Mikiko's Room

 ゴシック系長編レズビアン小説 「由美と美弥子」を連載しています(完全18禁なので、良い子のみんなは覗かないでね)。
 「由美と美弥子」には、ほとんど女性しか出てきませんが、登場する全ての女性が変態です。
 文章は「蒼古」を旨とし、納戸の奥から発掘されたエロ本に載ってた(挿絵:加藤かほる)、みたいな感じを目指しています。
 美しき変態たちの宴を、どうぞお楽しみください。
管理人:Mikiko
東北に行こう!(60)
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食「さて、『余部鉄橋』を語り終えたところで……。
 ようやく列車が、次の停車駅に止まりましたね」

↑『あきた白神』→『岩館』/側面展望

み「どこじゃい?」
食「『岩館(いわだて)』です」
綺麗にリニューアルされた岩館駅
↑綺麗にリニューアルされました。
↓元はこんな。
リニューアル前の岩館駅

食「五能線では、秋田県最後の駅になります」
五能線では、秋田県最後の駅になります

み「さっきの『あきた白神』駅から、何分かかったの?」
食「4分です」
み「『余部鉄橋』物語が、たった4分で語られたと言うのか!」
たった4分で語られたと言うのか!

律「いいじゃないの。
 『紙上旅行倶楽部』には、融通無碍な時間が流れてるのよ」
み「ま、それもそうだ。
 本物の旅行より、ずっと楽しめるね」
律「それは、本物の方が楽しいと思うけど」
み「何だよ!」
食「『岩館』という地名は……」
み「勝手に進めるな」
食「ここからは、ぜひ車窓に集中していただきたいんです。
 絶景続きになりますから」
み「その前に、ウンチクだけ垂れておこうという魂胆だな」
食「人聞きが悪いなぁ。
 ま、あえて否定しないでおきます。
 それじゃ、ウンチク垂れてもいいですか?」
み「ダメと言っても、垂れるんだろ?」
食「ぜひに」
み「ウンチ垂れるなよ」
ウンチ垂れるなよ

律「汚い冗談は止めてちょうだい!」
み「へいへい」
食「『岩館』という地名の謂われは……。
 戦国時代末期に遡ります。
 当時、須藤兵部(ひょうぶ)の城館『岩館』があったんですね」
『岩館』想像図
↑想像図。

み「ほー。
 それから?」
食「それだけです」
み「なんだよ!
 粗末なウンチク。
 兎の糞ってとこだな」
兎の糞にあらず。甘納豆です
↑ご安心あれ。甘納豆です。

律「止めなさいって!」
み「わかりました。
 そしたら……。
 あ、そうだ。
 例によって、日帰り温泉の情報は?」
食「うーん。
 ここらでは、覚えがないな」
み「なんでよ?
 1町に1つはあるんじゃないの?」
食「だって、さっきからずっと同じ町ですよ。
 八峰町」
八峰町

み「合併したんだろ」
食「合併前だって、ずっとここらは八森町です」
ずっとここらは八森町です

み「あらそう」
食「民宿ならあります。
 岩館の駅から、歩いて10分くらいかな」
み「300円?」
300円の日帰り温泉
↑今となっては懐かしい。

食「そんなわけないでしょ。
 1泊2食付きで、8,000円~12,000円ですね」
み「高けー。
 12,000円って、どんな部屋なんだ?」
食「部屋はみんな同じです」
民宿『いがわ』実際の部屋です
↑実際の部屋です。

み「それじゃ、4,000円の違いは何よ?」
食「料理ですよ。
 素泊まりなら、どの部屋でも3,500円です」
民宿『いがわ』洗面台は共同
↑洗面台は共同。懐かしいですね。夏休み、田舎のおばあちゃんの家に行った気分?

み「てことは……。
 料理が、4,500円~8,500円ってこと?」
食「料理が売り物の宿なんですよ」
民宿『いがわ』1泊8,000円コースの料理
↑実際の料理です(1泊8,000円コース)。何の飾り気も無く、ただ皿に盛っただけ。でも、美味しいんだろうな。

食「何しろ、ご主人が岩館漁港の仲買人ですから」
岩館漁港
↑岩館漁港

食「目の前の海で捕れた、新鮮な魚介類が存分に食べられます。
 泊まらなくても、昼食や夕食だけでもオッケーです。
 秋田市あたりから、料理だけ食べに来る人もいるそうです。
 夏は、岩館海水浴場もありますから、子供連れに人気ですが……」
岩館海水浴場・シャワー:40/トイレ:5/駐車場:600台/休み屋:300円(1人)
↑シャワー:40/トイレ:5/駐車場:600台/休み屋:300円(1人)

食「魚が美味しいのは、やっぱり冬ですね。
 ハタハタ、タラ、アンコウ」
アンコウ。これを見ると引きますが……。とろけるような味でした
↑アンコウ。これを見ると引きますが……。とろけるような味でした(1度だけ食べたことあり)。

食「熱燗で食べる鍋は、応えられません」
まさに、鱈腹(たらふく)
↑まさに、鱈腹(たらふく)。

食「あー、お腹空いてきた」
み「さっき食べたばかりだろ」
律「何て云う名前の民宿なんですか?」
食「あ、失礼しました。
 民宿『いがわ』と云います」
民宿『いがわ』

み「こりゃまた、シンプルなお名前。
 ご主人の苗字かね?」
食「でしょうね」
み「じゃ、秋田県はこれで終わり?」
食「それでは、もう1つだけ。
 駅近く、5分くらいですかね。
 『漁火の館』という施設があります」
『漁火の館』

み「どういう施設じゃ?」
食「ブルーツーリズムを楽しむ施設です」
み「なに!
 そんないかがわしい施設があるのか!
 途中下車するかな?」
食「何がいかがわしいんですか?
 また、ワザと聞き間違えましたね?」
み「うんにゃ。
 はっきり聞いた。
 ブルーフィルムを楽しむ施設じゃと」
ブルーフィルムを楽しむ施設じゃと

食「こんな海っぱたに、そんなとこがあるわけないでしょ。
 ブルーツーリズムです」
み「なんじゃい、それは?」
食「それじゃ、グリーンツーリズムって、聞いたことありませんか?」
み「金輪際ありません。
 色に関係あるのか?」
食「大いにあります」
み「全身を緑色に塗って旅をするとか?」
全身を緑色に塗って旅をするとか?

食「そんなわけないでしょ。
 グリーンツーリズムとは……。
 都会の住人が農村に滞在し、自然や文化を体験する旅行のことです。
 ヨーロッパで、1970年代以降、普及しました」
グリーンツーリズムは、ヨーロッパで、1970年代以降、普及しました

み「農業体験みたいなやつ?」
食「ですね。
 日本でも、田植えや稲刈りを体験するツアーとか、あるでしょ」
田植えや稲刈りを体験するツアー

み「新潟県の山村でも、確かやってたな」
グリーンツーリズム・新潟県の山村でも、確かやってたな

食「旧八森町の本館地区には……。
 『夕映えの館』という、グリーンツーリズムの体験施設もあります」
『夕映えの館』という、グリーンツーリズムの体験施設

律「わかったわ。
 それじゃ、ブルーは海ね?」
ブルーは海ね?

食「そのとおりです」
み「漁村に滞在するのが、ブルーツーリズム?」
漁村に滞在するのが、ブルーツーリズム

食「そうです。
 『漁火の館』は、そうした漁業体験が出来る施設です。
 地元の名人から、釣りの手ほどきを受けることも出来ますよ」
地元の名人から、釣りの手ほどきを受けることも出来ますよ
↑ここまではしないと思いますが。

食「釣ったばかりの魚を、その場で調理して食べると……。
 その美味しさには、みんな驚くそうです」
その美味しさには、みんな驚くそうです

み「ほー。
 海鮮好きには、堪えられまへんな」
海鮮好きには、堪えられまへんな

食「素泊まりで、2,500円」
み「食料は、自分で採って来るの?」
食「もちろん、採って来たものも使われるでしょうが……。
 3日前に予約すれば、ちゃんと準備してくれます。
 時化とかに当たったら、海には近づけないでしょうし」
み「でもさ。
 自然はともかく、文化も体験するとしたら……。
 そうした施設じゃなくて、漁師さんの家にホームステイすべきなんじゃないの?」
漁師さんの家にホームステイすべきなんじゃないの?
↑こういう家ではないと思います。

食「ヨーロッパなんかでは、そうだと思います。
 でも、日本じゃ難しいですよ。
 受け入れ側の体制が」
み「ま、見ず知らずの人を泊めるわけだからね」
律「来る方も、民家に泊まるんじゃ、気詰まりなんじゃないの?」
民家に泊まるんじゃ、気詰まりなんじゃないの?

み「日本には、ホームステイの文化が根づいてないからね」
食「結局、箱物を作らなきゃ、日本じゃ普及しないってことでしょうね」
結局、箱物を作らなきゃ、日本じゃ普及しないってことでしょうね

み「ほかの色は無いの?」
食「聞いたことありませんね」
み「わたしとしては……。
 ぜひ、ホワイトツーリズムを提唱したい」
律「わかった。
 雪ね?」
ぜひ、ホワイトツーリズムを提唱したい

み「左様じゃ」
食「なるほど。
 雪国の暮らしを体験するわけですね?」
雪国の暮らしを体験するわけですね?

み「良かろ?」
食「ホワイトツーリズムという言葉は無いとしても……。
 似たようなツアーは、ありますよ」
み「どんな?」
食「これから入る青森県には……。
 『地吹雪体験ツアー』なるものがあります」
み「知ってる知ってる。
 わざわざ角巻きかぶって、吹雪の原っぱに出るやつでしょ?」
わざわざ角巻きかぶって、吹雪の原っぱに出るやつでしょ?

食「ボクは、寒がりなので……。
 ちょっと、パスですね。
 ストーブ列車の方がいいです」
ストーブ列車の方がいいです

み「だらしないやつ」
食「あ、あれがチゴキ崎ですね」
あれがチゴキ崎ですね

み「誤魔化しおって」
律「あ、灯台」
チゴキ崎灯台です

食「チゴキ崎灯台です」
チゴキ崎灯台位置図
↑位置図

食「昭和29年に設置されました」
み「♪おいら岬の~」
食「♪灯台守は~。
 ずいぶん古い歌、知ってますね」
み「中学の時……。
 『オイラーの定理』っての、出てきたでしょ」
食「数学ですね」
み「数学だっけ?
 化学じゃなかった?」
食「多面体の定理だったと思います」
オイラーの定理

み「ま、いいや。
 中身は覚えてないから。
 覚えてるのは、教師の寒いギャグ」
律「何よ?」
み「そのまんまだよ。
 オイラーの定理って、言ってから……。
 さっきの歌、歌ったの」
律「『♪おいら岬の~』?」
み「誰も知らないっつーの。
 教室中、しーんとしちゃってね。
 そのバカ教師、最近の生徒は、年々ノリが悪くなってくるとか言ってさ。
 早い話、その歌を知ってる年代じゃなくなってきただけじゃない。
 それに気づかないで……。
 ずーっと毎年、おんなじギャグかましてたってこと」
律「Mikiちゃんは知ってたわけ?」
み「わたしはずーっと、ジジババの部屋で育ったからね。
 懐メロには造詣が深いのだ。
 いつごろの歌だと思う?」
律「江戸時代?」
み「そんなわけないだろ!
 戦後すぐくらいだよ」
食「確か、昭和32年です。
 木下恵介監督による映画『喜びも悲しみも幾歳月』の主題歌ですね」
木下恵介監督による映画『喜びも悲しみも幾歳月』の主題歌

み「なんでそこまで知ってる?」
食「あの映画に出てくる灯台を巡ってみたことがありますから」
み「どこが舞台なんですか?」
食「辺地に点在する灯台を……。
 転々としながら駐在生活を送る燈台守夫婦の25年に渡る物語ですからね。
 舞台となった灯台は、10箇所くらいありましたよ。
 そうそう、佐渡の弾崎灯台もありました」

 ↓それでは、ダイジェスト版を御覧ください(主題歌の歌唱は、若山彰)。


み「あれ?
 ずいぶん高いとこに登って来たね」
食「これこれ、これですよ。
 ここからは……。
 白波が砕ける岩場を、上から俯瞰するアングルが続くんです」
白波が砕ける岩場を、上から俯瞰するアングルが続くんです

み「津波が来たら、逃げ場が無いのぅ」
律「またそういうことを言う!」
み「笹川流れを思い出すな」
笹川流れを思い出すな

食「知ってます。
 新潟県北部の景勝地ですよね。
 村上あたりでしたっけ?」
み「そうそう。
 村上の北ね。
 小さいころ、父に連れてってもらった。
 アメフラシを捕まえたな」
アメフラシを捕まえたな
↑笹川流れでの写真(出典)。わたしが捕まえたのは、こんなに大きくありませんでした。

食「そろそろ県境ですよ。
 ここまで上がれば、津波の心配もありませんね」
み「今、どのくらいの高さなの?」
食「60メートルくらい登りました。
 あ、県境の須郷崎です」
県境の須郷崎
↑遠くに見える大陸みたいなのは、どこじゃ? ロシアじゃないよね。黄金崎かな?

食「この地名、須藤兵部と関係してるかも知れませんね。
 須藤の“須”に、“郷(さと)”ですから」
須藤の“須”に、“郷(さと)”ですから

み「秋田県よ、さようなら」
秋田県よ、さようなら

律「青森県よ、こんにちは」
青森県よ、こんにちは

み「思えば……。
 長い長い秋田県であった」
律「青森県も長い?」
み「いつ抜けられることやら……。
 って、いきなりトンネルじゃん」
食「3つくらい、続きますよ」
み「だんだん降りてきたな」
律「あ、鉄橋」
食「『第1入良川橋梁』です(画像が見つかりませんでした。読み方は“いらかわ”だと思います)」
み「また、ナンバーが付くわけ?」
律「第2は?」
食「わかりません。
 線路が入良川を跨ぐのは、ここだけですから」
み「おかしいじゃないか。
 誰か、教えてくれんもんかのぅ」
食「あ、次のトンネルの上に、昔の関所があったんですよ」
み「関所は昔に決まっておる」
長野県木曽町福島のマスコットキャラクター『福ちゃん』。関所を被ってます。
↑長野県木曽町福島のマスコットキャラクター『福ちゃん』。関所を被ってます。

み「今の関所があってたまるか」
なんと、被り物を取った画像もありました。
↑なんと、被り物を取った画像もありました。

律「揚げ足取らないの」
揚げ足取らないの

み「行稼ぎじゃ」
律「何て云う関所なんですか?」
食「大間越関所ですね」
み「聞いたことある名前だな」
食「五能線の撮影ポイント、『第2小入川橋梁』の上流を、大間越街道が跨いでました」
み「あ、その街道の関所か」
あ、その街道の関所か

食「正確には、『口留番所』と云ったらしいです。
 跡地は、公園として整備されてます」
跡地は、公園として整備されてます

食「見晴らしもいいみたいですよ」
み「高いとこから見張ってたわけだな」
食「佐竹藩と弘前藩の藩境ですからね。
 国境警備の意味合いもあったようです」
これは、福ちゃんの木曽福島の関所(長野県木曽郡木曽町福島)
↑これは、福ちゃんの木曽福島の関所(長野県木曽郡木曽町福島)。

み「どのくらいの通行があったの?」
食「月平均で40人くらいだったと云います」
み「は?
 てことは、1日に2人いないわけ?」
食「ま、誰も通らない日も、多かったんじゃないですか」
『木曽福島関所跡』
↑『木曽福島関所跡』。上の絵の場所でしょうか? ちょっと違う気も……。

み「何人くらい詰めてたの?」
食「町奉行が1人に、町同心や町年寄が15人。
 名主2人に、月行事5人ですかね」
み「そこまで知ってるのは、不自然じゃないか?」
食「ボクに言わないでください」
み「まぁ、いい。
 で、何人になるんだ?」
食「23人です」
み「多すぎだろ。
 1日に1人しか通らないのに」
食「藩士は、奉行と同心だけで……。
 あとは、地元の住民ですよ」
み「民間人か。
 そんなんで警護なんか出来るのかね」
律「実際に、関所破りとかはあったんですか?」
実際に、関所破りとかはあったんですか?

食「ここに限らず、滅多には無かったようです。
 ていうか、あっても、表沙汰にならなければ……。
 無かったと一緒ですしね」
み「捕まえるケースは、少なかったってわけ?」
食「関所の役人も、お尋ね者でもない限り……。
 大ごとにはしなかったようですよ。
 なにしろ、ほんとに捕まえてしまえば磔(はりつけ)ですからね」
20~30回、槍で突かれます。たいていは、数回で絶命したそうですが。
↑20~30回、槍で突かれます。たいていは、数回で絶命したそうですが。

食「箱根の関所でも、未遂で捕まった者については……。
 “薮入り”と云って、道に迷ったものとして処理する場合が多かったようです。
 実際、関所破りについては、ほとんど記録に残ってないんです。
 箱根でも、お玉くらいじゃないですかね」
み「お玉って、女の人?」
食「奉公に出たばかりの子供ですよ」
み「どうして捕まったの?」
食「聞きたいですか?
 可哀想な話ですよ」
み「ここまで聞いて、止めるわけにはいかんだろ。
 最後まで聞くのが、人としての務めです」
食「ま、時代もまだ早かったせいもあるんでしょうけどね。
 元禄15年のことでした」
み「♪時に~」
食「♪元禄15年~」
♪元禄15年~


み「いちいち乗るなよ。
 西暦何年?」
食「1702年です」
み「江戸幕府が出来て、ちょうど100年くらいだね」
食「お玉は、伊豆国大瀬村の生まれでした」
お玉は、伊豆国大瀬村の生まれでした
↑伊豆半島の最南部です。気候がいいんだろうな。

食「で、江戸に住む叔父さんの家に、奉公に上がったんです。
 でも、どうしても江戸の暮らしに馴染めず……。
 寂しさに泣き暮らす毎日だったようです」
み「いじめられたんじゃないか?」
食「可能性は、大でしょうね」
み「叔父さんの嫁が怪しい」
律「案外、娘かもよ」
み「あり得るね」
食「で、とうとう辛抱できなくなり……。
 叔父さんの家を飛び出しました」
律「追い詰められたのね」
食「箱根の関所近くまで来ましたが……。
 当然、道中手形など持ってません。
 お玉は、屏風山を越えようとしますが……」
お玉は、屏風山を越えようとしますが……

食「山の上まで、ずーっと柵が巡らされてました」
山の上まで、ずーっと柵が巡らされてました

食「でも、懸命に探して、小さな破れ目を見つけました。
 体が小さかったお玉は、その間を抜けようとしたんです」
み「その柵さえ越えれば、家に帰れるんだもんね」
食「でも、残念ながら体が挟まり、身動きが出来なくなりました」
残念ながら体が挟まり、身動きが出来なくなりました

み「そこを、役人に見つかったわけ?」
食「いえ、見つけたのは村人だったそうです」
律「どうして見逃してやらなかったの!」
食「見つけたのが1人だったら、そうしたかも知れませんね。
 たぶん、数人で通りかかったんじゃないかな」
み「共有の秘密に出来るほど、仲が良く無かった?」
食「じゃないですか。
 ヘタに助けたりしたら、仲間にチクられかねない。
 可哀想だと思いつつ、役人に知らせたんでしょう」
可哀想だと思いつつ、役人に知らせたんでしょう

み「神も仏もないわなぁ。
 助けないまでも……。
 せめて、見ぬふりして行ってくれれば」
食「でも、2月だったそうですからね。
 箱根の山中で放って置かれたら、たぶん凍死です」
箱根の山中で放って置かれたら、たぶん凍死です

み「はぁ。
 つくずく運が無いわ」
食「役人も、村人からの通報があったんでは……。
 表立って処理するしかないでしょう」
み「どうなったの?」
食「2ヶ月間、獄屋に入れられた後……」
2ヶ月間、獄屋に入れられた後……

食「処刑されました」
み「無残な……」
食「でも、本来なら磔のところを……」
でも、本来なら磔のところを……

食「刑がひとつ軽くされたそうです」
み「どんな刑よ?」
食「獄門です」
獄門です

み「ぜんぜん軽くないだろ!」
食「お玉の首を洗ったと云う池は、『お玉ヶ池』と名付けられました」
お玉の首を洗ったと云う池は、『お玉ヶ池』と名付けられました

み「化けて出てやれば良かったんだよ」
律「親は、堪らなかったでしょうね」
み「奉公に出したのは、自分たちなんだもんね」
食「時代が悪かったんでしょう。
 江戸時代も半ばを過ぎると……。
 監視も緩くなって、賄賂を出せば通れたそうですから」
監視も緩くなって、賄賂を出せば通れたそうですから

食「ま、お玉はお金を持ってなかったでしょうから……。
 追い返されてしまったかも知れませんけど」
み「賄賂か。
 ほんとに、そんなにいい加減だったの?」
食「“抜け参り”ってのが流行ったの、知ってます?」
み「あ、お伊勢参りだね」
歌川広重『伊勢参宮 宮川の渡し(部分)
↑歌川広重『伊勢参宮 宮川の渡し(部分)』

食「奉公人たちが、主人に無断で、突然伊勢参りに出かけたわけです。
 当然、通行手形なんて持ってませんから……。
 本来なら、箱根の関所で止められたはずです」
箱根関所資料館
↑箱根関所資料館

み「役人に賄賂を渡して?」
食「あるいは、抜け道を通ったのかも知れません。
 そのころには、抜け道の案内人がいたそうですから。
 金を取る商売として成り立ってたようです」
み「そっちの方が、役人に渡す賄賂より、安く済んだのかね。
 でも役人が、大っぴらに関所を通していいもんだったわけ?」
食「逆方向に追い返すんです」
み「なんじゃそれは?」
食「駕籠なんかだと、役人がワザとよそ見をしてる隙に……。
 駕籠かきが、駕籠の向きを反対に変えます」
『岐阻道中 熊谷宿 八丁堤ノ景』画:渓斎英泉
↑『岐阻道中 熊谷宿 八丁堤ノ景』画:渓斎英泉

食「で、おもむろに向き直った役人は、『手形が無ければ、通すわけにいかぬ! 帰れ!』と叱りつける。
 駕籠かきは、恐れ入った風体で、そのまま後ずさっていくんですね。
 でも実際は、出て行ってしまってるわけです」
み「まるっきり落語じゃないか」
食「お玉も、こんな時代だったら、見逃されたでしょうにね」
み「関所ってのは、悲喜こもごもの物語が詰まってるとこなんだな。
 窓から顔出せば見えるかな?」
食「窓なんか開きませんって。
 見ればわかるでしょ」
こちらの窓の外は、なぜか品川です。
↑こちらの窓の外は、なぜか品川です。

み「それじゃ、こんなに海際を走ってるのに……。
 海の匂いを感じられないってことじゃん」
食「鈍行なら、存分に味わえますよ。
 車内もガラガラだから、窓開けても怒られませんし」
車内もガラガラだから、窓開けても怒られませんし

み「ふーむ。
 鈍行に乗り換えるか?」
律「イヤよ。
 こんなに快適なのに」
み「だよな。
 何に乗っても、風景だけは一緒だ。
 あ、トンネル入っちゃった。
 何も見えん」
何も見えん

食「当たり前でしょ」
み「『汽車ポッポ』の歌で……。
 『♪トンネルだ、トンネルだ、うれしいな』って歌詞があるけど……。
 アホとしか思えんよな。
 いったいトンネルの、どこがうれしいわけ?」

↑童謡『汽車ぽっぽ』

食「昔は、夏場なんか、窓を開けて走ってたでしょうから……。
 トンネルに入るたび、そこらじゅうでバタバタと窓閉めの騒ぎがあったりして……。
 面白かったんじゃないですか?」
トンネルに入るたび、そこらじゅうでバタバタと窓閉めの騒ぎがあったりして……

み「蒸気機関車の煙対策か」
食「子供たちは……。
 そんな不便さにも、日常とは違う、旅の楽しさを感じるのかも知れませんね」
そんな不便さにも、日常とは違う、旅の楽しさを感じるのかも知れませんね

み「あ、トンネル出た……。
 と思ったら、鉄橋だ。
 日本の地形って、『汽車ポッポ』の歌詞通りだよな」
食「それは、『汽車ポッポ』ではなく……。
 『汽車』ですよ」
み「そうだっけ?」
食「『♪今は山中今は浜』でしょ」
み「それそれ。
 ♪今は鉄橋渡るぞと」
食「♪思う間も無くトンネルの」
律「♪闇を通って広野原」


食「乗ってて飽きませんよ。
 外国の鉄道なんて……。
 まっ平らな同じ景色のところを、延々と走る路線が少なくないですからね」
シベリア鉄道の車窓。1日中、同じ景色の日もあるそうです。
↑シベリア鉄道の車窓。1日中、同じ景色の日もあるそうです。

食「ほら、集落が見えて来ました」
み「久しぶりに人家を見るな」
食「県境のあたりは、人家のない断崖がずっと続きましたからね。
 鉄道だと、あっという間ですが……。
 昔は、歩いて山を越えたわけです。
 関所を通って、この集落の竈の煙を見た旅人は……。
 ホッとしたと思いますよ」
み「ここは、なんてとこ?」
食「大間越です」
大間越です

み「ここがそうか。
 “大間越”って、そもそもどういう意味なんだ?」
食「大間は、船の入れる入江のことだそうです」
み「ふーん。
 そこを越えるってことか」
食「駅を通過しますよ。
 『大間越駅』です」
『大間越駅』です

み「これがホンマの、大間越し」

 ちなみに、駅舎は↓こんなです。
『大間越駅』駅舎

 なんとも、形容しがたいデザインですね。もちろん無人駅。窓が無駄にデカいのは、照明を点けなくていいようにでしょうか?
 なお、初セリのマグロの産地で有名になった大間町は、下北半島の最北端にあり、大間越とは別の場所です。
大間町

 でもたぶん、“大間”が入江を表すという語源は一緒なんでしょうね。

み「青森県最初の駅には停まらないわけね。
 大分、海が近くなったな」
食「このあたりは、海抜10メートルを切ってると思います。
 『岩館駅』は、30メートルくらいありましたからね」

↑側面展望『岩館』→『十二湖』【13:15にトンネルを抜けると、大間越の集落(たぶん)】

み「津波が心配じゃ」
律「またそれを言う!
 でもほんと、山側には田んぼも見えてきて……。
 平坦地って感じになったわよね」
食「松林の向こうに、砂浜が見えますよ」
松林の向こうに、砂浜が見えますよ

律「ほんと。
 さっきまでは、岩だらけだったのに」
み「『♪今は山中、今は浜』だね。
 そう言えば……。
 青森県最初の町の説明が無かったぞ」
食「ご存知なかったんですか?」
み「ご存知のわけあるかい」
食「普通、調べてから来ません?」
み「来ませんでした」
食「深浦町(ふかうらまち)ですよ」
深浦町(ふかうらまち)ですよ

食「日本海に面してますから、青森県内では温暖な地域です」
み「あ、対馬海流?」
あ、対馬海流?

食「ですね。
 また駅、通過します」
み「2つ目も通過かい。
 青森県に失礼なんじゃないか?」
食「いちいち停まってたら、快速とは言えないでしょ」
み「秋田県の最後じゃ……。
 『あきた白神』と『岩館』に連チャンで停まったでしょ。
 青森県を軽視しとるんじゃないか?」
食「違いますよ。
 『リゾートしらかみ』の停車駅数では、青森県の方がずっと多いんです。
 確か、秋田県が8つで、青森県が14です」
確か、秋田県が8つで、青森県が14です
↑冬期間は、千畳敷に停車しません。

み「あ、そうなの。
 それで、秋田県境あたりで、帳尻合わせしたのか」
食「そんなこともないでしょうけど。
 でも、要望はあったかも知れませんね。
 はい、『白神岳登山口』通過です」
『白神岳登山口』通過です
↑左手に海、右手に山。素晴らしいロケーションです。

 ↓でも、駅舎は強烈。
でも、駅舎は強烈

 農作業小屋のようです。
 ↓内部は、こんな(絶句)。
内部は、こんな(絶句)

 ↓1日に、5本ずつしか電車が来ません。
1日に、5本ずつしか電車が来ません

 冬、乗り遅れたりしたら、凍死するんじゃないでしょうか?

み「ほー。
 こっから白神山地に登るわけね」
食「白神山地の世界遺産登録後に、名称が変更になったんです。
 確か、平成12年だったと思います。
 それまでは、『陸奥黒崎』という駅名でした」
それまでは、『陸奥黒崎』という駅名でした

み「なるほど。
 それじゃ、わかりづらいよな」
 って……。
 せっかくわかりやすくなっても……。
 通過したんじゃ意味ないじゃないの」
律「それもそうよね」
み「山に入る人は、鈍行で来るってことか?
 そうか、わかった。
 登山の人って、荷物がスゴい大きいじゃない」
登山の人って、荷物がスゴい大きいじゃない

み「だから鈍行なのよ」
律「なんでよ?」
み「この『リゾートしらかみ』でもそうだけど……。
 座席指定だから、荷物の置き場が無いでしょ。
 大きい荷物は、網棚にも乗らないだろうし」
大きい荷物は、網棚にも乗らないだろうし

み「隣の席が空いてなかったら、ずっと抱いてなきゃならないよ。
 だから、ガラガラの鈍行で来るってわけ。
 だろ?」
東北に行こう!(59)目次【Mikipedia】フェムリバ!




コメント一覧
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    • ––––––
      1. 八十郎
    • 2013/03/19 20:45
    • 相変わらずいいですねえ、“行こう”シリーズ。
      生き生きとして、Mikikoさん益々健在に感じます。
      私にとって印象的な東北の思い出は、
      やはり恐山の青森、
      そして岩手でしたか、立って入る小判型の温泉。
      強風で大間鉄道は脱線することがある、
      とタクシーの運ちゃんに聞いて感心した私でした。
      離れ小島に 南の風が
      吹けば」春来る 花の香便り
      高峰美枝子さん、おきれいですねえ。
      駅舎の中で中心を占める黄色いものは
      何でしょうか。
      何であれ、必要な物でしょうし、
      面白い風景でした。

    • ––––––
      2. Mikiko
    • 2013/03/20 08:14
    • http://blog-imgs-48-origin.fc2.com/m/i/k/mikikosroom/20130303104554de2.jpg
       除雪道具ですね。
       なぜ黄色いのかは不明ですが。
       ちなみに新潟では、赤が主流です。
       手前は、降ったばかりの軽い雪を払う道具。
       奥の方は、スノーダンプと呼ばれてます。
       重たい雪を載せて運ぶ道具です。
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