯行声明が残されてました」
み「ええかげんにさらせ」
食「警視庁は、ルパン三世と、十三代目石川五エ門、次元大介の3人の犯行と断定し……」
食「国際刑事警察機構ルパン特別専任捜査官・銭形幸一警部を中心として、捜査を開始しました」
律「ほんとなんですか?」
み「ほんとのわけあるかい!」
食「そういえば、こちらの先生……。
峰不二子に、雰囲気が似てますね」
↑珍しい、ボブカットの峰不二子。
み「スケベな想像してるな?」
食「してませんって」
み「うそこけ。
脳内が、見通せるわい」
律「そんなにからかっちゃ失礼よ」
み「おだてられると甘くなるんだから。
で、その盗難劇、どういうカラクリなわけ?」
食「もちろん、イベントです」
律「なんだ。
びっくりしたわ」
み「びっくりすな!
しかし、いくら軽石だって、そう簡単に動かせるものじゃないだろ。
重機とか、必要なんじゃないの?
よく、そんな冗談みたいなイベントに金かけたね」
食「本来の目的は、像の洗浄だったようです」
み「その場で洗えばいいじゃない」
食「よくわかりませんけど、洗浄は新島で行われたそうですから……。
特殊な技術が必要なんじゃありませんか?」
み「ま、あんなとこにあったら、煤だらけにもなるわな」
↑左:洗浄前/右:洗浄後。もともとは、白い像だったんですね。
み「いつごろからある像なの?」
食「1980年(昭和55年)に、新島の東京都移管100年を記念して寄贈されたものです」
食「渋谷に来てから、30年ですね」
み「30年も渋谷駅前に立ってたら、煤まみれだわ。
でも、そんな冗談イベントやって、警察に怒られなかったのか?」
食「もちろん、渋谷警察署も協力してました」
み「あらそう。
しかし……。
風車に展望台。
昆虫館。
ガラス工房に温泉もある。
さらに、謎のモヤイ像まで。
よくまーこれだけ、関連のないものを詰め込んだもんだな」
食「あ、そろそろ発車ですよ」
み「降りてみたい気が、満々になってしまったじゃないか」
食「降りますか?」
み「ダミじゃ。
ここで誘惑に負けたら、あとの行程が滅茶滅茶になる。
もし降りて、コテージが空いて無かったら、どうする?」
食「ゲストハウスがあるじゃないですか」
み「そこも満員だったらどうする?」
食「ガラス工房で寝るんじゃないですか?」
み「それは、岡本太郎!」
食「じゃ、昆虫館とか」
み「やめんかい!
寝てる間に、大事なとこ刺されたらどうする!」
み「そもそもわたしは……。
ふかふかのお布団がなきゃ、寝れないタイプなの」
食「案外、デリケートなんですね」
み「案外は余計だろ。
とにかく!
わたしは、物事が計画通り進まないとパニックになるのです」
食「ほんとですか?」
み「返す返すも失礼なやつ。
ふんとにもう。
あ、あのホームにいる人って、観光駅長じゃないの?」
食「あぁ、そうですね」
み「あの人も、委託された地元民?」
食「違います。
『ウェスパ椿山』を運営する“ふかうら開発”の社員ですね」
み「ありゃ、そう。
どうりで若いと思った」
律「でも、かなりの人が降りたわよね。
『ウェスパ椿山』って、人気があるんですね」
食「ここで降りた人が、みんな『ウェスパ』に行くわけじゃないんです」
み「ほー。
ほかに、何があるんだ?」
食「2つの温泉への、無料送迎バスが出てるんですよ」
み「それって、有名な温泉?」
食「知る人ぞ知るって感じでしょうか」
み「わかった!
酸ヶ湯温泉」
食「ぜんぜん場所が違います。
酸ヶ湯は、八甲田山でしょ」
食「深浦町から無料送迎バスが出るわけないじゃないですか」
み「位置関係がさっぱりわからん。
じゃ、何温泉?」
食「『みちのく温泉』と『不老ふ死温泉』です」
み「『不老ふ死温泉』ってのは、聞いたことあるかも」
律「スゴい名前の温泉ね。
入ったら死ななくなるのかしら?」
↑不老不死といえば、この人。徐福さん。
み「医者にあるまじき言動ですな」
食「波打ち際の露天風呂が有名です。
よくポスターとかにもなります」
食「見たことありません?
目の前が海のひょうたん型の湯船」
食「今日のお天気なら、入れますよ」
み「お天気によっては、入れないわけ?」
食「悪天候時には閉鎖されます。
波にさらわれますから」
み「そんなに波打ち際なの?」
食「さっきから言ってるでしょ」
み「うーむ。
全裸で波にさらわれて……。
死体が打ちあげられたら悲惨じゃ」
律「見せたいんじゃなかったの?」
み「死体を見せてどうする!
ピチピチの生きた生身をお見せしたいの」
食「あ、ここは混浴ですから、存分にお見せできますよ」
み「にゃにー。
それはぜひぜひ行かねば」
み「先生、降りようか」
律「あんたひとりで行きなさい。
わたしは御免被るわ」
み「旅の恥はなんとやらと言うではないか」
律「あんたと一緒に恥をかく気はありません」
み「連れないのぅ。
先生だけ、バスタオルして入ればいいじゃん」
食「バスタオルが茶色くなっちゃいますよ」
↑これはたぶん、黄色いタオルだと思います。
み「なんで?」
食「鉄を含む塩化物泉ですから。
お湯は、地下では透明なんですが……。
地上に吹き出したとたん、鉄分が酸化して茶褐色になります」
み「にゃんだ。
それじゃ、漬かってしまったら、見えないじゃないか」
食「露天風呂までの道中で、十分見せられます」
み「ほー。
あ、いいこと思いついた。
桶を足に履いてさ……。
湯船までの道中を、外八文字で歩いたら面白かろ」
↑『分水おいらん道中』前の練習風景
み「頭にタオルだけ載せて、全裸で」
律「勝手にやってれば。
病院に収容されるわよ」
み「連れないのぅ」
律「だいたい、どうやって足に桶なんか履けるのよ?」
み「瞬間接着剤で貼ればよかろ」
律「取れなくなるじゃないの」
み「うーむ。
あ、そうだ。
足袋を履いて、足袋の裏に接着剤を塗ればいいんだ」
律「足袋持ってるの?」
み「旅行に足袋なんか、持ってきてるわけないだろ」
律「じゃ、履けないじゃないの」
み「温泉場なら、足袋くらい売ってるよ」
律「どうしてわかるの?」
み「女将や中居さんは、みんな足袋履いてるでしょ」
み「ひょっとしたら、コンビニで売ってるかも」
律「ほんとかしら」
食「あの。
話題が大きくズレてますけど」
律「あんたが悪いのよ。
ヘンなこと言い出すから」
み「乗った方も同罪だろ。
まぁ、いい。
で、塩化物泉ってことは、塩が含まれてるの?」
食「かなりの濃度ですよ。
口に含んでみると、海水よりしょっぱいです」
み「ほー。
いつごろからある温泉?
名前からして、ものすごく古そうだけど」
食「あに図らんや……」
み「弟、ハレルヤ」
食「何ですそれ?」
み「今思いついたギャグ」
食「流行らないと思います」
み「いいの。
旅のギャグは吐き捨て」
食「それも、今思いついたんですか?」
み「楽しい旅で、ハイになってるわたしです。
気にせず進めたまえ」
食「温泉が出たのは、30年前ですね」
↑イメージです。
み「にゃにー。
そんなに新しいのか」
食「海岸に、わずかに温泉が湧いてた場所を……。
200メートル、ボーリングしたら自噴したそうです」
み「一発で掘り当てたら、丸儲けじゃないか。
民間?」
食「ですね。
株式会社 黄金崎不老不死温泉。
宿の名も、同じく『不老ふ死温泉』。
一軒宿です」
↓脱衣場の写真を発見。
ここで脱ぐのは、ちょっとためらわれますね。
でもここ、着て来た服を脱ぐ場所ではないようです。
内湯から浴衣だけ羽織って来て、それをここで脱ぐんじゃないのかな?
↓露天風呂までの道中は長く、丸見えのようですから。
食「あ、そうそう。
会社名の方は、“不老不死”が、全部漢字なんですが……。
宿の名称の方では、“ふ死”の“ふ”の字だけが、ひらがななんですよ」
み「にゃんで?」
食「実は、青森県には、もう一つ『不老ふ死温泉』があるんです。
その名も、『平舘不老ふ死温泉』。
津軽半島の先端あたりになります」
み「わかった!
みなまで言うな。
2つの『不老ふ死温泉』を区別するために……。
片方だけ、“ふ死”の“ふ”の字をひらがなにした」
食「確かに、平舘の方が古いんですが……。
残念ながら、平舘も、“ふ”の字はひらがななんです」
み「なんじゃそりゃ。
そんなら、もう一つの温泉なんか持ち出すことないじゃないの」
食「2つとも同じってのが、かえって不思議でしょ」
み「なぜなのじゃ?」
食「なんでも、“不”が続くのは、中国では良くないこととされてるからだそうです」
み「なんで中国が出てくるの?
あ、徐福か」
食「ということらしいです」
み「ふーん。
それで、『不老ふ死温泉』ねぇ。
なんとなく、温泉名からは……。
つげ義春の、『リアリズムの宿』みたいな旅館を想像してたけど……」
み「違うようね」
食「施設も充実した近代的な宿です」
食「客室にも、洋室がありますし」
み「ふーん。
でも、近代的となると、料金が心配じゃ」
食「普通ですよ。
2食付いて、1人あたり12,000円くらいだと思います。
料理の高いコースでも、15,000円ですね」
み「なるほど。
一軒宿にしては、ぼってないね。
開発費が安く済んだからかね?」
↑こちらは、新館(宿泊棟)にある露天風呂。
食「そこまでは知りませんが」
み「立ち寄りでも利用できるの?」
食「もちろんです」
↑本館(立寄り入浴施設)の内風呂。
食「でも、立ち寄りの人は……。
海辺の露天風呂には、16時までしか入れません。
15:30分で受付終了です」
み「そんな早く閉め出しちゃうの?」
食「内風呂なら、21時まで利用できますよ」
み「なんで露天風呂は、そんなに早いんだ?」
食「それはもちろん、宿泊客を優遇するためです。
日本海に沈む夕日を見るためには、宿泊するしかありませんね」
み「商魂たくましいのぅ。
宿泊客は、24時間オッケー?」
食「内風呂は、朝の4時から夜の12時までですね。
ただし、露天風呂は、夜明けから日没までです」
み「何でよ?」
食「明かりが無いからです」
↑日が落ちると真っ暗闇に。
み「ありゃそう。
露天風呂が目的なら……。
冬は避けた方がいいね」
律「どうしてよ?」
み「夜明けから日没までが短いからだよ」
律「一日中入ってるわけじゃないでしょ」
み「当たり前じゃ。
ずっと入ってるわけあるかい。
せっかく温泉に来たんだから、何回も入りたいの。
日が短けりゃ、入れる時間が限られるでしょ」
↑早朝の露天風呂。これもまたいいものです。
食「確かに、冬はお勧めできません」
み「ほれみろ」
食「理由は違いますが」
み「なんじゃい?」
食「高波で閉鎖されるかも知れませんし……」
↑宿泊棟の露天風呂からの眺め。海辺の露天風呂は、当然のごとく閉鎖。
食「お天気が悪い確率が高いですから、夕日は滅多に見れないでしょうね」
み「あ、そうか。
冬の日本海側じゃ……。
夕日なんて見れるの、10日に1回も無いもん」
律「混浴露天風呂の話はもういいわ」
↑左が混浴。右が女性専用。同じ夕日が眺められますから、女性が混浴に入って来る可能性は、ほぼゼロです。
律「さっきおっしゃってた、もうひとつの温泉の方は、どんなところなんですか?」
食「『みちのく温泉』と云います」
食「日本一の水車が名物です」
み「水力発電?」
食「違います。
そば粉を挽いてます」
コメント一覧
-
––––––
1. 八十郎- 2013/04/29 21:07
-
奥から旅館の旦那がゲホゲホ咳してるのが聞こえて、
奥さんや子供に縋り付かれて
「泊まってってください。サービスしますから。」(東北弁)
なんて言われたら、私も断れないだろうなあ・・。(涙)
いずれにせよ、今回も盛り沢山で素晴らしいです。
松坂恵子もまだ目じりが上がってて、素晴らしい。(涙)
青森は2月に訪れたことがありますが、
ロープウエーで上った八甲田、むぐぐ(怒)、
死ぬほど寒かったですたい。(涙)
しかして海の幸で一杯やった青森の夜。
死ぬほど美味でありました。(嬉し涙)
-
––––––
2. Mikiko- 2013/04/29 22:13
-
宿ものでは、やはり『ゲンセンカン主人』が秀逸ですね。
遠野物語『寒戸の婆』と並び……。
風が吹くと思い出す作品です。
松坂は“恵子”に非ず。
“慶子”ですぞ。
青森は、2月に行くべき場所ではありません。
ましてや、八甲田なぞとは。
ま、美味しかったというのは、大いにうなずけますが。
-
––––––
3. 八十郎- 2013/04/30 19:59
-
松坂恵子は、慶子さんでした。
しかし人間、初物の蜜柑が香り立つ様に、
若いころは見尻が上がっているものですね。
三つの海に囲まれた青森の海の幸、
素晴らしい。
私事ですが青森は、
私が里親になった女の子(インドネシア人)が、
日本に嫁いで住んでいる場所です。
送ってくれるリンゴ、本当に美味しいです。
-
––––––
4. Mikiko- 2013/05/01 07:38
-
気候に慣れるのが大変だったでしょうね。
インドネシアでは、30歳未満の若年層が、人口のほぼ半分を占めるそうです。
インドネシアの総人口は、2億4千万人。
若者が、1億人以上いるということです。
こういう人たちを、どんどん日本に迎え入れるべきだと思いますね。