2012.3.3(土)
み「ふーん。
カミナリウオなら、水族館で見たことがあるかも。
ウツボみたいな魚じゃなかった?」
↑顎にぶら下がるエビは、ウツボ専門の掃除屋『アカシマシラヒゲエビ』
食「それは、オオカミウオだと思いますが」
み「あっ、そう。
でも、顔はあの系統なんでしょ?」
↑哀れ、浦安の魚市場で売られる『オオカミウオ』くん
食「ぜんぜん違うと思います」
み「じゃ、何でそんな怖い名前が付いてるわけ?
音読みしたら、“ライギョ”でしょ」
食「雷の鳴るころに、岸に押し寄せてくるからです」
↑『男鹿水族館GAO』のハタハタ水槽
み「雷が怖くて、岸に逃げて来るのか?
臆病なヤツ」
食「産卵のためにですよ」
み「でも、雷と産卵と、どんな関係があるわけ?」
食「雷が鳴り始める季節ってことです」
食「日本海側では、晩秋から初冬にかけてですね」
み「あー、雪下ろしの雷ってヤツだね。
日本海側では、雷の季節は初冬だもんね」
食「その季節が、産卵期ってわけです。
海が荒れる時期なので……。
波が多いと書いて、“波多波多”と呼ばれるようになった……」
食「という説もあります」
み「イマイチ、説得力が無いのぅ」
食「ボクもそう思います」
み「おー。
珍しく意見が一致したではないか。
そもそも、ハタハタって、どーゆー魚なわけ?」
食「一口で云えば、深海魚ですね」
み「あらそう」
食「浮き袋がありませんから」
み「“浮かばれない”ってやつ?
沈んだっきりなの?」
食「昼間は、砂や泥の中に隠れて過ごし……」
食「夜になると出てきて、海の底を徘徊するわけです」
み「泥棒だな」
食「で、産卵期になると……。
海底を這い上がって来て、浅瀬の藻場に集まるわけです」
み「そこを、一網打尽?」
↑インチキくさー。“耐水性デザイン”って何だ?
食「ひとつ間違えれば、あっという間に捕り尽くしちゃうでしょうね」
み「なるほどー。
漁業が発展して、大量に捕れるようになったら……。
一気に数を減らしたってことなんだね」
食「昔の漁は、そこそこの数しか捕れませんものね。
海が荒れる季節だし」
↑名曲『兄弟船』
食「でも、冬の初めに捕れるハタハタは……。
雪に閉ざされる冬の間の、貴重なタンパク源だったわけです」
み「ってことは、保存食?」
食「そうです」
み「新潟の鮭に似てるな」
み「どんな保存法があるの?」
食「一番有名なのは、“しょっつる”ですね」
み「出ましたねー、超有名どころ。
“しょっつる”ってのは、塩辛い汁ってことでしょ?」
食「そうです。
塩漬けのハタハタを発酵させて作る、魚醤です」
食「これを調味料に使った鍋料理が、“しょっつる鍋”です」
み「魚本体の保存食は無いの?」
食「もちろんあります。
味噌漬けに塩漬け」
食「一般家庭が、箱単位で買って……」
食「家ごとに漬けるわけです」
み「家伝の味ってやつ?」
食「ですね。
それを取り出しては、煮たり焼いたりして、一冬を過ごすわけです」
み「うーむ。
高血圧にご注意だね」
↑これは、高ケツ圧
み「あとは?」
食「お鮨があります」
み「お寿司は、生ものでしょうが」
↑新潟のお寿司『“極み”/地魚・ウニ・トロ・イクラ、特上全10貫で3,000円(お椀付き)』
食「あぁ。
なれ鮨ですよ」
み「へー。
なれ鮨って、琵琶湖あたりの鮒が有名だよね」
み「あれは、ハードルが高そうだな」
律「どういう意味?」
み「玄人の舌じゃなきゃ、味わえないってこと」
み「わたしは、食べなくてもわかるもの。
苦手だってこと。
ハンバーグとかカレーの対極にある味だよね」
↑『びっくりドンキー』のハンバーグカレー(もっとルーが欲しい)
律「お子ちゃま向けじゃないってこと?」
み「ま、その点は認めますけどね。
いわゆる、酒の肴ってヤツは、苦手系が多い」
律「例えば?」
み「コノワタとか、↓カラスミとかさ」
律「あぁ。
なんとなくわかる。
普段は、酒の肴、何食べてるの?」
↑塩ウニ(コノワタ、カラスミと合わせ、日本三大珍味だそうです)
み「普通のオカズですよ。
夕食の」
↑我が家のダイニングです
み「だから、何でもありだね」
律「食後も、飲むんでしょ
ひとりで」
み「ひとりで悪いか」
律「悪かないわよ。
わたしだって飲むもの」
み「だよね。
飲みに行く?」
律「ひとりで?」
律「行かないわよ」
み「なんで?」
律「めんどくさいから」
み「だよねー。
飲みに行って嫌なのは……。
帰らなきゃならないことだもんね」
↑家に帰れたとは思えませんが
律「そんな理由なの?」
み「先生は、違うの?」
律「話しかけられたりして、鬱陶しいの」
み「ふーん。
こんなツンケン女に、よく話しかけられるな」
み「度胸あるよ、そういう男」
律「むしろ女の子よ。
話しかけてくるのは」
み「あ、そうか。
やっぱ、オーラが出てるんだ」
律「何のオーラよ?」
み「わかってるくせに」
律「とにかく!
外で、帰りたくなくなるまで飲むってのが、間違いでしょ」
み「中途半端に飲んだって、楽しかないだろ」
律「ま、それは言えてるけどね。
でも、わたしはひとりだからいいけど……。
Mikiちゃんは、お母さんと一緒なんでしょ。
そのままテーブルで飲むの?」
み「そんなこと、させてくれるはずないじゃん。
お膳が片付かないって怒られるわよ」
律「じゃ、どこで飲むわけ?」
み「トイレ」
律「ウソ!」
み「ウソに決まってるでしょ」
み「お部屋に帰って飲むのよ」
律「オツマミは?」
み「食べない」
律「ツマミなし?」
↑ウナギの骨。炙ると油が滲むそうです。
み「一切なし」
律「胃に悪いわよ」
み「大丈夫よ。
夕飯食べた後なんだから。
強いお酒も飲まないし。
ツマミなしで飲めると、いいこともあるんだよ」
律「なに?」
み「翌日胃カメラでも、遅くまで飲める」
律「なんでよ?
夜9時以降は食事しちゃダメなのよ」
み「だから、食事してないでしょ。
おツマミ食べないんだから、大丈夫。
こないだの胃カメラで試したけど、ぜんぜんバレなかったよ」
律「そういう問題じゃないでしょ。
気持ち悪くならない?」
み「そこまで飲んでないもの。
ま、そういう話はいいの。
今はハタハタの一件でしょ」
そういえばまだ、ハタハタの全容を公開してませんでした……。
ということで!
↓これがハタハタだっ。
なんか……。
普通の魚ですよね。
てなわけで、続きをどうぞ。
み「保存食じゃない食べ方もあるんでしょ?
捕れたて新鮮」
食「もちろんあります。
生寿司じゃないですけど……。
三枚におろして酢締めにすると、驚くほど美味しいです」
食「これは、鮮魚が手に入る、産地ならではの食べ方ですね」
み「小鰭っぽいのかな?」
食「その系統ですね。
小鰭より、さらに歯ごたえがあって……。
皮の食感もプリプリです」
↑こちらのサイトさんから拝借。写真も、超ウマ。
み「そんなら食べれるかも。
あとは?」
食「一般的なのは、焼き魚ですね」
食「ハタハタは鱗が無いので、料理も楽です」
食「小骨もなく、食べやすい。
頭の方から引っ張ると、背骨がすっぽり抜けるんです」
↑こちらから拝借。
食「面白いですよ」
み「一番のお勧めは、焼き魚ってことね」
食「実は……。
取っておきの食べ方があるんです。
昔、民宿の夕食に出たんですけどね」
↑わたしの頭にある“民宿”のイメージです(千葉県鴨川市の『民宿宮本』さん)
食「美味しかったなぁ」
み「どんな食べ方よ?」
食「まず、新鮮なハタハタが手に入らなきゃなりませんから……」
食「漁港近くの民宿ならではの味ですね」
↑刺し網からハタハタを外す作業(八森漁港)
み「勿体ぶらずに、早よ言わんかい!」
食「シンプルな料理ですよ。
素材が良ければ、シンプルが一番です」
み「お刺身?」
↑ハタハタのお刺身
食「刺身も、もちろん美味しいですけど……。
ボクの一押しは、『湯あげ』です」
み「どうやんの?」
食「もう、簡単の局地ですね。
頭と内臓を取って水洗いしたハタハタを、昆布出汁で茹でるだけ」
食「ポン酢で食べたら、こたえられませんよ」
み「うーむ。
ウマそうじゃ。
民宿に泊まりたくなった」
食「でしょー」
み「あ、そうだ。
もうひとつあった。
ブリコ」
み「これは、ハタハタの卵でいいんだよね?」
食「正解です」
み「何で、ブリコって言うの?」
食「普通、イクラなんかの魚卵は、柔らかいものが好まれますよね」
食「口の中で、プチプチと弾けるみたいな」
み「おー。
イクラとかの旨さは、歯応え半分だよな」
食「生のハタハタを焼くと……。
その歯ざわりと味が楽しめます」
食「でもそれは、本物のブリコじゃない」
み「なんで?」
食「味噌漬けや塩漬けで保存すると……」
食「卵の皮が、ゴムみたいに硬くなるんです」
食「噛むと、ほんとに『ブリッブリッ』って音がするんですよ」
み「ブリブリ、ブリッコ?」
み「それで、『ブリコ』?」
↑浜に打ち上げられたブリコ。でも、拾ってはいけません!↓
食「そうです。
皮を噛み潰してエキスを楽しんだら……。
皮の殻は、ペッと吐き出す。
これが、本式のブリコの食べ方です」
↑煮立たせて火を止めた醤油に、ブリコをくぐらせる。食べ出すと止まらなくなるそうです。
み「ほー。
それは面白そうじゃ」
↑これはもちろん、スイカの種飛ばし
食「ぜひ、お試しください。
秋田に来て、ハタハタとブリコを食べないなんて、あり得ませんよ」
食「これまで秋田で、何を食べました?」
み「最初の食事は、ラーメンだったな」
食「は?」
み「と言っても、ご当地ラーメンだよ。
秋田駅近くの市民市場にあった……」
み「その名も、『支那そば伊藤』」
食「あぁ。
十文字中華ですね」
食「『三角そばや』の系統でしょう?」
み「そうそう。
♪四角四面の櫓の上で」
食「それは三角野郎でしょ」
み「ちょいな」
食「あそこは最近、ちょっと変わったメニューが名物になってるんですよ」
み「スルーしたな。
しかし、皆まで言うな。
冷やし中華でしょ。
その名も、『そのまんま冷やし』」
食「へー、ご存知でしたか。
侮れませんね」
み「曲者じゃろ?
ラーメンと『そのまんま冷やし』を、分けあって食べたんだもんね」
み「驚いたことに、お代も割り勘だったのよ」
律「何で驚くのよ。
当然でしょ」
み「普通、稼ぎの多い方が全額持つか……。
収入に比例して払うんじゃないの?」
律「あんたには、矜持ってものが無いわけ?」
み「おまへんな」
↑何も持たないということは、失うものがないということでもある
律「呆れた女」
み「何とでも言え。
先生とわたしの収入比率は……。
たぶん、10対3くらいだと思う。
くそ!
言いながら、腹立ってきた。
10対3じゃ、コールド負けじゃないか」
食「甲子園の本戦に、コールドゲームはありませんよ」
↑地方予選です。5回コールドでもこの大差。
み「よけい惨めじゃ。
切腹させて、介錯がないようなもんだろ」
食「かなり違うと思います」
み「今からでも遅くないから、収入比分返して」
律「誰が」
↑点眼補助器具『アカンベー』平成11年度「なるほど展」日本商工会議所会頭賞受賞/平成10年度「オール発明コンクール」特別賞・東久邇宮記念賞受賞
み「どう思う、この女?」
食「ここは、あまり戦線を広げない方がいいと思います」
み「ふん。
ま、今日はこのくらいにしといたるか」
み「楽しい旅行の最中だもんね。
で、ラーメン食べて……。
お昼には……」
食「ちょっと待って下さい。
ラーメンがお昼じゃないんですか?」
み「朝ラーだよ」
食「ホテルで朝食食べて、しかもラーメンまで?」
み「アホか!
チミじゃあるまいし。
きのうの朝、秋田に着いたの」
食「えー。
秋田駅に朝着く夜行なんて、あったかな?」
み「夜行列車では、なーい」
↑『百鬼夜行』/河鍋暁斎(1831~1889)
食「そもそも、どちらから来られたんですか?」
み「新潟じゃ。
新潟の話、何度も出してるだろ」
↑改めて見ると、けっこう遠いですね。仙台より遠いんだ。
食「うーん。
新潟秋田間に、夜行バスなんて無いしな」
食「わかった。
長距離トラックだ」
食「ヒッチハイク」
↑度胸あるよな。こういうの見ると、日本は素晴らしい国だと思う。
み「勤め人が、そんな不確定要素に左右される旅行、できるわけないでしょ」
食「降参です」
み「フェリーだよ」
み「新潟発、23:30。
秋田着、翌朝5:50」
食「フェリーかぁ。
盲点でした。
ていうか、新潟から秋田まで、フェリーで来る人は、ほとんどいないと思いますけど」
み「2時間ドラマのアリバイ作りに使えそう?」
食「そりゃ無理でしょ」
み「なんでよ」
食「新潟から秋田までのアリバイ作りに使えるのは……。
列車や自動車より早く行ける方法がある場合でしょ」
↑もちろん、航空便はありません。
食「フェリーは、ずっと遅いんだから、お話になりませんよ」
食「フェリーに乗ってたってアリバイを崩す方なら、ドラマになりますけど」
み「わかった。
新潟秋田間での乗船が確認されてる人物がいて……。
そいつが疑わしいんだけど……」
み「犯行時間は、新潟から秋田までの航行時間内って謎だね」
食「何か反則技がなきゃ、無理ですよ」
食「フェリーから抜けだして戻るなんて……。
忍者だって出来っこありません」
↑忍法、透明人間の術。
み「飛びこんだら?
泳ぎが得意なら、出来るでしょ」
食「フェリーの甲板から海まで、どれだけの高さがあると思うんです?」
み「100メートル?」
食「あるわけないでしょ。
全長が、200メートルなんだから」
食「それでも、甲板から海面までの高さは、15メートルくらいにはなります」
食「5階建てのビルくらいですよ」
食「そんな高さから飛びこんだら……。
水面に叩きつけられて、下手すりゃ即死です」
食「第一、もし飛びこんでフェリーから抜け出したとしても……。
どうやって戻るんです?」
み「登れない?」
食「北朝鮮の工作員でも、ぜったいに無理です」
み「吸盤みたいなので、ペタペタ登れんもんかのぅ」
食「漫画の世界になっちゃいます」
み「あ、ヘリ使って戻ればいいじゃん」
食「バレないわけないでしょ」
み「じゃ、オスプレイ」
食「どうやって調達するんです」
み「出前は、無理かのぅ」
↑まだ、こんなの作られてるんだ!
食「フェリーの新潟秋田間で乗船事実のある人なら……。
新潟から秋田まで、すなわち、23:30から翌朝5:50までのアリバイは崩せません」
み「じゃ、これは?
ルームサービスを頼むわけよ」
み「寝酒とかの」
食「ルームサービスは、食事だけじゃないかな?」
み「あら、そうなの?
スイートでも?」
食「スイートは、普通、グリルで食事が提供されますが……」
食「人員の都合で、ルームサービスになる場合もあるようです。
でも、3度の食事だけで、寝酒とかは無理なんじゃないかな?」
↑“アテ”は、きずし(しめ鯖)入りなます・スナップエンドウとイカの胡麻和え・筑前煮。
み「何で、寝酒はダメなの?
寝台特急は、無いの?」
食「こちらも、食事ならありますね。
お弁当になりますけど」
↑カシオペア『スペシャル弁当』
食「フランス料理のコースなんかは、食堂車じゃなきゃダメです」
み「コース料理をルームサービスしたら、忙しくてしょうがないわ」
食「とにかく、フェリーで寝酒は頼めません」
み「じゃ、クリーニングは?」
食「どこに頼むんです?
海の上ですよ」
み「ヘリとか?」
食「クリーニング1枚、いくらかかるんですか!」
み「自前で無いの?
クリーニング設備」
食「そんなフェリーはありませんよ」
み「洗濯機とアイロンがあればいいんじゃないの?」
食「そんなわけにいかないでしょ。
染み抜きとか出来ないし」
み「洗って干すしかできませんって、看板出せば?
あ、いっそのこと……。
船員が風呂場で手洗いすればいいじゃん」
み「アイロンは、寝押し」
み「これで、設備費ゼロ」
食「そんなの、注文もゼロですよ。
とにかく!
クリーニングのルームサービスも無しなんです!」
み「ほかにないの?
第三者を、部屋の前に呼ぶ方法。
デリヘルは?」
食「来ません」
み「ヘリで来れないか?」
食「さっきもそれ言ったでしょ」
カミナリウオなら、水族館で見たことがあるかも。
ウツボみたいな魚じゃなかった?」
↑顎にぶら下がるエビは、ウツボ専門の掃除屋『アカシマシラヒゲエビ』
食「それは、オオカミウオだと思いますが」
み「あっ、そう。
でも、顔はあの系統なんでしょ?」
↑哀れ、浦安の魚市場で売られる『オオカミウオ』くん
食「ぜんぜん違うと思います」
み「じゃ、何でそんな怖い名前が付いてるわけ?
音読みしたら、“ライギョ”でしょ」
食「雷の鳴るころに、岸に押し寄せてくるからです」
↑『男鹿水族館GAO』のハタハタ水槽
み「雷が怖くて、岸に逃げて来るのか?
臆病なヤツ」
食「産卵のためにですよ」
み「でも、雷と産卵と、どんな関係があるわけ?」
食「雷が鳴り始める季節ってことです」
食「日本海側では、晩秋から初冬にかけてですね」
み「あー、雪下ろしの雷ってヤツだね。
日本海側では、雷の季節は初冬だもんね」
食「その季節が、産卵期ってわけです。
海が荒れる時期なので……。
波が多いと書いて、“波多波多”と呼ばれるようになった……」
食「という説もあります」
み「イマイチ、説得力が無いのぅ」
食「ボクもそう思います」
み「おー。
珍しく意見が一致したではないか。
そもそも、ハタハタって、どーゆー魚なわけ?」
食「一口で云えば、深海魚ですね」
み「あらそう」
食「浮き袋がありませんから」
み「“浮かばれない”ってやつ?
沈んだっきりなの?」
食「昼間は、砂や泥の中に隠れて過ごし……」
食「夜になると出てきて、海の底を徘徊するわけです」
み「泥棒だな」
食「で、産卵期になると……。
海底を這い上がって来て、浅瀬の藻場に集まるわけです」
み「そこを、一網打尽?」
↑インチキくさー。“耐水性デザイン”って何だ?
食「ひとつ間違えれば、あっという間に捕り尽くしちゃうでしょうね」
み「なるほどー。
漁業が発展して、大量に捕れるようになったら……。
一気に数を減らしたってことなんだね」
食「昔の漁は、そこそこの数しか捕れませんものね。
海が荒れる季節だし」
↑名曲『兄弟船』
食「でも、冬の初めに捕れるハタハタは……。
雪に閉ざされる冬の間の、貴重なタンパク源だったわけです」
み「ってことは、保存食?」
食「そうです」
み「新潟の鮭に似てるな」
み「どんな保存法があるの?」
食「一番有名なのは、“しょっつる”ですね」
み「出ましたねー、超有名どころ。
“しょっつる”ってのは、塩辛い汁ってことでしょ?」
食「そうです。
塩漬けのハタハタを発酵させて作る、魚醤です」
食「これを調味料に使った鍋料理が、“しょっつる鍋”です」
み「魚本体の保存食は無いの?」
食「もちろんあります。
味噌漬けに塩漬け」
食「一般家庭が、箱単位で買って……」
食「家ごとに漬けるわけです」
み「家伝の味ってやつ?」
食「ですね。
それを取り出しては、煮たり焼いたりして、一冬を過ごすわけです」
み「うーむ。
高血圧にご注意だね」
↑これは、高ケツ圧
み「あとは?」
食「お鮨があります」
み「お寿司は、生ものでしょうが」
↑新潟のお寿司『“極み”/地魚・ウニ・トロ・イクラ、特上全10貫で3,000円(お椀付き)』
食「あぁ。
なれ鮨ですよ」
み「へー。
なれ鮨って、琵琶湖あたりの鮒が有名だよね」
み「あれは、ハードルが高そうだな」
律「どういう意味?」
み「玄人の舌じゃなきゃ、味わえないってこと」
み「わたしは、食べなくてもわかるもの。
苦手だってこと。
ハンバーグとかカレーの対極にある味だよね」
↑『びっくりドンキー』のハンバーグカレー(もっとルーが欲しい)
律「お子ちゃま向けじゃないってこと?」
み「ま、その点は認めますけどね。
いわゆる、酒の肴ってヤツは、苦手系が多い」
律「例えば?」
み「コノワタとか、↓カラスミとかさ」
律「あぁ。
なんとなくわかる。
普段は、酒の肴、何食べてるの?」
↑塩ウニ(コノワタ、カラスミと合わせ、日本三大珍味だそうです)
み「普通のオカズですよ。
夕食の」
↑我が家のダイニングです
み「だから、何でもありだね」
律「食後も、飲むんでしょ
ひとりで」
み「ひとりで悪いか」
律「悪かないわよ。
わたしだって飲むもの」
み「だよね。
飲みに行く?」
律「ひとりで?」
律「行かないわよ」
み「なんで?」
律「めんどくさいから」
み「だよねー。
飲みに行って嫌なのは……。
帰らなきゃならないことだもんね」
↑家に帰れたとは思えませんが
律「そんな理由なの?」
み「先生は、違うの?」
律「話しかけられたりして、鬱陶しいの」
み「ふーん。
こんなツンケン女に、よく話しかけられるな」
み「度胸あるよ、そういう男」
律「むしろ女の子よ。
話しかけてくるのは」
み「あ、そうか。
やっぱ、オーラが出てるんだ」
律「何のオーラよ?」
み「わかってるくせに」
律「とにかく!
外で、帰りたくなくなるまで飲むってのが、間違いでしょ」
み「中途半端に飲んだって、楽しかないだろ」
律「ま、それは言えてるけどね。
でも、わたしはひとりだからいいけど……。
Mikiちゃんは、お母さんと一緒なんでしょ。
そのままテーブルで飲むの?」
み「そんなこと、させてくれるはずないじゃん。
お膳が片付かないって怒られるわよ」
律「じゃ、どこで飲むわけ?」
み「トイレ」
律「ウソ!」
み「ウソに決まってるでしょ」
み「お部屋に帰って飲むのよ」
律「オツマミは?」
み「食べない」
律「ツマミなし?」
↑ウナギの骨。炙ると油が滲むそうです。
み「一切なし」
律「胃に悪いわよ」
み「大丈夫よ。
夕飯食べた後なんだから。
強いお酒も飲まないし。
ツマミなしで飲めると、いいこともあるんだよ」
律「なに?」
み「翌日胃カメラでも、遅くまで飲める」
律「なんでよ?
夜9時以降は食事しちゃダメなのよ」
み「だから、食事してないでしょ。
おツマミ食べないんだから、大丈夫。
こないだの胃カメラで試したけど、ぜんぜんバレなかったよ」
律「そういう問題じゃないでしょ。
気持ち悪くならない?」
み「そこまで飲んでないもの。
ま、そういう話はいいの。
今はハタハタの一件でしょ」
そういえばまだ、ハタハタの全容を公開してませんでした……。
ということで!
↓これがハタハタだっ。
なんか……。
普通の魚ですよね。
てなわけで、続きをどうぞ。
み「保存食じゃない食べ方もあるんでしょ?
捕れたて新鮮」
食「もちろんあります。
生寿司じゃないですけど……。
三枚におろして酢締めにすると、驚くほど美味しいです」
食「これは、鮮魚が手に入る、産地ならではの食べ方ですね」
み「小鰭っぽいのかな?」
食「その系統ですね。
小鰭より、さらに歯ごたえがあって……。
皮の食感もプリプリです」
↑こちらのサイトさんから拝借。写真も、超ウマ。
み「そんなら食べれるかも。
あとは?」
食「一般的なのは、焼き魚ですね」
食「ハタハタは鱗が無いので、料理も楽です」
食「小骨もなく、食べやすい。
頭の方から引っ張ると、背骨がすっぽり抜けるんです」
↑こちらから拝借。
食「面白いですよ」
み「一番のお勧めは、焼き魚ってことね」
食「実は……。
取っておきの食べ方があるんです。
昔、民宿の夕食に出たんですけどね」
↑わたしの頭にある“民宿”のイメージです(千葉県鴨川市の『民宿宮本』さん)
食「美味しかったなぁ」
み「どんな食べ方よ?」
食「まず、新鮮なハタハタが手に入らなきゃなりませんから……」
食「漁港近くの民宿ならではの味ですね」
↑刺し網からハタハタを外す作業(八森漁港)
み「勿体ぶらずに、早よ言わんかい!」
食「シンプルな料理ですよ。
素材が良ければ、シンプルが一番です」
み「お刺身?」
↑ハタハタのお刺身
食「刺身も、もちろん美味しいですけど……。
ボクの一押しは、『湯あげ』です」
み「どうやんの?」
食「もう、簡単の局地ですね。
頭と内臓を取って水洗いしたハタハタを、昆布出汁で茹でるだけ」
食「ポン酢で食べたら、こたえられませんよ」
み「うーむ。
ウマそうじゃ。
民宿に泊まりたくなった」
食「でしょー」
み「あ、そうだ。
もうひとつあった。
ブリコ」
み「これは、ハタハタの卵でいいんだよね?」
食「正解です」
み「何で、ブリコって言うの?」
食「普通、イクラなんかの魚卵は、柔らかいものが好まれますよね」
食「口の中で、プチプチと弾けるみたいな」
み「おー。
イクラとかの旨さは、歯応え半分だよな」
食「生のハタハタを焼くと……。
その歯ざわりと味が楽しめます」
食「でもそれは、本物のブリコじゃない」
み「なんで?」
食「味噌漬けや塩漬けで保存すると……」
食「卵の皮が、ゴムみたいに硬くなるんです」
食「噛むと、ほんとに『ブリッブリッ』って音がするんですよ」
み「ブリブリ、ブリッコ?」
み「それで、『ブリコ』?」
↑浜に打ち上げられたブリコ。でも、拾ってはいけません!↓
食「そうです。
皮を噛み潰してエキスを楽しんだら……。
皮の殻は、ペッと吐き出す。
これが、本式のブリコの食べ方です」
↑煮立たせて火を止めた醤油に、ブリコをくぐらせる。食べ出すと止まらなくなるそうです。
み「ほー。
それは面白そうじゃ」
↑これはもちろん、スイカの種飛ばし
食「ぜひ、お試しください。
秋田に来て、ハタハタとブリコを食べないなんて、あり得ませんよ」
食「これまで秋田で、何を食べました?」
み「最初の食事は、ラーメンだったな」
食「は?」
み「と言っても、ご当地ラーメンだよ。
秋田駅近くの市民市場にあった……」
み「その名も、『支那そば伊藤』」
食「あぁ。
十文字中華ですね」
食「『三角そばや』の系統でしょう?」
み「そうそう。
♪四角四面の櫓の上で」
食「それは三角野郎でしょ」
み「ちょいな」
食「あそこは最近、ちょっと変わったメニューが名物になってるんですよ」
み「スルーしたな。
しかし、皆まで言うな。
冷やし中華でしょ。
その名も、『そのまんま冷やし』」
食「へー、ご存知でしたか。
侮れませんね」
み「曲者じゃろ?
ラーメンと『そのまんま冷やし』を、分けあって食べたんだもんね」
み「驚いたことに、お代も割り勘だったのよ」
律「何で驚くのよ。
当然でしょ」
み「普通、稼ぎの多い方が全額持つか……。
収入に比例して払うんじゃないの?」
律「あんたには、矜持ってものが無いわけ?」
み「おまへんな」
↑何も持たないということは、失うものがないということでもある
律「呆れた女」
み「何とでも言え。
先生とわたしの収入比率は……。
たぶん、10対3くらいだと思う。
くそ!
言いながら、腹立ってきた。
10対3じゃ、コールド負けじゃないか」
食「甲子園の本戦に、コールドゲームはありませんよ」
↑地方予選です。5回コールドでもこの大差。
み「よけい惨めじゃ。
切腹させて、介錯がないようなもんだろ」
食「かなり違うと思います」
み「今からでも遅くないから、収入比分返して」
律「誰が」
↑点眼補助器具『アカンベー』平成11年度「なるほど展」日本商工会議所会頭賞受賞/平成10年度「オール発明コンクール」特別賞・東久邇宮記念賞受賞
み「どう思う、この女?」
食「ここは、あまり戦線を広げない方がいいと思います」
み「ふん。
ま、今日はこのくらいにしといたるか」
み「楽しい旅行の最中だもんね。
で、ラーメン食べて……。
お昼には……」
食「ちょっと待って下さい。
ラーメンがお昼じゃないんですか?」
み「朝ラーだよ」
食「ホテルで朝食食べて、しかもラーメンまで?」
み「アホか!
チミじゃあるまいし。
きのうの朝、秋田に着いたの」
食「えー。
秋田駅に朝着く夜行なんて、あったかな?」
み「夜行列車では、なーい」
↑『百鬼夜行』/河鍋暁斎(1831~1889)
食「そもそも、どちらから来られたんですか?」
み「新潟じゃ。
新潟の話、何度も出してるだろ」
↑改めて見ると、けっこう遠いですね。仙台より遠いんだ。
食「うーん。
新潟秋田間に、夜行バスなんて無いしな」
食「わかった。
長距離トラックだ」
食「ヒッチハイク」
↑度胸あるよな。こういうの見ると、日本は素晴らしい国だと思う。
み「勤め人が、そんな不確定要素に左右される旅行、できるわけないでしょ」
食「降参です」
み「フェリーだよ」
み「新潟発、23:30。
秋田着、翌朝5:50」
食「フェリーかぁ。
盲点でした。
ていうか、新潟から秋田まで、フェリーで来る人は、ほとんどいないと思いますけど」
み「2時間ドラマのアリバイ作りに使えそう?」
食「そりゃ無理でしょ」
み「なんでよ」
食「新潟から秋田までのアリバイ作りに使えるのは……。
列車や自動車より早く行ける方法がある場合でしょ」
↑もちろん、航空便はありません。
食「フェリーは、ずっと遅いんだから、お話になりませんよ」
食「フェリーに乗ってたってアリバイを崩す方なら、ドラマになりますけど」
み「わかった。
新潟秋田間での乗船が確認されてる人物がいて……。
そいつが疑わしいんだけど……」
み「犯行時間は、新潟から秋田までの航行時間内って謎だね」
食「何か反則技がなきゃ、無理ですよ」
食「フェリーから抜けだして戻るなんて……。
忍者だって出来っこありません」
↑忍法、透明人間の術。
み「飛びこんだら?
泳ぎが得意なら、出来るでしょ」
食「フェリーの甲板から海まで、どれだけの高さがあると思うんです?」
み「100メートル?」
食「あるわけないでしょ。
全長が、200メートルなんだから」
食「それでも、甲板から海面までの高さは、15メートルくらいにはなります」
食「5階建てのビルくらいですよ」
食「そんな高さから飛びこんだら……。
水面に叩きつけられて、下手すりゃ即死です」
食「第一、もし飛びこんでフェリーから抜け出したとしても……。
どうやって戻るんです?」
み「登れない?」
食「北朝鮮の工作員でも、ぜったいに無理です」
み「吸盤みたいなので、ペタペタ登れんもんかのぅ」
食「漫画の世界になっちゃいます」
み「あ、ヘリ使って戻ればいいじゃん」
食「バレないわけないでしょ」
み「じゃ、オスプレイ」
食「どうやって調達するんです」
み「出前は、無理かのぅ」
↑まだ、こんなの作られてるんだ!
食「フェリーの新潟秋田間で乗船事実のある人なら……。
新潟から秋田まで、すなわち、23:30から翌朝5:50までのアリバイは崩せません」
み「じゃ、これは?
ルームサービスを頼むわけよ」
み「寝酒とかの」
食「ルームサービスは、食事だけじゃないかな?」
み「あら、そうなの?
スイートでも?」
食「スイートは、普通、グリルで食事が提供されますが……」
食「人員の都合で、ルームサービスになる場合もあるようです。
でも、3度の食事だけで、寝酒とかは無理なんじゃないかな?」
↑“アテ”は、きずし(しめ鯖)入りなます・スナップエンドウとイカの胡麻和え・筑前煮。
み「何で、寝酒はダメなの?
寝台特急は、無いの?」
食「こちらも、食事ならありますね。
お弁当になりますけど」
↑カシオペア『スペシャル弁当』
食「フランス料理のコースなんかは、食堂車じゃなきゃダメです」
み「コース料理をルームサービスしたら、忙しくてしょうがないわ」
食「とにかく、フェリーで寝酒は頼めません」
み「じゃ、クリーニングは?」
食「どこに頼むんです?
海の上ですよ」
み「ヘリとか?」
食「クリーニング1枚、いくらかかるんですか!」
み「自前で無いの?
クリーニング設備」
食「そんなフェリーはありませんよ」
み「洗濯機とアイロンがあればいいんじゃないの?」
食「そんなわけにいかないでしょ。
染み抜きとか出来ないし」
み「洗って干すしかできませんって、看板出せば?
あ、いっそのこと……。
船員が風呂場で手洗いすればいいじゃん」
み「アイロンは、寝押し」
み「これで、設備費ゼロ」
食「そんなの、注文もゼロですよ。
とにかく!
クリーニングのルームサービスも無しなんです!」
み「ほかにないの?
第三者を、部屋の前に呼ぶ方法。
デリヘルは?」
食「来ません」
み「ヘリで来れないか?」
食「さっきもそれ言ったでしょ」