2013.3.30(土)
食「さー。
ボクには、山に登る人の気持ちはわかりません」
↑『そこに山があるからだ』のジョージ・マロリー
み「少し登ったほうがいいんじゃないの?」
食「列車で登るのは大好きです」
↑HQさんご推奨『箱根登山鉄道』
食「あと登るのは、『余部鉄橋』の展望台くらいですかね」
み「横着なヤツ。
そのうち、糖尿か痛風になるぞ」
食「イヤなこと言わないでください」
み「そもそも、白神山地って、どのくらいの広さなの?」
食「おおよそ、13万ヘクタールです」
み「ぜんぜん見当もつかん」
食「1,300平方キロですね」
み「なんだ。
新潟市の面積の、2倍までいかないじゃない。
思ったほどデカくないんだな」
食「新潟市自体が、デカいんですよ」
み「726平方キロあるからな」
食「東京23区全部合わせても、622平方キロですよ」
↑紫色の部分が、23の特別区から構成される東京都区部です。
み「ほー。
東京都区部が、丸々2つ入るわけか。
それ全部が世界遺産?」
食「いえ。
原生的なブナ林で占められた中心域、170平方キロの部分です」
↑緑色の部分が、世界遺産。
食「世界遺産への登録は、平成5年(1993年)。
自然遺産としては、屋久島とともに日本で最初の登録です」
↑現在では、知床と小笠原諸島が加わってます。
み「そもそも、いつごろ出来た林なわけ?」
食「8,000年くらい前だそうです。
縄文時代ですね」
み「思ったほど古くないんだな」
食「10,000年前に、最終氷河期がありましたからね」
食「その後、すぐに形成された林です」
み「じゃ、屋久杉みたいに……。
樹齢何千年のブナがあるわけだな」
食「ありません」
み「なんでじゃ!」
食「ブナってのは、寿命が短いんですよ。
大量の実を付けますますからね」
食「果樹と一緒ですよ」
み「何年くらい?」
食「200年くらいです。
希に、400年くらい生きる個体もあるみたいですけど」
↑“マザーツリー”と呼ばれる巨木。樹齢400年。
み「ふーん。
それでも、屋久杉の10分の1か」
↑屋久島の“縄文杉”。樹齢4000年。
食「でも、あまり長生きせずに、次々と倒れることによって……。
森の栄養分となるわけです」
み「なるほど。
たくさんの実も降らせて……。
森の生き物を育んでるってわけか」
食「さらに云えば……。
このあたりの海の生き物も育んでるわけです」
み「あぁ。
川だね」
食「森や海の生き物にとっては、無くてはならない木です。
でも、人間にとっては、椎茸栽培のホダ木になるくらいで……」
食「あまり役に立たない木でした。
腐りやすい上に、加工後に曲がったりするからです」
み「腐りやすいってのは、森にとってはいいわけだよね」
食「栄養分が、土に還元されるのも早いですからね」
み「曲がりやすいってのも、わかるよ。
雪に耐えるためには、曲がらなきゃならないからね」
食「曲がらなかったら、折れちゃいます」
み「でも、曲がってれば、材木にもならない」
食「そうした特性のために、伐採を免れてきたと言えます」
み「行ってみた?」
食「世界遺産のエリアには、入ったことありません」
み「なんでじゃ?」
食「秋田県側は入山自体禁止ですし……。
青森県側も、事前に審査を受ける必要があります」
食「そもそも、世界遺産に登録された地域ってのは、人の手がまったく入ってないんですよ。
すなわち、林道もありません。
文字通り、人跡未踏の地なんです。
さらに、白神山地自体、今でも隆起を続けてて……。
地盤が弱く、そこここで斜面崩壊や地滑りが起きてます。
その中を踏破して行くには、非常に高い技術と体力が必要になります。
実際、遭難事故で死者も出てるんですよ」
み「ふーん。
自然遺産ってのは、観光地じゃないってことか」
食「観光地じゃないから、世界遺産に登録されたわけです。
素人が簡単に行ける場所じゃないです。
入れるのは、マタギくらいでしょう」
食「でも、登録地域は、禁猟区になっちゃいましたからね」
み「マタギは、昔から入ってたの?」
食「いつごろから入ってたのかは、定かでは無いようですが……。
いたことは確かでしょう。
でも、その文化も消失することになります」
食「これについては、批判もあるようです」
み「だろうね。
生活の糧を、そこから得ていた人は、どうするんだ?
補償金とか、あったの?」
食「さぁ。
無いと思いますよ」
み「理不尽じゃないか」
食「ま、マタギの人は……。
我関せずで入ってるのかも知れませんけど」
み「世界遺産への登録さえ、知らなかったりして」
食「いるかも知れませんね」
み「そういう人が、いてほしいね。
日本にも」
律「会ってみたい?」
み「会うのは、御免こうむる。
半分、猿かも知れんし」
律「雪男じゃ無いんだから」
み「動物も、いろいろいるんだろうね」
食「大きい動物では、ツキノワグマ、カモシカ、ニホンザルってところでしょうが……。
小動物は、たくさんいると思いますよ。
イヌワシやクマタカが生息してますから」
食「あ、そうそう。
生き物といえば……。
変わったものが見つかってます」
み「雪男か?」
食「ずっと小さいものです」
律「ネズミとか?」
食「もっと」
み「アリ?」
食「もっと」
み「何だよ!」
食「酵母菌です」
み「へ?」
食「『白神こだま酵母』と名付けられました」
食「耐冷性に優れ、発酵力が極めて強い酵母です」
み「何に使えるの?」
食「パン作りですね。
長時間の冷凍に耐えますから……。
パン生地の長期冷凍保存が可能になりました」
み「ほー」
食「さらに、天然甘味料のトレハロースを大量に作り出し……。
独特の甘み、焼いた時の香りの良さなど、優れた特性を持っています。
実際、パン製造では、幅広く活用されつつあるようです」
み「ふーん、さすが自然遺産だわ。
バイキンまで珍しいってことか」
↑弁当にするとは、大胆です。
食「バイキンじゃありませんって」
み「じゃ、なんだよ?
細菌か?」
律「酵母は、細菌じゃないわよ」
み「どう違うわけ?」
律「細菌は単細胞で、かつ原核生物。
つまり、核膜に包まれていない核を持ってる。
対する酵母も、単細胞だけど……。
核膜に包まれた核を持つ、真核生物なの。
生物の分類は、原核か真核かで大きく分けられるから……。
細菌と酵母は、全く異なる生物と言えるわけね」
食「さすが、お医者さんですね」
み「さっぱりわからん」
食「冷涼なうえ、人が入り込まなかったから……。
そういう菌が生き残ったんでしょうね。
低温に強い乳酸菌も見つかってまして、『作々楽(ささら)』と名付けられました」
食「『作々楽(ささら)』には……。
血圧降下や精神安定作用のあるアミノ酸“GABA(ギャバ)”を作る能力があることも、確認されてます」
み「バイオビジネスが進出して来そうじゃない」
食「実際、化粧品メーカーの研究施設が作られました」
↑閉園になった保育園を改装したそうです。イマイチ、気勢があがりませんな。
み「ふーん。
でも、転勤になる研究者は大迷惑だよな」
律「また、そういうことを言う。
スゴく、やりがいのある仕事だと思うわ」
み「先生だったら、行くわけね」
律「もちろん、お断りします」
み「なんじゃそりゃ!」
食「ほら、また鉄橋ですよ。
これが、大峰川。
もう1本渡りますよ。
小峰川です」
み「さっきから、川だらけだなぁ」
食「それだけの水を、白神山地が抱いてるってわけです。
向こうの窓から、白神の連山が垣間見えるでしょ」
食「ここらの海が豊かなのは、森からの栄養豊かな水が流れこんでるからです。
あ、また駅を通過します。
『松神』駅です」
み「駅名板がちらっと見えたけど、松の神さまで、『松神』か」
例によって、駅舎は強烈。
2003年ころ、建て替えられたみたいですが……。
建設費、30万円くらい?
向かって右側にある構造物は、トイレでして……。
旧駅舎時代のままのようです。
↓そこには、恐るべき張り紙が。
たぶん……。
汲み取りですよね。
“足場老朽化”と云うことは……。
足元が突然抜けて、奈落の底に転落するということじゃないんでしょうか。
その後、このトイレが改修されたのか、探してみました。
でも、新築のトイレは見つからず、代わりにこんな画像を発見。
トイレが無くなってます。
どうやら、撤去されただけのようです。
この駅で催した場合……。
すべてを諦めるしか無さそうです。
なんで、再建されなかったのかと云うと……。
↓こんなあたりに原因がありそうですね。
無人駅なので、深浦駅が管理してるんでしょうか?
『青春18切符』を持ったヤツとかで、泊まるのがいるんでしょうね。
トイレが無かったら、泊まりにくいですもんね。
み「いわく有りげな地名だね」
食「ここらは、旧家が多いんですよ。
元和7年の記録に、『北村久左衛門、松神、大間越を拓く』とあるそうです」
み「元和って、いつごろよ?」
律「日本史の女王なんじゃないの?」
み「元号まで、覚えてられまっかいな」
食「元和7年は、1621年です」
み「江戸幕府が開かれて、すぐか。
『松神』の由来は?」
食「はっきりしないみたいですね。
村が拓かれたとき、松浦と的神という地域から人が移住してきたそうで……。
2つの地名を合体して『松神』となったという説が有力のようです」
み「なーんだ。
案外つまらん謂われだな。
神の宿った松でもあるのかと思った」
食「そんな松があるんですか?」
み「新潟には、蛇松明神社という神社がある。
白山神社に間借りしてる、超小さい神社だけど」
食「どんな謂われがあるんです?」
み「白山神社の神主さんが、洪水の信濃川で溺れる白蛇を助けたんだと」
食「蛇って、泳げるんじゃ……」
み「黙って聞かんしゃい!
で、境内の松の梢に放したところ……」
み「蛇はたちまち美しい姫君の姿に変わった」
↑こんな映画が見つかりました。1959年(昭和34年)製作。うーむ、見てみたい。
み「そして、神主にこう告げたわけじゃ。
『御恩は決して忘れません。これからは、白山神社の守り神となって、この地の繁栄のために祈ります』
姫の姿が、煙と共に消えると同時に……。
老松の木肌は、たちまち蛇の鱗のように変わった」
食「松の木肌って、もともと鱗みたいなんじゃ……」
み「黙らっしゃい!
すると、雨を降らせ続けていた雲に、鱗に似た切れ目が出来……。
陽の光が射してきたという」
食「なんでそんな口調になるんですか?」
み「気にするでない」
律「ときどき、ヘンな人が乗り移るのよ。
頭叩いてやると、治るから。
こんな風に」
バシッ。
み「痛てっ!」
律「目が覚めた?」
み「最初から覚めとるわい」
律「じゃ、何の話してたか覚えてる」
み「覚えてなかったら、若年性アルツハイマーだろ。
蛇松明神社の話だよ」
食「聞いたことなかったなぁ。
有名な神社なんですか?」
み「無名です」
律「あら、あっさり」
み「でも最近は、変わってきたみたいだよ。
妙な地下通路を通らないと行けないこともあって……」
み「密かなるパワースポットとして、人気が出てきてるんだって」
み「県外からも、参詣者があるんだって」
律「へー。
どんなご利益があるの?」
み「現世的ですな」
律「当たり前でしょ。
現世でご利益の無いものには、興味ありません」
み「昔から、“巳成金(みなるかね)”と云って……。
蛇は商売繁盛の神様」
↑やや欲張りすぎ?(『ジャパンスネークセンター』群馬県太田市)
み「商業高校の校章にも、蛇を象ったデザインは多いんだよ」
↑新潟商業高校の校章
律「それは、いい神様ね。
ぜひ、ご利益を頂戴したいわ」
み「先生は、すでに頂戴できてると思います。
なので、蛇松明神社さま。
まず、わたしにご利益をくださいまし」
↑夏場なんか、処分が大変でしょうね。
み「そしたら、このブログで大宣伝してさしあげます」
律「エロサイトで宣伝されても、迷惑なんじゃないの?」
み「そんなことあるかい」
こちらとこちらのサイトさんのページに、蛇松明神社の写真が多く掲載されてました。
食「あ、また川を渡りますよ。
濁川です」
み「おぉ、わかりやすい名前。
濁ってるんだな。
新潟にも、濁川って地名があるよ」
↑新潟市北区濁川
み「新潟の濁川は、いかにも泥臭い魚が棲んでそうなそうなところだけど……。
白神山地から流れ出る川が、なんで濁ってるんだろう」
↑白神山地を下る濁川。とても濁っているようには見えません。
食「この川の上流が、十二湖なんです」
み「あ、そうなの。
じゃ、十二湖の水が流れ出てるのか。
でも、十二湖って、透明度が高いんじゃないの?」
↑青池の岸近くでは、こんな感じ。
み「なんで、流れ出る川が濁るわけ?」
食「覚えてませんか?
十二湖の出来たわけ?」
み「どっかで聞いた気がする。
マスミンに聞いたんだっけ?」
律「わたしに聞かないでちょうだい」
食「さっき、ボクが話したじゃないですか」
み「そうだっけ?」
食「『リゾートしらかみ』には、3編成の車両があって……。
そのうちのひとつの名前が、『青池』だってことからですよ」
み「思い出した気がする」
食「たった2時間前のことです。
湖沼学の講義まで伺いました。
『青池』は、湖沼学的には“池”じゃなくて“沼”だから、本当は『青沼』だって……。
青沼静馬のモノマネまで始めたじゃないですか」
み「あ。
鮮やかに思い出した。
そんなこともあったのぅ」
食「遠い目をしないでください」
自分で言うのもなんですが……。
忘れてしまうのも、無理ないんです。
当該シーンの投稿は、昨年の2月でした(909回)から。
『東北に行こう!(36)』に収録されております。
あれからもう、1年になるんですね。
早いものです。
み「ま、いいや。
今一度、語っていただきましょう」
食「語るほどのこともありませんけどね」
み「どうぞ、遠慮なさらずに」
食「十二湖が出来たのは、1704年です」
み「げ。
そんなに最近なの?
太古からあるのかと思った」
食「1704年の能代地震で、崩山(くずれやま)が崩壊し……」
み「待てい。
崩壊したから、崩山なんだろ」
み「崩壊する前は、別の名前だったはずだ」
食「そこまでは知りませんよ。
とにかく、山崩れで、川が堰き止められ……。
出来たのが、十二湖と云われてます」
み「能代地震って、象潟が陸地になった地震だっけ?」
↑地震前、田んぼの部分は、すべて海でした。
食「場所がぜんぜん違います。
象潟は、秋田県の最南部でしょ。
山形県境。
能代は県北です」
み「時期的にはどうなのよ?」
食「不思議なことに……。
象潟地震は、能代地震のちょうど100年後でした。
1804年ですね」
み「雷電為右衛門が、日記に残したんだよね」
食「『雷電日記』ですか」
食「よくご存知ですね」
み「侮れんだろ」
食「驚きました」
律「ただの受け売りよ」
み「江戸時代の秋田って……。
地形が変わるほどの地震が、2回も起きてたんだね」
食「実は、能代地震は、もう1回起きてます。
ていうか、こっちの方が、本家の能代地震です」
み「いつの話じゃ」
食「十二湖が出来た能代地震……。
これは、岩館地震とも呼ばれてます。
本家の能代地震は、このちょうど10年前。
1694年に起きました」
↑能代地震は、能代断層帯が最後に動いた地震だそうです。10年前の岩館地震の震源は、断層帯の北方だとか。
み「たった10年で、大地震が2回も起きたってこと?」
食「そうです。
最初の能代地震では、約400人が亡くなってます。
うち、能代の死者は300人。
家屋のほとんどが倒壊、もしくは焼失してます」
み「マグニチュードは?」
食「7前後のようですね」
み「ま、耐震性を考えた建物なんてあるわけないから……。
ひとたまりもないわな」
食「ほぼ壊滅状態だったようです」
み「その10年後って……。
ようやく、元の暮らしに戻れたころじゃない」
↑山形県/庄内映画村オープンセット
食「その町を、再びマグニチュード7の地震が襲います。
復興したばかりの町は、再び壊滅しました。
時間が、午の下刻だったせいか……。
死者は、60名程度にとどまったようですが」
み「牛の下刻って何時?」
食「午後1時前くらいです」
み「前回の地震は、何時ごろだったわけ?」
食「卯の下刻でした」
み「だから、それは何時!」
食「朝の7時前くらいじゃないですか」
食「朝餉の支度の最中だったかも知れません」
食「火を使ってますから、火事が起きやすかったんじゃないでしょうか」
み「そんなら、前の地震のときは、昼餉の最中だったんじゃないの?」
食「そのころはまだ、1日2食だったと思います」
↑元禄時代以前の食事
み「あらそう。
でも、火事も出たろうけど、寝てて潰された人もいたんじゃないの?」
律「昔の人は、もっと早起きなんじゃないの?」
↑「カムイ伝」の正助くん
み「ほうか?」
食「ま、とにかく……。
能代は、10年間に2度も、壊滅的な厄災に遭ってるわけです。
実は、このときまで、能代の“能”は、別の字を表記してたんです。
もともとは、アイヌ語の“ヌシロ”が語源みたいですけど」
み「どういう意味よ?」
食「“台地上の草原地”を意味するという“ヌプシル(nup-sir)”からの転語とする説もあるそうですが……」
↑北海道猿払村(稚内市の隣)にある浅芽野台地
食「正確にはわかってないようです」
み「別の字って、どんな?」
食「渟足柵(ぬたりのき)と同じ字の“渟代(ぬしろ)”です」
み「おー」
食「だから、元々の読みが“ヌシロ”だったのは、間違いないと思います」
み「そう言えば、“ヌタリ”ってのも、アイヌ語っぽいよね。
これは、どういう意味?」
食「“ヌタ場”ってご存じですか?」
み「ご存じでない」
食「野生の猪なんかが、泥浴びをする場所のことです」
食「泥に体をこすりつけることで、体に付いたダニなんかの寄生虫を落とすわけですね」
↑イボイノシシの泥浴び
み「つまり、低湿地みたいなとこを云うわけね」
↑縄文時代。低湿地での暮らし。
食「そうです」
み「それはよくわかるわ。
昔の“渟足(ぬたり)”は、信濃川と阿賀野川の氾濫原だったろうからね。
“渟代(ぬしろ)”もそっち系統じゃないの?」
食「米代川が海に出るところですからね。
今の市街地は、低地に形成されてます」
み「だろ」
食「でも、米代川の右岸には、台地も広がってるんですよ」
食「古代人が住居を構えるとしたら……。
そっちだったんじゃないかな」
↑台地に復元された竪穴住居跡/北斗遺跡(釧路市)
み「ふむ」
食「で、その後の能代の表記ですが……。
能代地震があったころには、野原の“野”に変わってました。
で、この“野代”が、“野に代わる”と読めるということから……。
地震後、“能(よ)く代わる”の“能代”に変えられたというわけなんです」
み「10年間に2回も大地震に遭ったら、変えたくもなるわな」
食「そのお陰か、1983年に日本海中部地震が起きるまで……。
280年の間、能代には目立った地震は起きませんでした」
↑江戸末期の能代港
み「10年間に2回も大地震があれば……。
エネルギーは、そうとう放出されたってことじゃないの」
食「ま、そういうことでしょう。
で、もうお分かりでしょ」
み「何が?」
食「濁川という名前が付いた理由です」
み「あ、そうか。
地震の山崩れで、川が濁ったのか」
食「大いに考えられると思います。
今は、綺麗な川なんですから。
でも、ときどきは濁るのかな?」
み「まだ、山崩れが続いてるってこと?」
食「この川を遡ったところに、『日本キャニオン』という景勝地があるんです」
み「ニャンだ、それは?
胡散臭い名前」
食「胡散臭く無いですよ。
文字通り、自然が作った景勝です。
白っぽい断崖絶壁が連なって見えます」
食「ま、グランドキャニオンには遠く及ばないので……。
『日本キャニオン』ということです」
み「なるほど。
まだ崖の崩落が続いてるとしたら……。
ときどき川が濁るってことか」
食「昔濁ったことがあるからなのか……。
その後も、ときどき濁るからなのかは、わかりませんが」
↑水源近くの様子。今でも、大雨のときは、凝灰岩の砂により水が濁るそうです。
み「十二湖の湖の数って、ほんとは12じゃないんでしょ?」
律「あら、そうなの?」
み「そうなのじゃ」
食「30ちょいくらいあります。
大崩という場所から見ると、12に見えるらしいですね」
食「でも、これは偶然でしょうが……。
面積が10,000平方メートル以上の湖沼の数は、12なんです」
み「やっぱり、有名なのは青池?」
食「あの色は、尋常じゃないですね」
食「いつ見ても神秘的ですが……。
お勧めは冬です。
雪の中、かんじき履いて行かなきゃなりませんけど」
食「青池は、十二湖の一番奥にありますから」
み「道はあるの?」
食「もちろん整備されてますが……。
冬期は、ガイド無しでの立ち入りは禁止です」
食「マジで遭難しますから。
でも、苦労しても見る価値はあるそうですよ」
み「てことは……。
チミは、見てないわけね」
食「ボクの体じゃ、かんじき履いても埋まっちゃいますから。
聞いた話です。
でも、ほんとに綺麗だそうです。
冬になると、池の色は、濃紺に近くなるそうです。
雪の白さとのコントラストで、いっそう青さが際立って……。
荘厳な景色だそうです」
律「女神様が浮かび上がってきそうね」
み「お前の落としたのは、この金の斧か、って?」
食「それは、別のお話でしょ」
み「漫画で読んだんだっけかな?
浮かび上がってきた女神様の脳天に、斧が刺さってるわけ。
で、顔面を血に染めながら……。
『お前が落としたのは、この斧か?』って、頭上の斧を指さすのよ。
木こりは、一目散に逃げてたな」
律「バカな漫画」
食「『十二湖』駅に停まりますよ」
み「おー。
青森県最初の停車駅だね。
やっぱり、十二湖観光の拠点駅なわけ?」
食「ですね。
『アオーネ白神十二湖』というリゾート施設があります」
み「いかにもな名前じゃのう。
青池の“アオ”と、“会おうね”を掛けたわけだね。
三セク?」
食「当たりです。
知ってらしたんですか?」
み「知るかい。
でも、完全な民間施設なら、そーゆーネーミングはせんよ。
語呂合わせ系には、ぜったいに“官”が絡んでるものじゃ」
食「ここには、名物料理があるんですよ」
み「なんじゃい?」
食「お魚です」
み「また海鮮か?」
食「ちがいます。
十二湖の水で育った淡水魚です」
み「十二湖の水って、魚が棲めるの?
あんな真っ青で」
食「小魚が、すいすい泳いでます。
透明だから、上からも見えますよ」
み「ライギョとか?」
食「あれは、汚い水に棲む魚じゃありませんか。
そういうゲテモノじゃなくて……。
『幻の魚』とも呼ばれる魚ですよ」
み「わかった。
クニマス」
食「クニマスは、山梨県の西湖にしかいませんって」
み「綺麗な水に棲む、『幻の魚』……。
わかった。
イトヨだ」
食「うーむ。
一瞬、びっくりしました。
“イト”まで合ってましたから」
み「じゃ……。
イトポとか?」
食「そんな魚、いるんですか?」
み「一文字ずつ入れてけば、いつか当たるだろ」
食「連続4回も不正解なので、失格です」
み「なんの失格じゃ!
第一、4つも答えなかったぞ」
食「ライギョ、クニマス、イトヨ、イトポ。
4つです」
み「ライギョはウォーミングアップで、イトポは冗談だから……。
まだ2つじゃ」
ボクには、山に登る人の気持ちはわかりません」
↑『そこに山があるからだ』のジョージ・マロリー
み「少し登ったほうがいいんじゃないの?」
食「列車で登るのは大好きです」
↑HQさんご推奨『箱根登山鉄道』
食「あと登るのは、『余部鉄橋』の展望台くらいですかね」
み「横着なヤツ。
そのうち、糖尿か痛風になるぞ」
食「イヤなこと言わないでください」
み「そもそも、白神山地って、どのくらいの広さなの?」
食「おおよそ、13万ヘクタールです」
み「ぜんぜん見当もつかん」
食「1,300平方キロですね」
み「なんだ。
新潟市の面積の、2倍までいかないじゃない。
思ったほどデカくないんだな」
食「新潟市自体が、デカいんですよ」
み「726平方キロあるからな」
食「東京23区全部合わせても、622平方キロですよ」
↑紫色の部分が、23の特別区から構成される東京都区部です。
み「ほー。
東京都区部が、丸々2つ入るわけか。
それ全部が世界遺産?」
食「いえ。
原生的なブナ林で占められた中心域、170平方キロの部分です」
↑緑色の部分が、世界遺産。
食「世界遺産への登録は、平成5年(1993年)。
自然遺産としては、屋久島とともに日本で最初の登録です」
↑現在では、知床と小笠原諸島が加わってます。
み「そもそも、いつごろ出来た林なわけ?」
食「8,000年くらい前だそうです。
縄文時代ですね」
み「思ったほど古くないんだな」
食「10,000年前に、最終氷河期がありましたからね」
食「その後、すぐに形成された林です」
み「じゃ、屋久杉みたいに……。
樹齢何千年のブナがあるわけだな」
食「ありません」
み「なんでじゃ!」
食「ブナってのは、寿命が短いんですよ。
大量の実を付けますますからね」
食「果樹と一緒ですよ」
み「何年くらい?」
食「200年くらいです。
希に、400年くらい生きる個体もあるみたいですけど」
↑“マザーツリー”と呼ばれる巨木。樹齢400年。
み「ふーん。
それでも、屋久杉の10分の1か」
↑屋久島の“縄文杉”。樹齢4000年。
食「でも、あまり長生きせずに、次々と倒れることによって……。
森の栄養分となるわけです」
み「なるほど。
たくさんの実も降らせて……。
森の生き物を育んでるってわけか」
食「さらに云えば……。
このあたりの海の生き物も育んでるわけです」
み「あぁ。
川だね」
食「森や海の生き物にとっては、無くてはならない木です。
でも、人間にとっては、椎茸栽培のホダ木になるくらいで……」
食「あまり役に立たない木でした。
腐りやすい上に、加工後に曲がったりするからです」
み「腐りやすいってのは、森にとってはいいわけだよね」
食「栄養分が、土に還元されるのも早いですからね」
み「曲がりやすいってのも、わかるよ。
雪に耐えるためには、曲がらなきゃならないからね」
食「曲がらなかったら、折れちゃいます」
み「でも、曲がってれば、材木にもならない」
食「そうした特性のために、伐採を免れてきたと言えます」
み「行ってみた?」
食「世界遺産のエリアには、入ったことありません」
み「なんでじゃ?」
食「秋田県側は入山自体禁止ですし……。
青森県側も、事前に審査を受ける必要があります」
食「そもそも、世界遺産に登録された地域ってのは、人の手がまったく入ってないんですよ。
すなわち、林道もありません。
文字通り、人跡未踏の地なんです。
さらに、白神山地自体、今でも隆起を続けてて……。
地盤が弱く、そこここで斜面崩壊や地滑りが起きてます。
その中を踏破して行くには、非常に高い技術と体力が必要になります。
実際、遭難事故で死者も出てるんですよ」
み「ふーん。
自然遺産ってのは、観光地じゃないってことか」
食「観光地じゃないから、世界遺産に登録されたわけです。
素人が簡単に行ける場所じゃないです。
入れるのは、マタギくらいでしょう」
食「でも、登録地域は、禁猟区になっちゃいましたからね」
み「マタギは、昔から入ってたの?」
食「いつごろから入ってたのかは、定かでは無いようですが……。
いたことは確かでしょう。
でも、その文化も消失することになります」
食「これについては、批判もあるようです」
み「だろうね。
生活の糧を、そこから得ていた人は、どうするんだ?
補償金とか、あったの?」
食「さぁ。
無いと思いますよ」
み「理不尽じゃないか」
食「ま、マタギの人は……。
我関せずで入ってるのかも知れませんけど」
み「世界遺産への登録さえ、知らなかったりして」
食「いるかも知れませんね」
み「そういう人が、いてほしいね。
日本にも」
律「会ってみたい?」
み「会うのは、御免こうむる。
半分、猿かも知れんし」
律「雪男じゃ無いんだから」
み「動物も、いろいろいるんだろうね」
食「大きい動物では、ツキノワグマ、カモシカ、ニホンザルってところでしょうが……。
小動物は、たくさんいると思いますよ。
イヌワシやクマタカが生息してますから」
食「あ、そうそう。
生き物といえば……。
変わったものが見つかってます」
み「雪男か?」
食「ずっと小さいものです」
律「ネズミとか?」
食「もっと」
み「アリ?」
食「もっと」
み「何だよ!」
食「酵母菌です」
み「へ?」
食「『白神こだま酵母』と名付けられました」
食「耐冷性に優れ、発酵力が極めて強い酵母です」
み「何に使えるの?」
食「パン作りですね。
長時間の冷凍に耐えますから……。
パン生地の長期冷凍保存が可能になりました」
み「ほー」
食「さらに、天然甘味料のトレハロースを大量に作り出し……。
独特の甘み、焼いた時の香りの良さなど、優れた特性を持っています。
実際、パン製造では、幅広く活用されつつあるようです」
み「ふーん、さすが自然遺産だわ。
バイキンまで珍しいってことか」
↑弁当にするとは、大胆です。
食「バイキンじゃありませんって」
み「じゃ、なんだよ?
細菌か?」
律「酵母は、細菌じゃないわよ」
み「どう違うわけ?」
律「細菌は単細胞で、かつ原核生物。
つまり、核膜に包まれていない核を持ってる。
対する酵母も、単細胞だけど……。
核膜に包まれた核を持つ、真核生物なの。
生物の分類は、原核か真核かで大きく分けられるから……。
細菌と酵母は、全く異なる生物と言えるわけね」
食「さすが、お医者さんですね」
み「さっぱりわからん」
食「冷涼なうえ、人が入り込まなかったから……。
そういう菌が生き残ったんでしょうね。
低温に強い乳酸菌も見つかってまして、『作々楽(ささら)』と名付けられました」
食「『作々楽(ささら)』には……。
血圧降下や精神安定作用のあるアミノ酸“GABA(ギャバ)”を作る能力があることも、確認されてます」
み「バイオビジネスが進出して来そうじゃない」
食「実際、化粧品メーカーの研究施設が作られました」
↑閉園になった保育園を改装したそうです。イマイチ、気勢があがりませんな。
み「ふーん。
でも、転勤になる研究者は大迷惑だよな」
律「また、そういうことを言う。
スゴく、やりがいのある仕事だと思うわ」
み「先生だったら、行くわけね」
律「もちろん、お断りします」
み「なんじゃそりゃ!」
食「ほら、また鉄橋ですよ。
これが、大峰川。
もう1本渡りますよ。
小峰川です」
み「さっきから、川だらけだなぁ」
食「それだけの水を、白神山地が抱いてるってわけです。
向こうの窓から、白神の連山が垣間見えるでしょ」
食「ここらの海が豊かなのは、森からの栄養豊かな水が流れこんでるからです。
あ、また駅を通過します。
『松神』駅です」
み「駅名板がちらっと見えたけど、松の神さまで、『松神』か」
例によって、駅舎は強烈。
2003年ころ、建て替えられたみたいですが……。
建設費、30万円くらい?
向かって右側にある構造物は、トイレでして……。
旧駅舎時代のままのようです。
↓そこには、恐るべき張り紙が。
たぶん……。
汲み取りですよね。
“足場老朽化”と云うことは……。
足元が突然抜けて、奈落の底に転落するということじゃないんでしょうか。
その後、このトイレが改修されたのか、探してみました。
でも、新築のトイレは見つからず、代わりにこんな画像を発見。
トイレが無くなってます。
どうやら、撤去されただけのようです。
この駅で催した場合……。
すべてを諦めるしか無さそうです。
なんで、再建されなかったのかと云うと……。
↓こんなあたりに原因がありそうですね。
無人駅なので、深浦駅が管理してるんでしょうか?
『青春18切符』を持ったヤツとかで、泊まるのがいるんでしょうね。
トイレが無かったら、泊まりにくいですもんね。
み「いわく有りげな地名だね」
食「ここらは、旧家が多いんですよ。
元和7年の記録に、『北村久左衛門、松神、大間越を拓く』とあるそうです」
み「元和って、いつごろよ?」
律「日本史の女王なんじゃないの?」
み「元号まで、覚えてられまっかいな」
食「元和7年は、1621年です」
み「江戸幕府が開かれて、すぐか。
『松神』の由来は?」
食「はっきりしないみたいですね。
村が拓かれたとき、松浦と的神という地域から人が移住してきたそうで……。
2つの地名を合体して『松神』となったという説が有力のようです」
み「なーんだ。
案外つまらん謂われだな。
神の宿った松でもあるのかと思った」
食「そんな松があるんですか?」
み「新潟には、蛇松明神社という神社がある。
白山神社に間借りしてる、超小さい神社だけど」
食「どんな謂われがあるんです?」
み「白山神社の神主さんが、洪水の信濃川で溺れる白蛇を助けたんだと」
食「蛇って、泳げるんじゃ……」
み「黙って聞かんしゃい!
で、境内の松の梢に放したところ……」
み「蛇はたちまち美しい姫君の姿に変わった」
↑こんな映画が見つかりました。1959年(昭和34年)製作。うーむ、見てみたい。
み「そして、神主にこう告げたわけじゃ。
『御恩は決して忘れません。これからは、白山神社の守り神となって、この地の繁栄のために祈ります』
姫の姿が、煙と共に消えると同時に……。
老松の木肌は、たちまち蛇の鱗のように変わった」
食「松の木肌って、もともと鱗みたいなんじゃ……」
み「黙らっしゃい!
すると、雨を降らせ続けていた雲に、鱗に似た切れ目が出来……。
陽の光が射してきたという」
食「なんでそんな口調になるんですか?」
み「気にするでない」
律「ときどき、ヘンな人が乗り移るのよ。
頭叩いてやると、治るから。
こんな風に」
バシッ。
み「痛てっ!」
律「目が覚めた?」
み「最初から覚めとるわい」
律「じゃ、何の話してたか覚えてる」
み「覚えてなかったら、若年性アルツハイマーだろ。
蛇松明神社の話だよ」
食「聞いたことなかったなぁ。
有名な神社なんですか?」
み「無名です」
律「あら、あっさり」
み「でも最近は、変わってきたみたいだよ。
妙な地下通路を通らないと行けないこともあって……」
み「密かなるパワースポットとして、人気が出てきてるんだって」
み「県外からも、参詣者があるんだって」
律「へー。
どんなご利益があるの?」
み「現世的ですな」
律「当たり前でしょ。
現世でご利益の無いものには、興味ありません」
み「昔から、“巳成金(みなるかね)”と云って……。
蛇は商売繁盛の神様」
↑やや欲張りすぎ?(『ジャパンスネークセンター』群馬県太田市)
み「商業高校の校章にも、蛇を象ったデザインは多いんだよ」
↑新潟商業高校の校章
律「それは、いい神様ね。
ぜひ、ご利益を頂戴したいわ」
み「先生は、すでに頂戴できてると思います。
なので、蛇松明神社さま。
まず、わたしにご利益をくださいまし」
↑夏場なんか、処分が大変でしょうね。
み「そしたら、このブログで大宣伝してさしあげます」
律「エロサイトで宣伝されても、迷惑なんじゃないの?」
み「そんなことあるかい」
こちらとこちらのサイトさんのページに、蛇松明神社の写真が多く掲載されてました。
食「あ、また川を渡りますよ。
濁川です」
み「おぉ、わかりやすい名前。
濁ってるんだな。
新潟にも、濁川って地名があるよ」
↑新潟市北区濁川
み「新潟の濁川は、いかにも泥臭い魚が棲んでそうなそうなところだけど……。
白神山地から流れ出る川が、なんで濁ってるんだろう」
↑白神山地を下る濁川。とても濁っているようには見えません。
食「この川の上流が、十二湖なんです」
み「あ、そうなの。
じゃ、十二湖の水が流れ出てるのか。
でも、十二湖って、透明度が高いんじゃないの?」
↑青池の岸近くでは、こんな感じ。
み「なんで、流れ出る川が濁るわけ?」
食「覚えてませんか?
十二湖の出来たわけ?」
み「どっかで聞いた気がする。
マスミンに聞いたんだっけ?」
律「わたしに聞かないでちょうだい」
食「さっき、ボクが話したじゃないですか」
み「そうだっけ?」
食「『リゾートしらかみ』には、3編成の車両があって……。
そのうちのひとつの名前が、『青池』だってことからですよ」
み「思い出した気がする」
食「たった2時間前のことです。
湖沼学の講義まで伺いました。
『青池』は、湖沼学的には“池”じゃなくて“沼”だから、本当は『青沼』だって……。
青沼静馬のモノマネまで始めたじゃないですか」
み「あ。
鮮やかに思い出した。
そんなこともあったのぅ」
食「遠い目をしないでください」
自分で言うのもなんですが……。
忘れてしまうのも、無理ないんです。
当該シーンの投稿は、昨年の2月でした(909回)から。
『東北に行こう!(36)』に収録されております。
あれからもう、1年になるんですね。
早いものです。
み「ま、いいや。
今一度、語っていただきましょう」
食「語るほどのこともありませんけどね」
み「どうぞ、遠慮なさらずに」
食「十二湖が出来たのは、1704年です」
み「げ。
そんなに最近なの?
太古からあるのかと思った」
食「1704年の能代地震で、崩山(くずれやま)が崩壊し……」
み「待てい。
崩壊したから、崩山なんだろ」
み「崩壊する前は、別の名前だったはずだ」
食「そこまでは知りませんよ。
とにかく、山崩れで、川が堰き止められ……。
出来たのが、十二湖と云われてます」
み「能代地震って、象潟が陸地になった地震だっけ?」
↑地震前、田んぼの部分は、すべて海でした。
食「場所がぜんぜん違います。
象潟は、秋田県の最南部でしょ。
山形県境。
能代は県北です」
み「時期的にはどうなのよ?」
食「不思議なことに……。
象潟地震は、能代地震のちょうど100年後でした。
1804年ですね」
み「雷電為右衛門が、日記に残したんだよね」
食「『雷電日記』ですか」
食「よくご存知ですね」
み「侮れんだろ」
食「驚きました」
律「ただの受け売りよ」
み「江戸時代の秋田って……。
地形が変わるほどの地震が、2回も起きてたんだね」
食「実は、能代地震は、もう1回起きてます。
ていうか、こっちの方が、本家の能代地震です」
み「いつの話じゃ」
食「十二湖が出来た能代地震……。
これは、岩館地震とも呼ばれてます。
本家の能代地震は、このちょうど10年前。
1694年に起きました」
↑能代地震は、能代断層帯が最後に動いた地震だそうです。10年前の岩館地震の震源は、断層帯の北方だとか。
み「たった10年で、大地震が2回も起きたってこと?」
食「そうです。
最初の能代地震では、約400人が亡くなってます。
うち、能代の死者は300人。
家屋のほとんどが倒壊、もしくは焼失してます」
み「マグニチュードは?」
食「7前後のようですね」
み「ま、耐震性を考えた建物なんてあるわけないから……。
ひとたまりもないわな」
食「ほぼ壊滅状態だったようです」
み「その10年後って……。
ようやく、元の暮らしに戻れたころじゃない」
↑山形県/庄内映画村オープンセット
食「その町を、再びマグニチュード7の地震が襲います。
復興したばかりの町は、再び壊滅しました。
時間が、午の下刻だったせいか……。
死者は、60名程度にとどまったようですが」
み「牛の下刻って何時?」
食「午後1時前くらいです」
み「前回の地震は、何時ごろだったわけ?」
食「卯の下刻でした」
み「だから、それは何時!」
食「朝の7時前くらいじゃないですか」
食「朝餉の支度の最中だったかも知れません」
食「火を使ってますから、火事が起きやすかったんじゃないでしょうか」
み「そんなら、前の地震のときは、昼餉の最中だったんじゃないの?」
食「そのころはまだ、1日2食だったと思います」
↑元禄時代以前の食事
み「あらそう。
でも、火事も出たろうけど、寝てて潰された人もいたんじゃないの?」
律「昔の人は、もっと早起きなんじゃないの?」
↑「カムイ伝」の正助くん
み「ほうか?」
食「ま、とにかく……。
能代は、10年間に2度も、壊滅的な厄災に遭ってるわけです。
実は、このときまで、能代の“能”は、別の字を表記してたんです。
もともとは、アイヌ語の“ヌシロ”が語源みたいですけど」
み「どういう意味よ?」
食「“台地上の草原地”を意味するという“ヌプシル(nup-sir)”からの転語とする説もあるそうですが……」
↑北海道猿払村(稚内市の隣)にある浅芽野台地
食「正確にはわかってないようです」
み「別の字って、どんな?」
食「渟足柵(ぬたりのき)と同じ字の“渟代(ぬしろ)”です」
み「おー」
食「だから、元々の読みが“ヌシロ”だったのは、間違いないと思います」
み「そう言えば、“ヌタリ”ってのも、アイヌ語っぽいよね。
これは、どういう意味?」
食「“ヌタ場”ってご存じですか?」
み「ご存じでない」
食「野生の猪なんかが、泥浴びをする場所のことです」
食「泥に体をこすりつけることで、体に付いたダニなんかの寄生虫を落とすわけですね」
↑イボイノシシの泥浴び
み「つまり、低湿地みたいなとこを云うわけね」
↑縄文時代。低湿地での暮らし。
食「そうです」
み「それはよくわかるわ。
昔の“渟足(ぬたり)”は、信濃川と阿賀野川の氾濫原だったろうからね。
“渟代(ぬしろ)”もそっち系統じゃないの?」
食「米代川が海に出るところですからね。
今の市街地は、低地に形成されてます」
み「だろ」
食「でも、米代川の右岸には、台地も広がってるんですよ」
食「古代人が住居を構えるとしたら……。
そっちだったんじゃないかな」
↑台地に復元された竪穴住居跡/北斗遺跡(釧路市)
み「ふむ」
食「で、その後の能代の表記ですが……。
能代地震があったころには、野原の“野”に変わってました。
で、この“野代”が、“野に代わる”と読めるということから……。
地震後、“能(よ)く代わる”の“能代”に変えられたというわけなんです」
み「10年間に2回も大地震に遭ったら、変えたくもなるわな」
食「そのお陰か、1983年に日本海中部地震が起きるまで……。
280年の間、能代には目立った地震は起きませんでした」
↑江戸末期の能代港
み「10年間に2回も大地震があれば……。
エネルギーは、そうとう放出されたってことじゃないの」
食「ま、そういうことでしょう。
で、もうお分かりでしょ」
み「何が?」
食「濁川という名前が付いた理由です」
み「あ、そうか。
地震の山崩れで、川が濁ったのか」
食「大いに考えられると思います。
今は、綺麗な川なんですから。
でも、ときどきは濁るのかな?」
み「まだ、山崩れが続いてるってこと?」
食「この川を遡ったところに、『日本キャニオン』という景勝地があるんです」
み「ニャンだ、それは?
胡散臭い名前」
食「胡散臭く無いですよ。
文字通り、自然が作った景勝です。
白っぽい断崖絶壁が連なって見えます」
食「ま、グランドキャニオンには遠く及ばないので……。
『日本キャニオン』ということです」
み「なるほど。
まだ崖の崩落が続いてるとしたら……。
ときどき川が濁るってことか」
食「昔濁ったことがあるからなのか……。
その後も、ときどき濁るからなのかは、わかりませんが」
↑水源近くの様子。今でも、大雨のときは、凝灰岩の砂により水が濁るそうです。
み「十二湖の湖の数って、ほんとは12じゃないんでしょ?」
律「あら、そうなの?」
み「そうなのじゃ」
食「30ちょいくらいあります。
大崩という場所から見ると、12に見えるらしいですね」
食「でも、これは偶然でしょうが……。
面積が10,000平方メートル以上の湖沼の数は、12なんです」
み「やっぱり、有名なのは青池?」
食「あの色は、尋常じゃないですね」
食「いつ見ても神秘的ですが……。
お勧めは冬です。
雪の中、かんじき履いて行かなきゃなりませんけど」
食「青池は、十二湖の一番奥にありますから」
み「道はあるの?」
食「もちろん整備されてますが……。
冬期は、ガイド無しでの立ち入りは禁止です」
食「マジで遭難しますから。
でも、苦労しても見る価値はあるそうですよ」
み「てことは……。
チミは、見てないわけね」
食「ボクの体じゃ、かんじき履いても埋まっちゃいますから。
聞いた話です。
でも、ほんとに綺麗だそうです。
冬になると、池の色は、濃紺に近くなるそうです。
雪の白さとのコントラストで、いっそう青さが際立って……。
荘厳な景色だそうです」
律「女神様が浮かび上がってきそうね」
み「お前の落としたのは、この金の斧か、って?」
食「それは、別のお話でしょ」
み「漫画で読んだんだっけかな?
浮かび上がってきた女神様の脳天に、斧が刺さってるわけ。
で、顔面を血に染めながら……。
『お前が落としたのは、この斧か?』って、頭上の斧を指さすのよ。
木こりは、一目散に逃げてたな」
律「バカな漫画」
食「『十二湖』駅に停まりますよ」
み「おー。
青森県最初の停車駅だね。
やっぱり、十二湖観光の拠点駅なわけ?」
食「ですね。
『アオーネ白神十二湖』というリゾート施設があります」
み「いかにもな名前じゃのう。
青池の“アオ”と、“会おうね”を掛けたわけだね。
三セク?」
食「当たりです。
知ってらしたんですか?」
み「知るかい。
でも、完全な民間施設なら、そーゆーネーミングはせんよ。
語呂合わせ系には、ぜったいに“官”が絡んでるものじゃ」
食「ここには、名物料理があるんですよ」
み「なんじゃい?」
食「お魚です」
み「また海鮮か?」
食「ちがいます。
十二湖の水で育った淡水魚です」
み「十二湖の水って、魚が棲めるの?
あんな真っ青で」
食「小魚が、すいすい泳いでます。
透明だから、上からも見えますよ」
み「ライギョとか?」
食「あれは、汚い水に棲む魚じゃありませんか。
そういうゲテモノじゃなくて……。
『幻の魚』とも呼ばれる魚ですよ」
み「わかった。
クニマス」
食「クニマスは、山梨県の西湖にしかいませんって」
み「綺麗な水に棲む、『幻の魚』……。
わかった。
イトヨだ」
食「うーむ。
一瞬、びっくりしました。
“イト”まで合ってましたから」
み「じゃ……。
イトポとか?」
食「そんな魚、いるんですか?」
み「一文字ずつ入れてけば、いつか当たるだろ」
食「連続4回も不正解なので、失格です」
み「なんの失格じゃ!
第一、4つも答えなかったぞ」
食「ライギョ、クニマス、イトヨ、イトポ。
4つです」
み「ライギョはウォーミングアップで、イトポは冗談だから……。
まだ2つじゃ」
コメント一覧
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1. 八十郎- 2013/04/01 21:14
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盛り沢山で素晴らしいなあ。
ところで、
つげ義春の「沼」あたりの絵と、
白土三平の絵が酷似しているのは
何故なんだろう。
さらにそれは、何かしら」
水木しげるに関係があるんでしょうか。
そもそも、
つげ義春の絵が
作品によって極端に趣が違うのは
何故なんだろう。
いやいや、もう気にせんでくだされ。
“濁り川”ならぬ“濁り酒”を飲んでいる
おじさんでした。
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2. Mikiko- 2013/04/02 07:44
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↓忍者マンガも書いてました。
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130402074125710.jpg
確かに、白土三平にそっくりですね。
わたしにとってのつげ義春は、幻想文学、夢文学のひとつでした。
ひょっとしたら、『東北に行こう!』の「み」さんの口調には……。
↓つげ義春の影響があるのかも知れません。
http://blog-imgs-48.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130402063309cd7.jpg
濁り酒、美味しいですよね。
わたしのおすすめは、三輪酒造の『白川郷』。
濃厚な、ミルクのような濁り酒です。
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3. 八十郎- 2013/04/04 20:21
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桜も散りましたが、
ミルクの如き濁り酒、
今度飲んでみます。
いつか日本最南端の清酒、「亀萬酒造」
の濁り酒も賞味してくだされ。
北の御仁には甘いかもしれませんが、
美味いです。
ではまた日本の旅、楽しみにしております。