2012.3.3(土)
食「あ、今、沢目を過ぎましたね」

↑沢目駅。北能代駅とは大違い。
み「その前にも、一駅あったよね」
食「鳥形ですね」

↑鳥形駅。こちらは、北能代系。
み「やっと快速らしくなった」

食「もうすぐ、チラッとですけど、海が見えますよ」
み「ここって、海から近いの?」
食「すぐそこです」
み「何で見えないんだ?」
食「砂丘です」

↑御宿海岸(千葉県)にある「月の砂漠」像
食「冬の季節風が吹きあげた砂が、砂丘になって連なってるんです」

食「緑の山が続いてるでしょ。
あれが、ずーっと砂丘ですよ」

み「おー。
新潟と一緒じゃん」

↑新潟海岸の砂丘。まるで堤防のようです。
み「考えてみれば、同じ日本海側なんだから当たり前だよな」
今回の連載を進める上で、何冊か参考書を使ってます。
ま、アンチョコですね。
そのひとつが、「にっぽん列島 鉄道紀行 第21巻『五能線 津軽鉄道』」。

その中に、下記の記述がありました。
『向能代を過ぎれば森と畑と田んぼが続く道となる。左は日本海に面した砂丘の緑で、沢目を出るとその砂丘が途切れ、少しの間だが海が見える』
この“海が見える”ポイントがどこなのか、地図で探してみました。
で、わたしの推論が、下図の矢印ポイント。

五能線の西側に、田んぼが広がってて……。
水沢川が海に注いでるから、砂丘が途切れてます。
ここなら海が見えると思うんですが、確証はありません。
↓は、「能代→秋田しらかみ」までの側面展望
どのポイントで見えるか、誰か確かめてくれんかのぅ。
ということで、お話を続けます。
食「もうすぐ、水沢川です。
砂丘が途切れてますから、そのとき見えますよ。
ほら!」
み「あ、見えた」

↑イメージです
律「ほんとだー」
み「でも、海が見えると、どうしてこうワクワクするんだろうね」
律「ほんとねー」
食「それは、ボクも同感です。
何度旅に出ても、海が見えるとワクワクします」

律「でも、秋の海って、やっぱりちょっと寂しいわね」

み「へー。
先生にも、そんな感情があるんだ」

律「失礼ね」
み「ま、もう少ししたら……。
吠え狂って、牙を剥く海に変わるわけだからね」

み「今は、つかの間の静けさってところかな」
食「北国の秋の海。
少し切なくなります」
み「デブには似合わん」

食「失敬だな。
秋の海といえば……。
やっぱりこの歌ですね」
♪今はもう秋 誰もいない海

静かに歌い出した食い鉄くんの声は、思いがけず心地良い響きでした。
み「上手いじゃない」
食「合唱部、副部長代理補佐でしたから」

み「なんじゃそりゃ」

み「でも、鉄研じゃなかったの?」

食「小学生のときですよ。
鉄研なんてありませんって」

↑カッコいいロゴですね。ホームページはこちら
律「続きを、お願いしますわ」
●誰もいない海/作詞:山口洋子
今はもう秋 誰もいない海
知らん顔して 人がゆきすぎても
わたしは忘れない
海に約束したから
つらくても つらくても
死にはしないと
今はもう秋 誰もいない海
たったひとつの夢が 破れても
わたしは忘れない
砂に約束したから
淋しくても 淋しくても
死にはしないと
今はもう秋 誰もいない海
いとしい面影 帰らなくても
わたしは忘れない
空に約束したから
ひとりでも ひとりでも
死にはしないと
ひとりでも ひとりでも
死にはしないと
↑歌:大木康子
食い鉄くんが歌い終わると、ほかの座席からも拍手が湧きました。

食い鉄くんは、赤い顔して窓の外を向いてしまいましたが……。
スゴく嬉しそうでした。

み「人には、思いがけない特技があるもんだね」

律「思いがけないってことはないでしょ。
フルコーラス、聞き入ってしまいました」

み「行数稼ぎになるんで、歌わせてやったわい」
律「もう。
そういうこと、言うもんじゃないわよ。
すごく素敵でしたわ。
どうして彼女が出来ないのかしら?」

み「肺腑を抉るような質問は止めなさい」

律「何でよ?
いてもおかしくないでしょ」
み「おかしくないって言い回しは、差し障りがあるだろ」

律「そうかしら」
み「彼女が出来ないわけは……。
ちょっと耳貸しなさい」

律「息かけないでよ」

み「読んでたな」
律「当たり前でしょ。
何よ。
早く言いなさい」
み「短小で包茎で早漏だからよ」

律「……。
あんた、よくそういうことが言えるわね」
み「だから耳元で囁いたんでしょ」

食「また、悪口言いましたね」

み「わかる?」
食「下品な悪口の気配がしました」

↑下品といえば、この漫画
み「おー。
大したもんだな。
あ、海が見えなくなっちゃった」
食「また砂丘の向こうに隠れましたね。
でも、もう少ししたら、イヤになるほど見れますよ」
み「津波が来ないことを祈るばかりじゃ」

律「ほんとに、嫌なことばかり言うんだから」
み「そうだ。
砂浜で思い出したけど……。
かねてより、疑問に思ってたことがある」

律「何よ?」
み「ドラマとかのシーン。
恋人同士が、砂浜を走ってる」

律「陸上部?」

み「違う!
じゃれあってるわけ。
女性が笑いながら逃げてて、男性も笑いながら追いかけてる」

律「CMなんかで見た気がするわ」
み「男は、ズボンを膝まで捲りあげてる。
女性は、スカートだからそのまま。
スカートの柔らかい布地が風に煽られ、形のいい脚に纏ってる」

み「手には、脱いだパンプスをぶら下げてる」

律「海にパンプスは履いて行かないでしょ。
サンダルじゃないの?」

み「最初から海に行く予定じゃなかったの。
海は、成りゆきで行ったわけ。
だから、パンプス」
律「ま、いいとして……。
それのどこがおかしいのよ?」
み「真夏じゃないのよ。
早春とか、秋ね。
で、女性のスカートは、フレアかなにかよ」

律「だから何?」
み「普通さ、春秋物のそういうスカートだったら……。
パンスト穿かない?」

律「さぁ。
わたし、あれが嫌いだから、普段、パンツしか穿かないのよ」

み「先生の嗜好は聞いてないの。
一般的な女性の話。
パンスト、穿くでしょ?」

律「かもね」
み「穿くの!」

み「昔なら、穿くのが余計当たり前よ」
律「じれったい人ね。
だからどうだっていうの?」
み「波打ち際で、裸足で追いかけっこするとき……。
パンスト穿いてると思う?」

律「穿いてたらバカでしょ。
ストッキングの中、砂だらけになっちゃうわよ」

み「てことは……。
追いかけっこ始める前に、パンストだけ脱いだってこと?」

律「そうなんじゃないの?」
み「どういう場の流れで、そんなことが出来るわけ?
『これから砂の上で追いかけっこするから、パンスト脱ぐわ』とか言うわけ?」

律「それは、言わないんじゃないの」
み「でしょ。
砂浜の追いかけっこなんて、ハプニング的に始まるものでしょ」

み「じゃ、パンストはいつ脱いだのよ」

律「わたしに聞かないでよ。
やっぱり、最初から穿いてなかったんじゃないの?」

↑男性用パンスト(ありえねー)
み「だから!
昔のデートファッションで……。
ナマ脚なんて、あり得ないでしょ」

律「何でそんなことが気になるの?」

み「気にならいでかい!
わたしが砂浜シーンを書くとしたら……。
まず、どうやってパンストを脱がすか考えるけどね」

み「はたしていつ、どういうシチュで、女はパンストを脱いだのか!」

↑ヌケガラです
み「わたしはそれを厳しく問いたい。
疑問に答えよ」

律「知らないわよ」
み「無責任な!」

律「わたしのせいじゃないでしょ」

み「じゃ、目の前のコーラス男に答えてもらいましょう」

↑ウィーン少年合唱団のキャンドルスタンドだそうです
み「チミだよ」
食「ボクですか?」
み「ほかに誰がおる?
遅滞なく答えよ。
彼女は、いつパンストを脱いだのか?」

食「砂浜を走りながらとか?」

み「アホかっ」

↑苛烈なツッコミ
み「走りながらパンスト脱ぐバカが、どこにおる!」

み「そもそも、出来んだろ、そんなこと」
食「あ、そうだ。
デンセンしてたんですよ」

み「それで脱いだの?
あり得んだろ。
デートの最中だぜ。
デンセンくらいで、男の前でパンスト脱ぐか?」

食「目の前で脱がなくてもいいでしょ。
トイレでとか」

み「もっとあり得ん!」
食「何でです?」
み「トイレから帰った女が、パンスト脱いでたら……」

み「男はどう思う?」

食「さー」
み「トボけおって。
パンスト脱いできたってことは……。
野外でやりたいという意思表示ではないかと思うだろ」

↑『サテュロスとニンフ』 アゴスティーノ・カラッチ(1557-1602)
食「思いませんよ」
み「ウソこけ」

食「ま、ヘンに思うかも知れませんけど」
み「だろー。
あるいは、おしっこ漏らしたと思われるかも知れない」

食「思わないと思うけどなぁ」
み「思わないのか思うのか……。
はっきりせい!」

↑西なのか東なのか、はっきりせい!
食「そうは思わないと、ボクは思います」
み「ニブいやつじゃ。
普通、思うだろ。
あるいは……。
ウンコ漏らしたと思う」

食「絶対に思いません。
ちゃんと断ってから行けばいいだけじゃないですか」

み「デンセンしたから、パンスト脱いでくるって?
バカモンが。
そんなこと言えるってことは……。
すでに深い仲になってるカップルってことじゃ」

食「いいじゃないですか。
深い仲でも」

み「あり得ん!
すでに深い仲になってるカップルが……。
波打ち際で追いかけっこなんか、するかい!」

食「そうなんですか?」
み「決まっておる。
友達以上恋人未満じゃ」

食「なんか、ものすごく懐かしいフレーズですね。
久しぶりに聞きました」
み「ま、キスくらいは済ませたかも知れんが」

食「じゃ、恋人じゃないですか」

み「キスといっても、唇を合わせるだけの……。
小鳥みたいなキスじゃ」

み「間違っても、ベロ入れたりしてない」

食「はぁ」
み「もちろん、ペッティングもまだ」

食「はぁ。
あなた、やっぱり酔ってるんじゃないですか?」

み「これ以上無く、キリンじゃ」

食「は?」
み「じゃなくて、ジラフ……。
じゃなくて、シラフじゃ!」
食「完全に酔ってる」

み「だから!
そんな関係のカップルで……。
デート中に女性がパンストを脱ぐなんてこと、絶対に無いって言ってるの」

食「じゃ、脱がなかったんじゃないですか」
み「なんじゃ、その投げやりな答えは」

食「だって、どう答えればいいんですか」
み「考えろと言っておる。
パンスト脱がないまま砂浜を走ったりしたら……。
足がジャリジャリになっちゃうだろ!」

食「絡まれてる気がするんですけど」

み「気のせいじゃ」

律「Mikiちゃん、もういい加減になさい」

↑これは湯加減
み「ま、今日はこれくらいにしといたるか」

み「作家というものは、かように突き詰めて考えるものなのじゃ」

律「ほんとかしら」
み「さて、また海が砂丘に隠れてしまったな。
ここは、どこなんじゃ?」
食「五能線の車中です」

↑これは、花柳社中
み「わかっとるわい!
どこを走ってるか聞いておる。
つまらぬ行稼ぎはやめなさい」
食「なんで、ボクが怒られにゃならないのかな……」
み「さっきの沢目から、駅は過ぎて無いの?」
食「ひとつ過ぎましたよ。
東八森」

み「おー。
出たな、八森。
秋田音頭の初っぱなを飾る地名ではないか」

み「でも、八森が海の見えないところにあるとは思わなんだ」
食「だから、過ぎたのは、東八森です。
八森は、次の駅です」
み「いつ見えるんだよ」
食「今、放送が入ります。
お聞きください」
食い鉄くんが、スピーカーを指さしました。
↑14分25秒ころです
『ご案内いたします。まもなく、左手には日本海が見えてまいります』
み「おー、放送まで予知してたのか」
食「このポイントで、必ず入るんです。
今、渡ったのが、泊川です」

み「おい、坂道登ってくじゃない。
海に出るんじゃなかったの?」
食「見えますよ。
ほら」

↑動画から切り出しました(15分00秒くらい)
み「海だぁ」
律「うわーって感じね」
み「砂丘に駆けあがったから、見下ろせるんだな」

食「登ったのは、砂丘ではないんです」
み「じゃ、何よ?」
食「海岸段丘です。
上り坂の勾配は、25‰(パーミル)もあるんですよ」
↑7分30秒あたりを見ると、地形が良くわかります
み「パーミルって、何だよ。
パーが見るのか?」

食「小学生のギャグですね」

み「やかましい」
食「‰(パーミル)とは、1000分の1を1とする単位のことです」

食「すなわち、%(パーセント)の10分の1ですね。
25‰ってのは、1000分の25ということです。
1000メートル進む間に、25メートル上がるってことです」

↑ありました、25‰の標識

↑急勾配!

↑横から見ると、こんな感じ
み「おー。
またひとつ、利口になった」

食「ここはもともと、崖下の海底だったんですよ。
そこが隆起してテラス状になったんですね」

↑室戸岬の海岸段丘
み「海岸段丘の出来る仕組みを述べよ」
食「地学の試験みたいだな」

食「まず、海底だった土地が隆起して、海上に出ます。
波打ち際は侵食されて、崖になります。

食「そしてまた、土地が隆起する。
新しい波打ち際が侵食され、そこが崖になる。
これが何度も繰り返されて、段々が出来るわけですよ」

律「そう言えば、男鹿半島の入道崎もそうだったんじゃない?」

み「あぁ、OLさんがイヤリング投げようとした?」

律「そうそう」
み「このあたりって、海岸段丘が多いの?」
食「五能線の沿線には、けっこうありますね」
み「何で地面が隆起するわけ?」

食「地震じゃないですか」

み「なんだ。
自信なげだね。
わかる?、この洒落」

食「あまりスマートとは云えませんね」

み「ふん。
スマートな洒落なんて、イヤミなだけだろ」

食「それは云えてますけどね。
で、ほら、江戸時代の地震で、象潟が持ちあがって陸地になったでしょ」

み「あんな地震が何度もあったってわけ?」
食「何度もったって……。
インターバルは、何千年とかでしょ」

み「あ、そうか。
ってことは、段々がいくつも出来るまでには……。
何万年とか、かかってるわけだな」

食「ですね。
地学を勉強すると、人の一生がいかに短いか、身に染みますよ」

み「勉強せんで良かったわい」

食「で、この崖下の、海に面した街が、八森です」

食「昔は独立した町で、八森町でしたが……。
平成18年に峰浜村と合併し、八峰町(はっぽうちょう)になりました」

食「秋田県最北の町です」
み「八森町と峰浜村で、八峰町?
また、簡単にくっつけちゃったもんだね。
国鉄の線名の付け方みたいじゃないのよ」

み「八峰町じゃ、八つの峰がある町みたいだし」

み「あるの?」
食「山は、けっこう海近くまで迫ってますけどね」

食「八つまでは無いでしょう」
み「もうちょっと、ひねろうよ」

み「何か、ほかに案は無かったの?」
食「“白神”を入れる案があったようですよ」

み「おー、いいじゃない」
食「でも、青森県側から反対されたようです」
み「まーた、そういう小競り合いか。
それじゃさ。
いっそ、ハタハタ町にすれば良かったじゃない」

食「秋田県山本郡ハタハタ町。
いいかも知れませんね」
み「だろー。
今でも、ハタハタは捕れるんでしょ?」

↑旗旗
食「だいぶ回復したみたいですね。
1980年代には、漁獲量が激減したんですが……。
90年代に全面禁漁して、稚魚を放流したりしたそうです」

食「その苦労が、ようやく今、実りつつあるんじゃないでしょうか」

食「ここ数年は、産卵のために、岸に押し寄せてくる姿も見られるとか」

↑海鳥の群は、浮いてくるハタハタの卵(ブリコ)を狙ってるとか。
み「おー、良かったじゃない」
食「でも、70年代までの漁獲量が回復しちゃうと……。
またそれはそれで、苦労するでしょうけど」

み「何でよ?」
食「大漁貧乏というやつです。
昔は、あまりにも大量に捕れ過ぎて……。
ほとんどタダみたいな値段だったらしいです」

食「一般家庭でも、箱単位で買うのが普通で……。
箱いっぱいのハタハタでも、箱代の方が高かったそうです」

み「なるほど。
それはそれで困ったもんだね」

↑困った犬
食「あ、そうそう。
このハタハタについても、納豆と似た言い伝えがあるんです」

み「八幡太郎?」

食「いやいや、水戸から国替えになった殿様の方です」

↑佐竹義宣。顔がわからんではないか。
み「水戸から美人だけ連れてきたっていう?」

食「連れてきたのは、美人だけじゃなかったみたいなんです。
佐竹の殿様が来てから、ハタハタが大量に捕れるようになった」

食「つまり、常陸のハタハタが、殿様を慕って秋田に移ってきたとか」

み「水戸は、大損じゃないか。
美人にハタハタまで取られて。
見返りが納豆じゃ、割に合わんぞ」

食「なので、別名のひとつとして……。
サタケウオとも呼ばれてます」

み「ひとつってことは、ほかにも別名があるの?」
食「いろいろありますけど……。
一番ポピュラーなのが、雷魚(かみなりうお)です」
み「“かみなり”って、ゴロゴロ鳴るカミナリ?」

食「そうです」

↑これは、火山噴火に伴って起きる火山雷

↑沢目駅。北能代駅とは大違い。
み「その前にも、一駅あったよね」
食「鳥形ですね」

↑鳥形駅。こちらは、北能代系。
み「やっと快速らしくなった」

食「もうすぐ、チラッとですけど、海が見えますよ」
み「ここって、海から近いの?」
食「すぐそこです」
み「何で見えないんだ?」
食「砂丘です」

↑御宿海岸(千葉県)にある「月の砂漠」像
食「冬の季節風が吹きあげた砂が、砂丘になって連なってるんです」

食「緑の山が続いてるでしょ。
あれが、ずーっと砂丘ですよ」

み「おー。
新潟と一緒じゃん」

↑新潟海岸の砂丘。まるで堤防のようです。
み「考えてみれば、同じ日本海側なんだから当たり前だよな」
今回の連載を進める上で、何冊か参考書を使ってます。
ま、アンチョコですね。
そのひとつが、「にっぽん列島 鉄道紀行 第21巻『五能線 津軽鉄道』」。

その中に、下記の記述がありました。
『向能代を過ぎれば森と畑と田んぼが続く道となる。左は日本海に面した砂丘の緑で、沢目を出るとその砂丘が途切れ、少しの間だが海が見える』
この“海が見える”ポイントがどこなのか、地図で探してみました。
で、わたしの推論が、下図の矢印ポイント。

五能線の西側に、田んぼが広がってて……。
水沢川が海に注いでるから、砂丘が途切れてます。
ここなら海が見えると思うんですが、確証はありません。
↓は、「能代→秋田しらかみ」までの側面展望
どのポイントで見えるか、誰か確かめてくれんかのぅ。
ということで、お話を続けます。
食「もうすぐ、水沢川です。
砂丘が途切れてますから、そのとき見えますよ。
ほら!」
み「あ、見えた」

↑イメージです
律「ほんとだー」
み「でも、海が見えると、どうしてこうワクワクするんだろうね」
律「ほんとねー」
食「それは、ボクも同感です。
何度旅に出ても、海が見えるとワクワクします」

律「でも、秋の海って、やっぱりちょっと寂しいわね」

み「へー。
先生にも、そんな感情があるんだ」

律「失礼ね」
み「ま、もう少ししたら……。
吠え狂って、牙を剥く海に変わるわけだからね」

み「今は、つかの間の静けさってところかな」
食「北国の秋の海。
少し切なくなります」
み「デブには似合わん」

食「失敬だな。
秋の海といえば……。
やっぱりこの歌ですね」
♪今はもう秋 誰もいない海

静かに歌い出した食い鉄くんの声は、思いがけず心地良い響きでした。
み「上手いじゃない」
食「合唱部、副部長代理補佐でしたから」

み「なんじゃそりゃ」

み「でも、鉄研じゃなかったの?」

食「小学生のときですよ。
鉄研なんてありませんって」

↑カッコいいロゴですね。ホームページはこちら
律「続きを、お願いしますわ」
●誰もいない海/作詞:山口洋子
今はもう秋 誰もいない海
知らん顔して 人がゆきすぎても
わたしは忘れない
海に約束したから
つらくても つらくても
死にはしないと
今はもう秋 誰もいない海
たったひとつの夢が 破れても
わたしは忘れない
砂に約束したから
淋しくても 淋しくても
死にはしないと
今はもう秋 誰もいない海
いとしい面影 帰らなくても
わたしは忘れない
空に約束したから
ひとりでも ひとりでも
死にはしないと
ひとりでも ひとりでも
死にはしないと
↑歌:大木康子
食い鉄くんが歌い終わると、ほかの座席からも拍手が湧きました。

食い鉄くんは、赤い顔して窓の外を向いてしまいましたが……。
スゴく嬉しそうでした。

み「人には、思いがけない特技があるもんだね」

律「思いがけないってことはないでしょ。
フルコーラス、聞き入ってしまいました」

み「行数稼ぎになるんで、歌わせてやったわい」
律「もう。
そういうこと、言うもんじゃないわよ。
すごく素敵でしたわ。
どうして彼女が出来ないのかしら?」

み「肺腑を抉るような質問は止めなさい」

律「何でよ?
いてもおかしくないでしょ」
み「おかしくないって言い回しは、差し障りがあるだろ」

律「そうかしら」
み「彼女が出来ないわけは……。
ちょっと耳貸しなさい」

律「息かけないでよ」

み「読んでたな」
律「当たり前でしょ。
何よ。
早く言いなさい」
み「短小で包茎で早漏だからよ」

律「……。
あんた、よくそういうことが言えるわね」
み「だから耳元で囁いたんでしょ」

食「また、悪口言いましたね」

み「わかる?」
食「下品な悪口の気配がしました」

↑下品といえば、この漫画
み「おー。
大したもんだな。
あ、海が見えなくなっちゃった」
食「また砂丘の向こうに隠れましたね。
でも、もう少ししたら、イヤになるほど見れますよ」
み「津波が来ないことを祈るばかりじゃ」

律「ほんとに、嫌なことばかり言うんだから」
み「そうだ。
砂浜で思い出したけど……。
かねてより、疑問に思ってたことがある」

律「何よ?」
み「ドラマとかのシーン。
恋人同士が、砂浜を走ってる」

律「陸上部?」

み「違う!
じゃれあってるわけ。
女性が笑いながら逃げてて、男性も笑いながら追いかけてる」

律「CMなんかで見た気がするわ」
み「男は、ズボンを膝まで捲りあげてる。
女性は、スカートだからそのまま。
スカートの柔らかい布地が風に煽られ、形のいい脚に纏ってる」

み「手には、脱いだパンプスをぶら下げてる」

律「海にパンプスは履いて行かないでしょ。
サンダルじゃないの?」

み「最初から海に行く予定じゃなかったの。
海は、成りゆきで行ったわけ。
だから、パンプス」
律「ま、いいとして……。
それのどこがおかしいのよ?」
み「真夏じゃないのよ。
早春とか、秋ね。
で、女性のスカートは、フレアかなにかよ」

律「だから何?」
み「普通さ、春秋物のそういうスカートだったら……。
パンスト穿かない?」

律「さぁ。
わたし、あれが嫌いだから、普段、パンツしか穿かないのよ」

み「先生の嗜好は聞いてないの。
一般的な女性の話。
パンスト、穿くでしょ?」

律「かもね」
み「穿くの!」

み「昔なら、穿くのが余計当たり前よ」
律「じれったい人ね。
だからどうだっていうの?」
み「波打ち際で、裸足で追いかけっこするとき……。
パンスト穿いてると思う?」

律「穿いてたらバカでしょ。
ストッキングの中、砂だらけになっちゃうわよ」

み「てことは……。
追いかけっこ始める前に、パンストだけ脱いだってこと?」

律「そうなんじゃないの?」
み「どういう場の流れで、そんなことが出来るわけ?
『これから砂の上で追いかけっこするから、パンスト脱ぐわ』とか言うわけ?」

律「それは、言わないんじゃないの」
み「でしょ。
砂浜の追いかけっこなんて、ハプニング的に始まるものでしょ」

み「じゃ、パンストはいつ脱いだのよ」

律「わたしに聞かないでよ。
やっぱり、最初から穿いてなかったんじゃないの?」

↑男性用パンスト(ありえねー)
み「だから!
昔のデートファッションで……。
ナマ脚なんて、あり得ないでしょ」

律「何でそんなことが気になるの?」

み「気にならいでかい!
わたしが砂浜シーンを書くとしたら……。
まず、どうやってパンストを脱がすか考えるけどね」

み「はたしていつ、どういうシチュで、女はパンストを脱いだのか!」

↑ヌケガラです
み「わたしはそれを厳しく問いたい。
疑問に答えよ」

律「知らないわよ」
み「無責任な!」

律「わたしのせいじゃないでしょ」

み「じゃ、目の前のコーラス男に答えてもらいましょう」

↑ウィーン少年合唱団のキャンドルスタンドだそうです
み「チミだよ」
食「ボクですか?」
み「ほかに誰がおる?
遅滞なく答えよ。
彼女は、いつパンストを脱いだのか?」

食「砂浜を走りながらとか?」

み「アホかっ」

↑苛烈なツッコミ
み「走りながらパンスト脱ぐバカが、どこにおる!」

み「そもそも、出来んだろ、そんなこと」
食「あ、そうだ。
デンセンしてたんですよ」

み「それで脱いだの?
あり得んだろ。
デートの最中だぜ。
デンセンくらいで、男の前でパンスト脱ぐか?」

食「目の前で脱がなくてもいいでしょ。
トイレでとか」

み「もっとあり得ん!」
食「何でです?」
み「トイレから帰った女が、パンスト脱いでたら……」

み「男はどう思う?」

食「さー」
み「トボけおって。
パンスト脱いできたってことは……。
野外でやりたいという意思表示ではないかと思うだろ」

↑『サテュロスとニンフ』 アゴスティーノ・カラッチ(1557-1602)
食「思いませんよ」
み「ウソこけ」

食「ま、ヘンに思うかも知れませんけど」
み「だろー。
あるいは、おしっこ漏らしたと思われるかも知れない」

食「思わないと思うけどなぁ」
み「思わないのか思うのか……。
はっきりせい!」

↑西なのか東なのか、はっきりせい!
食「そうは思わないと、ボクは思います」
み「ニブいやつじゃ。
普通、思うだろ。
あるいは……。
ウンコ漏らしたと思う」

食「絶対に思いません。
ちゃんと断ってから行けばいいだけじゃないですか」

み「デンセンしたから、パンスト脱いでくるって?
バカモンが。
そんなこと言えるってことは……。
すでに深い仲になってるカップルってことじゃ」

食「いいじゃないですか。
深い仲でも」

み「あり得ん!
すでに深い仲になってるカップルが……。
波打ち際で追いかけっこなんか、するかい!」

食「そうなんですか?」
み「決まっておる。
友達以上恋人未満じゃ」

食「なんか、ものすごく懐かしいフレーズですね。
久しぶりに聞きました」
み「ま、キスくらいは済ませたかも知れんが」

食「じゃ、恋人じゃないですか」

み「キスといっても、唇を合わせるだけの……。
小鳥みたいなキスじゃ」

み「間違っても、ベロ入れたりしてない」

食「はぁ」
み「もちろん、ペッティングもまだ」

食「はぁ。
あなた、やっぱり酔ってるんじゃないですか?」

み「これ以上無く、キリンじゃ」

食「は?」
み「じゃなくて、ジラフ……。
じゃなくて、シラフじゃ!」
食「完全に酔ってる」

み「だから!
そんな関係のカップルで……。
デート中に女性がパンストを脱ぐなんてこと、絶対に無いって言ってるの」

食「じゃ、脱がなかったんじゃないですか」
み「なんじゃ、その投げやりな答えは」

食「だって、どう答えればいいんですか」
み「考えろと言っておる。
パンスト脱がないまま砂浜を走ったりしたら……。
足がジャリジャリになっちゃうだろ!」

食「絡まれてる気がするんですけど」

み「気のせいじゃ」

律「Mikiちゃん、もういい加減になさい」

↑これは湯加減
み「ま、今日はこれくらいにしといたるか」

み「作家というものは、かように突き詰めて考えるものなのじゃ」

律「ほんとかしら」
み「さて、また海が砂丘に隠れてしまったな。
ここは、どこなんじゃ?」
食「五能線の車中です」

↑これは、花柳社中
み「わかっとるわい!
どこを走ってるか聞いておる。
つまらぬ行稼ぎはやめなさい」
食「なんで、ボクが怒られにゃならないのかな……」
み「さっきの沢目から、駅は過ぎて無いの?」
食「ひとつ過ぎましたよ。
東八森」

み「おー。
出たな、八森。
秋田音頭の初っぱなを飾る地名ではないか」

み「でも、八森が海の見えないところにあるとは思わなんだ」
食「だから、過ぎたのは、東八森です。
八森は、次の駅です」
み「いつ見えるんだよ」
食「今、放送が入ります。
お聞きください」
食い鉄くんが、スピーカーを指さしました。
↑14分25秒ころです
『ご案内いたします。まもなく、左手には日本海が見えてまいります』
み「おー、放送まで予知してたのか」
食「このポイントで、必ず入るんです。
今、渡ったのが、泊川です」

み「おい、坂道登ってくじゃない。
海に出るんじゃなかったの?」
食「見えますよ。
ほら」

↑動画から切り出しました(15分00秒くらい)
み「海だぁ」
律「うわーって感じね」
み「砂丘に駆けあがったから、見下ろせるんだな」

食「登ったのは、砂丘ではないんです」
み「じゃ、何よ?」
食「海岸段丘です。
上り坂の勾配は、25‰(パーミル)もあるんですよ」
↑7分30秒あたりを見ると、地形が良くわかります
み「パーミルって、何だよ。
パーが見るのか?」

食「小学生のギャグですね」

み「やかましい」
食「‰(パーミル)とは、1000分の1を1とする単位のことです」

食「すなわち、%(パーセント)の10分の1ですね。
25‰ってのは、1000分の25ということです。
1000メートル進む間に、25メートル上がるってことです」

↑ありました、25‰の標識

↑急勾配!

↑横から見ると、こんな感じ
み「おー。
またひとつ、利口になった」

食「ここはもともと、崖下の海底だったんですよ。
そこが隆起してテラス状になったんですね」

↑室戸岬の海岸段丘
み「海岸段丘の出来る仕組みを述べよ」
食「地学の試験みたいだな」

食「まず、海底だった土地が隆起して、海上に出ます。
波打ち際は侵食されて、崖になります。

食「そしてまた、土地が隆起する。
新しい波打ち際が侵食され、そこが崖になる。
これが何度も繰り返されて、段々が出来るわけですよ」

律「そう言えば、男鹿半島の入道崎もそうだったんじゃない?」

み「あぁ、OLさんがイヤリング投げようとした?」

律「そうそう」
み「このあたりって、海岸段丘が多いの?」
食「五能線の沿線には、けっこうありますね」
み「何で地面が隆起するわけ?」

食「地震じゃないですか」

み「なんだ。
自信なげだね。
わかる?、この洒落」

食「あまりスマートとは云えませんね」

み「ふん。
スマートな洒落なんて、イヤミなだけだろ」

食「それは云えてますけどね。
で、ほら、江戸時代の地震で、象潟が持ちあがって陸地になったでしょ」

み「あんな地震が何度もあったってわけ?」
食「何度もったって……。
インターバルは、何千年とかでしょ」

み「あ、そうか。
ってことは、段々がいくつも出来るまでには……。
何万年とか、かかってるわけだな」

食「ですね。
地学を勉強すると、人の一生がいかに短いか、身に染みますよ」

み「勉強せんで良かったわい」

食「で、この崖下の、海に面した街が、八森です」

食「昔は独立した町で、八森町でしたが……。
平成18年に峰浜村と合併し、八峰町(はっぽうちょう)になりました」

食「秋田県最北の町です」
み「八森町と峰浜村で、八峰町?
また、簡単にくっつけちゃったもんだね。
国鉄の線名の付け方みたいじゃないのよ」

み「八峰町じゃ、八つの峰がある町みたいだし」

み「あるの?」
食「山は、けっこう海近くまで迫ってますけどね」

食「八つまでは無いでしょう」
み「もうちょっと、ひねろうよ」

み「何か、ほかに案は無かったの?」
食「“白神”を入れる案があったようですよ」

み「おー、いいじゃない」
食「でも、青森県側から反対されたようです」
み「まーた、そういう小競り合いか。
それじゃさ。
いっそ、ハタハタ町にすれば良かったじゃない」

食「秋田県山本郡ハタハタ町。
いいかも知れませんね」
み「だろー。
今でも、ハタハタは捕れるんでしょ?」

↑旗旗
食「だいぶ回復したみたいですね。
1980年代には、漁獲量が激減したんですが……。
90年代に全面禁漁して、稚魚を放流したりしたそうです」

食「その苦労が、ようやく今、実りつつあるんじゃないでしょうか」

食「ここ数年は、産卵のために、岸に押し寄せてくる姿も見られるとか」

↑海鳥の群は、浮いてくるハタハタの卵(ブリコ)を狙ってるとか。
み「おー、良かったじゃない」
食「でも、70年代までの漁獲量が回復しちゃうと……。
またそれはそれで、苦労するでしょうけど」

み「何でよ?」
食「大漁貧乏というやつです。
昔は、あまりにも大量に捕れ過ぎて……。
ほとんどタダみたいな値段だったらしいです」

食「一般家庭でも、箱単位で買うのが普通で……。
箱いっぱいのハタハタでも、箱代の方が高かったそうです」

み「なるほど。
それはそれで困ったもんだね」

↑困った犬
食「あ、そうそう。
このハタハタについても、納豆と似た言い伝えがあるんです」

み「八幡太郎?」

食「いやいや、水戸から国替えになった殿様の方です」

↑佐竹義宣。顔がわからんではないか。
み「水戸から美人だけ連れてきたっていう?」

食「連れてきたのは、美人だけじゃなかったみたいなんです。
佐竹の殿様が来てから、ハタハタが大量に捕れるようになった」

食「つまり、常陸のハタハタが、殿様を慕って秋田に移ってきたとか」

み「水戸は、大損じゃないか。
美人にハタハタまで取られて。
見返りが納豆じゃ、割に合わんぞ」

食「なので、別名のひとつとして……。
サタケウオとも呼ばれてます」

み「ひとつってことは、ほかにも別名があるの?」
食「いろいろありますけど……。
一番ポピュラーなのが、雷魚(かみなりうお)です」
み「“かみなり”って、ゴロゴロ鳴るカミナリ?」

食「そうです」

↑これは、火山噴火に伴って起きる火山雷